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 イギリスの首都ロンドン。

 一般的にはローマ時代から繋がる歴史的建造物に溢れた観光地であるが、世界の陰で魔術を嗜む者達にとってはそれ以上の重みある場所だ。

 魔術協会が三大部門が一つにして実質的な総本部、時計塔(クロック・タワー)のお膝元として、ありとあらゆる魔術専門家達が集まった火薬庫だ。

 秘密主義な彼らが手と手を取り合って組織を組んでいると言う矛盾を考えれば、スイッチが入り、秒読み段階に移行していると言っても過言ではないだろう。


 多彩な魔術系統が微細に分岐し、その一つひとつを研究する魔術師が積もり重なる街。

 それぞれが各々の方法で『根源への道』を目指すレースにエントリーし、凌ぎを削っている。

 そんな混沌の坩堝には、意味不明な事件・現象・事故がつきものだ。

 研究対象の脱走で、研究成果の実験で、若しくは全くの意図しない魔術反応で、霧の都に新たな都市伝説を刻んでいく。

 この夜、また新たな騒動が起ころうとしていた。



「まったく、面倒事はごめんだよ。なんと言っても面倒だからね。君に関しては面倒どころか退屈だから尚更さ」


 ライネス・エルメロイ・アーチゾルテはそう言って頬を綻ばせた。

 深海のごときダークブルーのコートで小さな身体を覆い隠した少女は、コツコツ、と石畳を爪先で弾く。

 霧の濃い深夜の街外れで、ライネスは虚空に向けて笑みを零した。

 人払いの魔術がかけられたその通りには、ライネス以外に人影は見当たらない。

 だが、ライネスは一時もぶれる事なく、とある一点を見つめていた。

 街灯の光が産んだ黒い影。ライネスの見つめるその場所が、その瞬間微かに蠢いた。

 闇から放たれる閃光。

 一直線にライネスへと飛ぶそれを、銀の流体が弾き消した。

 ライネスのコートから伸びた水銀の鞭は、地面に落ちるとみるみる人の形を作り出す。

 メイド服を着た女性の形を取ると、ライネスの側で静かに佇んだ。


『お嬢様、お怪我はございませんか?』

「ああ、彼がお手本のように私の頭を狙ってきたからね。おかげでトリムマウも動きやすくて助かったよ」


 魔術礼装・トリムマウ。

 主人を守るメイドゴーレムである。

 主人(ライネス)に寄り添う姿は正にメイドそのものだ。

 だが彼女を構成する液体金属は、ライネスに向けられるあらゆる攻撃因子を弾く鉄壁の盾。

 銃弾より速い先の攻撃も、容易く捕捉し跳ね飛ばした。


「‥‥‥ちッ、腐ってもエルメロイ家か。相変わらず小癪な僕に隠れるのがお好きな腰抜け一族め」

「おや、君は先代をご存知のようだね。そうとも、腐敗して墨屑しか残っていないエルメロイ家さ。ふぅむ、そうなると墨屑にも劣る君は一体何と表現すべきかね」


 「どう思う?」とライネスはクスクス笑う。

 西洋人形を連想させる儚い顔に意志の強さを主張する焔色の瞳を持つ絶世の美少女は、金細工のような髪をかきあげ、闇に向かってサディスティックな微笑みを送った。

 襲撃者は何も答えず、苦しげな舌打ちだけが帰ってくる。



 帰宅途中、ライネスは先のような謎の閃光による襲撃を受けた。

 然し、自動防御機能を備えたトリムマウは不意打ちをカウンターで返す。

 敵は姿を見せる事なく、ライネスを攻撃し続けた。

 だがその一つとして命中にまでは至らなかった。

 トリムマウの本体は常温で唯一流体を保てる金属、水銀だ。

 人の形に囚われないトリムマウの防御が鉄壁を誇るのはコレが所以。

 ライネスは少しずつ、襲撃者を追い詰めていた。


「私がライネス・エルメロイ・アーチゾルテと知っての襲撃ね。大方協会上層部からの嫌がらせってとこだろうけど、流石にこいつは芸がない」

「‥‥‥ッ!」


 おかげでライネスの毒舌も絶好調だ。

 幼い頃から名家の内紛という名の荒波を泳ぎ続けてきた経験豊富な毒舌家、それがライネスという少女だ。

 「エルメロイの姫君」などと揶揄される美貌と、それを一言で台無しにできる卓越した言葉選びは、時計塔でも有名だ。

 そんなライネスにとって、今夜の敵はいじめ甲斐のあるイキの良い的のようなものだった。


「君の魔術、相手を指定した上で精神的なダメージを与えるタイプと見た。一撃必殺で方を付けるつもりで闇討ちしたんだろうけど、アテが外れたようだねえ」


 トリムマウを指差し、ライネスは言った。

 もはや舌打ちすらも返ってこない。


「タネがバレたら簡単だよ。トリムマウは独立人格を持つ礼装だもの。「ライネス」を指定した君の魔術は「トリムマウ」には無効になるものね」


 ライネスの指示に従って、トリムマウは攻撃形態に変化する。

 好きなだけ喋った。

 あとは適当に捕縛して、協会の連中を揺さぶってやるだけだ。


「はッ! そう簡単に済まされるかよ‥‥‥落ちぶれと侮ったのは俺の落ち度だけどよ、このままじゃ、こっちも帰れないんでなぁ!」


 襲撃者はめげずに叫んだ。

 ライネスの魔眼が魔力の集約を感知する。

 あの閃光が再び飛んでくる。


「同じ魔術ばかりとは、短絡的な抵抗は本当に無意味だよ。トリムマウ!」


 闇から迸る光。

 ライネスの視界に広がる閃光を遮るようにして銀の盾が形成される。


「これでおしまい。やれやれだ」


 ライネスはふう、とため息をついた。



「おッごぼぼぉッ! ほごッ! お゛ッあ゛え゛あ゛ぁッ!?」

「まったく、マジでやれやれだな。落ち目一族相手に大出費だ! 赤字になったら誰に文句を言いやいいんだ?」


 敵の光弾とトリムマウの銀鞭が交差した一瞬。

 膝を着いたのはライネスであった。


「ふむぉお゛ッ! どり゛む゛ま゛ぁあ゛ッ!」

『‥‥‥』


 少女の細い肉体に、トリムマウの輝くボディがまとわりつく。

 主人を守る為ではない。

 ライネスの自由を奪い、這いつくばらせるように押し倒す為だ。

 猿轡の代わりに巨大な銀滴が顎をこじ開け、口腔に詰め込まれる。

 ライネスは眉を困惑と焦りで怒らせると、忠実だったはずの部下の名を叫ぶ。

 だが、トリムマウは答えない。

 淡々とライネスを拘束し、抑え込む。


「無駄だよ。そいつの強さは折り紙付きだろう? 俺もたった今理解したところだ‥‥‥助かったよ、お前が呑気にタネ明かしを喋ってくれたおかげで俺は赤字程度で済むことができた」


 タバコをふかす襲撃者。

 無用心に足音が近付いてくるものの、ライネスにはもごもごと喉を鳴らす以外に出来ることはない。


 失策だった。

 相手の心を折るために発した一言が大番狂わせを起こしてしまった。

 高次知能を持つ相手への精神干渉を得意とする彼の魔術は、「ライネス」を指定して「トリムマウ」を攻撃しても無意味だ。

 何故なら、トリムマウはライネスとは人格を独立させているから。


「そこで閃いた! 我ながらオツムは柔らかくできていやがったみたいでな。やけくそでその水銀野郎を魔術対象にしてみた訳だ。いや感謝しかないよ、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。俺の魔術世界観が広がった」

「‥‥‥ッふも゛ッ」


 水銀滴の隙間から、何とも言い難い言葉が漏れる。

 魔術世界の秘密主義に浸かりきれなかったことを悔やんでももう、遅い。


「ふん、『覚悟は決まった』って顔をしているな。誘拐なり拷問なり、好きにしろってか?」


 襲撃者のつまらなそうな言葉に、「当然さ」と、視線で答える。

 当主という巨大な柱に依存しきっていたエルメロイ家は、柱の損失により音を立てて崩壊した。

 ライネスはそんな瓦礫の山に申し訳程度に添えられた棒切れに過ぎない。


(棒切れが蹴り飛ばされるのは時間の問題だったのさ。もっと先延ばしにしたかったがこれは‥‥‥潮時なのかもしれないね)


 剣であり盾でもあるトリムマウを失ったライネスには、無駄な足掻きすらも残っていなかった。

 ライネスの失踪を知ったお兄様らが動くその時まで、どうにか生存できることを祈るばかり。

 そんな目つきが気に入らなかったのだろう、襲撃者はまたふんと鼻を鳴らした。


 そして、意地悪い笑みを浮かべる。

 着ていたコートを探り、ピンクに光る小瓶を取り出した。


「残念だかライネスさんよ、俺の仕事はここまでなのさ。後は「コイツ」に任せるようにと言われている」


 「コイツ?」とライネスは辺りを見回した。

 だが薄暗い街灯が並ぶ道の後先に、2人以外の気配はない。

 トリムマウの事かと目を見れば、それも違った。

 男は薄笑いを浮かべ、取り出したばかりの小瓶を見つめていた。


「まあ、後はコイツとよろしくやってくんな。俺はあんたを捕らえるまで。コイツはあんたを‥‥‥辱めるまでが仕事」


 男は小瓶を傾ける。

 ピンクの液はライネスの目を引き寄せながら、とろりとトリムマウの銀に溶け込んだ。


 巨大な銀色のスライムはびくりと異物に反応したかと思えば、ゆっくりとその性質を歪めていく。

 美しく街灯を反射していた銀が、目を背けたくなるような派手なショッキングピンクへと。

 液が沈んだ場所からじわじわと、変わっていく。

 ライネスを守る為だけに機能していた美しき精密動作は消え失せる。

 変色した場所は、びくびくぼこぼこと沸騰したように乱波を作り出す。


 トリムマウの一端はライネスの身体を縛りつけていた。

 口腔へと、硬く柔らかい銀滴がねじ込まれていた。

 そんなライネスへと、ピンクの侵食が近付いてくる。


 ぞわり。

 総毛立つとはこの事だ。

 ピンクのソレに含まれる危険性を、ライネスの本能が察知した。

 ソレに触れてはいけない。

 ソレを近付けることもいけない。

 「終わる」。

 長らく貴族の覇権争いに揉まれていた少女だからこそ、ソレの脅威が肌で理解できた。


「‥‥‥っ! ん゛ぉおッ! ははふぇッ! ほひう゛あ゛ぅうぅう゛ッ!」


 理性ではなく身体が動いた。

 液状の縄を軋ませて、ライネスは手足をばたつかせる。

 力では敵うはずもないトリムマウの拘束から、がむしゃらに逃れようともがく。

 だが少女の手足が銀の縛りから抜け出せるはずもない。

 ピンクの浸食が止まることもない。

 大きく見開いた青い瞳に広がり続ける汚れたピンクが映っている。

 ソレを止める手立てはない。


「へッ、エルメロイサマでも恐怖はあるみたいだな‥‥‥俺は退散するが、せいぜい叫びなよ。あんたのおかげでここいらは人払いが済んでいるから気にすることはない」

「ま゛ッ、まへッ! ぐぉお゛ッ! ぐッ、ふぐぅうぅう゛ッ!」


 これほど叫んだのははていつ以来か。

 そんな感情に浸る暇もなく、ライネスは叫ぶ。

 襲撃者は再び闇に包まれ、気配を消す。

 銀色に包まれていくライネスだけが、暗く陰気な道端に残された。


◆ ◆ ◆


「んお゛ッ❤︎ くぶぅう゛ッ❤︎ んぐッ❤︎ ふぐふぉおおッ❤︎❤︎❤︎」


 ごぼごぼと、口腔内にあまったるい汁が流れ込む。

 あっという間に呼吸器を塞ぎ、鼻腔へと逆流を始める汚染汁。

 生をつなぐライネスの本能は、理性に反してソレを飲み干すことを強行する。

 喉に張り付くような甘い汁を、ライネスはえづきながら胃へと落としていく。

 一塊りを飲み込む先から、新たな汁がトリムマウから染み出してくる。

 焼けるような甘さで舌が痺れる。

 鼻からトロリと溢れた汁は、毒々しいあのショッキングピンクだ。

 大口を開け、時に汚らしい嗚咽を漏らし、鼻先にピンクの化粧を施し、ライネスは何かを飲み込み続ける。


(わからないッ! この狂った「コイツ」とやらの目的が全く読めない‥‥‥! け、けれど、一つだけわかったぞッ❤︎ ふッ❤︎ 分かったところで、ど、どうにもできないけれどねッ❤︎ まったく、辱めだったか‥‥‥最適じゃないかッ❤︎)


 液が張り付く喉が震える。

 身体の芯からマグマが競り上がり、四肢へとくまなく広がっていく。

 飲めば飲むほど、身体が卑しく哮りあげる。

 唇から溢れた汁が、首を伝って落ちていく。

 その軌跡が分かるほど、首元が熱く火照りだし、脈動が荒ぶり出す。

 情欲による辱めが、ライネスという少女を犯していく。


「ふぉッ❤︎ おぐッ❤︎ ん゛ッ❤︎ んぐッ❤︎ んぉぐッ❤︎ ほ、ほッ❤︎ ほッ❤︎ ほッ❤︎ ほぶッ❤︎ おごごぼッ❤︎❤︎❤︎ んぐッ❤︎ ごッ❤︎ ほごッ❤︎❤︎❤︎」


(ま、まだ飲むのか‥‥‥? いい加減、腹がはち切れてしまいそうだッ❤︎ そんなに入らないと言うのにッ❤︎ と、トリムマウ全てを飲ませようとでも言うのか?)


 そこまで考えて、ライネスは「まさか」と自虐的に笑った‥‥‥つもりになる。

 トリムマウの仕事はあくまでライネスを拘束する事。

 ピンクに染まりきったかつての従者は今も変わらず、ライネスを指一本動かすことを許してはくれなかった。


 外にはトリムマウ、内には得体の知れないピンクの異物。

 ライネスの身体はこれから、内外から執拗なまでに辱められ尽くすと予言されているようなものだった。


 汚染が完了したトリムマウは新たな仕事に取り掛かっていた。

 それはライネスも察知していた。

 していただけだが。


(うぐっ❤︎ と、トリムマウめ‥‥‥せっかく仕立てた服を『食って』いるな? 成る程、肌を晒させるだなんて分かりやすい屈辱じゃないかッ❤︎)


 肌の上を這い回る気色の悪いピンクの感触。

 着ていたお馴染みのコートは勿論、ライネスの肢体を包んでいた布地の一切がトリムマウに溶かし飲まれていた。

 ライネスを包んでいるのは汚染されたトリムマウただ一つ。

 躍動している今こそ、少女のシルエットは見えなくなっている。

 だが、トリムマウがその場を離れるようなことがあれば、ライネスは生まれたままの姿を道端に晒け出すことになる。


 プライドをへし折るにはシンプルで分かりやすい作戦だ。

 媚薬を飲ませたことにも線が繋がる。

 そんな程度で、とライネスは腹をくくる。

 子々孫々に脈々と、魔術師という生き物は卑しい欲を受け継がせ続けている。

 そのおどろおどろしさの先端を歩くライネスに対して、裸体を晒すなどという痴態はあまりにぬるすぎるだろう。


「ぉがッ❤︎ はッ❤︎ はッ❤︎ や、やっとお薬もおしまいか‥‥‥ッ❤︎ あごも胃も限界だったところだよ。ん゛ッ❤︎ ぐ、ほら、晒すなら好きにすれば、いい」


 ピンクの塊がライネスの口から吐き出される。

 汚染汁を舌で舐め取り、ライネスはトリムマウへと語りかけた。

 頬は媚薬で赤らみ、呼吸は既に荒い。

 だが、その目はなおも不敵で蠱惑的。

 強かに生きてきた精神はまだ、折れてなどいない。


 汚染トリムマウは、そんなライネスに対抗するように流動を始める。

 ただ無作為に肌をくすぐる動きは止め、本格的にライネスをおちょくる動作に変わっていく。


 胸に二つ、ピンクの渦が生まれる。

 中央に添えられた小さな桃色突起に向けて、どろりと粘つく渦が絡みつく。

 発情してコリコリと身を硬くした乳首が、無情なタッチで転がされる。

 ライネスは顔を歪めて唇を噛み、漏れる喘ぎを飲み込んだ。


 尻の谷間へ、指のように固形化した突起が挟み込まれる。

 ライネスは不快そうに尻を見下ろした。

 尻肉を左右に押し開けた指達は、清楚に締まったワレメにピンク汁を塗りたくり、擦り込み、馴染ませる。

 きゅっと閉じきった菊紋を優しくタップし、知ってはならない刺激を染み込ませる。

 優しく肉豆の皮を剥き、乳首同様に渦の渦中へと導いた。


「ん゛ぐッ❤︎ ふッ❤︎ は、な、なるほどッ❤︎ じつにくだら゛にゃぃい゛ッ❤︎ ん゛ぉッ❤︎ ほ、ほッぐぅうぅう゛ッ❤︎❤︎❤︎ ふん゛ッ❤︎ な゛がぃおまけひゃな゛ぃかぁ゛ッ❤︎ あッ❤︎ あ゛ッ❤︎ あ‥‥‥ッぐ‥‥‥❤︎❤︎❤︎」


 頭へふつふつと、煮えた血液が上ってくる。

 どくどく暴れる血管がはち切れそうだ。

 気味が悪いほど的確に、ライネスの肉体を嫌らしく刺激するトリムマウ。

 弾くように畝る乳首への刺激。

 わざとらしく音を立て、ぬちゅぬちゅと昂る汁音を伝えてくるワレメ。

 赤くぷっくり膨れているであろう肛門をなぞり、肥大していく輪郭を伝えてくる動き。

 どれもこれも、心を読まれているのかと思う程ライネスの情欲をくすぐり続ける。


「ふッおほッ❤︎ な、ん゛のほぉッ❤︎ こん゛なッ❤︎❤︎❤︎ くしゅぐら゛れッ❤︎ くらイでぉッ❤︎ く、くひッ❤︎ くりゃひお゛ッ❤︎ くら゛い゛でッえぇえぇ゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 ライネスはなおも平静を装う。

 いや、装おうと躍起になる。

 口から溢れるピンクの汁は道化の化粧さながらに口元を染め、ドピンクに染まった舌がチロチロとその周りを駆け回る。

 局部を刺激された肉体がピンクの海で跳ね上がり、不気味な波紋をトリムマウへと伝えていく。

 おちょくるような口調に混じるばかりだった喘ぎ声は既に逆転した。

 今や獣じみただらしない悲鳴の中で、辛うじてヒトの言葉らしき喘ぎが聞こえるだけだ。


 媚薬の昂りを、トリムマウの愛撫が押さえ込み、増幅させる。

 少女の心と身体が許容できる快感など、とっくに超過してなお肥大し続ける。


「お゛ッ❤︎ ひへッほぉッ❤︎ も゛ッ❤︎ まひッ❤︎ ぐぅうぅ゛ん゛ッ❤︎❤︎❤︎ おッお゛ーッ❤︎ ほッおぉお゛ーッ❤︎ ひほぉお゛ーッ❤︎❤︎❤︎」


 夏場の野犬さながらに腫れた舌を揺らすライネス。

 理知的で小悪魔のような笑みは剥がれ落ち、少女らしき無邪気さも崩れ果て、雌の欲望だけが塗りたくられた無様を晒す。


 「もういいか」と、ピンクのスライムと化したトリムマウが震えたようだった。

 肉豆を虐める渦が止まり、シワを擦る指が遠のいていく。

 比喩的表現ではなく、トリムマウのスライムボディそのものがゆっくりと広がっていく。

 ヒクヒクと震えるライネスの肉体を中心に、風船のように膨らんでいる。

 派手な色合いの巨大風船と、そのてっぺんから首を垂らすライネス、十分過ぎる程の侮辱だろう。

 ライネス本人が愛撫に理性を溶かされ、己に寄り添う屈辱を理解できなかったのは幸いだ。

 だが、まだ途中だ。


 一見、大道芸のように膨らみきったトリムマウ。

 ぶるぶる震える表面は本当の風船に見えるのだから、仕方ない。

 限界まで興奮を蓄積したライネスの身体を取り残し、引き絞られた弓の弦程にぶるぶると振動する。

 中央で喘ぐ的に向け、最大の快楽を打ち込む為に力を込める。


「はッ❤︎ あ゛ッ❤︎ ふ、ふッ❤︎ ‥‥‥ッ、おぁ?」


 当人が正気で聞こうものなら、聞いた相手の鼓膜を即刻破るであろう間抜けな吐息。

 それが「放て」の合図だ。


ぱッひぃいんッ❤︎❤︎❤︎


 濡れたゴムが、濡れた肉をはたきつける音。

 膨らみ切ったトリムマウが、ライネスの皮膚に叩きつけられる音。

 快楽を限界まで膨らませたライネスに突き刺さる、鋭すぎる針。


「お゛ん゛ッ❤︎❤︎❤︎ ッぐぉおおぉおぉおぉおおおぉお゛お゛お゛ッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」


 久方ぶりにシルエットを解放したライネスの肉体は、弓形に痙攣して絶頂した。

 真っ赤に染まったワレメから、地面を砕くほどに激しい潮吹きが巻き起こる。

 貧相な乳房は揺れねども、勃起した乳首がブルブルとはしたなく暴れた。

 絶叫が周囲の壁に反響し、ライネス自身の肌を震わせる。


「ほッふぉお゛ッ❤︎❤︎❤︎ なンッ❤︎ これ゛ッ❤︎ ひッ❤︎ ふッ❤︎ ふぎィッ❤︎❤︎❤︎」


 痺れる全身から力が抜け、ライネスはよろりと側の壁に体重を任せた。

 アクメに滲んだ涙の先に水溜りが見える。

 壁に手を突く自信の有り様を、ライネスは絶え絶えに凝視する。


「はッ❤︎ ぐぉッ❤︎ こんッなぁ‥‥‥ンッ❤︎ やって、くれるじゃッ❤︎ ふぅう゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 トリムマウのボディはライネスの肉体にぴったりと張り付き、扇情的なボンテージ風のボディスーツを構築していた。

 白い肌をぎゅう、と押し付けてくるショッキングピンクのスーツ。

 街灯を反射してヌラヌラと光るその格好は、裸で突っ立っている何倍でも嫌らしい。


 そのボンテージには洋服として最低限隠すべき、乳房とワレメへの覆いが一欠片だって搭載されていなかった。

 固く勃起しきった赤い乳肉豆は、夜風を浴びてじくじくイキ痺れを続ける。

 吹き散らした潮が地面に垂れたのも、キツいショーツにパックリと楕円の穴が開いていたからだ。

 娼婦だって舌打ちをするような変態仮装。

 男の語る「辱め」という言葉の重みがボンデージの締め付けとして身体全体に響いてくる。


 だが最も悲惨だったのは、ボンテージに空いた三つ目の穴だ。


「ぐッ‥‥‥ふぅッ❤︎ トリムマウめ、こ、こんなに飲ませていたのかッ❤︎ ふぐッ❤︎ こんなッ❤︎ だらしのない腹になるまで‥‥‥ッ❤︎❤︎❤︎」


 ライネスは唇を歪め、たっぷりと膨らんだ己の腹を見下ろした。

 妊婦かと見紛うような突き出た腹部。

 ボンテージからだぷん、と顔を出し、当人の呼吸に合わせて目障りに揺れる。

 トリムマウから散々飲まされたピンクの汁が、ライネスを妊婦さながらに膨満腹に仕立て上げていた。

 トリムマウに支えられていた身体は、もはや膨れた腹の重さに耐えられなくなっていた。

 ライネスはそのまま、重心に引かれるようにして膝をつく。

 ずっしりと皮膚を引っ張る感触が発情した肉体には程よい刺激を広げてくれる。


「うッぐぉおッ❤︎ ヒトの身体とはふしぎなものだね‥‥‥ッ❤︎ これだけ飲ませられてもッ❤︎ まだ、まだ弾けないのかっ❤︎」


 ライネスは文字通り思い身体を引きずり上げ、壁を支えに立ち上がる。

 足の違和感にふと下を見下ろせば、刺のように鋭いハイヒールを形成されていた。

 ただでさえ重心が前につんのめるというのに、こんな足ではまともに直立することなど叶わない。

 目障りなピンクの輝きに目を向ければ、二の腕までを包み込むラメ入りロンググローブをはめた自分の腕が揺れている。

 肺を圧迫する苦しさと、屈辱を形にしたかのような格好から来る羞恥心で、変態コスチュームを纏った腕が震えていた。

 そこから生まれるピンクの反射は、余計にライネスへ「現実」を叩きつける。


「ぐ、ふッ❤︎ ま、まだまだッ❤︎ ふぐッ❤︎ うぉお゛ッ❤︎ ごンら゛ッ❤︎ ていどでぇ゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 だが、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテはなおもしぶとかった。

 片手を壁に押し当て支えとし、もう一方で重苦しい腹を抱え、よたよたと立ち上がる。

 太ももを先程のアクメの名残がつたい落ち、露出したワレメがひゅくひゅくと痙攣するのがよく見えた。

 ゴム質の圧迫によって強調させられた薄い乳房は、赤ん坊のようなライネスの歩みに合わせて左右にぷりぷり身を揺らす。


 ライネスはゆっくりと歩き出す。

 目的地はわからない。

 時計塔か、屋敷か、それとももっと別な場所か?

 とにかくこの、腹に詰まった「コイツ」をなんとかしなければいけなかった。


「ごれ゛だげの゛ォッ❤︎ ふッ❤︎ う゛ッ❤︎ 悪趣味なへッ、変態魔術だッ❤︎ まだ、油断はできな゛ぃい゛ッ❤︎❤︎❤︎ う゛ふぉお゛ッ❤︎ そう、きゅう゛に゛❤︎ 腹のコイツを‥‥‥でなくても、トリムマウだけでも剥がさなけれ゛ッ❤︎ ば、はぁあ゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 ヒールの刺でタイルを引っ掻き、脂汗を流して腹を抱え、ライネスは壁伝いに進んでいく。

 足元には溢れ出る汗と、零れ続けるアクメ汁が惨めな軌跡を残している。

 腹に溜め込まれたモノのせいか、はたまた一度の絶頂で敏感になっているのか、ライネスに燃える発情の熱は未だ冷めやらない。

 どころか、歩けば歩くほど更なる熱量をもって少女の脳神経を焼き切ろうとせっついてくる。


「ふほッ❤︎ おふぅ゛ッ❤︎ どッ、どふぉッ❤︎ どッがぁあ゛ッ❤︎ ん゛ぅううぅう゛ッ❤︎❤︎❤︎ はやぐッ❤︎ うごげッ❤︎ ごの゛ッ❤︎❤︎❤︎ のろ゛まァッ❤︎ も、もッど、きびきびッ❤︎ うごいてくれなぃがねッ❤︎❤︎❤︎ ふん゛ッ❤︎ うぅううぅうううううううう゛う゛う゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 この場に鏡がなくてよかった。

 この場が、死んだように暗くて本当によかった。

 ライネスが今、自らが浮かべる表情をみようものならば屈辱のあまり心臓を止めてしまったかもしれない。

 身体を揺さぶる快楽に白目をむき、腹部に広がる熱感に汗を流し、ピエロよりおかしな格好で歩くライネス。

 少女とは思えない、醜い雌豚のような唸り声は、そこら中に反響し合っている。

 人払いができていなければ、あらゆる人々が声の原因を目指して顔を向けていたことだろう。

 発情に理性をトばしかけた今、自分自身の痴態を完全に把握し切れていない今だからこそ、ライネスは辛うじて最後の理性を留めていた。

 自分自身が無様の象徴と化していることに気付けないでいられた。


 ライネスは幸運だったと言えよう。

 例え屈辱のコスチュームで腹に異物を満たされ、ヒキガエルのように喘ぎながらよちよちと歩いていたとしても。

 その現実に気付くよりは運が良かったのだ。



「う゛ッ❤︎ ッぐぅうぅう゛ッ❤︎❤︎❤︎ あ、阿保らしいッ❤︎ トイレにでも吐き出せればッ❤︎ ん゛ぎッ❤︎ どれ゛だげぇッ❤︎ らくな゛も゛のがッあぁあ゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 ライネスは最後まで、己の惨めさに気付くことはないだろう。


「ふぅ゛ッ❤︎ んぅう゛ッ❤︎❤︎❤︎ ぐッ❤︎ な、んだ? 腹が‥‥‥ッ❤︎ 腹がぁ‥‥‥?」


 最後、とは彼女があまりの快楽刺激に気を失う瞬間のことではない。


「う゛❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎ ッほ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎ ぉお゛?」


 ライネスという哀れな生き物が、無事にヒトとしての一切合切を捨て去る瞬間のことだ。


「んぎぎぎぎいぃいぃいぃい゛ッ❤︎❤︎❤︎ あお゛ッ❤︎ ぐ、ぐる゛じぃいぃい゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 そしてその瞬間は、とっくの昔に秒読み段階へと入っていた。

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