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※先月のハスミSS(晄輪大祭SS)を先にお読み頂けますと、時系列も含めてより楽しめるのではないかと思います!

ハスミSS → ( https://www.fanbox.cc/manage/posts/7042763 )

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「…これは明後日の万魔殿との会合で議題に挙げる件で、こっちは改築工事中の第6学生食堂で起こったガス漏れ事故の処理…あっ、あと校内掲示用の『カイロ型爆弾の持ち込み禁止』ポスターも作らないと…」

積乱雲が圧倒的な存在感を放っていた季節からおよそ半年、肌を刺すような寒気に覆われた夜であるにもかかわらず、ゲヘナ学園の校舎の一室には今日もまた煌々と灯りが点いていた。その部屋は決まっていつも同じ一室。不登校生徒や問題児はともかく、一般生徒が帰路につく夕方を過ぎた頃から日付が変わるほどの時間帯まで、その部屋では一人のゲヘナ生が小言を漏らしながら業務に勤しんでいた。

「はぁ…私一人では骨が折れますね…」

横乳のはみ出た、サイズが合っているのかどうか一目では判断のつきづらい制服に、手首には鎖の切れた枷、首元には機能性があるのか疑われるカウベルを身につけた彼女の名は、天雨アコ。ゲヘナ学園風紀委員会の行政官であり、委員長に次ぐ権力とそれに伴う職務への責任を負う身だ。

もっとも、タイツにパツパツと詰まった太ももがほぼ露出されていたり、前述の服装であったりから、彼女自身の風紀に齎す影響を論じなければならないのは、ここでは不問としたい。なにせ、今の彼女はここ1か月ほど、睡眠時間を2~3時間に切り詰めながら高内外の生徒による問題行動や事故の処理に猫の手も借りたいほど振り回されているのだから。


「あのタヌキの顔を見るだけでも胃が痛むというのに、現場も疲弊しているこの状況……早くヒナ委員長に会って、委員長の声、委員長の匂い、委員長から提供される二酸化炭素を間近に感じたい…」

1週間にしておよそ30件を超えるほどの事件が起こるここゲヘナ学園の校区では、事件事故の一件一件に風紀委員のメンバーがついては対処をしている。中には対処の難しいものもある為、彼女たちの体力の消耗は著しいものだ。

そして何より、風紀委員会には現在、かつてないほどのピンチが訪れていた。風紀委員長である空崎ヒナの不在である。

とは言え彼女の身に大事があったわけでもなければ、委員会内で衝突があったわけでもない。

ヒナは今、「冬こそ温泉…そうだ、そこに温泉があるのだ!」とほざいては新入部員が爆増している温泉開発部が起こした騒動の解決、そして今後起こると予測される当該部活による大規模開発と称したただの連続爆発事件の未然防止を図るために、ゲヘナ学園の郊外にまで単身で出向いていた。

「1か月経ってもまだ晄輪大祭の一件すら後始末ができていない中で、こんなにも立て続けに業務が押し寄せてきたら…」

おまけに先月開催されたキヴォトス晄輪大祭の後処理もまだ片付いてはいない。

特に前代未聞の珍事、ケーキを食べて生徒が複数名激太りをしたという事件は風紀委員兼、晄輪大祭の実行委員を務めていたアコの身に大きくのしかかる。各校生徒を調査した結果分かった事実として、ゲヘナ学園の給食部がその件では大きく関与している可能性が浮かび上ったからだ。

しかし、人を急激に太らせるケーキ、というのは普通の料理人、ましてや給食を作る一生徒が生み出せるはずもない。まさに事態の究明に急いではいるが、神秘としか言えない現象に原因の追求は難航を極めていた。


そんなストレスフルかつ夜更かしと頭脳を使う労働環境が欠け合わさった結果、アコの消耗は激しく、それを補うようにして栄養補給をしなければ、夜間はおろか日中すらまともに活動できないだろうと思われる。そしてそれは彼女自身も理解しており、エネルギーをフルチャージできるヒナがここに居ない以上、夜食という名目で数々の甘味を胃に収めることによりなんとか活動を維持していた。

そう、数々の甘味を胃に収めることにより…。

「あむっ、ごくんっ…夜食がいくらあっても足りないですね…。あら、このチョコ、美味しい…♪もう一粒だけ…あむっ!んん~!私まで蕩けてしまいそう……あっ、いけませんね、仕事に戻らないと……はむっ、こっちの大学芋もお芋のホクホク感と糖分の濃厚さ、ゴマの風味まで完璧で……ふふっ♪いくらでも食べれてしまいそう…」

右手で書類の束を持ちながら、左手で甘味を食う!!

…そして彼女の歩く経路は、その一室に備え付けられた冷蔵庫と書類の山が鎮座する机の間を10分おきに往復するほどとなっていた。

頭を使えばいくら甘いものを食べても太らない、そう天才は言うが、ものには限度というものがある。常に糖分を取り続けた身体はいくら頭にエネルギーを回そうと、取り入れられたカロリーを皆消費することはできない。いや、むしろアコの場合は他の風紀委員に比べて現場での職務が少ない分、消費カロリーは圧倒的に低く、にもかかわらず栄養を蓄えてばかりのため、いつかは悲劇が訪れることが確約されていた。

いつかは…。


ぷちんっ!!

「あむっ…ふふ…ん…?えっ…」

乳を抑え込むように詰め込んだ、脇の切り取られたシャツから、プラスチック片が弾け飛び、弾速凄まじいままに部屋の壁にそれは直撃し砕け散る。横乳があらわになっているのはそういうファッションだから、というだけではなかった。彼女のバストサイズが増大したことによって物理的にも制服が無理やりアコの胸部に食い込んでいたのだ。

そして今、最も緊迫した布地においてダムが決壊しやすい場所である位置、ボタンが一つ射出され、アコの谷間が顔を覗かせていた。

「そ、そんな嘘…ですよねっ!?たまたま偶然糸が消耗していただけで…」

信じたくない、だがボタンが飛んだ瞬間、彼女が毎朝見て見ぬふりをしながら詰め込むように着ていた衣服と、肌との間の窮屈さが霧のように消え、身体が楽になる。それが何よりの感覚による証拠だ。だが身体こそ楽になれど、彼女の精神は焦りの一途を辿っていた。

年頃の女子が自身の体重増加を身をもって体感する…これほど焦り、嘆くことはない。おまけに彼女には意中の人、敬愛する風紀委員長までいるのだから、もしヒナに太った自分の姿を見られては一たまりもない。

そう内心アコが思い始めた瞬間。


ブチンッ!!

むちむちに膨らんだ太ももに沿うようにして、ピンッと張っていたガーターベルトが太い布地にも関わらず小さな亀裂から一瞬にして断裂する。これ以上伸びきれないというほど、太くなる一方の脚と尻に圧をかけられながらなんとか生き延びていたそれは遂に息絶える。短時間にして二度の悲劇。これは偶然ではない。明らかな太り様をアコの身体が彼女自身に突きつけた。

「う、うぅ…自己管理は完璧にできていると自負していたのに、こんなことになるまでお肉が付いていたと気づけなかったなんて…」

思い返せば制服の上着も何やら張っている気がする。元は少し大きいくらいのサイズで用意していたはずだというのに、衣服の悉くがパツパツだ。ほどよく肉の付いていたはずの身体は、今日の栄養補給によってまた一歩寸胴体型へと近づき、一般生徒と並ぼうものなら、天雨アコは立派な「自堕落ぽっちゃり風紀委員」と映るに違いない。

「よしっ…今日、いえ、明日から糖質制限をしましょう…!」

今日、と一度は言いかけたものの、他に誰もいない校舎の一室であるのをいいことに、ちょっとした口寂しさから明日からのダイエット開始を宣言する。即ち、今日この時までは甘いものを食べてもいいとアコ自身は許容したのだ。

「思えば最近は遅くまで学園に残って仕事ばかり…出すゴミも中身は夜食で食べたお菓子の包装が大半で、顧みれば不摂生極まりない…!委員長がお帰りになられるまでお菓子は禁止、摂取カロリーも1日1,000kcal未満に制限!…そ、そうすればこんな姿で委員長の視界を汚すこともなく、元の体型に戻れるはず…!」


たるんとした皮下脂肪を蓄えた二の腕をタプタプと震わせながら、アコはその場に立ち尽くし、いつしか仕事そっちのけで決心する。この数分間、一切の業務は進んでいない。その一方で先ほど食べたチョコレートや大学芋は胃袋の中で消化され、また何かを食べたいという欲求ばかりが積もり積もっていた。

「ごくり…なので、今日だけは最後の晩餐ならぬ最後の夜食で…ちょうど自分へのご褒美にと用意していた”有名ショコラティエの切り落としケーキ”を食べて甘々な自分とは決別としましょうか…えっと確か…」

アコ自身のポケットマネーと少しばかり委員会の余った予算を使い用意していたケーキは、ゲヘナに珍しく店を構える有名ケーキ店のもの。とはいえそんな有名店のケーキを直に買えるわけもなく、縁あって訳アリの切り落としケーキを安く買っては冷蔵庫に備えていたのである。

だがケーキといえば思い出すのはあの一件…。

「間違っても晄輪大祭後に押収した例のケーキを食べないように気を付けないと…確かあれも冷蔵庫に証拠品兼成分分析用に保存していましたし…」

晄輪大祭において魅惑の甘さと謎の神秘によって、食べた生徒を瞬時に肥やし尽くした魔のケーキ。それと間違えて万が一口にしてしまったら最後、大祭にてトリニティの羽川ハスミに口うるさく身なりや風紀を説教していたアコが見るも無残に太ることは目に見えている。しかも今のアコは常に糖分を取っているぽっちゃりさんの為、その効果は相乗的に計り知れないだろう。

…と、そんな惨事が起こることも多少は危惧しつつ、「言ってもそんなことは起こるはずないでしょう」と内心高を括りながら、彼女は肉の詰まった尻を揺らしては冷蔵庫へ歩み寄り、食料を物色する野生動物のようにその中の目的のものを探っていく。


「ありました、私のケーキ…!しかし、あとで冷蔵庫も整理しないといけませんね…自分で買い込んだとはいえこんなにも軽食で溢れている冷蔵庫はキヴォトス中を探してもそうはなさそう…そ、それだけ頭を使う仕事に従事しているという事の裏返しでもありますが…!」

軽食から冷食、残り物から買い足してすぐのものまで、食べ物で溢れかえった冷蔵庫から取り出したそれは、切り落としケーキだとしてもかなり崩れた形をしており、見た目はまるで「どこかから押収した証拠品のケーキの一部」だと言われても違和感がない。

「ごくんっ…あ、改めて見ると、ケーキを前にしただけでも罪悪感がありますね…明日から減量する身にカロリーの塊を与えるなんて…でもこれも明日への活力、今日までの日々との決別の為…ケジメの甘味ですから…!」

食べてはいけない、これ以上太っては困る…という自身の中の枷が、内側から無尽蔵に湧き出る食欲によりあっという間にかき消される。全ては「今日だけの贅沢、明日からは減量。今日まで頑張ったご褒美、明日からは我慢。その為に…」という理由付けで押し通され、罪悪感を唱えていた者の指先は躊躇なくケーキに向かっていた。


「い、頂きます…!あむっ、あ、甘いでふね…!骨身に染みるこの優しい味わいが、なんとも…あむっ…むふぅーっ、たまりません…♡」

あむっ、はむっ、むふむふぅ…ごくんっ♡

おもっていたよりも、あまくて…♡はむっ、むぐっ…ごくん…はぁー♡

想像以上の砂糖の甘さ。今まで食べたどのお菓子よりもそれは際立つ。本当にただのケーキなのか、疑う気は僅かに生じたものの一口食べればクリームに包まれて消えてしまう。そして呑み込めばまた、口いっぱいにスポンジとクリームを詰め込みたいというわんぱくな欲望に駆られて、初めはフォークを使っていたアコも、終いには手づかみでケーキを口に詰め込む。

鼻息と吐息が満足感を物語るが、食べるスピードは変わらない。いやむしろどんどんとペースを挙げていく。

素手でケーキを貪り、口元にはクリームの”白いひげ”を作ってゆく。そこに風紀など存在しない。


もごっ、むふぅ…♡んぐんぐっ…ごくっ♡はふぅ…♡

「ふひゅぅ……んっ…?そういえば、ついヒナ委員長の純白の美しさと重ねて見えたので食べてしまいましたが…」

ヒナ委員長の白髪のロングヘアーと同様に見えるそれは、誰がどう見てもショートケーキ。だがそれはアコが思っていたものとはよく考えれば違うものだった。

「私が買っていたのはショコラケーキだったような……えっ、じゃあ、このケーキって…まさか…」


ぶくんっ、むくむくむくぅ…!!!

急激な体温の上昇から数秒後には腹部に強烈な膨らみを感じる。胃袋が膨らんでいるのではない。もっと…ぶよぶよとした、重たい何かが、へそ上の腹部中央からこみ上げてきたかと思えば、脇腹にも違和感を覚え、身につけていたパンツに腹の一部が乗り始める。

重い、前に倒れる…そう危険を感じたアコだが、次の瞬間には尻がドプンッ!と急激に膨らんで前方と後方との重さのバランスを保ち始める。だが膨らんだ尻に耐え切れずもう片脚のガーターベルトも千切れ、また下着の布までミチミチと切れる音が室内に響く。それだけではない。ブヨブヨと皮下脂肪が積もっていく脚は、次第に肉の段を形成しボムレスハムのように伝線したストッキングから素肌を覗かせては膝を埋めていく。

「そ、そんな…!?ぶふぅ…ごれっで!?んぐふぅ!?」

ぶよぶよっ、ギチギチギチギチィ…!!

顔もあっという間に丸みを帯び、顎下にはたぷんと垂れた肉の段が一段形成され、その顔と似合うように胸も巨乳化、シャツのボタンを全て飛ばしたかと思えば、乳袋はバランスボールのように膨らんだ腹の上に座り込む。

二の腕もまた制服の内から溢れ出すように膨らみ始め、上着すら破り外気に触れる。

「あ、あつい…もう立って、られな…」

ドッシィィィンッ!!!

背面から見たアコ…と思わしき彼女の姿は、背肉の段を何段も構えており、高い体温のまま崩れ去るようにその場に尻もちを着く、列記とした肥満生徒と化していた。


「い、イヤ…!!こ、これ以上太るなんてっ…!うっ、おねがいっ、も、もう服が、服がっ…!」

ブチブチブチィ!!!!バツンバツンッ!!

どぷどぷどぷぅぅぅぅ!!!

だがこれで終わるほどアコの肥満化は甘くない。甘みの極限であるケーキを欲のまま食べた代償としてその身に降りかかった現実は、より重く肥満体にのしかかる。高温により身を伝う汗は、床にまで垂れていた。

ぶよぶよぶよん!!!ブチブチブチィ!!!

まだまだ体積を広げる天雨アコの身体は、彼女の意思に反して容赦なく衣服を破り、贅肉を外へ外へと溢れさせていく。

齢17の身体は、自己管理と謳うには程遠いほどだらけきった、筋肉などあるのかと思わせるほど脂肪まみれの巨体へと変貌していく。

「んああああ…!んげぷふぅぅぅ…!ぶひゅ、少しだけ間違って食べただけなのに…ぐぷぅぅぅぅ!!どうしてこんな…!」

ぼよんっ…!ぶくんっ!ブクブクブクぅ…!!!

「ま、まだ膨らむんですか…!?うぐぐぐぐぅ…」

断末魔のように叫ぶ彼女の声は音階を成すように低く、太くなっていき、肉へと埋もれていった。



「ぜふぅ…むふぅ……う、うぅ…こ、こんな身体、私のじゃないみたい…でふぅぅ…」

一時間弱。ストーブもエアコンも付けていないのに一気に高まった室温は、時計の長針が一周するころになってようやく平温へと戻りつつあった。異常な湿度によって湿った書類の山、だがそれは時間が経てばそのうち乾くだろう。

だがこの一室において、いくら待っても元には戻りそうにないモノが一つ…。

「お腹も二の腕もぶ、ぶよぶよ…こ、これじゃ委員長に見せる顔が…」

まるで赤子の手のように膨らんだ手とその指先で、形を確かめるようにして彼女は自分の顔に触れる。その感触は今までにないほど柔らかい。まるで水風船のような頬の触り心地。しかし決して快いものではない。

「委員長だけではありませんね…だ、誰にもこんな姿見せられない……あ、あああ!!こ、こんなに忙しいのに、こんなに働いているのに、どうしてわ、私がこんな目に…!」

鑑を見ずとも分かる自身の異常なまでの激太り。自分でさえその姿を確かめるのが厭なのに、それを誰かに見られた時を想像すると、目の前の他者の冷めた目と引きつった顔が容易に思い浮かんで寒気がする。…と同時に抑えようのない怒りが込み上げてきた。

「…もういいです」

ただ仕事に精を出していただけ。そのご褒美にちょっと贅沢をしていただけ。少しのミスでどうしてこんなことに…。暴動や騒ぎばかり起こすゲヘナ生の尻拭いをしていたというのに、誰もこの部屋では自分を褒めてくれる人はいない。そんな現実と自分の姿を思い返すうち、アコには「もうどうにでもなってしまえ」という自暴自棄、ヤケの感情が大きな渦を巻いていた。

「もう、これ以上太ってもなにも問題ありませんよね…なぜか無性にお腹も空いてきましたし……」

ガコンっ…

贅肉のみによりかつての何倍も膨らんだ身体をズリズリと引きずりながら、アコはその身を冷蔵庫へと向かわせ、躊躇なく食料がため込まれた蔵の扉をめいっぱい開く。中には甘いものからこってりしたもの。刺激の強い飲み物から甘ったるいジュースまで常人であれば飽きるほど詰め込まれていた。ただ空洞となっているのは、さっきまで「晄輪大祭の会場で押収したケーキ」が仕舞われていたスペースのみ。

「お腹いっぱいになるまで食べたくてたまらないんですから…この際、好きなだけ食べてしまってもいいでしょう…」

あむっ、はむっ!むふぅ…くちゃ、ごくんっ…

プシュ…ごくんごくんごくん…ぶはぁ……げふぅぅぅぅ……

もごっ!あむあむっ!ふぅ……んごっくん…!ごくごくごくっ…!げぶふぅぅぅぅ…!

その夜、ゲヘナ学園校舎の一室では延々と灯りが点き続け、朝方まで咀嚼音と物音が途絶えなかった……というのは、当人のみが知ることである。



ーーーーーーーーー

天雨アコ

Height:165.1cm

Weight:約200~250kg前後?(誰もその姿を観測しておらず、自身も体重計に乗っていない為)

B:???

W:???

H:???


§§§



「そ、そうなんだ…アコも大変だったんだね…」

寒空の下、また一つ年を越したシャーレには、先生とは打って変わって数字に強い生徒たちがなんとかやり繰りしてくれたおかげで予算に余裕が生まれ、新設のスポーツジムがオープンしていた。…オープンとはいってもその広さは先生のオフィスと大して変わりない。ランニングマシン2台に少人数のヨガスペースや、主要どころの筋トレ器具を各種1台ずつ置いたらだいたい埋まるくらいの床面積。もちろん、その施設は一般には解放していない。

主な利用者は運動不足をミレニアムの怖い生徒に指摘されて続けている先生と、あとは…。

「ふぅ…!これで満足されましたか、先生?ふぅ……!私の、こんな醜い肥満体にまで成り果てた経緯を聞いて…!」

某日の激太り後にやけ食いを引き起こし、更なる体重増加を決め込んだ彼女、天雨アコが明らかにサイズの合っていないスポーツウェアを身につけながらスクワットに励んでいた。

無論、その身体は丸々と肥えた肥満体。スクワットを2,3回繰り返しただけで、伸び縮みする脚の筋肉は悲鳴を上げ、極太の脂肪まみれの脚はプルプルと震えている。気を抜けば尻の重みで後ろに倒れるか、巨腹によって重心が前に傾きうつ伏せになるかの二択だろう。ゆっくり上下に身体を動かすだけなのに、全身の贅肉は波打ち、横乳はスポーツウェアからはみ出そうになりながら、脂汗が体中を流れている。


「まぁ……満足ってことはないけど、アコも凄く大変だったんだなと思って、私がもっと風紀委員会をサポートできていたら良かったんだけど、如何せんこっちも諸々立て込んでて…」

アコは先生に嘘を吐かなかった。彼女がこの身体に成り果てた経緯、その一部始終を彼女は事細かく先生に伝えていた。たとえ恥をかこうとも、先生の前でかく恥ならまだましだ。アレ以来、ゲヘナ学園を訪れなくなったアコは数週間のひきこもりの後に、「このままでは必ずいつかヒナ委員長に私の太った身体が見られてしまう」と危惧し、シャーレ新設のジムに泊まり込んでは1日数十分の運動に明け暮れているのである。そう、シャーレに泊まりこんでいる以上、アコと先生の関係は居候と家主のようなもの。先生に楯突くことは、先生がそんなことをする大人ではないと分かってはいても、追い出されたり最悪ヒナに今のアコの現状をバラされる結末を招き得ない。故にアコは、赤面し悔しそうな表情を浮かべながらも、先生に自身が太った理由や原因を自らの口で説明するしかなかった。

「むふぅ…!立て込んでる割りには、こうして太りに太った生徒"たち"に会いに来るくらいの余裕はあるんですね♪先生?むふぅ…!」

「あっ、いやそういうわけじゃ…」

だが、ただで終わる天雨アコではない。かいた恥と同量の煽りを先生にぶつける。忙しいわりにこうしてジムに顔を出す先生。彼の手には絞りたてのタオルが握られていた。

「ぶふぅ…!そう、ですよね…!先生のお仕事、というのはシャーレに泊まりこんでいる超肥満生徒たちのお世話が中心、でしたね…!ちょうどそこに鎮座する『見せかけだけの翼』と『どこぞの総合学園一の巨体』が目立つ方に餌付けをする時間ではありませんか…?ぶふぅ…!」

「確かにご飯を持ってきたり身体を拭いたりするのは私の仕事だけど…それを言ったらアコも…」

スクワットの勢いはボルテージの上がり具合に比例して増し、息を荒げながらアコは部屋の中央へと目を向けながら皮肉めいたことを声高に告げる。


「巨体…聞き捨てなりませんね…。ぶふぅ……ぜひゅぅ…私を巨体というなら貴方もそれに近いほどの”デブ”ではありませんか?晄輪大祭ではあれほど身なりや体型管理を説いておきながら、やはりゲヘナの方は自分のことになるとどこまでも甘い…」

半裸としか見えないほど布面積の小さい体操服に、床に腹がつくほど贅肉まみれの超肥満体を包んだ体重約450kgの鏡餅。腰から生えた翼は痩せていた頃ほどの存在感はなく、今や背肉、尻肉、脇腹肉に埋もれた羽の飾りのようにしか見えないその超巨体は、トリニティ総合学園・正義実現委員会の羽川ハスミその人。

そう、シャーレのジムに泊まり込んでいるのは何もアコだけではなかった。晄輪大祭によって肥えに肥えた数名の生徒たち。ある者は自身の根城へとその肥満体を仲間に連れられ戻り、ある者は軽度の太り具合だった為日常に戻り、そしてある者たちは極度の糖依存とその介護兼自身の減量の為、シャーレに泊まりこんではいるが頻繁に外出をしていた。

そして中でもハスミは、キヴォトスの全生徒の中でも1,2を争う肥満体。その重すぎる身体は大祭直後こそトリニティへ通学していたものの、通れる教室の入り口がないことや備品を数々破壊してしまったことからやむなく登校を断念。数か月たった今ではシャーレのジムで生活するようになり、身の回りの世話や入浴、食事の運搬まで全て先生頼りとなっていた。


「ムカッ…ぜひゅぅ…あら、そこの”肉塊”さんは言葉を発することができたのですね♪ぶふぅ…てっきり太りすぎて食べ物のことしか考えていないものだとばかり。あっ、いえいえ、バカにする気はありませんよ?むはぁ……貴方ほど立派な肥満体に比べたら、こうして、んっ…スクワットをして減量に努めている私は足元にも及びませんから…!」

「あっ…アコもハスミも落ち着い…」

アコとハスミが非常に仲の悪い関係にあることは、大祭で実行委員を務めたものや裏方業務をしていた者なら誰もが知っている。特にアコが、今ほどではないにしても肥満ボディを晒したハスミに対して説いたことの数々は先生の記憶にも鮮明に残っていた。

そんなアコも今や当時のハスミに負けず劣らずのでっぷりボディ。ハスミもまた増量に拍車をかけており、自力では立てないほどの肉体へと成長しているのだからどうしようもないだろう。

彼女たちのいがみ合いはまさに団栗の背比べである。


「太っている人は食べ物のことしか考えていない、などという偏見を述べている時点で貴方の底が知れますね…!やけ食いと気持ちばかりのエクササイズを繰り返してもうすぐ300kgにもなりそうな天雨アコさん…!」

「うっ、ど、どこでそのことを…!?ご、ごほんっ…!ぶふぅ…いつまでも痩せずに太り続けている貴方には言われたくないです!500kg目前の羽川ハスミさん…!」

お互いの体重を口にしながら、自分の方が理知的だ、いや私の方がまだ痩せていると口論へと発展する。その両者の間に飛び交う火花のような脂汗はまだまだヒートアップを続けていく。

「500kg!?よくもまあそんな出鱈目な数字を…!いいでしょう!そちらがその気ならこちらも相応の態度でお返ししなければいけませんね…!」

「ぶひゅぅ…!い、いいでしょう!ちょうど運動続きでストレスも溜まっていたところです!こうなったら…」

自身はまだハスミに比べて歩行に難がないことを良いことにハスミへと近づこうかと考えるアコ。まさにキャットファイトへと発展しようとしたその時。

「二人ともストーーーーーップ!!」


珍しく大声を上げた先生に、両者は不意を突かれたかのような表情で動きを止める。驚いたと言わんばかりに口と目を丸くしたハスミは目の前の大人に一旦ながら謝るしかなかった。

「せ、先生…す、すみません」

先生は怒っているわけではない。単にケンカを止める為に声を荒げたに過ぎない。それをハスミ以上にアコの方が敏感に察知する。

「あら、先生、まだいらしてたんですか…?何か用件でも…?」

(うっ…この空気、凄く重い…)

眉間に寄せたシワを多少和らげはしたものの、その向きをハスミから先生へとアコは向ける。

「ハスミはこれから身体を拭くから、できるだけ服を脱いで自分で拭ける範囲の身体は拭いておいて。背中とお腹の下は私が吹くからね」

一方の先生は、これ以上二人を向き合わせたり言葉を交わさせたりすれば、それこそ肥満体同士の乱闘になりかねないと恐れ、ハスミには脱衣を命じる。肉の積み重なった極限の肥満体は、自身で自身の身体を拭くにも限界がある。背中には手が届かないし、腕に筋力がないため、脇や重たい肉の段の間、腹の下や脚などは汗が溜まったままで放置すればかなりの汗臭さを纏う事になってしまう。

その為、先生がハスミの身体を拭けるように、彼女には予め服を脱いでおくことをお願いしたのだ。

「は、はい…いつも、お手数おかけします…」

「アコにはちょっと差し入れがあって、お菓子なんだけど…」

と、ハスミに対しては指示が終わった先生は次にアコと会話を始める。ただ暇だからジムに顔を出したわけではなかった。

『差し入れ』『お菓子』そう単語を並べる先生の手にはタオル以外何も握られてはいないが、実物の有無以上に、お菓子や差し入れというものの存在を運動に励む自身の前で示されたことに、アコの様子は再度曇り始めた。




「お菓子の差し入れ、ですか…?あの…私は痩せようと必死で運動しているのですが…?」

「あっ、それは知ってて、その上でアコが喜ぶかなと…」

スクワットに戻り、また数をこなそうと身体を上下に立ってはしゃがんでを繰り返すアコは、先生のデリカシーの無さを糾弾する。「喜ぶかと」そういう先生の発言にアコの追及はやまない。

「知っていてなおお菓子の差し入れ……。先生は私をもっと太らせるおつもr…」

先生に肥育癖。思えばハスミがシャーレに泊まりこんでもなお太り続けているのは先生の性癖によるのではないか。そう陰謀じみたものを推理するアコの目は次第に変態を見るかのように先生を捉え始めていた。しかし…。

「ヒナから届いたもので」

「ヒナ委員長からの差し入れ!?!?」

ころっと掌を返すのが、餌を前にした空腹の犬らしい。先生からの差し入れではなくあくまで「ヒナ委員長からの差し入れ」。

温泉開発部を追って遠征をしているヒナはまだゲヘナ学園へと帰還してはいないものの、無事を伝える目的と土産という名目でシャーレに各地のお菓子を送っていた。

「う、うん…『そろそろ学園に戻れそうだけど、シャーレに顔を出すには時間がかかりそうだから』ってことらしくて、今朝シャーレにヒナの遠征先からお土産が届いてて…」

「それを早く言ってください…!!」

アコの目の色が変わる。先ほどまでの怒りや疑いの眼差しとは違い、ヒナへの憧憬や愛、ヒナの存在を噛みしめられる嬉しさに憑かれ、喜怒哀楽が一転している。

「え、でもアコはいらないんだよね…?運動中だってさっき…」

「うっ、こほん…前言撤回で頂きます…それとこれとは別です…!!」

先生からチクリと意地悪をされれば、あっけなく前言撤回。

「ご、ごめんごめん!あげるから!ヒナからの差し入れ!ハスミとはんぶんこして…」

謝る先生はアコだけでなくハスミにも声をかけ、ヒナから届いた差し入れを仮に断られようとも一度は分け合おうと提案しようとする。だがそう簡単にゲヘナとトリニティでの資源の分配をその人は認めるはずもなく。

「あげませんっ!!!」

「え、ええ…」

「…委員長からの差し入れをそこの肥満女に渡すくらいなら私が…!私が…!」

ヒナの触れたものの一部でもトリニティの手で汚されてはたまらない。そんなある意味歪んだ潔癖症がアコを突き動かす。

「ふぅ…どうぞ、ゲヘナの手が一度でも触れたものを口にするなんて、私にはできませんので。ですが、よろしいんですか?減量中だというのに」

当のハスミも勿論、ヒナからの差し入れを受け取るはずがない。まがいなりにもゲヘナ生によって体重がこれ以上増えることは断じて許容してはいないのだ。

(ハスミ、給食部の作ったケーキはあんなによく食べていたのに…)

「い、いいですよ!ヒナ委員長に肥やされるなら本望です…!」

「わ、わかったから!」

ヒナにならいくら太らされても良い。そう言わんばかりに熱のこもった主張を展開するアコに、先生は暴れ牛を宥めるようにして制止を勧めていった。

「じゃあ、アコにはヒナからの差し入れをあげるね。ちょっと量が多いんだけど…」

ガラガラガラッ…

「この台車に乗ってる分、全部」

「こ、これ全部ですか…!?」

アコが驚くのも無理はない。業務用の特大台車に乗せられた土産の数々はその山がフロアの天井に届くほど高く積み上がっており、先生が台車を室内に押し入れてみれば、距離が近くなるほどその量の多さに巨体であるアコであっても圧倒されてしまう。

「凶悪テ口リスト集団を追っているうちにかなり遠方まで行っちゃったらしくて、いろんな地域のお菓子がたくさん届いてね。やっぱりいらない…?」

「いります!!!すぐにでも食べたいです…!」

「はいはい…落ち着いてね…!」

とはいえ、量の多さに怖気づく彼女ではない。アコのヒナへの愛はそんなお菓子の多さでは折れない。むしろヒナが選んだ差し入れ、ヒナが買ったお菓子、それらをたらふく胃袋に流し込めることに喜びすら覚える。


「ふふっ、なんとも滑稽ですね…先ほどまで息を切らして汗にまみれながら運動していたと思えば、今度は息を荒くして食を貪ろうとしている……太りますよ?」

と、茶番のように態度をころころと入れ替えるアコを脇に、ハスミはぼそりと皮肉を返す。動いたあとにそれ以上食べてしまえば太るのも当然だ。それは数々のダイエットに挑戦しては失敗と成功を繰り返してきたハスミだからこそ信憑性の増す発言でもある。

「好きに言えばいいです♪私はこれしきのことで太りませんから…!食べた分、動けば問題ないでしょう…?」

他方アコはハスミの挑発で躱した気ではいるが、「この程度では太らない」「食べた分動けばいい」という理論を展開するものの、自身がここまで太ったのはそれを実践できなかったからだという事を失念していた。

「口で言うのは簡単です。だというのに簡単には痩せないのが現実。どうでしょう…?そこまでいうのなら一つ、賭けをしませんか?」

「賭け、ですか…?」

目に見えて勝敗の分かる賭け。それを提案するハスミも大人げないが、アコもまた自身がこれ以上太らないと信じてやまないほど目の前の差し入れに心奪われ理性が欠落している。

「ええ、もし貴方が1か月後、今より1gでも痩せていたら私は貴方の言うことを一つ、何でも聞きましょう。毎日のおやつを抜きにすることだって引き受けます。ですがもし」

「もし…?」

「もし貴方が今より1gでも太っていたら、その時は」

「その時は…?」

毎日先生に手渡しされ、空腹を抑えるように食べている山のようなおやつを我慢する。そういったハスミの敗北後の制限に対し、アコが負けた場合に課されることとは…。


「先生、そして貴方が愛してやまない風紀委員長とやら両名の前で、破廉恥な恰好で耐え難いポーズのまま屈辱を味わう、というのは如何ですか?貴方が天下のゲヘナ学園風紀委員だというのなら、この賭けに乗りそのまま減量までできるはず、ですよね?」

「ごくん…い、いいでしょう!ですがもし私が痩せられていたら、その時は貴方も多少の屈辱は味わってもらいますからね!」

「ふふ、できるものなら♪」

(この二人、本当に犬猿の仲だなぁ……)

いがみ合いながら、互いに勝ちを確信したかのように嫌な笑みを浮かべるハスミとアコ。だが勝敗は先生から見ても既にほぼついたようなものだ。

更に肥えたアコが300kgを遥かに超過した贅肉まみれの身体で、ハスミの命令を聞くかのように破廉恥な恰好で耐え難いポージングをし、先生とヒナにそれを見せる。そんなアコ自身にも、先生はともかく何も知らないヒナ委員長にも苦でしかない賭けの結果が現実となる日は、そう遠くはなかった…。



ーーーーーーーーー

天雨アコ

Height:165.1 → 165.3cm

Weight:??? → 287.3kg

B:??? → 226.1

W:??? → 259.7

H:??? → 245.6


§§§



「んっ、電話…誰だろう?あっ、もしかして…」

件の賭けからおよそ1か月。寒さは増すばかりだが、やがて巡ってくるであろう春の訪れをまだかまだかと待ち焦がれる1月末日。年末の多忙から多少は手が空くようになったシャーレのオフィスで、昼休みにスマホゲームへの課金を悩む先生は、ちょうど手に持っていた端末に電話の着信があることに気づいた。

きっとそろそろだろうという予感はあった。彼女は先生を慕っている。先生も彼女のことは何かと気にかけている。なにせ彼女はゲヘナの中でもっとも強く、そして、もっとも"弱い"一面を兼ね備えている少女なのだから。


『もしもし先生?私だけど…今、時間いい?』

スピーカーから聞こえる声には若干の疲れと緊張が顔を見ずとも分かるほど籠っている。きっとここでテレビ通話などしたら、顔を赤らめて嬉しい気持ちを隠そうとするに違いない。もう長い事会っていなかったのだからなおさらだ。

「平気だよ。ヒナの方こそ、疲れてるんじゃないかって心配してたんだけど、体調とか大丈夫?」

『うん、平気…とは言えない状況。帰ってきてみたら、晄輪大祭で給食部が起こした騒動もまだ原因の根本究明が進んでいないし、日常的な…生徒たちの不良行為もちょっと風紀委員全体の手が回っていなくて…』

遠征から帰還したヒナは1日限りの休暇を流石に余儀なくされたが、実のところ1日だって休んではいない。半日ベッドに入っただけでもう半日は仕事のことでいっぱいだった。

「私にできることがあれば、何でも言ってね。ヒナの力になれるかもしれない」

『私の力に……うん、ありがとう、先生』

決まって大人の対応をする先生だが、いつも通りの言葉のはずなのにヒナは少しばかり涙ぐんだような声で、上ずった声色のまま話をつづけた。きっと彼女の疲労もかなり溜まっているのだろう。

『じゃあ、一つだけ。今日連絡した理由でもあるんだけど、先生に聞きたいことがあって』

数回鼻をすすった後に、電話越しの少女はあたかも業務連絡だという口調に切り替えて、大人に一つの質問をする。きっと答えが返ってくるだろうと信じている声で。

「何かな?答えられることなら何でも答えるよ」

『アコってシャーレにいない?最近あの子、学園にも姿を見せていなくて、それもあってオペレーター業務も事務処理も滞っているから現場の私やイオリも上手く連携が取れなくて仕事が溜まる一方…』

そう。ヒナが遠征後の体力もまだロクに回復しきっていない段階で先生に連絡を寄越したのはそうせざるを得なかったからだった。ただ先生に会いたいだけならシャーレを訪れればいい。急ぎの用がなければどこかで偶然出くわしたり、互いの都合が合う日をどこかで見つければいい。そうではなく、こうしてまだ癒えきっていない調子の中で通話を試みたヒナには、それなりの事情があった。

アコの激太りから1か月以上。その間、彼女はシャーレのジムに泊まり込み、一切のゲヘナ生と顔を合わせることなく、同じくシャーレに泊まりこんでいるハスミや他の肥満生徒たちと寝食を多少共にするのみ。

それで何の支障も来していなければよかった。アコのいないゲヘナでは行政官の失踪により風紀委員の業務が停滞。各地で起こる事件や紛争の解決には今までの数倍時間を要するようになり、また委員たちの負傷も増える一方であった。


『先生、何か知らない?』

「あ……えっと、実は…」

先生もこうなるのは薄々気づいていた。そしてアコも、以前から「このままではいけない」と内心分かってはいた。自分がいないとゲヘナはもっと崩壊していく。誰かが彼の地の治安という鎖を繋ぎ止めなくてはならないのだと。だが分かっていても、身体は、いや食欲は思うようには言うことを聞いてはくれない…。

『実は?』

「見てもらった方が早いかも…」

そういって先生はヒナとの通話を一時ミュートにし席を立つ。準備は全てできていた。近々きっとヒナから連絡があるはず。アコにもそう伝えてあった。賭けの約束なんて、破ってしまえばいいのに。そんな風に先生も心の中では思ってはいるが、アコのゲヘナ学園風紀委員行政官としての地位とプライドが、いくらその身が肥え太ろうともトリニティとの賭けを反故にするなどという屈する行為に手をつけることを許さない。


「アコ、ヒナから電話なんだけど…」

「ぶふぅ…んぐぅ…!い、委員長から、ですか…!?」

野太い声が、どこか苦しそうな様子でヒナという名に反応する。その瞬間、彼女に緊張が走るが、目いっぱいの呼吸で覚悟を決める。

「改めて確認なんだけど……本当に映像、繋いでもいいんだよね…?」

「うぅ…こ、こんな醜態、委員長に見せる、なんでぇ……うぐぅ…!」

「やっぱりやめておいた方が…」

「ぶひゅぅ…だ、ダメです…!あのトリニティとの賭けに負けて…ふ、太ったのは、私、ですから…。うぅ…ゲヘナ学園の風紀委員として、約束は反故には、できません…うぐぅ…!」

アコの覚悟はもう揺るがない。羞恥とプライド、醜態と意地。傍から見れば愚かなようにも映りうるが、その身体は恥も肉も全て大きな背に背負い込んだ。

『あの…先生?さっきから聞こえる声ってアコの声?でもなんだか少し籠ってる、というか太めな気が…』

「…わかった。ヒナ、お待たせ。あまり驚かないでね。これから見せるのが、”今の”アコだから…」

数刻前にミュートを解除した電話口からヒナの怪訝な声が漏れだす。どこか聞き馴染みのある声だが、こんなに太く籠っていたのか。風紀委員長の抱いた疑念の答えは、開始された映像通話を通してすぐに解消された。



「うぐぐぐぅ…!!ぶひゅぅ…あ、脚が、つ、攣りそうで…んぐふぅ…」

ブタのように鼻をひくつかせ、呼吸を苦しくも荒げながら、上半身を床にすりつけ、両足でなんとか莫大な巨尻を持ち上げる超肥満体。そのポーズはいつだったかキヴォトスのSNSで流行となっていた奇妙なポーズであり、300kgを超え、400kg近くまで太り続けていたアコの身体の筋肉には強い負荷をかける。

内側からの肉圧に負けて穴の開いたタイツからは、ぶよぶよの皮下脂肪まみれの脚が顔を覗かせ、その脚に持ち上げられた巨尻は、片山だけでも常人の顔以上の大きさはあるのに、両山がそろって素肌を晒しながら挙げられていると、山脈のようにデカく、筋肉に鞭を打ってギリギリ耐えている脚の震えが、尻まで伝わってその皮下脂肪までぶるんぶるんっ!と毎秒揺れている。

その下半身だけでも200kgやそこらの図体のそれではない。もっと太っていることは一目瞭然だ。

『…だれ?』

「い、委員長…!そ、そんな目で見ないでください…!ぶ、豚を見るような目で…」

自分を豚のようだと言っているような弁明をするアコだが、ヒナはその者の顔を見てもなお、それがアコだとは信じたくない目をしていた。満月のように丸く、頬肉が目元まで膨らんだその顔は規格外の巨デブであることを物語り、頬肉と顎に埋もれた首は、前のめりになったことで、床とぶつかって行き場のなくなった超乳肉の向かう先となっており、首は胸元にも埋まってしまっていた。

その恰好はバニーと呼ぶには些か以上に酷く、床についた二段の巨腹はぶよぶよっと垂れ広がりながらも床と擦れ合い、バニースーツへとダメージを与えていく。ウエストだけでも優に250、300は超えていそうだ。全身が皮下脂肪まみれ。二の腕も肉の塊のように膨らみ、出来るはずもないところに肉の段が形成されており、汗の溜まり場と化す。

糖の取りすぎと急激な肥満化によりアコはかつての面影もないほどブクブクと肥え、あれだけ啖呵を切っておきながらハスミに追いつきそうなほどの勢いで肉を付けた。もはや自力で痩せることは困難であり、ストレスが溜まれば無意識のうちに食へと走るほど太るのに何の障害もないほど肥満化適性の高い生徒へと変貌している。


「服装的には豚じゃなくてバニーなんだけどね…」

『アコ、先生、後でちゃんと説明して。すぐにそっちに行くから』

形相を一気に曇らせたヒナは本当にそれがアコなのか確かめなければならないという義務感と恐ろしい好奇心から先生の返答もなく通話を切る。切断寸前の環境音は建物の中から出たようなもので、ヒナは走ってでもシャーレへと真っすぐ向かってくるだろう。

「ま、待ってください委員長…!こっちに来るって、まだ私には対面する勇気が…」

「ヒナ、また明日にした方が…。アコはお風呂もちゃんと入れてないからちょっと汗臭いかもしれないから」

『プツン…ツーッ、ツーッ…』

先生の思いがけず放ったヒナを止める為の一言があらぬ方向に矛先を向け、当人へ刺さる。

「あ、汗臭い、ですか…!?うぅぅ…そんな、太った上に臭いなんて…こうなると知っていたらあんなに食べなかったのに…ぶふぅ…」

いつヒナと面会してもいいようにと、賭けに負けて以降ずっと前からバニースーツを着ていたアコはその間、入浴も一切しておらず、いや、物理的に尻と腹が大きすぎる為、ハスミ同様シャワールームに入れなくなったために入浴ができておらず、服もずっとそのまま。それでも肉段だらけでかつ肉汁のような汗が常時滴る肥満体は、乾いた汗からこみ上げる臭いと、脇や段の間、太ももの間や股から臭う強烈な体臭もあって、とても生徒とは思えないほど濃厚な……豚骨臭ならぬアコ肉臭を放っていた。

「ご、ごめんアコ!じょ、冗談、だから……私も少し調子に乗りすぎた、ごめん…ん?アコ?」


先生が申し訳ないとこれでもかというほど謝罪を述べる内に、目の前の豚のようなバニーガールの様子は変化していた。

「ぶふぅ…んっ♡んはっ♡も、もう脚が、脚が折れそうなくらい辛いのに、この苦しさがなんだか、気持ちよくて…♡んふぅ…♡こんな格好、見られるのは嫌なはずのに、委員長にも、先生にも見られて…んぶひぃ…♡」

悶えるように脚の僅かな筋肉の訴えから崩れそうになりながらも、その体勢をなおキープしつづける彼女の表情は、辛いのに気持ちよさそうな、嫌なのにこのまま続けていたいというような、矛盾を一挙に混ぜ込んだが如き興奮の表情を浮かべていた。

ぶひぃ…という意図的な吐息、その様子を見る先生の目が自分に向いていることが堪らない。ヒナ委員長に見られたくないのに、こんな恥ずかしい姿をそれでも、見られた時の事を思うと興奮が隠し切れない。


ブチブチッ…ミチッ!!!ぼゆんっ!

「も、もう楽にしていいよ!今のアコにその体勢は長くは耐えられないでしょ…それに服だって…」

「ふぅーっ、ぶひぃ…♡せ、先生は、私がこの程度も耐えられない、ぶふぅ…贅肉まみれの豚だと、仰るんですか…!私にだって筋肉くらい、ありまぶふぅ…♡」

先生から勧められる楽になれという誘いを振り払い、アコは自らを追い詰めては悦の沼に浸っていく。巨腹と床との間の摩擦もより震えにより酷くなり、糸はほつれ、一つ空いた小さな穴から一気にバニースーツが瓦解していく。

「確かに筋肉はあるだろうけど、それ以上にお肉が…」

「んはぁ♡はぁ♡ふ、太っているのを指摘されるなんて…く、屈辱のはずなのにぃ…♡んふひぃ…!も、もうぐ、ぐるじい、でふぅ…♡」

ブチブチブチィ!!!!

ビリビリビリィ!!!!

ぶるんぶるんっ!!!と激しく悶え揺れる肉が肉汁をより分泌させると同時に服装を乱していく。破れた穴は一つ、また一つと繋がっては大きくなり、数分もしないうちに衣服ですらなくなりそうだ。乳房を包み隠していた布地は胸を大きく揺らすうちに剥がれ、巨腹の下敷きへとズリ込んでいった。

「んあああああ!もう、み、見ないでくださいぃぃぃ♡♡♡で、でも見てくださいぃ♡♡こんなにブクブク太った、ぶひっ♡♡私をっっっ♡♡」

誰もそこまでしてくれと頼んでいないのに続けるアコの行為は、彼女の肉に埋もれた喉から喘ぎ声を上げさせ、一人興奮の絶頂へと向かわせた。張り上げられた発情の叫びは、シャーレのオフィスに響き渡るが、幸い聞かれてマズいような来客はそこにはいない。聞いてもハスミはきっと「ゲヘナの豚が奇行に走った」と思う程度だろう。

アコの一人羞恥プレイは彼女の体力が尽きるまで続いたという。

……。


§§§


ちょっとした後日談だが、アコはその後、シャーレに駆け付けたヒナによってゲヘナへと戻っていた。初めこそ彼女の異様なまでの太り様にドン引きしていたヒナだったが、仲間想いな彼女はそんなアコさえも受け入れた。

その後ゲヘナに戻ったアコは今ではオペレーター業務や事務処理を再びこなしているらしい。イオリやチナツもその姿に驚きはしたもののすぐに馴染み、最終的には事務処理を室内でこなしているアコは風紀委員メンバーのベッドや癒しの存在として、巨肉をクッションや抱き枕などに活用されているらしい。なにやら贅肉を揉まれる本人もたまに興奮が表に出てしまっているとか。

万魔殿とのやり取りや学内のトラブルには今でも頭を抱えているというが、これ以上太り過ぎないよう間食や食事量、ストレスの解消方法には気を付けてもらいたいと、先生は思っていた。

他の学園でこんなことが起こらないでいればいいのだが…。



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天雨アコ

Height:165.1 → 165.3 → 165.5cm

Weight:??? → 287.3 → 389.4kg

B:??? → 226.1 → 258.7

W:??? → 259.7 → 308.2

H:??? → 245.6 → 309.9



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★今回のSSで描き下ろした後編の叡智差分はこちら!

→( https://motimothibbw.fanbox.cc/posts/7173855 )

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