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「ーーはぁ、恵美(めぐみ)は、ホント、口うるさいなぁ~」

ため息をつきながらそう呟くのは、高校2年生の男子生徒、

橋口 彰浩(はしぐち あきひろ)ー。


今日も、幼馴染の宮野 恵美(みやの めぐみ)から、

色々注意されて、ため息をついていたー。


日頃から、色々といい加減で”雑”な部分が多く、ミスも多い彰浩ー。

そんな彰浩に対して、しっかり者の恵美が、注意するー…

小さい頃から、そんな光景は日常茶飯事だったー。


幼稚園の時もー

小学生の時もー

中学生の時も、そうだー。


まるで、”お姉ちゃん”かのように口うるさい恵美に、

彰浩はいつもいつも、うんざりした表情を浮かべながらー

渋々と、彼女の言うことを聞いていたー。


「ーはぁ~…それにしても、高校に入学した時は

 やっと、恵美と別れられると思ったのになぁ~」

彰浩がそんな言葉を口にすると、

恵美は「わたしがいないと、アキくん、何も出来ないくせにー」

と、不満そうに言葉を口にしたー


「ー俺はもう子供じゃないし~!」

彰浩が少し不貞腐れて言うと、

恵美は「この前だって、忘れ物してたくせに~!」と、

子供のような言い合いを続けるー。


そんなところも、昔から変わっていないー。


いつも一緒にいることから、クラスメイトたちからは時々、

”恋人同士”だと勘違いされたりすることもあるものの、

彰浩と恵美は、付き合ってはおらず、

お互いに恋愛感情も抱いていない。


小さい頃からずっと一緒だからこそ、

お互いに相手をそういう感じの目で見ることはできないのだー。


「ーーーーあ~あ、恵美が退学になれば、

 俺の高校生活、平和なんだけどなぁ~」

そんな憎まれ口を叩く彰浩ー


「ーーふふ、残念ー

 わたし、成績クラス3位だし、素行もすっごくいいから、

 退学になることなんて、ありませ~ん!」

笑いながら言う恵美ー。


そんなことは分かっているー。

それに、恵美が本当にいなくなってほしい、とまでは思っていないー。


口うるさいし、うんざりすることもあるが、

何となく、この関係が落ち着くのも確かだー。

恵美の方も、たぶん、同じ関係なのだろうー。


この先も、恋愛関係に発展することはないとは思うけれどー、

こういう絆は、大切にしたいー。


彰浩は、そんな風に考えていたー。


だがーーー

ある日のことだったー。


”それ”は起きたー


”それ”はー、

間近に迫った文化祭の準備のため、

彰浩と恵美らのクラスである2年D組が使う

空き教室の最終調整をしている時のことだったー。


「ーーったく、高橋(たかはし)のやつー」

彰浩が愚痴を呟くー。


”高橋”とはクラスメイトの一人の名前だ。

2年D組の文化祭実行委員を決める際ー

”文化祭実行委員をやりたい!”と、友達に話していた彰浩は、

恵美が手を挙げたのを見て、ぎょっとしたー。


”やべっー…俺も立候補したら、恵美と俺が一緒に

 文化祭の準備をすることになっちまうー!”


そんなことを思いながら、手を挙げるのをやめた彰浩ー。


だが、お調子者の”高橋”が、

「橋口がやりたいって言ってました!」と、先生に暴露してしまいー、

そのまま文化祭実行委員になってしまったー


「ーーどうせ、好きな子と一緒になれれば、とか思ってたんでしょ?」

恵美がため息をつきながらそんな言葉を口にすると、

彰浩は「ち、ち、違うし!」と、顔を赤らめながらそれを否定したー。


いつものように、他愛のない言い合いをしながら

文化祭で使う教室の最終セッティングを終え、

職員室にいる先生に報告しに行こうとしたその時だったー


「ーーうっ… ぁ… … ぁ…」


教室を先に出ようとしていた彰浩の背後から、

奇妙なうめき声が聞こえて来たー


その声は、恵美の声ー。

「なんだよ」と、苦笑いしながら

いつものような調子で彰浩が振り返ったその時だったー。


「ーーーえっ…」

振り返ると、恵美が教室の床に膝をついて、

とても苦しそうに息を何度も何度も吐き出していたのだー。


その顔は、真っ青ー。

ただごとではないことが、すぐに彰浩にも分かったー


「ーーぁ… ぁ… ぁ… ぁぅ……」

苦しそうにー、息をするのもやっと、という状況が

しばらく続くー。


彰浩は慌てた様子で「き、救急車呼ぶ?先生呼ぶか?」と、

恵美に声をかけるー。


しかしー、恵美は返事をすることもできずに

はぁはぁと息を吐き出すだけだったため、

彰浩はすぐに「ま、待っててー、先生を呼んでくる!」と、

その教室から飛び出そうとしたー。


だがーーー


「ーーいいよ」


「ーーえ?」

唐突に、恵美のハッキリとした言葉が聞こえて来て、

彰浩は再び振り返るー。


すると、顔色はまだ悪いもののー

普通に立ち上がった恵美の姿があったー


「先生、呼ばなくていいよ」

恵美のそんな言葉に、

彰浩は「え…で、でもー」と、困惑するー。


「ーー大丈夫ー、ほら、わたしは元気だからーね?」

にこっと笑う恵美ー


なんだか、その笑い方に少しだけ違和感があるー。

けれどー、

恵美本人にそう言われてしまっては仕方がないー、と

「大丈夫ならいいけどー…あんま心配させないでほしいなぁ」と、

彰浩は少しだけホッとした様子で言葉を口にしたー


「ーーーーー」

背を向けた彰浩のほうを見つめながら、

にやりと笑みを浮かべる恵美ー。


自分の太ももを指でなぞりながらー

ペロッと唇を舐めると、

「ーーじゃあ~…片づけちゃおっか」と、

何事もなかったかのように、彰浩に声をかけー、

そのまま後片付けを終えたー。


「ーえっとー、明日から文化祭だったよねー」

恵美のそんな言葉に、

彰浩は「え?そ、そうに決まってるだろ?」と答えると、

「ふふー、ごめんごめんー」と、恵美は笑うー。


何だか、いつもの口うるさいお姉さん的な雰囲気が

急に消えてしまって、

「え?め、恵美ー?大丈夫だよな?」

と、不安そうに確認するー


「ーふふふ、大丈夫大丈夫ー

 じゃあ、今日もお疲れ様!」


恵美がそんな風にねぎらいの言葉を投げかけながら

にこっと、微笑むー。


そんな恵美の笑顔に一瞬、ドキッとしてしまった彰浩は

一人になってから、しばらくぼーっとしていたものの、

「ーって、何ドキッとしてんだ俺!

 あの恵美だぞ!」と、自分で自分にツッコミを入れながら

ため息をついて歩き出したー。


幼馴染の恵美にドキッとしたのなんて、初めてだったー

憎まれ口を叩きながらも、大事な存在であることは事実だ。

だが、それは幼馴染とか、姉のような存在とか、

そういう関係で、恋愛感情は全くないー。


少なくとも、今まではー。


だが、今のはー?


「ーーーーーいやいやいや、ないないないない」

恵美にドキッとするなんて、あり得ないー。

文化祭の準備できっと俺は疲れているんだ、と

自分で自分に言い聞かせながら、彰浩は

「俺もそろそろ帰るか」と、その場を後にしたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーふふふふふ…

 今日から”俺”は、しばらく宮野 恵美ーーくふふふ♡」


帰宅した恵美は、欲望に満ちた笑みを浮かべながら

姿見の前で、可愛らしいポーズを何度も何度も取っていたー。


「ーーこの子、可愛いよなぁ~…」

鏡で、頬を触りながら、そんな風に呟くー。


明らかに、普通ではない行動ー。

自分のことを、まるで”他人”のように呼びー、

笑みを浮かべているー。


それもそのはずー、

恵美は、文化祭の準備を終えて帰ろうとしたあのタイミングでー、

”憑依”されてしまったのだー


今の恵美は、身体は恵美でも、

その身体を動かし、邪悪な笑みを浮かべているのはー

別の人間ー。

恵美はその身体も、心も完全に支配されー、

今は恵美であって、恵美でない存在と化しているー


「ーーふふふふー…

 まぁ、安心しなよー」

恵美は、鏡の中に映る恵美に対して、語り掛けるような口調で

そう呟くと、笑みを浮かべるー。


「ー俺は、別に人生を壊すようなことはしないからさー」

恵美の口から、恵美の声で、そんな言葉が漏れ出すー。


もちろん、恵美からの返事はないー。

だが、恵美を支配している男は、恵美の身体で

そのままお構いなしに言葉を続けたー。


「ーー俺はただ、”普通の女子高生”として女子高生ライフを

 楽しみたいだけだからー

 遊び終えたら、ちゃんと身体を返してやるよー」


乗っ取られた恵美が、男の意思のままにそう呟くー。


恵美に憑依した男はー

これまでも”憑依”を繰り返してきた男ー。


しかし、その目的は

”女子高生として普通に暮らしたい”というもので、

憑依した身体で犯罪を犯したりしたことは

これまで一度もなく、解放されたあとの本人が

精神的なショックを受けてしまい、立ち直れなくなるだとか

そういうことはあったものの、

彼自身が”憑依している間に人生を壊すような行動をしたこと”は、ないー。


大体1か月を目安にー、

気に入った子に憑依し、その子として生活してー、

それでまた違う身体に移動するー。

それが、この憑依人の男の、”憑依の楽しみ方”だー。


「ーーま…」

恵美はそう呟くと、ニヤニヤしながら鏡にキスをするー。


「ー自分の身体で、お楽しみはするけど、ねー」

恵美はそう呟きながらクスッと笑うと、

自分の身体を嬉しそうに弄び始めたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー

文化祭本番ー、

彰浩は、恵美から声をかけられたー


「ねぇねぇ、アキくんー

 せっかくだから一緒に回ろうよー」

恵美のそんな言葉に、彰浩は

「え~!嫌だよーいつもみたいに

 小言言われながら文化祭なんてー」と、いつもの調子で

すぐにそれを否定するー。


しかし、そんな言葉に、恵美は

とても悲しそうな表情を浮かべて、しょんぼりとしながらー

「ざんねん…」と、呟いたー


恵美のそんな表情、見たことないー


いつもなら”小言を言われるそっちが悪いんでしょ!”とか

言ってくるはずなのにー


「え…い、いや、ご、ごめん!

 べ、別にそんなつもりじゃー」

彰浩は慌ててそんな言葉を口にするー


その言葉に恵美は嬉しそうに微笑むとー

「やった!」と、小声で呟いたー


そんな恵美の姿に”かわいい”と思ってしまった彰浩はー

首をぶんぶん振りながら

”な、なんか昨日から調子が狂うぞ!”と、心の中で叫んだー。


一緒に文化祭を回り始める二人ー


恵美に憑依した男は、”女子高生として幼馴染と回る文化祭”を

心底楽しんでいたー。


彼はー、憑依した人間の記憶を”ある程度”読み取ることができるー。

大体の人間関係から、学校内の構造ー、好きな食べ物や個人情報ー、

そういったことまで分かるー。


分からないのはー”人格的な部分”ー

例えば、恵美が普段、”こういう時はどんな風に振る舞うのか”とか、

そういうことだけが分からないー。

基本的な性格はある程度分かっても、”感情的な部分”は記憶とは

また切り離されているため、分からないのだー。


”彰浩は幼馴染” ”彰浩とは仲良し”

”彰浩は大事な存在ー”

恵美は、心の中で彰浩のことをそう思っていたためー

恵美に憑依した男は”こんな風に仲良しなんだろう”と、

いつもの恵美とは違う、そんな振る舞いをしてしまっていたー。


またー、記憶も全部一気に流れ込んでくるわけではなくー

憑依している男が”必要だと思って意識したこと”が読み取れる状態ー

例えば学校に向かおうとして”どこの学校に通ってるんだ?”と、念じるとー

それが読み取れるー、そんな状況だー。


それ故に、恵美の全ての記憶を持っているわけではなくー

場面場面に応じて必要な記憶を、恵美の脳から読み取って

しようしているー

そういう、状態だったー。


「ねぇねぇ、次はB組の見に行こうよ!」

嬉しそうに腕を引っ張る恵美ー


今日の恵美は、何だかおかしいー

妙に優しすぎるー。


「ーーえ、あ、あぁー」

彰浩は、顔を赤らめながら、嬉しそうにはしゃぐ恵美と共に

B組の出し物がある方に向かうー。


終始、ドキドキしっぱなしの彰浩ーー


やがて、文化祭の間、ずっと恵美と一緒だった彰浩は、

1日の終わりに、恵美のほうを見ながら、言葉を発したー


「あ、あのーー…

 き、今日の恵美ーなんだか…」


”なんだか変だな”と、言おうとしたがー、

朝、落ち込んでしまった恵美の姿を思い出してー

咄嗟に

「い、いつもより可愛いな…」と、照れくさそうに呟いてしまったー。


「ーーえ~?ふふふ… ありがとう♡」

恵美は、そんなことを言いながら

「今日は楽しかったね~」と、身体をくっつけながら微笑むー。


イヤらしい感じではなくー

距離感の近い幼馴染ー、と言う感じでー。


「ーーえ、…あ、あぁ、お、俺もー」

ドキドキしながらそう答えた彰浩ー


しばらく雑談をしながらー

彰浩は”やっぱり恵美は恵美だよなー”と、思うー。


恵美の会話の中には”恵美しか知らないような内容”も

出てきているし、これまでの文化祭実行委員の活動に

関する内容も出てきているー。


一瞬、いつもと違和感がありすぎてー

”実は双子の妹なんじゃないか”とか、変なことまで

思ってしまったものの、

やっぱり、正真正銘、恵美本人なことは間違いないー。


そんなことを思っていると、

時計を見つめながら、恵美が「あ、そろそろ帰らなくちゃ」と笑うー


「あ、うんー…じ、じゃあ、気を付けて」

彰浩がそう言い放つと、恵美は笑いながら彰浩に手を振るー。


そんな恵美の姿は、

彰浩から見ればいつもの何倍も、可愛く見えたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーーー」

帰宅してからも、彰浩は恵美の姿ばかり思い出して

ドキドキしてしまっていたー


”いつもとのギャップ”もそうー。


だが、純粋に今日の恵美は

なんだかとっても可愛かったー。


同じ恵美なのに、

なんだか、とってもーーー


「ーやべぇ…何で恵美のことばっか浮かぶんだー?」

彰浩は困惑しながら、そんな言葉を呟くー。


自身が”憑依された恵美”に対しー、恋心を抱き始めているのに

気付くのは、まだ数日先の話だったー



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


積極的に悪事を行うタイプの憑依人ではない人に

幼馴染が憑依されてしまったお話ですネ~!

(もちろん、憑依された本人からしたら災難ですケド…)


いつもと違う雰囲気の幼馴染に恋心が芽生えてしまった

彼の運命は、また次回のお楽しみデス~!


今日もありがとうございました~!

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