幻惑の魔女 秘めたる野望 (Pixiv Fanbox)
Published:
2023-08-23 10:30:45
Imported:
2024-02
Content
冒険者。それは己が身一つで世界にひしめく魔物たちと戦い、日銭を稼ぐ職業である。
当然ながらその報酬は危険度に比例し、危険な依頼であるほどその報酬は高くなる。
邪神の加護を受けて生まれいずる怪物たち。それと戦う冒険者の武器は鍛えた肉体と苦楽を共にする相棒たる装備品。そして魔法である。
魔法とは人間の体内にある魔力を用いて放つ超自然的力の行使であり、人間が物理法則に干渉する唯一の方法だ。
この魔法によって人間は炎を生み出したり突風を生み出したり、はたまた氷の塊を相手にぶつけたりすることが可能となる。
人間にとって便利という他ない魔法だが、その使用には一種のコツを必要とする。
魔法は体内の魔力を練り上げ自然法則に干渉し、様々な力を行使するもの。故に「自分が何をしたいのか」明確にイメージしていなくてはならないのだ。
例えるならそれは粘土細工を作るがごとく、魔力という粘土を使ってイメージ通りの魔法を作り上げる。これが魔法の行使において必要不可欠となる。
下級魔法であるほどイメージは容易く、ただ燃え盛る炎や氷の弾を想像するだけでいい。しかし上位の魔法となるとその破壊の規模、あるいは魔法そのものの形態すらも鮮明に思い浮かべることは難しい。
軽いやけどの痛みは簡単に想像できても、全身を覆う大やけどの痛みを想像することはできないように。
頼もしいながらも扱いの難しい代物。それが魔法であり、冒険者にとっても向き不向きの別れる物である。
そんな魔法を主とする冒険者のことを通称魔導士と呼び、冒険者ギルドにおいても特別枠が設けられる人気職だ。
その魔導士の中にあって、異色の魔法を使う女性冒険者がいた。
『ワイバーンの巣の殲滅、お疲れ様です。マリアンヌ・ツィー・アウストリア様。こちら報酬の……』
『確認なんかいいわよ。お金に困ってるわけじゃないし、私が戦うのは魔法の実験がしたいだけだもの。それと……』
『その長ったらしい名前で呼ぶの、今後一切禁止ね』
『……承知いたしました。【幻惑のマリーツィア】様』
幻惑のマリーツィア。冒険者の中において、二つ名というのは特別な意味を持つ。
冒険者というのはその名前とは裏腹に、たいていが地元に根差した活躍をするものだ。それというのも多くの冒険者は実力に乏しく、新天地に出たところで依頼を受ける余地などないからである。
既に地元でお抱えの冒険者がいるのに、よそから流れ着いた実力もよくわからない者に仕事を渡すか?といった問題はどこでも発生し得るし、仮に仕事を任せてもその実力の程は凡百の一般的な代物……ということは数多い。
その中にあって本当に各地を「冒険」する者。すなわちギルドから依頼を受け、危険極まる土地に赴いたり人が足りない土地の安全を確保したりするような名うての冒険者。それこそが二つ名持ちなのだ。
ギルドから与えられた実力者の証明。どんな僻地の依頼所であろうと、名前を出せば確実に依頼をくれるほどの知名度と実力を保証されている存在。冒険者の「冒険」者たるゆえんは、ひとえにこれら二つ名持ちにあると言っても過言ではない。
さて、そんな大層な肩書である二つ名。当然獲得するのは容易ではなく、それが与えられるのはA級冒険者か、優れた功績を持つB級冒険者、そしてオリジナルの魔法を使う魔導士くらいなものである。
A級と優れた功績についてはともかく、オリジナルの魔法。これは魔法の持つ性質に由来する。
魔法とは基本的にイメージを形とするもの。ゆえに誰でもイメージしやすいものは習得しやすく、逆にイメージしづらいものは習得も難しくなる。
基本とされる四属性。すなわち炎、氷、風、雷はやはりイメージしやすく、近接職も含めて誰でも扱いやすいのが特徴である。
それと対照的にイメージが難しいのは人や魔物の身体に作用する魔法だ。回復であればまだしも、例えば毒や麻痺などは相手が強く大きくなるほどかけるのが難しくなってくる。
毒や麻痺においてはそもそもどのような種類の毒を?どの部位を麻痺させる?といった細かな部分まで想像できていなければならないため要求される知識が比較にならないほど多く、また相手が毒や麻痺に強い性質を持っていたら話にもならない。
逆にそこを克服し、どんな敵にも通じる毒を、麻痺を即座に脳内で組み立てて魔法とできたならそれは大きな戦力となる。
このようにイメージが難しいものほど仮に実用化できた時の戦力は大きく、それゆえオリジナルの魔法を生み出すということには大きな意味があるのだ。
幻惑。その二つ名に込められた、彼女の使う魔法の特性。それは……
(ふん、だいぶ形になってきたわね。相手の五感を支配し、行動を意のままとする幻惑魔法……研究途中のものですら、魔物同士を仲間割れさせるには十分すぎるほどだったけど)
(でも私が求めるのはそんなものじゃない……魔物なんて低能を意のままにしたってなんにも面白くないもの。やっぱり……)
(やっぱりカワイイ女の子たちでなくっちゃ!!!!)
「ン待っっっっていなさぁいおしがまプリティフェアリーズ!!!!この私が!!!B級冒険者にして幻惑の二つ名を持つこのマリーツィアが!!!!!あなたたちを手のひらで転がして最っっっっっ高にセンシティブッッッッフ!!!?」
「…………ああいけない、興奮しすぎて鼻血が……」
幻惑のマリーツィア。名うての冒険者である彼女には、しかし残念すぎる特徴があった。
その得意とする幻惑魔法を、魔物以外の相手に使いたがるということ。
その性癖を、同性に向けた極度の尿性愛を満たすために使いたがっているということ。
これまで魔物を相手していたのは、すべてこのために実験に過ぎないのだということ。
変態女性冒険者の野望が、動き出そうとしていた。
マリアンヌ・ツィー・アウストリア(マリーツィア)
プロフィール
使用魔法 視覚改変 聴覚改変 嗅覚改変 触覚改変 四大属性魔法全般
受けた相手の感覚を狂わせ、その行動を意のままにするという恐るべき魔法を使うB級冒険者。
相手の感覚に作用する魔法というのは極端に数が少ない。というのも扱いが難しすぎるため。
相手の今見ている景色をそっくり違うものと入れ替えるというのは、相手の心理を知り尽くしていなければ不可能なことだからである。
また見え方、感じ方というのは相手によって違う。極端に言えば人間ですら視力が違えば見えている世界も違い、普段と感じ方が少しでも違えばそれは怪しまれるきっかけを作ることになる。
彼女は冒険者の家系に生まれ、幼少期から魔物の生態図鑑などを見て過ごしてきた。そのため魔物の身体の構造についてはスペシャリストであり、それゆえこの難しい魔法を使いこなすことができているのだ。
なお、ただ視界を塞ぐだけの魔法であれば存在する。目隠しをするだけのイメージなら誰でもできるためだ。
だが肉体が人より強靭なことの多い魔物が視界を急に塞がれた場合、多くがひたすら腕力に任せて暴れるだけとなり逆に動きの予想がつかなくなって被害が増加してしまう。そのため不用意に使うことは推奨されない。
彼女の魔法はそっくり「違う景色を見せる」。すなわち味方を敵に見せることも可能なため、相手は自分の意思で敵を利する行動をしてしまうのだ。
その強力さは推して知るべしだろう。
しかしむろん、これは知能が低い魔物だからこその側面もある。知能が高い人間相手に、実戦レベルでこの魔法を決めるのは難しそうだが……
ひとつの目的のため研究を続けてきた彼女である。恐らくその辺りを解決する秘策があることは間違いない。
求めるエロスのため心血を注ぐ27歳
___________________
「さーて、いい感じの子はいないかな……と」
自分の魔法に確たる自信を得たマリーツィアは、今現在拠点としている街からほど近い洞窟で品定めを行なっていた。
それは自分の欲求を満たすため。哀れな被害者足り得る存在を見定めるためである。
B級という、最上位に次ぐ強さの彼女にとってご近所にあるE~D級相当の洞窟にいる魔物などは片手で十分。集中もそこそこに放つ魔法で事足りる。
それどころかその身に備えた戦力を魔物もその野性で感じるのか、向こうからも積極的には襲ってこないほどの差がそこにあった。
本来ならば来るべきでないほどに隔絶した力の差でもって、悠々と品定めを行なう。
ここは近所というだけあって、新米や今一ぱっとしない実力の冒険者が腕磨きのため数多くやって来るのだ。
それだけに来場者も多く、ギルドが用意した拠点の受付には100人を優に超えるほどの冒険者が訪れるほどである。当然母数が多いだけに彼女のお眼鏡に叶う存在、すなわち初々しい新米女性冒険者もいると考えられる。
(……ま、今はまだお昼前。時間的にはまだまだ余裕があるのよねえ。のーんびり見極めるとしm……)
『てやあああああぁぁあーーーーーー!!!!!』
気長に見定める覚悟で冒険者たちを見つめていたマリーツィアの耳に、きんきんとするほど高く若々しい叫びが届く。
その声の主はすがすがしいほどのへっぴり腰で、声だけは勇ましく最弱クラスモンスターと相対していた。
『てっっっ、tttttてやあっ!!!!!たあっ!!せえやあああああぁあああああ!!!!』
ぺちんっ、ぱちんっ、ぽこんっ、あまりにも覇気のない剣戟が、軟体質のモンスターに降りかかる。
最弱のひとつに数えられる弱小モンスター、スライム。その弱い所以は動きの遅さと、炎への耐性が低すぎることにある。
下級魔法どころか松明の炎を近づけるだけで蒸発するほど揮発性の高いそのゲル状ボディは、初心者がレベルを上げるのにはうってつけの存在だった。
『とおおおおおおおおっっ!!!!えいっ!!やあああああああああ!!!!』
しかしそれは弱点を突いた場合の話。そうでない場合、少々話は異なってくる。
というのも半ば液体でできたその身体は、その性質上物理的な衝撃には非常に強い。
斬って、突いて、頑張ってその身体を細切れにしたとて、その端から再結合すればいいのだから。
スライムを倒すには細切れのさらに先、気体にして蒸発させてやるのが一番の近道にして唯一の正解だと言って差し支えない。
そしてスライムのようにありふれた魔物の攻略法など、付近の民家の母親ですら知っている。仮にも冒険者として真っ当な教育を受けているのならあり得ない、物理でスライムと戦うという選択。
『えいっ……!!ぐす……!!えいぃっ……!!』
(………………この娘だ。この娘に決めた!)
あまりの倒せなさにとうとうべそすらかき始めてしまったこの可哀そうな新米冒険者を、魔物の数倍は邪悪な瞳が捉えた。
不憫すぎるこの子がスライムから逃げるという選択をするまで実に10分もかかり、それまでの戦闘で受けたダメージを回復するため何本ものポーションを飲んでしまうのだった。
新米冒険者(ティファニー・フィックス)
プロフィール
レベル 1
HP 83/83
MP 2/2
??? ???/???
装備
手 初心者の剣
体 初心者レザーアーマー
足 初心者ブーツ
所持スキル スラッシュ
習得魔法 なし
所持アイテム HPポーション×12 手作り弁当×1 おいしい水×2
昨日ギルドの冒険者学校を卒業したばかりの、新米も新米な冒険者。
魔法を使う基礎も学んではいるものの、彼女は極端なまでに魔法の才能がなかった。
初級魔法に必要なMPは5。今の彼女ではいずれの魔法も使うことができないのだ。
その代わり剣技においてはまずまずなのだが、それもやはり初心者相当。まだまだ未熟さは否めない。
先ほどの情けなさは、はじめての戦いがよりにもよって相性最悪のスライムだったことに起因する。
スライムには物理攻撃がほぼ効かないため、万一にも取りつかれてしまったら魔法を使わず引き剥がすことは難しい。へっぴり腰だったのはそれが理由である。
しかし逃げるという選択肢が即座に浮かばないあたり、経験以外にも色々と足りていないのは間違いない。
そんな彼女が変態に目を付けられるということ。それが何を意味するだろうか……?
__________________
1時間後……
『つっっっっ……かれたぁ……さすがは初めての冒険ってところね。ここらでちょっとひとやすみ……』
それからずっと新米なりに努力を重ね、4~5体ほどの魔物は撃破できたティファニー。新米だけあって倒すペースはお世辞にも速いとは言えないが、そこには魔法を使えないという理由も深く関わっていたことは言うまでもない。
遭遇した魔物の中にスライムが一匹でもいたなら逃げるしか手がないのだから。
ひたすら逃げまどい、倒せそうな敵がいたら倒す。そんな非効率な戦いを1時間も続けてきた彼女の疲労は深く、休憩は必須だった。
(あら、休憩みたいね。まぁーーーー……あんな雑魚相手に逃げるしかないっていうのはなんとも……カワイくっていいわね!)
(でもまだまだ未熟ねえ。魔物避けの陣くらいは敷いておかないと……ああ、魔法使えないんだっけこの子。なら仕方ない、少しだけ手を貸してあげるわ)
そんなティファニーのため、物陰でこっそり伺っていたマリーツィアが動き出す。
洞窟の行き止まりに座り込んだティファニーを守るため、行き止まりに繋がる経路に魔物避けの陣を敷いたのだ。
こうしておけば魔物はティファニーに繋がる唯一の道を通ることができず、彼女の安全は確保される。
『しっかし……スライムがこんなにめんどくさいとは思ってなかったなあ。物理を極めれば何とかなるって思ってたけど……やっぱ一人は魔法使える味方がいた方がいいのかなあ』
『……いや!負けてはダメよティファニー!筋肉を信じて!筋肉は!全てを!解決!するんだから!!!』
(うっっっっわあなにこの子!!?なにこの子!?かわっっっ……!!!?ああダメ、ダメよマリーツィア、冷静になるの。いま襲ってはダメ。もっと育ててからじゃなきゃ……)
(ああでも、それにしても……!筋肉自慢の癖にこの……この柔らかそうな2の腕はダメよ!お姉さん理性を保つのに必死になっちゃうわ!!)
新米であるがゆえ、まだ年若いがゆえに育っていないティファニーの筋肉。正直な感想を言うのであれば普通の少女より少し引き締まっている程度に過ぎないそんな身体で、筋肉自慢がするようなポーズをとる。そんな幼くすらある行動はマリーツィアの欲望をずきゅんと射抜いていた。
年齢相応に柔らかさの残る2の腕をアピールし、やはり柔らかさ感じられるお腹を反り返らせる。筋肉どころか、女子的なその柔さをアピールするかのような行動は確かに愛らしく見えたことだろう。
それを魔物ひしめく洞窟で、誰に見せるでもなく行うという無謀さ、無邪気さも存分に感じさせるのだから。
『う……ん……』
『ああダメ……お腹いっぱいになったら……ねむく……』
『…………くぅ……くぅ……』
(……え!?え!!?なにこの子!!!?小動物か何か!?この状況で寝るの!?無防備にも程がない!?大丈夫なの冒険者養成学校!?)
(……いえ、まあなんにしても……私がいてよかったわね。私が魔物避けをしていなかったら今頃食事もできてなければお昼寝もできてなかったんだもの)
なんと洞窟内でお昼寝までをも初めてしまうティファニー。本人が思う通り、マリーツィアがいなければ最悪命にかかわる事態に陥っていてもおかしくはなかっただろう。
しかし彼女がティファニーを助けるのは、もちろん善意ではない。その心の内にはしっかりと策謀が巡らされているのだ。
「……ふふ、お手製のお弁当を食べるまでに飲んだお水……どれくらいかしら?ギルドから支給されたガラス製の水ボトルにして2本も、飲んじゃったわね?そんな状態で寝ちゃったら大変よ、ふふ……」
「動き回って喉が渇いていたのでしょうけど……さてどうなるかしらね。これまでの戦いで飲んだ8本のポーションと、今しがた飲んだ2本のお水と……ここからは私も優しいだけじゃあなくなるからね。ふふふ……」
眠りに落ちたティファニーの傍で、語り掛けるように独り言を呟くマリーツィア。それは内に秘めた野望を密かに打ち明けるものだった。
彼女がティファニーの昼食を守護したのは他でもない。貴重な水分補給の機会を邪魔されたくなかったからだ。
まさか昼寝までしてしまうとは想定外だったが、それならそれで構わない。彼女がここで眠りこけている間に、彼女の身体は飲み込んだ水分を立派に吸収してくれることだろうから。
(さて、ここからは下ごしらえ……と)
そしてここから、変態の毒牙が剝き出しになる。
哀れな獲物はこれからどうなってしまうのだろうか。
ティファニー・フィックス
プロフィール
レベル 1
HP 83/83
MP 2/2
??? ???/???
状態 触覚改変
装備
手 初心者の剣
体 初心者レザーアーマー
足 初心者ブーツ
所持スキル スラッシュ
習得魔法 なし
所持アイテム HPポーション×12 空のガラス瓶×2
変態の毒牙にかかった哀れな新米冒険者。
寝ている間に全身から感じられる触覚にマリーツィアの手による改変が加えられた。
今回何をされているかはまだ不明だが、普段この魔法を使われた相手は自分の身体の感覚を失い、攻撃に対して無防備となってしまう。
普段は痛覚がアラートとなり、攻撃を受けていることを目より耳より正確に教えてくれるが、それが無くなってしまうのだ。
それに加えて視覚聴覚嗅覚までをも改変されれば、相手はもはや何をされているか、あるいは自分の身体がどうなっているかわからなくなることだろう。
そしていつの間にか何もわからなくなる。全てがブラックアウトし、死に至る。恐るべき魔法の一つが今、新米冒険者にかけられているのだ。
なお、この魔法によって改変されるのは痛覚だけではない。改変されるのは「触覚」そのものであり、皮膚や内臓などの神経で感じられる全ての感覚をマリーツィアの好きにできてしまう。
痛みはもちろん、身体を圧迫される感覚もわからなくさせることが可能。
ただし「改変」とは言うものの実際のところ、本来感じているはずの感覚を遮断するのが精いっぱいのようだ。
感覚改変魔法を扱うマリーツィアにとっても、「身体中の感覚を好きにされる」のを鮮明にイメージするのは困難であると言える。
それでも今、自分の身体がどうなっているかわからなくさせるだけでも大きな効果はあるだろう。特に冒険者として、自分で自分を管理しなくてはならない相手に対してはなおさらに。
__________________
45分後……
『う……んぅ……』
「あら、お目覚め?ずいぶんぐっすり眠っていたようね」
『あ……あれ?ここは……それに、あなたは……?』
「あらあら、大丈夫?ずいぶん寝ぼけているようね」
あえてティファニーの前に姿を現したマリーツィアは拍子抜けをした。新米冒険者の見せたこの反応により、彼女が顔を出した理由が無くなってしまったから。
「貴女、洞窟の中で眠ってしまっていたのよ。ここには睡眠系の異常攻撃を持つ魔物はいないから……貴女、お昼寝しちゃったのね」
『え!?あ、ああ……そういえばそうだったなあ……ごめんなさい。お姉さんが助けてくれたんですか?』
「そうよ。私もそれなりにベテランだから、たまにこうして新米ちゃん達が困ってたら助けて回ってるの」
『ああ~~…………そうですかぁ……うわ~……やっちゃったなあ、私……』
「気にすることはないわよ。新米だったらなおさら、慣れない魔物との戦いで疲れちゃうこともあるだろうしね」
「でも、これだけは心しておいて。命あっての物種、よ。寝るのにしても、その前に陣を敷くことだけは忘れないで。お姉さんとの約束よ」
『……あの、本当にごめんなさい!私、冒険者になってみんなの役に立ちたかったのに……いきなり、こんな……!』
「気にすることないわ。若い子がこうやって頑張ってくれることが、何より励みになるもの」
『……!あ、ありがとうございます!!私、がんばりますっ!!』
一礼し、そそくさと走り去っていくティファニー。その足取りは軽く、疲れはすっかり癒えたようだった。
マリーツィアがこうして顔を出すことに決めた理由は極めてシンプル。こっそり張っていた魔物避けの陣にもし、寝起きのティファニーが気づいてしまったら面倒だと思ったからだ。
例えばもう少しティファニーが利口で、寝ている間に襲われなかったことを怪しんで誰かに聞いて回ったり、あるいは不安がって帰ってしまったらそれは困ったことになる。
それなら自ら助けたことを白状した方が、結果として面倒ごとは少ない。マリーツィアはそう考えたのだが……
実際は想像以上にティファニーは純真で、まったくその必要性はなかったようだ。なにしろ自分が無事であったことに疑問を持つどころか、盛大に寝ぼけて現状をまったく把握できていなかったのだから。
結果として新米冒険者に恩を売ることになったマリーツィアだが、しかしこれから頭を下げるなどは到底及ばない善意の取り立てが始まることとなるのだ。
「……それに、お礼はこの後たんまりしてもらうしね」
走り去る姿に向けてぽつりとひとりごちるマリーツィア。その表情は先ほどの優しいおねえさん然としたものとは全く変わり、欲望に歪んだ笑みを浮かべていた。
既に下ごしらえは済んだ。本来すべきことに気付かず、さらに奥へと進んで行く新米冒険者を後ろからこっそりと追いかける。
これまでの戦いでコツを掴んだのかさくさくと奥へ進んで行くティファニーは、その身を襲う異変を知る由もなく戦い続けるのだ。
後ろで見守る魔導士の手に、弄ばれるまま。
そして昼寝から1時間と少々が過ぎた頃。彼女の身体を異変が襲う。
(……そろそろ頃合いかしらね。だいぶ奥まで来たことだし)
(じゃあ返してあげるわ。身体の危機を報せる、感覚を……)
遠くからティファニーの戦いぶりを見ていたマリーツィアが、その手をかざす。その直後……
『ひィっ……ぅ!!?』
(なっ、なに?急に……!?)
少女の身体を、異変が襲う。否、これまで気づかずにいた異変にようやく気付くことができたのだ。
これまでマリーツィアの魔法によって遮断されていた「下腹部周辺の感覚」。それが今ティファニーの元に戻ってきたのだ。
それはすなわち痛覚。痛みへのセンサー。そして圧迫される感覚を報せるセンサー。そして……
その内部にあるものが臨界を超えたことを報せるセンサーが今まで遮断されていたということ。
今まで感じることのできなかった「尿意」という感覚を今彼女は突きつけられていた。
『だっ、だめ……だっ、これ、たたかう、どころじゃ……!』
しかし、感覚が遮断されているからといってそこの働きが止まるわけではない。遮断された感覚はそこに溜まる感覚を報せることなく、秘密裏にそこへ溜めさせ続けたのだ。
もしもこんなに溜まっていることを彼女が知っていたなら、とっくに帰ってしまっていただろうから。
そう。マリーツィアはティファニーの尿意を感じさせなくし、洞窟の奥地へと追いやったのだ。そして頃合いを見て解除し、尿意に悶える姿を楽しもうというのだ。
その企みは見事に的中し、彼女は時間をかけて洞窟の奥へと進んで行った。昼寝から後、溜まった尿意は相当なものだろう。
もはや戦うどころではないと、撤退を決意したのもつかの間。突きつけられるのは絶望的な現実。
洞窟の外まで、今まで進んできた分だけ長い距離があるということ。その道のりを、このコンディションで魔物と戦いながら行かねばならないということ。
『……が、がんばるっ……!』
ぎゅう、と拳を握りしめ、少女の戦いが始まった。
ティファニー・フィックス
プロフィール
レベル 1
HP 83/83
MP 2/2
??? ???/???
状態 もじもじ
装備
手 初心者の剣
体 初心者レザーアーマー
足 初心者ブーツ
所持スキル スラッシュ
習得魔法 なし
所持アイテム HPポーション×12 空のボトル×2
マリーツィアの策謀に嵌り、尿意を抱えたまま洞窟の深いところまで来てしまった新米冒険者。
今彼女がいる場所はEクラスの範疇ではあるものの、これ以上進むと洞窟のボス、すなわちDクラス魔物と遭遇する可能性があるほどに深いエリアである。
ここまで来るには道中で邪魔が無くても1時間ほどかかり、彼女は今回ここにたどり着くまで3時間以上かかっている。
すでに尿意は彼女の膀胱いっぱいまで溜まっており、ここからそれだけの道のりを行くまで耐えられるだろうか。
_____________
『う……ぐ、うううぅっ……!』
近所にある洞窟の深部。新米たちではそうそう足を踏み入れないであろう場所で今、超のつくほど新米の少女が身体を揺らしながら彷徨っていた。
冒険者としてあまりに日が浅すぎること、そして彼女自身が座学を極端に苦手としていることもあって普通ならしでかさないような単騎での吶喊というミスを犯してしまったのだ。
普通の冒険者であればいくら尿意を感じていなかったとはいえど、自分の実力を鑑みて途中で引き返すくらいはしていただろう。しかし彼女は持ち前の頑張りや気質が悪い方にでたのか、あるいはコツを掴んだことに夢中で忘れてしまったのか、ひたすら奥に奥に来てしまった。
そしてそれを諫めるはずの身体からのSOSもマリーツィアによって遮断されていた。何もかもが彼女にとって逆風と言える。
『たっ、たああぁぁ~~~……!!!!』
またしても腰が引けた剣戟を振りかざすティファニー。だが今回のそれは、怯えによるものとは違う。
もうすでにぱんぱんの水風船は、彼女に踏ん張ることを許してくれないのだ。
突き出したお尻を左右に振りながら懸命に剣を突き立てる少女だが、そんな彼女の周りには続々と魔物が集まって来ていた。
『ぅ……あう……!』
ティファニーが洞窟に潜ってから既に3時間以上が経った。まだ夕方には早いが、しかしここの洞窟は新米が多く来る場所。彼らの撤退は一般的な冒険者と比べて遥かに早い。
慣れた人と比べると体力と道具の消耗が激しい彼らが、魔物が活性化する夕方を待たずして帰ってしまうのも無理はない。
そして冒険者が引き上げれば、洞窟内にいる魔物は倒されることなくそのまま残る。あるいは外にいる弱小魔物はこの時を待っていたように外から入ってくることもあるだろう。それらがティファニーのいる深部に殺到するのは、ある種当然のことだと言えた。
しかしそれが彼女にとってうれしいかと言えば、当然そんなことはない。
『っっ……!!』
ぎゅう、と鎧のインナーを掴みながら、覚悟を決めた瞳でティファニーは剣を握りしめる。
全部を倒すのはとても無理だ。なら今の持てる力全部使って、脱出口を作ってやると。
『せえやあああああああぁぁあーーーーーーーっっ!!!!!!』
悲壮な決意を胸に秘め、新米冒険者の命がけの戦いが始まった。
30分後……
それから短くない時間が過ぎた。覚悟を決めて賭けに出たティファニーは、しかしそれに敗北しつつあった。
『ふっ……う、ふう……、ふっ……!』
短く途切れた不規則な吐息を漏らしながら、片手で剣を、片手で股間をきつく握りしめる。
時間と共に膨れ上がった尿意は、ついに彼女から戦うという選択肢をも奪い取ろうとしていた。
しかして彼女が腹を括って突進したはずの敵は未だ多く、せっかくの獲物を逃がすまいとその行く手に立ちふさがっていた。
もはや戦うどころではない。もはや漏らすかどうかの次元の問題ではない。これはもはや命に関わる問題だ。
あるいはこのまま漏らしてしまって、すっきりした状態で戦った方がいいのでは。そんな考えすら脳裏をよぎる。
(ほんとに……そうしちゃおっかな。ダンジョン汚すと一週間謹慎になるけど……でももう……)
ダンジョン。それは遺跡も含めた、魔物の住処となっている洞窟などを総称してそう呼ばれる。
旧時代の遺物が埋葬されている遺跡はともかく、魔物の住処たる洞窟も実はギルドの管理下に置かれているのだ。それというのもダンジョン入り口には必ずギルドの拠点を置き、冒険者の支援をすることが義務付けられているからだ。
ダンジョン内で死んだ冒険者がいればその遺品を持ち帰らなければならないし、あるいは死にかけている冒険者が置き去りになっていれば救助しなくてはいけないから。
そんな管理の行き届いたダンジョン内である。多くの冒険者が修行のため訪れるような近所の洞窟などでは、基本的に美化活動が言い渡されているのだ。
ごみの投棄、無断排泄などはダンジョンの環境を著しく汚し、冒険者の修行を阻害するとして一週間のライセンスはく奪が言い渡される重罪である。
もちろんレベルの高いダンジョンであればそれどころではないため免除されるが、ここのような場所であれば当然に適用されるもの。冒険者はそのような事態を迎える前に帰還するのが普通だ。
しかしもうティファニーには選択肢がない。尿意を抱えたまま戦って勝てるわけなどなく、たとえ罰があるとしても死ぬよりはずっとましだ。
そして何より、もう我慢ができない。様々な思惑が胸のうちを飛び交う中、少女が決意を固めた。
……その時だった。
「あら、あらあら。さっきの子じゃない。だいじょうぶ?ずいぶん囲まれているみたいだけれど」
『……え?あ、あなたは……!』
まるで見計らったような。否、正しく見計らったタイミングで、マリーツィアが助けに現れたのだ。
優しさに満ちた微笑みを浮かべながら、マリーツィアは中位魔法でティファニーの前にいた魔物を一掃する。
「さ、早くお行きなさい。道は作ってあげたから」
『え、あ……あの……』
「急いだほうがいいわよ。ある程度は焼き払ってあげたけど、まだまだいっぱいいるもの。また囲まれちゃう前に……ね」
『あっ、あっ、ありがとうございます!!本当に……!』
「気にしないでいいわよ。本当に」
「……そう、本当に……」
退路を作ってあげたマリーツィアは、そこからティファニーを逃げさせてあげた。それは彼女の目的を果たすためであり、断じて優しさなどではないのだが。
彼女も恐らく感づいたのだろう。尿意があるままでは勝てないと察した少女が、あのまま漏らしてしまいそうになっていたのを。
それではあまりに面白くない。ゆえに彼女は少女を助けてあげたのだ。
この方がよほど試練であると知ることもなく、無我夢中で逃げていった新米の少女。その後を追うべく、B級冒険者の本気が弱小魔物に牙を剥く。
「……さて、私は忙しいの。だから一撃で終わらせてあげるわ」
洞窟の天井が焦げるほどの熱が、目もくらむほどの光が、真っ暗闇の洞窟に姿を現した。
マリーツィアの手のひらの上。小さな小さな光の玉が、しかし岩をも焼くほどの超高温を発していた。
それは人類の知覚する最も熱いモノ。遥か天上の高みにあって、遠く離れた地球をも温めるほどの熱を持つ特等星。
炎熱魔法の上位。小型の太陽を生む大魔法。
「ヒトの知る最も熱きモノ……星々の熱を味わわせてあげるわ」
飴玉サイズの太陽。そんな代物が至近距離にあれば、たとえ具現化されているのが一瞬であっても周囲にあるものを焼き焦がすのには十分すぎる。
表面温度にして6000度。地球上にあるあらゆる炎より熱い代物なのだから。
そんなものを弱小魔物が受けて無事でいられるはずもなく、主人であるマリーツィアを除いた全てが焼け焦げ消え失せていった。
「……さて、追いかけてあげなきゃね。あんなにカワイく腰を振るまで育て上げたんだもの……もっともっと、カワイイところを見せてもらわなくっちゃ」
魔物を片付けると、彼女は先ほど逃がした少女の後を追うため駆け出していく。
魔物の何十倍も強く悪辣な魔女の手はどこまでも長く、哀れな小虫を絡めとるのだ。
ティファニー・フィックス
プロフィール
レベル 1
HP 41/83
MP 2/2
??? ???/???
状態 もじもじ 視覚改変
装備
手 初心者の剣
体 初心者レザーアーマー
足 初心者ブーツ
所持スキル スラッシュ
習得魔法 なし
所持アイテム HPポーション×12 空のボトル×2
マリーツィアによって魔物の手からは逃れることができた新米冒険者。
しかし魔物より数段タチが悪いのに捕まってしまっている現状、彼女にはただ耐えるほかに抗う手段がない。
はたして無事にギルドへ帰り、用を足すことができるのか。それとも魔女の策謀のまま、あえなく恥ずかしい目に遭わされてしまうのか。
それらすべての鍵は、彼女の括約筋が握っている。
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それから30分の時が過ぎた。
魔物ひしめく深部からただ夢中で逃げまどっていた少女は、ぜえぜえと息を荒げながら後ろを見やる。
これまでは恐怖と、ベテランお姉さんの戦いを邪魔してはいけない一心でひたすら時間も気にせず走っていた。だが疲労は限界で、これ以上走ることはもうできない。
『ぜえっ……ぜえっ…………アぐうっ!?』
きゅうん、お腹を射抜く鈍い痛みが、少女の身体から落ち着きを奪う。
これまでは夢中で走ることである種紛れていたのだろう感覚が、一息ついたことでより勢力を増してぶり返していた。
走っている間も着々と少女の膀胱に溜まり続けた尿意。それが少女に恥ずかしい我慢のポーズを強いる。
『ダっ、だめ……!ほんとにもう……!でもその辺ですると怒られ……ど、どうしよ……?』
もう我慢は限界だ。地上までなんて絶対に我慢できない。
しかしこのままここでしてしまえば、出来上がった水溜まりは消しようもない証拠としてこのじめじめとした洞窟に残ってしまうだろう。
冒険者に与えられる罰則としてはもちろん、一人の少女としてそれは恥ずかしすぎる。
だからティファニーは必死でかばんを漁っていた。なにかいいものはないか、と。
そして見つけた。ギルドから支給された、こういう時に役立つモノを。
『……あ、こ、これ……!』
ティファニーが手にするもの。それはギルドから支給された水の入っていたびんであり、今は中身が入っていない空の状態だ。口の大きなそれは、これから使う用途にも実に向いていた。
実のところこれはギルドでも想定していた使い方であり、ダンジョンを汚されないための暗黙の了解でもあったのだが。
しかしこれはまさしく渡りに船。尿意を受け止めてくれるものを見つけた彼女にはもう、他に手はなかった。
『ふっ……ふっ……!』
くねくねと左右に腰を振りながら、鎧のインナーを下ろしていくティファニー。
露になった小さな染み付きの白い下着を膝まで下ろすと、中腰の姿勢で出口に瓶の口をあてがう。
あとはそのままそこに、我慢を続けたものを解き放つだけ……
零してしまわぬよう、いまにも噴き出てしまいそうなのを震えながら堪えるそこに込めた力を抜いて、今。
【ピキー!!キー!!】
『っっっっ!?ひきゃああああぁあああぁっっっっ!!!?!?!?』
だが、それは叶わなかった。まさに今放とうとしたその瞬間、彼女の眼前に洞窟おなじみ吸血コウモリが現れたから。
魔物が現れてはとてもそれどころではない。ティファニーは慌てて下着とインナーを履きなおし、がくがく震える両脚で魔物と相対する。
じんじんと出口が痛み、はやくしたいと訴えるのを無理矢理抑え込んで。少女は震えながら魔物と戦わされるのだ。
(な、んで……!なんでこんな時にぃ……!!』
泣きそうになりながら、少女と魔物との戦いが始まった。
20分後……
『あ、あああ……!!はやく、はやくぅっ……!』
先の魔物との戦いは、結論から言うとほとんど敗北に近いものだった。
というのも先ほど彼女がしようとしていた場所は吸血コウモリの巣だったようで、一匹を相手しているうちに仲間が続々と到着。仮に今いるのを仕留めたとしても、もはやそこですることは叶わず……
尿意限界の彼女はおあずけの切なさを引きずったまま、次の場所を探すことを余儀なくされたのだ。
それからずっと洞窟をさまよい歩き、たどり着いたいい感じの行き止まり。次はここを「おトイレ」にしようというのだ。
逸る手で乱暴に服を下ろし、震える手で出口に瓶をあてがい……
照準を合わせることもしないまま、限界の尿意が放たれ始めた。
ぶしゅううううううぅーーー!!!
『あ……はああぁ……』
瓶から盛大に照準を外し、地面に向かってまっすぐ伸びていく野太い尿線。
ずっとずっと我慢し続けてきたそれは、耐えてきた分だけ勢いよく放たれていく。
ようやくすることのできた解放感がいっぱいに胸を満たし、深いため息をついた。その瞬間。
ズドオオオオオオン!!!!
『ひィっ!!!?』
ぶじゅびじゅじゅっ!!じゅっ、じゅ……
まだ10分の1ほども出していないうち、すぐ近くで爆発音が響いたのだ。
その音に驚き、また逃げるための生存本能か放尿は途中で寸断され、またも苦しい圧迫感が少女の下腹部を襲う。
だがそれに苦しむのもつかの間、音のした方からは先ほどのお姉さん……マリーツィアが飛び出してきたのだ。
「ごめんねお嬢さん。ちょっと乱暴だけど……逃げるわよ!」
『え!?あ、あの、いったい何が……!?』
「コボルトよ!コボルトの大群!まともに相手しちゃいらんないわ!」
ティファニーがマリーツィアの飛んできた方を見ると、そこには確かに通路を埋め尽くすほどの緑色をした小人がうじゃうじゃとひしめいていた。
コボルトのランクはD相当。一体ですらそれなのに、それが集団で行動するとなるとその厄介さは3割増しだ。
群集団の規模にもよるが、大きなものならCランク相当の懸賞金がかけられることもある厄介な魔物。そしてぱっと見た感じの戦力はCランク相当のものだった。
どう見ても、こんな近所の洞窟にいていい存在ではない。
『ど、どうするんですか?お姉さん……』
「とりあえず、隠れるしかないわね……アイツらが通り過ぎるまで」
『で、ですよね……』
岩陰でもぞ、と身を捩るティファニー。ただでさえ限界だったのに加え、先ほどのおあずけで括約筋はもうぼろぼろの状態だ。これ以上の我慢は難しいどころの話ではない。
そんな彼女の様子を見てとると、マリーツィアは内心でほくそ笑んだ。
今のこの状況は彼女にとって、まさしく狙い通りのものなのだから。
ティファニー・フィックス
プロフィール
レベル 1
HP 38/83
MP 2/2
??? ???/???
状態 もじもじ
装備
手 初心者の剣
体 初心者レザーアーマー
足 初心者ブーツ
所持スキル スラッシュ
習得魔法 なし
所持アイテム HPポーション×12 空のボトル×2
しようとした瞬間なぜか邪魔が入る新米冒険者。
まるで狙いすましたかのような妨害ぶりだが、本当にそれは偶然なのだろうか。
二度に渡るおあずけでその我慢は決壊寸前。いつまで耐えられるだろうか。
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『お、おねえさん、まだですか……っ?』
「うーん……まだ列が途切れる様子はないわね。というより進軍がめちゃくちゃ遅いというか……」
『そ……んな……!』
「コボルトにはよくあることなのよ。あいつら鼻や耳はいいけど頭は悪いでしょ?まあそれでも他の魔物よりかはマシなんだけど……ともかくそんなだから列を作って歩くと必ずこうなるの。遊びだしたり、つっかえたり……」
隠れ始めてから30分。未だ列の途切れる気配はなく、焦りと尿意だけが募る。
焦りもあらわに問いただしてくるティファニーに残酷な現実を突きつけるマリーツィア。自分を縛り付けるこの大行列が、当分消えることはないという事実。
それは少女の持つささやかな恥じらいを、粉々に打ち砕いた。
『……っ、そ、その……あの、私……いそがないと、いけないことが……その、あって……だから……!』
「急がないといけないこと?それはいったい何かしら?」
百も承知のうえでマリーツィアは聞き返す。この先に待っているであろう言葉を、他でもない彼女自身から聞きたくて。
自分が彼女を追い込んだことを棚に上げて。
『そ、その……えっと……わたし、その……ずっと、ぉ……おといれ……いきたくて……』
「……え?」
『も、もう私……がまん……できなくて……!』
「あ、あらあらそれは……困ったわね……」
「コボルトっていうのはね、とっても鼻がいいの。だからここであなたがもしもしちゃったなら……多分すぐ気づかれてしまうわ」
『そ……んな……!』
「後ろは行き止まり、前はコボルトの大群……うーん、参ったわね」
『な、なんとかなりませんか……!?わ、私、もう……!』
「……ともかく、もう少し待ってみましょう。列さえ抜ければ望みはあるはずだから」
『……う、うぅ……!』
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『……ぉ……おしっこ……おしっこ、がまん、がまん、がまん……』
『おしっこ……おしっこ……おしっこ……』
(……!!ああ、なんてカワイイの……!もう冷静さなんて少しも残っていないのね。ただ我慢するだけに必死で……ああ、ああ……!)
(ああもうダメ、私が我慢できないわ……!)
「……あら、列の後ろが見えてきたわね」
『…………!!!!!』
「待って!まだよ、完全に通り過ぎるまではまだ、だめ」
『ああ、あ、おね、さ……!いじ、いじわる、しないで……!!おしっこ、おしっこもれちゃう……!』
「我慢して。コボルトに八つ裂きにされたくないのなら」
『うぅ、ぐ……うぐううぅ……!』
ようやく見えてきたコボルトの最後尾。それが通り過ぎるまで、してはいけない。
まるで統制のとれていないコボルトの大行列。このためだけに誂えられたかのような理想的時間稼ぎによって、ティファニーはあれから1時間半もおあずけを食らい続けた。
痛む、を通り越してもはや痺れてすらいる出口を必死に指で抑えつけ、辛うじてその噴出を留めておくのももう限界だ。今にも我慢を重ねた熱水を盛大に吹き出してしまいそうになる。
1分、2分、永劫にも等しい時間を耐え、霞みゆく少女の目から緑色の小人が完全に消え失せる頃。
ついに待ちわびた言葉が、頼れるおねえさんからかけられる。
「……行ったようね。ごめんなさいね、辛かったでしょう?もう、いいからね」
『………………ぁ、して……いい……の?おしっこ……ぜんぶ……』
「その前に、服だけは脱いでおきましょうか。汚れちゃうからね」
極めて手際よく、マリーツィアの手によって衣服がずり下げられる。
むわりと臭いを放ちながら現れた白い下着は、かなりの部分に薄黄色の染みができてしまっていた。
ぎゅうぅ、と音がするほどきつく押さえつける手をどけるなり、熱い雫がしゅるしゅると断続的に吹き出していく。
決壊の瀬戸際にある少女の防波堤。それが壊れる間際、少女の下着はずり下げられ……
ティファニー・フィックス
プロフィール
レベル 1
HP 83/83
MP 2/2
??? ???/???
状態 噴射寸前
最後に済ませてから 10時間半経過
ぶっっっしゅうううぅうぅぅううううううううううーーーーー!!!!!びゅしししししししっっ、じょぼぼぼぼぼぼぼ……
『ああ、あ……はふぁあああ……』
ちょろりと生えた陰毛覗く少女の陰裂が露となるなり、盛大に始まった少女のオシッコ。
いたいけな割れ目を押し広げて勢いよく伸びる少女の尿線を、マリーツィアは手にしたびんで受け止める。
じょぼじょぼと勢いよく注がれるそれは、10秒と経たずにいっぱいとなり……
「あらあら、少しでいいから止められる?びんがもういっぱいで……」
『う、あ……ぐううぅっ……!』
びゅじゅじゅぢぢっ!!ぶしゅうっ!しゅいいっ、じゅいっ!
次のびんをあてがう間にも熱く熱く少女の我慢を超えて溢れ出し、洞窟の床に当たって跳ね返る。
きゅぽんと次のびんのふたを開け、股間にあてがう。刹那、再び勢いよく少女のオシッコが解き放たれる。
びしゅううぅうぅううううううううーーーーーー!!!!じょぼじょぼぼぼぼぼ……
『あ、あああ、あはあああぁ……!』
「あら……次のびんでも足りなさそうねえ、これは……」
どれだけ出してもその勢いは衰えることがなく、二本目のびんまでも黄金色の液体が満たしていく。
とうとう二本目からすらも溢れ出したそれをもう受け止めることは叶わず、全開のオシッコは洞窟の地面にその痕跡を残していく。
かくも大きく、広く、二つのびんを満たしてもなお出したりないそれは盛大な水溜まりを形成するのだった。
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「ふふ、実に良かったわ。やっぱりこの魔法を研究しててよかった……」
その後、事を済ませてすっきりするなり眠ってしまったティファニーをギルドまで送り届けたマリーツィアは、手にしたふたつのびんを手にご満悦だった。
神経を張り詰めていた疲労で少女が眠ってしまったため後始末は格段に楽となり、余計なやり取りをすることなく帰ることができた。
なにしろ彼女はあの時点で感覚改変を受けていたため、会話の中でささいなほころびなどがあったら、尿意が無くなって冷静さを取り戻したらバレる恐れがあったのだ。
そう。ティファニーはあの時点で感覚改変を受けていた。
それはありもしないものの音、姿を見させられるというもの。すなわち彼女はマリーツィアの生み出した幻影によって追い立てられていたのだ。
余りにも良すぎるタイミングは、それが原因だった。
存在しない魔物に追い立てられる、など傍から見れば奇妙としか言いようのない光景だっただろうが、あの時点で洞窟内にほとんど人はいなかったことが良くも悪くも状況に大きな影響を与えたのだ。
ともかく自身の魔法と演技力により、見事相手を望み通りの事態に追いやることができた。次はどうしようかと、満杯に生温かな黄色い液体を湛えたびんを手に思案する。
邪悪な魔女の野望は、まだ始まったばかりだ。
マリアンヌ・ツィー・アウストリア(マリーツィア)
プロフィール
使用魔法 視覚改変 聴覚改変 嗅覚改変 触覚改変 四大属性魔法全般
持ち物 ティファニーのオシッコ×2