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「あれっ、ボクってば…なんでこんなとこにいるんだろう??」

暗く、明かりもない物置のような小部屋。宙には自分が動いたことで舞ったのだろうホコリが、チラチラと浮かんでいる。決して新鮮なものでも、吸いたいと思うものでもない空気がそこには満ちていた。

「確か…マスターとご飯食べてー、その後ブラちゃんの部屋でゴロゴロしてたら眠くなってきたから…ボクの部屋に帰ったんだっけ…?でもここ、ボクの部屋じゃないしなー」

むむむと考え込むようにして記憶を整理する。大して深く何かを意図して生きていないから、いざ記憶の糸を辿ってもアストルフォにはどうして自分が見ず知らずの空間にいるのかも分からない。

「うーん、ドアも開かない……。ま、いっか!そのうちマスターか誰かが見つけてくれるよねー」

固く閉ざされた扉を前に、霊体に戻るという策も扉を叩くなり壊すなりして外部にコンタクトを取るという策もその脳には思いつかなかった。理性の蒸発。並大抵の思考回路を封じられたかのように、アストルフォの思考プロセスは一般人には理解しがたいものとなっている。


ペタペタと冷たいコンクリートの壁を触る。誰かが自身の存在を感知して部屋から出してくれるのを待つ間、彼は暇をもて余していた。そう「彼」である。自身がもつピンク色のセーラー服とお揃いかつ、色違いのブルーのセーラー服をブラダマンテにプレゼントしたのがつい数時間前の話。ピンクとブルーでどこか戦隊ものや幼女向けアニメの雰囲気を漂わせる霊衣のセットだが、彼が今日身に付けているピンクのセーラー服は言わずもがな、女の子向けのものであり、スカートにも脚を通している。だがしかし、アストルフォは男なのだ。外見からは女性と判断されてもおかしくはないが、彼は間違いなく、美形の男の子である。

「やっほー!!…って、ダメか~。暇だな~」

自身以外誰もいない一室でただただ声が反響し、そしてやる事もなくぐるぐると室内を回る。倉庫のようなその部屋は広くもなく、探索のしがいなどほとんどない。

「あーもう!つまんないつまんないつまんないー!…そうだ!なんか面白いものとかないか、漁っちゃお!」

やがて彼は退屈の極みに達し、その閉ざされた一室に眠っていた箱やら棚やらの中身を漁り始めた。所業だけ見ればまるで空き巣のような。可愛らしい見た目の泥棒がそこにはいた。


「ん、ナニコレ?なんかいい匂いだけど…?」

山積みにされた段ボールを散らかし、野生の嗅覚であるものを探り当てる。甘い砂糖菓子のような香りに釣られ、アストルフォの両腕でようやく抱えられるほどの大きさの箱を開いた。

「なになに…『試作品LVー00029 非常時用 瞬間フルチャージ栄養パック ショートケーキ風味』?」

そこに仕舞われていたのは、如何にも研究熱心なサーヴァントが発明したであろう、カルデアの施設マークが刻まれた一式の試作品。見た目で言えば、病院の点滴器具のようなもので、とんこつスープを詰めたかに見える色のパックが2つと、それを吊し上げて固定するまさに点滴に使われるスタンド。そしてパックに装着しおそらく使用者が口に咥える為のチューブが揃っていた。

「お、面白そうじゃん…!!ボク、こういうの組み立てるの夢だったんだよねー!シャルルマーニュ十二勇士に入ってなかったら、天才マッドサイエンティストになるつもりだったしっ!」

そんなつもりなど当時は毛頭もなかったであろう夢を口にし、取り扱い説明書も読むことなく直感で装置を組み立てる。そう、トリセツを読むことなく。


「ジャジャーン!!やっぱりボクってば発明家の素質あるぅ!」

組み立てるだけなら5分とかからず誰でもできる作業を、あーでもないこーでもないと試行錯誤して10分ののちに完成させた装置を前に、アストルフォは鼻高々。もちろんその場には彼しかいないのだが。

「せっかく組み立てたんだし…ちょっとだけ…動かしてみる…?いいよねいいよね!誰も見てるわけじゃないし、また片付ければいいだけだし!片付けの天才であるボクに不可能はないのだー!んじゃ、ポチっとな!」

ブラダマンテが掃除をしなければごみ屋敷も同然の自室を他所に、片付けの天才と自称する彼は「栄養パック」と書かれたレトルトパウチの如きそれの裏面にあるボタンを押す。するとパック裏のファンが回り、中に詰められたとんこつスープに近い色をした液体が蛍光色として光を放ち始めた。


「うわー!なになになに!すっごく光ってる!…って、ああ溢れちゃうよぉ!んもう、じゃあいただきまーす!」

眩しく輝くパックに目を奪われていると、それに繋がったチューブに液体が流れ込んでいるのを忘れ、危うく床にパックの中身を垂れ流しそうになる。そんな溢す寸前のところでチューブの存在を思い出し、アストルフォは半ば不可抗力で、甘ったるい匂いを放つドロドロとした液体をチューブ越しに口にいれた。


ごくっ…ごくっ…

粘性が強く、かつ糖分やら諸々の栄養分やらを凝縮したと思われるほどの強烈な濃い甘味が口一杯に広がり、喉を通っていく。

ごぷっ…んぐっ…ごくっ…

もう何口分飲み込んだだろうか、絶え間なく流れ続けるソレを無性に胃袋へ流し込んでいた。幸い、ソレの特性故か、チューブから口に流れ込んでくる量は大したことなく、咥えたチューブを離したところですぐに辺り一面が海のように浸水することはないだろう。

だが彼は未だに、その口にゴム状のチューブを繋ぎ続けていた。

「ううっ…甘い…ずっとケーキ食べてるみたい…お腹も苦しい……でも、やめられ、ないよ…♥️」


頬を膨らませ、時間をかけて胃袋へ流し込む。いつしか、華奢で女性のウエストラインと勘違いされることの多かった彼の腹回りは妊婦のように張り詰め状態になっていた。

パンパンに膨らんだ胃袋に苦しさを覚えながら、限界に直面してようやく長い長い一食にピリオドを打つ。

「ごぷっ……ふぅ…!!も、もう限、界…!ぷはぁ…!!」

震える手で先程までは平らだった自身の腹部を撫で回す。こんなに丸くなった腹は見たこともなければ、自分の腹だと言うことすらにわかには信じがたい。だが明らかに圧迫されて苦しいという感覚と、もう食べられない飲み込めないという満腹感が現実を突きつけてくる。

「ふぅふぅ…ボ、ボク、妊婦さんみたいになっちゃっ…げふぅ…!ぐぷっ、げぷぅぅ!……えへへ、げっぷ、出ちゃった♥️」

日常の中で聞くことはまずない特大級のげっぷを不意にしてしまい、狼狽えながら誰もいない空間で一人顔を赤らめる。ある程度自由気ままな生を送ってきた彼にとっても、押さえきれずに溢れだしたげっぷには羞恥心を抱かざるを得なかった。

だが、そんな彼の感情もすぐさま過ぎ去ることになった。


「あれっ、お腹…柔らかい…。苦しく、なくなってきた…??」

ぷにっ、ぶにっ

げっぷの拍子にお腹から手を離してしまったが、再度自身の腹部に手を伸ばすと今度はまた新たな感覚に襲われた。指先を包む弾力。苦しさの元凶だった、セーラー服と膨らんだ腹部の間に生じていた圧迫感とは打って変わって、今度は服越しにもわかる明らかな柔らかさ。

思わず服を間繰り上げ、自身の腹を直接視界に入れる。


「うわ…凹んで…る?んー、でも…ちょっとだけ…太った、かも…?」

妊婦のように丸みを帯びていた腹は、服をめくって直接見ても分かる勢いで、驚異の消化吸収スピードによって凹んでいく。だがアストルフォ自身も気づいたように、その腹部は56kgを保っていた以前までのしなやかさを失っていた。

スカートに「ポヨンっ」と乗っかった肉。サーヴァントは太るはずもないのに、どういうわけか誰が見ても贅肉だと答えるであろう皮下脂肪はそこにはあった。

「柔らかい…太るってこんな感じなんだ……そっかぁー…」

スカートをめくって下腹部から下の、下半身の肉付きを確かめるが、そこにあったのはただ膨らんで隙間のなくなった太ももとパンツの上に鎮座した腹肉だけ。


ぎゅる、ぎゅるるるる…!!

しかし、そんなはずはないと耳を疑う轟音によって、己の身の肥満化から感傷に浸っていたアストルフォは我に返る。

お腹が空いたのだ。胃袋がやたらと主張してくる。

ぎゅるるるる…

「ウソ…だよね……ボクそんなに大食いだったっけ…。お腹、空いちゃった……♥️はぁ…はぁ…!!食べてもいいよね…まだ、たくさんあるみたいだし……♥️ふぅ…いただきまぁす♥️♥️」

目測70キロ程度までこの数時間で太った身体が「まだ食べたい」と訴えかけると、理性の欠如した彼の自我ではもうブレーキなどないようなもの。加速する異様な食欲に歯止めは効かず、息を上げながら一回り太くなった腕を伸ばして、彼は再びチューブを掴んでしまった。


ごぷっ、っぐぷ、ごっくん…

どぷどぷっっ!!ぶよっ…

ぶちっ、ぶちぶちぶちっ…!

どっぷんっ、でぷっ!

うぅ…げぷぅっっ…♥️

はぁはぁ……♥️ごっくん…♥️



§§§

『試作品LVー00029 非常時用 瞬間フルチャージ栄養パック ショートケーキ風味』

①スタンドを安定した床に設置し、栄養パックをスタンド上部に吊るす。……

②パックにチューブを接続し、パック裏面のスイッチをオンにする。……

③あら不思議!ダヴィンチちゃん特製、空気中の魔力(マナ)を生身の人間でも栄養として体内に取り込めちゃう装置の完成!


【注意!!使用厳禁!!】

残念だが本試作品は使用を禁ずる。この装置は空気中に満ちたマナを自動回収して、実体の栄養液にエネルギー変換するが、そこに欠陥が生じている事を失念していた。

1. 栄養液のカロリーがなぜか、1mlあたり1kcalと設定したはずが、誤って【1mlあたり1000kcal】となっている。

2. これもどういうわけか、栄養液に【過剰なまでの甘味と依存性の高い成分】が含まれている。

3. これは私のミスだが、上記の欠陥に加えて、本試作品はスイッチをオフにしない限り、【際限なく栄養液を生成する】ため、使用者が単独の場合は身体に大きな負担をかけ得る。その上、魔力反応の集中しているカルデア内や特異点で使用すれば、無尽蔵に栄養液を生成し…。

以上の理由から本試作品の使用を禁ずる。また欠陥が生じた原因追求は順次行う。




§§§

「うぅ…ぐぷっ、げぷぅぅぅ…♥️も、もう食べられないよぉ…♥️ふぅ…♥️♥️」

何度繰り返しただろうか、飲んでは膨らみ、膨らんでは太り、太ってはまた飲み。ブクブクと栄養を取り込んでは太り続けた身体がどれほどまでの大きさになったのか、そんなことはアストルフォにとってはどうでもよく、目の前の食料に対する欲求だけが充満していた。

満腹により衣服が身体を締め付ける圧迫感、そしてそれが急速に吸収されることによって楽になる感覚と、自身の身体に付いていく贅肉の柔らかい感触。げっぷの快感。すると今度は果てしない空腹感に苛まれ、また一段と肉の付いた腕をチューブに伸ばす。その繰り返しだった。


「ぶふぅ…♥️♥️♥️ボクぅ…すっごく太った気がするけど…気のせいだよねぇ…♥️げぷっ、げぷぅぅ♥️♥️服がキツいよぉ…縮んじゃったのかなぁ…ふぅ…♥️♥️」

痩せていた頃は、マスターの故郷である日本の学生服を模して腹部もしっかりと隠れるよう作られていたセーラー服が、今では腹部を隠しきれずお腹が空気に晒されて少し寒い。もはや霊衣であるセーラー服は、彼の脂肪によって垂れた両胸を覆うための存在と化していた。


どぷどぷどぷっ……ぶよんっ…ぶよぶよぼよんっっ!!!

満腹感に囚われて少しすると、次第に身体が熱くなり一瞬のうちにまた一段と太り始める。スカートのホックを弾き飛ばし、顕となった腹肉がまた更に厚みを増しせり出す。だがそれ以上に今は胸の成長が激しかった。

太り方は決して均一でなく、アストルフォの場合はまず腹に贅肉が付き、腹にみっちり脂肪が付く頃には下半身に皮下脂肪が溜まり、そして行き場をなくした贅肉が今、胸に付くこととなっていた。


ぶよんっ、ぶにゅ、どぷっ、ぼよん…

「ぜふぅ…♥️♥️ボク…女の子みたい……♥️♥️胸が柔らかくなっちゃったぁ…げぷっ♥️」

かつてのウエスト以上に膨らんだ二の腕を持ち上げ、ソーセージのように肉がこびりついた指で、脂肪100%の両胸を揉む。これが自分の胸。信じがたいが感触はウソを付かず、特大の腹肉の上に更に鎮座した下品な乳肉が激太りの事実を知らしめる。


ぎゅる、ぎゅるるるる…!!

「うぅ…!ま、またお腹空いちゃったよぉ…♥️♥️♥️食べたらもっと太っちゃうのにぃ…♥️我慢できないよぉ…♥️♥️食べても、いいよねっ♥️♥️いただきまぁ…♥️」

コンクリートに囲まれた一室に、厚い厚い腹肉越しに爆音で響く胃袋の訴えを無視する余力もほぼなく、またしても彼はチューブに手を伸ばし始める。

が、そこにようやくと言っていいほど遅れて、アストルフォの元に助け船を出す人物たちがやってきた。

「はぁ…!!はぁ…!!大丈夫!?アストルフォ!」

「アーちゃん、平気!?」

彼の契約したマスターと、その横で心配そうに倉庫内を覗く十二勇士時代からの付き合いがあるブラダマンテ。彼らが破った扉から、倉庫内に光の道が差す。そして照らし出されたのは、それまで暗闇の中、自身ですら捉えきれなかったアストルフォの太りきった全貌であった。




「ぶふぅ…♥️♥️♥️マスターにブラちゃん…♥️二人もこれ、食べるぅ…?美味しいよぉ…♥️♥️♥️」

肉がこれでもかとたっぷりと付いて二重顎に頬肉までびっしりとこしらえた顔に、笑みを浮かべてアストルフォは二人にチューブを差し出す。

部屋に充満した甘ったるい空気が、倉庫内からカルデアの廊下まで一気に流れ出る。マスターとブラダマンテは目の前のアストルフォの異様なまでの太り様と、異常な空気に戸惑いを隠せないでいた。

『ピピッ、…じまるくん!藤丸君!どうだい、アストルフォの様子は!?その倉庫から特大サイズの魔力反応が出ているんだが…?』

通信によりダヴィンチちゃんの声が廊下に響く。ダヴィンチには依然、常軌を逸した肉の山たるアストルフォの姿は見えていない。

「あっ、えーっと…ごめん、ダヴィンチちゃんの読みが的中しちゃってたみたいで…ほら…」


「ぶふぅ、ぐぷっ♥️♥️何さ何さぁ、ボクを見るなり皆してぇ…♥️じゃあこれはボクが一人でもらっちゃうねぇ……♥️いっただっきまぁふぅ♥️♥️♥️」

ごぷっごぷっ…!

ほぼ全裸に近いくらいには腹肉を全開にし、黒のパンツさえも大衆に晒したアストルフォの姿をモニターに映すや否やダヴィンチは頭を抱え、チューブを口に運ぶアストルフォを見てブラダマンテはそれを止めに走る。

「ちょっと待ったぁー!アーちゃん、それ以上飲んじゃダメ!もう、こんなに太って……って柔らかい…気持ちいいかも…」

だが、彼のぶよぶよに膨らんだ図体に触れるとたちまち、ブラダマンテの手から圧倒的なまでの弾力が彼女の脳へと伝わり、快感に取り憑かれそうになっていた。

「どうする…ダヴィンチちゃん。300kgオーバーだって…」

「はぁ…どうするも…そりゃまぁ…痩せさせるしかないと私は思うね…」

「「やりますか…ダイエット大作戦」」

二人して大きなため息をつくも、その吐息は、藤丸がスキャンして明らかになった体重302.6kg(更なる増量の見込みあり)のアストルフォに届くはずもなく。


ごぷごぷっ、ごっくん…!

どぷっ、ぶよぶよぶよっ…

でっぷん!

「ぶふぅ♥️げぷっ、げふぅぅぅぅ♥️♥️♥️もう食べられないよぉ…♥️♥️♥️…げぷぅぅ!お腹、いっぱぁい♥️でも…もっと食べたぁい♥️♥️♥️」

より一層栄養液で膨らんだ腹部を撫で回しながら、こうしている間にも太ってはげっぷと汗と笑みを溢すアストルフォの減量は、随分遠い未来の話となりそうだ。



アストルフォ

肥満化所要時間:6時間27分


before: 164.2cm 56.1kg

after:164.8cm 302.6kg

B:156.3

W:299.9

H: 292.2

体脂肪率:86.2%

追加ステータス:食欲暴走、栄養液依存、筋力激減


(了)


【リマインド】

※SNSでのトレスや模写等の公開はお控えください。

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