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目が覚めると、ホテルの高級ベッドの上だった。

柔らかく暖かなシーツの上で、すっかり寝落ちてしまっていたようだ。

ベッドの上に置いていたノートPCからは当然光が消えていて、書きかけのレポートがどこまで進んでいたかも思い出せない。手元のスマホを見ると、時刻は深夜の二時を回っていた。

普段はこんなふうに本格的に寝落ちしたりしないのだが、やはり日常とは違う環境だと体調や眠気にも影響があるのだろうか。

それとも……。

このホテルに着いてから、あれこれと妙な事態に巻き込まれて疲れていたのだろうか。

再び横になったが、意識してしまうと記憶が濁流のように押し寄せてきた。

記憶はなにもかも逞しい中年男性のものだ。

滅多にお目にかかれないような筋骨隆々でヒロイックな……社会的にも意志もガッシリしっかりしたような人たちが……自分の前にあんなにも卑猥で滑稽な姿を次々に晒していた。

肉棒をギンギンにいきり勃たせて。筋肉を震わせて。髭の生えた顔を歪めていた。

――まるきり眠気は消え失せていた。

こうしていても仕方がないので、再びPCを立ち上げてレポートを書き始めた。

それにしてもあの姿、あの肉体、あの匂い。目に鼻に焼き付いている。嫌だったのではない。困惑はあったが、不快ではなかった。可能であれば、手元に残しておきたかった。

タイピングしながらも、頭では日中の出来事ばかりを反芻してしまっていた。

レポートを書く手は段々と遅くなり、ついに止まった。

火が着いた欲望の赴くままに、ブラウザを立ち上げ検索窓に文字を打ち込む。

「jerk4」

海外のサイトで、国内外問わず様々な人が利用する「アダルト生配信サイト」だ。

今日も世界中から大量の人々が、自分の……もしくは相手の欲望を吐き出すために痴態をさらけ出している。

AVのような予め作られた映像とは違う。生の素人が同じ時間帯で体を晒す、そのリアル。お気に入りの配信者に偶然立ち会えたというような喜び。覗き見しているような背徳感。いろいろなものが癖になって、時折開いてしまうサイトだ。

あまり意識はしていなかったが、自分はそもそも露出願望のある人が好きなのかもしれない。

今日の経験に不快感より興奮が勝っているのも、その証拠だ。

そんな事を考えながらスクロールしていると、今日は珍しく日本で相当な閲覧数を稼いでいる配信者がいた。

サムネイルからもわかる見事な肉体だった、これくらいすごい人は海外の配信者でもなかなかお目にかかれない。

「『今宵、皆様には――素晴らしい新世界をお見せいたします』

Bluebigpapa……初めて見る人だな」

肌色ばかりのサムネイルの奥にちらりと見える背景から察するに、どうも家の中の配信ではない。かといって屋外でもない。どこか、広い建物の中にいる。

ほとんど裸のようだが、下半身にはうっすら青色の水着が見えた。顔も写っていない。全部を見せきってしまっていない、ギリギリで我慢するタイプの配信者だ。

もっと見たい。

そう思わされてしまう。

そんな欲望のままにサムネイルをクリックした。


「ん……」

ページを開き、まず違和感があった。

床に既視感があった、絨毯の模様、空間の雰囲気……。

見覚えがある。どころの話ではない。今日歩いた覚えがある。

だがそれ以上に、画面を埋め尽くすはちきれんばかりの筋肉こそ、見覚えの塊だった。

『はぁ……ハァッ……ン、き、キミたちの要求通り、部屋から出た……ぞ……ハァ、ハァッ』

あの伸び切った特徴的なビキニ。剃っているはずなのに顔を埋め尽くしている青髭。そして今の低く上ずった声。

間違いない。

コレは、この変質者は……大山さんだ。

状況を把握していくうち、どんどんと動悸が早くなっていくのがわかった。

配信のコメント欄はひどい盛り上がりだ。 これどこのホテルですか?とか、すげえ変態だなとか、ドスケベな体ですね^^だとか、とにかく興奮を煽るものが様々に投げ込まれている。

海外からも観覧されてるようで、様々な言語のコメントが飛び交っておりチップが投下されたアラート音が頻繁に鳴り響いている。その全てが、おそらく大山さんを狂わしている。そうに違いなかった。


『ああぁ……か、勘弁してくれぇ……、顔は、顔は駄目だ、ホテルも、い、言えない……ああ、コレ以上は、コレ以上は駄目だ、チンポだけ、チンポ扱くのだけで我慢してくれぇ……』

大山さんはまるでコメントに命令されているかのように懇願して……しかし喜悦の入り混じった声で喘いでいた。

大きく股を開き、仰向けになったその姿は……とてもではないが咄嗟に隠れられるようなものではないし、言い訳ができるような姿ではない。

この時間とはいえ、人が来てしまったらどうするんだろう。今まさに自分が扉を開ければ、いろいろなものが崩壊するんだ。

自分のことのように不安になる感情と、この配信を見続けたいという気持ちで頭がぐちゃぐちゃになった。

このホテルには、男性を性的に奔放にさせてしまうような、何かがあるのだろうか。みんななにかに取り憑かれたように、卑猥な姿を晒して、興奮して、そして射精している。

理由は検討もつかない、食事か水なのか、霊的な現象なのか、しかし、同じものを食べているはずの自分には特に効果がない。わからない。ただ卑猥な中年男が生配信でよがっているという現実だけが続いている。

『んぉぉぉ……ズッチュズッチュ音が、音が出てしまう、音が、音がッ……!』

大山さんは恥ずかしがりながらも、カメラに向かって近づいてきた。

逞しい腕と、それに負けない立派な肉棒が大写しになる。音がすさまじい。ローションと肉棒と腕が擦れ合う酷い水音が激しくPCから鳴り響く。

耳をすませば扉の向こうからも聞こえてきてしまうのではないか、そう思ってしまうような激しさだ。


『ん――オッぉおおお先っぽが、ああぁぁ……! あぁ、声が、抑え……られないぃぃい……!!』

逆手で亀頭を刺激に大山さんは仰け反って気持ちよさそうに吠えた。

ああ、いけない。

鼻まで写ってしまっている。

今にも顔が見えそうだ。

見せてはイケないものが見える、そんな瞬間を期待して、コメントもいよいよ激しい熱気に包まれている。

さあ出せ 見せろ どんな顔してるんだ 本当は全部見せたいんじゃないの?

『ああ、ち、違う……こ、コレは要求されるから、仕方なく……仕方なくなんだ。あ、ああ、か、顔は、顔は駄目だ、わ、私の正体がバレてしまったら……ハァ……ハァァァ……ッ』

そんな事を言いながらも、ついに片目が画面に入った。とろんと蕩けた目だ。鼻の下は伸び、眉は下がり、卑猥な表情の全体像が容易に想像できてしまう。

閲覧数はどんどん増えていく、それに伴い大山さんの手の動きも露骨になっていく。

顔を見せろ 正体を見せろ 変態おじさんのお顔拝顔 殆ど見えててワロタ 顔顔全身ほらほら

『あ、あ、あ、ち、力が入らないィィ……あぁぁ……はぁぁ……こ、腰が、腰が抜けるぅ……気持ちよすぎて、腰が抜けるゥゥ……ッ!』

大山さんが大袈裟にそう声を上げると、ガクリと仰向けの体が崩れるのが見えた。

ああ、いけない。

PCの前で慌てて立ち上がったが、そんなことでは大山さんの現実は何も変わらなかった。

体が崩れ、膝が折れ、筋肉の塊のような肉体がホテルの床に近づいた。

そうして……ぎりぎり見切れいていた顔が、画面内に全て収まった。

顔どころではない。短く切りそろえられた髪型もなにもかも全て。

見えた見えた 保存した 顔やばッ 全世界に見てるよおじさん 凄えガタイ


『は、ハァぁ………ッ! あぁぁ……し、しまったぁぁ……あああ、あぁぁわ、私としたことがぁ、こ、こんな奸計にィィ、オッ、オォォオッッ!!』

おそらくコメントをじっと見つめた大山さんは、ガッチリとカメラ目線のまま体をブルブルと痙攣した。

あ、出る。出すぞ。

男ならばわかる。その予兆。


『ン――ハァぁ……あぁぁ……ッ!! 声が、で、出てしまうゥゥ――ッ!! チンポに負けてしまうぅう………ッッ!!』

大山さんは大多数の閲覧者達の予想通り、勢いよく射精してしまった。

ホテルの廊下で、大勢の人に自分を晒しながら、無様な射精顔まで見せつけて。

なにより射精時の雄叫びは凄まじく、今度はハッキリと扉越しにこちらまで聞こえた。

危険だ。

このままでは本当に、このフロア中の人に気が付かれてしまう。

そうなったら……大山さんはどうなる。

実際の人々の衆目に晒されたらば、この人はいったいどんなふうに……射精するだろうか。

その時、実際のところどんな事を考えたが己のことながらわからない。

昼間の親切なあの大山さんの身を案じてか、プールで変態行為に及んだ大山さんを再現しようとしてか、PCの向こう側のBluebigpapaさんをナマで味わいたくなったのか。

とにかく、ドアを開けたその音だけは、確実に現実だった。


『「ああぁ、だ、誰かがッ、来ッ、見られ――し、しまった、この私が……ああぁぁハァァァッッ!!」』

PCのスピーカーと廊下から二重の声を上げ、大山さんは二度目の射精をした。

汗と精液と、大山さんの足の臭いが混じった凄まじい雄臭がホテルの廊下から鼻腔を通り抜けた。

「大山さん」

「は、うぉっな、き、きみはっ! あ、あぁぁぁぁあ、こ、コレは……こ、コレは――! あ、な、名前を、私の名前を今……!!」

「大丈夫です、配信はさっき切りましたから」

「ハァ……ハァ……配信。あ、配信をまさか……見て……ッ。そ、その。ち、違うんだ。これは……その。なにか、なんだかこう胸の内がカッカとしてッ、こ、ここまでするつもりは。出来心というか……。いやだからといって、自己正当化をするわけでは……ハァ……ハァ」


大山さんは言い訳を繰りながらも、もはや取り憑かれたように股間を弄り続けていた。先走りどころではない。白い雄汁が止めどなく溢れている。ドロドロですごい臭いと濃さだ。

大勢に見せつけていた射精を、今度はただ一人に向かって見せつけている。

その快感で大山さんは「あぁ……」と柔らかくいやらしく喘いだ。

「あの。とにかく……。だ、大丈夫です、その、誰かに言うつもりはないですから」

「あぁぁ……………。………そ、そうかありがとう、ありがとう? はは、変だな……も、申し訳ない………。あぁ……し、しまった、私はこんなときまで……なにを……は、ははっ……」

大山さんは三度目の射精で、ようやく理性を取り戻したようだった。

顔を真っ赤にしながら背中を丸め、大きな体を必死に小さくして部屋へと歩いていった。

何が起きているかはわからない。

だが、確実に「何か」の影響がこのホテルにはある。

このホテルについて調べなければ。

何かしら手を打たないと危険だ。大山さんだけではない。このホテルに泊まった大勢の屈強なお父さん方が、取り返しのつかない姿を晒すことになってしまう。


大山父露出配信f
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