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12:00 『現場からお伝えします。立てこもり事件が発生しております宝石店の前は警察関係者と報道陣でごった返し、高級ブランド立ち並ぶ繁華街には似つかわしくない喧騒に____』 他国と比べ、銃所持への取り締まりの厳しさがゆえか比較的に凶悪事件発生率の低い日本。だがそれでも皆無というわけではない。 数年、あるいは十数年かに一度、語り継がれるほどの凶悪事件は起きてしまうものである。 そして今、ある宝石店にてそれが起こっていた。 猟銃を改造したとみられる散弾銃を手に宝石店へと押し入った犯人が逃走に失敗。店内の防犯システム発動に伴い、迅速に警官隊が駆けつけた……のだがそれに逆上した犯人は店内にいた手近な女性従業員を人質に立てこもったのだ。 メインストリートに面した店舗から奥へ進み、宝石店という性質上堅固に作られた大型倉庫。そこに銃を手にした男性と女性従業員2名とが立てこもる籠城戦。 外は完全に警官隊が包囲しているが、迂闊に突入しようものなら罪のない女性従業員が犠牲になりかねない。 こうした場合に採り得る手段はふたつ。ひとつは何らかの手段で入り口を確保して犯人に気取られないよう接近すること、そしてもうひとつが犯人の疲労を待つこと。 警官隊と異なり犯人はたった一人。警官が突入すると同時に人質を撃つとはいえど、それができるのは本人がそれに気づいた場合に限る。 犯人も人間である以上、警官の動きを察知するのにも限度がある。気を張り巡らせていられるのはせいぜい十数時間程度といったところで、それを過ぎれば突入する隙も生じるだろう。 だがしかし、この作戦にはひとつの大きな問題があった。長い時間をかけることで疲弊するのは、何も犯人だけに限った話ではないのだということが。 犯人に巻き添えられ、共に立てこもる羽目となった人質もまた長時間を極限の緊張の中耐えなければならないということが。 (なんで、なんでこんなことに……っ!) 「……っ」 犯人に銃を突き付けられ、壁際に両手を上にして立たされる女性従業員ふたり。彼女たちふたりはまた、それぞれに様々なものを耐えていた。 それは死への恐怖、犯人への恐怖、降りかかる理不尽への怒り、ままならない現状への焦り、そして…… (せ、せめて昼休憩の後に来てくれてれば……!) 心の中で恨み言をつぶやく、女性店員の長い一日が始まった。 14:00 犯人が強盗に及んだのは10:45分ごろ。その後立てこもったのが11:00ごろ。 事件発生から3時間以上経ってもなお、状況は膠着していた。 それは宝石店であるがゆえの優れた防犯システムと、堅牢な構造による。 宝石店はその性質上、外からの侵入に対して非常に鉄壁だ。死角なく張り巡らされた監視カメラによるリアルタイム監視の様子は、常にいくつものモニターに映し出されている。 だがそれゆえに、一度乗っ取られてしまうと奪還が非常に難しいのだ。 外からの侵入を隙間なく監視する無数の目。それが今は機動隊の突入に対して向けられているのだから。 セキュリティ強化の一環として倉庫など重要地点に置かれている監視モニター。それが今犯人の手に渡っている以上、気づかれないよう突入するのは至難を極める。 そのため警察は臨時対策本部を設置。辛くも逃げ出した宝石店店長と共に比較的手薄な外壁部分の洗い出しなどに取り掛かった。 17:00 それから3時間が過ぎた。残念ながら目ぼしい成果はまだ出ていない。 それというのも店内の防犯システムには本当に穴が無く、倉庫に繋がる換気口は絶無。さらに倉庫はビルの外壁に面しておらず、その周囲をぐるりと他のスペースが囲っているのだ。 喩えるならばドーナツのように、その周囲を店員の通用口や休憩所などがぐるりと囲っていて、そこはすべて監視カメラでくまなく見張られている。そこに機動隊がいようものなら即座に人質が射殺されてしまうだろう。 事実、犯人は2~3時間に一度自分の存在をアピールするように銃を発砲していた。 ズガァン、と派手な音を響かせることで、自分がまだ健在なのだと外にいる機動隊に示しているのだ。 犯人に油断がない以上、迂闊な行動はできない。外からの拡声器を使った声かけも、犯人の投降を促すには至らない。 だがそれも無理はないだろう。犯人の望みである人質と引き換えにしての無罪放免など、法治主義に基づく警察には許せるはずもないことなのだから。 確かに人質の無事は優先されるべきことだが、それと引き換えに犯人を解放などしてしまえば模倣犯が生まれるのは必然だ。人質さえとればどんな犯罪を犯そうが無罪放免という前例など作っていいはずがない。 さらに言えば犯人が迂闊に人質を殺そうものならそれは逆に、機動隊が突入できない理由を自分で排することになる。犯人にとっても人質の命は自分の命を担保するものであるのだ。 警察が恐れるのは迂闊な動きをして、犯人を無用に刺激してしまうこと。浅はかな突撃によって犯人が逆上、人質を道連れにしようなどといった考えを持たれてしまうことは何よりも避けるべきだ。 それだけに警察の動きは非常に慎重だった。なんとか犯人を刺激せず、秘密裏に接近して確保できる状況を作らなければならない。 人質の命を救うため、機動隊は歯がゆい時間を過ごすのだ。 24:00 草木も眠る深い夜。そんな中にありながら、機動隊と銃を手にした犯人とは未だににらみ合いを続けていた。 長い時間を極限の緊張の中過ごしてきたためか犯人の声に若干の疲れは見え始めたが、それでもまだ突撃を敢行するにはまだ少し足りない。 もっと大きな隙。それこそ少しうたた寝をしてしまうような、致命的な隙。それが多数の機動隊を突入させ、確実に人質を救出するには必要だった。 ギャンブル的な思考で言うのなら、それなりに高い確率で作戦を成功させることはできたかもしれない。だが人命がかかっている以上「もしかしたら」で行動を起こすわけにはいかないのだ。 30%や40%の成功率などもっての外、70や80でもまだ足りない。100%にほど近い絶対的な確証なくして、人の命がかかった行動を起こすわけにはいかないのだ。 しかし時間がかかればかかるほど、犯人と機動隊とはまた違った人物の体力が心配になってくる。それは犯人と共に緊張のただ中にある、人質の体力だ。 犯人が時折人質の命と引き換えに警察へ食料を要求し、警察は人質にもそれを分けるように要請しているとはいえ、それでもこんな状況で喉を通るかは怪しい。 そうでなくとも銃を突き付けられた状態で14時間もい続けるのだ。下手をすればその消耗は犯人や機動隊の比ではないかもしれない。 そんな中でも人質は休むわけにはいかないのだ。犯人が目の前に、少し機嫌を損ねるだけで殺されかねない相手が目の前にいる以上は。 だがそのような緊張の糸がいつまで保つだろうか。人間である以上そうした我慢にも限度があるのが普通だ。 そして人質が限界を迎えた時、犯人がどうするのかは本人にしかわからない。仕方ないとして無視をするのか、それとも不愉快に思うのか。 もしも人質の疲れを、眠気を、空腹を……あるいはそれ以外の生理現象を、その限界を、犯人が不愉快に思ってしまったなら。 犯人自身も疲れが見える中で、人質たちのそうした姿に逆上したら。ややもすれば最悪の事態をもたらしかねない。 そんな中にあって警察もただ何もしていなかったわけではない。店の正面や店内、また外部からは鉄壁の監視網で守られている宝石店にあって、ただひとつだけ手薄な場所の攻略に取り掛かっていたのだ。 宝石店があるのはビルの一階部分にあたり、その上には別のテナントが入っている。 その上階にあるテナントの店主およびビルの管理者とコンタクトをとり、上階部分の床をくり抜いて上から倉庫に突入するという作戦が実行されようとしていた。 もちろん大きな音を立てて気づかれてしまってはすべてが水の泡。そのためこの準備はとてもとても慎重に進められ、突入部隊の編成や機材の搬入、突入ポイントの指定や上階フロアの片付けなどに時間を要していた。 犯人に気づかれないよう慎重に準備を進め、ようやく今は機材を使って慎重に天井をくり抜く段階。 特殊部隊が用いる機材を運び入れ、天井に穴を穿つ段取りがようやく整ったのだ。 あとは突入のタイミングが整うのを待つだけである。 犯人の警戒心が高いタイミングで突入すれば、例えば犯人が銃を乱射してしまう可能性も考えられる。 それに万一人質が巻き込まれてしまえば一大事。そのため突入に先駆けて小さな穴を天井に開け、そこから偵察用の小型カメラを忍ばせたのだ。 これによって内部の状況を詳細に把握。犯人の意識が少しでも逸れたと判断された瞬間、天井に穴を開けてそこから機動隊が突入する。 準備は整った。あとは機を待つだけである。 翌日2:00 『現場からお伝えします。先ほど入った情報によりますと20分ほど前に機動隊が上の階から突入しました。突入後しばらくは中から銃声がいくつも響いておりましたが、今は一転して静まり返っています。犯人はどうなったのでしょうか。人質は……あ!今出口から機動隊に連れられた人質の女性二人が出てきました!繰り返します、人質が救出されました!しかしなにやら機動隊の方と揉めて……ああ!機動隊を振り切って駆け出しました!こっちに来ます!』 「「ど、どいて!どいてェェェェッ!!!」」 日付が変わり、2時間後。ようやく人質となっていた二人の女性は救出された。 日付が変わるほど長い時間警戒し続けていた犯人の心が緩んだ一瞬の隙。こくりこくりと眠気に抗ったその一瞬を突き突入した機動隊は瞬く間に現場を制圧。 それでもなお抵抗を試みた犯人が銃を乱射。人質や機動隊の人命を優先した結果、やむなく犯人に数発の銃弾を発砲。急所を避けるようにはしたものの暴れたことが仇となり傷口が拡大。夥しい出血により犯人は死亡した。 それにより助かったはずの女性二人はしかし、まるで今こそが修羅場と言わんばかりの形相で疾走していた。 初々しい新入社員と言った感じの女性と、その教育をしていたのだろう20代半ばか後半辺りの落ち着いた女性。その二人が今、髪を振り乱して走っていた。 その理由。二人をこうまで取り乱させる理由はすぐにわかることとなる。 助かった人質を報じるため後を追いかける無数の全国ネットカメラ。それが捉えたものは、トイレの前でひとつの扉を争う女性たちだった。 「せ、先輩どいてくださいっ!!わたし、ずっとがまんしててっ!!!もうむりなんですぅぅうっ!!」 「私もおんなじよぉっ!!!」 人目も憚らずぎゅうぎゅうと前を押さえつけ、腰をくねらせる女性たち。その目当てがなんなのかは言うまでもない。 明らかに限界寸前といったその姿は、彼女たちがこれまでどのような目に遭っていたのかを雄弁に物語っていた。 人質となった女性店員二人。彼女たちは犯人の前からいなくなることが許されていなかった。それは例えトイレであっても変わりなく、ずっとそこにいることを強要されていたのだ。 確かに犯人からすれば逃げられてしまうのがほぼ確実なうえ、仮に自分がついていくとしてもリスクが伴うことに変わりはない行為を許すわけにいかないのは間違いない。 だがその結果、女性たちは救助されるまでの実に18時間もの間つらい我慢を強いられることになってしまったのだ。 一進一退。トイレのノブをどちらが捻るかという争いの幕引きは唐突に訪れた。 「こ、こんなのパワハラですっ!!店長に言いつけますよっ!!!」 「な……っ!?そ、それとこれとはべつd」 「今っ!!!」 ガチャ!ばたんっ! 「あぁっ!!?」 人を教え導く者として嫌でも意識せざるを得ない言葉。パワーハラスメント。 現状に当てはまるかはともかくとして、出されたその言葉に怯んだ一瞬の隙が命取りとなった。 すかさず先輩の手を振り払い駆け込む後輩。トイレに入るや否や限界を迎えた水門からしゅるしゅると熱水が溢れ出す。 「………………っっっ!!!!」 びたんっ!! っっっっっしいいいいいいいいぃぃいぃいいぃいーーーーーー!!!!!!びちちちちちっっ!!!!しゅおおおおおおおぉおぉぉおぉーーーーーー!!!! 「ぅあ、はあっ、はあっ……!」 「…………っっっはぁぁぁぁああ~~~~~……」 極限状態の中、ずっと耐え続けてきたモノが解き放たれる。壮絶な勢いのそれは真っすぐに白い陶器を叩きつけ、ぶつかる飛沫を顔の高さにまで跳ね上げた。 我慢してきたつらさが変じたような圧倒的解放感。お腹の重しがみるみる軽くなる感覚と、我慢に痺れた出口の震える感覚がこそばゆく女性の身体を震わせる。 ぶるる、と大きく身体を震わせて、大きくため息をつきながら 女性の限界放尿は一分ほどもかけて長く噴射し続けた。 しょおおおおーーー……しゅるる、しゅるっ…… 「はぁぁ…………い……っっぱい出たぁ……」 「……うぁ、ぐしょぐしょ……流石に履いていけないか。あー恥ずかし……先輩になんて言おう……」 事を終えた後輩の女性が身支度を整え、トイレのドアを開けた……その時だった。 『すみません、ちょっとお話いいですか!!?』 『ひとことだけでいいのでお願いします!!』 『中の様子はどうでした!!?捕まっている時の様子は!?』 「ふぇ!?あ、え、あの……」 店中に待機していた報道陣に詰め寄られ、あたふたとする女性。それも無理はない。 さっきは尿意に手いっぱいで周りのことなど少しも見えていなかったのだから。 (え、え!?もしかしてこの人たちずっと!?もしかしてさっきのも見られ……!!?) 『報道陣の方々少し離れてください!!人質は大変疲れていますから、取材は後日お願いします!!』 詰めかけてくる報道陣を押しのける警察に助けられながら、それでもなお押しかけてくる報道陣を振り切って女性は帰路に就くのだった。 なお後日、動画サイトでニュース映像を見たところ…… 生放送ゆえに編集されることもなくトイレ前での攻防が余すところなく映されており、彼女がずるい手段でそれに勝利を収めたところがしっかりと放送されていた。 それだけならまだしも、トイレに入った後もカメラは回り続けており…… 取材用の高性能マイクが扉越しにも彼女の放尿音を捉えてしまっていた。 「え、あ、え、うそ……ぜんぶ、聞かれ……!?」 全国ネットの場でみっともなく争う姿を撮られ、あまつさえ限界オシッコを噴射する音までをも生放送で流されてしまった女性はその後しばらく立ち直るのに時間を要するのだった。

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