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※過去作の水着ハナコ絵、アルSS、カヨコSS、モエSSをご覧の後に本作を読まれますと、より楽しめると思います…!

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残暑も和らぐ10月上旬、学園都市キヴォトスでも有数のマンモス校、トリニティ総合学園の校区内で放課後の生徒の何人かがお茶会を開く。場所は一店の喫茶店。近隣住民は揃って温厚で治安自体は頗る良いその立地は、店を開くにはもってこいの環境で、味もさることながら居心地の良さからも午後は人で賑わっていた。

「あら?あちらの席にいらっしゃるのはハスミさんですわよね…?」

「ハスミさん…というと正義実現委員会の?人違いではなくて?」

極小規模な部活動の一つが4人掛けのテーブル席を全て用いて会話を楽しむが、その話題はどうやら、窓側角の席の女性へと向いているようだ。年頃の生徒は実に興味が移ろいやすい。視界に稀有なものが入ればすぐさま気になってしまうのだろう。

「ええ、私も人違いだと思いますわ」

「そうでしょうか…?でも…」

そんな彼女たちが件の女性と重ねて見ようとしているのは、トリニティでも特に権力をもつとされている正義実現委員会が一人、3年生の羽川ハスミその人である。漆黒の巨大な翼に黒を基調とした制服から伸びる手足の白さは常に校内でも存在感を放っており、高身長なこともあってスタイルの良さは抜群といっていい。生徒からの信頼も厚いハスミと、この店の一角に佇む女性がどことなく似ているのだとお茶会を楽しむ女生徒たちは談義していた。

「きっと彼女に憧れてコスプレでもしているのでしょう。だってハスミさんは……」

だがあくまで似ているというだけ。よくよく見なくとも、その人がハスミではないことは彼女たちにとって明白だった。その理由は…。


「だってハスミさんは、あんなに太っていませんもの」


はむっ…あむっ、むふぅむふっ…ごっくん

はぐっ、んっ、あむ、ごくん…ふぅ…

「学園から少し離れていると聞いてなかなか気が進みませんでしたが、かなりの美味ですね。ふぅ……もう夕食まで何も食べられそうに…あっ、ですがせっかくなのでナポレオンパイのテイクアウトも…」

アンティーク調のテーブル上に不釣り合いなほど重ねられた皿の数々、それらはすべて店の提供するケーキが乗っていたと思われるが、その姿形は全くない。なぜならその全てを席に座る彼女一人が食していたから。店頭のショーケースに陳列されたケーキを左端から順に注文し、届いたものからフォークを使い口へ運ぶ。並の生徒ならばケーキ1つで10分近くはおしゃべりもできるだろう。だが彼女は違った。まるでお忍びで来ているかのようなお一人様で、かつ、たっぷりと贅肉を備えた巨体にはケーキをいくら並べても小石程度にしか映らない。

見るからに肥満体。ハスミに似た黒の制服は内側の肉でパツパツに張っており、スカートのスリットからはセルライトまみれの皮下脂肪がたんまりとついた脚がブヨブヨと伸びている。お嬢様学校とすら呼ばれるトリニティにこのような肥満生徒がいたなど、店内でお茶会を開く生徒の誰もが知り得なかった。故に目の前の女性は、ただハスミのコスプレをしているだけの一見変わった一生徒として捉えられたのだろう。


「ヒソヒソ…(やはりハスミさんではありませんでしたわね)」

「コソコソ…(はい、あんなに贅肉まみれの脚、見たこともありませんわ、ふふっ)」

「コショコショ…(笑っては悪いですわよ、でも…ふふっ、あんなに太っていて羞恥心というものはないのでしょうか)」

貪るようにケーキを食し、口周りにはいくらかクリームの食べかすを付けたその人を見て、生徒たちは声を窄めて嘲笑する。その声色に悪意こそ微量であったが、まるでその様子はゴシップに夢中。大食漢のような彼女を前に、その食べっぷりと異様なまでの太り様をしっかりと視界に捉えていた。


ドスッ…ドスッ…

「ぜぇ…ふぅ…むふぅ…お、お会計をお願いします。それと持ち帰りでナポレオンパイのホールを1つと…ミルクレープを3つ…ふぅ…」

テーブルに手をついては数秒かけてゆっくりと立ち上がり、店内にドスン…ドスン…と一定の間隔で揺れを齎して歩く巨躯は、指先までパンパンに膨れた手に伝票を持ち、店の出口へと進む。

座っていると気づかなかったが、立ち姿からはその肥満体特有の巨大な二段腹が制服に覆われきれていないのがよく分かる。上下の制服の間からは寒くないのかと疑うほど大々的に腹肉、脇腹のうきわ肉、そして黒の長髪で見え隠れしながらも段が複数重なった背肉が目立っており、その全てが正真正銘の贅肉なのだと至近距離で視認する。

身長は恐らく170cmは超えていよう。なんなら180cmはあるかもしれない。その上で全身脂肪まみれで顔まで丸々としたフォルムでは体重の方は200kgは突破していてもおかしくない。それほどの巨体がトリニティの有名人、羽川ハスミとよく似た服装をしていた。

「はい、よいしょ…ではお持ち帰りも合わせて、お会計失礼致します…!おおっ、いつもご贔屓にしてくださりありがとうございます!」

「あっ、いえ、こちらに伺ったのは今日が初ですが…」

「それは失礼しました…!これだけたくさんお食事されていくとなると、相当当店を気に入って下さっているものとばかり…!是非またいらしてください!」

肥えた手から差し出される伝票とテイクアウトの注文に店主が対応すると、その食事量からよく確かめるまでもなく彼女を常連だと判断するが、残念ながら彼女はこの店にとって初回の客。というのに、店のケーキの多くを胃袋に収めたというのだから恐ろしい。

「たくさん…?ですが…ええ、明日にでもまた食べたくなるほど美味しかったです。また来ます。ふぅ…ぜひゅぅ…」

ドスッ…ドスッ…

「ご来店ありがとうございました!」

黒髪をなびかせて振り返ると、開かれた自動ドアから身体を横にしてなんとか腹がつっかえぬように退店していく。だがそんな彼女の様子から察するに、その行為は決して自分が太っているから行われたのではなく、店の出入り口が異様に狭いから行われたものだと推測される。というのも、ハスミ似の肥満女性は全くもって自身の太り過ぎた身を恥ずかしがる素振りすら見せないのである。


「ぶふっ…ふぅ…私はそんなに食べていたでしょうか…?以前先生に『そのままの私』でいいと助言を頂いてから、確かに我慢はしなくなりましたが…ひゅぅ…」

太り過ぎた身を恥ずかしがっていない、というよりは、少し太った程度だと認知してはいるが異常なまでに肥えたことは自覚していないと言った方がよかっただろうか。ケーキという炭水化物と脂質の塊をこれでもかと蓄え、今にも太りますと言わんばかりの腹を撫でながら、彼女は道を歩む。彼女の脳内には、かつてシャーレの先生に言われた言葉がこだましていた。

と、そんなぼんやりとしたまま巨躯故に道の真ん中まで占めて闊歩する身体が通行人に当たらないわけもなく。


ドシンッ!!!

「す、すみません!お怪我はありませんか…?考え事をしていて、ふぅ……」

張った二段腹を庇うようにしてゆっくりとしゃがみながら、地べたに尻もちをつく生徒に彼女は手を差し出す。

「いっててて…ったく、どこに目付けてやがる!!…ってうおっ!?なんだコイツ!」

だが、その生徒とは外見からして札付きの不良生徒そのもの。髪も不格好に染められ、耳にピアス、口元には黒いマスクに目元はキツめのアイメイク。そして制服はだらんと着崩されており、そのファッションはその場を共にしていた生徒数人が共通して備えているものだった。

「コイツ…?」

「コイツめちゃくちゃデブだぞ!!トリニティの生徒でこんな豚みてぇな奴がいたなんて、お嬢様方の看板も落ちぶれたもんだなぁ…!」

申し訳なさと親切心から伸ばした手を払い除けられたかと思えば、脂汗でもついたと言わんばかりにハスミ似の肥満女性に触れた部分を不良生徒はタオルで拭う。「デブ」「豚」、そんな言葉をトリニティ校内で聞いたことなどなかった彼女は、突然の罵詈雑言に戸惑いが隠せない。

「デ、デブ…私、が…?」

「お前以外誰がいるんだよ、ギャハハ!今にも破裂しそうなその図体、デブ以外のなんだってんだぁ?こりゃトリニティよりアタシたちゲヘナの方が優れてるって捉えられても、仕方ねぇよなぁ!」

まるで自分に言われているのかすら疑わしい言葉の数々だが、その矢のほとんどは明らかに巨体へ向けて放たれていた。だが、たった一言「ゲヘナ」という単語一つで彼女の目の色は変わる。

「……ゲヘナ、貴方方は、ゲヘナの生徒なのですね…。そして私をデブだと罵ったと……!」

ビリッ、ブチブチブチィ!!

しかし形勢逆転も叶わず、またしてもとんだハプニングが降ってかかってきた。いや、降ってきたのは地面に対して巨大なスカートが、というべきか。布地の破れる音と共に、留められていたピンもろとも生地が裂け、腹に巻いていたスカートがずり落ちる。腰回りは太すぎてもう履けない、故に腹肉の段と段の間、へそのラインでスカートを履いていたのだろうが、不運にも食事の作用もあり、ダムは決壊。肉圧に耐えきれなくなったスカートは彼女の憤慨と共に弾け、地面へと落ちていった。

「えっ…?あっ、あぁぁ!!!」

「うおっ!?フハハ!見なよ、このおデブちゃん、腹の肉が貯まりすぎてスカート破いてるよ!さっさと痩せなよ!」

「おい、もう行こうぜ、こんな肉団子に絡んでたらウチらが笑いすぎて窒息しちまうからさ。じゃあね肉団子ちゃん」

「肉団子って、ギャハハ!デブにピッタリのあだ名だなぁ!じゃあな、肉団子~」

ゲヘナの不良生徒集団を返り討ちにする、その一歩手前で見苦しくも、下半身を露出させた彼女はデブだの肉団子だのと最悪なほど罵られ、精神をタコ殴りにされた。羞恥と怒り、複雑に絡み合った二つの感情がただ彼女をその場に立ち尽くさせるが、その間も街行く人々は怪奇な姿に薄ら笑いを浮かべる。笑いの的だ。


「わ、私は…スカートも弾き飛ばすほど太って…いる、のです、ね……」

だがそう簡単にめげる”彼女”ではない。数分の沈黙を後に自身が極限まで太っている事を自覚し、我に返る。「そのままのハスミでいい」そう言った先生の言葉に甘えていた自分に喝を入れる。そう、”彼女”、羽川ハスミはここに誓った。

「痩せなくては…!せ、せめて…晄輪大祭までに、このスカートが楽に履けるくらいには…!」

2年おきに開催されるキヴォトスの一大行事、晄輪大祭。その開催まで残り1か月となった秋の日。体重計は収納の奥に仕舞われ、甘味に満ちた生活を送った末に体重200kgまで成長したハスミは、ここにダイエットを宣言する。果たして彼女は、残り一か月で元の身体に戻る事はできるのか!?!?


ーーーーーーーーー

羽川ハスミ

Height:179.2cm

Weight:201.3kg

B:168.2

W:178.3

H:179.2


§§§



「…早く行きましょう!私たちの競技が始まってしまいますわ!」

「お待たせいました…!さあ絶対ゲヘナに勝ってキヴォトスNo.1玉入れ校の座を手に入れましょう!」

時は流れ、11月中旬。雲一つない晴天の下で決行されたキヴォトス晄輪大祭は、今や午後の競技も大詰め。残すところは2種目となっていた。競技場構内におけるトリニティ生徒専用の更衣室からは、優勝を目指して精力的に競技に取り組むと思われる生徒たちが、身支度を整えて選手控え室へと走っていった。その背中には青春の二文字が伺える。

…その様子を人知れず通路の影から伺う”彼女”とは、違って。


「ぜぇ…ふぅ…も、もう誰も残っていませんね…?んっ…ぶふぅ…汗で身体がベタついて…タオルで拭かないと…」

ギシィィィ…ノシッ…ノシッ…


足音を押さえながらも隠し切れないその重量の重さに苦労しながら、誰も人が残っていないことを確かめて更衣室へ入室する。端的に言おう、ハスミのダイエットは失敗した。当然だ、1か月で100kg以上も痩せて元の体型に戻るなど、120%不可能である。

なんなら、むしろ無理な食事制限を行ったその身体は、反動として無自覚にも大量の食糧を欲するようになっており、結果的には一時数kg痩せたものの、その反動で数kgのリバウンドを果たした、超肥満体へと化していた。

「んっ…ふんっ…!お、おもいっ……ぷはぁ……」

ぶよっ!!ぐぐぐっ……どぷんっっっ!

腹肉の段の間や下腹部の裏側にかいた多量の脂汗をタオルで拭うその姿は、シルエットだけみれば球体。1か月前に不良生徒とぶつかったときから更に肉厚さを増し、もはやロクに足元さえ見えないほど激太りを遂げていた。


「動いたら、喉が渇いて、きました……プシュッ…んぅ…ごくっ、ごぷっ……ぷはぁ…!げぶふぅぅぅぅ……!」

汗をかいたらその分失われた水分を補給したくなる、それは人なら誰しも起こる現象だ。だがそこで彼女は摂取するのは水やお茶、スポーツドリンクではない。砂糖がふんだんに使われた甘い炭酸飲料2Lをペットボトルに口をつけそのまま流し込む。

ぶはぁ…と潜水でも行っていたのかと思われるほど盛大なブレスを行うと、その拍子に野太いげっぷが反射的に肥満体の芯から溢れてきた。

「げ、下品だと分かっていても、炭酸飲料の一気飲みは辞められませんね…げぷっ…ふぅ…」

砂糖依存、そう捉えられても言い返せないほど、短時間で2Lを体内に取り込んだ彼女はそれだけでまたしても体重増加。分かっていてもやめられない、でも流石にやめなければ…。そんな葛藤に揺れながら、彼女は更衣室で一人時を過ごす。実行委員に選ばれたというのに、ほとんど表に顔も出していない。いや、出せない。自分がこんなに太っているのだと人に知られるのが怖いのだ。

つい先ほど、先生や他校の実行委員にようやく会った時ですら、その反応は彼女にとって苦いものだった。


「あとはこれをなんとかしなければ……」


そう言って、ハスミは自身の巨腹の下に食い込んだジャージのファスナーを手探りで探し始める。

「ふぅ…すぅ…んっ!はぁ…そんな…こうなると分かっていたら、ケーキ屋巡りも季節限定のお菓子収集もしなかったのに…」

この数年で平らげたケーキの数々を走馬灯のように思い返しては、それらを全て平らげた自分が憎らしい。

「お、お腹さえ仕舞えれば…ふんっ…!ふぅ…重いですね…まさか、こんな醜態を晒すなんて…」

無理やりにも腹をジャージの中に仕舞いこもうとする彼女は、続いて数刻前の出来事を想起していた。


§§§


「遅いわね…トリニティからもう一人の実行委員、ハスミ副委員長はまだ来ないの?」

「す、すみません…!ハスミさんは最近ではめっきり表に顔を出されなくなっていて、私も意志疎通や情報の伝達はモモトークでの会話のみで…。ですが今日は必ずこの場に脚を運ぶと聞いています!」

昼休憩という唯一の休み時間もせかせかと働く彼女たちは、晄輪大祭の実行委員。事務室に揃った面々はミレニアム代表の早瀬ユウカとトリニティ代表の1人、伊落マリーと…。


「本当ですか?午前の開会式での“あの”トリニティ選手代表による問題発言といい、その”醜態”といい、そちらの風紀には些か問題があると思いますが」

「その節は誠に申し訳なく…!私たちも彼女がまさかあんな……少なくとも後者に関しては代表を頼んだ時には今よりもっと細身で…」

今日の開会式のとある一件を根に持ちながらご立腹のゲヘナ代表、天雨アコの三人。不祥事ともう一人の実行委員の怠慢にお怒りのゲヘナ代表に、マリーはひたすら謝るしかない。


「まあまあ、アコもそう詰めないで。でも私も最近ハスミには会ってないから心配だなぁ」

忘れてはいけない。シャーレの先生もそこに居合わせ、総勢4名の運営スタッフが一同に会していた。だがやはり先生にとってもこの場に来るはずのもう一人、羽川ハスミのことが心配なようである。

「先生も会っていないんですか…?じゃあ今頃どこで一体何を…」

ユウカの眉間にシワが寄り、アコの発する空気と相まって場の空気はどんどんと険悪なものになっていく。

「でも今回の晄輪大祭は私の我が儘で『やむを得ない事情がない限り、各選手は必ず1競技には参加すること』ってルールが追加されてるから、自分の出る種目までにはハスミも来ると思うんだよね」

そう、今回の晄輪大祭はシャーレの先生が無理を言って大幅な変更を効かせた、いわばリニューアル版。参加する生徒は必ず1人1種目は出る事。参加者一覧に名前があるのに一切選手登録せずに傍観しているのは許しません!また1人が独占して大会を楽しむのも許しません!皆で楽しく、仲良く青春の思い出にしましょう!という意志の表れである。

それに伴い、晄輪大祭の種目の数々も大幅に変更が加えられた。例えば、以前までは本格的な体育種目のみだったものが、今年からは借り物競争を始め、ムカデ競争や玉入れだけでなく、缶積み競争やラーメン早食い選手権なども加わり、バレエティに富んだプログラムとなっている。

その為、実行委員として参加している以上、ハスミもまたいずれかの種目に顔を出す事は間違いない。何より先生が決めたルールを容易く破るような生徒では、ハスミはないからだ。きっと、こうして皆の前に姿を現さないのも何か理由があるに違いない。そう先生は内心感じていた。


「先生も変わった人ですよね。皆が楽しめるようにと競技の色を去年の前例から大きく変えてカジュアル化、その上で選手である生徒には最低限の参加を義務付けるなんて」

「まあ、せっかくやるには生徒の皆には楽しく行事を経験してほしいっていうのか大人としての願いだからね」

「伊落さんは彼女の出る種目を知ってるの…?私はミレニアム生のデータを覚えるのが限界で他校の事情までは把握できていないから」

「あっ、はい…!確かハスミさんの出場する種目は…」

ユウカの問いかけにマリーは手元の書類から出場名簿を取り出し、午後に残された数種目の出場選手に目を通す。上から下へ、真っすぐ視線を下ろしながら羽川ハスミの名を探すだけの単純な作業。

だが、その視線は、まるで地面が揺れているような体感と共に乱れた。


ドスンッ…ドスンッ…!

「な、何!?地震!?」

「いえ、これは地震というにはどこか違和感が…」

普段のユウカから一転、慌てる様子の彼女に対して、冷静さを保つアコがその違和感に気づく。その揺れは局所的、かつ一定のタイミングで起こっていた。そして、それは暫くした後に止まり…。

ガラガラガラ…

「ぶふぅ…ふぅ…お、遅れてしまい申し訳ありません。トリニティより実行委員として参りました、羽川、ふぅ…ハスミです…ふひゅぅ…」

背と腹を出入口の縁に擦らせながらなんとか入室を果たす彼女は、長髪を後ろで束ねている為、顔によく汗をかいていることが分かり、荒れた呼吸と共に頬肉は波打ち、鉄球のように重そうな胸から10人くらい赤子が入っていても不思議ではないほどの巨腹にかけてを膨らませては萎ませ、息を整える。

喉にもついた肉により声は野太くはなっているが、絶え絶えの言葉からその場にいる4人は皆、その肥満生徒が誰なのかを瞬時に察した。


「は、ハスミさん!?その身体は…!」

「前に会った時はかなり引き締まっていなかった…!?」

「開会式の彼女に続いてこんな……!トリニティは相撲部屋か何かですか…!?」

「ぜぇ…むふぅ…す、すみません、これでもダイエット中の身で…」

三者三様の表情を目前に、ハスミは羞恥心に顔を歪ませながら、明らかに肥えた身体にもかかわらずダイエットを語り、赤面する。

「ずいぶんと……こう、おっきくなったね、ハスミ」

「せ、先生…もっと早くから相談しておけばよかったものを…ブクブク太った私を先生にお見せするのが躊躇われて…こんな…」

その巨体に驚きを隠せないのは先生も同じだ。暫く会っていないうちにあのハスミがこうもでっぷりと太っているのだからわけもない。一方ハスミ自身も、もっと早く大人に助け船を出していればと悔やまれるが、時は既に遅かった。

「私はハスミがどんなでも気にしないよ、お腹もモチモチで大福みたいにしっとり柔らかそうだし、そんなハスミも好きだからね」

「あっ…!先生、お腹を揉むのは…んっ…♥️」

しかし、先生も先生である。ハスミ以外にもこれまで肥満化した生徒を何人も見てきた彼にとってはもう慣れたもの。最初こそ驚いたが、すぐさま慣れ、なんなら肉の虜ともいえる彼は容易くハスミの腹部に手を伸ばし、ジャージに収まりきらず露出した腹肉に触れ、指を食い込ませていた。


「ご、ごほんっ…!先生のセクハラはさておき…」

「ええ、それこそその大きなお腹が丸出しになっているのは大会の風紀を乱しかねません。過度な露出は規則違反、そのままの姿で出場するならいくら貴方が実行委員でも、私たちも実行委員。失格の烙印をトリニティの生徒であるハスミさん、貴方にも押しますよ?」

「そ、そんな…!それだけは…!ふぅ…」

先生のハスミに対するボディタッチに、自身はされていないにもかかわらず紅潮するユウカに代わって、アコがきつくハスミを指導する。当然だ。このままの恰好で種目に出場しようものなら、ほぼ半裸ということで他の生徒に示しがつかない。むしろ真似をする生徒や、「これが許されるなら私も」とより派手な行動に出る生徒が出かねないのである。故にアコはハスミに忠告する。

「でしたら、せめて競技までにもっと大きいサイズの体操服を入手するか、破廉恥ではない程度までその服を正しく着用してもらわないと…」

「うっ…わ、分かりました。なんとか、します…」

「ところで、結局ハスミ副委員長の出る競技は何なの?」

と、一通りの指導を終えたところに、ユウカは先の競技の話題へと方向転換をする。トンチキ種目ばかりの大会でハスミが出る種目が何なのかは一度になった以上、知っておきたいのだろう。


「あっ、はい!ハスミさんは…」

「最終種目の『ケーキ大食い選手権』です…ケーキが食べたくて、つい…」

ユウカの問いにもじもじとしてハスミは自白する。どこまで太ってもハスミはハスミなのだろう。ケーキ、いや甘味に対する執着は人一倍であり、ケーキという単語を目にした時点で意地でもその種目に出るつもりだったことが想像に容易い。

「はぁ!?これから更にカロリーの塊を食べるって自分から太ろうとでも……い、いえ失礼したわ」

「呆れて言葉も出ませんね。それで、トリニティ側は他にどなたがその種目に?確か各校代表2名での出場が条件だったはずでは?」

肥満体を更にブクブクと肥えさせることが明白の状況に、ユウカは声を荒げ、アコは頭を抱える。それに加えて…。

「はい!トリニティからはハスミさんと…あっ、すみません…開会式でご迷惑をおかけしました、補習授業部の2年生、浦和ハナコさんが選手登録されています…」

「はぁ!?!?…ま、また彼女……イヤな予感がするわね」

「そういうミレニアムさんはどなたが?」

ハナコの名を聞いて数秒ぶりに再び声を荒げるユウカはアコ同様に頭を抱えるが、一方のアコはマリーの発言にもはや驚いたり呆れたりする素振りすらなく、ユウカの属するミレニアムの出場生徒を尋ねた。

「うちは『ケーキ大食い選手権』に関してはパスよ。科学的にも不健康が過ぎるわ。せ、先生が勧めるから種目としての認可を下ろしただけで、ミレニアムの生徒は手を引いたってこと。皆、前日まで晄輪大祭の準備でヘトヘトだしね」

流石はミレニアム。カロリー爆弾であるケーキを大量に摂取すれば健康被害の危険もある。今回のケーキは”ゲヘナ学園の給食部に低カロリーなヘルシースイーツという名目で制作依頼を出している”とはいえ、やはり食べ過ぎは良くないと、最終戦にしてミレニアムはあえてのパスに打って出ていた。


「ふふっ、では実質私たちゲヘナとトリニティさんの一騎討ちということでしょうかね」

「コソコソ…(頑張ってね、ハスミ!)」

「あっ…先生、応援ありがとうございます…ですがこれ以上太ったら…」

アコとユウカの会話を他所に、先生はハスミの耳元で囁く。その声は確かに優しさに溢れながらも心の底からハスミを応援しているようだった。一切「太りすぎ」や「痩せないと」などの否定的要素を感じさせない。

「大丈夫、驚きはしたけど、今のハスミも十分魅力的だよ。いざ痩せようってなったら私も手伝うから」

「そ、そうでしょうか…」

だが、ハスミ自身はその後押しを素直に受け入れられないでいた。確かにケーキは好きで、ケーキが食べたくて『ケーキ大食い選手権』に出場する。とはいえ本当に食べて良いのだろうか…他の食べ物ならともかく、ケーキを一度口にしてしまえば、その味の虜となって、自制が効かなくなってしまうのではないか。そうすればまた太って、自分自身のみならずトリニティの名を汚すことにも、先生から遂には見放されることにもなるのではないか、と彼女の中で不安要素が延々と渦を巻いていた。


「あの…ゲヘナの方々ではどなたが出場されるのですか…?」

「そうですね、皆さんの学園の事情ばかり聞いてこちらの情報を一切提示しないというのは筋が通らないでしょう。ゲヘナからは陸八魔アルさんと浅黄ムツキさんが出場することになっています」

仕方なしと情報を開示するアコの口からは、先生にとっても馴染み深い便利屋の名前が挙がる。本来ならばアルたち便利屋は学校行事に出席できるほどクリーンな集団ではない。意図的ではない場合が多いが、世間には極悪集団とさえ認知され得る。そんな彼女たちは、本来許されないはずのところを、先生の進言もあって、今回ばかりは特例で出場が認められていた。


「ん?てっきり例の美食研究会から誰か出るのかと思っていたけど?」

「ふふっ、確かにその手もありましたが、美食研究会にはきっぱり断られてしまいまして。『嬉しいお誘いですが、私たち、午後は競技場の外で屋台料理を堪能する予定がありますので、お断り致しますわ』と。なので、良い機会だと捉えて、いつも問題ばかり起こしている便利屋の方々をケーキの甘味地獄で一泡吹かせるつもりです、ふふふっ…」

「アコ…そこは年長者のカヨコを指名するかと思ったけど違うんだね」

「先生、どうしてカヨコさんを!?特に理由なんて、ありません…!単純に浮かんだ名前がその2名だけだったというだけです」

「そっか(あれ、ムツキはともかくアルも承諾したんだ…アル、体操服着られるのかな)」

昼までの数々の大食い系種目にて好成績を納めていた美食研究会というカードも午後の種目では使用不可。そんなアコが取った行動がいわば普段の腹いせに近い形での便利屋指名なのだろう。その端で、先生の方はというと、以前ハスミ以上にすっかりと肥えていたアルが、今日という日にちゃんと体操服を着ることができるのかを心配していた。


「先生はどの学園が最も制限時間内にケーキを食べられるとお思いですか…?」

「そうだね…トリニティとゲヘナの他に出場するのは…アビドスから生徒数の関係で特例のホシノが一人と、SRTからモエとサキか…モエは特に強者だからね、うーん」

全4校からなる『ケーキ大食い選手権』、きっとホシノがこの面子で勝利することは難しいと思いつつ、問題はモエの異常なまでの食いっぷりが勝るか、それともアルが恐らく抱いているだろう野心や意地が勝つのか、はたまたハスミとハナコのコンビがトリニティを勝利に導くのか、その三択だった。そして、こういう時に先生が取る手段はだいたい1つと決まっている。

「先生?」

「決められないかな!とにかく皆頑張れ!ってことで。もちろんハスミもね…!」

全方位外交、といわれればその通りだが、表向きにはどの生徒にも贔屓せず、皆を応援する姿勢を彼は示した。

「は、はい…全力、いえ、善処します…」

(先生はそう仰いますが、本当に私が全力でケーキを食べたら、もっと太ってしまって幻滅させてしまうのでは……。うぅ、一時の気の迷いで自分を選手登録したのが悔やまれますね…。本当にいいのでしょうか…)


「ごほんっ、兎にも角にも、ハスミさん。トリニティの名が落ちようと私たちゲヘナにはどうでもいいことですが、晄輪大祭という場で実行委員なのですから、その身なりだけはなんとかしてくださいね」

アコからの再度忠告にハスミは気を引き締める。アコがどれだけ本気で言っているのかは不明だが、ハスミにとってみれば、なんとしても締りのないこの肥満ボディの身なりを正さねば。常人には容易いことだが、今のハスミにとっては難しいことだった。

「は、はい……ギュルッギュルルルル…お、お腹が…!で、では私はこれで…!」

そしてその緊張感から、胃袋は正直にうめき声をあげる。少しでも痩せようとほとんど固形物を摂取していない身体は本能的に栄養を欲していた。だがあまりの轟音にハスミ自身も驚く。そして一気に羞恥心を募らせる。彼女にとって人前で空腹を示すことは五指に入る恥であった。

ドスンッ、ドスンッ、ドスンッ…!

「あっ、ハスミ…!行っちゃった…」

ここに来るまでのスローテンポな足取りとは対照的に、逃げ足は素早いというべきか、巨体にあるまじきスピードでハスミはその場を翔けていった。


§§§


と、そんな数刻前の出来事を思い出しながら、腹肉をギチギチとジャージの内側に押し込み、ファスナーを無理やり上げていく。

「…私より太っている生徒がいれば、多少は誤魔化せるのですが…ふぅ、んっ!は、入った!」

290㎏に勝るほどの超肥満体が何人もいれば、自身の激太りもなんとか隠せると彼女は考えてもみる。木を隠すなら森の中、ならぬ、激太りを隠すなら肉の中なのだろう。だが、そんな奇跡あるはずもないと、ハスミは冷静に願望を取り消すが、そうこうしているとようやくもって分厚い二段腹がジャージの内側に仕舞いこまれた。

ミチミチと音を立てながら、今にも張り裂けそうなジャージに手を置き、腹を凹ませる。だが傍から見ればほとんど凹んでいないも同然。

「もう、時間ですね…行かないと…ふぅ、その前に。栄養補給で一口だけチョコを…あむっ。むふぅ…あまいれふね…ぜぇ、ぶふっ、ぶひゅぅ…」

空腹を訴えていた胃袋に炭酸飲料のみならずチョコを一口分与える。気休め程度だ。

時刻はあっという間に彼女が更衣室に入室してから30分。前の種目が終わり次は最終種目『ケーキ大食い選手権』。いよいよ、自分の肥えに肥えた姿が衆目に晒されようとしている。それがとてつもなく憂鬱だった。だが、先生の後押しもあり控え室へ歩を進める。その心内にはまだケーキを存分に食べたいという食欲と、これ以上太ってはいけない、食べてはいけないという自由を縛る足枷が混ざり合っていた―


ーーーーーーーーー

羽川ハスミ

Height:179.2 → 179.3cm

Weight:201.3 → 291.3kg

B:168.2 → 232.9

W:178.3 → 256.2

H:179.2 → 241.7


§§§



「クロノスチャンネルをご覧の皆さん、こんにちは!さあ残すところ本年度のキヴォトス晄輪大祭もあと1種目!これまで行われてきた『わんこそば大食い大会』や『借り物競争』の成績から暫定1位はゲヘナ学園、次いで2位はなんと体育種目では一歩劣るも頭脳プレーでのしあがってきたミレニアムサイエンススクール!そして3位には上位校の背中を追うトリニティ総合学園がついています!」

スタジアム各所に設けられた拡声器から、実況席より通日熱心に中継を続けるクロノススクールの生徒、川流シノンの声が響く。

「そこから大差をつけて4位が、シャーレの先生お墨付き、SRT特殊学園!5位にアビドス高等学校(以下略)となっております!まだまだ晄輪大祭総合優勝の行方は不明!最後の種目『ケーキ大食い選手権』の出場をミレニアムは棄権したため、頂上決戦はゲヘナvsトリニティ、因縁の対決になると見込まれますが、最後の最後で大盤狂わせ、下剋上は起こるのか!」

拡声器からだけではない。もう一人のクロノス生、風巻マイの実況音声も含めて映像音声ともに、街中を飛ぶ飛行船や街灯のモニターにも今年の晄輪大祭の様子は中継されており、開催地のミレニアム以外にもゲヘナやトリニティ、百鬼夜行近辺でも街行く人たちが大会の行方に注目している。というのも、まさにこれより、雌雄を決する一戦が始まろうというのだ。

「それではラストファイト!『ケーキ大食い選手権』に出場する選手たちの入場です…!」


盛大な入場曲に合わせ、入場口から運営スタッフの先導が始まる。この後ろにこれよりケーキを胃に詰め込む有志達が続くのだろう。

「まず先陣を切るのは、生徒数の関係上、本来2人1組での登録が必要なところを特例で出場することになったアビドス高等学校、小鳥遊ホシノ選手!」

「うへ~、おじさん、お昼寝の時間なんだけどなぁ~」

現状の総合順位順ということなのか、まず姿を現したのは、もはや午後3時という普段の彼女であればお昼寝の真っ最中の時間に競技に出ることとなったアビドスの三年生、ホシノだった。いかにも勝負なんてどうでもいいと言わんばかりにだらけた背中は、見方を変えればエンジョイ勢とも捉えられよう。

「ホシノ先輩!頑張ってください!」

「ほどほどにケーキを楽しんで」

「食べすぎて胃もたれしない程度にね~。にしても凄い観客の数…おじさん、ビックリだよ~」

よたよたと運営スタッフの背を追うホシノに客席からアビドスの後輩、アヤネとシロコの声援が向けられる。その声に何度か手を振り返すと、次の入場校のアナウンスが入った。


「客席の歓声も一際盛り上がっていますが、続いてエリート集団、SRT特殊学園から風倉モエ選手、空井サキ選手!」

「…おやっ?風倉モエ選手、空井サキ選手?」

実況席からのシノンの呼びかけから数秒経っても風が吹くのみ。再度、次はマイが呼びかけてみるとようやくスタジアムの入場口に人影らしきものが映ろうとしていた。だが、それは一歩また一歩と日向に向かうにつれ、観客共々その場にいた人々をざわつかせることとなる…。

ドスンッ!ドスンッ!!!

「げぷっ…ぶふぅ……んふぅ……ぜひゅぅ…」

「おいモエ…!もう少し早く歩けないのか?それになんでこれからケーキを食べるっていうのにまた飴を…」

先陣を切るサキはなにやら後方を気にし、繋がれた手の主を引っ張るようにして入場を始める。しかし、その手の厚みや徐々に明らかになる2人目の生徒の全容は、まるでサキの数倍はありそうな体積を占めていた。

「ぶふぅ…あんたと違って私は痩せてないから、ぜひゅぅ…これ以上早く走れないの…ぶふぅ…。くひひ…ケーキと飴は甘さの種類が違うから、ふぅ…平気…♥️」

ぼよん、ぼよん!と一歩踏み出すごとに全身の肉が縦横無尽に揺れる為、バランスを取ろうと左右に身体をふらつかせながら歩む超巨体は、風呂敷のようなサイズの体操服にぎちぎちと全身の贅肉を詰め込んでもなお、腹肉が盛大に零れるほど太っている。にもかかわらず痩せなければという危機感を一切伺わせない。むしろもっと太ろうとしているのかと疑わせるほど興奮しており、手元の飴をこれからケーキを食べるというのに舐める。満月のように膨らんだ顔に恍惚な笑みを浮かべるSRT出場選手の二番手、風倉モエの様子に人々は度肝を抜かれた。

「な、なんだあの巨体…!?」

「ふ、太りすぎ…ってこと!?」

「え、えっとぉ…空井選手に手を引かれ歩く重厚なボディは恐らく風倉選手でしょうか…!これは報道席も驚きを隠せません!そのたくましい巨躯を生かして優勝なるか!」

ざわつく観客席を静まらせるべく、まだ完全に入場が終わったわけではないがクロノスのシノンはここでもまた実況を始める。「肥満」や「デブ」などという表現を使うことを避けながら冷や汗を流して選手紹介をするシノンだが、そんな周囲の異常な反応などお構いなしにモエは飴ですっかりブクブクと太った400㎏超の身体を見せつけるように進む。膝まで垂れた激厚な二段腹は、ブルマという受け皿がなければ地面についていてもおかしくないが、これが『ケーキ大食い選手権』で更に成長することになると思うと、サキの悩みはより深刻化しそうだ。

「ぶひゅぅ…ぜぇ…!!むふぅ…♥️ぶひひ♥️皆が私を見て驚いてる…♥️」

「いいから行くぞ…!(これは帰ったらなんとしても運動させないとまずいな…まったく)」


ふくらはぎから背中、二の腕まで、あらゆるところに過剰な贅肉によってできた段が垣間見えるモエは、数分かけてようやく入場口から十数mの距離を歩き切り、次の生徒の入場を可能にする。その間もざわついていた場内に、空気を一新するかのように張りきった実況の声が響く。だがそれは叶いそうもなかった。

「き、気を取り直して、次に入場するのは逆転からの総合優勝となるのか!トリニティ総合学園から、浦和ハナコ選手!羽川ハスミ選手!」

「浦和、ハナコ…って開会式のあの生徒!?」

「おいおい、てことはSRTに続いてトリニティも…」

モエを見た時の反応とはまた違う、どこか悪名高き者を語るような口ぶりで皆が声を発する。それもそのはず、トリニティ側の選手の一人、ハナコは先ほど開会式における選手宣誓で、卑猥な単語を何度も口にし街頭中継やプログラムの開始をいくらか遅れさせた本日の有名人なのだ。そしておまけにその体型はモエに負けず劣らずの巨体。『ケーキ大食い選手権』でも何をしでかすか分からないという不安から、警戒の視線が一部生徒からハナコに向けられる。だが、一方でまた一部の生徒は安心していた。というのも…

「大丈夫ですわ!もう一人のトリニティ代表はハスミさんですもの!」

ハナコの今日の相方は、あの正義実現委員会の3年生、羽川ハスミだからである。才色兼備なハスミを前にしてはあのハナコも好き勝手はできまいと、”現状のハスミ”を知らない生徒たちが希望的観測をしていた。しかしその安息もすぐに終わりを迎える。

「最近はお姿を見かけませんでしたが…ハスミさんなら私たちトリニティの華麗な優勝は確定したも同、然……えっ?」


ドスドスンッ…ズリズリ…ドスドスンッ!

「ふぅ…あはぁ…♥️ぶふぅ…控え室からの移動だけで、汗だく…息も上がってしまいますね~、まるで■■■の後のように♥️ぜひゅぅ…そう、思いますよね、ふぅ…ハスミさん♥️」

「まさか…!そんなことがあり得るのか!?」

先に入場口から出てきたハナコの様子にそこまで驚くこともなかった観客は、彼女の後ろに控える生徒のシルエットに目を疑う。


「た、確かに…疲れ、ますね…ぜぇ、ぜぇ…。お、お腹も苦しいですし……」

「…ぶふぅ♥️お腹のお肉をそんなに押さえ込んでいたらこの先もっと苦しくなって当然ですよ、思いきって…ぶひゅぅ…全部脱いではいかがですか♥️♥️私もお供しますよ……んふぅ…」

超肥満体二つの入場に遠近感が狂う。十分広いはずの入場口が300kg近い巨体が並ぶとまるで狭い通路のようだ。前を歩くハナコはまったく恥じらう素振りもなく、むしろ堂々と液体太りした巨腹をちゃぽんちゃぽんと波打たせながら進む。

一方のハスミは、観客から向けられる「なぜハスミさんがあんなに…」という異常なものを見るような視線に羞恥心を覚えながら、恥ずかしそうに自身の肥えに肥えた肥満体を縮こませるようにして細々と歩く。だがその足音は重く、肉が付き過ぎてしっかりと上げられなくなった足は地面をズリながら前方へ向かっていた。


「い、いえ…!そんな真似は…!トリニティの生徒としての面子が……。それに……私はこれ以上太ったら……うっ…どうすれば…」

「ぶふぅ…むふぅ…何やら、お困りのようですね~、もっと自由に物事を捉えてみてはどうでしょう♥️太るのも……とても気持ちがいいですよぉ♥️♥️ぶひゅぅ…ぜぇ…ふぅ…」

太ることをできれば避けたく、この期に及んでケーキも我慢しようというハスミと、対照的に自身の欲望に忠実で今日も生クリームの味わいを楽しみにしているハナコがそこにはいた。

「太るのが、気持ちいい…ですか…?ごくりっ…思い返せば、ケーキを食べている時は何にも勝って至福の一時ですが……」

徐々にハスミの中の天秤が揺らぐ。

「浦和選手、羽川選手、両名とも目を疑うほどのダイナマイトボディでの参戦だぁ!一体どうなっているのか!?」

もはや振り切れたと言わんばかりにこの状況を楽しみ始めた実況のマイは、盛大なコールを行う。その声が響く観客席には真っ赤に顔を染めたトリニティの生徒がいた。

「あの2人、何かエッチな話してない!?ダメ!エッチなのは…!こ、こんな公衆の場で、そんなこと…」

「ま、まあまあ落ち着いてください、コハルちゃん!一緒に応援しましょ!頑張れ~ハナコちゃん!」

(これ以上ハナコが太ったら、困るのは私たちだけど…)


「最後に入場するのは今大会の優勝候補校、好成績のまま首位を駆け抜けられるのか!ゲヘナ学園より陸八魔アル選手、浅黄ムツキ選手!!」

「おいおい、今度は陸八魔って、あの極悪集団便利屋のトップじゃねぇか!?」

「なんか今回はお祭りだから放免って話らしいよ。流石にアリウスレベルまでヤバいことしてたらそうともいかないっぽいけどね」

シノンの入場合図を機に今度は観客の関心がトリニティからゲヘナへ向かう。大方彼女たちの予想では『ケーキ大食い選手権』も美食研究会の独り勝ちだと思われていたようだが、その想定は良い意味なのか、悪い意味なのか根底から覆された。なにせ美食研究会ではなくこれまた極悪と称される便利屋が出場するのだから。

「マジかよ……でも便利屋ってなんか変な噂があったような……」

しかしごく少数の生徒の間では、便利屋という名を聞いて何か特異な噂が広がっていたようであり、首を傾げる者もいた。が、その答え合わせはすぐに訪れる。


ドシンッ…ドシンッ!

「こ、この足音はまさか…」

「…に、二度あることは三度あるん、だな…」

「そういえば、そうだったな……」

またしても場内に響く地鳴りに、「そういえば…」と線と線が繋がる。便利屋が行なっているという自己肥育配信、そんなものの噂を聞いていた生徒が一人、また一人とピンとくる。

「ぶふっ、んふぅ…ひぃ…ふぅ…、なんでこんなことに…。体操服もピチピチだし観客もたくさん…これじゃあ便利屋の恥さらしじゃない!?ぜぇ、ぶふぅ……ふ、風紀委員もやることが非道だわ…!昨日手紙が届いたと思ったら、種目に出場しないと事務所を爆破するって……よほど極悪よ…!おまけにじゃんけんに負けるなんて……ふぅ、げぷぅ…」

大きすぎる尻にブルマを食い込ませ、二段腹の上半分までしかピチピチの体操服で覆えていないアルが、それらの服を破れないように庇いながら、恥じらいつつ公の場に姿を現す。その顔には、昼食にたらふく食べたであろうジャンクフードの食べかすがいくつかついており、既に1日の摂取目安カロリーを大きく逸脱していることが伺える。

と、そんな下半身を中心にでっぷりと太ったアルばかりに目をやっているうち、じきにその場にもう一人の生徒がいないことに人々は気づき始めた。

「ふぅ…それに……ムツキはどこ!?!?」

そう、アルと共に選手登録されているムツキが入場口にいないのである。その代わり、彼女が今いる場所はというと…

「アルちゃーん!私の分まで頑張ってね~♪くふふ」

「アル様…!しょ、勝利の凱旋は目前です…!もし邪魔が入るようなら私が抹s...」

「ハルカ、落ち着いて。もぐっ…むぐっ…♥️ごっくん…げぷっ、それよりムツキは行かなくてよかったの?」

『ケーキ大食い選手権』でケーキが搬入され到着する地点、そこを最も間近で観戦することの出来る観客席のベストポイントに構える便利屋ご一行。既に応援のボルテージが高まっているハルカと、二人分の客席に尻を埋めながら屋台飯をもぎゅもぎゅとゆっくり食べ続けるカヨコ。その横に出場するはずのムツキもいた。

「え~?私はこういうの得意じゃないし、アルちゃんだけでも出場は出場でしょ?それに…アルちゃんのたくさん食べるところ、ちゃんと見たいんだ~♪」

気分で、というのか何なのか、ただ間違いなく無断で欠席しているであろうムツキはケーキを爆食いする質でもなし。風紀委員の命令を無視する形で欠場していた。

「…そ、ならいいよ。私も…あむっ。甘すぎるケーキとかじゃなければ代わりに出たけど、これじゃあ不向きだから…はむっ…この焼きそば、おいしい……」


「あ、浅黄選手の姿が見えませんが…ゲヘナは陸八魔選手のみの出場でしょうか…!…と、ともかく…えっと…大波乱が予想される最終戦、選手の皆さんが今、ここに出揃いました…!!」

総勢6名による頂上決戦、いろいろとハプニングはあったものの全てのカードが出揃った今、実況席の熱も会場同様に高まりを見せていた。その声に乗せられる形で選手である生徒たちも意気込みを見せる。

「くひひ…♥️ぶふぅ…おデブばっかりでこれは負けられない…♥️たくさん食べないとぉ…♥️」

「おい…ある程度は自制しろよ…って言っても無駄か…」

「あらあら~♥️ゲヘナにもSRTにも、大柄な生徒さんがいたんですねぇ♥️後でこっそり、お腹の揉み合いっこ、いかがですか♥️」

「ひぃ…!え、遠慮しておくわ…!あまり私は…げぷぅ、他人と馴れ合わない主義なの!(変態までいるなんて聞いてないわよ…!?)」

「便利屋の社長がこんなにビッグになってるなんて、おじさん驚いちゃったなぁ~、こりゃ勝てそうにないかも~」

「ぶふぅ…ふぅ…息切れが、まだ…(この中だとまだ痩せている方、ですよね、私は……よかった……)」

既に食べる気満々のモエ、自分と並ぶほど太ったアルを前に肌と肌の触れあいを交渉するハナコ、望んだ形ではなかったが優勝すれば便利屋の名が上がることを夢見るアルに、やる気を僅かしか見せない眠たそうなホシノ、モエの手綱を握ろうにも無理だろうなと悟るサキ。そして、未だに決心が固まらず、ケーキを食べたいのに食べたくないという矛盾した感情に揺れ動くハスミ。六者六様の心持ちで試合が始まろうとしていた。


「それではルール説明に移ります!説明といえばこの方!ミレニアムより豊見コトリさん、お願いします!」

選手たち(主に太りすぎな数名)が息を整える間に、実況のマイクがルール説明役へと渡される。

「はい、説明や解説ならお任せください!ルールは簡単!これより競技場中央に運ばれる超巨大ホールケーキを、総勢6名の生徒の皆さんで6等分し、制限時間15分で食して頂きます…!タイマーのカウントが0になった時点でもっとも多く食べていた生徒の所属する学園ざ勝者となります!また、もし完食者が複数出た場合はそのタイムで雌雄を決するというわけです!」

「説明ありがとうございます!豊見さんの詳細な説明の間に既に会場へケーキが搬入され、選手の皆さんの目の前に堂々と鎮座しております!なんという大きさでしょう!このような特大ケーキは今まで見たこともありません…!」

「なお、こちらのケーキの制作は、ゲヘナ学園給食部さんが“総力を上げて”担当して下さいました!なんと美味しそうなケーキでしょう…!会場中に甘い香りが充満しております!」

専用の特大台車に乗せられ運びこまれたケーキが、コトリの説明の間にセッティングを終え6等分に切り分けられる。風が吹けば強烈な甘味の香りが風下にいる生徒や観客たちの嗅覚を刺激した。


「くひひ…♥️はぁ…!はぁ…♥️早く、早く食べたい…♥️ ♥️」

「ごくりっ…これは、凄まじいカロリーだな…」

「こんなに美味しそうなケーキが目の前に……た、食べたい……ですが…」

「ぶふっ♥️こんなに食べたらもっと太っちゃいますね~♥️」

「うへぇ~、見てるだけで胃もたれしそうぅ…」

「わ、私の専門はジャンクフードであって、ケーキなんてこんな量…食べれそうに……い、いえ!た、食べるわよ!便利屋を舐めないでちょうだい!ふぅ…」

「選手の皆さんも既に意気込んでおります!入刀され6等分されたケーキを前に、今、勝負の火蓋が切って落とされる!優勝は首位を維持するゲヘナか!それとも逆転のトリニティとなるか!はたまたアビドス、SRTの飛翔となるか!最終試合『ケーキ大食い選手権』、スタートです!!!!」

15:00、14:59、14:58…

「「「いただいまぁす!!!」」」

爆音のブザーと共に、クロノスのシオンによって告げられた試合開始宣言で、観客は湧き、選手たちは各々特大ケーキを手づかみで取り始める。


「ぺろっ……んふぅ…♥️甘くて美味しいですね♥️蕩けてこのまま昇天してしまいそうな…ですが、昇天する前に全部平らげてしまうかもぉ…♥️♥️あむっ、もぐっ…ぶふぅ♥️」

開始に合わせてケーキの周りのホイップや生クリームを器用な舌遣いで舐めとり始めるハナコは、これまで食べたどんなケーキよりも”まるで劇物でも混ぜられているかのような刺激的な甘さ”の虜となり、がっつき始める。その勢いを隣で未だケーキに一口も手をつけていないハスミは圧倒されるが如く眺めていた。

「す、凄い食べっぷり、ですね…」

「むぐっ、はふみさんは、ごくんっ…食べないんですか…?美味しいですよぉ♥️」

「わ、私はやはりこれ以上太ると…」

顔周りまでべたべたにクリームで汚れ、とろんと垂れた目をしたハナコがハスミを誘う。揺らぐ、ハスミの中の自制心が。太ってはいけない、ケーキを食べてはいけない。そんな鎖のようにハスミに巻き付いた自制心の縛りが、徐々に千切れていく音がする。


「おおっと!ケーキをコーティングする生クリームから優先して攻める浦和選手!自身より数倍大きいはずのケーキがみるみるうちに彼女の胃袋へ収められていきます…!当然浦和選手のお腹はどんどんと膨らんでいくぅ!」

「ですが、隣の羽川選手の様子がおかしいですね?何やら躊躇しているような、まだケーキに手もつけていません。一方、あれはアビドスの小鳥遊選手でしょうか、堅実にコツコツと食べ進めていますが、徐々にペースダウンしております!」

実況の声に共鳴するように観客の視線は生徒たちの間を行き来するが、トリニティの次はアビドスサイドへと人々の関心は移った。

「あ、甘すぎて倒れそぉ…おじさんにはこんなに甘いのは向いてないかも~」

4,5口ケーキを頬張っただけで、既に戦意喪失までごく僅かといえるほど手つきが覚束なくなるホシノは、シマリスのように頬をケーキで膨らませながらも飲み込むのに時間がかかっている。

「ホシノ先輩!まだまだ行けるはずでしょ!」

「わ、私でも耐えられないかもしれません…」

「ん、見て。便利屋の様子も…」

ホシノの闘う姿を客席から眺めながら、必死に鼓舞するセリカと、自分があの場にいたらと想像するだけで寒気を感じるアヤネ、一方でシロコは、ホシノの隣で果敢にケーキを胃袋に落とし込むアルの姿を視界に捉えていた。


「こちらは総合成績首位のゲヘナ学園から出場している陸八魔選手ですが、いかにもがむしゃらに食べ進めています!年頃の生徒とは思えないほどの勢いで、すでにスポンジの層まで突入!果たしてこのペースは維持できるのか!?」

「あむっ!もごっ!むふぅ…んぐふぅ…げふっ…ごっくん!(ちゅ、昼食のトリプルチーズバーガー3個が響くわね…で、でも!ここで優勝すれば便利屋の名前が一躍有名になること間違いないわ!そうすれば依頼殺到間違いなし…皆で夢のような生活が…!た、食べるわよ!もっともっとぉ…!)」

喋る間もなくひたすら両手でケーキを口に詰め込むアルだが、その眼差しは目の前のケーキというよりもその先に広がる便利屋の有名になった未来を見つめていた。だが食べたケーキが身体に溜まっていかないわけではない、凄まじい勢いで食すアルの腹はどんどんと膨らみ、また頬にも次第に多くのクリームが付着していく。


「さてそんなゲヘナと競り合うのがまさかまさかのSRT特殊学園の風倉モエ選手!相方の空井選手が早くもギブアップ気味なのに対して、風倉選手はケーキに顔を埋めるようにしてかぶりつく!!戦闘技術と潜入作戦のエキスパートは大食い勝負でも優秀な成績を残すのか!」

「も、もうげんがいだ…うぷっ、げぶふぅ…最初から飛ばしすぎた…」

「あむっ!はむっ…!もごもごっ!ごっくん!ぶふぅ…!サキ、あんたもう限界なの…?じゃ、こっち食べ終わったらそっちも食べちゃおうかな…♥️くひひ、げぷぅ…でもちょっと甘さがくどくてしんどいかもぉ…」

一方、スタートダッシュに尽力するあまりあっという間に満腹となり、膨れた腹を庇いながら倒れこむサキの横で、モエはこの場で最重量の体重を誇る者としてやはり相応の量をしかも豪快に貪っていた。ほとんど咀嚼することなく、口に入れられたら少し味わっただけで胃袋に落とし込まれるケーキ。一人前の3分の1はもう平らげられており、驚異の食欲を表している。

だるんだるんの全身の脂肪が更に肥えようとお構いなし。食欲のままにひたすら食べるその身体の胃袋はぼってりと皮下脂肪の下から膨らみ、勝負の行方を観客に期待させる。

「この戦いを制すのはゲヘナか!それともSRTか!?」

ケーキの食べられ具合からいってもこの勝負の勝者はゲヘナかSRTかの二択だと誰もが思っていた。


その頃…。

「あむっ…♥️じゅるるる♥️ごっくん…!…ぷふぅ…♥️生クリームの質には脱帽でぶね…♥️ごくっ…チューブがあればいくらでも飲めそうな…♥️溺れるまで、いくらでもぉ…♥️」

「あ、あの…このままでは、私たちトリニティがゲヘナに負けて…」

もう理性があるのかすら不明なほど生クリームをひたすら飲み込み続けるハナコの横で、ハスミは未だ一口もケーキを食べてはいない。胸の奥のざわつきを誤魔化しながら、自分は食べない、食べてはいけないのだと自我を押しとどめるように我慢しているのは、ハスミを見るハナコの目には明白だ。

「そうでふねぇ~♥️ごっくん!…げぷっ、ですが、私にとってはトリニティもゲヘナも変わらないですし、優勝よりも目の前のクリームが堪らなく愛おしいので…♥️」

「そ、そんな……ギュルッギュルルルル」

「あらあら~♥️ハスミさんはこのままで宜しいんですか?目の前のことからも、自分の欲望からも逃げたままで…あむっ!」

ゲヘナもトリニティもどちらが勝とうとどうでもいいというハナコに対して、ハスミには立場や信念が異なる。逃げなのか、大義に基づく我慢なのか。それはハスミ自身にとって判断し難いものだろう。だが、彼女の本能は既に答えを出していた。

「逃げて、いる…私が、ですか…?ギュルッギュルルルルルルルル!!」

「お腹、鳴っていますよ…♥️正直に、なってみませんか♥️はい、あ~ん♥️」

「あ、す、少し待っ…むぐっ!?んぐふぅ…もぐっ…」

ベトベトにクリームでコーティングされたハナコの手が、ケーキもろともハスミの口に突っこまれる。

食べたい、食べたくない、食べてしまいたい、食べてはいけない、甘い、甘くない、甘い甘い甘い甘い甘い…

もっと、食べたい!!!


§§§


「競技開始から5分が経過しましたが、依然として首位はゲヘナ、次いで僅差でSRTがデッドヒートを繰り広げて…?おやっ、その横で何やらものすごい勢いのままケーキを食すのは、トリニティの浦和選手か…?」

タイムリミットは残り10分となり、もう少しで折り返しといった頃、実況による状況整理が行われ、会場はゲヘナとSRT、どちらが勝つのかに湧きながら、トリニティの生徒は敗北を確信し既に興ざめの表情を浮かべていた。この時までは…。

がぶっ…!もごもごっ!ごくんっ!むふぅ…!あむっ!もぎゅもぎゅっ!…ごくんっ!

どぷっ、ぶくっ…ミチィィ…

「あ、あぁ…♥️この極上の甘さが…♥️いくらでも、ずっと食べていたいです…♥️もしゃもしゃ!あむっ!も、もう太ることなんてどうでも…いいので、もっと食べたい…♥️もごもごもごっ!!がぶっ、むふぅ…♥️」

我が道を行くようにクリームと戯れるハナコの横、束ねられた黒髪を一心不乱に揺らしながら、モエやアルよりも数倍早いペースで追い上げるようにケーキをかきこむその姿。300kg弱の身体に一気に糖分が流し込まれ、腹部はみるみる内に膨張していくが、まるで一切苦しくないかのように勢いを落とすことなく甘味を貪り食う。彼女こそ。

「いや、違う!?驚異の快進撃を見せるのは、本大会の実行委員でもあり、巨体生徒たちにも並ぶ激太…いえ急成長で会場をざわつかせた羽川ハスミ選手だぁ!!眠れる獅子が眼を醒ましたぁ!!!」

「げぶふぅ…♥️まだまだ、あむっ、ごくんっ!私たちトリニティは、はむっ、まけまふぇん…!あむっ!このケーキも、はむっ、ごくんっ、もっともっとぉ…♥️食べたいれふぅ…♥️」

もはやハスミを縛る鎖はない。「そのままのハスミでいい」「ハスミはハスミだ」そういった先生の言葉と、自身を一切貶めることなく己を貫くハナコとの対話、そして縛りを壊すかのように投げ込まれた一口のケーキ。その全てが繋がり、ハスミの中で自分を制限していたきつく苦しい鎖は砕け散り、本能と欲求のままに食を楽しんでいく。


ぶくっ…ぶくぶくぅ…

「むふぅ…♥️あむっ…もごもごっ、あふいれふね…ごくんっ。ジャージなんて脱いでしまいましょう…その方が、がぶっ、ケーキも食べやすい、れふし…♥️」

ヒートアップするその食事に体温の上昇を次第に感じ始め、彼女はジャージを脱ぎ捨てる。どうせもうすぐファスナーも弾ける頃合いだ。自分で脱いでも変わらない。だが異様に暑い。脱いでもなお体温は冷めることを知らないようで、呼吸は荒ぶり、滝のように脂汗が流れ始める。

ブチッ…ブヨブヨブヨ…

「くひひ…♥️あ、あっつ…興奮しすぎて体温が上がっちゃったかも…♥️ケーキのクリームで身体冷やさないとぉ…♥️あむっ…♥️」

「く、クリームで冷やすって意味が分からないぞ…にしても暑いな…汗もびしょびしょじゃないか…んっ、身体が…」

時を同じくして、モエとサキも体表に汗を滲ませる。モエの手にはドロドロに溶けた生クリームが手汗と混ざってねっとりと広がっており、一方のサキも体操服に汗のシミを作っていた。

「あぁ…あっつぃ…暑くて溶けちゃいそうだよぉ…動いてないのに暑いよぉ……あむっ、うへぇ~」

「はむっ…!むぐむぐっ…ごくんっ…た、確かに暑いわね…ここは暖房でもついているの?この身体に暑さは堪えるわよ…げぶふぅ…でも食べないと…あむっ!んっ、ケーキに手が、とどかな、い…!?」

すっかり手の止まったホシノも灼熱の暑さに溶けそうになっており、隣のアルもまた、ぜぇぜぇと吐息を漏らしながらケーキを口に詰め込むが、暑さに当てられてペースは著しく落ちていた。ケーキを取る手が重い、いや、次第にケーキに手が届かなくなっているのか。だるんだるんに皮下脂肪の垂れた腕を前にだし、なんとかケーキを掴もうとするも、腹が邪魔をして届かない。

腹がその道を邪魔するのだ。先ほどまではそんなはずもなかったのに、ぶくぶくと膨らんで…。


ぶくぶくぶくぅ…!!!!

ぶよんっっ!!!どぷんっ!ブチッ!ビリビリビリィィィ!!!

「あぁぁ…!身体がどんどん、げぶふぅ…ぶぐらんで、いぎますねぇ…♥️♥️♥️」

「こ、これは何が起こっているのか!?ケーキを食べている選手たちの身体が加速度的に、ひ、肥満体へ変化している!?!?」

「に、肉が溢れだして選手たちの服が破れていっています…!!」

「ちょっとクロノススクールの2人!今すぐ報道を中断して!実行委員命令よ!これ以上は…何が起こるか分からないわ!選手の名誉のためにも…競技もここで打ち切りよ!」

ハナコの狂喜に満ちた声に合わせて、その太りに太った身体を包んでいた体操服が勢いよく破れ始める。縫い目から避けるようにして崩れていく布地の隙間から、膨張する脂肪がこれでもかと存在を主張していく。

その様子を捉えていた実況席と観客たちは眼を疑うが、これはまぎれもない現実だ。誰よりも早く事態から判断を下し、実況席へと赴いた実行委員のユウカが中継及び競技の中止を言い渡す。実行委員すら予想していない出来事だったのだろう。


「は、はい!たった今、実行委員からの指示により、予想外の事態が発生した為、本競技の終了と報道の中断が惜しくも決まりました!中継をご覧の皆さんは暫しのお別れです!ここからは場内実況のみを…」

【しばらくお待ちくださいませ】

「放送切り替わりました!中継は切ってあります!」

「…ふぅ、で、でも一体なんなのよ…。”ゲヘナの給食部”に依頼したのは”低カロリーでヘルシー志向の巨大ケーキ”だったはずなのに。いくら食べても大丈夫なローファットローカロリーの素材で発注したのにどうして!?」

発注書や計画書をいくら確認しても、ケーキに食べた者を激太りさせる作用のある薬品や食材を用いるなどという仕様は見当たらない。それどころか、人を加速度的に太らせる魔の料理を作るなど、”神秘”の領域の話だろう。そんなことが容易く出来るわけはない…。と、慌てふためくユウカを他所に、実況を務めるクロノスの二人は最後まで仕事を全うする。

「さあ突如終了を迎えた本大会最終種目、『ケーキ大食い選手権』の行方は…競技エリアを見てみましょう…!この短時間で最もケーキを食べたのは…!?」

当然競技が途中で終わりを迎えたのだ、選手たちの闘いの末を報じないわけにはいかない。観客含め現場が騒然とする中、実況に導かれるように人々は次第に静まり、スタジアムのケーキが鎮座しているエリアの下へと視線を向け始める。『ケーキ大食い選手権』の勝者は…。


ブヨブヨブヨン…でぷっ、ぶくっ…

「ふぅ、ふへぇ…おじさん、げぷっ、メタボになっちゃったよぉ…っぷぅ…こ、こんなに太るなんてぇ…でもお肉柔らか~い……すぴぃ…」

「ホシノ先輩!?ちょっとしか食べてないのにあんなに丸く…」

「ん、私と一緒にサイクリングに行けば元に戻る…はず」

たった数口しか食べていないのに、ぽっちゃりを超えた軽度肥満の段階まで一気に丸くなったホシノは自身の腹を揉みながら半ば嘆きつつも満腹からか昼寝に突入する。4校中4位はアビドス高等学校なのは明らかだ。

「げぷっ…な、何なんだこの弛みきった身体は!?ぶ、ぶよぶよで…こんな…これじゃあ任務も鍛練も…」

「げぶふぅ…ぶひぃ…♥️ぶふふぅ……げぶぅぅぅ♥️あんだも、ずっがり、ぶどっだじゃん…♥️げぶふぅ…♥️」

続いて、ホシノの次に多くケーキを胃に収めたサキもまた、余すことなく身に脂肪を付けていた。SRTの名に恥じない日常の訓練の成果は水の泡、うっすらと浮かんでいた腹筋は脂肪のそこへ沈み、ブルマの縁にはでっぷりと腹肉が乗っかり、二重顎や二の腕のたるみ、すきまのなくなった極太の両脚などが目立つ100kgほどの肥満体となっていたが、胸にはあまり脂肪がついていない様子なのが目立つ。一方で…。

「そ、その声は…げぷっ、モエなのか!?お前その身体…!」

「げぶふひひ…♥️もっどぶどっぢゃったぁ…♥️♥️で、でも、もうだべられないお…♥️ぶふぅ…」

ケーキの山を1/2人前食べたことで400kgから更に激太りを遂げたモエは、自力では起き上がれない肉の塊のような体型まで肥えており、満足気な笑みを溢すが、爆発しそうなほど膨らんだ腹にはもうケーキも入りそうになく、物理的にも胃の容量的にもギブアップが宣言される。3位はSRTといったところだろう。

「げぶふぅ…な、何なのよこれ…!?こんなに太るなんて、んぐぅ…!聞いてないわよ!?お、起きられない…!だ、誰か起こして~!?」

「くふふ♪アルちゃんまん丸~」

「あ、アル様…!?よりお太りに…わ、私が今すぐ手を…」

「もぐっ、待ってハルカ。まだ早いから…もぐもぐっ」

「ぶふふぅ…♥️私も、起き上がれなく、げぷぅ…なってしまいましたぁ…♥️無防備な肥満体が二つも鎮座するなんて、あぁ…♥️もっと食べたかったんですが、ギブアップですね…♥️げぶふぅぅぅぅぅ♥️」

そしてギブアップが告げられたのはSRTだけではない。腹肉のみならず背肉や尻肉までもこんもりと蓄えられたゲヘナ代表のアルもまた、ケーキを2/3人前食べて太り過ぎた自身の肉体故に、倒れ込んでしまい、寝返りをうつことも起き上がる事も不可能となっていた。そしてそれはクリームをひたすら舐め、飲みこみ続けていたハナコもまた同様だ。と、いうことは…。

「まさかの異常事態に6名中5名のリタイアを確認しましたが、残る1人は…!!」


ぶくっ…ぶよぶよ…でぷっ…



「あむっ!…もぎゅもぎゅっ!ごくんっ!ぶふぅ…♥️はむっ!おいひい…♥️もっと…♥️たべたい、れふね…♥️」

「な、なんとまだ食べ続けている!!自分のケーキだけではなく隣の……浦和選手の分までも…?!」

「これは、勝負アリましたね…!」

「ゆ、優勝は…!静寂を貫いたスタートより驚異の巻き返しを見せた、トリニティ総合学園代表選手の…!」

「羽川ハスミ選手だぁ!!!!!」

競技の途中終了が言い渡されてもなお、その案内すら聞こえていないのかというほど変わらぬ勢いでカロリーを摂取し続ける黒い翼の生徒。その身体は入場時から一回り、二回り、もしくはそれ以上に膨れ、座り込んだ地面に尻肉や腹肉が付くほど肥満化が進んでいるが、なお満たされない食欲で更にケーキを欲する。自分の分を食べ終えても、その隣にあるケーキに手を伸ばし。

誰が見ても彼女がもっともケーキを食したことに違いはなかった。

「は、ハスミさんが優勝ですってよ!!」

「私たちトリニティがここにきて勝利だなんて…信じられません…!うぅ…!」

「ハスミさんの勇姿、しかとこの眼に焼き付けました…!」

数刻前までゲヘナとSRTの勝利争いで、トリニティの敗北及び総合優勝を逃すことに覚悟を決め、諦めから落胆していたトリニティ生たちが水を得た魚のように生き生きとした目で勝利を喜ぶ。ある者は笑みを浮かべて叫び、ある者は予想外の勝利に涙する。誰も、ハスミがここまで貢献するとは思っていなかったのだ。


「そして、ここで実行委員よりお知らせがあるようです!」

「えーっ、ミレニアム代表実行委員の早瀬ユウカよ。この試合、1位は文句無しのトリニティ総合学園、そして各校2名の生徒のうち食べた量の多い方を用いて計算すると…2位にゲヘナ学園、3位にSRT特殊学園…とするところだけど…」

「ふ、ふぅ…何よ、トリニティが今回1位でも、私の食べっぷりでゲヘナはなんとか逃げきり優勝でしょ…ぶふふぅ…♥️これで便利屋も有名に…」

実況席からユウカによって告げられるお知らせに、選手及び観客一同が喧噪の中、なんとか耳を澄ます。特にそれへ注意して耳を澄ますのがトリニティの生徒であり、反対に全く聞いていないように見えるのがゲヘナの生徒だ。無論、選手であるアルも、『ケーキ大食い選手権』1位の座は逃したものの、2位という優秀な成績を残したことにより、僅差でゲヘナの逃げ切り総合優勝を掴み、自身の便利屋がゲヘナの英雄として名を馳せることを夢見ている。

「特例措置が認められたアビドスは例外として、選手1名が無断欠場のゲヘナは規則違反としてこの競技では失格とするわ」

「便利屋の未来も明る……しっ、失格!??じゃ、じゃあ私のこの頑張りは……骨折り損ってこと!?何ですって~!?!?うっ、うぅ…なんだか急にお腹が重たく…もう動けない…わ……コクリッ」

だが、アルの妄想は一瞬にして灰となった。無断欠場はシャーレの先生が決めたルールに大きく反する禁止行為、おそらく便利屋の面々は風紀委員から強制的に出場を命じられたが為に細かくルールを読んでいなかったのだろうが、ムツキの無断欠場によりまさかまさかの失格扱い。ということは即ちこの競技の点数は没収されるのであり、実質ゲヘナは0点、総合点において大きなハンデを背負うことになり、ゴール目前にして飛翔するトリニティの翼に追い抜かれることとなった。

「あ、アル様~!?!?」

「けぷっ…ムツキ、後でちゃんと社長に謝って」

「さ、さすがにアルちゃんに可哀想なことしちゃったかも…くふふ♪たっぷりお世話してお返ししなきゃ、ね…!」

「はぁ……あむっ」


「こほんっ、よってこの種目の1位はトリニティ総合学園、2位はSRT特殊学園、3位がアビドス高等学校よ!」

「や、やったぁぁぁ!!トリニティの勝利だって!!」

「うっうう…ぐすんっ、ハスミさんが私たちに勝利をもたらして下さったのよ…!」

「ということは、私たちが…!?」

一度は諦めたトリニティの優勝、それが今、客席の目の前、スタジアムに鎮座する大きな大きな肥満体によって叶ったのである。

客席は湧き、トリニティ近辺で中継を見ていた住民たちの下には、中断された映像の代わりに現地の生徒からモモトークを通じて優勝の一報が瞬く間に伝達されていく。歓喜に湧き、涙する。トリニティの勝利がここに決まったのだ。

「実況席からキヴォトス晄輪大祭に参加されている生徒一同にお知らせします!これにて全種目が終了致しました、それに伴いまして、ただいまから閉会式及び授賞式を行います!皆さんは速やかに競技場内へお集まりください!…繰り返します!…」

「ハスミ、お疲れ様」

「げぷぅぅぅ……せ、先生!?これは、その……」




客席から向けられる温かい眼差しと声で、ケーキに夢中になっていたハスミの手が止まる。その声はなんとなくだが、ここまで競技を走り抜け、揺れる自分の中の心の動きにケジメをつけた彼女にとって今、一番聞きたかった声だった。

「ハスミの頑張る姿、ずっと見てた。そんな顔しないで。ハスミは今じゃトリニティの皆にとってヒーローみたいな存在だから」

「私が、ヒーローですか…?ですが…こんなに、太ってしまって…そ、それに、食欲が我慢できなくて…あむっ♥️ふ、ふみまふぇん…ケーキがおいひくて、つい…ごくんっ…げぷぅ…」

我に返ると、この短時間で信じられないほど太った自分の現実に後ろめたさこそ湧くものの、先生の言葉を信じているのもあり、再びハスミはケーキに口をつける。美味しいと言う彼女の表情は、それまでハスミが見せていたどんな表情よりも柔らかく、穏やかなものだ。

「太ってたって私は気にしないよ。前も言ったと思うけど、ハスミはハスミだから。どんなに太っていたって、どんなに痩せていたってね」

「せ、先生…あ、ありがとうございます」

「それに……ほら、誰もハスミのことをバカにしてなんかいないから」

そう言った先生の背後から多くのトリニティ生が顔を出す。中には客席から身を乗り出すような勢いでハスミの活躍を讃える者もいる。総じて皆がハスミのおかげでトリニティがゲヘナを巻き返して逆転総合優勝を達成できたのだと認知していた。

「ハスミさん!カッコよかったです!!」

「起き上がれますか…?今すぐそちらに向かいますので良かったら私に掴まってください!」

「でしたら、私は背中をお押ししますわ!」

「よければこれ!私のタオルを使ってください…!」

そこにいる生徒たちは皆ハスミが太っているからという理由で彼女を見下す者などいない。むしろ自身を省みずに貢献したハスミを皆が評価している。

「み、皆さん…!ありがとう、ございます…!ハナコさんの方にも援護をお願いします…!」

「良かったね、ハスミ。じゃ、大人の出番はここまで、かな…また困ったらシャーレにおいで。いざとなったらうちにはたくさん運動器具もあるからね」

もしハスミが痩せたくなったらその時は痩せればいい。でも、太ってはいけないという義務感から日常の楽しみを我慢してでも無理に痩せる必要はない。ハスミはありのままのハスミでいいのだ。そういった先生の心持ちはいつだって変わらない。

スタジアムに降りてきた仲間たちに囲まれながら、羽川ハスミはただ青空のように清々しく軽くなった己の内側に浸っていた―



後日談、というには雑多だろうか。晄輪大祭から数日、各校はお祭りの後始末に追われていた。人数の少ないアビドスは比較的日常に近い日々を既に送っているものの、むっちむちに太ってしまったホシノのダイエットが決行中。SRTではシャーレに泊まりこみでダイエットをすることとなったモエと同様に、サキもまた毎日シャーレに通いで訪れてはシャワーとトレーニング器材を利用して減量に励んでいるようだが、どうも先生の目には日に日にサキが太っているように見えて堪らない。

一方、ミレニアムでは、特にユウカが不良生徒によって壊された備品やアクシデントの後処理に追われ多忙なようだが、中でも一番の謎である『ケーキ大食い選手権』での急速肥満化ケーキの調査をすぐにでも始めたいと言っている。また、そんなケーキを作った製造元のゲヘナ学園給食部では、何やらフウカとジュリが抜き打ち検査に来たアコに詰められているようだが、その内容は公にはされていないとか。

そして…。

「ハナコちゃん!一緒に温水プールに行きませんか!水の中ならハナコちゃんもあまり疲れずに楽しめますよね!」

「き、際どい水着はダメだからね!あと、ちゃ、ちゃんと着れる水着を持っていかないと…!もし水の中で脱げちゃったら……だ、ダメよ!えっち禁止!」

「ふぅ……ふふ♥️では、行きましょうか…ぶふぅ……ぜひゅぅ…たくさん、かけあいっこ、しましょうね♥️」

「な、何か含みがある気がするけど!?」

放課後のトリニティ、いつもの4人が肩を並べながら、もっとも足の遅い者に合わせるようにゆっくりと中庭を歩く。

「ハナコの荷物は私が持つ…お、おもっ…これ、何が入って」

「ふぅ…焼きそばパン15個とホイップクリーム3kg分です♥️…あ、正しくは焼きそばパン10個とホイップクリーム2kg分でしたぁ♥️げぷふぅぅぅぅぅ…♥️」

「あはは…また効率よく太る方法を見つけてしまったみたいですね…」

大祭を機に300kgから一気に400kgへと肥え太ったハナコを囲う補習授業部の面々は、いつもと変わらず彼女に接する。何も変わらない青春の日常だ。…と、中庭を行くのは彼女たちだけではない。他の生徒もまた賑やかに交流を深めていた。

「は、ハスミ先輩!こ、今度…私と一緒にケーキバイキングに行きませんか!!」

「わ、私もお願いします!」

「私たちの先約があるのでお待ちなさい!」

「あむっ…♥️ごくんっ、ふぅ…皆さん、落ち着いてください。来週は我慢の週で…再来週でしたら予定も空いているので、是非皆さんでケーキを食べにいきましょう…よろしいですか?あむっ…♥️」

「「「は、はい!!」」」

鎖も足枷もなくなった”彼女”の、際限なく太らないように気を遣いつつ少しだけ自分の欲望に正直になった日常はここから始まる。


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羽川ハスミ

Height:179.2 → 179.3 → 179.8cm

Weight:201.3 → 291.3 → 402.9kg (888lb)

B:168.2 → 232.9 → 256.6

W:178.3 → 256.2 → 317.1

H:179.2 → 241.7 → 329.2




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叡智差分2種は別記事から!

→( https://motimothibbw.fanbox.cc/posts/7042923 )

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