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広大な牧場からは爽やかな風が吹いていました。

風が僕ら研修生たちの鼻を優しくくすぐり、どこか甘い飼葉の匂いや、草と土から込み上げる豊かな香りを運んできます。

そんな風に乗るようにして、雄牛たちの声があちらこちらから聞こえました。


ポージングをする時の「ムゥッ」というくぐもった声。

興奮したときの「ムホォ♥」という濁った声。

図鑑で読んでいたのと同じで、雄牛たちは朝から晩まで騒がしく、上から下から汁をダラダラ垂らしていました。すべて勉強どおりです。


ただ実物の雄牛は、汗やカウパーの臭いで想像以上に臭かったのを覚えています。





「雄牛たちはこうして広い場所で放牧され、彼らの望むままに生活しています。体を鍛えて、足腰を逞しくして、気持ちいいことを好きなだけ……。雄汁を提供するだけで、彼らは一生ここで幸せに暮らせるんです」

案内を申し出てくれた牧場主さんが柔和な笑みを浮かべて僕たちに語りました。


「しかし、牧場というのは、ただ雄牛たちを放っておけばいいということではありません。それだけでは立派な雄汁を絞ることはできないんです」


僕らは一斉に彼が指さした建物を見ました。


「牧場見学は次で最後です。そして、とても大切な施設を皆さんにお見せします。しっかり覚えて、立派な牧場主を目指してくださいね」





建物の中に一歩入ると、そこは放牧場とは比べ物にならないほど雄牛たちの熱気が籠もっていました。ツーンとくる汗と汁、そして妙な鳴き声を上げる雄牛たちでいっぱいでした。


「さて、ここに隔離された雄牛達ですが……外の彼らとなにが違うか、皆さんにはわかりますか?」


僕らの成長を促すためでしょう。牧場主さんはあえて説明を止めて僕らに質問を投げかけました。


「はーい、鳴き声がちがいま~す」

一人の生徒が簡単すぎると笑いながらクイズに答えました。たしかにコレは容易い内容でした。彼ら見るからに異常をきたしていたからです。





「鳴き声も、表情も…まるで幸せそうじゃありません…! 彼は病気…でしょうか…」

僕は緊張しながら、当時の自分にできる精一杯の推論を述べました。牧場主さんは嬉しそうに、「いやあ惜しい。だけど、とてもいい目の付け所ですね」と仰ってくれました。


雄牛の特徴である幸福そうな笑顔や涎が損なわれた彼らは、僕には病気に見えたのです。せっかく良い体躯をしているのに、彼は著しく品質が落ちているように見えました。


「彼らは病気なんじゃなくって、単純にあるモノが『溜まって』いるんです。それを解消するのがこの施設と、この絞り機なんです。では……これでナニを絞るかわかりますか?」


今度は誰の手も上がりませんでした。

「ああこれは難しかったかな。これはね、彼らから溜まった余計な『ジンカク』を絞るものなんです」





ジンカク? 聞き慣れない単語でした。


「長い間生活している雄牛には、どうしてもジンカクが溜まってしまうんです。それが溜まると余計なことを考えたり、悩んだり、苦しんだりしてしまうんです」

そう言いながら、牧場主さんは雄牛のペニスを撫でました。


「そこで、この装置と我々の出番なんです。この作業は雄牛にはとーっても気持ちいいうえに、使えばすぐに元の元気な雄牛になって、楽しく幸せに放牧場に戻れるんです」


説明をしながら、牧場主さんは透明な大きな筒を取り出しました。

「このデッカイ雄牛の性器からジンカクを絞る人……誰かいますかー」

まるでアトラクション案内のように楽しげな言葉に、今度は一斉に手が上がりました。


そして、僕は見事その権利を勝ち取りました。

大切な借り物の雄牛です。僕は性器を優しく撫でてやりました。





僕はかなり慎重に触ったつもりでしたが、残念ながら雄牛は暴れました。僕が不安な表情を浮かべていたからか、牧場主さんは背中を押すようにこう言いました。


「雄牛は最初は抵抗するかもしれませんが、心配ありませんよ。すぐに素直になります」


僕はその言葉を信じて、ジンカクを搾り取る機械をグッと性器の根本まで押し込みました。初めて触った雄牛の性器は大きく太く、機械越しでもドクン…ドクン…と脈動するのが伝わってきました。


「そうそう 上手上手。うまくいってますよ。優しく声をかけてあげればもっといい具合になりますよ」

「あ、ありがとうございます……! 頑張ります…!」


さすがベテランの牧場主さんはすべてわかっていたようで、本当に抵抗が弱まりました。立派な逞しい筋肉が、ピクピク痙攣するだけです。なんだかとても可愛らしく感じました。





「さ、元気になって、また牧場でみんなと楽しく過ごそうね」


牧場主さんに言われた通りに、僕は雄牛に声をかけてやりました。


「なにも心配ないよ、この牧場がキミのお家なんだ」

僕の声に合わせるようにして、器具からは低く吸引する音がズズズ……ブズズ…と唸り始めました。


「好きなことだけしてていいんだよ」

「元の元気な雄牛になったら、今までよりも可愛がってもらえるよ」


拙い声掛けではありましたが、一生懸命さが伝わったのかもしれません。雄牛は体を仰け反らせて、自分の筋肉を見せつけるようにポージングを始めました。雄牛らしい反応です。

次第に痙攣が大きくなり、雄牛の目が雄牛らしいトロン…と蕩けた良い目になってきました。





機械は順調に動いています。ジュボジュボと汁を吸う音と、それに負けないくらいの雄牛の鳴き声が響いていました。雄牛の腰が揺れて、顔をとろけていきます。表情から険しさが消えて素直で愛らしい雄牛の雰囲気が戻ってきました。


鈴口からは汁がどんどん溢れてましたが、それ以外にも嗅いだことのないようなものの臭いがしました。雄汁とはまた違う、汗を何倍にも煮詰めた、プルプルのゼリーのようなものです。


「あーよしよし、もう手を離していいですよ」

「え、でも、まだジンカク出てきてないです」

「ハハハッ、だいじょーぶ。ここまできたらあとはひとりでに出てくるんだよ、まあ見てなさい」


牧場主さんがそう言ったので、僕は雄牛から離れました。そうして冷静になって見てみると、なるほど牧場主さんの言う通りでした。




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雄牛は腰を振り、体を捩り、そして自分の手で自分の性器を握りしめました。驚きました。あれ程がっちりハマっていた器具が、雄牛が手を動かすとグッポグッポと激しく動き出したのです。本当にすごい力です。

激しい吸引、それがない時間は手の刺激、腰も激しく振っています。


本当に、僕のやることはもうなにもありませんでした。

雄牛は自分に溜まってしまったジンカクを、自分自身で排出しようとしていました。


「へえーおりこうだねえ」

僕がそういった瞬間でした。




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雄牛は激しく鳴いて、プルプルの濃いゼリーのようなものを吐き出しました。それが、初めて見た雄牛のジンカク排出でした。あんな濃くて臭いものがたっぷり溜まっていたのなあ、それはきっと辛いことだったんだと直感的に理解できました。


雄牛の性器から、どるんどるんと激しい音を立てて、溜めてしまっていたジンカクが吸い取られていきます。

出せば出すほど、彼の顔はとろけて、健康的な雄牛の鳴き声になっていくのがわかりました。


そして、とても嬉しそうな鳴き声を上げていました。

僕は「よかったねえ」と何度も何度も声をかけてやりました。

そうすると牛は、とても素直にお礼をしました。




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ジンカク排出が全て終わり、彼はとても嬉しそうに放牧場に戻っていきました。さっきまで暴れていたのが嘘のように、とってもニコニコ幸せそうです。


「キミはセンスがあったねえ。雄牛もとてもスムーズに排出してたよ」


牧場主さんにそう褒めていただいたことを今でも覚えています。御存知の通り、ジンカク排出は誰でもできる簡単な作業なので、これはただ僕の気分を良くしてくれるお世辞だったのでしょう。

しかし単純な僕は、自分には才能があるんだなどと喜んでいました。


しかしながら、それが自信に繋がり、今日に至るまできっかけとなったのは確かです。今では顔も思い出せませんが、彼は私の恩人でした


雄牛たちを幸せにする大切さ。彼らの心とカラダの管理やケア。

牧場主として覚えることは尽きませんが、これから先もきっと頑張ろうと、あの時放牧場を観ながら僕は強く決意しました。



12


おわり

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