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(くそっ…なんでこんなことにー)

女子大生の川園 紗枝(かわぞの さえ)は、

心の中でそう呟いたー。


”口を開かなければ美人”

友達からはそんな風に言われる紗枝は、

がさつな性格の持ち主で、

”前世は男だったんじゃないの?”などとも、

友達から言われているほどだー。


そんな紗枝は、今ー

”人質”にされていたー。


「ー………」

全身黒っぽい格好の男は、紗枝に対して、

無言で刃物を突き付けているー。


「ーーー(…ふざけんなよ…!なんでわたしがこんな目に…!)」

紗枝はそう思いながらも、

どうすることもできなかったー。


男勝りな性格ではあるものの、

決して運動が得意なわけでも、格闘技などを習っているわけでもないー

ごく”普通”の女子大生だー。


この男を”実力”でどうにかするのは難しいー。

下手をすれば刺されてしまうー。


紗枝自身は、周囲の女子だけではなく、男子からも

頼りにされるような”度胸”のあるタイプの女子ー。

しかし、”度胸”があるのと”無謀”なのは、また話が別だー。


大学からの帰宅時にー

突然背後から姿を現したこの男に、刃物を突き付けられて、

そのまま自分の部屋に入らされてしまった紗枝ー。


目的は分からないー。

男の顔に、見覚えもないー。


”警察だ!”

外から声が聞こえるー。


それと同時にパトカーの音が聞こえたー。


通報を受けた警察官たちが駆け付けたのだー。

紗枝の表情には、安堵の表情が漏れるー。


「ーーーっ…」

男は、可愛らしいカーテンを少しだけ開けると、

外の様子をじっと見つめたー。


「ーー来やがったかー」

男はそう呟くと、

「でも、もう”準備”はできたぜー」と、

笑みを浮かべるー。


「ーーー?」

紗枝が表情を歪めるー。


”準備”とはー?

警察が駆け付けてきてくれたー

そんな、安堵の気持ちが、一気に塗りつぶされたような、

そんな気持ちになるー。


”この男は、何かを企んでいる”


そう思った矢先ー

男は、紗枝にずっと突き付けていたナイフをペロリと舐めたー


そしてー


「え…な、、なんだこれ…!?」

紗枝が声を上げるー


ナイフを舐めた男が、みるみると”変形”していくー


「ーーな、、え…?お、、おい!?なんだよこれ!?」

普段から男言葉を使う紗枝が、そう叫ぶー。


信じられない光景が、目の前に広がっているー。

みるみると変形していく男ー

髪が伸びー

顔が変形しー

身体も変化しているー


「う、、お、、あぁあああああああああっ」

叫ぶ男の声がー

途中からまるで女のような声に変わっていくー


苦しそうにうめく男ー


「ーえ…?ちょっと!?おい!」

紗枝が”いつも通り”の乱暴な口調で叫ぶー。


苦しそうにうめいている男の姿が、

完全に”女”の姿になるー。


そしてー

女の姿になった男がー

紗枝の方を向いて、笑みを浮かべたー


「ーククククククー」

紗枝を人質にした男が、”女”になったー。


紗枝は、女になった犯人を見てー

目を見開き、驚きを隠せないー。


何故ならー

紗枝を人質にした男はー


紗枝にとってー

見覚えのある姿、

見覚えのある声ー

見覚えのある服装をしていたからだー。


そうー

目の前にいる男は、”紗枝”そのものになったのだー


「え…?な、なんでわたしが目の前にいるんだ…!?」

本物の紗枝が驚きながら言うと、

”偽物”の紗枝は笑みを浮かべたー。


「ーー俺がお前に”変身”したからだよ」

その声は、”紗枝”そのものだったー。


「ーな、何を言って…?」

本物の紗枝が戸惑うと、偽物の紗枝が、

本物の紗枝に顔を近づけて、にやりと笑ったー


紗枝と紗枝が、顔を密着させるような距離感で

向き合っているー。


「ーー言葉の通りさー。

 俺が意味もなく女子大生を人質にして、

 部屋に籠った…とでも思ったのか?」

偽物の紗枝はそう呟くと、本物の紗枝は返事もできずに震えたー。


「ーーお前に突き付けていたナイフー。

 これは、お前の身体情報を得るための道具だー。

 裏社会で手に入れたちょっとした面白い道具さー。」


そう言うと、偽物の紗枝はナイフを触りながら

クスクスと笑うー。


「ちょっとばかり相手の身体情報を得るのに

 時間がかかるのでな…

 それで、お前にナイフをしばらく突きつけていたのさー。」


男が紗枝に突き付けていたナイフは”特殊な代物”で、

人間と接触させることで、その身体情報をコピーし、

十分にコピーを終えたあとに、それを舐めることで、

その相手に”変身”することができるー…と、いうものだったー。


男は、最初から”ソレ”を狙っていたのだー。


「ーーわ、、わたしの姿に変身して、、

 なんのつもりだよ!?」

紗枝が叫ぶー。


「ー俺は、女になりたかったんだー。

 クククー

 綺麗な、女に、なー」

偽物の紗枝は、そう言いながら笑うと、

本物の紗枝は、険しい表情で、

「ふざけんな!どうしてわたしなんだよ!」と、叫ぶー。


そうこうしているうちに、

警察官たちが、紗枝の部屋への突入を試みていたー。


”あえて”

玄関の扉を開けたままにしている偽物の紗枝は

笑みを浮かべるー。


「”理由”はふたつー」

とー。


「ひとつは、お前が美人なことー」


「そして、もうひとつはー」


バン!


偽物の紗枝が二つ目の理由を話そうとしたその瞬間ー

紗枝の部屋に警察官が数名、入り込んできたー。


外から

”紗枝がナイフを突きつけられておらず、犯人らしき人物が

銃を持っていない”ことを確認したうえで、

警察官が突入してきたのだー。


「ーーひっ…!」

偽物の紗枝が、驚いて両手を挙げるー。


「ーーーはぁ~…これでやっと助かるー」

一方、本物の紗枝は、いつも通り、男っぽい言動で呟きー、

偽物の紗枝の方を見て笑ったー。


「ーー警察から、逃げられると思うなよ」

とー。


そして、本物の紗枝は、警察官たちの方を見て

「ありがとうございます」と、頭を下げるー。


男勝りで乱暴な性格ー、とは言え、

大学生の紗枝は、ちゃんと礼儀は身に着けているー。


「ーー…な、なんだこれはー?」

だがー

警察官の反応は、本物の紗枝が予想している反応とは

異なっていたー。


突入した部屋の中に、

まったく同じ服装の紗枝が”二人”いるー。


「ーーあ、これは…こいつがそのナイフで、

 急にわたしの姿に変身してー」


本物の紗枝が警察官に説明するー。


「ーーほら、早く説明しろよ!」

本物の紗枝が、偽物の紗枝に向かって言うー。


だがー

偽物の紗枝は、警察官が突入してから、

ずっと泣きじゃくっているー。


本物の紗枝は

「泣くぐらいなら、最初からこういうことするんじゃねぇよ!」

と、乱暴な口調で叫んでからー、

警察官の方を見て「ーこの人、急にわたしの姿に変身して、

わたしに成りすまそうとしたんです」と、説明したー。


見知らぬ男から、急に刃物を突き付けられた挙句、

自分の姿に変身されてもなお、

ある程度冷静に振る舞うことができる”度胸”を持っている紗枝ー。


しかしー

その”度胸”と、紗枝の元々の性格がー

今の状況では、マイナスにしか働かなかったー


「ーこれを調べろ」

警察官の一人が、手袋をはめた手で、ナイフを別の警官に渡すー。


そしてー

”本物の紗枝”に向かって声を掛けたー。


「ーーちょっと、署で確認したいことがありますー。

 ご同行願えますか?」


とー。


「ーあ、はい」

本物の紗枝は”自分が被害者”の立場で事情などを

聞かれると思って、そう返事をしたー。


だがー

泣きじゃくる”偽物の紗枝”の方に、女性の刑事が駆け寄りー

”もう大丈夫だからね”と声を掛けているのを見て、

本物の紗枝は声を上げたー。


「ーえ?ちょっと!もしかしてわたしが疑われてません?」

とー。


「ーー冗談じゃない!そいつが!そいつが犯人だから!」

本物の紗枝が声を上げたー


偽物の紗枝は怯えたような仕草をしているー


「ーおい!お前!いい加減にしろよ!」

本物の紗枝が怒りの形相で、偽物の紗枝に向かっていこうとするー


だがー

「おい!やめろ!いい加減にするのはお前のほうだ!」

と、男性警察官が、本物の紗枝の腕を力強くつかんだー


「いってぇな!」

本物の紗枝が声を荒げるー。

紗枝は元々、すぐに怒るタイプでもあるー


余計にそれが”疑いの目”を自分に向ける結果になってしまうー。


「ーーーー」

ニヤァ…

”泣くフリ”をしていた偽物の紗枝が、

本物の紗枝の方を見てにやりと笑ったー


「ほら!今、そいつ笑った!」

本物の紗枝が言うー。


だが、偽物の紗枝は、すぐに弱弱しい表情を浮かべて、

か弱そうな振る舞いを始めるー。


「女子大生を人質に取っていた男を確保ー

 だが、男は、何らかの方法で、人質になっていた女子大生と

 同じ姿に変身…あるいは変装した模様。

 今から署で取り調べを行うー」


警察官が無線で会話をすると、

「行くぞ!」と、本物の紗枝の腕をつかむー。


カッとなった本物の紗枝は「違うって言ってるだろ!」と

大声で叫んだがー

抵抗したことで、逆にさらに疑いを招いてしまい、

そのまま署に連行されてしまったー


「ーー(ククク…バカな女だー)」

偽物の紗枝ー

紗枝を襲った男は、心の中でそう思いながら

女性警察官に向かって

「大学から帰ってきたら…急に…」と、目から涙をこぼしながら

”被害者”を装って説明を始めたー。


紗枝を選んだ二つ目の理由ー

それはー


”お前が普段から乱暴な女だったからだー”


男は、心の中でそう囁いたー。

”普段からがさつで、男っぽくて、乱暴な性格の美人”は、

”こうする”のに、ちょうどよかったー。


犯人の思惑通りー

警察は”本物の紗枝”を偽物と断定し、

そのまま連行したー。


「(今日から…俺が”紗枝”になってやるぜー)」

偽物の紗枝は、凶悪な笑みを、誰にも気づかれないように浮かべたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーそれでー?」

鋭い目つきをした警察官・堤 源五郎(つつみ げんごろう)が

本物の紗枝の方を睨むー。


「ーーだから、わたしじゃないって言ってんだろ!?

 偽物はあいつだよ!」

大声で叫ぶ本物の紗枝ー。


勝手に犯人扱いされて怒り心頭の紗枝の言葉に

源五郎はため息をついたー。


「そういう態度は、逆に疑いを膨らませるだけだぞ?

 自分が本物だというなら、まず、冷静になろうや」


源五郎の言葉に、

本物の紗枝は髪をかきむしりながら

「わたしは、、わたしはこういう性格なんだよ!」と

戸惑った表情で呟くー。


紗枝の普段の性格ー

それが、仇となったー。


警察が突入したときー

部屋にいたのは

”妙に堂々としていて、言葉遣いの悪い紗枝”と

”パニックと恐怖から泣きじゃくっていて、会話がままならない紗枝”

だったー。


度胸がある故に、”動揺した様子も一切見せずに、淡々と警察官に

事情を説明した紗枝”は、

”どっちかが偽物”という状況において、

”いかにも怪しい紗枝”でしかなかったのだー。


「ー本物は、わたしなんだけど!」

本物の紗枝が叫ぶと、

源五郎は表情を歪めるー。


既に、本物の紗枝を取り調べる警察官は源五郎で三人目だー。

先ほどまでの二人は、紗枝を犯人と決めつけて、

まったく聞く耳を持たなかったー


「ーーまぁ確かに、お前が女子大生に変身した犯人ならー

 そんないかにも怪しい態度をとるってのも

 不思議っちゃ、不思議ではあるなー」


源五郎の言葉に、本物の紗枝は、

「ーそう!そうだよ!本物はわたし!」と叫ぶー。


「ーーーーだがー残念だったなー」

源五郎が、取調室の外を指さすとー

そこにはー

紗枝の妹の姿があったー。


妹は”お姉ちゃんは、あんな言葉遣いしません”と

警察官たちに伝えているー。


「ーち、、ちがっ!」

本物の紗枝は慌てた様子で叫ぶー


源五郎は「妹さんが、お前はお姉ちゃんじゃない、と、そう言ってるんだ」

と、鋭い目つきで本物の紗枝を睨むー


「ーまだ何か言いたいことはあるか?」

源五郎の言葉に、本物の紗枝は、焦った様子で

何か、言葉を吐きだそうとするー。


「ーあ?」

だが、鋭い目つきで、数多くの犯罪者を相手にしてきたであろう

源五郎の威圧感に、本物の紗枝は戸惑い、

言葉を濁してしまったー。


「ーーと、、と、、とにかく、本物は、、本物はわたしだから!

 血液とか、指紋とか、DNAとか、なんでもいいから調べてくれってば!」


紗枝が言うと、

源五郎は「まぁ、いいだろう」と、頷くー。


だがーー

血液も、指紋も、DNAもー

すべて”どっちの紗枝”も一致してしまいー、

自分が本物だと証明する手段には、ならなかったー。


本物の紗枝はー

”偽物扱い”されて、

留置所に置かれることになってしまったのだったー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


偽物扱いされてしまった本物の運命は…!?

続きはまた次回デス~!

今日もありがとうございました~!

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