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「ーーーっ… は~~~~~」

男子大学生の村中 智樹(むらなか ともき)は思わずため息をついたー。


「ーー…」

深夜のコンビニー。

ちょうど、智樹がバイトをしているこのお店では

この時間帯になると、ほとんど人は来ないー。


商品の入荷もあまりない時間帯のため、基本的に暇でー

眠くなりやすい時間帯なのだー。


「ーーあ、先輩、眠そうっすねー」

1歳年下の同じく大学に通うアルバイト、

渡辺 幸太郎(わたなべ こうたろう)が揶揄うようにして

そう呟くー


「ーーーーーうんーーー眠い」

智樹が隠す様子もなくあくびをしながら言うと、

幸太郎は笑いながら、

「ま~忙しすぎるのもアレですけど、暇すぎるのもアレですよね

 ーこういう時にクレーマーとか強盗とか、本部のおっさんとかが来ればー

 すぐに目もパッチリ醒めるんでしょうけどー」

と、冗談を口にするー


「いやいやいやいやー不吉なこと言うなし!」

智樹が笑いながらそう叫ぶー。


幸太郎の”勘”はよく当たるー。


前も”こういう忙しい日に限って、本部のおっさんが来て

面倒なこと言ってくるんですよね”と、幸太郎がボヤいた日にー

本当に本部の人が来たし、


”このあと彼女さんとデートっすか?

 こういう日に限って、午後来るバイトが遅刻したりしてー”

などと、ニヤニヤしながら幸太郎が冗談を口にした日に、

本当に午後のバイトが遅刻をしたこともあるー


幸太郎が立てる”悪いフラグ”は、

智樹だけではなく、他のバイトや、店長も恐れをなしていたー。


「ーーーははは、こんな深夜に本部のおっさんが来るわけないしー

 クレーマーもそうそうは来ないでしょうしー

 この辺りは治安がいいですから、強盗もー」


幸太郎が入口に背を向けてニヤニヤしながらそう言っているとー

店の自動ドアが開いたー


「ーーいらっしゃーー……」

入口の方をちょうど向いていた智樹がそう言いかけて言葉を止めるー。

そして、目を見開いたまま入口に背を向けている幸太郎を

ポンポンと叩いたー


「ーなんですか?先輩ー」

ニヤニヤしながら幸太郎は、

”まさか、強盗が来た!なんて言い出すんじゃないでしょうね?

 そんな小学生みたいな悪戯には引っかかりませんよ?”と、

小声で呟いたー


がー、智樹は青ざめた表情で「おいっ!おいっ!」と、

小声で入口のほうを指さすー。


「ーーーははははー

 その手にはのらーーー」

幸太郎が笑いながら、あまりに智樹が慌てているので

一応、と思いながら入口のほうを振り返るとー

そこにはー

サングラスとマスクという”いかにも怪しい”人物の姿があったー


「ーーってーーひぃっ!?!?!?」

振り返った幸太郎は、一気に真っ青になって叫ぶー


「ご、ご、ご、ご、強盗ーーー!!

 い、、い、、い、いらっしゃいませぇ!!!」


パニックになったのか、何故かいらっしゃいませと絶叫する

幸太郎ー


途端に幸太郎は先輩である智樹を盾にするかのように

後ろに隠れるー


「ーお、おいっ!まだ強盗って決まったわけではないだろー」

いかにも怪しい姿だが、強盗とは限らないー

智樹は平静を装いながら「いらっしゃいませ」と改めて口にすると、

サングラスとマスクー…

フード付きの黒いレインコートを被った人物が近づいてきたー。


「ー金を出せ」

その人物が、単刀直入にそう呟いたー


「ひぃぃぃぃぃ!や、やっぱり強盗ー!」

幸太郎が悲鳴に似た声をあげながら叫ぶー。


「ーーーお、お、落ち着け」

智樹は先輩として幸太郎に落ち着くように言い放つと

冷静に強盗のほうを見たー


”今の声ー…”

智樹は思うー

サングラスにマスクー

フード付きのレインコートという格好であるため

分からなかったが、

今の声は”女”のように聞こえたー。


よく見ると華奢な感じだし、胸のふくらみも確認できるー


「ーーーー……(女の強盗かー)」

智樹は「ーーーば、馬鹿なことはやめましょうー」と、

強盗に落ち着くように言い放ちながら、冷静に状況を分析するー


強盗の女は”銃”を持っているようには見えないー

刃物は持っているかもしれないが、今のところ、

それを表立って出すようなことはしていないー


”ーーーー……俺でも、制圧できるかー?”

智樹は心の中で瞬時に、情報を整理するー


”ーーバイトで命を賭けるつもりはねぇけどー

 ここで”ハイわかりました”って、諭吉さんを

 差し出すのもアレだしなー”


智樹は心の中でそう思いながらー

「ーーし、少々お待ちくださいー」と、レジを開ける

仕草をし始めるー


「ー早くしろ」

強盗女が淡々と低い声で呟くー


レインコートの中からは刃物をチラつかせているー

やはり、刃物は持っているようだーー


「ーひぃぃいいいいいいいいいいい!!!!」

後輩の幸太郎はもはや役に立たないー


ここはー

”俺がどうにかするしかない”と、智樹は心の中で

改めて思うー。


レジからお金を出すフリをしながらー

”刃物で反撃されないように”隙を慎重に探るー


昔からー

智樹は何故か”人一倍冷静”だったー。

自分でもなぜかは分からないー


だが、とんでもない事態を前にすると

何故か冷静になるのだー


今も、そうーーー


「ーー早くしろ!!!」

強盗女が苛立った様子でそう叫ぶー


「ーーお会計以外でレジを開けるのに操作が色々

 必要なもので~」

智樹は申し訳なさそうにそう言いながら、

レジを開くー


そしてーーー

札束を手に持ちー

それを強盗女に手渡そうとしたその時だったー


突然、強盗女の手を思いっきり引っ張りー、

素早く刃物を叩き落とすーーー


「ーー渡辺くん!早くそれを!」

刃物を遠くにやるように叫ぶと、悲鳴をあげながら幸太郎は

刃物を強盗女の近くの床から、遠くに蹴り飛ばしたー。


「ーーーーーはぁ…はぁ…観念しろ!」

智樹がそう叫びながらー、強盗女のほうを見つめるー


「くそっ…!離せ!」

声を荒げる強盗女ー


そう言えばーこんな感じの声、どこかで聞いたことがあるようなー?

と、一瞬思いつつー、

「ーそうだ!渡辺くん!早く警察を!」と、智樹が叫ぶと、

「わわわわ、分かりました!」と、幸太郎が店の奥に駆け込んでいくー。


「ーーー!」

だがー、強盗女が、突然暴れ出しー、

智樹が咄嗟に、強盗女を投げ飛ばすとー

「ぐえっ!」と、女は叫びながらー

床に叩きつけられてー

レインコートのフードが脱げー、

サングラスが床に落ちた状態で起き上がったー


「ーーーーーえ…」

その”素顔”を見た瞬間ー

智樹は思わず変な声を出したー


「ーーーーーあ?」

マスクだけになった強盗女が、目を細めるー。


「ーーーも…も……萌美…?」

智樹は、信じられない、という様子で強盗女のほうを見つめたー。


「ーーーあん?」

萌美と呼ばれた女はマスクを外して、放り投げると、

表情を歪めるー


「ーーも…萌美ーー…どうして?」

智樹は、信じられないという様子で強盗女のほうを見つめるとー

「ーあ!!!あ!!わ、渡辺くん!つ、通報タイム!!!」と、

大声で事務所の方に向かって叫んだー


「ーーは???はいっ!?!?!?!?」

事務所から困惑した幸太郎の声が返ってくるー。


だがー、智樹は困惑せずにはいられなかったー。

何故ならー

強盗女はー智樹の彼女である

黒川 萌美(くろかわ もえみ)だったのだからー


「ーーーーーー…彼氏?」

萌美が表情を歪めるー。


「ーーーえ?」

今度は智樹が困惑するー


そしてー

その反応を見た萌美が表情を歪めたー


”ーーこいつー

 この女の彼氏かー…?

 チッー…面倒なところに入っちまったー…!”


どうしてこんなことになったー!?

”萌美に憑依した男”はそう思いながらー

これまでのことを思い出し始めたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


森原 信弘(もりはら のぶひろ)ー


彼はー

半年ほど前に”憑依薬”を手に入れー、

以降”憑依”を使って悪質な犯罪行為を繰り返している男だったー。


”憑依して乗っ取った身体”でコンビニ強盗や万引きー、

電車での痴漢行為など、悪質な行為を繰り返しているー


憑依された側には記憶がなくー

”犯罪”を犯すのは憑依された身体であるためー、

信弘自身は罪に問われないー。


これまでにも”憑依した身体”で何度かコンビニ強盗も

実行に移しているー。


”失敗してもー”

彼にとってはほぼリスクがないのだー。


そしてー

今日もーーーー


「ーーうん!また明日~!」

智樹の彼女・萌美が手を振りながら友達と別れるー。


”今日は、あの女にするかー”

ニヤリと笑いながら、信弘は萌美を尾行し始めるー。


信弘は”女”の身体を乗っ取りー

犯罪に利用していることが多いー。

その理由としては単純に”相手を油断させる”など、

美人局的な狙いとー、

もう一つは”女に悪事を働かせていること”に

興奮するー、というものだったー


「ーーーへへへー

 可愛い女子大生を悪に染めるのには最高に興奮するぜー」


そう囁く信弘ー。


少し先を歩いていた萌美が立ち止まりー、

道の端で電話をしているー


「あ、今日はバイトなんだね~

 うん、うんーあ~また例の子と~?

 

 でも、悪い子じゃないんでしょ?」


笑いながら萌美がそんな言葉を口にしているー

相手は誰だかは分からないがー、

話し方的に、どうやら、彼氏のようだー


とても嬉しそうに微笑んでいる萌美の姿が見えるー


「クククー

 あんな風に笑ってる子がー

 今夜にはコンビニ強盗をするんだからー

 たまらないぜ」


信弘はそんな言葉を呟きながら

萌美の様子を観察するー


「ー本当に大丈夫?

 あんまり無理しすぎないでねー?」


彼氏は、バイトに大学に、サークル活動に

忙しくしているようで、

萌美が心底心配したような声を出しているー。


「ーーわたしも、力になれることがあったら

 いつでも力になるから!

 

 うん、うん!

 じゃあ、また明日!

 ばいばい~!」


嬉しそうに笑って電話を切る萌美ー。


電話を切ったあともニコニコしていて、

表裏のない、心底喜んでいる感じが

信弘にも伝わって来たー


電話を終えると再び歩き出す萌美ー。


萌美が人通りの少ない道に入るのを待つー。

信弘はー”慎重”な性格だったー。

いや、小心者と言うべきだろうかー。


悪だくみを考えながらもー

それを実行に移す度胸がないー。

そんな男だー。


コンビニ強盗などの犯罪に手を染めたのも、

憑依薬を手に入れてからで、

”元々”そういうことは頭の中で考えてはいたものの、

実行に移すことはなかったー

あくまで、今そういうことをしているのはー

”他人の身体だから”に、過ぎないー。


恐らく、信弘は憑依薬と出会わなければ

世間からすれば”普通の人”で人生を終えていて

犯罪に手を染めることはなかったー


”力は人を狂わせるー”

いやー、人の理性という名のブレーキを壊してしまうー


「ー今だ!」

にやっと笑みを浮かべた信弘はー

憑依薬の力で霊体になってーーー

すぐさま萌美に自分の霊体を突進させたーーー


「ーーーひっ!?!?!?!?!?」

そこそこ大きな声を出して、ビクッと激しく震える萌美ー


歩いていた萌美は、ふらっと、よろめいて

近くの壁に激突してしまうー


「っとととと…」

すぐに萌美はニヤニヤしながら体勢を直すと、

「ー憑依するときー、結構反応がすごいからー…

 人目につかないところで憑依するしかないんだよなー」と、

ニヤニヤしながら呟いたー


「さて…とー」

憑依された萌美はそう呟くと、

勝手にバッグの中を確認して、財布を確認しー、

サングラスやマスクなどを買うために

そのまま笑みを浮かべて歩き始めたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーー(チッ…ま、まさか電話してた相手の彼氏がー

 たまたま俺が強盗に入ったコンビニでバイトしてるなんてー)」


そして、現在ー

コンビニ強盗を実行に移した”憑依された萌美”はー、

彼氏の智樹を前に、困惑していたー


「ーーあ、あ~~~~~……

 なんて言うかー…とにかくーーー金を出して!」

萌美が歪んだ笑みを浮かべながら叫ぶー


智樹に阻止されて”強盗失敗”

そう思って、萌美の身体のままコンビニから飛び出して

適当な場所で憑依から抜け出そうとしていた信弘ー。


しかしー

店員が彼氏ならー

上手くいけばー


”ー失敗して、この女が彼氏から呆れられてもー

 俺には関係ないからなー”


ニヤッと笑みを浮かべると、萌美は

「ーーお金……なくて…わたし、困ってるの」と、

わざと目に涙を浮かべながら、戸惑う智樹のほうを見つめたー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


2023年のスタート☆!

最初の作品は「強盗彼女①」でした~!☆


今日から早速創作初め…☆!

元旦に早速、お読み下さっている皆様、

ありがとうございます~!

(後から読んでいる皆様も、もちろんありがとうございます!!☆)


改めて今年もよろしくお願いします~!!

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