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”押し付けおじさん”

と、呼ばれるおじさんたちが、

社会問題と化していたー。


”入れ替わり能力”

嘘のような話だが、10年ほど前から

そんな力を持つ人間が、現れ始めたのだったー。


生き物は、

脆いー。

だが、時に強い。


これまでも、生き物は追い詰められると

新たに進化して、生きながらえてきた。

人間もそうだ。

追い詰められると、生きるために

新たな力を発揮することがあるー。

過酷な環境下で生活していれば、

人間はその過酷な環境に耐えうる力を

手に入れるー。

怪我をしたり、病気になったりしても、

人間は、それを自然に治そうとするー


もちろん、限界はある。


だが、それでも、生物はー

人は、生きるために、

追い詰められた時に力を発揮してきたー。


そしてーーー


世の中から、ぞんざいな扱いを受け続ける

一部の”おじさん”たちもそうだった。


家族を持たず、モテることもなく、

会社でも満足なポジションに行くこともできずー

挙句の果てに、歩いているだけで

気持ち悪がられたりするー


そんな、”おじさん”たちは、

苦痛に耐えてきたー。


おじさんはおじさんでも、

幸せな家庭を持つおじさんもいれば、

独身でも、イキイキとしているおじさんもいる。


一方で、何も悪いことをしていないのに

気持ち悪がられてしまうような

不運なおじさんもいるー。


時代が進むにつれてー

そんな”不運なおじさん”たちへの風当たりは

強くなっていった。


更なるネット社会化が進み、

人間は、さらに醜く、陰険になっていったー。


おじさんたちは、何もしていないのに

笑われ、気持ち悪がられて、

会社でもぞんざいに扱われるー。

そんな苦痛な日々を過ごしていたー


だがーーー

10年前


”それ”は現れたのだー。


生きているだけで気持ち悪がられてしまうー


そんな、理不尽な状況から抜け出すためには、

どうすれば良いのか。


俺は変態じゃない。


俺はただ、ただ、普通に生きていきたいだけなのにー

外見だけで”キモイ”と言われたり、

外見だけで差別的な扱いをされたりー

勝手に幸せじゃないと決めつけられたりー


どうすれば、この地獄から逃れることが

できるのだろうか。


見た目だけで、苦しむことになる世界。


人間は見た目じゃない、中身だ、なんていうやつもいる


でも、それは”上から目線”でしかない。

だってー

お前は、見た目で苦しむ人生を知らないだろう?

とー。


所詮ー

この世は、見た目だ。

見た目で差別する人間なんて、たくさんいる。


”キモイおじさん”

”孤独なおじさん”


そんなレッテルを勝手に貼られて、

勝手に気持ち悪がられる。


中身は”ふつう”なのにー

”ふつう”としてすら見てもらえない。


この地獄から抜け出すためにはーーー



そうー

”身体”だー。


10年前ー

”押し付けおじさん”の始まりとなった男は、

そう思ったー


”この身体が、いけないんだ”

とー。


中身は、普通だー

なのになぜ、こんなに苦しい人生を

送らなくてはいけない?


なのになぜ、こんなにみじめな人生を

送らなくてはいけない?


勉強しても、性格良く振舞っても、

必ず、外見が”ハンデ”となるー。


そしてーーー

”追い詰められた”彼はーーー

覚醒した-


生物は、時に強いー

危機から脱するためにー進化するー


ドン!


彼は、偶然、通りすがりの女子高生にぶつかったー。


そしてー

気付いた時にはー


「----!!!」

彼は、女子高生の制服を着て、

その女子高生として、道を歩いていたのだー。


そうー

ぶつかった瞬間に入れ替わったのだー


”見た目でみじめな思いをし続けたおじさん”が、

この時ー

進化したー


見た目で苦しむならー

どうすればいい?


自分磨きー?


否。


見た目の良い身体を、手に入れればいいー。


そしてー

”見た目だけで弾圧されるおじさん”の

苦しみを知ってもらうためにはどうすればいい?


声をあげるー?


否。

自分の身体を他人に押し付けて、

その苦しみを味あわせてあげればいいー


彼はーー

進化したーーー。


”見た目で弾圧される”といういう苦しみから

逃れるために、進化したー


人間は、強いー

窮地において、それを脱しようと、力を身に着けるー


世間に弾圧され続けた

”冴えないおじさん”はー

入れ替わり能力を身に着けることでー

”未来”を手にしたのだ。


「--んっふふふふふふ♡」

女子高生になったおじさんは笑みを浮かべながら歩くー


スカートに当たる風ー

なびく綺麗な黒髪ー


うしろでは、おじさんと入れ替わってしまった

女子高生が悲鳴を上げているー


だがー

世間は”きもいおじさんが、女の子みたいな悲鳴を上げている”と

誰も、声もかけようとしないー


それが、この世の中だー。


「----ふふふふふ」

彼は、手に入れたー

明るい人生をー

輝かしい未来をー。


最初は、誰も信じなかったー


身体を入れ替えられてしまった女子高生が

必死に、入れ替わりのことを叫んでも、

誰も、信じなかった。


当たり前だ。

入れ替わりなど、”フィクションの世界のお話”だと

誰もが思っているからだ。


漫画ー

映画ー

アニメー


入れ替わりモノは数多く存在する。

けれど、現実でそんなものは存在しない。


だから、誰も信じなかった。


ボタボタと涙を流す、

小太りで、髪の薄いおじさんを見てー

周囲は”疲れでおかしくなっちゃったんだな”と

あざ笑ったー


一方、女子高生になったおじさんは、

女子高生ライフを満喫したー

”見た目が違う”

それだけなのにー

周囲は、今までおじさんが経験したことのないぐらい

親切だったー


”どいつもこいつも見た目だよな”


おじさんは、そんな風に思いながらも

次第に性格にも変化が現れたー


捻くれていた性格が、明るい性格に変わっていくー


おじさんは、気付くー


”そうかー

 見た目は、性格にも影響を及ぼすのだな”

とー。


卑屈だったおじさんは、

今や完全に、明るい女子高生になっていたー。


それからー

”同じ進化”を遂げるおじさんが各地で現れた。


容姿に恵まれず、世間から

”冴えないおじさん”として扱われている

おじさんたちが、次々と入れ替わりの力を

手に入れたのだー


おじさんを特集して面白がるテレビ番組ー

おじさんを叩くネットー

歩いているだけでおじさんをあざ笑う人々ー


世間が、おじさんを追い詰めてしまったー


いや、

追い詰めすぎてしまった。


だから、おじさんたちは

自分の身を守るために”進化”したのだ。


各地で”入れ替わり”が発生するー

おじさんが突然体当たりしてきて、

体当たりされた女子は、身体が入れ替わってしまうー。


各地で被害が出ると、

流石に世間も首をかしげるようになってきた。


最初はニュース番組が

”わたしは女子高生おじさん続出”などと

面白がって報道していたのだが、

次第に、そのトーンは変わっていき、

深刻な報道へと変わっていくー


「---入れ替わりは、実在します」

最初は”小さいころから、そういう漫画とかアニメ

見ちゃってますからね”などと、アニメや漫画のせいで、

”妄想するおじさんが増えた”などと断罪していた

専門家も、トーンが変わって

すっかり手のひら返しをしている。


入れ替わりは実在するー


最初に、入れ替わり能力を手に入れたおじさんが

現れてから10年ー


世間では”押し付けおじさん”の存在は当たり前になっていたー


入れ替わり能力を手に入れて

それを使うおじさんたちの総称ー。

他人めがけて歩いてきて、

ぶつかることによって、

通りすがりに身体を入れ替えていくおじさんたちの、総称ー


特にー

被害者の割合は、女子に集中したー。


”おじさん”たちの趣向を現しているのだろうかー。

調査機関の統計によれば

報告された被害者の数を年代別に集計すると、

1位が女子高生

2位が女子中学生

3位が女子大生

4位がそれよりも小さな年齢層の女性

5位が成人女性

6位が若い男性


と、続いた。


それ故か、

女子を中心に

”知らないおじさんが近くにいたら気を付けるように”と

教えられるのは、当たり前の時代になっていたー。


「---え~~?押し付けおじさん?

 それって都市伝説でしょ?」

女子高生の松木 藤枝(まつき ふじえ)が笑いながら言う。


「ーーえ~!都市伝説じゃないよ~!

 ほんとにいるみたいだよ~!」

”押し付けおじさん”を実際に見たことのある人間は少ないー。


10年前からそういう人間が出現しているとは言え、

数はそれほど多いわけではないし、

身近でそういう現象を目撃したことのある

人間は、まだまだ少なかった。


「--だって、わたしのおにいちゃんのクラスの子、

 押し付けおじさんに身体を奪われちゃったみたいだよ」

藤枝の友達・奈菜(なな)が苦笑いしながら言うと、

「え~?本当に~?」と藤枝は疑いの眼差しを向けた。


藤枝は

”押し付けおじさん”の存在をあまり信じていない。


ニュースで見たこともあるし

学校でも注意喚起は行われているのだが、

”実在する”とは、なかなか思えないー


実在はするのだとしても

”自分には関係ない”

藤枝はそう思っていた。


各地で押し付けおじさんが発生したとは言え、

年間数百件単位。

全体の人口から見れば、ものすごく少なく、

多くの人が「わたしには関係ない」と

そう思っているのも事実。


藤枝も、その一人だったー。


藤枝は、典型的な美少女という感じの容姿で

性格も悪くないために、友達も多いー


そしてー

その容姿が”それ”を呼んでしまったー


ある日の下校中ー

藤枝のことを見つめている男がいたー。


中年サラリーマンの田中 一太郎(たなか いちたろう)。

容姿に恵まれず

小太りで、ハゲてきていて、

体臭もちょっときつい、”冴えないおじさん”だー。


性格は悪くはない。

だがー、

その容姿で辛い思いをしたことは

何度もあったー


そんな彼がーーー


会社の若手女子社員からいじめられた

ある日の夜ー

”入れ替わり能力”に目覚めたのだー


自分も”押し付けおじさん”になることができたー。


一太郎は喚起し、

早速、自分の家の近くの高校で、

”身体を入れ替える相手”を物色していたー


そしてー

一太郎はーー

とある女子生徒に目をやったー。


それがーー

藤枝だったー。


「----今日は帰ったらどうしようかな~」

藤枝がそんなことを考えながら

下校していると、

前から一太郎が歩いてきた。


”おじさんとの距離を保つように”などと

教わっている藤枝たちー


だが、自分の身体を相手に押し付けて

相手の身体を奪うー

そんな”押し付けおじさん”の存在を信じていなかった

藤枝は、一太郎のことも無警戒だったー。


ドン!


通りすがりに、一太郎と藤枝の肩がぶつかるー。


「---」

頭を下げる二人。


藤枝は、一太郎に背を向けて歩きながら

笑みを浮かべたー


”押し付けおじさん”の入れ替わりが完了したー。


あっという間に入れ替わってしまい、

一太郎になった藤枝は、入れ替わったことにすら

気付かないまま、そのまま自分のー、藤枝の家に

向かおうとしていたー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今日のお話はプロローグ的な部分でした~!

お読み下さり、ありがとうございました☆!

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Comments

はたや

最高です! 続きを早く見たいです!!!

無名

ありがとうございます!!!続きもぜひお楽しみくださいネ~!★