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「大倉教授、またですよ~。これ、どう思います?」


 頬杖をつき、恨めしそうに呻いたのは巻田典雄(まきたのりお)。大事な研究の最中であるというのに、イケメンとも言って差し支えのないその顔は、完全にだらけ切っている。声をかけられた大倉平八郎(おおくらへいはちろう)の視線の先では、ケージ内の実験用マウス二匹が、雄同士でカタカタと音を立てながら交尾をしている光景が広がっている。

 大倉はもう何度目だろうかと言いたくなるほどの、いつもと同じ内容をタブレットに書き留めると、ペンの頭でこめかみをコリコリと掻いた。



***


【ボディースワップ研究室】


 国内でもトップクラスの大学である、栄西(えいさい)大学。その研究棟にある一室で、大倉たちが行っているのは、マウスを使った研究である。AIなどの技術が飛躍的に発展し続けている昨今。そんななか、二体の生物の精神が入れ替わるなどというオカルトじみた研究に精を出す彼らは、周囲の人間からは冷ややかな目で見られることも多い。それでも彼らが研究をやめることはなかった。


「巻田くん、はぁ……。同じことを何度も言わせんでくれ」


 自身もマウスの奇行を眺めるのに飽きた大倉は、背もたれに体を預けるようにして、緊張感の欠片も見せない巻田を窘めた。とはいえ正直なところ、マウスのみでの研究は頭打ちの状態だった。


 特殊な刺激を二匹のマウスに与え、脳波を測定しつつ観察する。しばらくしてビクビクと痙攣したマウスの脳波は、まるで入れ替わったかのように、逆のパターンを示すようになった。この実験から、二匹のマウスは入れ替わったのではないか──、と推測された。しかしそれは、すぐに暗礁に乗り上げることとなった。


 言わずもがな、いま彼らが目にしている、同性のマウス同士での交尾がその原因である。奇妙なことに、交尾を終えると二匹のマウスの脳波は、以前と同じパターンに戻っていた。つまり、二匹のマウスは刺激によって精神が入れ替わったとしてもそれは一時的で、交尾をすれば、精神が元に戻ってしまうのではないかと思われる結果を示唆している。


(精神が入れ替われば、以前の肉体に戻ろうとするのが自然とも考えられる。それが、雄同士の交尾に繋がっている……のかもしれない。そして交尾をしたことで、精神が元の肉体へと戻ってしまった。もしくは、強烈な刺激を体験したことで、肉体と精神が融合してしまい、二体は完全に【入れ替わってしまった】という可能性も有り得る……)


 大倉はそこまで仮説を立てたものの、これはあくまで憶測であって真実ではない。かと言って、次の段階へと研究を進められる手段があるわけでもない。今のところは、これ以上の進展はないと見ていいだろう。彼はため息交じりに頭を掻くと、射精を終えて賢者タイムに入ったマウスを何とはなしに眺めていた。そのとき研究室に、もう一人の研究員が姿を現した。


「おいおい、平川くん! いくら行き詰っている研究室だからとはいえ、部外者を入れてもらっちゃあ困るよ」


 ギィッと錆びたような音を立てて扉を開いた男──、平川夏彦(ひらかわなつひこ)は、教授である大倉にそう指摘されたのにもかかわらず、厳つい顔をヘラヘラと緩めて、室内へと足を踏み入れた。


 栄西大学は、文武両道という理念を掲げており、多くのスポーツチームを所有していることでも有名である。そのため、学内の施設にはトレーニングルームはもちろんのこと、温水プールやテニスコート、野球やサッカーなどの室内練習場も完備されている。大学内で研究に励む彼らも、当然肉体自慢の男たちの一人である。例えば、大倉はラグビー部出身であり、巻田は水泳部出身であるように。

 そして、平川は190センチ超えの身長の持ち主であり、無差別級の柔道強化選手に選ばれるほど、堂々たる体格をしている。そんな彼の後ろからひょっこりと顔を現したのは、隣の脳科学研究室の研究員の河合アキラ(かわいあきら)だった。

 栄西大学始まって以来の秀才と謳われる彼は、まだ二十代という年齢でありながら、数多くの特許を取得し、その端正な顔立ちから学内の女子学生からも人気が高い。その美しい容姿から、男性と関係を持っているのでは、などという根も葉もない噂を囁かれることがあったりもするのだが──。


「いや~、すんませんっす教授。こいつがね、どうしてもこの研究室を見てみたいって駄々こねるもんですから。教授も知ってるっすよね、アキラ──、河合のことは? こいつ、頭だけはめちゃくちゃよくて──」


 無神経なその言葉を最後に、彼は首筋に突き刺された注射針によって大きな体を痙攣させ、白目を剥いてその場に倒れ込んだ。そして、研究室の扉が閉じてロックが掛かる音が室内に響いた。突然のアキラの行動に、当然大倉と巻田の二人は何が起きたのか理解が追い付かず、唖然として床に横たわる平川に視線を集中させていた。


「な……ッ!? おい、平川くん! 大丈夫か!?」


 大倉の呼びかけに反応したのか、平川の体がピクリと動く。どうやら命に別状はなさそうだと一先ず安堵した大倉だったが、アキラの行動には疑問しか浮かばなかった。しかし、その答えはすぐに判明することになった。


「巻き込んでしまってすみません、大倉教授、そして巻田さん」


 中性的な美しい顔に笑みを称えたアキラは、地鳴りのような鼾をかいて眠る平川の胴体を蹴ると、恭しく一礼をした。その所作は、同性である二人でも見惚れてしまうほどの色っぽさを醸し出していた。


「それで……、君はなぜこの研究室に来たんだ?」


 平川の巨体を怪しい手つきで撫でさする彼に、大倉が尋ねた。しかし彼は問いには答えず、脅しをかけるように新たに手にした注射針をチラつかせながら、大倉と巻田の両腕を後ろに回して結束バンドで拘束していく。


「な、なにをするつもりだ!?」


「そう警戒しないでください。あなたたちには、【危害】を加えるつもりはありませんから。【危害】はね……」


 声に隠し切れないような明るさを滲ませると、アキラはキーボードを軽やかに指で弾き、大倉たちがマウスに使用したのと同じ【ボディースワップ】の機能を作動させるよう、システムにコマンドを入力した。そして彼がエンターキーを叩くと、研究室内全体を一瞬で不気味なオーラが覆い、大倉と巻田の全身に纏わりつくような不快感が襲い掛かる。


「ま、まさか……っ!!」


 嫌な予感を覚えた大倉が声を上げると、アキラはニタリと粘り気のある笑みを浮かべて頷いた。


「その、まさかですよ」


 途端に室内にいる全員の視界がぐにゃりと歪み、近くにいる人物の方向に肉体が吸い寄せられるような感覚を覚えたのと同時に、彼らの意識はぷつりと途絶えた。




「……何が、起きたんだ?」


 目を覚ました巻田は、低い声で呻いた。【ボディースワップ】の機能が作動した瞬間、全身が総毛だつようなゾッとした感覚が彼の身体中を駆け巡った。体感的には気を失ってからすぐに意識を取り戻したはずだが、それでも何か良からぬことが起きたのだと心の奥のほうで警鐘が鳴っている。巻田は傍に倒れる大倉の顔を覗き込み、言葉を失った。そして悟った。自分が【自分】でなくなったことに──。


「んん……っ。ぅう? まきた、くん……、だいじょうぶか?」


 そんな彼をよそに、大倉は目を瞬かせながら上体を起こした。ぼんやりとする視界の中で、動く人影が映る。どうやら二人とも命に別状はないようだと安堵した彼だったが、すぐにそんな悠長なことを言っている場合ではないと思い至った。


「その姿は、わ……、私っ?! もしや、【ボディースワップ】が成功してしまったのかっ?!」


 巻田の姿になってしまった大倉が甲高い声を上げると、大倉の姿をした巻田がカクカクと首を上下させて肯定の意思を示した。大倉に至っては、長年の悲願が成就したことで喜びを露わにしたいところではあったが、呆気にとられて声を出すこともままならなかった。互いに互いの表情を確認し合うも、そこには馴染み深い自分の顔があるせいで、余計に二人は困惑を隠せない。さらにそこへ、追い打ちを掛ける出来事が起きる。


「う゛ぅ……っ!!」


 中性的な色気を帯びた呻き声に反応し、彼らがそちらへ視線を送ると、そこでは【アキラ】が目を覚ましたところであった。意識を覚醒させようとフルフルと頭を振ると、何か柔らかいモノの上に座っているのだと気付いた彼は、そちらに目線を向けた。そして、彼は驚きのあまり目を見開いた。


「は、ハァッ?! 俺……、俺がいる?!」


 美しい顔を素っ頓狂な表情で歪ませながら、【アキラ】は裏返った声を上げた。無理もないだろう。目覚めたばかりの彼の瞳の先には、先ほどまでの自分が横たわっていたのだから。そして、その声を合図にしたかのように彼に下敷きにされていた【平川夏彦】が意識を取り戻し、その巨体を立ち上がらせた。普段はおちゃらけた雰囲気を醸し出している平川だが、そんな今の彼の顔は愉悦と興奮とに染まり、酷く蕩けた表情を作っていた。


「あぁ……、そうだ。俺は平川夏彦だ」


 甘い声色でそう口にした【平川】は、【アキラ】の背後に素早く回り、彼の頸動脈をキュッと絞めて昏倒させてしまった。そしてそんな自らの流れるような動きに、【平川】自身も一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに満足気な笑みを浮かべて己の肉体を眺め回した。丸太のように太い腕、節くれだったごつい指。ボリューム感のある厚い胸板。自身の体のパーツをひとつひとつ目におさめるたびに、彼の小鼻が膨らみ、鼻息が荒くなっていった。


「ハァッ、ハアァッ♥♥ エッチすぎる……、この体……。すごいやっ♥ ずっと憧れてたんだ、このエロいボディーに♥♥♥」


 まるでドスケベ親父にでもなったかのような声が、彼の口から漏れ出した。筋肉隆々の汗まみれの肉体をねっとりといやらしい手つきで撫で回すと、彼はビキビキに硬く勃起した自らの男根に指を這わした。瞬間、『ハウゥ♥』と見悶えながら体を仰け反らせ、虚ろになった瞳を天井へと向ける。そんな彼の脳内で、快楽物質が大量に産み出されたのだろう。すぐに涎と鼻水を垂れ流しながら陶酔しきった表情になり、ドプリと亀頭の先端から先走りを溢れさせた。最愛の人を抱くように、自分の肉体をギュッと抱きしめる。そして、汗臭い体臭を胸いっぱいに吸い込んでは何度も深呼吸をし、興奮を高めていく。


「ハァ……っ♥♥ もっとだ♥ もっともっと、この肉体を堪能したいよ……♥♥」


 舌舐めずりをしつつそう呟いた彼は、【アキラ】の白衣のポケットからパッチらしきものを取り出すと、自身と目の前の相手のこめかみと玉袋に貼り付けた。

 それから、床にうつ伏せになった【アキラ】の股を強引に開き、反り返った自分の肉棒を、閉じた彼の肛門の周りに擦り付ける。先走りで濡れたチンポの先端が穴の周りに触れるたびに、彼の下の口は物欲しそうに蠢き、クパクパと開閉を繰り返している。そんな様子に口元を緩ませると、【平川】は【アキラ】のアナルに強引にチンポをねじ込み、奥深くまで彼のケツマンを蹂躙し始めた。ぐちゅりという淫猥な水音が、大倉や巻田の耳元まで届く。その直後からパンパンという肉と肉のぶつかり合う音が、室内を包み込んだ。


「あ゛っ♥ あ゛ぁ~♥♥ お゛っ、おお゛っ♥」


 野太い喘ぎ声を上げながら、一心不乱に腰を振る【平川】。そんな光景を目の前にして、大倉と巻田は言葉を失っていた。しかしそれは、驚きから来るものではない。平川とアキラ。肉体が入れ替わったであろう彼らが、セックスに興じている。その光景が、彼らの目にはなんとも神秘的で、尊いモノに映ったからだ。

 二人は異性愛者であり、巻田は婚約者がいる身であるし、大倉に至っては妻子持ちだ。なのに、眼前で屈強な男のチンポと尻の穴が音を立てて繋がる光景から目が離せない。自然と、勃起する陰茎に血液が流れ込んでいくのを感じる。


「おほっ♥ おほぉ゛んッ♥♥ アキラのアナルがぁ……っ♥ 俺のチンポに吸い付いてくるぅううっ♥♥♥」


 そんな彼らの視線などお構いなしに、【平川】はヒイヒイと情けない声を漏らしながら、腰を振り続ける。その腰使いが徐々に速くなり強まっていくのは、彼が絶頂へと昇り詰めている証拠だった。


「あ゛……っ♥ あ゛ぁっ♥♥♥ イクイクッ!! 平川さんのチンポで僕ッ、イッちゃうぅぅッ♥♥♥」


 野獣のような雄叫びを上げ、【平川】は【アキラ】のアナルの中に大量の子種汁を吐き出した。大倉や巻田の耳まで音が聞こえそうなほど勢いよく発射された彼のザーメンは、【アキラ】の腸内をあっという間に満たし、逆流して尻の穴から溢れ出る。その量と勢いに【平川】は恍惚の笑みを浮かべると、【アキラ】の肛門から引き抜いたザーメンまみれの自分のイチモツを優しく撫で回した。




 河合アキラ、二十五歳。前述の通り、栄西大学始まって以来の鬼才であり、同時に男性でありながら絶世とも言える美貌を持つ。その美しい顔立ちから女性ファンは多く、学内でも有名な存在だ。しかし彼は実は同性愛者であり、日々周囲からの恋愛的なアプローチにほとほと辟易としていた。そんなアキラだが、彼が現在進行形で夢中になっているモノがあった。それが何かというと──。


「う゛ぅ~ッ♥♥ う゛っ! はぁっ……♥」


 薄暗い室内の中、アキラのくぐもった喘ぎ声が響き渡る。女性の衣服と下着を身に着け、女装をさせられた状態のままの彼は大の字になってベッドの四隅に両手両足を拘束され、平川によって窮屈な尻の穴を犯されていた。


「んっ、あぁ……っ♥♥」


 アキラの甲高い嬌声に加え、二人の結合部からグチャグチャと淫らな水音も漏れ聞こえる。彼の顔は苦悶に歪みながらも快楽の一端を滲ませており、そんな美しくも切なそうな淫靡な姿を目の当たりにすれば、性欲の強い平川は昂りを抑えきれるわけがない。彼は獲物を捕食する獣のような顔で犬歯を剥き出しにすると、さらに激しく腰を振り始めた。女性でさえ悲鳴を上げるほどの平川の巨根が、アキラの中にずっぽりと根元まで入り込んでは引き抜かれる。グチュッと音が鳴るたびに、尻穴から漏れ出る体液が周囲に飛散してはシーツをじっとりと湿らせていく。


「ふんぐぅ~~ッ♥♥♥」


「アキラのケツ穴、最高だ……っ♥ 俺のチンポをこんなに美味そうに咥え込みやがってぇ♥♥ あ~っ! イクッ!! イッグゥゥ♥♥ 孕め、アキラァ!! お前のメスマンコに、俺様の特濃ザーメン注ぎ込んでやるッ!! 俺の遺伝子でお前の膣の中、満たしてやるからなァッ♥♥♥」


「平川さん゛っ、あぁあ゛~~♥」


 まるで種付けのごとく大量に吐き出された平川の精液が、逆流しながらアキラの腸内を蹂躙していく。何度も何度も脈打つ彼の極太のイチモツから吐き出し続けられる熱に、アキラはうっとりとした恍惚の表情で舌を垂らした。



「へへっ、お疲れさん。じゃあ今日も貰ってくぞ──」


 いまだ興奮も冷めやらずに、肩を震わせるアキラ。そんな彼の財布から一万円札をごっそりと抜き取った平川は、鼻息荒く紙幣の枚数を数え終えると、アキラの頬を愛おしそうに撫でた。その触れ方にときめいたのか、「んっ♥」と甘い吐息を漏らすアキラ。平川はそんな彼の様子を見て、ますます上機嫌な笑みを浮かべる。


「好きだぜ……、アキラ♥ お前は最高の【女】だ。次に会うときも愛しい俺のために、もっともっと【愛の証】を用意しておいてくれよな♥」


 軽くなった財布をベッドの上に投げ捨てると、平川はそう囁き、名残惜しさの欠片さえも見せずに部屋を後にした。一人残されたアキラは、性行為の余韻すら二人で感じ合えぬのかという思いから、沈んだ顔でため息を吐いた。


 脳科学研究室の研究員として働くことになった年。研究棟で平川とすれ違った瞬間、アキラは彼の肉体の色気に、心臓を鷲摑みにされてしまった。一目惚れだった。仁王像を想起させるような角張った顎。眉は太く凛々しく、猛禽類のような鋭い目。いかにも性欲の強そうな筋の通った鼻。そんな精悍な顔に相応しい、豊富な筋肉に覆われたむっちりとしたたくましい肉体。

 彼のすべてが理想的だった。平川のメスになりたいと、アキラの魂が震えた。彼に抱かれたいという欲求が日に日に増していくなか、とうとうアキラは平川を呼び出して彼に思いの丈を告白した。すると平川も、アキラに好意を抱いていたらしく、彼の想いに応えてくれたのだ。


 それが数か月前の出来事なのだが、それからというもの、平川は今日のように何度もアキラに女装を強要した挙句、彼の美しくしなやかな肢体を蹂躙し、あまつさえ金銭まで無心するようになった。そしてアキラはそんな身勝手な彼に怒りや悲しみを覚えるどころか、むしろ喜んでさえいた。なぜなら平川のセックスは、今までアキラが体験してきたどんなモノより気持ちが良かったからだ。彼はアキラをまるで性処理道具か何かのように扱うが、それでも構わないとさえ思うほどに彼の屈強な肉体から与えられる快楽は抗いがたく、そして甘美だった。

 だが、その日々にも終止符が打たれるときが近づいていた。一年にも満たない短い期間の中で、アキラの貯蓄は底を突きかけ始めていた。数多くの特許を出願し、莫大な収入を得てきた彼だったが、平川の浪費はそのはるか上を行っていた。アキラの貯金はもはや雀の涙ほどしか残っていない。このままでは、平川に見捨てられてしまう。


 そんな折だった。彼が偶然目にした論文に、目を奪われたのは。平川がアキラの部屋に忘れていった、大倉の【ボディースワップ】に関する論文。アキラの瞳に怪しい光が灯った瞬間であった。




「どうだったっすか、俺たちのセックス? エロかったでしょ?」


 平川と肉体を入れ替えたアキラは、こめかみからパッチを取り外すと、まるで【平川夏彦】そのものとしか思えない口調で問いかけた。その口ぶりや振る舞いがあまりに自然で、巻田は思わずゴクリと唾を飲んだ。


「まさか、平川さんと河合さんの身体が本当に入れ替わってたなんてな……。それに、その話し方はいったい? まるで平川さんそのものじゃないか」


「それはセックスのおかげっすね、たぶん。入れ替わった身体でイッたせいで、精神と肉体が馴染みきっちゃいました。実験に使われたマウスの脳波も、入れ替わり後にセックスすると元のパターンに戻ってたでしょ? 【強い刺激で精神と肉体が融合して、完全に二人が入れ替わった】ってほうの推測が当たりだったみたいっすね。ちなみに、セックス後に以前の記憶が消えちまう可能性も考えられたんで、これを使わせてもらいました」


 先ほどアキラがこめかみと陰嚢から引き剥がした白いパッチ。それと同じものを再び白衣のポケットから取り出すと、彼は巻田と大倉の体に貼り付け始める。


「お、おいっ! これはいったいなんなんだ?!」


「これっすか? 俺が【河合アキラ】だったときに開発した、【記憶維持パッチ】っす。これを付けていると、どんな記憶も絶対に忘れないんすよ」


「記憶を……!?」


 にわかには信じられない話を自信満々の笑顔で語るアキラに、巻田は思わず面食らった。しかし目の前で起こっている光景を目の当たりにした今、そして自分たちの研究してきた【ボディースワップ】などという浮世離れした試みが成功してしまった今、彼はもはやなんでも信じられる気しかしなかった。


「さあ、それじゃ二人も俺らみたいに互いの身体を貪り合って、完全に入れ替わっちまおうぜ♥」


「誰が好き好んで男同士でセックスなんて……。そんなことするわけありませんよね、大倉教授っ?! ……教授?」


 アキラの一押しに、巻田は一瞬その気になりそうになった。大倉と肉体が入れ替わってしまったのだと実感してしまった直後から、かつての自分の姿を視界に収めるたびに股間が疼きっぱなしだ。だがどうにかこうにか理性が枷になって、思いとどまることができている。辛うじてだが、自分でさえこうして我慢することが可能なのだ。大倉に至っては、アキラの甘言に惑わされるはずもないだろう。そう高を括っていた巻田だったが──。


「へっ……? なんだって、巻田くん……? 君の身体になってから、溢れてくる性欲が抑えきれなくて気が狂いそうなんだ……。いますぐ君のそのケツに、このチンポを突っ込んでめちゃくちゃにしてしまいたいくらいだよっ……♥♥」


「え、えぇぇっ?! きょ、教授まで何を仰っているんですか! 正気に戻ってください!!」


 巻田の制止も聞かず、彼は芋虫のように地面に這いつくばりながら、巻田の元へとにじり寄っていく。性欲も衰え始める四十代半ばに差し掛かった【大倉平八郎】の肉体になった巻田。それとは真逆に、大倉は性欲旺盛真っ只中である【巻田典雄】の肉体になってしまった。激しいギャップに彼の脳内はピンク色に染まり切っていたのである。

 そんな彼の醜態に顔をほころばせると、アキラは彼の手足の拘束を解いてやった。途端に巻田の股間の膨らみにダイブする大倉。ムッとするような強烈な雄臭い匂いを放つ下着に、嫌な表情など一切見せず、それどころか頬擦りさえしながら、彼は実に嬉しそうな表情を浮かべている。


「ああぁ……っ♥♥【私】のおチンポが目の前にぃ♥♥」


 その淫臭の誘惑に耐え切れず、彼はテントを張った【大倉平八郎】の肉棒を、下着の上から頬張った。


「やめてください、教授ッ!!」


 中年男の野太い声で悲鳴を上げながら巻田が体をくねらせると、それがますます大倉の琴線に触れたのか、彼は淫猥な表情を浮かべながらまたも激しく頭を前後に振る。


「むちゅっ♥ れろぉぉっ♥♥ はぁ♥ これが【私】の匂い……、臭くてたまらんっ♥♥ んぐっ……んむぅっ♥♥」


 大倉の涎で見る間に濡れていく、巻田の股座。布越しに感じる生暖かい感触と、ねっとりとした舌の動き。そして何より、あの大倉教授が自分のイチモツをしゃぶってくれているという背徳感。なんとか耐えていた巻田だが、下着をずり下ろされて直接チンポをねぶられてしまえば、もう抵抗などできるはずもなかった。


「あっ、ぐっ……♥」


 とろんとした目つきでウットリとしながら、竿をしゃぶられる感覚に酔いしれてしまう巻田。そんな彼の反応を見て気分を高揚させた大倉は、怒張した自身の肉棒をボロンと曝け出した。下着を履いたままですでに射精してしまったのか、その剛直はテラテラと濡れそぼっている。その光景に巻田はごくりと唾を飲んだ。


 二十数年来、見飽きるほどに目にしてきたチンポ。だというのに、他人になってしまった視点から見たそれは、あまりにも魅力的で刺激的すぎた。パンパンに腫れ上がった真っ赤な亀頭。血管の浮き出た、グロテスクなまでに立派な肉の幹。それが自分の尻の穴に当てられ、無遠慮に中へと押し入ってくる感覚を体験してしまえば、巻田は否応なしに反応を示してしまうしかなかった。どうにか抑えていた【大倉平八郎】のチンポが一気に硬くなって反り返り、トロトロと透明の蜜を垂れ流し始める。

 生まれてきてから一度も見たことのないような、自分の恍惚とした表情。蕩け切った精悍な顔が、視界に映り込む。汗ばんだ大倉の肌が擦り付けられ、酸っぱいような体臭に入り混じった淫猥な香りが鼻腔を通り抜ける。婚約者が誕生日にプレゼントしてくれた香水の匂いだ。その匂いを嗅いだ瞬間、巻田は自分が【自分】に犯されているのだとはっきりと自覚してしまった。


「ダメです、教授! これ以上ヤれば俺たちは……、んむぅ……!!」


 拒絶しようと開いた巻田の口へと大倉は舌を滑り込ませ、彼はその口内すらも犯し始める。舌を絡めとり、歯茎の裏まで舐められる感覚にゾクゾクと背筋が粟立ってくる。男と交わす口づけ。嫌悪感と興奮が入り混じった未知の感覚。それはすぐに快楽で上書きされてしまい、巻田は抵抗も忘れて、大倉から与えられるキスに夢中になってしまった。呼吸が苦しくなるほどに唇を貪られるキスは、これまでに女性としてきたものとは比にならないほどの快楽を、巻田の脳に刻み込んでくる。


「ん、ふっ……♥」


 自然と鼻から甘い声が抜けてしまう。そんな巻田の反応に気をよくしたのか、大倉は更にキスを深めながら、彼の乳首を指先で弄り始めた。その巧みな愛撫に、巻田は体をビクビクと震わせながらも、それが大倉と彼の妻がセックスの際にいつもやっている前戯の手順なのだと、直感的に理解した。いや、強い刺激を受けたことで、【大倉平八郎】の記憶が呼び起こされたといったほうが正しいだろう。それをきっかけにして、巻田の脳内に大倉の記憶が濁流のように流れ込んでくる。一度しか顔を合わせたことがなく、名前すらも忘れてしまっていた大倉の妻や子供たちとの思い出。そして、【大倉平八郎】として過ごしてきた半生が、走馬灯のように駆け抜ける。


「あぁ……っ♥ すっげぇ♥♥ 巻田くんの記憶が頭の中で次から次へと蘇って、気持ち良すぎるっ♥ 【俺】、巻田くんになっちまうぅ♥♥」


 どうやら大倉のほうも同じ現象に苛まれているらしく、嬌声を上げながらビクビクと身体を痙攣させている。その間も彼の硬くなった肉棒は、巻田の体内を掻き混ぜようと、乱暴に亀頭を腸壁に擦り付けてくる。無理やり押し広げられていく尻の穴の感覚。ゴリゴリと亀頭が肉襞を抉るたびに脳天まで突き抜ける、痺れるような快感。他人の記憶が溢れるたびに、自分が自分でなくなっていくような倒錯的な快楽に、二人は夢中になって腰を動かし合った。


「【巻田】くん、もうダメだ……。イクッ♥♥」


「俺もイキます、【大倉教授】ッ♥♥」


 二人はほぼ同時に限界を迎えた。大倉は巻田の腸内で精液を迸らせ、巻田は股間から盛大に潮を噴き上げる。こうして二人のすべては、完全に入れ替わってしまった。



***


「この場に集まってくれたこと、感謝する。再び実験ができるという喜びに、君たちには感謝の念しかないよ」


 四人が肉体を入れ替えた翌年度。研究結果を発表したことで、【ボディースワップ研究室】では新たに五人の研究員を迎え入れることができた。体格は様々なれど、その誰もが筋肉モリモリのマッチョマンたちで、雄々しい面構えの男たちである。おまけに彼らは皆が皆、入れ替わりフェチという特殊な性癖を持った者たちだった。


「とりあえず、最初の実験は【ランダム】ということでいいな?」


 大倉がキーボードのエンターキーを叩くと、室内にいた全員の顔から生気が失われる。だが、それも束の間のこと。意識を取り戻した彼らは、互いに顔を見合わせ、眼下に広がる自分の肉体を見て熱い吐息を漏らした。そして、室内の角に置かれたケージ内では、複数のマウスたちが雄交尾を始めるのだった。


(了)

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Comments

黒竜Leo

他人の欲に巻き込まれた入れ替わりも美味いです! そのパッチが使わないなら、自分しか記憶がない状況になって悪用されそう。 最後はなんか人とマウスの入れ替わりっぽいことになって、ちょっと怖いですが楽しそうです!

ムチユキ

人間は人間同士で、マウスはマウス同士で入れ替わった後、マウスが交尾を始めることで、このあと人間たちもセックスし始めるんだろうなと思わせる文章を書いたはずなんですが、Leoさんの言うとおり、人間とマウスが入れ替わったようにも読めてしまいますね……! 他のマッチョマンと身体が入れ替えられる──とワクワクしてたのに、マウスになっちゃうなんて怖すぎる~ 😱 でもマウスが人間の身体を得たことで、徐々に賢くなっていって、人間らしい貪りセックスをし始めるという流れもいいかもしれませんね 🤤