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”誰に憑依してほしいのか”

”憑依したあとに何をしてほしいのか”


依頼を受けて、指定された相手に憑依し、

頼まれた行為をその身体で実行する謎の男ー”憑依代行人”。


彼はー善悪関係なく、それがもたらす結果にも興味を示さずー


”妹に憑依して、受験を失敗させてほしい”と願う兄ー。

”お姉ちゃんに憑依して、恥ずかしい姿を撮影させてほしい”と願う妹ー。

”生徒会長に憑依して、俺と共に風紀を乱したい”と願う不良ー。


数々の依頼をこなしていくー。


そんなある日ー

憑依代行人の元にやってきた”依頼”はー…。


★前回はこちら↓★

<憑依>憑依代行人②~欲望の生徒会室~

”依頼”を受けた相手に憑依し、依頼通りにその身体で行動するー。 そんな”憑依代行人”は、 ”妹に憑依して、妹の受験を失敗させてほしい”という依頼や ”お姉ちゃんに憑依して、わたしの思いのままに行動してほしい”という依頼を受け、 いつものように仕事をこなしていたー。 そして今日も、憑依代行人に新たな依頼が舞い込...

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーん?」

”憑依代行人”は舞い込んで来た依頼を見つめたー。


その”依頼”に書かれている

”憑依してほしい相手”には見覚えがあったー。


藤宮 萌々奈(ふじみや ももなー)


そうー

同姓同名ー、かつ、”顔もそっくり”でなければー

彼自身のー、

憑依代行人の”妹”にあたる女性だー。


少し歳が離れており、まだ20代中盤でー、

現在は数年前に結婚して夫と共に暮らしていると聞いているー。


既にー”憑依代行人”は萌々奈から縁を切られておりー、

ここ数年は全く接点のない状態だったがー

それでも、憑依能力を手に入れてから、憑依代行人として

商売を始めるまでに、彼は一度も萌々奈には憑依したことはなかったー。


”たまたま”なのかー、

それとも”無意識”で妹の萌々奈を傷つけることはしまいー、と

避けていたのかー。

それは、彼自身にも分からないー。


しかしー

今ーーー

”依頼内容”を見て、憑依代行人は少しだけ表情を歪めていたー。


”憑依対象者”の欄には”藤宮 萌々奈”の名前ー。


そしてーーー

”依頼内容”には”自殺”とだけ書かれていたー。


「ーーーーーーーー」

「ーーーーーーーー」


憑依代行人は、少し迷った末に、”依頼人”に電話を掛けたー。


依頼人は”待ってました!”と言わんばかりに、

憑依代行人の電話に出ると、淡々とした口調で呟いたー。


”藤宮 萌々奈に憑依して、自殺してほしいー”

とー。


「ーーーー”憑依を利用した殺し”の依頼かー」

憑依代行人は、電話でそう呟きながら少し考えるー。


これまでにもー

”憑依代行人”として乗っ取った身体で”死んでほしい”という

類の依頼は受けてー、実行したことはあるー。


それぞれの理由を探ることはせずー、

ただ淡々と依頼をこなしてきたー。


憑依能力を手に入れて、自分であらゆる憑依を堪能した彼はー、

”他人からの依頼”を受けることで、新しい憑依の世界を堪能しー、

楽しみ、そしてビジネスを続けているー。


そこに、善悪などないー。

乗っ取った身体で、何をしようと罪に問われることはないし、

乗っ取った身体と、依頼人、その周囲の人間がどうなろうと、

彼には興味すらないー。


しかしーーー

今回はーーーーーー


「ーーーーー…理由を聞こう」

憑依代行人は声を押し殺すようにして、そう呟いたー。


すると、相手は言葉を口にしたー。


”依頼人の事情や、行動内容には一切関与しないんだろ?”


その言葉に、憑依代行人は表情を険しくするー


「ーーー…(こいつ、俺のことを知っているのかー)」

とー。


”依頼人の事情や、行動内容には一切関与しない”

これはー、憑依代行人がいつも、依頼を受ける際に

口にする言葉だー。


それを知っているということはー

かつての依頼者かー、あるいはー……


”どうした?受けてくれないのか?”

男の言葉に、憑依代行人は沈黙するー


”クククー…やっぱりなぁー…

 受けた依頼は何でもやるー

 そんな噂のある憑依代行人サマもやっぱり、妹は恋しいってか?”


その言葉に、

「貴様ー、俺のことを知っているのか?」と、

鋭い口調で確認する憑依代行人ー。


相手の男は少し気圧されたのか

”おっと失礼!”とだけ言うと、

そのまま言葉を続けたー。


”まぁいいー…誰だって妹を失うのは辛いからなー

 気持ちはよく分かるー。

 だから、”取引”と行こうー”


「取引?」

憑依代行人が聞き返すー。


恐らくー

”藤宮 萌々奈”を殺してほしい、というのが本来の目的ではなく

”こっち”が、本来の目的であるとすぐに悟った憑依代行人は

ため息をついたー。


「ーーーいいだろうー」

そう、言葉を口にしながらー


”ククー話が早いやー

 取引っていうのはーー”


「ーーー違う」

相手の男の言葉を憑依代行人が遮るー。


”え?”

相手の男が間抜けな声を出すー。


「ー藤宮 萌々奈に憑依して、自殺すればいいんだな?」


憑依代行人の鋭い言葉に、依頼人は

”えっ…!? えっ!? いや、ちょー…”

と、突然戸惑った声を出すー。


まさかー”妹に憑依して自殺”などという依頼を

憑依代行人が受けるなどとは、夢にも思わなかったのだろうー。


「どうした?」

憑依代行人が冷たい口調で呟くー。


”あ、いやー…”

相手の男はそう呟くと、露骨に動揺した様子を見せるー


「ー依頼人の事情や、行動内容には一切関与しない

 そう、お前の言う通りだー。

 何か不都合でも?」


憑依代行人がそう呟くとー

相手の男は渋々と”問題ない”と呟きー、

そして”依頼料”を入金したー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーうっ…」


久しぶりに再会した妹・萌々奈に躊躇なく憑依した

”憑依代行人”ー


萌々奈は、最後に会った時よりも、美人になっていたしー、

まだ小さい子供も、とても可愛らしかったー


まァー

再会と言ってもー…

”一方的な再会”だけどなー


憑依代行人はそんな風に心の中で呟くと、

萌々奈の身体を完全に支配し、立ち上がるー。


今まで満面の笑みで息子と遊んでいた萌々奈がー

突然無表情の険しい表情になって立ち上がるー。


その豹変ぶりに、萌々奈の息子も

「ーーママ?」と、不思議そうに首を傾げているー


「ーーーーママ、死ななくちゃ」

満面の笑みを浮かべる萌々奈ー。


まだ小さい息子には、”ママ”が何を言っているのか、

理解できなかったー。


「ーーー萌々奈ー…俺を恨めー存分に」

鏡の前に立つと、そう呟く萌々奈ー。


”あらゆる人間の人生を壊してきた”ー

憑依代行人にはもはや”人の心”というものは

とっくに失われていたー。


理由もなく妹に憑依することはしないがー、

”依頼”があれば、妹にだって憑依するー

それが、どんな内容であろうともー。


”俺を恨むなよ”

などと言うつもりもないー。


存分に恨んでもらって構わないー。

それだけのことを、しているのだからー。


「ーーー」

萌々奈は台所まで歩いていくと、

包丁を手に、それを躊躇なく自分に突き刺したー。


苦しそうに笑う萌々奈ー。


「ー依頼完了だぜー」

萌々奈の身体から抜け出す憑依代行人ー


意識を取り戻して、何が起きたのか分からず悲鳴をあげる妹を見てもなお、

憑依代行人はその結末を見ることすらなく、

そのままその場から立ち去って行ったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


後日ー


憑依代行人の事務所に、

黒いサングラスとマスクの男がやって来るー。


「ーーあんた、本当に妹をー」


”萌々奈”を自殺させてほしい、という依頼を出した男がー

事務所にやってきたのだー。


「ーーー依頼だからな」

いつものように仕切りをカーテンで覆い、相手に顔が見えない状態で、

加工音声で語り掛ける憑依代行人ー


”チッー”

依頼人の男は思わず舌打ちをするー。


彼の狙いはー

”萌々奈”のほうではなかったー。

”憑依代行人”本人だー。


徹底的に”憑依代行人”の噂を調べ上げー

あらゆる手をつくして彼の妹、萌々奈の存在にたどり着いた依頼人ー。


そしてー、”妹殺し”の依頼を出すことで、

憑依代行人がそれを拒んだところで、”取引”を持ちかけ、

憑依代行人を呼び出し、彼自身を依頼人が殺すつもりだったー。


だがー

”想定外”にも、憑依代行人が妹殺しの依頼を受けてしまったため、

それは失敗に終わってしまったー。


こうなったらーーー…!


彼は、どこからか手に入れた銃のようなものを取り出すー


「ーーーー!!!!!!」

憑依代行人が、依頼人から見えない場所で表情を歪めるとー、

”依頼人”はマスクとサングラスを取ってその顔を晒して叫んだー


「妹の、千代の仇だーーーーーッ!!!!!」


そう叫びながら銃を何度も何度も、カーテンに覆われた

仕切りの方に打ち込む文昭ー。


憑依代行人に”妹殺し”を依頼したのはー

以前、憑依代行人に

”妹・千代の受験を失敗させてほしい”と依頼してきた

千代の兄・文昭だったー。


その後、受験に失敗した千代は自殺ー。


”元はと言えば”文昭が千代の受験を失敗させてほしいー、

などという依頼を出したのが原因なのだがー、

文昭はその現実を受け入れられず、憑依代行人を逆怨みしー、

憑依代行人のことを徹底的に調べ上げー

その妹を突き止めー、復讐の機会をうかがっていたのだー。


銃を打ち終えた文昭は、事務所にセットされている

機銃も破壊すると、そのまま隠し持ってた鉄パイプで、

仕切りを破壊したー。


「ーーお前のせいでー…!お前のせいで、千代はーー!」


そう叫んだ文昭ー。


だがーーーー

そこに”憑依代行人”は、いなかったー


カーテンに覆われた仕切りの裏側には、

”パイプ椅子”がひとつと、パソコンなどの電子機器が

置かれているだけー


「ーど、どこだー!?憑依代行人!」

文昭が叫ぶと、

”残念だがー”と、言う声が聞こえたー。


”俺はいつでも、自分の身体を霊体のようにすることができるー”


そんな言葉に、文昭は「な…なっ!?」と、

困惑の表情を浮かべるー。


”時々いるよー。お前みたいなやつがー

 俺に依頼をして、それがもたらした結果で、俺を恨みー、

 こういうことをするやつがー”


憑依代行人がそう呟くと、文昭は「うるせええええ!」と、

怒りの形相で叫んだー。


しかしーーーー


”恨んで貰って結構ー。


 だが、”憑依の世界”に触れるからにはー

 全てを失う覚悟で来いー


 中途半端な覚悟で、憑依を悪用するんじゃねぇ!”


憑依代行人がそう叫ぶと同時に、文昭は「うっ!」と、呟いて

ビクンと震えたー。


その後ー

文昭は路上で自分に銃を放ち、そのまま息絶えたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


今日も、憑依代行人は依頼を受けているー。


今日の依頼は、一人娘に憑依して

”野菜を食べてほしい”という平和的な依頼だったー


「ーーーありがとう。本当にありがとうー」

依頼人である父親が嬉しそうに言うー。


一人娘の奈美(なみ)が、大の野菜嫌いで全然野菜を食べずー、

小学生になっても、野菜を全く食べようとしなかったため、

過保護な父親が、心配して、憑依代行人に”奈美に憑依して

野菜を食べてほしい”と依頼してきたのだー。


「ーーー……ーー…(これで、何か解決するのか?)」

憑依代行人は奈美の身体で野菜を食べながら、

頭の中でそう考えるー。


仮に今、奈美に野菜を食べさせても、

憑依代行人が奈美から抜ければ、野菜嫌いのこの子は、

この先も野菜を食べないだろうー。


そんなことを思いながらも

ひたすら感謝し続ける父親を見て、

憑依代行人は奈美の身体で少しだけ笑うー。


”これだから、この仕事は面白いー”

とー。


自分では思いつかなかったような憑依の使い方が

舞い込んでくるー。

憑依しすぎで飽きた自分には、これこそが生きがいだー。


平和な依頼でもー

地獄を見る依頼でも、

どんな依頼でもこなすー。


どんなに恨まれても構わない。

地獄を見る覚悟は出来ているー。


恨みは、自分があの世に行ったとき、全部聞いてやるー。

そして、何だってー、罰を受けてやるー


俺は、それだけのことをしているのだからー。



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


”憑依代行人”の最終回でした~!☆

1話完結っぽさもあるタイプのお話ですネ~!


皆様がこの人に何か依頼するとしたら

どんなことを依頼しますか~?笑


お読み下さり、ありがとうございました~!

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