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大山さんの客室は、いくらノックをしても返事はなかった。

静かで広い廊下に、ただノックの音だけがドンドンと響く。

その最中にも、背中側を何人も男臭い男性が通り過ぎた。風呂上がり、プール上がり、それぞれ理由張るだろうが、みんなギリギリの範囲まで浴衣を着崩して、胸板や二の腕を見せつけるかのようにして歩いていた。

手を伸ばせば届く距離をわざと歩いてくる。おそらく少し触ってしまえば、こんな廊下のど真ん中であっても彼らは喜んで筋肉を見せつけ、興奮し、射精に至るに違いない。そんなろくでもない妄想のようなことが、確信であり事実だった。

「大山さん! ――やっぱりいないか……まずい。まずいな」

自分の中の欲望の声が、段々と大きくなっているのを感じる。

危険だ。気を抜けば今にも色欲に負けてしまいそうだ。

サウナの一件も含め、いよいよこのホテル、この建物、この温泉について考えなければいけない。

もはや躊躇っている段階ではない。大山さんにこれまで自分が見てきたこと、自分が体験した珍事、大山さんの異常行動を含めて伝えなければいけない。自分が同性愛者であることも伝える。勿論恥ずかしいことだ、気まずくなってしまうかもしれない。だけど、このホテルの中で起きていることを考えれば、自分の恥で足踏みはしていられない。

「………なのに、どこに行ってしまったんだ」

少し大きめに扉を叩いても反応はなかった。眠っているわけではなさそうだ。

どうしたものかと考えながら、大山さんの場所を考えるために館内図を眺めた。

誘ってくることがなく、かつ旅行中に大山さんのような人間が向かう場所。ひとつ、わかりやすい場所があった。

「地下二階……フィットネス&トレーニングジム……」

こういった巨大なホテルに必ずと行ってあるフィットネスルーム。

昔はその存在の意図がわからなかったが、今ではわかる。休暇中であっても、自らの体を鍛えたい人というのはいるのだ。

地下二階 湯~とぴあフィットネス&トレーニングジム。

そこは、いわゆるビジネスホテルに備えられたフィットネスルームとは規模が違った。

大きく2フロアに別れていて、トレーニング設備や機械がズラリと並んだエリアと、ダンスやヨガなどの教室が行えるような個室があった。まるきり普通のジムと同じ、いやそれ以上の大きさだ。

トレーニングフロアはガラス張りになっていたが、自動ドアにはスモーク加工がされているのか、中を確かめることができなかった。

「すごいな、全部無料だなんて……」

その設備の豪華さに、目的も忘れて感嘆しながら扉の前に立った。ドアが開く。それと同時に、霧のような蒸気が溢れ出た。

「うっ……! こ、これは……」

ミストサウナ。などではない。このホテルに来てから何度も味わった。男の汗と、精気に満ちた濃密な臭気だ。

まさか、とは思ったがそのまさかだった。

ガラスはスモーク加工されていたのではなく、男の霧で曇っていたのだ。

フロアには洒落た音楽などがかかっておらず、器具が可動する金属音と静かな男のうめき声が響き渡っている。まるで洋物のAVのようだ。男臭い、低くて、よく響く声が、そこかしこから聞こえてくる。

遠くまで見ることができないが、この一帯に大量の雄が自らの身体を虐め抜いているのがわかった。

声を頼りに人を探すと、すぐにサイクリングマシーンのゾーンにたどり着いた。

一般的なサイズのサイクリングマシンに並外れた巨漢が乗っているのがわかる、まるでサーカスの猛獣が、子供向けの一輪車に跨っているようだ。

あれほどの大きさ……大山さんだろうか。

近づいて声をかけようとすると、先にサイクリングマシンの男性側から呼び止められた。


「やぁ、君はいつぞやの」

その男性は、綺麗に磨き上げられた白い肌をしていた。彫りの深い顔。透き通るような青い瞳。整った髭と頭髪。それは、先日一緒に入浴したデュオさんという外国の方だった。

「ああ、デュオさん! あの、今人を探していて……ああ、いやデュオさんでも構わないのかな。このホテルのおかしなところについてなんですが! というか、このジムも、……空調とか色々……あの……え?」

そこで気付いてしまった。

デュオさんの白い肌。体の中の血液が透けるかのように赤熱した、彫刻のような肉体。白い胸板。肩。腹筋。そして大殿筋。

「ン? ああ、このジムのことかい。いやあ確かにおかしいね。これだけの設備を維持するだけでもなかなか大変だろうに、宿泊費だけでどうやって維持をしているのだろうね。いや、しかし素晴らしい。ありがたい。この国に来てから、これほどすばらしいジムは、出会ったことがない、ああ、初めて……初めてだよ、私も……ああっ」

薄着だとは思った。だが、そんなものじゃなかった。

上半身はまだいい。ピッチリとしたタンクトップだ。筋肉がクッキリ、腋が丸見え、だが常識の範囲内だ。足も……見慣れない指の形に作られたジム用のシューズだが、これもボディビルダーやアスリートならば選択するだろうことはわかった。

「あの……その、格好は……」

だが、下半身は駄目だ。これは駄目だ。いくら美しい肉体であろうと、どんな国であろうとも、変態としかいいようのない姿だ。下着姿、ですらない。あれは、ジョックストラップ。いわゆるケツワレと呼ばれるものだ。

薄い布地に、尻を露出したスポーツ用の動きやすさ重視のサポーター。勿論、これは人に見せるようなものじゃない。大きく硬そうな尻を殆どが露出してしまっている。そんな姿でサイクリングマシンにまたがり、あろうことか勃起までしていた。


「すごく、なんというか、息をするたびに、体の内側から、ふつふつと、ふつふつと力が……わいて、わいて、きて……おぉぉ!」

漕いでいる姿が妙に上下することに違和感を感じ、視線をずらしてみると、サドルの部分がケツの奥に沈んているのが見えた。

パッと見ただけでは気づかなかったが、横に並んでいるマシンもサドル部分も、尻をぺたりと押し付ける形状になっていない。その逆だ。地面に対して垂直に尖り、ボコボコと膨らみがついていて、卑猥な曲線を描いている。

すべてのサイクリングマシンが、エネマグラのような形状のサドルになっていた。

「ど、どうだい、かなり仕上がっているだろう、このホテルに来てから、筋肉の張り違うんだ、ものすごく、調子が、良いんだ、ああ、みなぎるぞ。チカラが、みなぎってくる……ッ」

デュオさんは漕いだまま力こぶを作りこちらへの見せつけた。筋肉にグッと力が入ると同時に竿の角度があがり、むわりとしたデュオさんの腋臭がこちらに届いた。

それと同時に、ジョックストラップの先端にじわりと汁が滲んだ。薄い生地を貫通して、亀頭の赤い肉色が見えてくる。


「デュオさん、だ、大丈夫ですか、何故こんなものに、おかしいですよ!」

「おかしい、おかしい……か。いや確かに、ジョックストラップはこういう時に履くものではないんだが、このマシンを漕ぐ上でこれ以上に便利なものも無くって、これ、コレが、一番イイと、そうとしか思えない。あれ、おかしいとは、いったいなにのことを言っているんだい?」

言葉を交わすことができるが、会話がうまく繋がらない。

やはりデュオさんはコレまで通り、この行為が異常なこと思えていない。自分が露出狂のようなことをしているという認知がない。

「い、いや確かに服装も、ですけど。その……勃起して、ケツに……刺さった状態で……」

「ああ、そこか、そうだね………。こう……。ああ、思い出した。君は知らないかな。実はこうして体を興奮状態にしてトレーニングすることで、テストステロンが活性されて、結果がより良いものになるという研究結果があるんだ、だからこうして、ね」

「ここ、公共の場です……よ……!」

「それはそうだが、このホテル、女性客はいないようでね、特に問題ないとは思わないかい? いや、むしろ、私がお手本を見せることで、より皆の肉体を高みに導けると、そうは思わないかな……?」

「問題ないって、そんな……」

「せっかくの環境を利用しない手はないよ、だから君も……体を興奮状態にしてトレーニングをしてみないか? テストステロンが活性されて、とても、すばらしっ、あ、あ、素晴らしッ、キミも、私のように、こうして、こうして、こうして、あっ、あっ」

デュオさんの表情が変わり、辺りにはより強い青臭さが漂い始めた。

「ハァー……あっ、あっ、ポイントに、あぁ、グッドなポイントに、当たるッ――あ、いや、到達、したッ……! これは、あぁあテストステロンが、テストステロンが、あぁあ頭にドバドバと、湧き上がってくる、はぁ……!!」


デュオさんに何が起きたのか。同性愛者である以上、知識がある以上、わかってしまった。

あの体内に埋め込まれたエネマグラが、彼の体を支配を始めた。

快楽の頂点に至ってしまった。そんな彼は、今まともな思考ができていない。

「ハァハァ、ああ、こんなサイクリングは、初めてだ……! あぁ、初めて、だっ。有酸素運動で、この私が、こんなに、カロリーを消費してしまうなんて、ああ、すごい、体が、全身運動になっているっ、はぁはぁ、ああ、いつまでも、続けていたい、いつまでも……あぁぁ……!」

目がにごり、口が開く。

快感に脳が茹だっていくのが見て取れる。

「ど、どうだい、この、この運動。ああ、キミも一緒に、チャレンジしてみないか。この私のように、一緒に、はぁはぁ、あぁぁあイイ……体中のホルモンが、絞り出されるようだ……あぁぁ……! さあ、一緒に、キミも、キミたちも、一緒に……あぁああ……!」

彼の世界が歪んでいく。尻を刺激するエネマグラが、彼の常識や理性という扉でをノックし、封じ込められた欲望が開放されていく。

「み、見てくれ……、もっと見てくれ……! あぁ、ハァ、ハァ……さ、さあ、キミたちも、私のような、立派な男に、一緒に、ああ……! はぁぁ……!!」

目がこちらを見ながら、同時に遠くを見ているようだ。キミたち。そう聞こえた。デュオさんはいま、何を見ているんだ。

掲げた腕。笑う口元。そしてにやけた瞳。

――きっと彼の心は今、ジムにない。

おそらくはツーリングの最中。レースの最中なのだ。

たった一人の観客の後ろに、何十何百という視線を幻視している。

「あぁぁあ………っ、駆け巡る、私の中を……! あぁぁ……私自身が……っ、あぁあ世界中を、ハァハァ……私がこの脚で……ああぁぁっ……!」

ジムの中で、エネマグラを尻に埋めながらただ同じ場所で脚を動かしている。

そんな現実は今彼の頭の中にはなく、世界中をさっそうと走り抜ける妄想こそが彼の『今』だった。

「さあ、み、みんなも、私のように、あぁ……チャレンジ、してみよ、うッ、とっても、とっても気持ち、イィィイ……!!」

ケツワレ姿でペダルを漕ぎ、筋肉という筋肉を見せつけながら、尻の快感だけで喘いでいる。そんな姿で世界中を走り回る。

世界最大の変態と呼ばれてネットに拡散されるような妄想だ。だが、彼に背徳感や恐怖はない。今のデュオさんにとって、この姿は美しい『お手本』なのだ。


「ハァハァ、ハァハァ……ハァハァッ」

やがて、そんな狂った発言も止んだ。

冷静になったのではない。

もはや完全に夢中になっているのだ。

彼の目は今、汗の霧を見回しながらも時折シャッターチャンスを作るように笑っている。

ゴールが近い。あらゆる意味で、ゴールが近づいている。

「ハァ! ハァ! ハァッ!!!」

体の揺れが激しくなる。

「ハァ! あ! あぁあああ! あああ~!! あーーー!!」

痙攣が激しくなる。

「―――――ッ!!!」

ついに脚が止まる。


「あ!!!! ゴール!!! ゴールが見え、あああ入る、入る、ゴールにッ、私が、一着で、あぁぁあ、みんな、見てくれ、私のように――私のようにな――あっ、ああああッ!!!! ゴォオオォルウゥゥウウ!!!!」

ケツワレ姿の変態男は、ジムの中で一人……空想の歓声に包まれ、ついにゴールテープを切った。

それと同時に凄まじい量の精液が、触れてもいない肉棒から飛び出した。アスリートの精液は驚くほどの勢いでケツワレの生地を貫き、ぼたぼたとサイクリングマシンや、床、果てはこちらの靴にまで飛び散った。

「―――あぁぁ……あぁぁぁはぁ………ん、ハァ……ハァ……ウィングラッァァンだぁあ………あぁぁ……」

サイクリングマシンの音は静かになりクールダウンモードに入った。

デュオさんは赤熱した白い体をグラグラと揺らしながら、まるでマシン操られるかのように再びペダルを漕いでいる。汁まみれの肉棒の形をクッキリ浮かべるジョックストラップをぶらぶら揺らしながら、完全に快楽に包まれきった顔をしている。

幸せそうだ。ぶつぶつとなにか、声にならない声で喋っている。彼は今、トップを独創したレースのインタビューでも受けているのだろう。


……こうなっては、もう手遅れだ。

しばらくはまともに会話はできそうにない。

ここに至り、確信したことがあった。

このホテルの異常事態は、このジムの状態からしてホテルぐるみで仕組まれたことだ。サドルは取替できたとしても、全く空調が動いていないのは明らかに変だ。

利用客がそれを指摘することもなく、黙々とトレーニングをしてるのもやはり異常である。

先日のサウナの客の様子からして、利用客はほぼすべて何らかの催眠・催淫状態に置かれているのだろう。

研究結果、とデュオさんは話していた。あの頃から、デュオさんは正常な状態ではなかった。誰かから都合の良い話を吹き込まれたか、違和感を持てないように仕向けられたのだろう。

幸せそうにしているデュオさんの巨体を無理やり引っ張って連れ出すこともできず、諦めて大山さんの捜索を続けることにした。

彼の場合はすでに『出来上がった』状態だったが、その手前なら正気に戻せるかもしれない。

そう思って、汗の霧の中をまた……文字通り五里霧中で歩き始めた。

「ふぅん! んんんん!」

すぐに、力強く踏ん張るような声が近くから聞こえた。

聞いたことのある唸り声だ。

おそらくこの先は重量上げのコーナーだ。ガシャン、ガシャンと、思い金属がぶつかる音がする。

激しい唸り声に混じって、やはり生臭い男の臭いがした。だが、立ち止まるわけにはいかない。はやく、はやく。また、手遅れになってしまう。

「ヌゥぅう……フゥッ!!!」

そこにいたのはやはり予想通り重量挙げをしている――このホテルで出会ったあのひとだった。

◆裸差分あり


湯~とぴあ6話その1f
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