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新学期を前に学生も毎度ながら大いに浮足立つ3月下旬。学園都市キヴォトスでは多数の学園がひしめき合っている関係で各所は若者の訪れで賑わっていた。

だがただ賑わうだけではない。特に学区の交わる地区ではその学園ごとの性質の違いから、賑わっているのは生徒たちだけではなく彼女らがもつ銃もそこに含まれていた。

クレープ屋一つ列を作るだけでも、「トリニティの女は世間話が煩い」だの「ゲヘナの方々は他人に噛みつかずにはいられないのですか」だの、ゲヘナ・トリニティ双方の生徒が一同に会すれば、ものの数分で諍いが勃発している状況だ。

当然そのしわ寄せは各校の治安維持部門である「ゲヘナ学園風紀委員会」と「トリニティ総合学園正義実現委員会」に及んでいるわけだが……。

片やNo.2の行政官が不慮の事故(?)により表舞台へ現れなくなり、片や大祭の場で見事なまでの激太りを衆目に晒した副委員長は到底暴動鎮圧へ動けるはずもなく。

ほぼ組織としての機能を喪失した両委員会は1件1件のトラブルに対処するだけで人員不足&手間取る始末。

となれば更にその影響は、キヴォトス全体を管轄する行政組織・連邦生徒会にも渡っているはずなのだが、そこで尻拭いをすることとなっているのが、お馴染み”シャーレの先生”であった。それもそのはず。現在の連邦生徒会はトップが失踪しているのだから、仕方がない。その機能不全は風紀委員会や正義実現委員会の比ではなかった。


……というわけで、今日という今日も徹夜を極めてくっきりと目元にクマを作った先生は、まるで春先とは思えぬほど強い日に照らされながら街をゆく。

本日の行き先はいつぞや急遽手伝いに呼ばれたゲヘナ学区にあるスイミングスクール。あれから何やら「このスイミングスクールは通うと痩せるどころか太ってしまう」という口コミが広がり、従業員の補充も経営も上手くいっていない様子で、オーナー一人で切り盛りをしていたところに、今日もまた“手ごわい受講生”が体験に来るとかで駆り出されたのが先生であった。

「にしても……今日は本当にあっつい…。少し眩暈もするから、やっぱり帰ろうかな…。後の仕事にも支障が……」

「ん……おや、シャーレの先生!!お待ちしておりました!どうもご足労いただきありがとうございます!どうぞ、中へ…!オンボロですがクーラーも効いてますよ!」

前方へ蹴り出して進む力よりも、引き返して帰路につこうとする力の方が強くなりかけたところに、以前見たのと同じスイミングスクールの玄関からこちらに手を振る人がいた。ただでさえ暑いというのに、こうも空元気混じりの大声で手を振られては引き返すわけにもいくまい。帰路につくよりも目の前のクーラーの効いた涼しい環境に惹かれて先生は前進した。

「あ~いえいえ、こちらこそまたお会いできて嬉しいです、オーナー。ところで今日の受講生さんとは…」

「今日は以前より1人増えて2人の体験入学者が来ていますよ…!とは言っても片方は……あっ、痛っ……」

日々の心労も祟っているのか、歳のせいもあるのだろうか、入館した先生の問いに対して答えながらも徐に腰辺りを押さえて顔を歪ませるオーナー。確かにこれではスイミングスクールのインストラクターを兼任するのは難しい。

すみません、オーナー。うちの生徒がここに体験入学したばかりに評判も下げてしまって……と、内心申し訳なさを感じつつも、一方で太ることは人である以上仕方がないことだし太った“彼女”も可愛かったからなぁ……と、結局生徒には甘い先生がそこにはいた。


「では、先生。女子更衣室の方は今日の受講生さんたちが使っているので、先生はこちらの更衣室で着替えをお願いします。あと10分ほどで定刻ですので~」

「はい、ありがとうございます。では着替えたらプールサイドで受講生さんを迎えて体験授業にそのまま入ります」

そオーナーに案内された更衣室は、ボロボロですらなく、ロッカーも床も傷一つない新品同様で、おそらく開業当時からほとんど誰も使用していないような一室だと疑いたくなるくらいの清潔感を放っていた。日常的に酷使しているであろう館内のクーラーはオーナーがいうようにオンボロだったのが、逆にこの説の信憑性を高めてしまう。

そんなに人が入らないのなら、もはやこのスイミングスクールを畳んだ方がいいのでは……?そう思いたくもなったが、オーナーにはオーナーなりの考えがあるのだろう。十中八九赤字経営をしていることは明らかながらも、そこに口出しは決してしない。

そうこう考えている内に、成人男性向け水着へ着替え終えた先生は今日の主戦場となるプールサイドへと裸足で向かう。ぺちぺちと床を叩く足裏の音が、学生時代の水泳の授業を想起させる。

「もう……!……キってば…!揉……いでって、……しょう!むぶふぅ……♡」

「…ふふ♡だって……ちゃ……のお…く、柔ら……て、私も見…………いくらいなんだもん♪ふぅ……」

自分が使っていた方ではない更衣室からは、おそらく中にいるであろう受講生2人の声が漏れ聞こえ、若干卑猥ながらも仲睦まじい様子がただよってくる。良かった、自分の方が早く支度を終えられたようだ、と遅刻を心配していた先生は廊下を歩きながら少しばかり歩く速度を緩めた。


「……相変わらず、ここのプールは施設としては良いんだけど……本当に私以外誰もいないや…」

廊下の先で開けた空間に出ると、懐かしくも以前ここを訪れた際にゲヘナ学園の生徒にして便利屋68の社長、陸八魔アルとばったり遭遇したプールサイドが眼前に広がる。今回はオーナーの案内もないため正真正銘、人っ子一人いない。無人のプールというのは好き放題泳ぎたくなる衝動に駆られそうになる反面、本来は人が大勢いるはずの空間だという事に対する異常さからどこか異常な時空間へ飛ばされたのではないかとSF染みた妄想にも囚われそうにもなる。

ふと吐いた一人事が、空調の音に阻害されながらも僅かに反響してしまい、咄嗟に手で口を塞ぐ。万一オーナーに聞かれでもしたら、流石の先生でも少し気まずいと思ってしまったのだ。

壁掛け時計の指す時刻は午後1時。昼食をカロリーメイトで軽く摂った先生のお腹は、脂肪の乗りもほとんどなく、もう少し栄養を摂っても誰も責め立てないほど、食べても美味しくなさそうで、差し詰め体脂肪率は10%~15%の間だろう。年齢とほぼ虚無な筋トレ歴を鑑みれば、些か痩せている。

と、そうではない。午後1時きっかりということは既に定刻だという事。自分の方が早く支度ができたと思ってはいたが、まさか受講生の方が遅刻をするなんて…。そう思いながら、先ほど声のした更衣室に2名を呼びに行こうとしたところで、先生の足裏に何やら刺激が走った。


ドスッ……ドスンッ……

ドスッ…んぶふぅ……ドスンッ……

ドスッドシンッ……んぶふぅ…ふぅ……ドシッドスンッ…んぶふぅ……ぷふぅ…

「んぶふぅ……ムツキ…も、もう脚が限界よ…歩け、ないわ…!んぐぷふぅ……げぷっ、ぜふぅぅ……」

「くふふ…♡はぁ…んふぅ……頑張ってアルちゃん、あと10歩だよ♪…ふぅ、ほら、あんよが上手♪あんよが上手っ♪」

「ぜふぅ……んもう…!!私は、赤子じゃ、ないのよ…!?んぐぷふぅ……はぁはぁ…!んむふーっ!むぶふっ!?」

ドシンッッッッ!!!

プールサイドから廊下へ戻ろうとしていた先生に対して、廊下の向こうからは逆にこちらへと向かってくるような人の気配がひしひしと伝わってくる。それは地響きに似た重厚な足音とかなり汗と脂の乗った様子の二人の声によるものだ。

なぜそれが“人”の気配だと思ったのかというと、普段先生がシャーレで触れあっているもの、“シャーレのトレーニングルームに居座る肥満化生徒たちのソレ”と酷似しているから。

…そして、二名の受講生のうち、片方の声は以前この場で聞いた声と調子こそ違えど同じものだったから。

「はぁ、はぁ!大丈夫?手を貸そう、か……って、アル!?!?」

いつもの癖で、筋肉極少の重度肥満な生徒が床に転がって起き上がれなくなったのではと思い込み、廊下の角へと駆け寄った先生だが、廊下へ曲がるまでもなく、その声の主は姿を現した。その、贅肉99%のもはや脂肪が本体なのではないかと思わせるほどのブヨブヨの超巨体を。


思えば、大祭の一種目、件のケーキによって太っていたのは彼女もだった。300kgオーバーで下半身太りの激しい身体が更に肥えて450kg、そしてその身体は大祭から半年近く経った今では当時見た時より更に洗練された肥満体へと変貌を遂げていた。

もはや大型の台車に乗せた方が移動は楽だろうと思わせるほど、全身ブヨブヨの皮下脂肪まみれで、腹から下の半身は贅肉が折り重なってどこがどの部位か一見では見分けがつかぬほど。ただブルーシートのような大きさの破れかけた競泳水着から察するに、股から膝にかけては、巨腹のエプロンで覆われており、日常的に腹肉が覆いかぶさっているとしたらその部分の湿気と臭気は想像を絶するほどだろうと推察される。

もうボムレスハムと形容するだけでは足りないほど水着の線が垂れ気味の乳にも食い込み、窮屈さを観測者である他者だけでなく肥え太っている本人も感じていることが3重顎となった顎肉と、食べ物を詰め込んだリスのような頬肉を震わせるアルの表情により訴えてられている。

また、げっぷ混じりの吐息を発する様子から察するに、昼食もガッツリと食べているであろうことを巨体の中でもぼっこりと膨らんだ腹部が物語る。食べるなら、ジャンクフードよりも自分の下半身や二の腕の肉を食べた方が絶対に脂ぎっていて美味しいだろうに…と思いつつ、仮にもし万が一自分の肉を食べられたとしても、今のアルの身体では脂肪分が多すぎて決して美味しくはないだろう。


「流石に太り過ぎた、痩せなくては」という極めて一般的な意識と、「でもお腹が空いたから食べたい、食べないと他のことが考えられない」という肥大化した本能が対峙しつつも、本能の方が勝っているあたり、どれだけ“陸上での”日常生活に困難が生じていても彼女が痩せるのは難しい。

と、そんな圧倒的肥満ボディのアルに目を奪われている先生の横へ回り込んでは、何やらこちらも乱れた呼吸を整えながら顔を覗きこんでくる者が一人…。


「ふぅ…くふふ♪あれ~?先生じゃん、久しぶりだね~♪こんな所で会うなんて…もしかして、私とアルちゃんの水着姿を覗きに来ちゃった、とか…?」

「えっと……どちら様……あっ、いや、アルと一緒にいるってことは……」




「じゃーんっ!!先生のためにぃ……おっきくなったムツキちゃんだよーっ♪」

「ム、ムムム、ムツキ!?!?」

雪、というよりは餅のような白肌を冷え性なのか水着の上からパーカーで覆いつつ、そのパーカーの袖すら腕の肉で限界ギリギリに押し広げているその球体のような身体。バランスボールのように膨らんだ腹部は、アルの皮下脂肪たっぷりの腹に比べてかなり張っており、昼食に相当な量の食事を摂ったばかりなのだと伺わせるほどパンパンに張っていて、競泳水着を外へと押し出している。その上に乗っかった胸も、下半身に肉段を形成しながら互いに擦り合っている極太の両脚も、まんまるの巨腹の前ではかすむほどだ。

いわば雪だるま体型となった彼女は、いくら輪郭が丸くなったとしても変わらない、人をからかうような小悪魔的笑みからもわかるように、アル率いる便利屋68の一員にして室長・浅黄ムツキであった。


「い、いや、私はここのオーナーに呼ばれて……ムツキこそ一体なんで…(なんだかデジャブ…)」

かつて170kg近い肥満体まで肥え太ったアルと邂逅を果たした時とかなり近しい状況下でこうして出会ったムツキに対して、並々ならぬデジャブを感じつつ、先生は動揺を隠せないまま問う。

だが、更に500kg近くまで肉塊といっても過言ではないほど激太りしたアルと、かつてのアルよりは小さくも推定150kg近くまで太ったムツキがこうして水着を着てプールへ足を運んだ現状を鑑みるに、その理由は単純明快だった。

「くふふ、秘密、だよ…先生っ♪」

そう言ってムツキははぐらかしてみせるも、どう見てもダイエット目的。おそらく便利屋の中でも常識人であるカヨコが、理由はともあれ太り始めたムツキと太り過ぎである社長のアルを心配してプールの体験入学に申し込んだのだろう。

…と、その先生の読みは正しかったようで、ふと視界に入った施設2階の展望室には、華奢ながら目を輝かせて何やらアルを見つめているハルカと、先生の目が自分らの方を向いたことに気づいて咄嗟に顔を手に持っていたポテトチップスの袋で隠しているカヨコの姿があった。当のカヨコの方は、BIGサイズのポテチの袋で顔を隠しながらも、横に限界まで引き伸ばされたパーカーが胸までしか覆えておらず、白い柔肌の巨腹が丸出しになっている辺り、ムツキやアルを心配しながらも自分もまた数十kgは太っているに違いない。

頭隠して腹隠さず。そんなカヨコも可愛い。また今度匿名で食料の差し入れをしなくては。



「んぶふぅ…ぜふぅ…ムツキ…立てないから……んげぶふぅぅぅ……手を貸して頂戴…ふぅ…んぶぅ…せ、先生…⁉」

そう先生が目の前のムツキと展望室のカヨコらに気を取られていると、すっかり床に座り込んでしまったアルが特大のげっぷを漏らしながら、ムツキに手を貸すよう懇願する。その姿はさながら要介護の肉塊そのもの。

だが、そうしたアルが先生の存在に気づいて白目をむいているのを他所に、先生はムツキのいたずらの毒牙にかかっていた。

「なぁに先生…私のお腹に見とれちゃった…?くふふ…じゃあそんな先生の前でジャ~ンプ♪」

むふーっ、むふーっと0距離にして鼻息の音さえ聞こえる距離でそう囁いたムツキは、先生の瞳をのぞき込んでは瞳孔が開いているのを間近で確認してその場で飛び跳ねる。

無論、飛び跳ねると言っても約150kg近いであろう巨体が跳べるはずもない。

「ジャ~ンプ♪」といった本人は気づいていないだろうが、足裏は床からたった2,3cmほどしか浮いていない。にもかかわらず、ほんの少し飛び跳ねただけで、小盛な胸からバランスボール大の球体腹肉、そしてセルライトの付き始めた脚に至るまで、全ての贅肉がぼよんっ!!と上下に揺れ動く。

ドッシンッ!!!ぼよよんっっっっっ!!

むふーっ……んふぅ…♪もういっかいっ♪

ドッシンッ!!!ぼよよんっっっっっ!!

まだまだぁ~♪んふひぃ…んむふっ!!

ドッシンッ!!!ぼよよんっっっっっ!!


満腹まで食べ物が詰め込まれているはずなのに、苦しくはないのかと疑いたくなるほど繰り返しムツキはその場で見せつけるように跳ぶ。その度に白肌から飛び散る肉汁のような汗が、微小の水滴となって先生の身体に飛沫として着く。分厚いコンクリートの床にも関わらず、響く足音。それを全く恥じることなく、ぶっくぶくに太った丸い身体をむしろ自慢げに先生の前へムツキは晒していた。

「んふぅ…!はぁ!食べたばっかだから、んむふぅ……重たくて、全然っ、跳べないね~♪はぁ!んはぁ♪」

一気に心拍数が増し、顔が熱せられていく感覚に陥った先生は何も言葉が出ない。跳ねる肉の魅力、重量感のある巨腹が水風船のように跳ねながら形を変えつつバウンドし元に戻るその一連の姿に視線を囚われ、脳内で何度もこの数秒間の出来事がリピートされる。

…そして、ふと我に返ったその時、見てはいけないものを見てしまった。

「ム、ムツキ!そ、その…水着が…!」




着地と同時に腹肉が水着に下方へと多大な負荷をかけたことで、片方の肩紐が千切れ、饅頭のような形の局部が外気に晒される。大福みたいな胸に触れたい、もう少し目にしていたい……そんな男性ならではの邪な感情を押さえながら、先生と生徒という立場の関係上、一線を超えないようにしながら先生は顔を背けつつムツキにそう告げた。

「ぇ…?あっ…ち、千切れちゃった~。もぉ~あんまり見ちゃ、ヤダよ先生…♪鼻の下、伸びちゃってる…♪」

動揺している声が先生の鼓膜を叩く。だがその顔を見れない。ムツキをそういう対象として見れない自分が先生の中にはいたのだ。顔を合わせられない。なんて言っていいか分からない。きっとムツキも先生の方を見ていないはずだ。

「ご、ごめん!今日の体験授業はなしってことで!!オーナーには私から謝っておくから、二人はその……着替えて、温かくして帰ってね!じゃ、じゃあ!」

そのまま、彼は逃げるようにしてプールサイドを後にした。更衣室に戻り着替えた事もオーナーに授業の中断とシャーレに帰るのを謝った事もほとんど覚えていない。ただ、彼にとっては幸い、目元に徹夜続きで作られたクマがくっきりと刻まれていたこともあってオーナーが過剰に心配し、授業の中断を不問としてくれたのは覚えている。

春先だというのに気温20度越えの日差しの中、興奮混じりで限界に達した体力のままフラフラになりつつ職場へと帰った先生は、資料が山積みのデスクに頭を突っ伏して、倒れるように眠った。

後から電話でオーナーに聞いた話だが、ムツキとアルは先生が帰った1時間後くらいに、別のだいぶぽっちゃりした子とオドオドした子に連れられて自分たちの事務所に帰っていったらしい。ただ、オーナーが言うに、ムツキの表情はどことなく、白肌に対して赤らんでおり、悔しそうながらもどこか……恍惚としたものだったという。

その日から、彼は週に一度、ムツキがあられもない姿で肉を揺らしている夢を見るようになった――


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浅黄ムツキ

Height:144.7cm

Weight:152.2kg (335lb)

B:122.3

W:177.8

H:168.1



§§§



時は流れて6月下旬。今年は春から暖かかったこともあり、夏の到来は何時にも増してせっかちだ。もっとゆっくりしていればいいのにと、既に30度を超えそうな炎天下で、またもや哀愁漂う背中を携えながら先生は街をゆく。

要するに、先生は結局常に多忙なのだ。春夏秋冬関係なく。雨の多いこの季節は傘の差し方一つで生徒間のトラブルが起きやすい。視界が遮られた状態でぶつかりそうになれば「どこに目つけてんだ!?トリニティの生徒はゴシップを話す口とそれを聞く耳しかねぇのか!?」だの「ゲヘナの生徒は道の真ん中しか歩けないんですか?無法者らしいですね。…ですが、社会の除け者は除け者らしく端を歩いてくださいな」だのと煽り合いからの全力バトルが始まりがち。キヴォトスの治安は常に崖っぷちなのだ。

さて、そんな先生だが、晴れたこの日向かう先はというと…。

「最近徹夜続きだったし、自分へのご褒美でラーメンでも…」


最近疲れた身体に染み渡るとして彼が愛してやまないラーメン屋。こってりとした特製の豚骨スープが極太のメンマやトロットロのチャーシューとの相乗効果で効く効く。完飲必至だ。おまけに並盛と大盛が同じ値段となれば、いくら先生とはいえども大盛を頼む以外選択肢はなかった。

最近では、ゲームのガチャ課金まではいかずともそれなりの食費をラーメンに使っている為、シャーレを偶に訪れるユウカからは「娯楽だけでなく食費にもこんなに!?」や「そこの太った生徒たちと同じような体型になってもいいんですか!」などと指導される始末。ごめんよ、ハスミたち…私が散財するばかりにとばっちりを食らう羽目になって…。これがシャーレの近況である。

とまあ、それはさておき、まずはラーメンだ。市街地の比較的栄えた大通り沿い、ビルとビルの間のきわめて狭いスペースにでかでかと「特製豚骨ラーメン」と旗を掲げたその店は、オープンから約半年にして既にネットの口コミは100件を超え、その9割が評価星4以上。立ち食い式を導入した提供スタイルによって客の回転率も良く、人気店にもかかわらず行列はめったにできないという神業を見せている。

「今日は……1人先客がいるっぽいな…。やっぱり美味しいだけある!朝イチ開店ぴったりに来たのにもういるなんて、さては猛者か……」

暖簾代わりの旗で上手く顔が見えないが、それこそハスミやハナコには劣るもののかなりの巨体。キヴォトスにまだ先生の知らないこのサイズのビッグボディがいたとは、と内心思いながらも、それよりこの名店に朝から顔を出すその力強さに感心しつつ、その肥満体の隣に立つ形でカウンターに着こうとすると……。


「じゅるるるる……!じゅぼぼぼぼ……んぐっごぷっ、ごくんっ…!!んっ…ぷふはぁぁ♪あ~美味しかったぁ♡………ごぷふぅぅぅぅぅぅぅぅ!こんなに、ぱんぱぁん♪ぶふぅ……お腹、いっぱぁい♪げぷっ、わぁ!」

「うっぷ!?す、すみません!前を見てなくて…」

どぷんっっっっ!!!ぼよよよんっっっっっ!!どさっ…






「大丈夫…って先生!も~ちゃんと前見なきゃダメだよ~♪げぷふぅ………お腹がクッションになる私だったから良かったけど、ハルカちゃんとかだったら女の子にケガさせちゃうからね♪…ふぅ、ぷふぅ……」

先生の下腹部から下半身にかけてが、振り向いたその巨体のこんもりと膨らんだ特大の腹肉と衝突し、半ば突き上げられるようにして弾き飛ばされた挙句、体重の軽い先生だけが地面に尻もちを着く。

失礼ではあるが、なかなかの肥満体である相手の方はその衝突にびくともせず、多少驚いた声色で何かを喋っているが、とはいえ謝らねばならないと思い彼は顔を上げる。すると、そこには夢に出るほど見慣れてはいるがまたもや脳内の彼女の姿とは大きくかけ離れた肥満体の少女がいた。

「え……む、ムツキ!?どうしたの!その身体!?」

暖簾をくぐり出てきたその顔は、数か月前にスイミングスクールで出会った時のムツキの顔……にかなりの贅肉をトッピングしたもの。だがその人は明らかに浅黄ムツキ本人だ。顔を一瞥した後に、再度下から目線を上げていけば、まず目に入るのはパンパンに膨れたふくらはぎ。無論筋肉ではなく脂肪によって白い電柱のような太さと化している。

そして次に目に入るのは膝が埋もれるほど肉が溢れている両脚の太もも。セルライトが一気に成長してこんもりと肉段を盛られているそれは、トレーニングウェアだろうか、パンツの食い込みにも負けず、丸みを失った尻からのラインがまさにぼよんぼよんという擬音の似合う形をしていた。

そして何より目立つのが、摂取した栄養分がほとんどそこへ脂肪に変換されて蓄えられているのではないかと考えたくなるほど、またある意味で風船のように膨らんだ下腹部の巨大な腹肉。エプロンというには肉厚すぎるともいえるそれは、ムツキが「お腹いっぱぁい♪」といいながらぺちぺち叩く度に波紋を浮かべ、それと同時に呼吸の度に上下に揺れている。まるでムツキ本人とは別の生物のような下腹部だ。

そこから上に目をやると、ラーメンによって膨れた胃袋周りの腹肉やウェアにギッチギチに包まれた胸、取っ手のように掴めそうな二の腕の贅肉などが視界に入るが、顔肉の成長も甚だしい。口周りは食べかすが付き、目元も頬肉で持ち上げられている。だれがどう見ても肥満児そのもの。前回出会った競泳水着姿の時から優に50kg、下手したら100kg近い増量をものの3,4か月で遂げたと考えられ、先生は胸の高まりと同時に戦慄する。普通に食べて至れる肥満化ではない。


「ん~?げぷふぅ…私はいつも通りだよ♪ちょっと……むふぅ、食べ過ぎて、お腹が重くて苦しいくらいで…うっぷぅ……くふふ…♪んふぅ、ふひゅぅ……次はどこで食べよっかな…♪」

絶対にいつも通りではない。そう先生の勘は囁く。だが不思議と良くないことに巻き込まれているような感じではない。……きっとムツキは自分で…。

そう考え始めた所を、ムツキの贅肉をたっぷりと携えた身体から発せられる汗臭さが邪魔する。肉の谷間の間から臭う汗の匂いがまるでビンタをしてきているように先生の脳内をかき乱した。

「ね、ねえムツキ!!よかったらだけど……私と一緒にもう一杯、食べない?勿論、私の奢りで……」

理性よりも先に感情が動いてしまった。ムツキともう少し話したい。ムツキの食べている姿をもっと見てみたい。その欲望からつい、彼女を誘ってしまった。別に悪い事をしているわけではないのに、どこか罪悪感が湧いてくる。

「くふふ…♡ぶふひゅぅ……お腹いっぱいだって言ってるのにぃ♪……先生ってやっぱり面白い♪うっぷふぅ……あれれ~なんかお腹空いてきちゃったぁ~、じゃあ、特盛の豚骨チャーシュー麺、頼んじゃおっかな~♡食べきれるかなぁ~こんなに痩せてる私じゃ、食べられないかもぉ~♡んげぷふぅぅぅぅ……でも、先生の奢りだから食べないとね~♡♡♡」

わざとらしい声色で、いつにもまして悪魔的な笑みを浮かべながら、くるっと方向転換。くぐったばかりの旗をもう一度くぐりながら、店主に注文を告げる。

当然店主はきょとんとした顔をするが、先生も顔を出して「自分の奢り」だというと、あっさり二杯目のラーメンを調理し始めた。

これが早朝ではなく昼間であったら、後ろのお客さんもいてこうはいかなかっただろう。だが幸い、朝日が昇りたての午前6時前、まだ自分たち以外に客はいない。

寡黙な店主を他所に、先生とムツキはラーメンが提供されるまでの一時の間、話を始めた。


「ねぇ、ムツキ、聞いても良いかな…?」

「んぅ…?なぁに、先生♪私のお腹、撫でたくなっちゃった?それとも、に・の・う・で…♪」

神妙な面持ちで会話を切り出したはずが、第一声にしてムツキの誘惑じみた発言により牙城を崩されてしまう。つい頬が緩み、口角が上がりそうになって、ペースはムツキのものとなった。

「うっ……そうじゃ、なくは、ない…けど……。ムツキ、もしかして自分から太ろうとしてる…?それか言葉を濁さずに言うけど…太っていく自分を楽しんでる…のかなって思うんだけど……」

「くふふ…♡ええ~先生、私を“太ってる”なんて、酷い~♪……なぁんて、流石、先生だね。むふーっ、はぁ…!んはぁ♡私ね、先生。アルちゃんのお肉を揉んだり撫でたりするの好きだし、カヨコちゃんにあーんってしてご飯を食べさせてあげるのも好きなんだ♪……でもぉ……」

「でも…?」

「はぁ♡はぁ♡“太っちゃうって分かってるのに、自分のお腹に食べ物を詰め込む”のも大好きなんだぁ♡♡♡……ほぉら、もうこんなにたぷんたぷぅん♪ふぅ……むふぅーっ……」

額に浮かべた大量の汗が頬を伝って流れていく中で、ムツキはより体温を上げながら、自分の腹で乱暴に遊ぶ。カウンターの下、両手でがっしりと鷲掴みにした巨大な腹肉を店主や先生にどう思われるかなど気にもせずにまさぐり始めた。

太ると分かっているのにやめられない、太っている自分がもっと太ろうとしているその堕落、もはや太るためだけに食べていく事の背徳感と快楽に呑まれた彼女は、喘ぎに似た声を漏らして肉で遊ぶ。

「むはぁ…♡ぁぁぁ…♡うっぷはぁっ…♡♡♡お、重たい…ねぇ、先生、私のお腹、重たいよ♡♡♡んはぁぁぁ…♡ほらほらぁ……ムツキちゃん、デブすぎぃ……♡♡♡」

臍に右手の人差し指を入れると、ムツキの小さい手では腹肉に埋もれた深い臍に指のほとんどが埋もれてしまう。圧倒的脂肪量。それを楽しむムツキが隣にいるという事実に、もう先生の手を止めることはできなかった。

「ご、ごめん、少し、だけ……」

「んはぁ…♡先生の手、ひんやりして冷たぁい♡……私のお肉で温めないと、だね…♪おへその穴、あったかいよぉ…?……一緒に温まろうよぉ先生っ♡んふぅ…あはぁ♡」

ズポッ……むにゅんっ、ぐにゅんっ……ズポッ……

たった数秒だけ入れただけなのに、汗と体温にまみれて右手の人差し指が濡れる。成人男性の指であっても深く沈み込んだその臍は、贅肉の溝としてやはり相当な深さのようだ。

と、多少考えはしたものの、先生は徐にある行動に出た。

「…すんっ、んはっ…く、くさっ……あ、ご、ごめんムツキ!なんでもないから……」

「あはっ♡♡♡先生、隠さなくてもいいのにぃ……♡その手、今日一日洗っちゃだめだよ~?んふぅ♡ぶふぅ……♡」

もう、何も返事はできなかった。


「はいお二人さんお待ち。特製豚骨チャーシュー特盛と…特製豚骨大盛。ごゆっくり」

換気扇がフル稼働している厨房にムツキと先生の声は聞こえていなかったのか、それまで調理や午後の仕込みに集中していた店主は特に変わったことなどなかったかの様子で出来立てのラーメンを提供する。ムツキの臍とは異なる、これは美味間違いない刺激的香り。

思わず涎がこぼれそうになりながら、割り箸を手に取り麺を突こうとする。その時だった。

「じゅぼぼぼぼぼぼ!!ごくんっ…!はぁ…♡んはぁ…♡おいひい…じゅるるるるる!!」

先生よりも先に箸に手をつけただけでなく、麺を啜る隣の彼女に意識を奪われた。汗だくになりながら頬を更に膨らませると、数噛みしただけで麺を胃袋に流し込む。その拍子に僅かに膨れる胃周りの腹肉と、たぽんたぽんと波打つ下腹部の贅肉が愛おしく思えてくる。

「い、頂きます!じゅるるるる!!!美味い…じゅるるるる…!」

数刻が経ち、量が倍違うのもあって先生の方が僅かに早く食べ終わる。ご馳走様と囁きながら手を合わせた後は当然、彼女の方へと目をやった。

「んぶふぅ…♡ひあわへぇ…♡ごくん、ごくんっ、んぐっ…ぶはぁ…♡ぐぷっ…」

丼を持ち上げながらスープを飲む少女はまさに興奮の絶頂。蕩けそうな顔のまま、塩分の濃い液体を喉に通していた。

「…はぁ……ぶはぁ…♡ねえ先生?ちょっとお腹押さえてみてよ♡…いいことあるから、ね♪んぐぷっ……」

「え、でも…そんなに触ったら……」

「ちょっと押さえるだけだから、ね…♡早くはやくぅ……♡んげぷっ…」

「う、うん…これで、いいかな?」

彼女に諭されるまま、掌をより膨れて巨大になった腹肉の上に置く。しっとりどころか汗でべたついた白い肌。きっとこの手も臭い。だが、それ以上の衝撃がすぐさま走った。

「ふぅ……いくよ♡ごくっんごくっ、ごぷっ、ごっくん、んごっくん…!!!」

「あ、あぁぁあ…!!」

脂が浮いてまだ熱々のままだったスープが喉を通って胃袋に流し込まれると、腹の表面までも暑くなると同時に、更に腹が膨れていっているのだと感触から伝わる。そして。

「ぶはぁ………ぐぷふぅぅぅぅ、ごぇぷぅぅぅぅぅ……♡んはぁ…!あはぁ……♡♡♡どうぉ…先生?最高、だよねぇ…♡♡♡」

げっぷの拍子にまるで地殻変動でも起きているかの如く、腹肉が微小の揺れを連続して引き起こす。145cm弱、推定250kgの豆タンクの中に赤子が何人でもいるかのような感覚がして、先生も興奮を隠し切れなくなってしまった。


「ね、ねえムツキ…!ムツキが太ろうとするのとか、太っちゃう感覚を止める気は私にはないけど……もし、何かに困ったら、いつでも言ってね。私は何時でもシャーレにいるから…!」

「げぷっ、くふふ…♡変なの、先生♡困ってなくてもシャーレには、これからも遊びにいくねっ♪例えば……先生と私のお腹で遊んだり…♡♡♡」

ブチッ……

「か、からかい過ぎ……!私は大人だから、あんまり大人をからかうのは…!」

ブチブチブチッ……

「んっ……?なにか変な音がするような…?」

完食の後にまだまだ午前6時、一日が始まったばかりの日の下へと暖簾兼旗をくぐって店外へ出た先生とムツキは、興奮冷めやらぬまま会話を続ける。のだが、まるでノイズのような異常音がどこからともなく聞こえ始める。

ブチブチブチッ、ブチブチブチブチィィィィィ!!!

「先生、何か変な音しない…?私は何もしてないけどな~……んふぅ…もしかして、先生もいたずらにハマっちゃったり…♪」

ムツキもその音に気付いているようだが、一早くその正体を掴んだのは誰よりもその身体に魅惑されていた先生の方だった。

「私じゃなくて…ムツキの服からしてると思うんだけど…」

ビチビチビチビチビチィィィィィ!……ファサッ……

縫い目という縫い目が全て裂け、胃袋を膨らませる特訓(?)という名目で着ていたであろうトレーニングウェアがものの数秒で布切れと化していく。もう着るとかいうレベルの話ではなかった。






「え……わ、わぁ!?何これ…全部破れちゃった……く、くふふ…♡じゃ、じゃあ私は帰るね先生っ!!ぶひゅぅ…はふぅ…んぜふぅ…!」

動揺の後に今度は先生ではなくムツキが一目散にその場を離れようと試みる。先生とは別方向へ身体を向けたかと思えば、2000kcal近い量のラーメンを蓄えたばかりの腹を一挙一動でだぷんだぷんと揺らし、身体を左右にふらつかせながら急ぎ足のような素振りで帰路につく。なにせ上半身に何も纏っていないのだから。

だが、そんな生徒を先生は今度という今度こそ放っておくはずがなかった。

「ま、待ってムツキ!!その恰好じゃ……アレだからさ…。良かったら、シャーレに来ない?何か、“ごちそう”するから……ね?」

「んふぅ……ぜひゅぅ…くふふ…♡先生って、本当に面白いね…♡♡じゃあ、甘えちゃおっかなぁ~♡♡♡」

これが邪な気持ちによるものなのか、先生としての善意によるものなのかは誰にも分からない。先生自身にさえも。ただ、その後ムツキに白衣の上着を着せてシャーレのオフィスに上げたのは事実であり、その日一日の先生の食費がいつもの5倍近くなったことは確かなようだ。


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浅黄ムツキ

Height:144.7cm

Weight:152.2kg→247.4kg (545lb)

B:122.3→174.6

W:177.8→232.1

H:168.1→210.8



§§§



後日談、にしては随分こってりとした話。

ラーメンの一件から、先生とムツキはある種、秘密のビジネスパートナー……のような関係になったわけだが、それから暫くの月日が過ぎ…。

ムツキ曰く、彼女が自己肥育まがいの遊びをできたのは、一度アルの放送事故によってアカウント停止処分が下された後に、もう一度インフルエンサーとして便利屋68が別の配信サイトで活動を立て直せたからだという。高層マンションの最上階から地に堕ちたかと思ったら、またもや返り咲いていたらしい。一度ついた熱烈なファンは配信サイトが変わっても追いかけてくるのだろう。

それ故、多額の広告収益が入った事でムツキもまた食費にお金を回せていたようだ。

そして、そんな便利屋の様子はというと…。




「んぶふぅ…ぜひゅはふぅ…んぶふぅ…♪ぜふぅ…んっ、みんなお待たせぇ♪『便利屋Ch.68』今日も配信、げぶふぅぅぅぅぅ……♡始めていくよぉ♪」

埃一つない新たな事務所、新調したばかりのキングサイズのソファに一般人3人分ほどの幅をとって尻肉を沈み込ませる贅肉まみれの超肥満体。

恐らくネットで購入したであろうバニースーツだったものは、着る段階で既にボロボロ。それも仕方ない。彼女以外のメンバーはハルカ以外揃いも揃って巨デブ。この大きさの身体に服を着させるのには最低でもそれなりに動ける人が3人は必要だろう。タイツには穴が開き、むしろ布地より穴の方が大きいほどにまで避けて脚の贅肉があふれ出ている。

ちなみにタイツも尻まで上げられていないようで、今の彼女が果たして下着を身につけているのかは、画面の向こうの彼女たちしか知り得ぬ事。

肝心の上半身のバニースーツも無残に破れ散らかしており、両胸の乳房がハッキリと現れそうになりながら、彼女、浅黄ムツキはその片方を手で隠しながら、もう片手は本能には逆らえまいとドーナツをしっかりと握っている。

今日の配信はこのドーナツを限界まで食べるというのが趣旨だろう。巨体にばかり目が行きがちだが、ソファの後方には数えることすら叶わぬほどの糖質の山が形成されていた。


「ちょっとぉ…ぶふひゅぅ…服が小さくて、着替えに…げぷっ、手間取ったけど…どう?似合う?……ぐぷぷ…♡♡♡ムツキちゃんバニーでぇ~げふぅぅぅぅぅ♪」

わざと配信のマイクに拾われるように大きく声を発しながら、吐息交じりに特大のげっぷをかますと、配信のチャット欄は勢いを加速させる。

『ムツキちゃんももうでっぶでぶだねぇww』

『今度餌送るから僕に送り先教えてよぉ』

『うっほぉぉリアタイできて良かったあああ』

『録画不可避』

『アーカイブ残りますか』

『クンカクンカ……』

大半のコメントがセクハラまがいのものばかりだが、中には本気で彼女たち便利屋社員の激太りを心配するものもある。しかしキヴォトス人である彼女たちの身体は丈夫でこれだけ太ってもなお、体重や体脂肪率以外の数値に異常はなく、健康体といって差し支えないものだった。


「今日はぁ、私ソロの配信だよぉ♪……沢山食べるから、応援宜しくね♡んげふぅぅぅぅ!実はもう食べてるんだけどねぇ……ぶふひゅ…♪」

当のムツキは過激なコメントにうろたえる事もない。この手の対応は慣れたものなのだろう。むしろ投げ銭やファンからの贈り物をより促す目的もあってか、ムツキ自身の方からファンの熱に薪をくべている節もありそうだ。

特大ドーナツを三段重ねたような巨腹のサイズは333cm。身長の約2.5倍で、当然抱き着いても腕は回らない。肉の段の間には汗が乾ききらないうちにまた汗を描くため湿地帯のような湿度が常に保たれており、堪らぬ激臭を放っている。特にへそ下の腹肉はどこが腰で何処が股なのか探るのが困難になるほど大きく発達し、両脚を閉じられなくするほど垂れ下がりながらブヨブヨと今日も脂肪を蓄え続けている。

くびれもなく、腹肉を強く押したところで肋骨に触れることさえできない。小ぶりだった胸は十分すぎるほど巨大化し、両腕は自然と持ち上げられ水平以上の低さには贅肉同士が邪魔をして下ろせなくなっている。肉の山にちょこんと乗っているように見える顔もしっかり余す事なく肉まみれで、もはやこの肉塊の本体がムツキではなく意識を持った贅肉の山自体なのではないかと疑わせるほど太っていた。

……ただ、これでも約400kg。身長差を考えればそれほど違いはないのかもしれないが、社長・陸八魔アルの方が体重500kgオーバーと、更なる超巨体と化していたのだが、それはアル自身が最近配信や動画に顔を出さないのもあって視聴者も知らない。


……そして、それはこれから先も知ることがない。



「んぶひゅぅ…あむっ、むぐむぐっ……ごくんっ、げふぅぅぅ……あら?配信が切れて…ふぅ…『このチャンネルは規約違反により停止』…あ、あああ、垢バンされてる!?!?」

5段重ねのチーズバーガーを手も口もベトベトに汚しながら食べていたアルが、裏方として配信の環境を確認していると、チャット欄がある時を境にピタリと止まっていたことに気づく。嫌な予感というのは当たるものだ。咄嗟に手をタオルで拭い、彼女の身体に比べればミニチュアほど小さいノートPCを確認すると、そこには件の文章が。


「んげぶふぅ…アルちゃん、それって……ごぷっ、げぶふぅぅぅぅぅ……♡私のお肉に配信サイトが耐えられなかったってことじゃ…。く、くふふ♡…太りすぎちゃったぁ♡……でも…いいよねぇ♡あむっ、むふぅ♡もっと食べて太りたいんだもぉん♡♡♡」

圧倒的肌面積と露出により、18歳未満の視聴者も多い配信サイトでは便利屋の配信は完全NG。にもかかわらず、突撃をした彼女たちのチャンネルはあろうことか爆散し、再び獲得したファンを無へ帰したのだった。

「あむっ、ごくんっ……ごぷふぅぅぅ♡と、とまらなひぃ♡もっとぉ…もぉぉっと胃袋大きくしないとね…はむっ、むふーっ♡んげぶふぅぅぅぅぅぅぅぅ!!ぐぷぷ…♪」

それでもムツキは止まらない。目の前の食べ物を食べることだけが今の彼女を突き動かす目的となっていた。極太の腕を伸ばし、極太の指で炭水化物の塊を掴み、口の中に押し込む。そしてロクに噛まずに一瞬の甘味だけを楽しんで胃に落とし込み、脂肪へと変えていく。孤の営みこそが彼女の快楽だった。

「笑い事じゃないわよ!?これじゃ便利屋の収益源が…0に…。どどど、どうするのよ!?……た、食べて気を落ち着かせないと…あむっ…」

一方のアルはというと、こちらもこちらでなんだかんだ食に憑りつかれており、動揺やストレスが溜まると問答無用で食に走る癖がついていた。PCの画面に表示される異常な光景にもう考える事を放棄してひたすらジャンクフードを貪る。きっと全てを食べつくして我に返ったら、いつもお決まりの白目をむいて卒倒するに違いない。

……いや、食べきるまでもない。

この直後、配信用の器材まで全て新調する為に外へ買い物や部品調達に出ていたカヨコとハルカが帰ってくると、現金を完全に引き出して口座残高が0になった通帳と多額のクレジットカードの請求書を見て一瞬にして青ざめ気絶するアルであった。

便利屋の波乱万丈な物語は、まだまだ続く…?



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浅黄ムツキ

Height:144.7cm→144.9cm

Weight:152.2kg→247.4kg→400.2kg (882lb)

B:122.3→174.6→251.7

W:177.8→232.1→333.2

H:168.1→210.8→330.6




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