無神戦記外伝~只の日本人~ (Pixiv Fanbox)
Content
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無神戦記外伝~魔大国~
◆零の選択 ―――――――― ◆ ――魔大国の侵攻。 あらゆる者を殺し あらゆる者を犯し あらゆる者を凌辱する。 侵略されし地に深い絶望があった。 「な、なんて強さなの……」 女は絶望に震えていた。 ――勝てない負ける殺される 総身を支配する恐怖、魂の奥に刻まれる絶望。 魔の力が女の全ては犯し尽くしていた。 (無理無理無理無...
続き
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「絶望しろ!ここに神はいない」
魔戦将ビヴォルバーン。
圧倒的な魔の神威が全てを支配していた。
地が血に染められる。
心が絶望に染め上げられる。
叫喚していた親達だった者の首がはねられた。
膨大な血が飛び散り、床をそめていく。
「ひっ!?」
女剣士の口から恐怖がもれた。
狂死しかねんばかりの悲嘆の叫びをあげていた人の親だったものを一瞬で
鏖殺したビヴォルバーンの魔技。人域を超越した残忍さと力が枯れきったはずの恐怖を
呼び覚ます。
ぶらさげていたブッタイともども――
ゴウッ!
燃やされ塵となる。
そして塵は流体となる。
死者の魂ともいうべき形。そしてそれが――魔族へ吸い込まれる。
「くはっ、クカカカカカっ!」
喰らっているのだ。人の魂、絶望に満ちたその味を。
「っ!?」
おぞましい光景に女達は言葉を失う。
死者の流体に絶望にみちた顔を幻視する。
永遠に救いを失ったかのような、死すら生ぬるい恐怖の光景だった。
「いい絶望ダッタ」
魔戦将は言う。まるで上等なディナーを喰らった後のような口ぶり。
絶望の魂を喰らい力とする。
そのために心を壊し尊厳を破壊し絶望の底まで堕とし殺した。
(駄目、駄目、駄目……)
その超越した力と残虐性。
魔大国ガルディゲンが数百年、真暦に君臨する力の源泉。
その力を目の当たりにし抵抗していた者達の心は完全に折れた。
ガルディゲンのその力その心、人間が適うレベルではないのだと本能が理解してしまう。
その圧倒的な武威を体現する存在。
「全て贄となれ!屑共」
魔戦将ビヴォルバーン。
その威風が全てを圧した。
圧倒的な力を持つ魔族によって数多の将兵、民が殺された。
憎むべき敵、だが――
(怖い……)
怖い怖い怖い怖い怖い。
殺される殺される殺される。
恐怖に全て喰われている。
憎悪と嫌悪が彼の者の恐怖に完全に食われているのだ。
魔大国ガルディゲンの魔戦将。
彼の者が有する圧倒的な武威と残忍さが、女剣士達の心を完全に挫いていた。
「次は貴様らだ」
ギロリ、とビヴォルバーンが敗北した理法剣士達を見据えた。
既に勝敗は決した。
ここから先は戦いでは無く
「屠殺ダ」
どこまでも苦しませる
どこまでも絶望させる
問題なく尊厳を破壊できるように。
滞りなく生まれてきた事を心から後悔するように。
「まずは犯そう」
絶望させ
「まずは孕ませよう」
絶望させ
「そして喰らおう」
――殺す。
犯し、孕ませ、そして喰らう。
女達の全てを蹂躙を魔戦将は宣言する。
「あっ……」
底までおちた絶望がさらにます。
「――ヤれ」
下される外道の命令。
それに呼応し何体もの魔物が蠢く。
下卑た声を
女達の肉体に殺到する。
そして――
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
「安心しろ。そう長くはかけん」
「犯され喰らわれ、絶望のままに――」
「――死ね」
空間が絶望に染め上げられる。
死と悲憤に満ちていく。
だが――
「――国敵討滅」
風が吹いた。
蒼風が魔物を薙ぎ払う。
弾け飛び散る魔の血。
蒼い風は少女達を襲いし絶命の一撃を絶ち切った。
「えっ……」
「あっ……」
「なっ……」
風が吹く。
魔物に倒され蹂躙された者達を守るように蒼の風が湧出していく。
唸り狂う蒼風が嵐となり魔物を一斉に薙ぎ払ったのだ。
「GUGAAAAAAA!!」
響く断末の大音声。蒼風が魔の総身を滅裂させ、魔物が大量の血をぶちまけ倒れ伏す。
国民を犯す凶気は払われ、国民を殺す凶手は絶たれた。
「なにっ!?」
魔戦将がもらす驚愕の気息。
蹂躙の限りを尽くした魔戦将ビヴォルバーンのはじめての焦りだった。
「GAAAAAAA!」
生き残りの魔物が怒声をあげる。
魔物は同族の死にも動じる事無く、其れに向けて烈しい殺意を向けていた。
大量の魔物達の爛々と輝く殺気は彼の者を打ち殺すという赫怒の念を一斉に向ける。
殺気と腐臭をまき散らすその姿は吐き気を催すほどにおぞまじい。
魔大国ガルディゲンがもたらした災禍は筆舌に尽くしがたいものだった。
破壊された城壁。抉れ粉々にされ汚された神域。
死屍累々と死体が転がり、絶望にうちひしがれた女達がいる。
此処に希望は無くて絶望に満ちていて。
だからこそ其の風の存在は異質だった。
「あれは……」
――ありえないものを見た。
危機を助ける神の風
民を守りし蒼風。
蒼生守護の風は魔物を倒し、命を絶たれようとしていた人間達を守るようだった。
「あぁっ……」
女は風の主を見上げる。魔戦将の圧倒的な力に敗れ、その残虐性に心を折られた女達。
彼女達を犯していた絶望と恐怖はもうない。
彼女達の心を犯していた絶望を彼の者の風が払っていったかのようだった。
敵を滅ぼためにいる。
民を守るためにある。。
国敵討滅――その言葉だけで其の存在が理解できた。
目の前の存在は自分達を守る者ではない。
これは日本を守る存在なのだ。
「GYYYYYYYYYY」
魔物の呻きは、其れに対して魔物は激烈な敵意を向ける。
風の神撃により多くの魔物が倒されたが、未だ魔物の数は膨大。
殺気と穢れは膨張し、いまや魔境と化しつつあった。
風がうなりを増す。
魔物の激烈な敵意を受けて尚其れは国敵たる魔物への殺意を高め続けていく。
その精神性は公に尽くす聖人の類では有り得ない。むしろその逆、これは徹底した個だ。
何が誰がどう思おうと風のように囚われず己を貫く。それは蒼生守護を行う者として矛盾した在り方だった。
しかし理解できる事はある。
彼女達を蹂躙し、非道の限りを尽くした魔物に対抗出来るのはこの無道の存在だという事を。
「風ノ……勇者」
彼女達は思い出す。
日本人を守る風の存在を
――風ノ勇者の伝説を
人々の心に恐怖が絶える事はない。
心に恐怖や不安は次々と沸いてきて、恐怖は繰り返されていく。
自分なりに恐怖や不安と向き合っても時間が経てば同じ不安がくるというのはどんな人間でも経験がある事だろう。
絶え間ない恐怖と不安。心の疲弊。そんな彼女達の不安を風のように霧散させてくれるモノがあった。
其れは人の明確な恐怖も、形のない不安も鬱々しい心を吹き飛ばす風の伝説。
そして国敵を討滅する神。
――虚神。
日本を守るために戦い蒼生守護の神理者。
風の神理を以て恐るべし力を持った魔族、ガルディゲンと戦った日本人。
「神風」と呼ばれた虚神の風は数々の国敵を討滅し日本を守った。
風ノ勇者。
遠い昔、ガルディゲンを打ち倒した伝説の勇者。勇者が自分達を助けてくれると。
どんなに怖い事があっても、どんな絶望が襲ってきても――
――神風が
昔、日本を救った神の風がきっと
「――俺の国民に手を出すな」
人々を守るだろう、と。
「神…様……」
少女は絶望の中、希望の言葉を紡ぐ。
人を守り魔を討つ。
その姿は彼女が祈った神の姿だった。
「いいや」
返ったのは否定。
虚神は言う。
「――只の日本人だ」