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”人間になりたい”ー

ある日、そんな自我を持った海月は、夏の終わりも近付き、

そのまま海月として、尽きていく命を待つだけの日々が続いていたー


だが、ある日、海に遊びに来ていた女子高生の彩月が海で

事故を起こしてしまい漂着ー。

彩月に近付いた海月は、突然、彩月に変身してしまうー。


彩月になった海月は、”人間になりたい”という夢が

叶ったことを喜び、本物の彩月の身体を隠して、

自分が彩月に成り代わろうと画策するー…。


★前回はこちら↓★

<他者変身>人間になりたい海月①~奇跡~

いつからだっただろうかー。 海を漂っている一匹の海月(くらげ)に”自我”が目覚めたー。 本能のままに海に生きー、 本能のままに海に死ぬー。 そんな一生を終えるはず海月ー。 しかし、ある日、その海月には”夢”が出来たー。 普通の海月は、夢を抱かないー。 けれど、この海月だけは別だったー。 夢を抱きー、 いつしか...

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーーは~~~~~~~~~」


浴室でずっと自分の身体にシャワーを当てている

彩月に変身した海月ー


人間の身体に変身した、と言っても、元々は海月だからだろうかー

異様に喉が渇くし、水を浴びていないと落ち着かないー。

またー、常に彩月の身体が少し濡れていて、

ずっと同じ場所に立っていると、その場所が湿ってしまうー


「あ~~~~~~やっぱり……落ち着くぅ」

うっとりとした表情で、大口を開けて、シャワーから

吹き出るお湯を飲み続ける彩月の姿をした海月ー。


「ーーーーーー」

あまりの水分を摂取しているからか、下半身からは

尿のようなものが、出続けているー


「ーえへっ…えへへへっ…にんげん…人間っていいなぁ」

彩月はそう呟くと、

お風呂でシャワーを浴び続けたあとに、

身体も、髪も洗わず、そのまま浴槽へと飛び込んだー


浴槽で奇妙な動きをする彩月に変身した海月ー


海月の時のような漂う動きをー

彩月の姿でするー。


しかしー、

彩月の姿でー、となると、海月よりもはるかにサイズは

大きいため、浴槽程度の大きさでは、

自由に泳ぎ回ることができないー


「ー狭いなぁ…ここ」

彩月の姿をした海月は、少し拗ねたような声を出すと、

頬を膨らませながら

「人間って…おっきいなぁ…」と、呟くー。


たまたま視線が彩月の胸に注がれていたために、

まるで胸のことを言っているかのような発言になってしまうもー

海月は特にそのことを意識せずー

お風呂の中で気持ちよさそうに笑みを浮かべるー。


母親から”お風呂に入らないの?”と言われたため、

とりあえずお風呂にやってきたはいいもののー

”海月”からしてみれば、お風呂がそもそも何をする場所なのかも

分からないー。


あの海でー

泳ぎに来る人間たちの会話や仕草を海の中から

毎日のように見つめていたー


そのためー

”人間としての知識”は、ある程度は蓄えられてはいる。


しかしー、

海でお風呂に入る人間はいないし、

あくまでも”彩月の姿に変身している”だけで、

彩月の身体を乗っ取ったわけでも、

彩月の記憶を読み取ることができるわけでもないー。


海月に変身した彩月が、

”お風呂”の入り方を知らないのは、当然と言えたー


「ーはぁ~~~~~♡」

海の生き物だからか、水は落ち着くー

のぼせているのか、顔を真っ赤にしながら

彩月の姿をしている海月が微笑んでいるとー


やがてー

かなりの時間、お風呂から出て来ない娘を心配して、

彩月の母親が様子を見に来たー


「ーさ、彩月!?大丈夫?いつまで入ってるの!?」

心配そうにする母親ー


「ーーーーえへへへ?」

笑いながらも、意味を理解できていない

彩月に変身した海月はー


首を横に傾けながら誤魔化すように微笑むー。


「ーもうそろそろ出なさいー?

 顔も赤いしー」

母親からそう言われた彩月の姿をした海月は

「(お風呂って、長く入っちゃだめなんだ…?)」と、

そのままお風呂の外へと歩き出したー。


お風呂に出たあと、母親にものすごく心配されてしまった

彩月の姿をした海月は、首を傾げたー。


「(人間ってー…よく分かんないー)」

とー。


海月は、良くも悪くも”無感情”ー

仲間からこんな風に心配されることもないし、

逆に、仲間から責められたりすることもないー。

人間から見れば”無機質”な世界なのかもしれないけれどー

海月にとっては、それが普通だったー。


だからこそ、こんな風に心配されるのは、

彩月に変身している海月からすれば

”理解しがたい”状況であったー。


「ーーお母さんー…大丈夫だよ」

微笑みながら、海で聞いた人間の会話の知識を元に

そう呟くと、彩月の姿をした海月は、

冷蔵庫に向かって行きー、そのまま中に入っていた

2リットルのペットボトルの水を、母親の目の前で

一気飲みして見せたー。


海でも”ペットボトル”を持っている人間はいたー。

冷蔵庫は、先ほど母親が開けていた時に

”中に水が入っている”ことを確認したー


海月は驚異的な速度で、人間としての生活に

慣れて行こうとしていたー。


そしてー

”人間”としての最初の1日を終えるー


当然、両親からは”変な目”で見られることも多かったがー

彩月に変身した海月は

”親から変な目で見られている”ということを感じとることが

できるほど、人間としての生活を理解していなかったため、

何も気にせず、部屋で過ごしていたー。


「ー人間ってすごいー」

「ー人間ってふしぎー」

「ー人間っておもしろいー…」


そんな言葉を、笑っているのに

表情をあまり感じさせないようなー

不気味な雰囲気で、呟き続けたー


・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーう……」


”本物”の彩月が目を覚ましたー


彩月が流れ着いた場所は、海辺から少し流された

崖に囲まれた部分で、海辺からは死角になっている場所ー


一応、その場所は陸地にはなるものの、

周囲は崖と海だけで、このまま自力で

元々いた場所や、街の方に移動することは難しいー。


かと言ってー

泳いで帰れる距離かと言えば、その保証はできないー。


そんな、難しい場所だー。


彩月に変身した海月によって、

その場所の小さな洞窟のようになっている部分に

放置されていた本物の彩月は、

表情を歪めながら、すぐに外に飛び出したー


だがー

背後は崖ー。

とても登りきることはできずー

眼前は海ー。

自分一人では、どうすることもできないー


「み…みんな…どこ?」

既に周囲は暗くなっているー。


”普通であれば”当然、すぐに救助は来るー。

元々いた浜辺から、ボートに乗ってやってくれば、

数分もせずに到達できる場所だー。


しかしー

”彩月に変身した海月”が、戻って行ってしまっている以上ー、

周囲は”流された子は無事に救出されている”ー、と、

当然そう思っていて、

”本物の彩月がまだここにいる”などとは、夢にも思っていないー


「ーーだ…誰か!」

彩月が叫ぶー。


死角になっているこの場所からー

浜辺まで少し離れたこの場所からー


声は届くのだろうかー。


けれどー

今の彩月には叫ぶことしかできなかったー。


助けがやってくると信じてー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌朝ー。


彩月の姿をした海月が目を覚まして

起き上がるー


「これが…人間の言ってた”寝るー”なんだー」

彩月は不思議そうに首を傾けるー。


どこか、”無機質”な印象を受ける不自然な動作ー。


布団は、びしょ濡れになっていて、

まるでお漏らしをしたかのようになっているー


もちろん、お漏らしをしたわけではないー。

彩月に変身した海月は、

元々”海月”だー。


だからだろうかー。

彩月の姿になってからも、不自然に水分が身体から

放出され続けていて、

一晩寝ていた布団は、びしょ濡れになっていたー。


濡れている洋服を着たまま

部屋の中で”人間の身体”を色々動かしながら

笑みを浮かべるー


だがー

「ーーーー!」

ピクッと、手が意思に反して、変な方向に動いたー。


そしてー

ズキッと、今まで感じたことのないような痛みを感じて、

急に呼吸が苦しくなって、胸のあたりを押さえながら蹲るー。


ちょうど、タイミング悪くそこに母親がやってきてしまいー

母親は”汗びっしょりで彩月が蹲っているように”しか見えず、

慌てて「彩月!大丈夫!?」と、悲鳴に似た叫び声を上げたー。


病院送りになってしまう彩月の姿をした海月ー。


病院に行ってからも、身体からの水分の放出は止まらないー


「はぁ…はぁ…はぁ…せっかく、人間に、なれたのにー」

彩月の姿をした海月は、ベッドをすぐにびしょ濡れにして

しまいながら、表情を歪めたー。


人間にはー

”学校”と呼ばれる場所もあるー。

海辺に来ていた人間たちが、色々話していたのを知っているー。


けどー…

夏休みが終わるまでには、あと3日あるー。


「ーーーー…そっかー…」

彩月に変身している海月は何かを悟ったように呟くー。


母親が、会社から駆け付けた父親がー

そして友達が、次々と駆け付けて彩月の姿をした海月を心配するー


「ーーーーーー」

”そういう感情”のない海月からしてみれば、驚きだったー。


そしてー

自分も人間になったからだろうかー。

”人間たちが彩月のことをとても心配している”ということを知りー、

嬉しい気持ちとー


ーー”申し訳ない気持ち”が、湧き上がってきたー


「ーーーーーー………」

彩月に変身した海月は、医師が困惑する中、苦しそうに息をして、

ぽたぽたと水を垂らすと、

再び病室に入ってきた母親に向かって叫んだー


「ーわたしは……彩月じゃないー…」

とー。


「ーーえ…?」

母親が表情を歪めるー


「ーーー…はぁ… はぁ… 早くー……

 本物の彩月を……助けてあげてー…」


苦しそうに呟く彩月の姿をした海月ー


昨日とは違い、”異様な量”の水が身体中から吹き出ているー。


そうー

海月の寿命は短いー

既に、彩月に変身した昨日も、海月の寿命は尽き欠けていたー。


彩月に変身しても、

彩月の身体を奪ったわけではないー

だから、その寿命は、変わらないー。


彩月のことをこんなに心配している人間たちと

接してー

そして、自分の最後を悟り、海月は彩月に成り代わることを諦めてー

本当のことを口にしたー。


当然、母親は信じないー。


だが、彩月に変身した海月は、泣きながら

「案内するからー……早くー本当の彩月を助けて……」と、

必死に叫んだー。


医師も、母親も、父親もー

困惑しながらも、そんな様子にーー

ようやく彩月の姿をした海月の言葉を信じー、

昨日、彩月が流された海辺へと向かったー。


海のスタッフに事情を説明し、

スタッフも困惑しながら、ボートを出して確認に向かってくれることに

なったー


「ーーーー…はぁ… はぁ…」

苦しそうにしている彩月に変身した海月ー


母親と父親が心配そうにそんな姿を見つめるー


両親からすれば、

”本当に娘が弱っている”ように見えてしまうー。


だがー…

彩月が流されたその場所にたどり着くとー

本物の彩月の姿がすぐに目に入ったー


泣きながら蹲っていた彩月に駆け寄ると、

両親は「彩月!」と、声を上げるー。


取り残されて絶望していた彩月は

目に涙を浮かべながら

「お母さん…!お父さん!」と、

二人に駆け寄りー

そのまま抱き着いたー



「ーーーーはぁ……はぁ……」

ボートから降りたすぐの場所で、苦しそうにその様子を

見つめていた彩月の姿をした海月はー

”本物の彩月”が無事に救助されたのを見て、

少しだけ笑みを浮かべたー


「ーーーーー…ーーー

 本当はーーーー…もっと、人間としてー

 色々やってみたかったなぁ…」


そんなことを呟くー


けれどー


「ーほんの少しでもー

 たった1日でもー


 人間になれて、よかったーーー…」


彩月の両親は

ボート側に背を向けて、本物の彩月の無事を喜んでいるー


そんな両親と会話をしていた本物の彩月が、

ふと、ボートの側にいる

”彩月に変身した海月”のほうを見つめたー


だがーー


そこにはもう、”彩月に変身した海月”の姿はなかったー。


「ーーーじゃあ、浜辺に戻ろう」

父親が、そう言いながら、

彩月をボートの方に案内するー。


母親と、救助隊の男と、父親がボートに乗り込むー。


最後にボートに乗り込もうとした彩月は、

ふと、その近くの砂の上に転がっていた

干からびた海月の姿を見つけたー


「ーーあれ…?海月がこんなところにー」

彩月がそう呟くと、

彩月の両親は、何かを悟ったように、

そんな海月のほうを見つめるー。


”あの彩月は何だったのだろうー…?”

両親はそんな風に思いながらも、

”きっと、取り残された彩月を助けてくれたんだ”と

心の中で解釈してー、

それ以上は何も語らなかったー


ボートが、その場から走り去っていくー。



「ーーーーー」

今、まさに生涯を終えようとしていた海月は、

干からびた状態で、

本物の彩月が無事、浜辺の方に戻っていくのを確認するとー

心の中で静かに呟いたー


”1日だけだったけどー…

 本当に楽しかったー

 人間になれてよかったー。


 ーー本当にありがとうー

 そして、ごめんなさいー”


人間の感情を、ほんの少しだけ理解できたー


そんな、気がする海月は、

心の中で本物の彩月への感謝の言葉と、

謝罪の言葉を口にすると、

満足そうにー

身体にあたる波を感じながらー

そのまま、海月として、一生を終えるのだったー。


たった1日だけの奇跡ー。


後悔は、ないー。


だって、最後の最後で、夢は叶ったのだからー



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


一風変わったテーマの

海月の変身モノでした~!☆


元々あまり長々と続ける予定はなかったので、

2話でサックリと…!なお話にしてみました!


最初、企画段階では、学校に行くところまで

描く案も、私の頭の中にありましたが、

そこまで描くと長くなってしまうのと、

本物の彩月ちゃんが死んでしまうので、

1日だけの奇跡…!ということになりました~笑


お読み下さりありがとうございました!


夏の間に海に遊びに行く方は、海月に刺されないように

して下さいネ~!

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