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なにかがおかしい。

もう一度。もう一度頭から考えてみるしかない。

文字通り頭から。全身、この筋肉の何がおかしいかをじっくり、しっかり、見つめ直してみる。それしかねえ。

俺は部屋の壁に飾った姿見に自分を写して、ダブルバイセップスのポーズをとった。

かなり大きなサイズの全身鏡に、圧倒的な筋肉男が映っていた。

筋肉の繊維が浮き出た男臭い顔立ち。

じっくりとタンニングされた黒い肌。

力強い張りのある上腕二頭筋。

隆起した岩肌のような僧帽筋。

くっきりと存在感を放つ三角筋。

二つの分厚く頼もしい大胸筋。

陰影のクッキリついた腹直筋。

男らしく反り返ったビンビンの勃起魔羅。

静かな圧力を湛えた大腿筋。

やはり、ひとつだけわかる。

こりゃあ最高だ。

俺は――今が全盛期だ。そして明日は――きっともっと。

「ハァハァ……あぁぁすげえ」

俺はうっとりと自分のバキバキの肉体を見つめた。

ボディビルダーとして、あれほど伸び悩んでいたのが嘘のような、この破壊的な筋肉の魅力はどうだ。おかしい。などと考えることがそもそもおかしい。そう思えてくる。

「ハァハァ、やべえ、すげっ、う――おぉッ」

俺は一度力を抜いてから、再度グッと腕を握りしめた。二の腕を力強くパンプさせる。鏡に写った俺が、俺自身を挑発してくる。

ドクンドクン、血が滾る。筋肉が怒張し、ポンプのように血流が流れていく。

ヒクリヒクリ、魔羅が上下に揺れる。ねっとりとした先走りが垂れてくる。

完成されたこのバランス。俺は呻いた。自分の雄に圧倒されちまったのだ。

「おっおっーー!」

つい鼻の下が伸びる。顔に力が入る。

……興奮しちまう。

だが、これは仕方がない。

朝に飲んだサプリメントの、ほんのちょっとした副作用だ。

男らしさを際立たせる以上、こうなっちまうもんはしょうがねえ。

「しょーがねえ、だろッ、なあ、こんな、ハァ、ハァッ!」

あのサプリを飲んでから、俺の筋肉は最高潮だ。

筋トレの集中力は増し、他への欲求が下がり、ただ自分を鍛えるそのことだけに一本一途に突っ走れる。その結果が、この筋肉だ。

少しばかりの違和感なんざ、どうでもいい些事だろう。

俺はすっかり違和感のことを放り出して、ポージングをキメる俺に見惚れていた。

――最初の一錠は随分と躊躇ったものだった。

あれは今から一週間ほど前だった。

思うような結果に至らなかったコンテストの帰り道。名も知らぬファンに声をかけられた。

薬物ではなくサプリメントとは聞いていたが、それでも出処が不確かな薬品を体内に入れるのは、食事の栄養素も細かく管理しているボディビルダーにとってはなかなかリスキーで不安なものだ。

しかしである。

藁にもすがる思いだった。

当時の俺は、とにかく伸び悩んでいた。

鏡を見ればいつも変わらぬ自分の肉体があった。それは常人とは比べ物にならないほどバルクアップされた肉体だ。厚着をしていてもクッキリとわかる筋肉。変わらぬ美しい肉体美。数多くの人間を魅了してきた自慢の筋肉。

――と、俺をよく知らない人間ならば、言うだろう。

だが、俺自身はこの変わらなさに焦っていた。

デカさが足りない。キレが伸びない。そう、完全に伸び悩んでいる。

変わらないことは衰えと変わらない。

耐え難かった。ボディビルダーとしてここで終わりにはしたくなかった。

だから手を出した。

ポンプ。だとか呼ばれていた。ボディビルダー専用のサプリ。

男らしいボディビルダーにこそ使ってほしいと、会場で出会った常連のファンは言っていた。

――そういえば、アイツの名前はなんだったか。名刺を受け取り、名前も聞いたはずだ。身分を明らかにし、万が一のときには連絡してくださいと言われたから、俺は意を決してこのサプリを使い始めたのだ。

なんだっけ。あの笑顔になぜ違和感を感じた。昨日も今日も、鏡を前にした時に……なんだか妙な違和感を抱えたのはなぜだったか。そしてなぜそれを忘れたんだっけか。

なんだ、どうした。 なにか、みょうだ――――

「ヌ!?」

そこで俺は気がついた。

ポージングが精彩を欠いている。

迫力が落ちている。筋肉の輝きがくすんでいる。馬鹿野郎。………。今何を考えていた。俺が一番大事なのは、なんだ。

ボディビルダーにとっていちばん大事なこと、それは……己の筋肉だ。

ポージングの力強さが落ちてるじゃねえか。

「ふっ、おぉッ、そ、そうだ、コレコレッ、もっと、もっとだァ」

俺は考え直し、まとまらない思考を放り出し、慌てて自分の肉体に集中した。

再び自分の筋肉とポージングを際立たせる。

ダブルバイセップス。逆三角形の逞しい雄のカラダが強調される。

鏡の中に映るのは、男の中の男。

「ン――うっぉお!」

筋肉の繊維が浮き出た男臭い顔立ち。

じっくりとタンニングされた黒い肌。

力強い張りのある上腕二頭筋。

隆起した岩肌のような僧帽筋。

くっきりと存在感を放つ三角筋。

二つの分厚く頼もしい大胸筋。

陰影のクッキリついた腹直筋。

男らしく反り返ったビンビンのデカくて立派なガチガチ臭う勃起魔羅。

静かな圧力を湛えた大腿筋。

その瞬間、やはり全身に……魔羅を擦ったときのような快感が走った。

魔羅。ああ、魔羅だ。

――まるで、魔羅になったみたいに、筋肉が怒張する。これだ。きた。ゾーンに来た。また来た。今日も来た。成長する。ビルダーとして一歩先に伸びる。育つ。膨れ上がるッ!

「う―――おぉおイイぞぉ、いいぞォ俺ェ!!」

頭の片隅に残っていた違和感、恐怖? そんなようなものが消し飛ぶのがわかった。

筋肉に押しつぶされれ、そんなものは消えた。

筋肉に圧迫されて、思考が追い出された。

頭に詰まっていた血が、全部筋肉に流れていく。

くらくらする。自分のガタイにくらくらしちまう。

圧倒的筋肉。この肉体美。雄。強い。逞しい。デカイ。キレてる。美しい。

ぼーっとする頭の中で、俺を称賛してきたいくつもの声がこだまする。

「ふぅー、コレッ、コレだッ、たまんねえッ!!」

心臓が激しく音を立てている。血が全身に――頭以外の全部に流れ込んでいく。膨らむ。体がガチガチにパンパンに膨らんでいく。

「すゥー………ッ! うッ!!!」

鼻から息を吸うと、焦げ臭いような汗の匂いと、魔羅から溢れてくる生臭さが混じり合って脳天に突き刺さってきた。

ドクン

ドクン

激しく心臓が鳴った。

腰が揺れる。魔羅が振れる。空気に突き刺さっているガチガチの勃起魔羅が、筋肉でギュウギュウ締め付けられているように気持ちが良くなってくる。体の中央に鎮座している魔羅が、俺の顔以上にデカイツラをして上下に動く。

ダブルバイセップスのポージング、両腕を強調するそのポーズを完璧なものにするかのように、中心で一本の竿がビンと真上に勃ち上がる。

魔羅も筋肉。男の象徴。

コレ起こそ俺の、ダブルバイセップス。

「おぅッ、おぅっぅうッ!!」

認めた瞬間、快感が爆発的に膨れ上がった。

それだけじゃねえ。このポージングをキメた俺の筋肉が、ビンビンに勃起してくる。まるで魔羅だ。気持ちいい。ポージングが気持ちいい。雄になるのが気持ちいい。力を込めると、魔羅をヒクヒクさせたときみたいな甘い刺激が全身に掛かってくる。鍛え上げた筋肉が全部魔羅に変換されていく。雄の塊になっちまう。

筋肉も魔羅。筋肉こそ男。魔羅こそ男。

マズイ。ああ、出る。また出る。また着やがった。

また、ポージングでイッちまう。

「ウォッ、ウォッ、ぬぉぉおおーっ!!」

俺の口がすぼまり、尖り、涎が垂れた。

瞼が垂れて、目が中心に寄る。

「ホ……ォ、ホォォォッ、で、ちまッ、う……うォォッッ………!!!」

ダブルバイセップスのポージングのままブルブルと痙攣した。

射精直前の魔羅がさらに膨れるように、筋肉がパンパンに怒張する。イク。イク。イクイク。イクぞ。これはこのままイッちまうぞ。

魔羅――魔羅だ。俺の筋肉が魔羅に――アレになるアレ……ッ、チンポになるッ!

「チ、チンポォォッッ!!!」

そうするのが当たり前のように、口が動いた。

その瞬間、自分をチンポと言った瞬間。俺はダブルバイセップスのポージングのまま射精した。

「ウォォオオオッホォオオッッ!!!!」

筋肉に押し出されるように俺の魔羅から精液が噴き出す。

尿道がガチガチに圧迫されている。圧縮された雄汁はすごい勢いだ。鏡に向かって、どろどろのくせしてすげえ激しさで雄汁が出続けている。

男臭い力強さと、激しい鋭さ、まるで俺の筋肉のような雄汁だった。

「ハァハァッ、ハァッ、ハァッッ!! ………ハァ」

ああ、イッちまった。

また今日も、ポージングの確認のまま、イッちまった。

俺はガクガクと痙攣しながら、自分の精液を見つめた。

鏡にぶちまけられたそいつは、なかなか垂れ落ちないでじっとりと俺の胸板あたりでテカッている。

まるで俺自身がぶっかけられちまったみたいだ。

それは、なにも錯覚だけじゃない。快感がねっとりと全身に絡みついていた。それに、全身から雄汁の臭いがする。鍛え上げた筋肉の一つ一つからも、濃い雄の臭いがプンプンしている。

俺の魔羅、俺の雄汁、俺の筋肉、全部が一つに混じり合っているかのような、そんな気がする。そして、それがまた気持ちいい。

「なに、かんがえ、てたん、だっけかぁ………」

なにか……考えていたような気がする。

だが思い出せない。思い出せないということは、どうでもいいことなのかもしれない。ただ、今日も最高だった。今日こそ最高だった。

筋肉は育ち、魔羅はデカくなり、雄は極まっている。

なにも、変なことはねえ。俺の望む通りに変わっていっている。

俺はゆっくりとポージングを解いて、汗だくの体をゆっくりとストレッチしはじめた。指先を伸ばすと、やはりじんわりとした気持ちよさが頭に響いた。

鏡の前には、数日前から吐き出した雄汁が痕になっていた。

………この一番下のが四日前、こっちが三日前、二日前、一日前。そして今。どんどん位置が高くなっている。魔羅の角度が上がり、そして……。

「デカくなって、やがる、へへ」

俺の筋肉と同じく、魔羅もこの数日で急速にデカくなっている。

なにかがおかしい。

――いや、しかし、だ。ここ数ヶ月、まるで伸び悩んでいたことの方こそおかしいんだ。コレこそが俺の実力。これこそが俺の筋肉の本当の姿だ。そうだ。………。いや、今は魔羅のことを考えていたんだった。

――まあ、どっちも……同じようなものなのだから、変じゃねえだろう。

「これが俺――これが、俺、へへ……」

俺はニヤけながら、最後にもう一度自分の筋肉をヒクヒクと動かした。

あぅ、と声が上がるほどの快感が胸板の中から弾けた。

それからも俺はサプリを飲み続けた。

毎朝起きてすぐ、鶏むね肉と特製スムージーと一緒にゴクリと飲み干し、体を鍛えて、そして鏡の前で今日の成果の確認をする。

そのルーティーンが完成されていた。

平均的な魔羅だったような気がする俺の股間は、今ではビルパンに収めるのも困難なほどに平常時からデカくなってきていた。

少し触るだけで、射精寸前のように気持ちがいい敏感な魔羅になっていた。しかしそれでも、魔羅を触ることは格段に減っていた。ビルパンに収めるときと、小便をするときくらいしか触らない。気がつけばもう何日も魔羅を扱いていない。その必要がない。

いつものように、自分の体の仕上がりを見るだけで十分すぎる快感が味わえるからだ。いやむしろ、情けなく自分の手でスコスコ擦っていたことが、まるで嘘のように感じられる。そうだろう。俺のような男の中の男は、筋肉だけで射精するほうがよっぽど相応しいからだ。

そうやってズリを扱く無駄時間が消えて、そのぶん筋トレの時間やリラックスに、そしてなによりポージングのチェックにストイックに当てられるのだから、何から何までいいこと尽くめだ。

「――ああ、そろそろ、買い出し、だな」

しかし問題もあった。俺は冷蔵庫を覗きながら呻いた。食料が尽きそうだ。

気がつけば、ホームジムとベッドとキッチン、そして鏡の往復でもう何日も経っていた。

自分のストイックさに驚いてしまう。そして、あのサプリの効果にも。

「仕方がねえ、服………着るか」

俺はため息をつきながらクローゼットを開いた。

「ふぅ……ふぅ……!」

俺は鼻息荒く街を歩きながら、ジロジロと突き刺さる視線を感じ続けていた。

ビンビンに見られている。

すれ違った人間が、だいたい振り返って俺を見ている。足音でわかる。気配でわかる。窓ガラス越しにそれが見える。

「あぁ……く、そッ……ッ、みんな、みんな、見てやがる」

成長は著しかった。

収納していた春服の殆どが駄目になっていたのだ。

なんとか着れたのか伸縮性抜群のコンプレッションウェアか、露出の高いタンクトップくらいだった。それでも上はまだいい方だ。問題なのは、下の方だった。

脚が入らないのだ。どの服もまるで子供用のように小さかった。必死に探して、ひっくり返して、その中でなんとか使えたのは以前バカンスの際に半分ネタでかったギリギリのホットパンツくらいだった。

ジーパン生地の短いパンツで、パンパンに膨れ上がった大腿筋が丸見えになるくらい短かった。トランクスなんぞ履いていたら全部はみ出ちまいそうなサイズだ。

俺はビルパンとそれを組み合わせて、なんとか外に出た。

筋肉の塊のような大男が、体を露出しまくった姿で往来を歩いている。

まだ長袖を着ているような季節、こんな姿をしているやつは俺以外に一人もいない。だれもが珍しさに目をやり、そして俺の筋肉に圧倒されて凝視する。子供も、大人も、男も、女も。

俺は窓ガラスを通るたびに、自分の姿を確認した。

こりゃあ見るのも仕方がない。自分自身でも納得しちまうような筋肉の塊が歩いている。

この膨らみ。巨大な筋肉。巨大な魔羅。巨大な雄。

ああ、マズイ。またポージングしたくなっちまった。こんなふうに適当に脱力している姿じゃ、俺の筋肉の良さは100%は伝わらない。こんなもんじゃねえんだ。もっとすげえんだ。もっと見てくれ。もっと見やがれ。俺の筋肉。俺の魔羅。俺の雄力をもっと、もっと。

「あ、少し、だけ、だぜ……少し……だ」

窓ガラスに反射する俺があまりに請うもんだから、俺はほんのちょっとだけ自分を甘やかしてやることにした。

ほんの試しの軽いサイドチェスト。

胸を強調し、肩と育ち具合や脚のバランスを見るポージング。体の厚みは最高だ。横向きになった股間の膨らみも。ああなんてデカさだ。体のサイズに負けてねえ魔羅だ。肩の丸みのようにゴロゴロとした膨らみが股間にもっこり膨らんでいる。すげえ、すげえ。なんて男がポージングしてやがるんだ。ああ、たまんねえ。見ろ見ろ、もっと見ろ。見てくれ。見やがれ。俺を。俺を。俺の筋肉を。俺の魔羅を――

「あ、くッ、マズッ!!」

ポージングをキメた時から、完全に俺のスイッチは入っていた。コレまでとは比べ物にならないほどの興奮が俺の頭でビンビンに反り返っている。

脳がヨダレを垂らしている。筋肉が勃起しはじめた。ずるずる魔羅が角度を変えて、パンツから飛び出そうとしやがっている。

射精の準備だ。

準備をしろ。

魔羅からそう命令がくだされた。

俺の脳に指令がくだる。

――逆らえるか。

逆らえるわけがねえ。

魔羅の命令だ。

筋肉が従うって言っている。

俺の脳は、この三つの中じゃどう考えても、一番下。

従うしかねえ。魔羅に。筋肉に。俺の――チンポに。

「ハァハァッ!」

ボタンが弾け飛んだ。魔羅がデカくなってくる。

ホットパンツの中から今でもはみ出しそうだ。

射精してぇ、思いっきり顔をヘロらせて、股を開いて、ポージングのまま射精してぇ、だがここには人が大勢いる。それは駄目だ。それは避けるんだ。俺は命令には従ったまま、それでもなんとか慌てて路地裏を通り、近くの公衆便所に走った。

個室。個室。

一人になれる場所を探す。

だが駄目だった。

便所に入ってすぐ、俺は鏡を見てしまった。

窓ガラスとは比べ物にならないクッキリハッキリ自分を映す鏡。この狭くて汚い公衆便所の中で、一際異彩を放つこのガタイ。

「ああ、たまんねッ!」

俺は再びサイドチェストをキメた。

ぶちん。

小さな音がして、ホットパンツが弾け飛び、ビルパンが緩み、俺の魔羅が飛び出した。

「うぉぉお、デケえッ!!」

まるで会場の観客のように、俺は自分で叫んじまった。

それだけ、その魔羅はデカかった。

鍛え上げた俺の前腕筋にも負けない、ガッチリ血管の浮かんだバキバキの魔羅だ。

「デケえ、デケえッ、デケえッ、俺の、チンポッ!!」

チンポ。

そう言うと、頭の奥で脳が筋肉と海綿体に変換される。そう、脳がガチガチに勃起する。

「おほっぉおおっ、チンポォォッッ!!」

グングンとチンポが怒張する。

それと同時に頭が勃起し、筋肉が勃起し、俺の全身が変態する。

ほとんど裸同然の大男が、こんな場所でポージングをキメている。

たまんねえ。たまんねえ。

僅かに着ただけの服が擦れて気持ちいい。始まる。始まっている。筋肉がまた魔羅になってくる。魔羅と同じく勃起していく。勃起筋肉。勃起魔羅。服が擦れる。空気で擦れる。気がイッちまうほどに気持ちいい。

「うわ――!」

突然、左側から声がした。

公衆便所に入ろうとした誰かが、俺の姿を見たのだ。

俺の勃起、俺のポージング、俺の射精寸前の――チンポを。

「あ、ああぁ、はぁぁ!! あああやっちまった、やっちまったぁああ、ああ、すげえ、すげええ、俺、すごすぎるぅぅうッ!!」

やっちまった。

後悔するより先にチンポが膨れ上がった。そして射精した。

グッと力こぶを作るみたいに、魔羅が角度をつけたその瞬間に雄汁が飛び出した。

見られた。このポージング。この射精。この男らしすぎる姿。

俺は家と同じく鏡に向かって大量の雄汁を吐き出した。

「どうだ、どうだ、すげえだろ、すげえ、すげえ、オホォ、すげええ、俺の筋肉ぅぅぅう俺の魔羅ぁぁぁああ、あああぁぁ、イグゥ、またイグゥゥウ!!!」

心臓が高鳴る。胸の両端が気持ちいい。

ああ、また俺のガタイが成長していく。

それがわかる。

それが気持ちいい。

止まらねえ。

まだ聞こえる距離にいるかも知れねえのに大声出しちまう。

もっと見てくれ。もっと見やがれ。

そういうみたいに寄り目かましたままイッちまう言っちまう。

「スゲェ……スゲエェ……とまらんねえぇ……」

全身がパンプアップしている。ついさっきより筋肉がデカくなっている気がする。筋肉だけじゃねえ。魔羅もだ。魔羅もデカくなっている。

ああコレじゃあ収まらねえ。パンツに入らねえ。

「ハァハァ……たまん――ねぇ……スゲエぇ❤」

俺はそんな絶望的な状況なのに、ニヤケヅラが止まらなかった。

結局、俺は夜中になって人がいなくなるまで便所でポージングを続けた。

暗い道をビルパン一丁のマッチョ姿で走って、なんとか逃げ隠れるように家にたどり着いた。

それから俺はネットで大量の食料品を買い込み家にこもった。

別に後ろ暗かったわけじゃねえ。

ただ、気がつけば何日も経っていたのだ。

筋肉を育て、それを確認する。

ただそれだけで至福の時間が過ぎている。鏡を見ているうちに、時間なんていくらでも溶けていった。そのために筋トレするのも、ひとつも苦しいことはなかった。

俺は筋肉の奴隷だ。魔羅の言いなりだ。俺の脳味噌は体を動かすためのひとつの器官でしかねえ。俺の主役は、もう……頭には入っちゃいねえ。

「どうだ、なあどうだ、昨日の俺よぉ」

俺は昨日吐き出した雄汁を睨みつけながら、ガニ股でアブドミナルアンドサイをキメていた。

露出した腋、強調される胸板、そして腹筋の前でビクンビクン脈打つ下品魔羅。

すげえ変態的なポージングだ。それを見るだけで、もう脳はよだれタラタラ、鼻下デレデレ、先走りなんかダラッダラだ。

「うぉぉぉ、か、勝てねえ、昨日の俺よりずっとデケえッ!!!」

俺は昨日の俺を代弁し、自分の魔羅と筋肉に白旗を上げた。

つまり、一発射精しちまった。

ドプッと一発、軽い射精。この程度、文字通り朝飯前だ。

この征服感と敗北感。そしてそれ以上の勝利と達成感。

屈辱と栄光を同時に味わう最高の時間に、朝も夜も関係ねえ。寝て起きちゃ俺は鏡の前で射精して、痙攣し、ヘロ顔を晒し、汗だくのままぶっ倒れる。そうしてブルンブルン揺れるデカマラを抱えて眠って、また起きて、同じことを繰り返す。

だが、一つとして同じ一日はない。

一日に一日、自分の成長を感じ取るのだ。

前腕ほどあった魔羅は、気がつけば腹筋がすべてを隠すほど、二の腕ほどに膨れ上がって、そこから更に成長し、今では俺のどの筋肉よりぶっといデカイとんでもねえ巨根に育った。

だが腹筋が見えないわけじゃない。巨根を支えるこの筋肉もまた、魔羅に相応しいほど立派に育っているからだ。

「おっ、オッ!! どうだ、どうだ、この動きぃ」

俺はガニ股のまま魔羅を激しく上下に動かした。

筋肉だけで魔羅が真横を向いて真上を向いてと激しく動く。動かせる。

なんて魔羅に相応しい筋肉だ。いや、筋肉に相応しい魔羅か? ああ、どっちでもいい。きっとどっちもだ。俺は魔羅で、俺は筋肉。それでいい。それがすべてだ。

「へ、へへ、俺、魔羅、魔羅か……チンポ、ってことかぁ、俺、あ゛❤」

いけねえ、またイッちまった。

うかつにチンポなんて口にしたら、その卑猥さですぐイッちまう。

最近は脳味噌筋もガッチガチに鍛えているせいで、ちょっとの刺激で頭の奥も気持ちよくなるようになっちまっていた。

それだけじゃねえ。

魔羅がでかくなるのを止められないように、俺が魔羅になるのも止められない。

胸板からもダラダラと透明な汁が垂れている。こいつは汗じゃない。

俺の両乳首は、もう軟弱な飾り物じゃない。

敏感になった全身でも、ここは特に影響が強い。そうここは二つの魔羅のように強く逞しくなっていた。

「オッ、オッ!! オッ!!」

胸板を左右交互に動かすだけで、魔羅を二本ブランブランさせているように気持ちがいい。

そうだ、こいつは魔羅だ。俺の胸板についた二本の魔羅。

俺には三本の魔羅がついている。いや、俺自身を含めれば四本なのか? それとももっとか、この逞しい二の腕も魔羅な気がする。このぶっとい両足も魔羅。全部だ、全部魔羅だ。ああ、わけわかんねえ、足し算もうまくできねえ。わかんねえ。

「へ、へへ❤ へへへえ❤」

俺は自分の魔羅を見せつけ、見せつけられて、そんなポージング姿にまた頭がイッちまいそうになった。

ポージングで自分を見せつける。

それが最高に気持ちいい。

自分の筋肉を締め上げる。自分の魔羅を締め上げる。自分の脳を締め上げる。

負荷によって筋肉が育つように、負荷で俺の雄がどんどん膨れ上がっていく。

デケえ。デケえ。なんてデケえチンポだ。

「おっぉぉおおおッ❤」

両胸と股間のチンポがビクンと痙攣するのがわかった。

そういえば、もう随分とサプリを飲んでいない。

もうその必要もなくなっていた。

「ハァハァ、くるぞおお、一番いいサプリがクルぞぉおお、おぉぉ、受け止めろおぉお、受け止めやがれぇ!」

「おう、くれ、くれッ、サプリくれええ! 男のサプリくれええッ!!」

鏡の向こうの世界最高の男が、鏡の前の世界最高の男に宣言する。

俺はアブドミナルアンドサイのままぐいっと更に深くガニ股になった。

ああすげえ、男臭え、デケえ、キレてる、最高だ、暴力的だ、こんなもん誰も勝てねえ、どんな鍛え方したんだ、たまんねえ。イク。イク。全身がまるで、勃起チンポ! チンポ!!

チンポチンポチンポチンポォォ!!!

「おぉぉおお勃起チンポォォ❤❤」

鏡の向こうと、すぐ目の前の魔羅から大量の雄汁が飛び出した。

すげえ臭いが部屋中に広がる。

とんでもねえ粘っこさだ。

とんでもねえ臭いだ。

ああ、たまんねえ。

俺は口を開けて、ベロを伸ばして、飛び出した雄汁をベロベロと受け止めた。

ああ、入ってくる。

最高のサプリ。タンパク質。

これだ。これだ。こいつが俺を更に上の男にする。

「ハッハッ、ハッハッァ❤」

俺は阿呆な犬のようにベロベロと舌を左右に動かした。

目がとろんとして、首から上が痙攣している。脳がますます筋肉に置き換わっている。

鼻水と雄汁が混じり合って、鼻の下がデロデロだ。

ああ最高だ。

俺は最高だ。

俺は爆根を抱えて、直に雄汁を鈴口から吸い上げた。

「うめえ。にげえ。くせえ。たまんねえ❤❤」

チンポから直にジュルジュル吸っていると、チンポと俺で完全な輪ができているようにかんじる。

俺は魔羅。魔羅は俺。俺はチンポ。チンポは俺。

ボディビルダーとしてコレ以上の幸せがあるだろうか。

ああすげええ最高だ❤

―――もっと。

だが、頭の片隅に、まだ足りないものがあった。

もっと。

もっと。

もっと見せつけてえ。

全世界に俺を、このデカマラ、デカチンポ、巨根、いや爆裂な巨根。爆根を見せつけてぇ。

名刺――。

頭の中で小さな声がした。

名刺。なんだ、なんのことだ。

名刺。

そうだ、確か。

あった。

俺を導いてくれた恩人。

サプリメントはもういらないが、礼を言わなくちゃならん。

あいつなら、もっともっとこの俺を……このデカチンポを導いてくれるかもしれねえ。もっと気持ちよくしてくれるかもしれねえ。

「へ、へへへへ、えへへへへへへへへえへ❤」

俺はヨダレと雄汁をダラダラ垂らしながら、財布を取り出した。クレカも紙束も全部ほっぽりだして、その中から一枚の名刺を取り出した。

きっと、連絡すれば、皆に見せつけまくれる。

俺はその予感だけで、またイキそうになった。

いや、イッていた。脳味噌がイッていた。

「ぐひ❤ ぐっひぃ待ってろおよ世界ィィイ❤ あぁぁあモスト マスキュラーーーッァア❤❤❤」

俺は鏡に向かって全身の魔羅を怒らせてポージングをキメ、またイッたのだった。

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