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きっかけは、些細なことだった。 「……あれ?」 「どしたー?」 「いやなんかさ……減ってない?トイレの数」 「え?いやトイレの数とか普通覚えないっしょ……気のせいじゃん?」 都心の学校で交わされる女生徒同士の会話。違和感を訴える少女に対し、その友人はそれを気のせいだと一蹴する。 だがこの少女も、またほかの人々もこの時はまだ知る由もなかった。 この少女の抱いた違和感が紛れもない本物で、これが日本中を巻き込む一大パニックの発端になるなどと。 それから10日が経過する頃。この小さな違和感は、とてつもなく大きな異変として日本中を襲う。 「……ね、ねえ……トイレってこんなに混んでたっけ……?」 「聞いた話だと個室が今ふたつしかないって話だけど……」 「ふたつって……故障とか?」 「じゃないみたいよ。よくわかんないけど……」 学校の廊下に並ぶ、トイレ待ちの行列。それは普段から混みあう女子トイレにしても異常なレベルだった。 運よく先に入ることのできた女子たちの証言によると、現在の個室の数はわずか二つしかないのだという。 故障しているのでもない限り、学校のトイレの個室がわずか二つしかないなどはあり得ない。学校はその性質上使用する人数が多いため、大体の場合その3~4倍ほどの数を確保している。 わずか二つしか使えないのでは、10分の休憩時間に用を足すのは難しくなってしまう。この行列はそのせいで生まれたものだった。 故障でもなく清掃でもなく、わずか二つしか使うことができないトイレの個室。廊下にまで飛び出た行列を耐え、トイレ内に入った生徒の見たものは…… 「……なに、これ……」 使用可能な二つの個室と、その横に伸びた不自然に長い壁。 まるで前まであった個室を急遽埋め立てでもしたかのような、不可解極まる壁がそこにあった。 ドアがなくなっただけという訳でもないらしく、その壁を叩いた感触は紛れもなく本当の壁のものだった。 誰が何の目的で無くしたのか皆目見当もつかないこのトイレ消失事件。それはこの女子トイレに限った話ではなく、全校規模で同じことが起きているようだった。 他学年のフロアも、体育館のトイレも、他の棟のトイレも全て女子トイレだけが奇妙に使えなくなるこの珍妙な現象。 首を傾げながら、また身体をもじつかせながら行列に並ぶ少女たち。だが彼女たちはまだ知らない。 この異変が、この学校だけで起きているものではないということを。 翌朝のネットニュースに記されていたタイトル。それが今、この国に起きている異変を雄弁に物語っていた。 【怪奇!?女子トイレ個室消滅現象発生!!】 最初の女子トイレ消失が観測されてから一ヶ月。その間、日本中にあった女子トイレの数は激減していた。 場所によっては個室どころかトイレの存在そのものが消失しているところもあるほどで、現在確認されている公共女子トイレの数は47都道府県に対しわずか50程度。ほとんど1地域に一つという、絶望的なまでの少なさになっていた。 さらには「公共」でないことからカウントされていない学校及び大学においては、確認されている限りひとつも女子トイレが残っていないという状態である。 このような状況下にあって女性の用足しは困難を極め、様々な社会問題を引き起こしていた。 まず一つ目が排泄の不全に伴う女性たちの体調管理。言うまでもなくトイレに行けないということはそのパフォーマンスに大きな影響を及ぼし、学業や仕事に於いて絶大な被害を及ぼしている。 我慢の頻度が増えることにより、この一ヶ月で膀胱炎にかかってしまう女性の数は従来の10倍に増加。これからさらに増えていくことが予想されるこれは、やはり大きな社会問題である。 そしてもう一つ。どう対処していいかわからない上記のものと異なり、こちらの解決は女性たちへの影響を考えなければ簡単そのものであった。 もう一つの問題。それは街の汚損である。 1都道府県につき一つしかない女子トイレ個室。当然ながらそこ目掛けて女性たちが殺到し、各トイレには一日あたり数万から数十万もの大行列が毎日出来上がる。それだけの行列を捌き切ることなど当然できようはずもなく…… 限界を迎えた女性たちによる野外放尿、また失禁による街の汚損が大きな問題となっていた。 元より野外放尿は軽犯罪法により裁かれる軽犯罪であったが、この度それを厳罰化。罰金の額が増えたほか、程度によっては懲役もあり得る厳罰となった。これが悲劇の引き金となる。 日を追うごとに減少していくトイレ。厳罰化された野外放尿及び失禁。 女性たちはどこで済ませればいいのか。そもそも済ませることができるのか。 国そのものを巻き込んだ、一大おトイレパニックが巻き起ころうとしていた。 女性たちの戦い 1st Day 野外放尿厳罰化から日を跨ぎ…… あくる日の量販店には、これまた長蛇の列ができていた。 そこに並ぶのは全てが若い、10代から20代の女性たちだった。そのお目当ては、雑貨コーナー。 雑貨コーナーに並ぶ、大容量の水筒だった。 「はっ、はな、離せっ!!離せえええええぇっ!!!!!これは私のだってばああああぁ!!!!」 「うっさいバカ!!!!最後に持ってたもん勝ちよ!!!」 関西の代名詞のごとく、我先に水筒へ飛びつき争奪し合う女性たち。その目は赤く血走り、傍からは彼女たちの正気はうかがえない。 しかしなぜ彼女たちは水筒を取り合うのか。それにはひとつの、切実な理由があった。 『お買い上げありがとうございまーす。ご利用はあちらでお願いしまーす』 「あ、ああっ……!やっとぉ……!」 そんな死闘を切り抜け、ついにお目当てのものを買うことができたタイトスカートの女性。ひったくるように店員からそれを受け取ると、一目散にある場所へと向かっていく。 それは今や壁一面となった「元」女子トイレであった。 個室が一切存在しない空間となったこの場所で女性は、着くなり水筒の蓋を開け放ち…… 「ああっ……も、出る……!」 びゅしゅおおおおぉおおおおおぉーーーーーーー!!!じょぼぼぼぼぼぼぼ…… 下着をずらし、水筒に向けて盛大に放尿を始めたのだ。 よほど我慢していたのかその顔は快感に緩みきり、がに股で水筒に尿を解き放っていく。 音消しも何もない単なる部屋で、水筒目掛けて尿意を放つ女性の至福。それは我慢していた時間の分だけ長く続くのだった。 「……ふぅ、すっきりしたぁ……あとはこの中身を捨t」 『うゥあああああああああっっっ!!!!』 びっっっしゅうううううううううううっっ!!!!!!じゅじゅじゅじょぼぼぼぼぼぼぼっ!!!! 『ふぁ……あ゛~~~~……』 「う……わぁ……!」 最初の女性と入れ違いに入ってきた凄まじい形相の少女。あらかじめ下着を脱いできたらしい彼女は部屋に入って水筒を開けるなりすぐしゃがみ込み、その凄まじい水圧を解き放った。 周りの何もかも目に入っていないというように、すっかり放尿の快感の虜となる制服姿の少女。下半身剥き出しで蕩け切る彼女の艶姿に赤面しながら、最初の女性は水筒の中身をそのままに帰っていくのだった。 個室のない女子トイレに殺到する、水筒を手にした女性たち。これは今のこの国において、ある種の日常風景であった。 個室が無くなった世界における女性たちの尿意の受け止め役。その白羽の矢がこの2リットル程度はらくらく入る運動部用の大容量水筒に立てられたのである。 これ自体は法律の施行前から行われてはいたのだが、野外放尿の厳罰化が決定してから人気が爆発。今では元の10倍近い値段がついてもなお買い手が絶えない超人気商品となった。 そしてこの水筒を運よく買うことができた女性は、個室無き元女子トイレで溜まりに溜まった尿意を解き放っていくのである。さすがにその辺りで水筒にとはいえ済ませるわけにはいかないから。 大容量水筒の所持。これは最早この国の女性たちにとって一つのスタンダードとなっていた。 会社で、学校で、長く過ごしていれば避けることのできない尿意という存在。それを受け止めうるパートナーとして、女性たちは自分用のマイ水筒を持ち歩くことが当然となっていった。 そして一日が終わる頃、彼女たちは家でその中身を捨てるのだ。 一日分の尿意を受け止め、ずっしり重くなった水筒の中身。保温機能により出した時の熱気を保持したほかほかの熱水を、流しめがけて。 中身を流し終えたら丁寧に水と洗剤で掃除をしてあげる。今日一日共に戦ってくれた、愛おしき相棒。自分だけの秘密の「おトイレ」を労わって、女性たちの長い一日はひとまず終わりを迎えるのだ。 そしてあくる日、女性たちの相棒は跡形もなく消え失せた。 女性たちの尿意を受け止めてくれる頼もしき相棒は、自分だけの「おトイレ」は、起きた瞬間影も形もなくなっていた。 それはすなわち、一つの事実を意味する。 女性たちがそれを放尿の為の手段として用いること。本来の用途から外れ、おトイレとして認識してしまった時。 それはすなわち女子トイレとなり、取りも直さず消滅の対象となってしまうのだ。 そしてその事実は、女性たちに一つの絶望を与えるのである。 放尿の手段として用意したものが消滅の対象になると言うこと。「女性たちのおトイレ」として機能し得るものはすべてが消滅の対象足り得るということ。それはつまり、どこでなにを目掛けてするのにも消滅のリスクがあるということ。 これまで「女子トイレ」でなかったからセーフと思われていた家庭用トイレなどであっても、油断すれば消滅のリスクがあるということ。 法律の施行から2日目。女性たちは家でトイレを済ませることもできなくなった。

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