<憑依>スライム家族④~家族会議~(完) (Pixiv Fanbox)
Content
母の和子もー
妹の亜希奈もー
父の治夫もーー
みんな、みんな…
「---お兄ちゃん…」
帰宅した兄・隼吾に縋りつく結花ー
「-お、落ち着け」
隼吾が言う。
状況を理解できないー。
泣きじゃくる結花。
ただ事ではないー。
「---あ、お兄ちゃんおかえり~!」
妹の亜希奈がやって来るー。
首筋には”痣”
スライムに乗っ取られて、身体を操られ続けている人間に生じる
”拒否反応”
父と、母と、妹には、
その痣があるー
だが、兄・隼吾には”痣”がなかったー
それはつまり、隼吾だけは、
自分と同じように、まだ、スライムに支配
されていないということ。
「ただいま」
隼吾が亜希奈に挨拶を返す。
「---…」
結花は、隼吾に抱き着いたまま泣きついているー
「あれぇ~?お姉ちゃん~??
なんで泣いてるのぉ~?」
亜希奈が言うー
その口調は、まるで、面白がっているかのような口調ー
「---……」
結花は、亜希奈の方を悲しそうに見つめるー
亜希奈は”紫”のスライムに乗っ取られているー
兄・隼吾は、そのことを知らないー。
「ーーー」
結花は、”ここで話をするのはまずい”と考えるー。
スライムに乗っ取られている亜希奈の目の前で
兄・隼吾に、家族が乗っ取られていることを
伝えれば、この場で襲われる可能性もあるし、
まだ正気の隼吾まで、狙われることに
なってしまうかもしれない。
「--結花、話はあとで聞くよ」
隼吾が、空気を読んでくれたのか、そう言うと、
そのまま手を洗いに洗面台に向かったー
今一度首筋を確認する結花ー。
隼吾の首筋には”痣”はない。
スライムに乗っ取られては、いないー
「---くくくくく」
亜希奈が近づいてくるー
「仲良くしようや。おねえちゃん」
亜希奈が脅すような口調で、
口から紫の液体をこぼしながら笑う。
「---あんたなんて…
あんたなんて妹じゃない!」
結花がそう言うと、
亜希奈は下品な笑みを浮かべたー
「お姉さまに罵られるのって、
ゾクゾクするぅぅ…ひひひひ」
亜希奈の言葉に、結花は、
怒りを感じながらも、
亜希奈が喋ってるんじゃないー
悪いのは、亜希奈を乗っ取っているスライムだと、
自分に言い聞かせて、挑発に乗らずに
部屋へと向かうー
「--すまんな」
父の治夫と、2階ですれ違う。
治夫に憑依した青いスライムは、平和主義だ。
他の”家族”たちに言われて
嫌々復讐に参加しているー
”赤いスライム”を踏みつぶした結花への復讐にー
「----お父さんを、返して」
結花が言うと、
治夫は「それはできないな」と苦笑いする。
「--亜希奈に入ってるスライムが言ってたの。
身体が拒否反応を起こして、このままじゃ
死んでしまうって…
お願い…返して」
結花の言葉に、治夫は頭を掻きむしるー
「たしかに…それは…まぁ…な。
この身体も拒否反応を起こしてる。
だからー…
あぁ、いや、でも、ダメだ。
他のみんなとの約束だからな」
治夫は、そう呟くと、
そのまま立ち去って行ったー
治夫に憑依している青いスライムは
どちらかというと”話が通じるほう”だとは
思うのだが、やはり、解放してくれる様子はないー
部屋に戻った結花は、
兄・隼吾が来てくれるのを待つー。
家族の写真を見つめる結花ー
両親と亜希奈ー
満面の笑みで、写真に写っているー
この笑顔を、もう一度取り戻すことは、
できないのだろうかー。
「--お待たせ」
部屋に隼吾が入ってきた。
「--お兄ちゃん…」
結花は、安心感からか、泣きそうになりながら
隼吾の方を見つめるー。
そして、口を開いたー。
スライムの件を、全て話すー。
先日、赤いスライムのようなものが
家の中に入ってきていたから、
それを潰したことー
その仲間が、その翌日に
家に入ってきて
妹の亜希奈が紫のスライムに、
母の和子が緑のスライムに、
父の治夫が青のスライムに、それぞれ
乗っ取られてしまったこと
そして、このスライムたちは、
亜希奈に憑依した紫のスライムの発言から
”家族”であり、結花が何も知らずに潰してしまった
赤いスライムの家族ー
つまり、復讐のために、結花の家族に憑依しているのだとー
「----」
隼吾は、冷静にその話を聞いていた。
パニックになることはなく、静かに頷く。
「-----…そっか」
だが、驚いてはいる様子だったー
隼吾はなかなか次の言葉が浮かばない、という様子だ。
「--…まぁ…赤いスライムが家族だったならー
そのスライムたちの怒りもごもっともなのかもな…」
隼吾は考えながら言うー
「でも!わたしは、何も知らなかったの!
そんなの逆恨みよ!」
結花は”何も知らなかった”
虫だと思ったし、訳の分からないものは、つぶしておこう、と
そう思ったー
それが、こんなことになるなんてー
「---まぁ、、、な」
隼吾が、結花を見るー
そして、口を開く。
「ところで、なんで俺と結花だけが無事なんだ?」
隼吾が言う。
それは、結花も思っていたことだ。
なんで”隼吾だけ無事なのか”と。
「---結花も、そのスライムに…ってことはないよな?」
隼吾の言葉に
結花は首を振る。
「--スライムに乗っ取られて、数日すると、
身体が拒否反応を起こして、痣ができるんだって」
結花が紫のスライムから聞いたことをそのまま説明した。
結花と隼吾には、それがない。
「---なるほど」
隼吾は、それでも不安そうだったー。
”なぜ、結花だけが”
隼吾はそう思っているに違いない。
結花だって、”なぜ、隼吾だけが”と、
そう思っているー
でもー
理由は分からないけど”二人は無事”なのだー。
隼吾は色々考え込むー
長い沈黙ー
そして、
隼吾は顔を上げた。
「--思いついた」
隼吾の言葉に結花が顔を上げるー
「家族を取り戻す方法ー。」
隼吾はそれだけ言うと
「明日、家族会議をしよう。
父さんと母さんと、亜希奈を集めて-」
と、付け加える。
「それで、どうするの?」
結花の言葉に、隼吾は「決まってる!」と決意の表情で答えた。
「家族をー
取り戻すんだ!」
とー。
・・・・・・・・・・・
翌日ー
「-ーーーみんな、聞いてくれ」
兄・隼吾が、家族をリビングに集めて
テーブルを囲むようにして座らせたー
父・治夫
母・和子
妹・亜希奈ー
そして、兄・隼吾が
揃う中、結花は緊張した面持ちで着席した。
「---父さん、母さん、亜希奈」
隼吾はそこまで言うと、
深呼吸して、口を開いたー
「-----いいや、、スライム」
隼吾の言葉に、
母・和子が、にやぁ…と笑う。
「--あらぁぁ~~~」
和子から緑色のスライムが飛び出すー
そして、緑色のスライムが、震える結花の方に
向かって、近づいてくるー
「あんた、隼吾にチクったのをぉぉぉ???」
和子がうつろな目で、飛び出したスライムと
同じ言葉を口走っているー
「--ーー大丈夫」
隼吾は、怯える結花を守るようにして、立ちはだかる。
そして、3人を見て、口を開いた。
「俺は、直接話をしたい。
中にいる、お前たちと」
そう言うと、
亜希奈と治夫も笑みを浮かべて、紫のスライムと青いスライムが飛び出すー
父・母・妹の三人が
耳からスライムのような物体が飛び出た状態で、
虚ろな目で虚空を見つめているー
「---…」
隼吾は、三人を見つめながらも、
臆することなく、口を開く。
「俺は、家族を取り戻したいー…」
とー。
結花は、隼吾の背後に隠れるようにしながら、
状況を見守るー
「-ーー平和な家族団らんを取り戻したい。
もうー終わりにしよう。
復讐はー」
スライムたちに語り掛ける隼吾ー。
隼吾流の説得だろうか。
父・母・妹を乗っ取ったスライムたちは
頷くー
そして、父・治夫を乗っ取っているスライムが口を開くー
「そうだね…」と。
母・和子を乗っ取っているスライムも口を開く。
「あなたが言うなら」
とー。
妹・亜希奈を乗っ取っているスライムは、結花の方を見て笑ったー
「---”お父さん”がそう言うならー」
とー。
「-----」
結花は、亜希奈が何を言っているのか、一瞬、分からなかった。
「-----」
隼吾の方を見る結花。
”お父さんが、そう言うならー?”
「----”復讐”は終わりだー
家族の幸せな日々をー
家族を、取り戻すー」
隼吾が振り返ったー
「--!?」
結花が表情を歪めるー
「え…お兄ちゃん?」
「--赤いスライムー娘を殺された復讐は、もう終わりだ。
もう、俺たちは復讐に飽きたー
あとは、お前たちの身体を奪って、
”幸せな家族生活”を取り戻させてもらうよー」
兄・隼吾が言う。
何を言っているのか、分からないー
「--お、、お兄ちゃん!?どうしたの!?!?」
結花が叫ぶー
隼吾も、乗っ取られてー????
「--お兄ちゃん、ねぇ」
隼吾が笑うー
そしてーー
隼吾の形が変形していきーー
ヒト型の”黒いスライム”に変形したーー
「ひっっ!?!?!?」
父・母・妹とは違うー
隼吾自体が、黒いスライムにー!?!?
「人間の姿に変身していた俺を、
お兄ちゃんだなんて、笑わせてくれるー
俺は、こいつらの父親だー」
青いスライム、緑のスライム、紫のスライムを指さす
黒いスライムー
「--お前、よく考えてみろ」
黒いスライムが笑うー
「--お前に”お兄ちゃん”なんて、 い た か?」
「---!?!?!?!?!?!?」
結花が表情を歪めるー
スライムが現れる前の生活を思い出すー
妹の亜希奈は、今日は部活で遅くなると言っていたー。
父親の治夫(はるお)は、仕事で帰りが遅いー。
母親の和子(かずこ)は、
”買い物に行ってくるね”と書かれたメモが机に
置かれていることから、買い物中なのだろうー
-----!
自分の部屋の写真を思い出すー
家族の写真を見つめる結花ー
両親と亜希奈ー
満面の笑みで、写真に写っているー
「わたしに…お兄ちゃんなんて…いない…?」
結花が唖然とする。
”お兄ちゃん”がいた風景が、浮かばないー。
「そうだ!くくくくく、馬鹿なお前を見てるのは
楽しかったよ!
存在すらしないお兄ちゃんに、縋るお前の姿はぁ!
お前の”記憶”をちょっといじるだけで、
お前は存在しないお兄ちゃんを、存在するものと
思ってたんだからなぁ…」
黒いスライムが叫ぶー
亜希奈・治夫・和子が笑っているー
結花は、亜希奈が乗っ取られる前日の夜中の出来事を思い出すー
「-zzzzz」
結花は穏やかな寝息を立てて眠っている。
びちゃ。
ずぼっ。
ぐちゅ。
「--!?!?!?」
結花は”違和感”を感じて起き上がったー
だがーーー
何も、なかったー。
なんだか、触られたような、
ヌルヌルしたような感触を感じた。
周囲を見渡す結花。
時間はまだ深夜だ。
「--夢でも見たのかな」
結花はそう呟くと、特に気にすることなく、
そのまま眠りについたー。
あの時にーーー
「そう!その時だ!俺が、お前の脳をチクっと刺激して、
存在しないお兄ちゃんの記憶を植え付けたんだ」
笑う黒いスライムー
兄・隼吾なんて人間は、存在しないー
黒いスライムが、人の姿に適当に変身して、兄を名乗っていただけ。
結花に、兄なんて、最初からいないのだー。
隼吾には、痣がなかったのはー
”人間の身体を乗っ取っている”のではなく
黒いスライムが”変身”していたためー。
「--さぁ、俺がお前の身体を頂いて、復讐は終わりだ。
あとは、”家族の日常”を取り戻させてもらうよー
娘が死んでしまったのは残念だったが、
ちゃんと復讐は果たしたー
お前の身体で、家族4人、仲良く生きていくさ」
黒いスライムが、逃げようとする結花の耳に向かって
腕のようなものを伸ばすー
「あぁぁあああっ…た、、、たすけ…」
結花が叫ぶー
ズブズブと、黒いスライムが入り込んでくるー
「あひぃ」
目がぐるんと白目になり、
目から涙をこぼしながら、その場でガクガクと震えるー
「---あ、、、あぁあああああ…あ」
激しい痛みとーー
今まで感じたことのない不気味な感触ー
やがて、ゾクゾクとした快感にそれは変わりーーー
ぶちッ!!!!
と、激しい衝撃を感じてー
結花の意識は途切れたーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
革ジャン姿の結花が、偉そうに新聞を読んでいる。
「--いってきま~す!」
紫のスライムが、耳から飛び出している亜希奈が、
笑いながら玄関の方に向かう。
「しっかし、父さんがその子なんて、趣味悪いよなぁ」
父・治夫が青いスライムを飛び出させながら笑う。
「--ふふふ、あなたも好きねぇ」
母・和子が緑のスライムを飛び出させながら、
結花に向かって話しかけるー
部屋の隅にはー
赤いスライムの遺影が飾られているー
家族を奪ったやつらの身体を奪いー
復讐を成し遂げたー。
そしてー
結花は、家の中を見つめるー
平穏な生活も取り戻したー
結花の首筋には、他の家族と同じように、痣が見えているー
「---こいつらの身体が拒否反応で死ぬまでは、
こいつらとして、生活してやろうじゃねぇか」
結花が言うと、
母・和子と、父・治夫は嬉しそうに笑みを浮かべて、頷いたー
自分たちの娘を奪われたスライムの一家は、
娘を奪った一家を乗っ取り、復讐を成し遂げて、
”家族生活を取り戻した”のだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・
コメント
スライム家族の完結編でした~!
第1話の冒頭、普通の生活の描写に、
彼は一回も登場していませんでした~!
存在していないので、当たり前ですネ!
お読み下さり、ありがとうございました~!