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「-ーーここ、美味しいんですよぉ」

OLがラーメン屋を指さすー。


寂れた路地の一角に存在しているラーメン店・麺魔界(めんまかい)ー。


「--まさか、久美ちゃんに誘われるとは思わなかったなぁ~」

久美と呼ばれたOLの上司である部長が、

ニヤニヤしながら、麺魔界の看板を見つめるー。


「--ふふふ、部長と一度お食事したいと思ってましたし、

 ここ、本当に美味しいので!」

久美は、若くて綺麗なOL-。

部長は、久美に何度も何度もアプローチを仕掛けていたが、

無視されていた挙句、セクハラで問題にもなっていたー。


だが、今日、突然その久美に、ラーメン屋に誘われたのだった。


「-----」

店に入ると、店主が、不愛想な感じで、部長と久美を見つめるー


正直、店主の愛想は悪い。

いかにも、隠れた名店、と言う感じだろうか。


「-----」

メニューを見つめる部長。


メニューは”ラーメン”ひとつだった。

他には何もないー。


「--お店の人が、その日その日のおすすめラーメンを作ってくれるんですよ!」

久美が小声で部長に伝えるー。


「-そ、そうなのか」

ラーメンをお願いします、と部長が言うと、店主は返事もせずに

ラーメンを作り出すー


お店は正直、小汚いし

店主の愛想も悪いー。

他に客もいないし、

本当に美味しいのだろうか。


そんな風に思いながら、

部長はラーメンの完成を見るー。


久美もラーメンも一つ注文したー。


「----」

部長は、久美を横目で見つめるー。


”もしやー”

セクハラ上司に対する復讐なのではないか。

部長はそんな風に思ったー。

久美には、今まで何度も食事に誘ったりしているが

その都度断られてきたー


それが、今日になって急にー

一体、何故だろうか。


「---お待たせしました」

店主の男が、ラーメンを目の前に置くー。


今日は、もやしの多いラーメンのようだー。

「--いただきます」

部長はそう呟くと、ラーメンを食べ始めるー。


「---……」

部長は表情を歪めたー。


正直、そこまで美味しくないー

これなら、同期といつも飲みに行く

居酒屋の締めのラーメンのほうがおいしい。


「----」

部長は久美の方をチラリとみるー


久美が、とても美味しそうにラーメンを

食べているー


可愛い女性とは思えないぐらいに

ガツガツとー。


「--!」

部長がある異変に気付いたー。


麺の中に、普通の麺より少し太い、麺がーー


「---!!!!!」

部長は驚くー


自分が口に運んでいた麺の中にー

麺より少し太い、ニョロニョロとした

グロテスクな虫のようなものがーーー


「--むぐっ!?」

ラーメンと一緒に、その虫のようなものが

部長の口に入り込むー。


「が、、うっ!?え、、」

部長は咄嗟に吐きだそうとしたが、

吐き出すことはできず、虫のようなものを

飲み込んでしまうー


「う、、、うえ、、気持ちわりぃ…

 お、、おい…!虫が入ってたぞ!」

部長が、店主に向かって声をあげるー


だがー


「---え」

部長は恐怖を感じたー


店主が口を開きー、

今、部長の中に入り込んでいった

ニョロニョロした虫のようなものがー

店主の口から、顔を見せているー。


グロテスクな、寄生虫のような、虫ー


「---ククク」


ー!?


部長が戸惑っていると、となりにいたOLの久美が笑ったー


「え…久美ちゃん…?」

部長が首を傾げると、

久美のーー

久美の耳から、店主と同じ寄生虫のようなものがーーー


「-え‥!?ひっ!?」

部長が尻餅をついてしまうー


「--ご苦労…」

店主が、ごぼごぼ言いながら呟くー。


久美が微笑むー。


「--我々はどんどん”仲間”を増やしー

 人間社会を乗っ取るのだ」


確かに久美の声ー

だがー

久美の目は虚ろでー

久美の耳から飛び出した寄生虫が生き生きと動いているー


「---…な、、何を言ってー

 …ぐぁっ!?!?!?!?」


部長が突然激しい頭痛を感じるー


”身体の中に入り込んだ虫”が、

部長の全てを奪っていく感覚を覚えるー


「ひっ…あ、、、え、、、やめ、、やめろぉぉぉぉぉぉ!」

悲鳴を上げてもがく部長ー


やがてー

部長は大人しくなると、

静かにイスに座って、

ラーメンを食べ始めたー


「---ふふ…美味しいよね」

久美が呟くー


「”我々”にとってはー」

久美の耳から寄生虫が再び顔を出し、

久美は頭を横に傾けて、寄生虫が、ラーメンを直接

おいしそうに食べ始めたー。


久美の目は虚ろなままー

店主も、ラーメンを口から食べてー

体内にいる寄生虫が嬉しそうにラーメンを食べるー。


「----あぁ…最高だ」

部長は虚ろな目でそう呟いたー


”人間を乗っ取る謎の寄生虫”の

侵略は、既に始まっていたー


・・・・・・・・・・・・・・・


男子大学生・森原 治(もりはら おさむ)が

昼休みに食堂でラーメンを食べていたー。


そこに、彼女の辻野 紗愛(つじの さら)がやって来るー。


「あ、治!今日もラーメン?」

紗愛が笑いながら、治の前に座ると、

「--俺にとって、ラーメンは人生だからな」と笑うー。


「ふふ、またそんなこと言って…

 野菜もちゃんと食べなきゃだめだよ~?」

紗愛が言うと、

治は「分かってるって!」と笑みを浮かべたー


紗愛はとても優しく、控えめな性格だが、

付き合い始めてからは、時々お姉さんのような

そんな面も見えてくるようになったー。


「あ、そういえば」

紗愛がスマホを手にして、ラーメンを食べている最中の治に

何かを見せるー


「このラーメン屋、美味しいみたいだよ?

 今度一緒に行ってみない?」


紗愛が見せて来たスマホの画面には

”麺魔界”という名前のラーメン屋が表示されている


「麺魔界?知らないなぁ。個人経営のお店かな?」

治が言うと、

紗愛は「ここにしかないみたいだから、そうみたいだね~」と笑う。


「--なんか、すっごく美味しいんだって。


 でも、わたしはホラ、こういうお店に一人で行くのも

 ちょーっと、緊張しちゃうから…」


と、紗愛が言うと、

治は「はは、いいよいいよ。今度都合が合う時に行こう」と、

紗愛と約束するー


紗愛は「うん!楽しみにしてる」と呟くと、

そのまま「あ、教授に呼ばれてるから、わたし、先に行くね」と

微笑みかけて、そのまま立ち去って行ったー


「麺魔界かぁ~ あいつに聞いてみるか」

治はそんな風に一人、呟いたー


・・・・・・・・・・・・・・・


「麺魔界?」

ラーメン好きの友達で、ラーメン博士と勝手に治が

呼んでいる男子大学生・熊田 武五郎(くまだ たけごろう)に

麺魔界の話をしてみると、武五郎は首を傾げたー


「あそこクソまずいって、評判だったし

 マジで不味かったぜ

 とっくに潰れたかと思ってたけど」

と、バカにしたように笑ったー


「は?マジ?紗愛が美味しいって評判だって言ってたけど」

治が首を傾げながら言うと、

武五郎は、「ないない」と手を振ったー。


「-俺たちが入学したころー

 そうだなぁ、ちょうど2年前ぐらいにオープンした

 個人経営の店なんだけどさ、

 俺も入学直後に行ったんだよ。


 そしたらさぁ、クッソ不味くて、

 これなら、スーパーの袋のやつ食ってたほうがうまいや

 って感じだったと思うけどなぁ


 俺と一緒に行ったやつらもそう言ってたし」


武五郎の言葉に、

治は「--それからは行ってないのか?」と尋ねるー


「まぁな。あんなクソまずいところ行くぐらいなら

 他のところ行くぜ」


武五郎は笑いながらー

「まぁ~2年前だから、紗愛ちゃんが美味しいって評判だ!って

 言ってたなら、今は味も違うのかもなぁ」

と、呟くー。


「--ま、今度、紗愛と行ってみるよ。ありがとな」

治が言うと、武五郎は「へへへ、ラーメン屋でデートなんて

羨ましいなぁ」と笑みを浮かべたー。


「--お前だって彼女、いるだろ?」


「--まぁな。天然すぎてビビるけど」

武五郎の言葉に、

治は「天然だって可愛いじゃないか」と揶揄いながら

そのまま立ち去って行ったー。


武五郎は、「--っかし、麺魔界がまだあったなんてなぁ」と

呟くー。


麺魔界は本当にまずかったー。

店主もやる気を感じられなかったし、

2年経過した今も、お店が残っているなんてー。


「--立地も悪いし、店主は愛想悪いしーー

 マジで行く価値ねぇからな」


一人、そう呟くと、武五郎は

少しだけ考えたあとに、

「ま…行ってみるか」と呟き、

スマホを手にしたー


”わりぃ!今日、ラーメン食ってくから、一緒に帰れない”

と、彼女にLINEを送った武五郎は、

”ラーメン博士の血が騒ぐぜ”と、大学が終わったら

麺魔界に向かう決意をしたー


・・・・・・・・・・・・・


数日後ー


「武五郎の様子がおかしい?」

治は、表情を歪めたー


武五郎の彼女・野本 優季(のもと ゆき)に呼び出された治ー。

優季から、「武五郎の様子が数日前からおかしい」と相談されたのだ。


「--おかしいってどんな感じに?」

治が聞き返すと、優季は

大袈裟なジェスチャーを繰り返しながら

「なんかこう、、ぶわーっ どっかーん!みたいな感じ!」と

意味不明な表現をしたー。


「-……野本さん…それじゃ分からないよ」

治が苦笑いしながら言うと、

「え、、え、っと、、えーっとね」と、優季が頭の中で

言葉を整理して、口にしたー


「--武五郎くん、なんか最近毎日ラーメン屋に通ってて」


「--ラーメン屋?いつものことじゃないか。

 だからラーメン博士なんて呼ばれるんだし」


「違うの」

優季が、謎のジェスチャーを交えながら言うー。


”相変わらず大袈裟な身振り手振りだなぁ”などと思いながら

優季の言葉の続きを聞くー


「--麺魔界ってお店に毎日通ってて、

 なんか、わたしに麺魔界に行こう、行こう、ばっか

 言ってくるようになっちゃってー


 なんか、頭の中ラーメンになっちゃってる感じ」


優季の言葉に、

治は笑ったー


「頭の中ラーメンなのは、いつもだぜ、あいつは」

とー。


けれどー

少しだけ気になるー


”クソまずいとか言ってたよな、あいつ…”


恐らくー

あの会話をした日に、あいつのことだから

麺魔界がおいしくなったのかどうか、

確認しに食べに行ったのだろうー。


それで、麺魔界にはまったということかー?


「--ま、わかった。俺もあいつに聞いてみるよ」

治がそう言うと、優季は安心した様子で頷いたー


・・・・・・・・・・


その日のうちに、治は武五郎と話をしたー


武五郎はー

”麺魔界”のことをまるで神のように褒めたー


そしてー


「お前も行こうぜ!一緒に!」

と、治を誘うー。


治は「いや、ほら、俺、紗愛から誘われてるし」と

苦笑いすると、

武五郎は一瞬ぽかん、と口を開いたまま宙を見つめて

それから「あぁ、そうだったな」と笑みを浮かべたー


一見普通だがー

なんだか変な気がするー


そう思った治は、大学帰りに、武五郎を尾行したー。


武五郎は、彼女の優季と合流すると

麺魔界の方に向かっていくー


優季が「-わたし、ラーメンとかあんまり好きじゃないなぁ」と

呟いているが、武五郎が強引に麺魔界に連れて行っているようだー。


「----」

治がその様子を見つめるー


麺魔界に入っていくふたりー。


とても、繁盛している様子ではないし、

建物も汚いー


”紗愛と来るにはあんまり向いてないかなぁ”

と思いながら店内の様子を見つめているとー


優季がビクンビクンと震えているのが見えたー


そしてーー


「--え」

治は目を疑ったー


優季の口に、麺よりちょっと太い、虫のようなものがーー

飛び込んでいったー


優季が、激しく苦しみだすー。


武五郎はそれを笑いながら見つめているー


やがてー

優季が起き上がると、

武五郎と優季の口それぞれから、寄生虫のようなものが飛び出しー

二人は満面の笑みでーー

寄生虫同士がキスをしたー


「--!?!??!?!」


えっ…


治は、そう思いながら、

優季と武五郎の”異様な光景”を、目にしー

唖然としていたー



②へ続く


・・・・・・・・・・


コメント


謎のラーメン屋から拡散していく謎の寄生虫…

続きはまた次回デス~!

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