石化魔術師討伐軍、壊滅。 (Pixiv Fanbox)
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周辺国家の有力ギルドから集められた冒険者たち、その数合計50と1人。
戦士、魔法使い、武闘家、僧侶。代表者の選出は各ギルドに任せられたため、やや前衛が多い結果となったが、精鋭達の数と装備なにより強さは些細な不和などものともしないほどの大軍隊だ。
防衛魔法を掛け合い、対策装備を身に着け、事前の情報交流も済ませ、準備は万全だった。
声なき号令を上げた冒険者たちは四方から古城になだれ込んだ。すべてをなぎ倒す屈強な男たちの波が石像、魔獣、結界を破壊していく。
勝負は一瞬だった。
「ぬぁああ……!」
「うごぉお、この、このぉおいったい何故ッ、何故ぇッ!」
「俺の装備が、腕が、脚がぁあああ!」
古城を舞台とした戦場は悲鳴と唸り声……そして嬌声に満ちていた。
装備は砂となり、肌は石になり、得も言われぬ快感が脳を焼いていく。
あたり一面には石、石、石。
かつて石にされた男たち。これから石にされる男たち。そして今まさに石になった男たち。
「ア――ァァ…………」「ダメだ、こらえろ、石になど……石に、あひ♥」「うぉお兄弟たちしっかり、しっかり……すっ…………の…………だ…………」
男たちの野太い声が城の至る所から上がる。
まさに降参といった格好で地を這う者、無様な格好で固められる者、笑顔が張り付いた者、神を冒涜するハンドサインを天に掲げる者、一帯がそれらの石像で埋め尽くされている。
古城の庭は気を違えた宮廷画家が書きなぐったような、卑猥な地獄絵図と化していた。
怒り、絶望、恍惚。
様々な表情が浮かぶ。
その中でただ一人だけ静かに佇む男がいた。
(まず四肢の自由が利かなくなる。そして装備の砂化は錬金術の体系に属するものだな。素っ裸にされて耐性が失せたところに魅了魔法。見事なもんだ。淀みがない。何度もやってきた者でなきゃこうも滑らかな魔術構築は不可能だ。犠牲者の数は今回の人数を含めて余裕の三桁。報告よりだいぶ多いな)
男……魔術師レオは全滅と言っていい討伐軍の中でただ一人、怒りも悲しみもなく、興味と探求心に目を輝かせていた。
もちろん彼自身の肉体も無事ではない。今も刻一刻の魔力耐性の低い場所から石化が進行している。
(俺の体でも抵抗不能とは、恐れ入るねえまったく)
レオを含めて誰一人として対策は怠っていなかった。
防護魔術。石化除けのアミュレット。抗魔力成分が強い聖油。祈り。etc
そのどれもが万全に働いている。
ただ、それらすべてを完璧に備えることなど出来ない。
そう、彼ら討伐体には、石化と区分される術や呪いがあらゆる方面から襲い掛かっていた。
「動け、動け、動けぇ、私はこんな場所で負けるわけには……あぁぁ、脚が、私の脚が…………腰が、腕がぁぁああ」
(気合でどうにかなるもんじゃあねえんだな。残念だがこの戦士殿は相性が悪すぎるな)
筋骨隆々の戦士が全裸で咆哮している。自慢の肉体を必死に力ませているか、筋肉は膨らみこそすれ動いていない。むしろより不格好な姿で硬直するばかりだ。
あれは最も一般的に石化と呼ばれるもの。硬直の魔法だ。魔力によって相手の体の自由を奪い「石のように固まる」だけのものだ。魔力抵抗の低い戦士や武闘化などには効果てきめん。
己の筋肉や武力に自信を持つものほど錯乱し、怒り、精神が乱れる。そうして手薄になった心に、別の石化術が忍びよる。
ますます体は固まり、ついには本当に石のように動けなくなる。
「何故だ、呪文が効かない……が、あぁぁ……体が、くそ、集中を、集中を、みんなっ、落ち着くんだ、大丈夫だ、我らはまだ、負けて…………まけていなっ……んぎぃぃいい!!」
(見事な対抗呪文、防護呪文だ。しかし……生物の毒には意味がない……と。この城のあらゆる場所から……バジリスクのような臭いがしやがる……まったく用意周到なこって)
呪文を唱える厳めしい僧侶は、その雰囲気と言葉と裏腹に勃起した肉棒を丸出しにして震えている。
魔力に強い魔法使いや僧侶には、石化の吐息が襲い掛かるようだ。「触れた者を石に変える体液」を極薄くしたものを空気中に巻く術が古城全体に掛かっている。
それ自体の進行は弱いものだ。だが、魔力が効かないと動揺させるには十分な効力を発揮する。
防御を解いてしまう者。逆に大量に防御に魔力を消耗してしまう者。そうして乱れたバランスに、次の攻撃が襲い掛かる。
「な、何故だ、あの道具やの親父、なにが対策は万全だ、だ。おのれ…………おのれぇえ……、この俺様がこんなところ、でぇええ……!!」
(この聖騎士は装備をやられたか。道具屋の親父さんは嘘は言ってねえんだが、相手が悪かったな。装備から先に石に置き換えられちまっちゃあ、意味がない)
全身を武具で覆っていたあの大男も、今では布キレ一枚残っていない。全身を覆うごつごつとした体毛の一本一本まで余すところなく石になっていくのが見える。
彼の対策に不備があったのではない。一切の油断もなかっただろう。だがそれでも、本体ではなく装備から石になり、砂と化し、ただの猿同然にされては身も蓋もない。あれは錬金術の類だ。金や銀を石に変える、人々が望むのとはまるで真逆の呪いだ。
どうしたものか。
そう考えているレオに思考がなだれ込んでくる。
「ああ、石、石っ、俺石になってる、俺のたくましい筋肉が石に♥」
「全滅する、全滅する、死ぬ、いや、死より恐ろしい永遠が待っている、ああ、ああ、チンポが永遠に勃起する、この勃起が、興奮が永遠っ」
「負けるうう、この不敗の闘志たる俺様が、負けて、こんな無様な格好を…………さらされるうぅう♥」
魅了の術だ。錯乱の魔法。このとんでもない精度の石術に比べればはるかにお粗末で乱暴な魔力の流れだ。だが、体の抵抗を封じられ、石になるしかない状態で掛けられるとこうなるようだ。
石になること自体が愛おしくなる。石になっていく仲間たちに興奮してしまう。素っ裸にされてしまう羞恥や興奮がどんどん強まってくる。
そしてついには、この古城に並ぶお仲間だ。
(…………)
これらの攻撃をすべて一人で把握することなど不可能だ。
数十人に感覚と思考を共有しているレオだからこそ、張り巡らされた異様な術の多彩さと悪辣さに気が付けたのだ。もちろん、この共感の術自体がそもそも禁呪の類で、かつ無許可である。
そうまでしてやっと、「わかる」という領域なのだ。
(種がわかったところで、俺もこれに全部対抗できるわけじゃない。いやそもそも、人間の身でなんとかできるようなものじゃねえなこりゃ。悪魔の仕業だ、文字通り)
人間の脳が行使できる魔力の範疇をはるかに逸脱している。
よほど強く悪魔と契約した者がたどり着ける境地。
果たしてその予想は、間違いのない確信となって姿を現した。
石術師エジネレス。
それは枯れ枝のような老人だった。
ゆったりとした貧しいローブを纏っていてもわかる痩せこけた身体。
食事の類に関心を失ったのか、頬は痩せこけ背も丸まっている。肌も髪も白くどこまでも貧弱な印象だ。
だがこの男をからかう者はいないだろう。
何もかもが弱そうな中で、ただ瞳だけが異様に血走り濁っている。生涯の全てを魔術に捧げたものがたどり着く、人でありながら人の営みを捨てた者の姿。
「…………………………性は何よりの原動力だ」
石術師はしわがれ声で誰にともなく語った。
「……………………お前たちのように、体だけに注力した無価値で無意味な者たちも、我が手に掛かれば素晴らしい調度品になる」
「ふぎぃぃいいい♥♥」
エジネレスは歩きながらその近くにいた男に指で触れた。
その瞬間、短髪の冒険者の顔面は崩壊し、大声をあげて射精した、かろうじて残っていた場所にも魔力がおよび…………男は完全なる石と化した。
「………………貴様のように魔力に満ちた者も、我が術になすすべもない」
「ああ、はいぃいい♥♥」
一歩、一歩。
目についた男を石に変え、そのたびにエジネレスは喜悦の笑みを浮かべる。
生気のない顔に、ただ邪悪な喜びだけが満ちていく。
「………………誰も私に敵うものなどいない」
「おぉぉお、おぉぉおおお♥♥」
「…………………………皆同じ、皆私の愛らしい石の下僕となる」
「はぐ、いし、石ぃぃぃいいい♥♥」
「…………………………自分だけは特別、そう思っている者などは、特にみじめで美しい石像となろう」
「へえ」
そうしてエジネレスがたどり着いたのは、レオの目の前だった。
「なんだ……ばれていたか」
「……………………気に食わん、貴様のその態度」
エジネレスが指を伸ばす。
もちろん反撃は出来ない。
既にレオの体は内部の四割以上が石になっている。
時間が経てばいずれは石像となるだろう。だがその「時間」に我慢がいかない様子だ。
「………………もうお前に知性は必要ない」
指が触れる。
その瞬間、レオの装備も他の者たちと同じように砂となり溶けた。エジネレスの細い口が息を吐くと、肌にまとわりついていた微かな砂さえも吹き消え、黒く輝くようなレオの肉体が露になる。
「……………………お前のような、不要なものを詰め込んだ頭には、それにふさわしい姿を用意している」
エジネレスが指を鳴らす。
その瞬間、まるで動かなかった肉体が糸に吊られるように跳ねた。
魔法使いなら誰もが知る知識の否定の姿。
筋肉自慢の男が、それらを披露するコンテストなどで好んでするようなポージングだ。
「ぬ! ……ふぅう……!? なるほど、いい趣味してるねえ、俺はもう少しエレガントなほうが似合うと思っていたんだが」
「………………もう一度言う。お前の言葉など必要としていない。何もいらない、その肉体だけがあればいい」
「!? う、ぐぅぅう」
「………………ふふ…………そうだ、その顔でいい」
既に指を鳴らす必要も触れる必要もなかった。
エジネレスの命令が直接、石と化した部位に注がれる。
興奮を解さず、唐突に勃起した。
そして快感が湧き上がってきた。
石は既に己の肉体であって己の肉体ではない。より上位の存在。支配者たる石術師の望むようになるのだ。
勃起しろといわれれば勃起する。それだけなのだ。
「アァ…………く、はぁぁあ…………ッ♥」
これまでレオは50人の感覚を共有していた。
それでも耐えていた脳が一瞬で飽和寸前に煮えたぎっていた。
「あっ、が…………ここまで、とは、これほど――!」
脳までもが石になっている。
いったいどのような魔術なのか、人間としての機能を残しながら同時に石でもある。そして石であれば支配ができる。
快楽に耐性があるならば、その耐性より少し強い興奮を注げばいい。それだけだ。
魅了魔法。
単純で低俗と感じていたものも、いざ己が石化していくなかで浴びせられれれば話は違った。抗いがたい力だった。
「石、石…………にぃぃい♥♥ あぁあ…………美しい、あ、あああッ!!」
石になっていくことこそが素晴らしいもののように思考が固まっていく。
興奮が際限なく高まっていく。
射精への期待。
射精と同時に石になることの喜びが襲ってくる。
「はぁ…………ハァッ! あああ射精、射精があッ!!」
だが、それはやってこない。
射精が許されない。石化が許さない。
物理的に不可能なのだ。射精管がいち早く石化され、射精寸前の状態の快楽がどんどんスタックされていく。
雄の肉体を知り尽くしている。皆こうやって狂わされたのだろう。
「――や、やめてくれ、こんなの、こんなっ…………!」
心が蝕まれていく。
いや、心までが石になっていく。
射精という欲望だけを残して、思考が、意思が、決意がものを言わぬ石になっていく。
「………………ひ、跪け、クハハ」
不可能な命令を告げながら石術師は笑った。
「……………………乞え、惨めに」
男の顔は醜く悪魔のように笑った。
「ああ、なる、石に、石になっちまううッッ!」
誇りなど何の役にも立たない。もうこうなっては、石になるのは止められない。
ならばせめて望みをかなえてほしい。
「…………どうだ、最後の射精したいか? したいだろう?」
それが最も楽しい瞬間なのだろう。
エジネレスは口から泡を飛ばしてレオに言った。
「射精、しゃせいいぃいい!」
射精させてくれ。石にしてくれ。
石としての人生を。
全ての思考が消え、ただ一つの言葉だけが口からあふれた。
「石に、して、くれえええええ♥♥」
魂の敗北。
口にした瞬間に全身に魔力が巡るのが分かった。
石になる。
心も魂も肉体も、そしてなにより肉棒が石になる。
全身が固くなっていくなかで、ただ一点。精液を吐き出すその一部だけが、燃えるように熱くなった。
「……………………許してやろう」
安堵と快楽がレオを襲った。
「あがあああ!!」
知性をかなぐり捨てたポージングのまま、レオは射精した。
全身を襲う強烈な喜び。快楽の電気信号。射精の喜び。それらが脳を駆け巡ると同時に、脳の中で石になっていく。
「――――」
歓喜の涙さえ浮かべて、レオは石となった。
気が付けば、
誰一人として声を上げる者はいなかった。
討伐体51人。
彼らは一人残らず、石になった。
「……………………協力、感謝する。よくぞ肉を運んできた」
静かになった世界の中でエジネレスは愛おしげに言った。
石像達に向かって、人間に向けていたものとは大違いの態度で語りかける。
「………………お前たちほどの生命力があれば、悪魔への取り分を入れても余裕で街一つ包み込むほどの魔術を使えるだろう」
石の二頭筋を一つ一つ撫でながら、エジネレスは笑った。
「…………………………すぐに仲間を作ってやる。今度は街、いや。そのような小さなことを考えるより、国だ…………国だ、ああ、もっと巧妙に、あの国の地下に仕掛けを作ろう」
全てが石になる瞬間を夢想し、エジネレスの瞳は灰色に輝いていた。
金も銀も、肉も骨も、城も街もすべてが彼の望む色一つになるのだ。
例外はない。何もかもが石になるのだ。
「……………………む」
エジネレスは歩きながら不愉快そうに顔を歪めた。
「……………………なんだ、この美しくない色は」
灰色に染め上げられた古城の中で、異様な醜い赤と黄の物体が輝いていた。
勝負は一瞬だった。
「―――ッ!」
エジネレスの枯れ枝のような体が、まさに風に吹かれるように吹き飛んだ。
殴られた。
石像に。
何故。
思考が遅れてやってきたころには、エジネレスは立ち上がることもできなかった。
50体の石像が動いている。
石ではない。
煮詰めた砂糖のように赤みがかった黄色の像が古城の中で動いている。
透き通るような色だ。石とは似ても似つかない。
「なにが――起きて」
人間に戻っているのではない。
しかし石でもない。
琥珀だ。
石と化した冒険者たちが、琥珀の像となって動いている。
「莫迦なこんな命令私は――」
周囲を囲まれ、腹を殴られ、詠唱の一つもでない。非力な魔術師が抵抗できるはずもなかった。
『唯一想定外だったのは、思ったより気持ちよかったこと、か。いや実際、俺の頭もぶっ壊れそうだったからな、たいしたもんだよアンタ』
琥珀色の像のなか、ただ一人『まだ』石像だったレオの声がした。
石の肌が光ると、それもまた琥珀になった。琥珀が明滅し、透明度が落ち、パラパラと肌から剥がれ落ちる。
まるで脱皮でもするかのようにして現れたのは、もとの黒い肌をした魔術師、レオだった。
「逆に言えば、石術なんてどういう過程があろうと結果は同じだ。石になる。それだけだ」
レオは一歩一歩、エジネレスに近づいた。
「なら石になった後、石を変化する術を予め掛けておきゃいい。石を琥珀に変える術をな。こっちもただ、それだけだ」
事もなげに語る。
「あんたが石なら俺は琥珀。別にどっちが優れているとは言わないが、まあ……やり方の問題だな、相性が良くなかったってとこだな」
石となった冒険者たちが琥珀となり、琥珀を自在に操るレオがそれらを再び肉と骨へと戻していく。
「とはいえ本当に見事だった。俺がいなけりゃ国の一つや二つは滅ぼせたかもしれんな。……そうだな、魔術の先輩として一つアドバイスをしてやろう」
レオは屈託ない笑顔を浮かべると、もんどりを打つエジネレスを抱き起こした。
「次の人生では、あんまり一つのやり方に拘りすぎないこと、だ」
そして、彼の胸から髪の毛でも抜くかのように魂を引き抜いた。
「――――」
悪魔と契約したものの魂。本来悪魔の取り分だが、おそらく死後回収される契約だったのだろう。契約していた悪魔も姿を見せることなく、レオは魂を自らが持ち歩いていた石英に封じ込めた。
後に残ったのは魂の抜けた肉体と…………全裸になった大量の冒険者たちの戸惑う声ばかりだった。
調査報告書
エジネレスの魔法はおそらく悪魔との契約により得られたものであり、人智の及ばぬ領域であった。
古城の仕掛けは冒険者たちによって解除。大量のバジリスクやコカトリスもほとんどが死骸であり、同じ古城を舞台にしたとしても、同規模の術を使うことはもはや不可能である。
石となっていた男たちの数名は石であった時の快楽が忘れられないと主張している。家族や友人の許可を得て、記憶の消去などの処理も検討。
エジネレスの死体は回収済みだが、悪魔との契約の結果か、魂の反応はない。既に回収されたものとみられる。
契約悪魔の名や特徴は残念ながら不明。今後石術、および同種の魔法陣が発見された際は今回の特徴を踏まえ討伐に――――
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