ジャスティマッスルズ壊滅!光線銃で一瞬でハイグレ洗脳! (Pixiv Fanbox)
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僕はうぬぼれていた。
何度かヒーローたちのピンチを助けたことで、すっかりジャスティマッスルズの一員のような気持ちでいた。
怪人の弱点や能力が直感的にわかる、だとか。未成熟の生命エナジーがヒーローを復活させる、だとか。そんな手伝いを数回こなしただけ。自分の指示や……ときには命令のような口調で、何十歳も歳上のヒーローたちが動いて戦って活躍する。そんな姿に、興奮していたのだと思う。
実際には、屈強な筋肉の鎧に守られて、助けられて、能力を発揮できるように手伝ってもらっていた。それだけだったんだ。
あの日までは。
「なんだ、こりゃあ……ッ」
最初は雲かと思った。
さっきまで快晴が嘘のように、日が遮られて空気が冷えた。
だけど、空を覆っていたのは水滴の塊などではなく、見慣れない機械に乗った見慣れない戦闘員たちだった。
ずらりと空を埋め尽くす、すごい数の敵。
その全員が、見慣れない光線銃をまっすぐ僕らに構えていた。
「マッスルシアン! 少年を安全な場所へ! この数では――長くは持たんぞッ!」
マッスルグリーンが最初に叫び、巨大なエネルギーシールドを掲げて叫んだ。
その瞬間、大量の光線が雨のように降り注いだ。
「もうやっとるわいッ!」
言葉の通り、僕はシアンの紺色のヒーロースーツに包まれ、ガッシリ太い腕に抱えられていた。一足跳びに屋根の下へ、光線が届くその前に僕はヒーローたちから引き離された。
「シアン、皆を助けないと!」
「黙っとれッ、お前は――今はなんも考えずにわしに掴まっとれ」
いつもぶっきらぼうで不遜なシアンが、いつになく余裕なく僕に叫んだ。
戦闘経験豊富で連戦連勝のベテランヒーローたちだからこそ、五人全員がこの事態の深刻さがわかっていたのだと思う。
けれどその予想は、ジャスティマッスルズの覚悟は、最悪の形で上回られることとなった。
「ぬぁあああぁあああ、ああっぁはぁああ!!!」
「お、オォおホッォオオ、オホオーーーッ!?」
「グリーン! インディゴ!」
ただ引き金を引くだけで打ち出される光線の雨は、屈強なヒーローチームのキャパシティをあざ笑うかのように超えていった。
無敵のシールドを掲げていたはずのマッスルグリーンが、誰よりも正義感の強いマッスルインディゴが、光線に撃ち抜かれて大柄な筋肉を大の字にして仰け反るのが見えた。
「は、ははははっはやく、はやくぅぅぅうにげえあぁがぁぁががががンンン!!」
「オォォオーー、我々はぁもぉぉぉぉもももももうっぉぉぉ―――オホッ!!!」
緑と藍色。自衛官と警察官を思わせるヒーロースーツが、紫とピンクの中間のような光りに包まれている。あの二人が、こんな一瞬で。
「ぐ、スマンッ……後で必ずッ」
「今は躊躇うな、散開だ!」
残るヴァイオレットとホワイトが、熊のような巨体を俊敏に翻して雨から逃れた。
この距離でも、僕の目じゃヒーローたちがどこにいったかわからない。それは戦闘員たちも同じだったようで、掃射がピタリと止んだ。
シン……と、絶叫も発射音も止んで。静寂が戻った。
静かだった。
光線の雨が止み、戦闘員のつくる曇り空が消え、再び明るい光が差す。
春の強い日差しに照らされて、地面に残っているのは二人のヒーローだけ。そのはずだった。
「え……」
「なん、や、ありゃあ」
二人は二本の脚で立っていた。
だけれど、それがマッスルグリーンとインディゴだとは、僕には信じられなかった。
「ハイグレ、ハイグレ!」
「ハイグレ、ハイグレ!」
トレードカラーのヒーロースーツはほとんどなくなっていた。代わりに残っていたのは、それぞれの色の……緑色と藍色の……マンキニと呼ばれる紐のような変態衣装だ。そんな卑猥な格好なのに、二人はヒーローらしい真剣な表情のままガニ股で手を鼠径部に合わせて、シュッ……!シュッ……!っと高速で動かしていた。
「ハイグレ、ハイグレ!」
「ハイグレ、ハイグレ!」
二人は僕らのことなど完全に忘れたかのように、ヒーローであったことなんて夢であるかのように、ただわけのわからない言葉を繰り返し続けている。極小サイズの紐をギッチギチに尻と筋肉に食い込ませて、日焼けした肌から汗をだくだくにじませながら、ハイグレハイグレと連呼する。それしかしない。
「シアン、あ、あれって、いったい」
「わからんッ! わしは、いったい、何を見とるんじゃ――」
僕らが動揺していると、二人は突然同時にコマネチ運動をやめて、ガニ股のポージングでピシッと動きを止めた。
グイっと胸を張り、引き上げた二の腕をムキムキと力を入れて、腹から息の塊を吐き出すように叫んだ。
「正義のヒーロージャスティマッスルズ所属、マッスルグリーン改め、ハイグレ戦闘員マンキニマッスルズ所属マンキニグリーン、ここに参上ッ! マッスルハイグレ、マッスルハイグレェ!」
「正義のヒーロージャスティマッスルズ所属、マッスルインディゴ改め、ハイグレ戦闘員マンキニマッスルズ所属マンキニインディゴ、ここに見参ッ! マッスルハイグレ、マッスルハイグレェ!」
二人はもりもりと筋肉に力を入れたまま、二の腕の太さや大腿筋の力強さを見せつけるようにぐいっと腰を突き出して……そしてまた、ハイグレハイグレェッ!と男らしい声を上げて……コマネチを始めた。
「捕まっとれ、ちょっとトバすで。距離とらなあかんわ」
「――うん」
僕はなにも考えられず、ただシアンに抱えられていた。
頼もしいマッスルシアンの胸板が、今はどこか不安なように鼓動していた。
「「ハイグレェッ! ハイグレェ! マッスルハイグレェッ―――」」
どんどん離れていっても、雄叫びのような二人の声が、僕の耳と……シアンの耳にずっと届いていた。
街は騒然となっていた。
僕らを襲った戦闘員たちが、散らばり次々に人々を襲い始めていた。
かつてマッスルグリーンと呼ばれ慕わていたヒーローと、マッスルインディゴと呼ばれて尊敬されていたヒーローが抗えなかったように、僕の住んでいた街の人々は八百屋さんもスーパーの店員さんもカフェのマスターもみんなみんなあの姿になって「ハイグレハイグレッ」と連呼していた。
マッスルシアンはそんな僕を抱えながら、光のような速さで港まで走ってくれた。ぎりぎりと歯を食いしばり、腕に力を入れながらも、ただ僕を運んで逃げ続けてくれた。
「よし、ここなら悪ゥないやろ」
そしてマッスルシアンは、一つの倉庫の前で足を止めた。
唯一の出入り口である横開きの扉を力づくで開き、キョロキョロと当たりを見回しながら、積まれたダンボールの一つを僕を抱えていない腕で持ち上げた。
ダンボールに隠れていた窓が露出して、僅かな光が差し込んで倉庫を照らす。そのままシアンは、持っていたダンボールを僕にかぶせた。
「フゥ―――」
マッスルシアンが深く息を吐き出すと、水色のヒーロースーツからすごい量の蒸気が溢れた。スーツに備わった冷却装置で、マッスルシアンが体をクールダウンさせているのだ。狭くない倉庫なのに、シアンの体から出た男の汗の臭がツンと充満した。
このダンボールは、……あのおじさんヒーローなりの気遣いで、というやつなんだと思った。よくインディゴに、オマエには『えちけっと』っちゅうもんが欠けとるッ。と叱られていたから。
「新居にしちゃあまあまあの広さやろ、どうや」
「………。うん」
いつもの声色でマッスルシアンは言った。
僕はダンボールの穴から倉庫の中をぐるりと見回した。
壁はコンクリートで、荷物で死角も多い。出入り口は一つで、ヒーローでもなければ開け締めは難しい。鉄格子がついた小さな窓は、まだ半分くらい積まれたダンボールに隠れている。こっそりと外の様子を伺うことができそうだ。
「フゥ――まあ、さすがわしってとこやな」
マッスルシアンは自画自賛をしながら柔軟体操をしていた。水色のテカテカ光るスーツの中で、大きな肩が、分厚い胸板が、割れた腹筋が収縮して、股間の膨らみがテラテラと僕の目の前で動くのが見える。
また外に戦いに行く。そのために冷やした体を……今度は温めているんだ。
「シアン……あの、その水村おじさん」
「――ンッ、……なんや」
僕はシアンの本当の名前を呼んだ。
ジャスティマッスルズの中でマッスルシアンのことだけは唯一、変身前の姿を知っていた。
隣の隣に住んでいる水村のおじさん。普段は大工をしている、角刈り頭の豪快なおじさんだ。人の住む大きな家をいくつもいくつも建てているのに、自分は小さなアパートで暮らしていて、離れて暮らす奥さんやお子さんに沢山お金を送っているのを知っている。
正義のヒーローなのに、うっかり僕の前で変身解除してしまったおじさん。僕がジャスティマッスルズの手伝いをすることを一番反対していたおじさん。
いつも僕にキツイ事を言うけど、お家に遊びに行くと必ずちょっと古い和菓子が出てくる、そんな不器用なおじさん。
――ガキを混ぜるんは反対や。
ジャスティマッスルズの会議の時、あの時……おじさんの言うとおりにしておくべきだった。僕は強くコンクリートの床を見ながら、泣き出しそうな声を出してしまった。
「ごめん、なさい、僕」
「で、なんか思いついたんか。天才少年」
「え」
顔を上げ、ダンボールから体を半分出すと、いつものように腕を組んでふんぞり返った正義のヒーローがこちらを見ていた。
力仕事と実践で鍛え上げた太い二の腕が、ガッチリ逞しく胸板の前で交差している。フンッ、と鼻息を吐き出すと、水色のヒーロースーツが一瞬だけ曇った。
「勘違いしとらんやろな、わしらは――おまえに可能性を感じ取ったから、これまで連れてきとったんや、で、あいつらは今日……逆転の可能性があるから、そんために体張った。必要やったからや」
あいつら。
あの無残な姿に変えられてしまった、グリーンとインディゴの姿が記憶の中に鮮明に浮かび上がる。
ハイグレェハイグレェ! 堂々と叫んでいたあの格好。あんな姿になってまで、僕らを逃がす時間を稼いでくれた。
「弱いから助けただけやないで。オマエが――頼りになるからや」
おじさんは仁王立ちのまま、だけれど最後の一言だけは顔を赤くして、目線をそらして言った。
子供に頼るんはプライドが許さへんけど、ヒーローとして必要な使命や。と、たこ焼きみたいに赤くなった顔は言っていた。
そうだ。
僕は……あれを見た。
あの銃。あの乗り物。あの集団。
しっかり覚えている。
瞬間的に記憶している。
だから、考えるんだ。
そして伝えるんだ。
まだ三人、ジャスティマッスルズは残っている。
レッドはきっと今も真面目に敵戦力の総数を見計らっているはずだ。
大技が得意なホワイトは今頃エナジーをたっぷり蓄えているはずだ。
「わしも作戦考えるんは得意なんやで? ただ、ま、ちいっとばかり熱がこもりやすうて、知恵熱出てまうから、ま、おまかせや」
ポージングをして熱を発散しながら、シアンは冗談混じりに僕を励ましてくれる。
シアンはきっと僕の思いを二人に届けてくれる。
そして、グリーンとインディゴは……きっと正義の心を取り戻してくれるはずだ。
僕は考える。
無敵のはずのバリアシールドも、ヒーロースーツでさえも貫通して、人間を変貌させてしまうあの銃。とてつもないエネルギーだ。それを連射するようなあんなものが、いったいどこからやってきたのか。
「どんな無茶でもええ。その無茶に付き合えるんがわしらや。ガキの無茶や夢を叶えるんがヒーローや。ま、せいぜい有効活用できるもん思いつきぃや」
正義のヒーローはぶっきらぼうに。僕の緊張をほぐしてくれる。
僕はダンボールから出ると、いつものようにグルグルと考えながら歩き始めた。
集中だ。集中だ。
「おうおう、始まりよった。ハハ、頼むでぇ」
あそこまで近づいてきたのだから射程距離は――。
チャージ速度は――。
あそこで一斉に引いたということは、判断力に優れた司令官の存在が――。
では連絡と統率はどうやって――。
そうだ、あの戦闘員たちの装備に、小さいけれど通信機のようなものが――。
「水村おじさん、もしかしたらだけどッ!」
「ハイグレ、ハイグレ!!」
僕は振り返った。
そこには水色のマンキニ姿で大きく下品なガニ股でハイグレを連呼している……水村おじさん……マッスルシアンがいた。
「え」
ほんの一瞬の光。
窓から……射線が通っていたのだ。
ダンボールをほんのちょっと動かしたから。
僕を励ますために、そこに立っていたから。
「ハイグレ、ハイグレ!」
マッスルシアンは、光線に撃たれた。
そして、一瞬で。
ハイグレ人間に洗脳されてしまった。
「みず――あ、ま、マッスルシアッ……」
「ハイグレ、ハイグレ!」
さっきまで僕を励ましてくれていた口は、ただハイグレハイグレと繰り返し叫んでいた。
ヒーロースーツにピッチリ包まれていた体は、脇毛や陰毛、尻の毛まで丸出しの変態マンキニ姿になっていた。
ガッチリ組んでいた腕は、股間のもっこりに触れるか触れないかの位置を何度もこする、すさまじく俊敏なコマネチを繰り返していた。
スーツにピッチリ覆われていた指先が露出して、ピンと真っ直ぐ伸びて股間のあたり擦り上げて……そこで結婚指輪がキラキラと光っていた。
ただ、ヒーローらしい真剣な眼差しと大工らしい厳めしい顔だけがそのままで、だからこそより一層、首から下、首から上が、別物のようで……ひどく滑稽で、卑猥で、無様で、プライドゼロの変態姿に変わり果てていた。
「あ、ああそんな、し、しっかり、しっかりして! マッスル――水村おじさん」
「ハイグレハイグレ!! ―――ハイグレ!!」
僕は思わずなんの策もなく、コマネチを繰り返すマッスルシアンの腕にすがりついた。
さっきまで僕を抱きかかえて全力疾走していた腕は、躊躇うことなく僕を弾いた。
「あッ!」
「ハイグレ、ハイグレ!」
そしてまた、マッスルシアンはハイグレのポーズ。なんの意味もないコマネチの動作を繰り返し始めた。
淀みなく。何度も、何度も、何度も何度も。何度も。
「あ、あ……ああ、あ……あ………」
僕は何も言えず、何も考えられず、ただマッスルシアンが変態に成り下がってしまったのを見るしかなかった。
「ハイグレ、ハイグレ!」
あの時は遠くてわからなかった。……股間がグングン大きくなっている。水色に覆われた立派で男らしい膨らみが、コマネチの動きのたびに、ニョキ……ニョキっと……より大きく力強い雄の勃起に変わっていってしまう。グイグイ収縮する生地に、立派なテントを作ってしまう。その先っぽに、臭い染みがじわじわ広げていってしまう。
この距離だから、全部見えた。見えてしまった。
「ハイグレ、ハイグレ! …………」
そして、マッスルシアン――水村おじさんはピタリと動きを止めた。あのときのグリーンとインディゴのように。
「だ、駄目だ! シアン、駄目だ!!」
僕の声は届いていなかった。
ガチガチに勃起した股間が、プルプル限界間近のように震えていた。腕の筋肉が強調される。逞しい胸板が突き出る。息をスゥっと深く吸う。
そして、マッスルシアンは叫んだ。
「正義のヒーロージャスティマッスルズ所属、マッスルシアン改め、ハイグレ戦闘員マンキニマッスルズ所属マンキニシアン、ここに推参ッ! マッスルハイグレ、マッスルハイグレェ!」
あのときの二人のように叫んで、腰を突き出し筋肉を見せつけ、今まで以上に男らしくて……だからこそ情けない格好でコマネチを始めてしまった。
ブルン。
っと、巨大な肉棒がマンキニからこぼれた。ヒーローであっても清潔にしきれない、精液の塊や汗でねっとりと汚れた男性器が、コマネチのたびに上下にブルンブルンと揺れていた。
「し、あん………」
「ハイグレ、ハイグレェ!!」
低く強い雄叫びが倉庫の中に響く。
その力強さが、伝えていた。
完全に、終わってしまったのだと。
「ハイグレ、ハイグレェ!!」
おじさんの顔は真剣そのものだ。だけど、興奮と快感で鼻水が垂れて、ヨダレが垂れて、血行で首まで赤くなっていた。
「ムム、マッスルハイグレ指令受諾ッ! マンキニマッスルズ所属マンキニシアン、ただ今向かいますッ、ハイグレッハイグレマッスルハイグレェッ!」
おじさんは誰にともなく筋肉見せつけポーズをとると、くるりと180度回転し、僕に紐が食い込んだ尻を見せつけながら歩いていってしまう。
「マッスルハイグレェェ………!!!」
そのまま扉へ向かうと、異常な掛け声のまま、固く閉ざしていたそれをなんの躊躇いもなく力任せに開いてしまった。
「こちらに未洗脳者の少年がおりますッ! どうぞ戦闘員の皆様、こちらでございます、ハイグレ、ハイグレェッ!!」
外に出たおじさんが晴天の大空に向かって、僕の存在を叫んでいるのが見えた。
おじさんは振り返ることなく、ただ僕に背を向けたままハイグレを繰り返していた。
マッスルシアン。
どんなときにも頼りになる、ジャスティマッスルズの特攻隊長。男気と勇気でどんな困難も切り開いてきた、僕の憧れの正義のヒーロー。
「水村……おじさん………」
「ハイグレ、ハイグレッマッスルハイグレェ、どうぞ次のご命令を! なんなりと、なんなりと! ハイグレ、ハイグレ、マッスルハイグレッ!!」
そして見えた。
おじさんが、光線銃を手渡されているのが見えた。
マッスルシアンが振り返るのが見えた。
おじさんは自分の勃起した股間に光線銃をスリスリと擦っているのが見えた。
マッスルシアンの勃起した雄棒が怪しく輝くのが見えた。
おじさんが大きな口を開くのが見えた。
マッスルシアンが勃起した股間を僕に向かって真っ直ぐ向けるのが見えた。
「マッスル洗脳光線、発射いたしますッ、発射、発射、発射ァ――ハイグレェッ!!!」
そして
――――。
こうして。
僕は。
マンキニマッスルズ五人のご主人様となった。
考えてみれば当たり前だ。
街の人々はすべて洗脳され、ハイグレ戦闘員として新たに定められた人生を送ることになる。といっても、多くの人は労働などという前時代的な楔から開放され、ハイグレによってエナジーを生み出す崇高な存在へと昇華するのだから、労働力はごく一部で事足りる。
ごく一部。
人のために働くことが大好きで、筋肉自慢で、頼りがいがある。そんな人間と、それを扱うブレイン。
つまり、かつてジャスティマッスルズと名乗っていたあの五人と、僕だ。
正確には選ばれたのは僕だけだったのだが、新たに名も知らない労働力をいただくよりも、多少知っている雄達のほうが扱いやすいから、より効率的だから、という理由で僕がマンキニマッスルズを指名してあげた。
マンキニマッスルズ、と名乗るようになった五人は、僕に忠実だ。
僕の命令は絶対だ。なにせ一瞬の洗脳により脳細胞や思考力が極端に減少してしまった部分を、僕が補ってあげているのだから。歯向かうとかそういう次元の話もない。
うぬぼれた筋肉親父たちを、利口なハイグレ戦闘員として活用するのはすこしばかり大変だけれど、やりがいのある仕事だ。
他のハイグレ人間より汗臭くて、チンポ臭くて、ハイグレコールが大声なので大変な仕事だけど、やりがいがある。
「ハイグレェハイグレェッ! 司令官殿、なんなりとご命令を! ハイグレ、ハイグレ、マッスルハイグレェッ!」
「ハイグレェハイグレェッ! ご主人様、なんなりとご命令を! ハイグレ、ハイグレ、マッスルハイグレェッ!」
「ハイグレェハイグレェッ! 旦那様、なんなりとご命令を! ハイグレ、ハイグレ、マッスルハイグレェッ!」
「ハイグレェハイグレェッ! マスター、なんなりとご命令を! ハイグレ、ハイグレ、マッスルハイグレェッ!」
「ハイグレェハイグレェッ! マイブレイン、なんなりとご命令を! ハイグレ、ハイグレ、マッスルハイグレェッ!」
一糸乱れぬハイグレを繰り返す、ズラリ並んだ五人の屈強で馬鹿でチンポな筋肉ハイグレ人間たち。
ハイグレ戦闘員マンキニマッスルズ。
それぞれのマンキニを食い込ませて。
今も僕の命令を待ってチンポを熱くしている。
しかし、労働力としては最良という僕の判断は間違っていなかったが――一つだけ計算外だった。
「おい」
「ハイグレェ、ハイグ―――おごぉおッ!!」
「臭い。ちゃんと洗えって何度言わせるつもりだ、シアン」
「ハイグレェ、ハイグレェ、もぉぉおおしわけありませんッ! ハイグレェハイグレェ!」
ヒーロースーツを身にまとっていたからわからなかったが、なんとこの五人、全員のチンポが特別臭くてデカくて厄介だったのだ。とくに、かつて僕を洗脳したシアンのチンポは臭かった。しっかり朝晩洗えと命令しているのに、まったく何度叱っても覚えやしない。デカイだけの大馬鹿チンポめ。
「まったく、また指導が必要だな」
「よろしくお願いいたします、司令官殿ッ、ハイグレェ!!」
一瞬の雨の後は、とてもよい気分だ。
雨降って地固まるという、使い古された言葉がもっとも的確だろう。
僕らのいびつだった関係は、今は見事な形で完成しているのだから。