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おどる おどる 愛娘

夜のとばりがおりる頃

湖ほとりで 踊ってる

横顔くるりと見渡せば

夜露に濡れた頬見えた


ー近年あまりにも、あまりにも、である。

未解決殺人がつもりつもって山となり、この町の都市伝説となりつつある。

長年調査はしていたものの、手がかりがない。

…数十人の、それも少女だけの誘拐事件。

依然として消息不明。

それを追い続け、時効。

そして今、数十人分の殺人事件を抱えている。

全部全部全部依然として未解決。

この世に悪魔がいるのならば、この町は彼らのメッカとなっているに違いない。

しかし仮に「悪魔のせいだ」などと決めつけても、そいつは唐人の寝言である。

ここには人間しかいない。

いや、ここには人間しかいなかった、はずであった。


湖のほとりに死体はいつも落ちていた。

齢にして40代を越える男性、たまに女性も落ちていた。

しかしそこに「少女」は一人もいなかった。


ー今もキミは元気なのだろうか。

俺が警察隊に志願し、キミの事を特権を持ってただ探し続けた。

数十年間、あたたかなミルクにできた小さな穴の数を数え続けるかのような数十年間。

てがかりは何一つ手に入らず、いまや顎には無精髭が生え揃うほどの老人だ。

頼りに頼ってきたものの何の役にも立たない勘が今更俺の頭をガンガン劈く。

それを頼りに俺は今、湖のほとりに立っている。


一つ前の晩、警察に一本の電話が入った。

俺と同程度の年齢の声色で、その男は明らかに怯えていた。

「ほとりに、行かねば」

「…なんだって?」

「私が今晩、ほとりに行かねば、無差別で殺すというのです。しかし私は"足"がありません。刑事さん、私の代わりに、会っていただけませんか」

「ちょっと待ってくれよ。それってー」

男は他に何も教えてくれなかった。怯えて怯えてなんにも喋ってくれなかったのだ。


夜が更ける。月だってこんな寒い夜は嫌だろうに。

合唱を続けようとする俺の勘を湖に叩き落としたい。

そんなメルヘンになってしまうが前に、風が俺の頬を撫でた。


何かが、俺の後ろにいる。

「あなたじゃない」

それは俺に向かって優しく微笑んだ。

「だいじょうぶ」

それは俺に優しくお辞儀した。

「もうすんだから」

何かが砕けた音がした。

俺が振り返ると、そこには老人のかたまりが落ちていた。

首がねじまがり、顔がくるりと真逆にこちらを向いている。

報告書類と同じ死因。

遠目で見てもはっきりと、猟銃を抱えていた事だけは分かる。

ー俺か、あいつか。

とっさに自分の首を両手で覆い隠し、元の位置へ視線を戻す。

そこにはもう、薄ぼんやりとした闇だけが取り残されていた。


---

それからまもなく。

老人が経営していた活け花クラブが併設された家屋に溶接された地下室への扉がある事が判明した。

探索隊が地下への階段を降りるとき、壁にヌメヌメとした緑色の何かが壁の中で脈動していると狼狽えた隊員が何人もいたらしい。しかしどうやら、ただの壁でしかなかったようだ。

地下に降りると、そこは辺り一面蔦の山であった。

蔦をかき分け見つけたものは、

資料、

土、

種子、

機械、

毛髪、

歯、

指、

その他体の一部の入ったホルマリン漬け。

パラダイス。

検視の後、誘拐事件と明確に紐付けられる証拠である事がわかった。

その後も捜索を続ける予定であったが、隊員の一人が声を聞いた、と地下を焼いてしまったのだ。

強制的に捜査は打ち切りとなった。

だが、それから「ほとり連続殺人」はパッタリと止んだのであった。


1)少女を用意する。自身の見た目や性格に悩む者《パラノイア》がより良い

2) 実験対象の少女ひとりの頭部をシリンダーへ固定する

3) 上部ピストンにより頭部を破壊する。途中暴れだす場合は僧侶を用意せよ

4) 頭部が胚となり、ピストンから種子が植え付けられる。うまくいけば、3ヶ月後には宿主を経て生まれるだろう


古文書に記された方法は世界中のアマチュア魔術研究会のネットワークを駆けずり回り、禁忌を惜しまぬ者の手でやがて閉じられたはずの《魔女》は再びそこで産声をあげた。

しかし魔女には宿主の自我が遺っていた。

自らを陥れた奴らをすべて消し去ること。

思い出のほとりで再び誰かと逢いたかったこと。

地下から地中へ、移動していた彼女の"葦"は灰燼となり、その意図は誰も知ることがない。


大鷽文庫 - おどるドライアド

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