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夜の街ー


一人の少女が、古びた屋敷のような場所の側で

キョロキョロと周囲の様子を伺っているー


「ーーーよし、ここからなら問題なさそうだー」

その少女は、そう呟くと、何か一人事を呟いてから、

そのまま身軽な動きでフェンスを乗り越えて、

屋敷の中へと侵入していくー


屋敷の中で宝石やお金の入っている金庫が置かれている部屋に

たどり着くと、何か装置を手にして、

金庫のロックを解除し始めるー


その間も、少女は何か小声で独り言をつぶやき続けているー。


「ーーよしーーーこれで」


少女が金庫の中から宝石を回収したその時だったー。


警報音が鳴り響き、少女は表情を歪めるー。


だがー

すぐに少女はクスッと笑みを浮かべたー


「ープランBに変更すれば、問題ないさー」

驚くべきほど冷静な判断能力で、何事もなかったかのように

屋敷から脱出すると、

そのまま少女は足早に走り去りー、

夜の闇へと姿を消したー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーふぅ…今回も余裕だったなー」

少女はまるで男のような口調でそう呟くー。


華奢な体格で可愛らしい少女ー


彼女は”怪盗”として、主に悪事を働いている人間の家から

金目の物を盗み出して生計を立てていたー。


彼女が”こうなった”のには理由があるー。


それはー

数年前に、両親が”事故死”し、親族からも見放されて

”こうして”生きていくしか道が無かったからだー。


「ーーほんと、いつも梓(あずさ)のおかげだよー。

 ありがとなー」


少女がそう呟くー。


だが、その場にはその少女一人しかおらず、

”梓”と呼ばれるような人間は周囲には見当たらないー。


”幽霊が出る”だの、

”心霊スポット”だの言われて誰も近付かない廃墟地帯で

暮らしている少女ー


しかし、彼女が話をしている相手、”梓”は

幽霊ではないー。

そもそも、梓とは、今、言葉を発している彼女自身の名前だー。


彼女はー

”自分の中”に存在する意識と会話をしていたー


だからー

外からは”独り言”を呟いているように見えるー


”そんなことないよー

 お兄ちゃんみたいな咄嗟な判断には、わたしにはできないし”


そんな言葉がー

”梓”の中に響き渡るー。


今、梓の身体を動かしているのはー

梓本人ではなくー、

梓の兄である、昌也(まさや)ー。


昌也が、妹・梓の身体を借りて、

窃盗行為を行っていたのだー。


「ーーーじゃあ、そろそろ”脱ぐ”よー」

梓の身体で、兄の昌也がそう呟くとー

”脱がれるときの感触ーいっつも思うけど、気持ち悪いんだよね~…”と、

中から苦笑いする梓の声が聞こえるー


「ー悪い悪いーちょっと我慢してくれよなー?」

梓の口で、昌也がそう言うと、

梓は、自分の後頭部に手を持っていきー、

そしてー、まるで”着ぐるみ”を脱ぐかのようにして、

頭からペリッと、梓を脱いでいくー。


”着ぐるみ”のようにペラペラになった梓の中からはー、

優しそうな感じの兄・昌也が姿を現しー、

丁寧に梓の皮を脱ぐと、そのまま梓に向かって、

手をかざすー。


しばらくすると、昌也の手から光のようなものが

放たれてー、その光に包まれた梓の身体がー

”ペラペラ”な状態から、人間の姿へと戻ったー


「ーふぅ~~…あの何とも言えない感覚ー」

まだ”学生”という感じの年齢の梓は、そう言うと、

昌也は「ーーほんとにごめんな、いつもー」と、申し訳なさそうに呟くー。


梓は「いいのいいの。もう慣れたし」と、笑うと、

兄・昌也のほうを見つめるー。


兄、昌也は椅子に座ったまま、立ち上がる様子を見せないー。


「ーーーーーーーー大丈夫?」

心配そうに呟く梓ー。


昌也は片足を触りながら「ははは、俺も慣れたしー」と笑うー。


昌也はー

片足がもうほとんど動かない状態で、

”まともに”歩ける状態ではなかったー。


だからこそ”窃盗”を行う際には、

妹の梓を”着て”行動する必要があるー。


「ーーー…もう、2年半以上、かー」

昌也がそう呟くと、梓は「うんー…」と答えるー。


昌也と梓は”好きでこんなこと”をしているわけではないー。

今から2年半前ー

ある研究施設で働いていた両親は、

その研究施設の”重大な秘密”を知ってしまったー


それが”人を皮にする”という危険な実験だったー。

何のために、そのような研究をしていたのかは分からないー。


しかしー、

それが良くない目的であることを、昌也と梓の両親は突き止めー

開発の最終段階であったその技術を持ちだして、

完成しないように”封印”しようしたー。


だがー、”昌也の両親”に裏切られる形となった研究施設も

黙ってはいなかったー。


昌也の両親を”事故”に見せかけて、車ごと崖から転落させてー

”抹殺”したのだー。


それと同時に、家で留守番をしていた昌也と梓も襲撃されたー。


その時に、昌也は妹の梓を守ろうとして、

片足を大怪我し、足の自由を失ったー。


両親が働いていた研究施設が、どんな施設か、昌也も梓も詳しくは

知らないー。


けれどー、

両親を抹殺し、昌也たちの命まで狙った、ということは

想像以上に危険な団体であることは間違いなかったー。


その後ー

研究施設側からの圧力か何かがあったのか、

昌也たちは親族を頼ることもできず、

自分たちの力だけで生きていくためー、

身を隠し、この廃墟地帯を根城にしているー。


”謎の研究施設”に命も狙われている以上ー

普通に働くことも、学校に通い続けることもできずー、

生きるために二人が考え付いた手段が

”悪党から金目の物を盗んで”、

それを売って生活するー…と、いうことだったー。


二人は、話し合いの末に、

両親が研究施設から持ち出した”人を皮にする技術”を自分たちが

使うことにした。


その結果ー、

”昌也が梓の皮を着て、怪盗として活動するー”


2年半ほど前からー

そんな生活が続いていたー。


「ーーでも、不思議ー

 なんだかんだ、こうしてわたしたち、生活できてるもんねー」

梓が寂しそうに言うと、

昌也は「そうだな」と言いながら、片足を引きずるようにして

ゆっくりと移動するー。


”梓一人”では、怪盗として忍び込むような勇気もないしー、

行動力や咄嗟の判断力に弱く、

梓自身が忍び込んで目的のものを盗み出すことは難しいー。

どうしても予測外の出来事があるとパニックになってしまう一面もあり、

”予測外の出来事”がつきものな”忍び込み”など、できるはずがなかったー


一方の昌也は、片足が既に言うことを聞かない状態である以上、

とてもではないが、忍び込むことなどできないー


そこでー

”二人が得意分野を生かし、不得意な分野を相手が補う形”で

今のー”兄妹怪盗”として活動を続けていたー。


”兄”の昌也は、

どんな時でも冷静で、度胸もあるー。

咄嗟の状況判断にも優れ、怪盗として忍び込んだ先で

予測外の出来事が起きたとしても臨機応変に対応できるー。


一方、”妹”の梓はー

事前に計画を練ったり、作戦を練る能力、情報収集能力に

長けているー。

そして、何より”自由に動ける身体”があるー。


二人は怪盗として作戦を決行する際にー

”妹の梓を兄の昌也が着る”ことで、

互いの長所を生かし、そして弱点を補い合う

完璧なコンビネーションを見せていたー


「ーそれにしても、結局今回のところもダメだったねー」

梓の言葉に、昌也は足を引きずりながら”戦利品”の確認をすると、

繋がりのある”裏社会の売人”と連絡を取るー。


いつも、その人物をはじめ、複数の裏社会の売人に

怪盗して盗ってきたものを売却し、二人は何とか

この2年半を生き延びて来たー


「ーあぁーでも、いつか、必ずー」


昌也たちが”怪盗”として暗躍しているのには

もう一つ理由があるー。


ターゲットにしているのは、俗に言う”悪党”たちだー。


それもー

”両親の命を奪った研究施設やその関係者と何らかの接点がある

 人間や団体、企業”に限定して狙っているー。


いつか、両親の仇である謎の研究施設の全貌を

解き明かすことができると信じてー


「ーーあ、ひと仕事終えたらお腹空いちゃったね~

 何か食べる?」

梓の言葉に、昌也は「そうだな」と頷きながら

二人で、少し遅くなってしまった晩御飯を考え始めたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


数日後ー。


「ー今回は、悪徳商売を繰り返している権藤(ごんどう)って男の

 屋敷に忍び込むことになったー。

 いつもの信頼できるルートからの依頼だー」


昌也がそう言うと、

梓は「オッケー」と、言いながら、

事前にターゲットである権藤の屋敷の見取り図を見ながら、

計画を練り始めるー


「ーここと、ここにカメラがあって、

 ここにセンサがー」


梓はそう呟きながらいつも通り”作戦”を立案しているー。


梓の得意分野の一つだー。

実際に忍び込んだ際の、臨機応変の対応力には欠けるが

こうして”事前に”作戦を練る時には、優れた能力を発揮するー。


”ごめんなー”

昌也は、見取り図を見ながら作戦を考えている

梓のほうを見つめながらそう呟くー。


梓はまだ、本来であれば高校生の年齢なのだー。


けどー

”普通の子”として生きることはできなかったー。


昌也自身も”大学生”であるはずの年齢だがー、

学校にはもう通うことは出来ておらず、

空き時間に独学で色々な知識を深めているー。


”俺が頼りないばかりにー”

昌也は、妹の梓に何とかして”普通の生活”を

させてあげたかったー


でも、それはできなかったー。


両親が殺されて、

親族関係を頼ることもできず、

どうしていいか分からなかった二人には、

こうする道しかなかったのだー。


”梓には、幸せになってほしいー”

そう思いながら、昌也は梓が作戦を考えているのを

じっと見つめていたー


「お兄ちゃん!作戦が出来たよ!」

梓がそう言うと、昌也は、足を引きずりながら

梓に近付いていき、梓が組み立てた作戦を

確認するー


「何か、問題はあるかなー?」

梓の言葉に、昌也は「いや」と笑いながら首を横に振ると、

「いつもながら、完璧だよ」とほほ笑んだー。


「ーよかった!」

梓が嬉しそうに言うと、

「ー決行は、今夜だなー」と、昌也が呟く。


梓は「うん!」と頷くと、

「あ、そうだ、お兄ちゃんに着られる前に

 トイレを済ませておくね」と、笑いながら、

トイレの方に向かったー。


「ーーーーふぅ」

心の準備をする昌也ー。


これまでにも、”闇の怪盗”として

窃盗を何度も働いてきたー。


相手を悪人に限定しているとは言えー、

自分たちが生き抜くためとは言えー、

やはり、窃盗は窃盗であり、

それは犯罪であることも、昌也は理解しているー。


だが、盗まれた側も、悪人であるからか、

今のところ、警察が動くような気配もないー。


自分たちの正体が発覚しないようにうまく

やっていることも当然あるが、

相手も”被害者であると同時に、悪さをしている人間”であることから

昌也たちに色々盗まれても、なかなか警察に言いだすことが

出来ない様子だったー。


「ーはい、準備オッケー!」

梓が笑いながら戻ってくると、

少しため息をつきながら、

「皮にされるときの感触、お兄ちゃん知ってる?」と、呟くー


「ーーいつもごめんなー」

昌也が申し訳なさそうにそう言うと、

梓は「あ、ううんーそういうことじゃないよー。

全然お兄ちゃんに怒ってないし!」と、断りを入れてから

言葉を続けたー。


「ーなんかこう、全身から力が抜けていって、ふわ~って

 してから、身体がこう、真っ二つにされたような

 不思議な感触がしてー…

 それから、着られるときは少しくすぐったくてー」


具体的に”着られる”ときのことを口にする梓ー。


「ーーはは、そういえばいつも着る時、

 梓、少し笑ってるもんなー」


昌也の言葉に、梓は「だってくすぐったいんだもん!」と言うと、

「今度俺も一回体験だけしてみるかなぁ」と、苦笑いするー。


昌也は”一度も皮”になったことはないー。

梓が、”お兄ちゃんの身体に負担がかかるかもしれないから

絶対ダメだからね!”と、固く禁止してきているため、

経験することができないのだー。


”怪盗”としての仕事を始める前、いつも梓は、

”お兄ちゃん”の緊張を紛らわせるためか、何か雑談をしてくるー。

今日も、その一環なのだろうー。


「よしー。俺も準備OK」

昌也が言うと、梓は頷いて椅子に座るー。


梓の後頭部に手をかざすと、梓が皮になっていきー、

何も喋らなくなるー。


そしてー

昌也が梓を着るー


”あっ ふふっ…やっぱーくすぐったいー”

中から梓本人の意識の声が聞こえてきてー

梓を完全に着た昌也は、

「やっぱ足が動くっていいよなー」と、

梓の身体で少しだけ微笑むと、

静かに歩き出したー


今夜の”仕事”を始めるためにー。


この2年半ー

二人はこうして順調にー

過酷な環境ながらも生き抜いてきたー。


しかしー

二人の運命に大きな転換点が近づいていることをー

まだ、二人は知らなかったー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


いつも書く皮モノとは少し変わったスタイルの作品を

考えてみました~!☆

私もちょっぴり新鮮な気持ちデス…!


今日もお読み下さりありがとうございました~!

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