息子の愛さえあれば 父さんは洗脳光線なんかに 無様に負けたりなんてしない (Pixiv Fanbox)
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「『働くお父さん』かあ」
昌平は本を畳むと、小学生の弟の原稿用紙を覗き込んだ。
父の日前後だからか、小学校から指定された作文のテーマは働いている大人について語る、というものだった。世間がこんな状態なので、リモートワークをしている家庭も多かろうとの考えだろう。
「それで、翔也はお父さんを選んだんだ」
引っ込み思案の弟はそれだけで照れた顔をしてうつむいた。
「確かに、身近で立派に働いている人といえば、父さんだなあ」
声に出してみると、しみじみと自分の言葉に納得する。
今日も父は日曜日だと言うのに今日もリビングでノートパソコンに向かっている。慣れないリモートワークで遅れた部下の仕事を補っているのだ。
「…………」
日曜日、誰も見ていない家の中だと言うのに、仕事中の父は太い首にネクタイまでしっかりと締めている。短い黒髪に細い一重、ゴツゴツとした立派な男の肉体は、黙って座っているだけでもかなりの迫力があった。
家で息子たちに見せる顔は、いかに柔和に整えた優しい笑顔だけだったのかということを思い知らされる。
今日は部下はいないがビデオ会話の最中には、家ではまず見られないような厳しい姿もあった。ラグビーで鍛え上げた立派な上半身と声帯が部下にカミナリを落としている光景は、他人事ながらひやりとするものがあった。
「うん、よく書けてると思うから、このまま終わりまで勧めていいと思うぞ。このまま、……父さんには黙って観察して、作文にしないとだな」
「うん」
昌平は声を潜めて弟に教えた。
できることなら立派に働く父という姿で作文に残してやりたかった。
もし愛する息子によって作文の題材にされていると父が知ったら……、父は途端に油の切れた機械のようにギクシャクガチガチと硬くなるに違いなかった。
とにかく息子たちには甘い男である。優しく、頼もしく、愛情深い。今こうしてキリリとした顔で締めているネクタイも、息子たちの去年の父の日のプレゼントだ。大切に大切に使っているのだ。
幼い弟も、父の息子への愛の深さはわかっているのだろう。少し笑って頷いた。
「ん? なんだ、故障か……」
それは、弟が原稿用紙を2~3ページ進めた頃だった。
それまで静かにキーボードを触っていた父が、眉をひそめてパソコンを持ち上げていた。
「応答がないな……妙だな、ネットには繋がってはいる筈なのだが……」
「あ、待って父さん、座ってて。俺がWifi見てくるよ。父さんはPC見てて」
「ん、ああ、すまないなあ、お前に父さんの仕事の手伝いさせてしまうなんて」
「ハハハ、ほんと大袈裟なんだから」
休日なのに家族のために働いている父の手伝い、というのも嘘ではない。だが、本当のところは弟の宿題に勘付かれないため、だ。
そうしてリビングに父と弟を釘付けにしておいて、昌平は玄関にやってきた。置いてあるWifiの機器はなんのエラーもなかった。故障や電源不良ではないだろう。静かなものだ。
「………、なんだろう」
むしろ騒がしいのは、玄関の扉の向こう側だった。
人々の走る音。しゃべる音。叫び声のようなものが聞こえる。空が一瞬、不思議なピンク色の光が走った。花火の知らせは聞いていない。まさか火事でもあったのだろうか。昌平は嫌な胸騒ぎがして扉を開いた。
「皆さん落ち着いて、まずは家の中に避難してください!! ――ん、お、おぉお! 坊主! ま、まて、扉、扉を開いていちゃイカン! 締めとくんじゃ!!」
「お、お巡りさん? いったい、どうしたんですか」
確か駅前の交番で勤務している角山という警官だ。
角刈りアタマに繋がり眉毛、父に負けるとも劣らない立派な体格でちょっとした名物警官として有名な人だ。
そんな人がこんな住宅街まで来て、一体ナニを言っているのだろう。
「やはり、テレビは繋がっとらんか! ええっとだな、扉を締めて、窓を締めて、できるだけカーテンも締めてじっとしておくんだ!」
「――は、ハァ……」
その真剣さに気圧されながらも昌平は頷いた。
段々と得体のしれない恐怖が込み上げてくる。市民の不安を取り除く警察官が、ここまで焦っているということは本当になにか異常な事態が進行しているのだろう。それにしても、避難ではなく家にいろというのはいったいどういうことだろうか。
「く、詳しく説明はできんのだが……と、とにかく家にいろ! できれば地下か……なけりゃあ部屋の奥でいい、隠れておくんだ、いいな!」
「あ」
その瞬間、空が光った。
花火のように鮮やかなピンク色だった。
なんだ、あれは。
指差すその前に、空の輝きは光になって、光は光線となった。風が吹くより尚速く、それは地面に射し込んだ。
角山さん。
名前を呼ぶより早く、警察官の屈強な藍色の体が光の帯に飲み込まれた。
「――はひっぃい゛ッッン!!??」
「角山さん!」
ピンク色の光はそのまま角山の体を包み込んだ。仰け反った体が、驚愕に見開いた目が、光に丸く塗りつぶされていく。
素っ頓狂な悲鳴が終わるより早く、サッと光は消え失せた。
「ンッ!! ンヒィ……ん、あぁぁ…ッ!!!」
「え、か、角山さん!? どうしたんで、え゛!?」
「あ、し、しもうた……! わ、わしまで、こんな格好にッ!」
その姿は、光が降り注ぐ前の制服姿とは一変していた。同じったのは、頭に載っていた制帽と、履いている靴だけ。それ以外は全てが変わり果てていた。というよりも――
「お、お巡りさん、どうしたんですか、その……姿……」
端的に言えば、角山は素っ裸だった。
雄の臭いが漂う体毛、筋肉の盛り上がった無骨な肉体、股間にぶら下がったふてぶてしい一物。濃い男の要素がぎっちりと詰まった体を晒して、他人の家の前に立っている。犯罪的状況だ。
そんなただでさえ卑猥な状況のうえ、警察官の誇りが詰まった帽子だけを残している。
「や、こ、こりゃぁなあ、ち、違うッ、なんと説明すりゃあいいのか……!!」
こんな年若い男に裸を見せるのは、豪胆な警官であっても躊躇われたのだろう。角山は帽子をサッと脱ぐと、丸い制帽でなんとか股間だけを隠した。
素の姿は、一応の露出度は下がったもののより一層滑稽にも見えた。
「と、とにかく、あ、い、急がんと……このままじゃぁ!」
角山は全身から汗を噴きだし、キョロキョロと外を見渡した。靴を履いた、否、靴だけを履いた足がドスドスと忙しなく浮き沈みする。
なにかに怯えている。こんな屈強な体格をした大の男が、驚くほどなにかに恐れている。
「あの、よ、よければ家に入りますか? 父の服で良ければお貸し出来ますが……」
「ああ、そりゃあなんともありがたい……! しかしわしはこの事態を一刻も早く皆に伝える使命が」
角山がなんともその言葉の最中、再び光が走った。
先程の同じピンク色の光が、まっすぐ、まるで狙いすましたかのように角山に襲いかかった。角山は物陰に隠れようとしたが、間に合うはずもない速度だった。
「ま、まずッ!!! ―――ッ!!」
目を見開き、体を仰け反らせ、角山は再び光飲み込まれた。逞しい体が、毛が、そして絶望を浮かべた顔が光に消えていく。
さっきの一瞬で服がなくなった。では次は。
嫌な想像が昌平のアタマに浮かぶ。
「あ、あ、あ……」
だが、今度も光は一瞬で引いた。
同じように消えた光だったが、しかしその後は先程とは違っていた。角山は同じ格好をしていた。これ以上消える服もない、帽子も、靴下も、靴も同じだ。
何も変わっていない。
昌平がそう思ったのは、角山が表情を変えるまでだった。
「あぁ゛ーーぁ?」
角山の繋がった太い眉毛が、ハの字にでれぇんと歪んだのだ。
緊張感の欠片もない表情だった。
「だ、大丈夫ですか、えーっと……角山さん! 一体さっきから何が起こってるんですか」
「あ、あ、あ、あ………」
角山はピクピクと帽子を持つ手を震わすと、口を大きく開いて、
「大丈夫じゃぁあぁ゛!」
ニタァっと笑ってみせた。そのまま腰に両手を置き、分厚い胸板を強調するように胸を張った。
「え、あの、とりあえず、扉の中に……。そんな格好だと色々と不都合あります……よね。父を呼んできます……警察官だとわかれば、変なことにもならないと――」
「あぁーぁ゛? そ、んな事ぉ、もぉどうでもええんじゃぁあ」
どうでもいい?
昌平の背筋にぞっとしたものが通った。
これは、本当に今の今まで会話していた男なのだろうが。表情も、喋り方も、態度も、まるで別人だ。声と姿が同じなだけの別人、そんなような思いが昌平の頭に浮かぶ。
「どうでもぉいぃぃ~どうでもぃぃぃ~~イチバン大事なもん意外はどうでもイィィ~~~❤
角山は歌うように笑った。
別人のようだという考えは、彼の次の行動でさらに深まった。
角山は腰を突き出し、ガニ股になって偉そうにふんぞり返った。
さっきからしている行動だが、よくよく見るとナニかがおかしい。
「………」
股間を隠している帽子が、落ちていない。両手を離しているのに、股間の少し前で揺れている。腰を振るのに合わせて、ぷらんぷらんと左右に揺れていた。
同じ男である昌平にはすぐに分かった。
あの帽子の下で、何が支えているのか。
「お、お巡りさん何してるんですか……! せ、制帽でしょそれ、そんな大事なもの!」
「へへへぇ、そ、そうだぞぉ、とぉっても大事で立派で格好いい、大切な大切な制帽じゃぁあ、ぬへへ……ほれほれよく見ろよく見ろォォ❤」
後ずさるったり糾弾すると、それをむしろご褒美にするかのように角山は笑って腰を振った。どんどん腰の動きが卑猥に、そして激しくなる。
ぶらんぶらんと制帽が揺れている。擦れているのか、時おり口からは「むほッ❤」と卑猥な声が漏れるのが聞こえた。
「ど、どうしちゃったんですかお巡りさん!」
「わしはァ……いや、本官はわかったんじゃぁ、男っちゅうもんんは、親父ってもんは、イチバン大事なものの為にすべてを捨てる覚悟がある野郎のことってぇことだぁ❤」
角山はそう言うと股を大きく左右に開くと、角山はセックスの真似事のように腰を前後に突き出した。
「あぁあ゛! おぉ゛おぉぉ゛! あひひひ! イチバン大事なモンが❤ 大事なもんがいい~~~キモチィィ~~~❤」
前へ、後ろへ、また前へ、そして後ろに。
ビクンビクンと腰が揺れる。
そうして帽子が揺れるたび、角山は嬉しそうに声を出す。
「ん、っひぃぃぃい❤❤ イチバン、イチバン、イチバン大事なトコロが喜ぶぅゥゥゥゥ、わしは男じゃァァァ鳩❤」
その腰が限界まで前に突き出た瞬間、角山は激しく痙攣した。
同時に、濃い臭いがツゥンと辺りにただよった。
この人、射精した。
昌平が絶望にも近い表情で角山を見た。
「ど、どうじゃあ、これがあァ大人の体じゃあぁあ……❤」
変態警官はなおも話しかけてきたが、その視線はこちらではなく扉の奥を見ていた。
振り返ると弟が唖然とした顔でこちらを見ていた。
そんな弟の表情がことさらに気持ちがいいのか、角山はより嬉しそうに頬を吊り上げていた。
「何をしている! 息子から離れろこの変態がッ!」
そんな弟の奥から、勇ましい声が聞こえた。
■■■
「な、な……にを、言っているんだ」
勝一は汗を浮かべ、我が耳を疑った。
PCの故障の次は、電波の故障か。そんな馬鹿な事を思い浮かべる程、馬鹿げたことが公共の電波に流れていた。
『父親の皆様、今すぐ表に出て、陽の光をイッパイに浴びましょう! 光を浴びれが元気イッパイ! 男のヤル気が満ちてくる!』
テレビはどの局も同じような映像が流れていた。
見慣れた俳優やアナウンサーが素っ裸になって、嬉しそうに往来を闊歩している。
「――翔也、お兄ちゃんのお手伝いをしてあげなさい」
勝一は事態の把握より先に、息子の目からこのとんでもない毒物を遠ざけることを選んだ。愛する家族にこんな卑猥な映像を見せるなど、父として耐え難かった。
「いったいぜんたい、これは……」
勝一はPCの前に座り、ネットの情報を探ろうとした。
しかしそこですぐ、嫌なことに気がついた。
昌平がWifi機器の様子を見に行って随分戻ってこない。アレは玄関にあったはずだ。外。すぐ外につながる。
勝一は椅子を蹴飛ばして立ち上がると、ラグビー仕込みの健脚で玄関に飛び出した。
不安は的中した。
息子の眼前には、逆光浴びて黒々と輝く大男のシルエットが見えた。
何も着ていない、素っ裸だ。
カッと頭が熱くなった。
「何をしている! 息子から離れろこの変態がッ!」
「おとうさ……」
靴も履かずに玄関から飛び出し、息子を大きな背中の後ろに隠す。高校生とはいえ長男はまだ未成年だ。そんな愛する息子にこんな変態行為を働くなど、許しておけることではない。勝一は威嚇するように男を睨み付けた。そこでようやく、気がついた。
「か、角山、さん……ッ!?」
「お、おぅう……じゃ、邪魔、しとるっ……ぞぉおぉっ……」
片腕を上げ変態が、角山が応えた。
駅前の警察官だ。見知った顔だ。間違えるはずがない。だというのに、すぐに気が付かなかった。それほどにその表情は変わり果てていた。
「そ、そんな……!まさか……」
「さっき、さっき……急に空が光って…そ、それで突然、こんな、お巡りさんがいきなり」
長男が必死に説明をしてくれているが、要領を得ない言葉だった。
それ以上に勝一は目の前の信じがたい姿に目を奪われていた。繋がった眉毛はだらんと下がり、精悍な警察官の目は欲情しきって半目だ。無精髭の生えた四角い割れ顎には、涎がどろどろと光っている。
「ぐへ、ぐへッ、親子三人仲良く本官をジロジロと見てくれるなんて、あぁぁあ……きょ、今日は警官人生最高の一日だなァ……❤ も、もうガマンできんッッ、本官のイチバン大事な部分も、よ、喜びまくっておるでありますぞォ❤❤ ほれ、この通りィィ❤❤」
叫ぶと同時に、角山は肉棒を隠してた制帽をバサリと取り払った。
「うッ……!」
凄まじい雄の臭い共に、ビンビンに勃起した肉棒がブルンと跳ねた。精液が飛び、白い斑点模様が玄関先にビチャビチャと出来上がる。
「ほ、本官はセ、センズリ警官角山保であります! た、助けに来た市民の前でありながら、チンポの気持ちよさにガマンができなくなった変態ポリスマンでありまぁっす❤❤❤」
取り払った帽子をすぐさまかぶると、角山は左手を額に添えた。
警察官の敬礼。
ビシリと決まったその格好。
何百何千と繰り返してきたのだろう。立派なものだ。その手だけならば。
「おぅ、おひ、たまぁんぞぉお……!」
そんな姿で警察官は右手で肉棒をぐちゅぐちゅと扱きあげていた。
ゴツい腰をぐねぐねと回している。
アタマにかぶった制帽と、ガチガチに勃起した肉棒から同じ臭いが漂ってくる。全身が肉棒と化したかのような酷い臭いだった。
「昌平、翔也……は、早く家に入りなさい……!」
勝一は動揺しながら、なんとか己のなすべき事を考えた。なぜ知人がこんな変態と化したのか、テレビの異常な光景はなんだったのか、なにもかもわからない。だが、父として果たすべき義務はしっかりとわかっていた。
息子を護る。家族のために行動する。それだけは確かだった。
「父さん!」
息子たちは玄関の内側に入るのが見えた。
あとは自分が入って、中から鍵を締めて締め出すだけだ。しかし――
「も、もっと! もっと本官のセンズリを見てくれェェ!!」
「な、か、角山さん! 離し――!」
「こぉんな゛……にぃチンポがぁあ!チンポビンビンなんじゃぁ!どうじゃぁあ本官のチンポは立派な変態チンポになっだぁんじゃぁああ!!」
腕を捕まれ、勝一の手がびくびくと勃起する肉棒を無理やり触らされた。ねっとりとザーメンで濡れて熱い肉棒、その感覚に鳥肌が立つ。
「や、やめてくれ! これ以上するなら、たとえあなたでも本気で怒りますよ!」
「父さん早く!」
勝一が本気で振り払おうとと力を入れた、その時だった。
光が、見えた。
ピンク色?
そう認識した瞬間、目の前がその色一色に染まりきった。
「ヌッ、アァァ…………ッッ!!!??」
………。
………………。
叫び終わり、体を通り抜ける衝撃のようなもの収まると、勝一は驚愕して目を見開いた。
「こ、これは……!」
顔を下に向けると同時に、勝一は全身が寒気のようなものを感じた。
何も着ていない。
父から受け継いだこの家の前で、家長たる自分が全裸になっていることに気がついた。いや、それ以上の情けない格好だ。目の前の角山と同じようにネクタイだけが残っている。
「お、俺までこんな……!」
瞬間、テレビの光景や角山の表情が頭に浮かぶ。
変態になる。光を浴びた人間は変態になる。断片的な情報で推察した自分の末路に心の底が冷えた。
……まさか、この俺が息子の前で変態になってしまうのか。
不安が勝一を襲った。しかし、心の変化は不安だけだった。
「………………だ、大丈夫なのか」
素っ裸になった。
だが、目の前の変態警官と化した角山とはまるで違う。
堪えられたのか、俺は。
理性も羞恥心もしっかり残っている。ガニ股になっているあんな格好、しようとは露程にも思わない。今すぐ股間を覆って隠したいくらいだ。
俺は無事だったのだ。この超常現象がなにかはわからない。だがきっと、俺の息子たちへの愛が勝ったのだ。
この唯一残ったネクタイがその証左だ。息子たちからのプレゼント。去年父の日に貰った愛情の塊。これが残ったというのは、きっと俺の息子への愛と、息子たちの俺への愛が……俺を守ってくれたのだ。
「父さん、早く!」
「あ、ああ、そうだな!」
角山を突き放すと、勝一は息子の後を追った。昌平が先ほどより遥かに焦っている。それはそうだろう。息子には、父が無事だということはわからないのだ。早く入って安心させてやなくてはならない。
勝一は扉の内側に入り、鍵を締めて息子たちに向き直った。
「いや、すまないな驚かせてしまって。もう大丈夫だ。翔也、父さんが絶対に守ってやるからな」
勝一は屈んで翔也を抱え上げると、ラグビーで鍛え上げた太い脚でグッと立ち上がった。息子を抱っこするのはもともと大好きだが、こうすれば裸になった己の体を見せなくて済むという打算もあった。
「昌平、テレビをつけて状況を確認してくれ。俺は翔也を部屋に連れて行く。それが終わったら、さっきのことを聞かせてくれ、一体何がおきたのか」
勝一はそう言ってちらりと扉についた小さな窓を見た。
角山は今も勃起した肉棒を見せつけるようにして扉の向こうで笑っていた。なんと卑猥で無様な姿だろうか。あんなことをしたがる人間が警察官とはとても思えない。きっと何かおかしくされてしまったのだ。
いい人だった。
息子達の安全を確保したら、なんとかして助けてやれないものか。
心を痛めながらも、勝一は前を見た。扉の向こうが気になるというのは本当だ。だがそれでも、もっとも大切なものは息子たちの安全だ。
「大丈夫だ、父さんがついているからな」
そういった瞬間、扉についた小さな窓がピンク色に輝いた。
世界がスローモーションになる。
息が出来なかった。
光が……家の中に入ってくる。
この空から降り注ぐ光が皆に襲いかかっているのだ。
角山さんはそれを教えてに来たのだろうか。
私は耐えられた。だが、家の中まで射し込んでくるこの光、昌平や翔也は大丈夫だろうか。もしあんな…いやらしい、情けない姿を晒すことに…なったら。そんなことは考えたくもない。
駄目だ。守ってやらなくては。
勝一は咄嗟に昌平に飛びついた。素っ裸の体、ぶるんと肉棒が揺れた。タックルの要領で位置を入れ替えた、すまない、痛い思いをさせたな。だがお前たちの安全のためなんだ。
長男を転ばせて、その腕の中に収まるように次男を放る。これで大丈夫。これでお前たちは安全だ。
俺の宝物たち。きっと父さんが守ってやる。
そして――
光が勝一を包んだ。
「ヌ……おほっぉおぉおお!?!?!?」
同じ光……。
いや違う。先とはまるで違う。
体中が熱い。ビリビリと痙攣する。
体中蜜に包まれたように心地よい。なんだこれは、なんだこれはなんだこれは。さっきと同じ光ではないのかこれは。
あ、あ、あ、ああ、あ、あ。
キモチが、いい………。
ああ、気持ちいい。まずいこれは勃起してしまいそうなほど気持ちがいい。腰がとろっとろにとろけそうだ。一体何故だ、頭の中から気持ちよさが湧き上がってくる。
ああ、駄目だ。こんな場所で、こんな格好だというのに、息子を抱えているというのに、勃起なんてしてしまったら最低の変態親父だ。
耐えるんだ。負けるわけにはいかない。息子を、息子達に勃起チンポを見せるわけにはいかない。まだ早い。この俺のガチガチの立派な雄チンポを見せつけるのは早すぎる。そんなことはしてはいけない。
いくら愛し合っているとはいえ、勃起をいきなり見せつけられたらきっと面食らってしまう。お父さんの立派なチンポとはいえそれを見せられたら男同士でもまずいきっと尊敬されすぎてしまう。
男の象徴、雄の象徴、俺のイチバン男らしい部分を晒してはいけない。
隠さなくてはいけないイチバン男らしくてイチバン逞しくてイチバン立派なものとはいえ――いや、本当にそうか?
ここは俺のイチバン大事なところなんだぞ、何故隠す必要なんかある。見せたら俺も気持ちよくって息子たちも尊敬すべてがうまくいく。
イチバン大事……イチバン大事。
待て、そんなことはない。何を考えているんだ。
俺がイチバン大事なのは、息子だ。息子たちだ。愛する家族こそ最も大切なものだ。俺の息子たち。宝物。立派な男達。
こんないい子に育った。こんないい子を作り出した俺のチンポ。
イチバン大切なものをつくりあげた、イチバン大切な俺のチンポ。
父さんの立派なオチンポ。
………。ああ。
何も変じゃない。
俺の宝物たちを作ったのは、俺のチンポじゃないか。この立派なチンポじゃないか。
ほら見ろこのチンポをズコズコしてお前達を作ったんだぞ。
すごいだろう。父さんのオチンポはすごいだろう。
もっと見てくれ。父さんを見てくれ。父さんのイチバンすごいトコロ見てくれ。
お前たちにだから見られたいんだ。
ああ、見られたいんだ。
ずっとずっと見られたくってしょうがなかったんだ父さんはチンポ見られたくって仕方がなかったんだ。
チンポ……、チンポ……、あぁ翔也……昌平……チンポ………。俺の宝物イチバンイチバンイチバン大事な俺の、俺の俺の俺の……………
光が引いた。
「なにを…、そんな顔しとるんだ……」
さっと光から現れた勝一は、きょとんとして言った。
「大丈夫だ……安心しなさい」
不安な表情を浮かべる息子たちに、勝一はニッコリと微笑んで、言った。
「こおぉおぉおおんなに立派なチンポを持つ父さんが、負けたりするわけないだろうぅぅぅ❤❤❤」
「え」
「おと……さん」
「おほぉお❤ 見、見られたぁ❤ 息子たちにッ、父さんのイチバン大事な部分みられてしまったぁああ❤ カハーッッ❤ キンモチィィイイ❤❤」
勝一は大声で叫ぶと、玄関でがっぷりとガニ股になって両脇を見せつけるように腕を頭の後ろで交差させた。
爽快な気分だった。
何を焦っていたのかまったく思い出せない。
イチバン大事なここを何故今日まで息子たちに見せつけてこなかったのか、まったくもって意味不明だ。チンポを晒すのはこんなに気持ちがいいことなのに、いったい何故してこなかったのだろう。
脳みそにまで風が吹き抜けるような爽快感だ。
服、常識、そんなゴミのようなものを、何故チンポより優先していたのだろう。
「ほぅぅぅうらほうらぁああ!! とぉさんのチンポォォはこんな形でこんなふうに勃起するぞぉぉお! 勃起勃起父さん勃起父親チンポガチ勃起❤ 親父チンポモッコリビキビキ、息子の前で父チンポニョッキリィ❤ もっともっとみてくれぇええぇ❤❤」
腰を振る。玄関の冷たい空気を腰で斬る。
「あ、あ、あ! 立派なチンポがぁ❤❤」
根本がぐんぐん熱くなってくる。固くなってくる。息子達が父親である俺の肉棒が逞しくなっていくのを見ている。ああ、父親人生最高の日だ。
こんな日が来るなんて。なんてなんて、なんて、素晴らしい日なのだろう。
「角山さんがぁぁああ、あぁただしがっだぁああ…あ゛ぁぁ❤❤」
息子達はまだ幼いから分かっていなかったのだ。
振り払ってしまって申し訳ないことをした。あんな風になりたくないなんて、なんて失礼な事を考えていたのだろう。チンポを晒し合うことこそが、最も素晴らしいコミュニケーションなのだ。そんな事もわからず、なにが父さんが守ってやるだ。俺はとんでもないバカ親父だった。
「お前たちィ! 今日まですまなかったァ、これからは父さん心を入れ替えてチンポぶらぶらさせて生きていくぞおお❤❤」
勝一は腰を大きく付きだして、胸を張った。
ああ、そうだ。
もっと大事なことがある。
息子たちへの愛を、こんな適当な形で身につけているなんて、俺は本当に阿呆な父親だった。
勝一は自らの首に手を伸ばし、そこに締められていたネクタイを解いた。
そのまま、輪を小さく作り……自分の勃起した肉棒にギュッと引っ掛けた。
「おほ❤」
その光景だけでイッてしまいそうになった。
いや、実際ちょっとイッた。
息子達からの愛を、イチバン大事なここにつけられるなんて、俺は世界一シアワセな父親だ。
「あ、ありがとうなぁ❤ お前たちの愛で、と、父さん、父さん、めちゃくちゃ気持ちよくなってしまったァ❤❤ おひぃぃぃぃいぃい❤」
勝一はネクタイをグッと下に引っ張った、根本が一瞬下がって、その反動で勃起がますます強くなった。
ビンッ、と上へ持ち上がる瞬間、勝一は勢いよく射精した。
「あああぁぁあ、愛しているぅぅ愛されいてるぅぅぅ❤ 愛で感じて射精するぅぅぅぅ父さんシアワセだぁぁあああイチバンシアワセだぁぁああ❤❤❤」
唖然とする息子たちに向けて、父親の威厳たる精液を大量に吐き出した。
息子たちに俺の汁が掛かっている。
その光景に、途方も無い幸せを感じて勝一は笑った。
■■■
真面目な人だった。
性欲が人一倍強いのに、それを抑えて真摯に生きている人だった。仕事は厳しく、しかし己にはさらに厳しく、だが他人には優しい。そして息子には少し甘い人だった。
真面目な人だった。
その父が今、肉棒をいきり立たせ自慢げに笑っている。ネクタイを竿に結び、ブラブラと揺らして腰を前後に振っている。
あ、あぁぁ…そんなに見られたら、父さんのチンポもっともっと元気になってしまうぞぉぉ…おおぉ。
そんな事を言いながら、今もビクンビクンと、肉汁をどろどろに垂らしている。心から嬉しそうな顔だった。
「いやあ先程は失礼いたしました角山さん、息子たちとの家族団らんのひと時を楽しんでしまいたくなりましてねえ」
「おうおう気にせんでよいですよぉ本官も締め出されたことに興奮してまた一発男汁を発射していたところでありますから」
「おぉおコレはコレは立派なもんですなあ、やっぱり男はいついかなる時もイッパツぶっ飛ばせる男気あってこそ、イチバン大事な部分に正直になって――オホォ❤」
「その通りその通り、こうして立派に磨き上げることで、大切な息子たちが出来あがったのだからやっぱりチンポこそイチバンに据えるべき――モホォ❤」
固く締めていた扉を開いた勝一は今、表にいた警察官とにこやかに会話をしていた。
変態め、とまで罵っていた相手と、ニコニコと笑って……まるで10年来の友のように語り合っている。あれこれとわけのわからないことを話しながら、肉棒同士を擦り付け合ってお互いを称え合っている。
筋肉と筋肉が擦れ合う、肉棒と肉棒がゴリゴリとぶつかり合う、オス汁とオス汁がドロドロに混じり合う。
「昌平ぃ……もう怖がらなくって大丈夫だぞお、と、父さんとお巡りさん……さっきはケンカしたけどなぁ、もぉ仲直りしたんだぁぁ、あへ~❤」
「そうじゃぁ~、すっぱだかになりゃ、みぃんな仲良しじゃあ~、ほへ~❤」
そう言うと、勝一と角山はニタニタとゲヒた笑みをくっつけ合った。
肩と肩とが組み合わさって、盛り上がった筋肉同士が絡み合う。
「アヘ❤ アヘ❤ 肩をくむっとぉぉおますますきもっちぃぃぃ❤ 大事なチンポ擦り合うのキモチイィィィ❤」
「えひ❤ えひ❤ これはセイキのだいはっげんじゃあぁあああぁぁぁ❤ なんちゃってぇ❤」
空から光が降り注ぎ、住宅地のあちこちから気持ちよさそうな声が上がるのが聞こえた。
その大合唱を聞きながら、父親と警察官はずけずけと家の中へと上がっていった。
「よかったらうちのPCで、お宅の息子さんたちにも見せつけてあげましょう角山さん❤」
「おぉぉそりゃあ、聞いただけチンポ射精するぅ❤ ウホ❤ ウホッ❤」
息子たちの愛を感じながら射精するために。