遊園地デートの悲劇 女の子視点 (Pixiv Fanbox)
Published:
2023-03-13 09:04:49
Imported:
2023-03
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〇月×日 くもり
明日はとても とっても楽しみにしてた日!
付き合ってから2カ月の彼 図書委員同士の小野田勇くん
彼といっしょにおでかけする とっても楽しみな日
明日はどうか失敗しないで 嫌われたりしないような
すてきな1日に なったらいいな
8:00
今日は待ちに待った日。付き合ってからまだ間もない彼と、初めてのデートをする日です。
この日のために新しいお洋服を買って、早く起きてメイクもがんばって、
髪型だっていつもと違うのにして……少しでも喜んでくれたら、いいな。
『……かわいい』
「ぁ、ぅ……~~~~!!?」
それでもいざ面と向かって言われたらこうなっちゃうのは、やっぱり性格なんでしょうか。
8:45
そんなこんなで始まった彼との1日は、とっても面白い出来事から始まりました。
勇くん、ブラックコーヒーなんて飲んだこともないはずなのに注文して、顔がくしゃくしゃになっていたんです。
その顔がなんだかとても面白くって、でも笑ったらいけないと思ってこらえるのが大変でした。
それで次に頼んだのが私と同じ、甘~いフラペチーノなんですから……
普段はまじめな彼の、こういうところがとっても面白くて、朝からとってもすてきな時間を過ごせました。
でも1日はまだ始まったばかり。私たちは次の目的地に行くため、会計をしてお外に行こうとします。
そんな時、彼が「休憩」と言って席を外しました。これはもしかして……
たぶん、きっとそうです。私に気を遣って、私が自由にできる時間を作ってくれたんです。
それなら、と私は席を立ちました。せっかくの気遣いを、無駄にはしたくありませんから。
「……あれ、使用中……」
ですがそこはもう埋まっていて、すぐに入ることはできなさそうでした。
化粧室、という言葉の通り、女の人はここでお化粧を整えることもあります。本来の用事が終わった後もいる人が割と多いので、そんなにすぐには開かないのです。
そしてここの「化粧室」はひとつだけ……とくれば、戻るしかないでしょう。
それに今のは念のためという感じで、別にそこまで行きたいわけじゃありません。メイクだって朝、(お母さんと一緒に)念入りにやってきたんですからきっと大丈夫です。
あんまり待たせたらいけないですし、早く戻りましょう。
きっとまだ、行く機会なんていくらでもありますから。
12:00
カフェを出た私たちは電車に乗り、目的地である遊園地にやってきました。
入り口でチケットを買い、戻ってきた彼の顔を当分忘れることはできないでしょう。
必死になって隠そうとしてはいるけど、ショックがにじみ出てしまう。そんな感じの……
でも申し訳なく思うだけじゃなく、せっかくそうまでして買ってくれたんだから楽しもう。そう思ってアトラクションを巡ること2時間。そろそろお昼時になってきました。
レストランに行くのは(たぶん金銭的に)無理だったようなのでそのへんの屋台で、となりましたが……
しかしさすがは遊園地の屋台です。ずらっと並んだ列は軽く見ても20人くらいはいて、すぐには買えなさそうでした。
待つしかないかと思っていたそんな時、彼がこんなことを言ってきました。
『それじゃ、僕が行ってくるから智ちゃんは少し待っててね。列ができてるし、少しぶらついてていいから』
それは私にとってかなりありがたい提案でした。彼がひとりで行ってくるから、その間私は自由にしてていいというのです。
朝のカフェで「休憩」し損ねて、それからずっと夢中で遊び続けてきたからでしょうか。
正直ちょっと、行きたくなってきていたのです。
多分彼もそれとなく気を遣ってくれたのでしょう。その申し出を引き受けて、私はすぐさま女子トイレへと向かいました。
……ですが、その先にあったのは……
「うそ……」
そこにあったのは、屋台のそれなんて目じゃないほどの大行列でした。
50?60?あるいはもっといたかもしれません。
中にはもう我慢しきれないといった様子で並んでいる人もいて、そこがどれだけ前からこんな状態だったのかうっすらと察せられました。
思えば休日の遊園地で、家族連れからカップルから学生のお出かけやらたくさんの人が来るであろう場所で、一人当たりの時間がどうしてもかかってしまう女子トイレが混まないはずなんてなくて……
特に今いる場所が遊園地の中央、いろんなお店が立ち並ぶターミナル的なところだというのも大きいかもしれません。
しかし誰でも入れるトイレの数はここも含めて約三ヶ所ほど。正直他の場所も空いてるとは限りません。
レストランやお土産屋さんにはあると思いますが、出費がかかってしまいます。
かなり迷っています。このまま並ぶのは論外です。これだけで一日が終わってしまいますから。
なら他の場所?しかし他の場所も空いているとは限らず、そもそも今の状態でそんなことをすれば彼からはぐれてしまいます。
なら。でも、それは……
考えに考え抜いた末、私の出した結論は……
「お、お待たせ……!」
戻ること。そうこうしているうちに買い物を終えた彼の所に、このまま。
あえて何もいうことなく、何事もなかったように。
ここから先、もしもチャンスがあったらどんなに恥ずかしくてもトイレに行こう。
もしチャンスが無かったら……その時は。
一種の覚悟を決めて、私は彼と一緒に再びアトラクション巡りに戻るのでした。
15:00
「ん……」
どうしましょう。
あれからずっと、空いているトイレがないか探してきました。
けれどどこのトイレも混んでいて、普通には入れそうもありませんでした。
レストランやお土産屋さんのトイレを借りることも考えてはいました。
ですがやっぱり、それはなるべく最後の手段にしておきたくて。
せっかくの彼とのお出かけを、波風立てないように終わらせたくて。
きょろきょろしている私を心配そうに見てくる彼に、大丈夫と心にもないことを言いながら
ベンチに座って休ませてくれた彼に嘘をつきながら
なんとしてでも嘘を悟らせないようにしようと決意を改めて、もう一度アトラクションに向かうのでした。
17:00
それからでしょうか。彼の案内してくれるアトラクションが、クルーズ系のようなゆったりしたものになったのは。
確かに今の私のコンディションで絶叫系は……なのでそれはとてもありがたいです。
ですがクルーズはクルーズで、違った問題がありました。
「う、くぅ……!」
ちゃぷん、ちゃぷん、揺らめく水面、さざめく水の音。
それはまるで私自身の事を暗喩しているようで。
絶叫系よりマシとはいえ、つらいアトラクション巡りが続きました。
これについては彼のせいというより、もう私が何をやってもつらいような状態だっていうことなんですが……
彼にもそれを悟られてしまったようで、一度は帰ることを提案された時もありました。
でも、それはいやです。せっかくのお出かけで、遊園地に入るまで彼が頑張ってくれていたことも知っています。
それをこんなことで台無しにするなんて、絶対に嫌。
だからどうか、最後まで
最後まで頑張りますから、どうかそれだけは
心の中で祈りながら、彼の手に引かれて次のアトラクションへと進んで行きました。
もしかしたらこれが最後なのかもしれない、最後の締めに相応しい乗り物。
景色がきれいで、二人きりになれる、観覧車へと。
17:15
たぶん今日の締めくくりのつもりで乗せてくれたのだろう観覧車。これに乗りながら、せめて最後だけはお出かけらしくいようと思っていました。
これまでがあんまりそれらしく振舞えていなかったから、せめて最後くらいはと。
彼に気取られないよう、陰でこっそりとスカートの裾を握りしめながら。
でもこれで最後なら、もうこれ以上頑張ることもありません。あとは家に帰るだけで、家でなら思う存分できますから。
なんとか帰るまで我慢できそうだと、そう安心した時でした。
『お客様にお知らせいたします。異音が検知されましたため一時運転を中止して点検をさせていただきます。お客様には大変申し訳ございませんが、観覧車の中でしばらくお待ちくださいますようお願いいたします』
18:00
どうしよう どうしよう どうしよう
観覧車が止まってからもう30分以上は経っているのに、ぜんぜん動く気配がありません。
点検しないといけないのはわかりますけど、それなら一度乗客を降ろしてからだって……!
だってもう、私、ごまかせてない……!
「ふ……っ、ん、んく……!」
頭ではわかっています。こんな風に動いていたらダメだって。ばれちゃうって。
でももうだめなんです。こうしてないともう、でちゃうんです。
こんなにもじもじと動いていたら気づかれちゃう。そうわかっていても止められなくて。
どうか早く動いてほしいと祈りながら、この密室で2人きりの時間を過ごすのです。
18:30
あれからまた、どれくらい経ったでしょうか。
いいえ、もう時間なんてどうでもいいです。もうだめです、無理です。
たとえ今から動いたって、今からおトイレに並んだって、もう絶対無理です。
さっきからずっと、めまいがするほど力を入れていても、それでもこじ開けようとしてきて
どんなにがんばって抑え込もうとしても、もう無理だって身体が悲鳴を挙げてるのがわかって
それでもこの密室で何ができるのか、どうすればいいのか。
がんがんと耳鳴りがする頭で必死に考えて、思いついたそれはとても今の私にできることじゃなくて。
手に持っている、残り7割くらいのペットボトル。これが空になってくれていればと思いますが、今の私がこんなものを飲んでしまったら……
「……あ、あの……!」
だから、意を決して。
目の前にいる彼に救いを求めようと、声を出して。
「あの、その……ね、わたし、その……」
「ぇぅ……その……!」
でも、それでも
それでもやっぱり、言えませんでした。
きっと気づかれていると思っていても、それでも
おトイレに行きたいと、言えませんでした。
もしも私が子供のように、あるいはクラスにいる明るい子たちのように
冗談みたいに「おしっこしたい」だなんて言えたらどんなによかったでしょう。
『大丈夫だよ、智ちゃん。わかってるから……だからどうしてほしいかだけ教えて?』
けれど彼はそんな私にこう言ってくれました。きっと彼には、私自身よりよっぽど雄弁な私の体の声が聞こえていたんだと思います。
もじもじと揺れる腰の、もどかしげに太ももを擦る手のひらの挙げる悲鳴。
身体全体から挙げられる、その声が。
「あの……ね、これ……空けて……!」
『空ける?って……このボトルを?』
「……っ!?あ、ごめ……っ!んぎゅぅぅ……!」
『と、智ちゃん!?』
ほんとうに いま だめだと思いました。
ぶるる、とからだが震えて、きゅうんとお腹の締まる感じがして
本当にいま、漏らしてしまいそうで。
ぎゅうっとそこを押さえつけて、なんとか落ち着けてはみても、たぶんこれは一時的なものにしか過ぎなくて。
一刻も早く、すぐにでも、早くしたい。
そんな気持ちを抑えることができなくて。
『……ぷはっ!あ、空けたよ智ちゃん!』
「あ、あり、がと……っ!それで、その……っ」
「お、おねがい……!こっち、見ないで……!おと、きかないで……!」
『え……』
だから、もう
彼がどうしているかなんて気にしてもいられなくて
空いたボトルをひったくって、それをすぐスカートの中に差し入れて
たぶん出口があるだろうところに押し付けながら……
ふ、と力を緩めた、その瞬間でした。
ぶしゅううううぅうぅぅううーーーーー!!!!じゅぼぼぼぼぼぼぼぼ……!!
一瞬の間隔すらも開けずに、限界だったそれは溢れ出しました。
ペットボトルの中に、密室中に響く音を立てながら。
向こうを向いて耳を塞いでいる彼にも、もしかしたら
いえたぶん、きっと、聞こえてしまっているでしょう。
私が半日ずっと我慢していたものの噴射する音が。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい……
でもそれよりももっと大きな何かがお腹の中で膨らんでいるような気が、なんとなく
なんとなく感じられたその時でした。
びゅじゅおおおおおぉぉぉおーーーーー!!!!ぶじゅぼぼっ!!
「……っ!?え、うそ、たりなっ……!!?」
「あっ、あ、ど、どうしよ……!?おしっ……もう……!」
気づけばボトルがいっぱいになっていて、それでも止められないおしっこが淵からあたりに飛び散ってしまっていて
でももう、もう一度我慢するなんてできるはずもなくて
「…………っっっ!!!」
だからもう、しかたがなかったんです。
びゅしいいいいぃいいいいいぃいーーーーーー!!!!!
ああ
ああ、私、観覧車で
観覧車の中で おしっこしちゃってる
そんなことを呆然と考えてながら、恥ずかしさに頭が茹だってしまいそうになりながら
それでも私が一番強く感じていたのは、それらとは違う感情でした。
「……はぁぁ……」
お腹の中で渦巻く何かを吐き出すように、大きなため息を吐きながら
お腹の中身を観覧車の中にすべて出し切るのでした。
____________
こうして私のはじめてのデートは、なんとも言えない結末に終わりました。
途中の流れもさることながら、一番最後に至っては……この後だって、後始末を全部彼に押し付けてしまって……
でも、一番あっちゃいけないことは
17:00
びゅしううううううううぅうぅうーーーーーーー!!!!
「あ、はあぁ……!」
放課後の、学校が終わって家に帰った後。
私はすぐさまトイレに入りました。
なぜならそれは、朝からずっとしていなかったおしっこをしたくてしょうがなかったから。
……いえ、それは少し違います。していなかったのは確かにそうですが、それはあの時のような外的要因ではありません。
今の私は……あってはならないことですが、自分の意思でこうしているのです。
それはなぜか。その答えは私の手にしているスマートホンにあります。
(記録は……よかった、ちゃんと撮れてる)
【びゅしううううううううぅうぅうーーーーーーー!!!!】
「んぁ……!」
スマホ越しに聞こえてくる、切なく甲高く響く私の……私の、限界おしっこの音。
それを聞いた瞬間、なんだかぞくぞくするような感じが突き抜けてきて。
いけないことだとわかっていても、私はこれが止められなくて。
酷い時にはこの収録した「音」を聞きながら、お部屋で……
でも私は、本当にいけない子です。
あの時本当に恥ずかしかったのに、彼に迷惑をかけてしまったのに
それなのに、その原因になったおしっこに、こうも喜びを感じてしまってるんですから。
ポコン
(……あ、勇くんからのLINEだ。なんだろ……)
そこに書かれていたのはなんてことのない雑談でした。
でもこの時、私の頭をよぎったのは
彼にもし、この「音」を送ったら、いったいどうなるだろうかと。
もしあの時みたいに、彼にこの音を聞かれてしまったら、いったいどうなるだろうかと
そんな興味で、いっぱいでした。
「……ううん!だめだめ……!そんなことをしたら、嫌われちゃうかもしれないから……!」
嫌われてしまうから、だからだめだと自分に言い聞かせて。
もやもやした気持ちがわずかに残るまま、私は明日の準備をするのでした。