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こと生殖において、男女の負担の差は顕著である。


女性は十月十日、その腹の中で生命を守り、時には命の危機にさえ晒される。

その間男性は文字通り種を蒔くように他の個体との生殖が可能である。


『母』という存在が子を産むに際して必ず生ずる存在であることに比べ、『父』という存在は形の定まらない立場であると言える。




「……ここ、は……」

目覚めてすぐ、私は風通しの良い場所にいるということがわかった。

それ以外のことはなにもわからなかった。自分がどこにいたか、どこからきたのか、どこへゆくのか。何もかもが不明瞭な中で、ただ抜けるような青空だけが広がっている。


抜けるような青空。

いや、本当に青空の中にいるかのような近さに空を感じる。空中にいるわけではない。尻や足の裏が地面の暖かさを直に感じている。

尻の谷間にはぬかるんだ土を、足の指の隙間には小さな木がくすぐるように挟まっている。


「ま、待て――木……? なっ……ど、どういうことだ!?」

そこで私は自分が素っ裸であることに気がついた。

それだけではない。木々を見下ろすほどの巨体だ。

山のように大きな肉体。巨人。古い特撮作品のような、そんな巨人になって私は山の頂にいた。


これは夢か? そもそも……。


記憶が混濁している。どこかに旅行に行っていたような気がする。その先で?いや、どういうことだ、わからない。


「ここは……積上山?」

周囲を見回しているとと、その景色に見覚えがあることに気がついた。

生まれ故郷の積上山。盆や正月や祭りの時期など、限られた時しか帰省しない田舎の山。父が一人住むその場所に私は座っていた。


「ど、どうすればいいんだ、こんな、こんなところで私は――ああ、あっちには村がある……。……向こうには確か社が……そしてちょうどここらへんには……そう、確か……製薬会社のようなものあったような……。ああ、人が住んでいるはずなのに……」


私は顔を赤らめて、筋骨隆々の身体を少しでも小さくしようと身を屈めた。

これではどこからでも、少し見上げれば太陽を見るように私の裸が見れてしまう。

どんな子供でも、ご夫人でも、男でも、誰からもだ。


「う、あぁあ……はぁぁ…………っ」

体の内側から言いようのない熱が込み上げていた。

腰が揺れ、尻が力み、背骨の中から火が噴き上げるような熱を感じた。

それは紛れもない興奮だった。

避けようがない興奮が、後から後から湧き出てくる。


「何が起きているんだ、どうして私はこんなところに――あっ、ああ、なんだ、この感覚は、この記憶は、何故だ、どうしてこんなものが……」


一度性の興奮を味わった瞬間、芋の蔓を引いたようにズルズルと欲望が湧き上がってきた。

これはただの興奮ではない。頭の中で、覚えのない性行為が何度も何度も繰り返される。


特大の巨根から精液を吐き出す警察官。

頭を剃った巨漢の坊主が狂いながら射精する姿。

胸板から精液を吹き出す快感。

日に焼けたむくつけき男たち。


いくつもの快感と射精が頭の奥から『蘇って』くる。


「だ、誰なんだ、何なんだ、いったいここは――ここは……雄性矯正センターとは……いったい――」


積上山山中、雄性矯正センター。


集められた男たち。永遠に続く快感と射精。


地を揺らす振動。

センターが崩れ、山が割れ、光の柱がそこから立ち上る。

地底湖と空が繋がり、光がいよいよ強くなる。

まるで白い龍だ。屹立する逞しい白い龍。


そこに、今私はいる。

その跡地に。巨人となった私はいる。



雄性矯正センター。その目的は神の転生だ。

雄性を集め、積上山の地底湖に眠る神気を素材とし霊力によりそれを繋げ、この世界から失われた「雄性」を再び構築する。

準備は完璧だった。


神はこうして、顕現した。



「なんだ、どういうことだ、い、意味がわからない。私はただの、ど、どこにでもいる……少しカラダを鍛えるのが趣味の……中年男性……」



呆然としていた私は、つい腰を上げて立ち上がってしまった。

股にぶら下がった逞しい竿が上下にブラブラと揺れる。風を感じる……どころの話ではない。私のイチモツ自体が風を生んでいる。

「あぁ……っはぁぁ……っ」

それはいいようのない快感だった。

空と生殖を行おうとするかのように、私の愚息に血流が集まってくる。

すぐに肉棒はガチガチに勃起し、皮がめくれ、亀頭が露出し、鈴口からは何リットルにもなろうかという先走り汁が溢れた。


孕ませたい。


頭の中で、原始的な欲望が声を上げた。


目の前には女体もなにもありはしないのに、孕ませるという言葉が、純粋な意思が、私の存在する意義が繰り返し繰り返し響く。


「は、孕ませ――たい……」


ついに私は、自らの口で言葉を発してしまった。

その瞬間、ただのオヤジの裸体でしかなかった私の体から、白い光のようなものが弾けた。

汗のように、汁のように、ねばついた光――不可思議な白光が私を包み、私の形を作る。


「おぉぉお………おぉぉおおおおおぉぉ!」

孕ませる。孕ませなければ。この世界を守らなければ。


憧れてきたヒーローのような意思と、雄そのものの願望が融合したような、奇妙な高揚感と使命感が私を突き動かす。

羞恥心でどうにかなりそうだった感覚は消え去り、腰の一突き一突きに全神経が集中していく。


肉棒はもはや肉の柱、巨峰と化した。ヤマタノオロチ斯くやという姿である。


私はそれで、空を貫いた。

ずぶりと、なにもないはずの空間に、しかし確かに私の肉柱は『入った』。


「あぁぁ……す、すごいぞ……あぁぁ……!」


私は相手を愛でるように、ゆっくりと腰を回した。たまらない快感と、迸るような愛が竿から私の中へ入ってくる。そして、私の中で発酵し、再び肉棒の先端から世界へと戻っていく。


世界と私。

いや、ここにいるのは――世界と神だ。


「んぅぅぅ――おぉぉお、頑張るぞ……頑張るぞお、ああ、待っていろ、待っていなさいぃぃ……!」



巨峰から間を保たず、大量の白濁液が噴出した。

きらきらと光を帯びた精液が山に流れる。森を飲んで行く。

辛うじて残った世界の内側に精液が溜まっていく。

センターで大量に生成していた精液、地底湖に貯蔵されていた大山家代々の肉体と精液を元にした神気が混ざり合い、世界の内側を孕ませる。



「ハァ……ハァッッ!!」

私は繰り返し繰り返し、腰を突き出し続けた。

快感で汗と光が飛び散り、世界と私の境界が希薄になっていく。


雄としての役目。雄としての宿命。

命と尊厳のすべてをかなぐり捨て、それらを丸ごと注ぎこむように私は腰を振った。

快感に脳が焼ける。射精一度ごとに、人間としての何かが消え、ただ雄として純化されていくのを感じる。恐怖はない。喜びだ。私の中にある何十何百という男たちも、それを望んでいる。


もっと雄になりたい。

素晴らしい男になりたい。

最高のお☓☓さんになりたい。


すべての声がただひたすらにそれを望む。


「ああ、勿論だ。ああ、私に、任せない。あああ………はぁっぁあ…… またイクゥゥウ、イクゥゥウ………!」

私は誰にともなくつぶやきまた精液を世界に注いだ。

そして、何もかもを愛した。抱きしめた。


理想的な男が、愛するモノにするように。






――この世界の神は☓☓であることを放棄した。

神がその役割を放棄するということ。それは世界の存在を否定することであった。

いまだ神の掌にあった世界は、それによって瓦解してしまった。

その瞬間、神の子であった大山英将は存在を消失させた。

独り立ちし、神の庇護から離れていた大山英雄は母の要素のみで世界にしがみつき、思念のみの存在となった。


大山英國は孫のため神の身勝手によって消える世界をよしとしなかった。

積上山を中心とし、外郭である世界は少しずつ消失していた。

あらゆる手を使い、各所に協力を仰ぎ、完成したのが「雄性転生センター」であった。

科学とオカルトの融合。漂う英雄の思念をAIとしてセンターに封じ込め世界が消えるその寸前まで「雄性」のピースを集め続ける。

その結果が結実した。


無を隔て、今まであった世界を外殻とし、神たる男の精で満たした卵が生まれた。


滅亡を免れた世界は生まれ変わる。

「大山英勝」という人間としての意思、願望を取り込み生まれ変わる。


元より完璧なものしか存在しない世界に男と女、父と母の存在が生まれたのは「庇護するものが欲しい」というエゴによって神が世界を歪めたからに他ならない。

大山英勝は万象を司る神でありながら、それを無意識の上世界を運営させていた。

数多の世界の可能性のすべてに「大山英勝」は存在し、「大山英勝」が頭の中で世界を作り上げる度世界は生まれた。

「大山英勝」の作り上げたい世界。

無意識で生み出していたものとは違う、「大山英勝」自身がデザインした世界が生まれようとしている。


神の転生と共に世界が新生する。


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