巨大温泉ホテル湯~とぴあ 11話「屋上 露天風呂」 (Pixiv Fanbox)
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「オイ――開いた――――声――――」
「待っ――様子――――――動かしては――――」
声が聞こえた。
目を開くと視界に左右に熊のような大きなシルエットが見えた。
見下されている。
仰向けに寝転がらされているからだ。
肌寒いのに生温かい。
不思議な心地だ。
「おお……どうだ、しっかり――――してきたか?」
喋りかけられている。
それがわかると、言葉が段々と鮮明になってきた。
口を開くと、思ったより寝ぼけたような声が出てしまった。そんな声でも見下ろしてくる二人の顔は随分と嬉しそうにやわらいだ。
「よし、完全に目ぇ開いたな。心配させやがってこんちくしょう」
「私達の声が聞こえるか、ああ、起き上がらないで大丈夫だ。頭を動かさないでくれ。瞬きで返事を――そうそう、よし、聞こえているようだな」
デュオさんと隈谷さん。
頭の中で二人の名前を呼ぶと、意識が一気に鮮明になった。
背中側が特に温かいが少しばかり痛い。どうやら自分は寝湯のような場所に寝転がっているようだ。生暖かい風が裸の体を撫でている。ここは屋外。いや、正確には露天風呂だ。浅い紺碧色の空に向かって。湯気がもうもうと昇っている。
湯~とぴあ 螟ァ螻ア闍ア蜍晢シ昜ク也阜 階 屋上露天風呂
「さて、とはいえ状況は芳しくねえぞ、この体でどこまでいけるか」
「脱出するにも。あまりにも困難が多すぎる……」
脱出。
そうだ、今はゆったりと風呂に入っているような時間ではない。
あの地下での騒ぎからどういうことか、こんな場所にまで運ばれてきたようだ。
記憶と状況が段々と整理されてきた。
だが…………。体の感覚が妙だ。
脳震盪の類ではないとは思うが……なんというか、手足がここにあってここにないようなふわふわとしている。
いや気持ちがいい。肌を優しく愛撫されているような、そんな心地だ。
「ン……我々がいつまで正気を保っていられるか」
「ああ。………………。いや、何弱気いってやがる、そんなに立派なガタイしておいてよ。男の根性ってもんを見せやがれ……ッ」
霧が外に漏れている。
その事実に今更ぞっと冷や汗が吹き出た。今までは施設の中だけの話だった。それが外に漏れている。この温泉施設、湯~とぴあでこれまで見てきた痴態の数々が思い出される。
あんなものが外に漏れたら。
原因を止めなければいけない。だが、まず先に脱出しなければいけない。飲み込まれてしまう。
飲み込まれる。…………。
そうだ、じっさい、この異変は気持ちいい。
ずっと気持ちがいい。
何もしていないのに、快感が収まらない。
「糞、この臭いどうにかならんのか、頭がおかしくなりそうだ」
「ああ、しっかりしなければ……しかし、ぬぅ…………ッ」
二人の焦りが強くなっている。
協力してこの事態をなんとかしなければいけない。
よく見ればデュオさんも隈谷さんも、頬の赤みが妙に強い。鼻の穴も不自然に膨らんでいる。…………これは、興奮と発情を隠しているオヤジの顔だ。すぐにわかってしまった。
この短い休暇のなかで、幾度となく見てきた顔だ。すっかり覚えてしまった。特に大山さんはよくこんな顔をしていた。
あの人の表情は特にわかりやすかった。大人の余裕や男らしい姿を見せたがるくせに、人一倍発情しやすくて、随分と困った姿を見てきたものだった。
大山さん。
そうだ、大山さんが……この異変の中心で、被害者で、今どこに…………。渦中の中心に据えられてしまった大山さん。もしくは事態を把握しているレオさんと合流しなければ。
「ああ無理するな無理するな!」
「立ち上がらない方がいい、大丈夫だ、わたしたちに任せておけ」
身を起こそうとした瞬間、二人の分厚い手が布団でも被せるように覆ってきた。
…………。
外傷はないはずだが、二人は小さな子どもの面倒でも見るようにやたらと過保護だ。
…………手。
違う。最初から二人の手は、体の上にあった。
気持ちいいはずだ。
二人はずっと真剣に語らいながら、この体をやんわりと愛撫していたのだ。
一体なぜ、どうして。
「ハァ……大丈夫だ、君のカラダは……私が守るよ……」
「ああ、こういうときはオヤジにまかせておけって、なっ、任せとけっ……」
肉で覆われたスポーツマンらしい手が胸を、腹を、太ももを撫でる。
気持ちがいい。逞しい男の中の男といった風体の二人に触られて、体が勝手に反応してしまう。
「なっ、なかなかっ、悪くねえモンもってるじゃねえか……っ」
「おっと、これは失敬、つい手の甲が当たってしまったかな、ハハッ」
勃起した肉棒を見つめながら、二人はなぜだかこのシチュエーションにしては不釣り合いなほど穏やかに笑っていた。
「だ、大丈夫さ、恥ずかしがらなくってもいいんだ。男だったらみんなそうなってしまうからな」
「あぁ……雄の証ってもんだろ。なんならもっとガッチガチにしてみろよ、ヘヘッ」
やはり二人も、何らかの異常が起きている。
だが言語化し難い違和感があった。これは今までのものとは違う。もっと深い。ただの発情より、もっと重く、深刻な何かが…………。
二人はずっと肉棒に直接手を出す前に、顔を、目を、そして態度を伺いながら優しく優しく愛撫してきている。
「そうだ、恥ずかしがらなくったっていい……ほら、私のモノも見てくれ……。キミのように、いや、キミ以上に勃起してしまっているんだ。だから恥ずかしがらなくっても、いいんだよ、あ、ああジロジロと見てくれてもいいぞ……」
「親と子くらい離れた歳だからって甘く見るなよ? 俺のナニだってこんくらいすぐカッチカチになるぜ…! なっちまうのが男ってもんだろ、お前もわかってるよな、なぁ!」
そういってデュオさんは腰をグイと持ち上げた。それにあわせて隈谷さんも腰を振った。
立派な肉棒が二本、視界の隅でぶるんぶるんと左右に揺れる。
二人の顔に、最初見たときあったような切迫感がなくなっていることに気がついた。
一刻も早く脱出を。
そんな話をしていたのは、どこへいったのだろうか。
「ン!? おお、そうだなわかっている、急がねえとな」
「そ、そうだ負ける訳にはいかない」
そう言いながら二人は顔を見合わせた。だが…………
「先にこっちを処理してからじゃないといけないだろ」
「ああそのとおりだ」
二人は起き上がることなく、それどころかいっそういやらしく手を伸ばしてきた。
「大丈夫心配ない」
「君は必ず私が守ってあげるからな」
二人は同じような口調で、まるでずれることなく同時に竿を刺激し始めた。
「ああなんて立派なんだ」
「いかんなあ、こんなんじゃとても立って歩くなんてできないだろう?」
逞しいが形の違う手が、しかし一つの意志を共有しているかのように動く。
亀頭をこねくり回すデュオさんの大きな手。
幹を擦る隈谷さんの荒々しい手。
本来文化も出身も性格も違う二人の手が、何年も連れ添った者同士のように完璧な連携で肉棒を撫でる。
「あぁ…………」
「はぁぁ…………」
二人はうっとりとした目で勃起を見つめ、こちらの顔を見てまた微笑んだ。
「ほら、こうやって逞しい男に……しっとりと愛撫されるのはどうだい?」
「お、男同士でも……こんなに気持ちよくなってしまって…………ああ、でも、とめらないなあ……」
「いいんだ、もういいんだ、隠さなくってもいいんだ、私が全て叶えてあげるからな」
「君の欲しいものをすべてあげたいんだ……」
「それが大黒柱たるこの私の務めだからなあ」
二人の口が交互に開き一つの文章を作り出す。触ってもイないはずの二人のチンポが、バキバキに勃起して先走りを垂らしている。
その趣向や発言は、まるで大山さん…………。あの人のようだった。
父として振る舞うことを喜びと感じるあの人。同性愛者ではないが男同士の絡み合いに興奮する性癖。見せつけることで興奮する困った性質。それらが全て重なっている。
「おぉ、出そうじゃないか、出ちゃうのか?」
「いいぞ、いいぞ、男らしくぶっ放しちまえ」
最初の射精はあっけなく訪れた。
逞しい二人から丹念に愛撫されて、我慢などできなかった。
肉棒から溢れた種汁が、雄々しい二人の男の手に、腕に、どくどくと噴き上がる。
「おぉ……いいぞ、いいぞ」
「ぬはぁ…………こ、ここまでかかってしまった…………」
二人は困りながらも嬉しそうに、そして楽しそうにわらった。
気がつけば湯気がますます濃くなっていた。
まるで精液がミストになったような濃厚な雄の香りが、露天風呂中から広がっている。
気がつけばギャラリーができていた。一人や二人ではない。逞しい男たちがずらりずらりと集まってきている。
髭や髪型はそれぞれ違うはずなのに、男たちの表情はどれもが一つだった。
慈愛や羞恥と頼もしさ、それらが混じり合いながらもいやらしく興奮した中年男性のスケベな顔。
大山さんの顔だ。
「き、キミは絶対に私が守るから……。キミの望みも叶えるから。あぁだから、もっともっと私に頼ってくれ、私を見てくれ…………私を…………」
その声は、紛れもなく大山さんのものだった。
視線を下に下ろすと肉棒の直ぐ側に大山さんが居た。
大量の男たちに混じりながらも、彼は人一倍激しく前進してここまでやってきたようだ。
「ほら…………こ、こんなこともしてあげるぞ…………」
大山さんが言うと、その口がべろりと肉棒を咥えこんだ。
男同士の性交渉の経験が浅いからだろう、その動きは不器用で、童貞の男のように不安定だった。
だが分厚い舌と強烈な吸い込み、なにより感情の伴った動きは、テクニック以上に快感を与えてきた。
「どうだい、気持ちいいかい?」
「なかなか立派で、た、たまらないぞ」
「ああ……この味だって……キミのものだと思えば……」
「お、男のチンポなんて……こんな……むふぅ……」
大山さんの口は塞がっているのに。大山さんが語る。
「んっんっ…………ンンン♥」
限界だ。またイッてしまう。
口よりも肉棒がそれを雄弁に語ったのか、大山さんはますます激しく顔を動かしはじめた。汗の玉を飛ばし、頬をへこまし、唾液がどくどくと溢れてくる。
「う、おぉお…………イッいぞぉお私のクチにだしちゃうんだな♥」
「ハァハァ、ああ…………たまらない、いいぞ、いいぞ遠慮なんかしなくていいんだ♥」
「さ、さあ…………もっと腰を突き出したっていいぞ♥」
デュオさんと隈谷さんも同時に喘ぐと、二人の肉棒がいよいよガチガチに……雲に隠れた空に向けて立ち上がった。
「はうぅう……き、きもちいぃいぞお♥」
射精する。大山さんに出してしまう。
このままじゃますます彼を変態にしてしまう。どんどん取り返しがつかなくなってしまう。それはわかっているが、快感が収まらない。射精が我慢できない。
「大丈夫、さ、さあ…………私は絶対に負けないからなっ♥」
大山さんがこういうときは、必ず駄目なときなのだ。それはわかっている。だのに止まらない。ますます興奮してしまう。
その瞬間、三人が一斉に顔を歪めた。
大山さんのクチに、熱い精液がぶちまけられてしまったのだ
同時に
「「「お、うっぉおおッ♥ すご、すごいぞおお、こ、こんなの耐えられない、負けてしまうぅう♥♥」」」
三人がまるで同時に喘ぎ、そして三人同時に射精した。
自らの口淫で人を射精させてしまった興奮と背徳感。露天風呂でクチに出されてしまった敗北感。それらの興奮が脳を貫き、それだけで射精してしまったのだ。
それがわかった。
わかってしまった。
伝わってくるのだ、大山さんの感情が、心が、思考が。
霧が、湯気が、濃くなっている。
大山さんの同化や共鳴がますます強くなっている。
ここを中心にどんどん湯気が広がる。
それがわかる。
周囲を囲んでいるギャラリーが、内輪から順繰りに射精していっているのだ。もはや思考だけではなく、体の感覚までも共有だ。射精。射精。射精。次々に男が快感の頂点に達し、落ち着くこともなく次の絶頂がやってくる。
「あっ、あぅ♥ な、何が起きているんんだ、なにがっ♥」
目の前の大山さんも、信じがたいこの現象に目を見開いて腰を振っている。彼がコントロールしているわけではないのだ。
「「「なんだ♥ なんだっ♥ と、とまらないっ♥ とまらないぃぃい♥」」」
それはもはや大山さんだけの声ではなかった。
三人、四人、五人、六人。
どんどん声が重なっていく。
「お、おかしい、こんな♥ こんなにも気持ちいいなんて、あ、いけない♥♥」
駄目だと思えば思うほど気持ちよくなってしまう。
その性癖が利用されて、快感の渦がより激しくなっていく。
「だ、大丈夫だからな♥ 怖がらなくても大丈夫だ、き、キミは、キミだけが、私が助ける、守るんだ、だ、だから不安に、ふぎぃぃいいい♥♥」
父親のようなことを言っても興奮してしまう。もはや八方塞がりだ。どうしようもない。逃げるどころか、全員揃ってこの異変に飲み込まれる。
「あぁぁあキミ、だけは、ああああああ♥♥♥」
…………。
なんだか腹が立ってきた。
大山さんに……ではない。
…………この、神か悪魔か儀式だかなんだか知らないものに、である。
誰だって男ならば、射精の快感というのは抗いがたいものがある。
それを利用するなんて、随分酷い話じゃないか。
大山さんは元来善人だ。
たしかにスケベでやや鬱陶しくて暑苦しいが、それでも彼は出会って間もない自分に親切にしてくれた、心優しい人だ。
守ろうとしているこの言葉も嘘ではないのだ。
――そんな善意を全部利用しているのだ。この『現象』は。
確かにこんな欲望が隠れていたのかもしれない。やたらと歪んだ性癖かもしれない。
だからといってここまで無様を晒されて、なにかに利用されていいはずがない。
誰だって後ろ暗い性癖のひとつやふたつある。
数多くの男たちにハーレム状態になっているこのシチュエーションに興奮しないといえば嘘だ。
だけど人間それだけではない。
この不器用だけど優しい大山さんのような恋人と二人で幸せになりたいという心だって嘘ではないのだ。
「――え」
あ。
その瞬間、それまであれほど激しく燃え上がっていた感情が、声が、止まった。
「き、君は……そんな」
この霧を通じて、すべてが伝わっていた。
それは双方向だったようだ。
大山さんと、そして間近にいた二人が戸惑いと興奮、そして恥ずかしさでクチを閉じた。
「わ、私も…………ああ、そんな、そんな…………だ、だが…………。き、キミは」
大山さんの戸惑いと快感が伝わってくる。
急速にむせ返るような汗が引いていく。
「君のほしいものはこれじゃない、私と一緒に肩を並べて……生きていくことだっていうのかい?」
異常の中心に据えられていた大山さんの惑乱。性欲ではない。フェチズムではない。
同性から向けられる直球の愛情に大山さんの思考が止まる。
風が吹いた。
それまで凝り固まっていたかのように残っていた霞とも霧とも形容しがたい白いモヤが、ただ一陣の風で消え去っていく。
薄っすらと見えていた空が見えた。
見上げると、そこにあの……肌の黒い男レオがいた。
この瞬間を見計らっていたのだろう、遥か遠くにいる彼は笑ったように見えた。
そのままレオはしなやかな黒豹めいた動きで上半身をひねり、舞うように手を空にかざした。
見えるものではなかった。だが、確実にソレは起きた。ここにあった霧や力が、空に向かって放たれていく。
…………夜空には白い竜のようなものが立ち上り、花火のように舞い散った。
イラスト構図原案…… @Helices3D 様