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「このホテルに着いてからというもの、私は事あるごとに、屋内外を問わず、一人で二人で複数で、卑猥で変態でおかしい行為を繰り返していた。ようやく思い出した。いや、自覚できた。その記憶がある。わかったんだ……」


『なんでも協力する』そう宣言した大山さんは、自らの痴態を恥ずかしそうに語りだした。



「だがね……私は本来こんな過ちを繰り返すような人間ではなかったんだ。信じてくれ……このホテルについてからなんだ。ここまで開放的になってしまったのは――その……キミにはなんでも話すから、どうか信じてくれ」


『夢だと思っていた』そうも言ってた。つまりこれは、これまでの行為は大山さんの願っていたシュミが実現した、という宣言でもあった。


「君がこのホテルに来る前日……だったな。トレーニング後に汗を流そうと大浴場に行った時の話なんだが……。あれが……たしか、最初だった……」



―――



地下一階大浴場内の階段を利用し、一階部分に上った先には地中海の白亜の町並みを再現したギリシャ風露天風呂が存在する。

風呂の端部分は傾斜が作られており、そこを寝湯として利用することもできる。

「初めの出来事」はそこで起きた。


なんとも見事な大温泉だ。


大山英勝はトレーニングをこなして高揚した気分のまま、さっそく汗を流そうとした。

その時だった。広い露天風呂のすぐ横の寝湯に目がいった。


(随分大胆に設置されたものだ……)

ごく浅い湯が張った風呂が、横長にずらりと並んでいる。これもまた豪華な造りだが、気になったのはそこではない。位置だ。

通常こういったものは、もう少し人目につかない場所に置くものだ。こうして目玉の大温泉のすぐ真横に設置してある、というのは見たことがない。

別に悪いことではないが、あれでは温泉に入りに来た人間全員の目についてしまうではないか。家族連れや修学旅行生、私のような中年男に、それから……。

想像するだけで恥ずかしさで身が竦む。一体何を考えてこんな配置にしたのだろうか。

(む、あ、あれは……)

大山の予想は概ね当たっていた。いや、想像以上だった。寝湯に転がっている自分のように筋骨隆々の大男は、風呂の中で特別目立つオブジェのように汗と温泉で輝いてしまっていた。

(む……うむぅ……あれはよくない、よろしくないぞ……)

盛り上がった逞しい筋肉が、まるで標本のように堂々と横たわっている。

あれではどうぞ見てくださいと宣言しているようなものだ。


(し、しかし……なかなかどうして、見事な肉体だ……)

ここまでの肉体に仕上げるのは並大抵のことではない。その自信があるから、ああして堂々としているのだろう。案外、気にしないものなのかもしれない。何事も試さずに批判するのはよくない、かもしれない……。

大山は彼の真横に、ふらふらと誘惑されるかのように歩いた。


「……どうも、いい湯ですね」

「あ、どうも、いやぁ飽きませんね、こりゃあ」

溌剌とした青年だった。

「見事な肉体ですね、ここのトレーニング施設はもう利用されましたか?」

「ええもちろん、ありゃあ凄いデカさでしたね。トップアスリート用ってくらいで。自分みたいに趣味半分で鍛えてる男にはもったいないくらいっすよ、あんま筋肉つけすぎると走るのが遅くなっちゃうんですが、ついつい重量系に夢中になっちゃいましたね」

「ほう……走る……というと、何かスポーツを?」

「はい、野球やっとります。まぁ草野球で。本業は高校の顧問なんすがね」


自慢の肉体なのだろう、彼はタオルもかけずに寝転がり体を空気に晒している。

ふとむず痒い気持ちが芽生えた。

話しかけられても依然堂々とし続けている。

こうなると、タオルを腰に巻いている自分のほうが女々しい情けない男のように感じてしまう。


ジョロジョロと流れるお湯の音に混じって、コーンと風呂桶が転がる音がした。

ゴクリとつばを飲み込む音が、自分の中だけではっきり響いた。

……自分もこんな風に体を晒せたら……。

私がタオルでいそいそと前を隠しているのは自分のモノに自信がないわけではない。

むしろその逆である。


昔から、見られるという行為を自覚すると、自慢のイチモツが制御できなくなってしまうのだ。

だからこうして、風呂だって人の少ない時間を選んでわざわざ――。


「しかし足が伸ばせるのはいいもんっすね。疲れが吹き飛びそうだ」

「はは、そう……ですね。」

そうだ、疲れを取りに来たのだ。それだけだ。

私も彼の横に横たわり、寝湯を楽しむこととした。タオルを自分の股間にしっかり載せて、目をつぶり、ただ温かな湯を楽しむ。


………。


………………。


しかし心というとリラックスとは程遠く、私はどぎまぎとしていた。

勃起してしまったらどうしよう。見られてしまったらどうしよう。

こんな筋肉男が二人並んでいるのだ、きっとかなり目立つだろう。

今こうして目をつぶっている間に、もしかしたら団体が風呂に入ってきているかもしれない。


ああ、そうなったら……。


私はちらりと横の青年を見た。

彼は気持ちよさそうに半分とろけた目で天井を見上げている。

完全に気を抜いた顔だ。この顔が、私を訝しんだ目に変わるとしたら……。

いや、話しかけてきた男が突然勃起したのだからきっと「そういう目的」で話しかけたのか、と誤解されてしまうに違いない。

ああ、そ、それは心外だ。私は「そう」ではないし、ここは公共の場なのだ。そんなことはしない。間違っている。

差別感情があるわけではないが、しかし……事実としてわたしは「そう」ではないのだ。


ああいけない。

考えれば考えるほど、ドツボにはまる。


勃起したらどうなる。

どうすれば勃起をごまかせる。

もっとタオルを巻きつけるか?

それともリラックスしすぎたなあハッハッハと笑い飛ばすか?

勃起したら? 勃起したら?

その事ばかり考えてしまう。チンポのことばかり頭に浮かべてしまう。

案外この逞しい大腿筋に隠れるかもしれない。

もしかしたら、このギリシャ風の風呂と逞しい筋肉と勃起のコラボレーションは美しい彫刻のように人々に映るかもしれない。

案外それならば、セーフなのではないだろうか。

いやむしろ羨望の眼差しを向けられるくらいで……。


ああいけない。羨望の眼差しでジロジロ見られまくってしまえば。

それこそ……勃起どころでは収まらない。きっと私は、私は。


「あぁ……しかし、いい気持ち……っすね」

私の妄想を遮るように、そして助長するように、青年は気持ちよさそうな声を上げた。

なんていい声だろうか。本当に心から心地よさそうな声だ。私のこの焦りなど知りもしないで、なんと呑気なものだろうか。


いや違う。おかしいのは私の方だ。

彼の楽しみ方のほうが、風呂の正道。あるべき姿なのだ。


「ええ、まったくですな。いやぁ、温度も丁度いいし、何より――――なっ!?」

私は彼に賛同しかけて、自らの目を疑った。

青年の股間は盛り上がり、完全に勃起していたのである。

「肌を撫でる風が心地良いっすね……ちょうどチンポにも風が当たって……あぁ気持ちいいいぃ……」

なんて気持ちよさそうな声だ。

それもそのはずだ。

青年……いや、野球をやっている筋肉男は、あろうことか勃起をビンビンに突き出していたのだ。


私は周りを見渡した。こちらをチラチラと見る人影があった。

ここは貸し切りなどではない。公共の場なのだ。


――だが、どういうことだろうか。

みんなそれほど焦ることもしなければ、軽蔑する目でもない。

しかし驚くようなこともなく、まるで当たり前のことだという顔だ。

どういうことだ? 何が起こっている?


「あぁぁ~……イィ……すっげ……イィ………」

グン……グンと……一言口にするたびにチンポが天を突き上げる。彼の体はまるで海に浮かぶ活火山だ。そびえ立つ立派な山が、噴火を今か今かと待つようにヒクついている。

「俺の体ぁ……なんかぁ……火山になったみたいだ……マグマがチンポ登ってきてる……っていうか、ああ、すげえ……グツグツ……ムラムラしたのが……上がってくるぅ……」

「え」


彼が私の頭で思い浮かべた言葉を口にした

………おかしい。


これはさすがに、偶然で片付けて良いことではない。


見られたら。

勃起したら。

火山のように。


どれもこれも、私が……大山英勝が妄想した出来事が、目の前で繰り広げられている。


これは現実なのか?

こんな……こんな……

私が望むことばかりがおきる、夢のようなことが………




―――



「そこで、私はこの現実が妄想なのだと思った。トレーニング直後で疲れていたし、風呂の温かさで眠かったから……。

それに、その……私はたまに現実と妄想の区別が付かなくなる時があって……病院通いし医師に相談したこともある。しかし、日常生活にはそれほど影響がないだろうということで、それまで特に問題も無かったから大丈夫だろうと思っていたんだが……」


彼の発言は理解し難いものだった。しかし、その深刻な表情と、これまでの経験から事実であることはわかった。


「その後私は、彼と同じように横になった。これは夢、これは妄想。そう思うと、もう我慢ができなかった。

私は……タオルを取って自分の肉棒を晒した。ああ……その瞬間。もうあっという間に勃起して……ガチガチに……そ、それで――」



―――


下反りの超巨根。それが私の一物だ。

横たわる彼の上反りも負けず劣らずのいい勝負だ。いやむしろ、こうして並ぶとそれぞれの肉棒違いがお互いを引き立てあってより逞しく雄々しく美しく見える。

ああ、なんてことだ。

なんて気持ちよさだ。

こんなことを今まで試してこなかったなんて………。


「ああ……すごい、本当に気持ちがいいねえこれは……あぁぁ……私のモノが風を切っている感覚……あぁ、すごい……」

「すげーご立派なもの、持ってますね……」

「そういうキミも、私に並び立つ――見事なチンポだよ」

「へへそうっすね、すげえチンポっすよ俺達」


こんな場所でチンポと口にした興奮で、私達の二本の雄竿は兄弟のように同時にうめいた。

とろっと透明な先走りが垂れて、寝湯のなかに混じっていくのが見えた。


なんて変態な光景だ。

しかもそれを何人もの男に見られている。

「ほ、ほら、随分見られてしまっているなあ」

「そうっすねえ、俺達みたいにガタイのデカい男は、やっぱり注目の的になるのは仕方がないっすね」

「!! ああ、そ、そうだな、これくらいはその――しょうがないことだなあ」


私はしょうがないという言葉に合わせて、わざとらしく腰を揺らしてみた。

竿がブルンブルンと揺れるのが自分でもわかる。

しかし一人ではない、すぐ横で自分に負けない大きな筋肉の男が、合わせて竿を揺らしてくれる。

ああ、こうしてもいいんだ。こんなことしてもいいんだ。

その許される喜びと、見られる快感で、私は今すぐにでもこのままイッてしまいたくなった。


射精して、吐き出して、とびきり臭い汁を撒き散らしたい。

風呂場で射精――



「あ、俺もう限界みたいです。こんな最高なの男なら我慢できねえっすよね。そんじゃ、お先に」

私の逡巡が明けるより速く、彼はバシャンと上半身を寝湯に打ち付け、自慢の上反りをビクビクっと躍動させた。


まさか、と口にするより速く、次の瞬間には青臭い臭いが迸った。

「おぉおお……♪ キクぅーー……やっぱ、これが一番疲れにいいんすわー」

漏れた、どころの話ではない。

セックスで吐き出す雄汁よりも大量の精液が、彼の肉棒からどくどくと溢れるのが見えた。

「んぉぉおお~~♪ ……はぁぁぁぁ、はぁぁぁあっ、はぁぁあ♪」

お湯の勢いにも負けない精液。

硫黄の匂いを押し流すような雄臭。

横の私どころか風呂場一面に響きそうな喘ぎ声。


ああいけない。そんな、そんな、そんな射精……したら。


「あっ、あっ……気持ちよさ……そ……ああ! こ、これは、ああっ、き、き、気持ちいいいぃいっっ………♪」

羨ましいと思ったその瞬間、わたしの肉棒から溢れるようにマグマが飛び出した。

その快感は予想外で、それでいて期待以上だった。


熱くなった全身の身体が、溶けて流れていくような快感。

勢いを無くした精液がドロドロと彼の筋肉の合間を這ってゆく。まさにそれはマグマのようだ。

「ぬあぁぁ~♪ ……あぁぁ……はぁぁあ!」

私も彼と同様かそれ以上の大声を上げながら、体をくねらせてずっとずっと射精していた。

野球部の顧問だとかいう彼と、責任ある仕事を任された私。

二人の男が、あられもない姿を晒しながら、変態的な喘ぎ声のセッションをかましている。

流れている源泉を共有しているように、同じような喘ぎ声と、同じような筋肉、そして同じようないやらしさを晒し、同じように射精しあった。



こんなことをしたら、一発で社会的な死だ。免れない。

もう誰も私を尊敬などしてくれない。父としてこれから先の人生ずっと変態親父として生きていくしかない。

「はぁぁ……スッゲ俺……これバレたら終わりっす、もう顧問できねえ……ああ、でもきもちぃぃい♪」

「わ、私もだああ……ああ、子どもたちにどんな顔をすれば……あぁぁ……♪」


そう思って、今までずっとできなかったことだ……。

それが、今叶っている。このホテルで、この風呂で、叶えられている。


大丈夫、これは夢。私の妄想なのだ。

何も問題は起きていない……。

私たちは射精しながら、取り返しのつかない快感に酔い続けた。



「俺……田力巌って言います、今度草野球見に来て下さいよ」

射精した後の彼はまるで憑き物が落ちたかのようだった。

さっきまで異常な行動をしていたのにも関わらず何事も無かったかのように立ち上がると、私に握手を求めてきた。

「ええ是非、応援しにいきます」


私もまた射精したばかりの肉棒をヒクヒクさせながらそれに応じた。


この爽やかな挨拶が示している。

何も起きなかったのだ。

私はただ横たわって、気持ちよく風呂に入っていただけ。なにも起きてはないのだ。



―――



「そう、妄想だと思っていた。これほどに都合が良すぎるのだから………。ああ、しかし今聞いているキミには、それこそ、何を都合のいい『妄想話』をしているのだと思われてしまうだろうね……。しかし彼らは本当に『卑猥なことをしている』という認識がないようだったんだ、あの態度を見ると……本当に、本当に、何も問題がなかったように思えてしまうんだ……ああ……」



そんなこの人を苛むつもりも、見下すつもりもなかった。


正確には、それどころではなかった。



「大山さんさっき、思い浮かべた言葉と同じことをしゃべったって言ってましたよね、もしかしてこれって……」

源泉を共有するように興奮し、射精していたと言った。


共有。

いや、正確にはこれは……汚染や感染といったほうが近い。

もし共有されているのだとしたら、もっと多種多様なフェチズムや性行為が行われているべきだ。

だが、これまで見てきたものは、どれも……大山さんのフェチズムの延長線上にあるように思える。


もし、そうだとしたら―――




すべてを語り終えた大山さんは、自らの行為がすべて現実だったことを知り、その興奮と罪悪感で今もなおガチガチにあさましく勃起していた。



湯~とぴあ7話f

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