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母の和子もー

妹の亜希奈もー

父の治夫もーー


みんな、みんな…


「---お兄ちゃん…」

帰宅した兄・隼吾に縋りつく結花ー


「-お、落ち着け」

隼吾が言う。


状況を理解できないー。

泣きじゃくる結花。


ただ事ではないー。


「---あ、お兄ちゃんおかえり~!」

妹の亜希奈がやって来るー。


首筋には”痣”

スライムに乗っ取られて、身体を操られ続けている人間に生じる

”拒否反応”


父と、母と、妹には、

その痣があるー


だが、兄・隼吾には”痣”がなかったー

それはつまり、隼吾だけは、

自分と同じように、まだ、スライムに支配

されていないということ。


「ただいま」

隼吾が亜希奈に挨拶を返す。


「---…」

結花は、隼吾に抱き着いたまま泣きついているー


「あれぇ~?お姉ちゃん~??

 なんで泣いてるのぉ~?」

亜希奈が言うー


その口調は、まるで、面白がっているかのような口調ー


「---……」

結花は、亜希奈の方を悲しそうに見つめるー


亜希奈は”紫”のスライムに乗っ取られているー

兄・隼吾は、そのことを知らないー。


「ーーー」

結花は、”ここで話をするのはまずい”と考えるー。


スライムに乗っ取られている亜希奈の目の前で

兄・隼吾に、家族が乗っ取られていることを

伝えれば、この場で襲われる可能性もあるし、

まだ正気の隼吾まで、狙われることに

なってしまうかもしれない。


「--結花、話はあとで聞くよ」

隼吾が、空気を読んでくれたのか、そう言うと、

そのまま手を洗いに洗面台に向かったー


今一度首筋を確認する結花ー。

隼吾の首筋には”痣”はない。

スライムに乗っ取られては、いないー


「---くくくくく」

亜希奈が近づいてくるー


「仲良くしようや。おねえちゃん」

亜希奈が脅すような口調で、

口から紫の液体をこぼしながら笑う。


「---あんたなんて…

 あんたなんて妹じゃない!」

結花がそう言うと、

亜希奈は下品な笑みを浮かべたー


「お姉さまに罵られるのって、

 ゾクゾクするぅぅ…ひひひひ」


亜希奈の言葉に、結花は、

怒りを感じながらも、

亜希奈が喋ってるんじゃないー

悪いのは、亜希奈を乗っ取っているスライムだと、

自分に言い聞かせて、挑発に乗らずに

部屋へと向かうー


「--すまんな」

父の治夫と、2階ですれ違う。


治夫に憑依した青いスライムは、平和主義だ。

他の”家族”たちに言われて

嫌々復讐に参加しているー

”赤いスライム”を踏みつぶした結花への復讐にー


「----お父さんを、返して」

結花が言うと、

治夫は「それはできないな」と苦笑いする。


「--亜希奈に入ってるスライムが言ってたの。

 身体が拒否反応を起こして、このままじゃ

 死んでしまうって…


 お願い…返して」


結花の言葉に、治夫は頭を掻きむしるー


「たしかに…それは…まぁ…な。

 この身体も拒否反応を起こしてる。

 だからー…

 あぁ、いや、でも、ダメだ。

 他のみんなとの約束だからな」


治夫は、そう呟くと、

そのまま立ち去って行ったー


治夫に憑依している青いスライムは

どちらかというと”話が通じるほう”だとは

思うのだが、やはり、解放してくれる様子はないー


部屋に戻った結花は、

兄・隼吾が来てくれるのを待つー。


家族の写真を見つめる結花ー

両親と亜希奈ー

満面の笑みで、写真に写っているー


この笑顔を、もう一度取り戻すことは、

できないのだろうかー。


「--お待たせ」

部屋に隼吾が入ってきた。


「--お兄ちゃん…」

結花は、安心感からか、泣きそうになりながら

隼吾の方を見つめるー。


そして、口を開いたー。


スライムの件を、全て話すー。


先日、赤いスライムのようなものが

家の中に入ってきていたから、

それを潰したことー


その仲間が、その翌日に

家に入ってきて

妹の亜希奈が紫のスライムに、

母の和子が緑のスライムに、

父の治夫が青のスライムに、それぞれ

乗っ取られてしまったこと


そして、このスライムたちは、

亜希奈に憑依した紫のスライムの発言から

”家族”であり、結花が何も知らずに潰してしまった

赤いスライムの家族ー

つまり、復讐のために、結花の家族に憑依しているのだとー


「----」

隼吾は、冷静にその話を聞いていた。

パニックになることはなく、静かに頷く。


「-----…そっか」

だが、驚いてはいる様子だったー

隼吾はなかなか次の言葉が浮かばない、という様子だ。


「--…まぁ…赤いスライムが家族だったならー

 そのスライムたちの怒りもごもっともなのかもな…」

隼吾は考えながら言うー


「でも!わたしは、何も知らなかったの!

 そんなの逆恨みよ!」


結花は”何も知らなかった”

虫だと思ったし、訳の分からないものは、つぶしておこう、と

そう思ったー


それが、こんなことになるなんてー


「---まぁ、、、な」

隼吾が、結花を見るー


そして、口を開く。


「ところで、なんで俺と結花だけが無事なんだ?」

隼吾が言う。


それは、結花も思っていたことだ。

なんで”隼吾だけ無事なのか”と。


「---結花も、そのスライムに…ってことはないよな?」

隼吾の言葉に

結花は首を振る。


「--スライムに乗っ取られて、数日すると、

 身体が拒否反応を起こして、痣ができるんだって」

結花が紫のスライムから聞いたことをそのまま説明した。


結花と隼吾には、それがない。


「---なるほど」

隼吾は、それでも不安そうだったー。


”なぜ、結花だけが”

隼吾はそう思っているに違いない。


結花だって、”なぜ、隼吾だけが”と、

そう思っているー


でもー

理由は分からないけど”二人は無事”なのだー。


隼吾は色々考え込むー


長い沈黙ー

そして、

隼吾は顔を上げた。


「--思いついた」

隼吾の言葉に結花が顔を上げるー


「家族を取り戻す方法ー。」

隼吾はそれだけ言うと

「明日、家族会議をしよう。

 父さんと母さんと、亜希奈を集めて-」

と、付け加える。


「それで、どうするの?」

結花の言葉に、隼吾は「決まってる!」と決意の表情で答えた。


「家族をー

 取り戻すんだ!」

とー。


・・・・・・・・・・・


翌日ー


「-ーーーみんな、聞いてくれ」

兄・隼吾が、家族をリビングに集めて

テーブルを囲むようにして座らせたー


父・治夫

母・和子

妹・亜希奈ー


そして、兄・隼吾が

揃う中、結花は緊張した面持ちで着席した。


「---父さん、母さん、亜希奈」

隼吾はそこまで言うと、

深呼吸して、口を開いたー


「-----いいや、、スライム」

隼吾の言葉に、

母・和子が、にやぁ…と笑う。


「--あらぁぁ~~~」

和子から緑色のスライムが飛び出すー


そして、緑色のスライムが、震える結花の方に

向かって、近づいてくるー


「あんた、隼吾にチクったのをぉぉぉ???」

和子がうつろな目で、飛び出したスライムと

同じ言葉を口走っているー


「--ーー大丈夫」

隼吾は、怯える結花を守るようにして、立ちはだかる。


そして、3人を見て、口を開いた。


「俺は、直接話をしたい。

 中にいる、お前たちと」


そう言うと、

亜希奈と治夫も笑みを浮かべて、紫のスライムと青いスライムが飛び出すー


父・母・妹の三人が

耳からスライムのような物体が飛び出た状態で、

虚ろな目で虚空を見つめているー


「---…」

隼吾は、三人を見つめながらも、

臆することなく、口を開く。


「俺は、家族を取り戻したいー…」

とー。


結花は、隼吾の背後に隠れるようにしながら、

状況を見守るー


「-ーー平和な家族団らんを取り戻したい。


 もうー終わりにしよう。

 復讐はー」


スライムたちに語り掛ける隼吾ー。


隼吾流の説得だろうか。

父・母・妹を乗っ取ったスライムたちは

頷くー


そして、父・治夫を乗っ取っているスライムが口を開くー

「そうだね…」と。


母・和子を乗っ取っているスライムも口を開く。

「あなたが言うなら」

とー。


妹・亜希奈を乗っ取っているスライムは、結花の方を見て笑ったー


「---”お父さん”がそう言うならー」


とー。


「-----」

結花は、亜希奈が何を言っているのか、一瞬、分からなかった。


「-----」

隼吾の方を見る結花。


”お父さんが、そう言うならー?”


「----”復讐”は終わりだー

 家族の幸せな日々をー

 家族を、取り戻すー」


隼吾が振り返ったー


「--!?」

結花が表情を歪めるー


「え…お兄ちゃん?」


「--赤いスライムー娘を殺された復讐は、もう終わりだ。

 もう、俺たちは復讐に飽きたー

 あとは、お前たちの身体を奪って、

 ”幸せな家族生活”を取り戻させてもらうよー」


兄・隼吾が言う。

何を言っているのか、分からないー


「--お、、お兄ちゃん!?どうしたの!?!?」

結花が叫ぶー


隼吾も、乗っ取られてー????


「--お兄ちゃん、ねぇ」

隼吾が笑うー


そしてーー

隼吾の形が変形していきーー

ヒト型の”黒いスライム”に変形したーー


「ひっっ!?!?!?」

父・母・妹とは違うー


隼吾自体が、黒いスライムにー!?!?


「人間の姿に変身していた俺を、

 お兄ちゃんだなんて、笑わせてくれるー


 俺は、こいつらの父親だー」


青いスライム、緑のスライム、紫のスライムを指さす

黒いスライムー


「--お前、よく考えてみろ」

黒いスライムが笑うー


「--お前に”お兄ちゃん”なんて、 い た か?」


「---!?!?!?!?!?!?」

結花が表情を歪めるー


スライムが現れる前の生活を思い出すー


妹の亜希奈は、今日は部活で遅くなると言っていたー。


父親の治夫(はるお)は、仕事で帰りが遅いー。


母親の和子(かずこ)は、

”買い物に行ってくるね”と書かれたメモが机に

置かれていることから、買い物中なのだろうー


-----!

自分の部屋の写真を思い出すー


家族の写真を見つめる結花ー

両親と亜希奈ー

満面の笑みで、写真に写っているー


「わたしに…お兄ちゃんなんて…いない…?」


結花が唖然とする。

”お兄ちゃん”がいた風景が、浮かばないー。


「そうだ!くくくくく、馬鹿なお前を見てるのは

 楽しかったよ!

 存在すらしないお兄ちゃんに、縋るお前の姿はぁ!


 お前の”記憶”をちょっといじるだけで、

 お前は存在しないお兄ちゃんを、存在するものと

 思ってたんだからなぁ…」


黒いスライムが叫ぶー

亜希奈・治夫・和子が笑っているー


結花は、亜希奈が乗っ取られる前日の夜中の出来事を思い出すー


「-zzzzz」

結花は穏やかな寝息を立てて眠っている。


びちゃ。

ずぼっ。

ぐちゅ。


「--!?!?!?」

結花は”違和感”を感じて起き上がったー


だがーーー

何も、なかったー。


なんだか、触られたような、

ヌルヌルしたような感触を感じた。


周囲を見渡す結花。

時間はまだ深夜だ。


「--夢でも見たのかな」

結花はそう呟くと、特に気にすることなく、

そのまま眠りについたー。


あの時にーーー


「そう!その時だ!俺が、お前の脳をチクっと刺激して、

 存在しないお兄ちゃんの記憶を植え付けたんだ」


笑う黒いスライムー


兄・隼吾なんて人間は、存在しないー

黒いスライムが、人の姿に適当に変身して、兄を名乗っていただけ。

結花に、兄なんて、最初からいないのだー。


隼吾には、痣がなかったのはー

”人間の身体を乗っ取っている”のではなく

黒いスライムが”変身”していたためー。


「--さぁ、俺がお前の身体を頂いて、復讐は終わりだ。

 あとは、”家族の日常”を取り戻させてもらうよー


 娘が死んでしまったのは残念だったが、

 ちゃんと復讐は果たしたー

 お前の身体で、家族4人、仲良く生きていくさ」


黒いスライムが、逃げようとする結花の耳に向かって

腕のようなものを伸ばすー


「あぁぁあああっ…た、、、たすけ…」

結花が叫ぶー


ズブズブと、黒いスライムが入り込んでくるー


「あひぃ」

目がぐるんと白目になり、

目から涙をこぼしながら、その場でガクガクと震えるー


「---あ、、、あぁあああああ…あ」

激しい痛みとーー

今まで感じたことのない不気味な感触ー


やがて、ゾクゾクとした快感にそれは変わりーーー


ぶちッ!!!!


と、激しい衝撃を感じてー

結花の意識は途切れたーーー


・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


革ジャン姿の結花が、偉そうに新聞を読んでいる。


「--いってきま~す!」

紫のスライムが、耳から飛び出している亜希奈が、

笑いながら玄関の方に向かう。


「しっかし、父さんがその子なんて、趣味悪いよなぁ」

父・治夫が青いスライムを飛び出させながら笑う。


「--ふふふ、あなたも好きねぇ」

母・和子が緑のスライムを飛び出させながら、

結花に向かって話しかけるー


部屋の隅にはー

赤いスライムの遺影が飾られているー


家族を奪ったやつらの身体を奪いー

復讐を成し遂げたー。


そしてー


結花は、家の中を見つめるー


平穏な生活も取り戻したー


結花の首筋には、他の家族と同じように、痣が見えているー


「---こいつらの身体が拒否反応で死ぬまでは、

 こいつらとして、生活してやろうじゃねぇか」

結花が言うと、

母・和子と、父・治夫は嬉しそうに笑みを浮かべて、頷いたー


自分たちの娘を奪われたスライムの一家は、

娘を奪った一家を乗っ取り、復讐を成し遂げて、

”家族生活を取り戻した”のだったー



おわり


・・・・・・・・・・・・・


コメント


スライム家族の完結編でした~!

第1話の冒頭、普通の生活の描写に、

彼は一回も登場していませんでした~!

存在していないので、当たり前ですネ!


お読み下さり、ありがとうございました~!

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