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いじめ。 一般的には強者が弱者に対して、肉体や尊厳を傷つけるために行われるものであり、特に思春期で感情の制御が難しい小中高生の時期によく起こるもの。 だが普通と逆に、群れた弱者が強者をいじめるといったことも起こりうる。 出過ぎた才能を妬んでか、あるいはたまたま目立つ存在をターゲットにしただけなのか。委細はともかく、こうしたことは往々にして起こることである。 「……はぁ、まだやってんの?いい加減にしてほしいんだけど」 「高峰さんこっわー。私たちは普通におしゃべりしてるだけだよねー?」 「そうそう、いいがかりつけないでほしいなー」 そして今ここで、群れた弱者が強者に牙を剥くいじめが起こっていた。 有名私立高校付属の中学校。成績優秀な生徒のみ入れるこの学校において、文武ともに優れた成績を誇る「高峰 華」。 すらりとしたスタイルに長い黒髪をたなびかせ、さらには運動も勉強も秀でた彼女はまさに完璧と言うに相応しい存在だった。 冷静かつ気の強い性格で取っ付きにくさはあるものの、その整った容姿と才能で男子から羨望の眼差しで見られる彼女は、それゆえ同性からの妬みを買いやすい。 上靴を隠される、画鋲を仕込まれるなどの定番いじめはことごとく味わってきたし、その都度口頭での反撃もしてきた。だがいじめグループの勢いは止まず、今日はまた新しいいじめを考案してきたのだ。 「毎回毎回、トイレの前でおしゃべりする必要あるの?」 「私たちがどこでおしゃべりしてたって自由でしょ?別におトイレ使わせないなんて言ってないしー」 「……別に、行きたいなんて言ってないでしょ」 いじめグループが行っている今日のいじめは、トイレの封鎖。 しかもただ出入り口を塞いでいる訳ではなく、たまたまここで話をしているだけだと言い張っているのだ。 いつものいじめのように直接危害を加えてきているわけではないため、教師も注意しづらいのである。 とはいえ所詮は言い訳に過ぎない彼女らのこの言い分がまかり通る理由は、いじめ対象である華以外は普通に通していること、そしてもうひとつが華を追いかけ回してはいないということだ。 「おしゃべりしているだけ」という言い訳を通すには、例えば華が他のトイレへ移動した時に追いかけ回すような不自然な真似はできない。 あくまでも「たまたま行く先々のトイレの前で話しているだけ」という状況を作らなくてはならない。 その為にいじめグループはスマホを用いて情報を共有し、色々な教室にいるグループ構成員をその都度現場に配置しているのだ。 毎回違う生徒が華の向かうトイレの前で「たまたま」話し込んでいる。そんな状況を作り出すために。 いじめとしてはかなりの労力を使っているが、だからこそ効果は覿面であり、華は3時間目終了まで1度もトイレに行けていなかった。 「おトイレに行きたくないなら別にいいじゃん。なんでいいがかりつけるんですかー?」 「みんなの邪魔になるってさっきから……!」 「みんなの邪魔なんてしてないよねー?ちゃんと言ってくれたら通すし。ほんといい加減にしてほしいよねー」 初めの1時間目や2時間目まではさしたる影響もなかったが、3時間目ともなるとやや焦りが出てくる。 これまでは我慢ができていても、仮にこれから放課後までトイレが塞がれ続けるとしたら、果たして耐えきれるだろうかと。 そんな仄かな不安が形となりいじめグループに食い下がるが、屁理屈において適うはずもなく一蹴されてしまう。 いじめグループはトイレに行きたいと伝えれば通すと言ってはいるが、それは華以外の相手に対してのみだというのはどう見ても明らかだ。 もし華がそれを伝えたとして、素直にトイレを使わせるとは思えない。 それ以前にこんな連中を相手にトイレを懇願するなど、プライドが許さなかった。 結局今回もトイレに行くことはできず、4時間目の授業を迎えてしまう。 長い五十分を耐え忍びながら、昼休みでの解放に望みをかけるのだった。 _________ 時折身体を震わせながらも4時間目を終え、昼休みを迎えた。 今すぐにでもトイレに行きたいが、給食の配膳当番である彼女は授業後すぐ、そちらの仕事に向かわなくてはならない。 給食の配膳が遅れれば、クラス全体に迷惑がかかってしまう。 内側で湧き上がる欲求にふたをして、華は毅然とした態度でクラス全員の給食を配った。 そして迎えた給食の時間。今日の献立はご飯と味噌汁、鮭の塩焼きとキュウリのサラダと牛乳、そしてデザートのスイカである。 暑いこの時期にスイカというのはいかにも旬だが、その水気の多さは華を辟易させた。 とはいえ学級委員長にして学内トップ成績。優等生を絵に描いたような彼女に残すという選択肢はなく、きちんと全て完食した。 だがそんな彼女にさらなる試練が降りかかる。 「ごめんね高峰さぁん。食べきれなくってぇ、これもらってくれる?」 白々しくもいじめグループメンバーが差し出してきたのは、自分の分のスイカ。 水気をたっぷり含んだそれを今の華に食べさせるのは、あまりに意図が見え透いている。 「いや、ごめんね。もうおなかいっぱいで……」 「あっ、そうだよねー!食べてる暇があったらおトイレ行きたいもんねー!」 「……っ!?なっ……、別に、行きたくないし……!」 その意図を見透かして断るが、いじめグループはそれをことさら恥ずかしいように強調して言いふらした。 トイレに行きたいからお願いごとを断ったのだと。たしかに真実ではあるがより恥ずかしく脚色した事実を大声で言いふらされて、華は顔を真っ赤にして否定してしまう。それこそが墓穴を掘る行いだと気付いたときにはもう手遅れだった。 「おトイレが平気なら食べられるよね?いやーよかったねみんな!高峰さんが全部食べてくれるって!」 どさどさと次々机に置かれる無数のスイカ。一つ一つは小さなそれが数を重ね、半玉くらいにはなるであろう量になっていた。 クラス内にいるいじめグループ全員から押し付けられたいくつものスイカ。それがもたらす利尿作用は想像に難くない。 だがそれでも、食べなければならない。ここで食べなければ、何を言われるかわかったものではないから。 1口ごとに口中に広がる果汁を飲み下しながら、華は辛くも全てのスイカを食べ終えた。 その頃にはクラスの全員が給食を食べ終え、それぞれ遊びに興じていた。 今の時間は12:40。昼休みが終わるまであと二十分である。 普通であればトイレに行くのに十分過ぎるほどの時間はあるが、しかし状況はそれを許さない。 「また……、いい加減に……っ!」 「高峰さんまた来たの?懲りないねー」 やはりと言うべきか、この昼休みの間も抜かりなくトイレは封鎖されていた。 学校に着いてから1度もトイレに行けていない華の尿意は、いよいよ危険域に到達しようとしている。一刻も早くトイレに行かなければいけないのに、それはいじめグループの嫌がらせによって叶わない。 「朝からずっとトイレの入口を塞いで……!いい加減にしてよ……!」 「だからぁ、言えば通すって言ってるじゃーん。私らなんにも悪いことしてないよねー?」 『ねー!』 彼女らの言い分には、一片の理もありはしない。 部外者はともかく、ここで喋り続けているのには明確な嫌がらせの意図があるのは明らかだ。 しかし、それでも。 「い、言えば……どいてくれる……?」 それでももう、華の尿意は限界だった。悪質ないじめグループに屈してでもトイレに行かなければ、プライドを捨てても懇願しなければ最悪の事態を迎えてしまいかねない。 「そりゃねー?私らも別にいじめようってわけじゃないしー」 「……じゃ、じゃあ……といれ……おトイレ、行かせて……!」 藁にもすがる思いで、華は悪質いじめグループにトイレを懇願した。すると…… 「ん、いいよーいっといでー」 「え……」 「どしたの?早く行ったら?」 余りにも意外な返答が返ってきた。 あっさりと華のトイレを許可したいじめグループに怪訝な表情を浮かべるも、しかしこれが嬉しい状況であることには違いない。 俄に胸を高鳴らせながら、華は待望のトイレに足を踏み入れた。 (やっと……できる……!) 個室のドアを開き、これから事に及ぼうとした……その時だった。 背後から無数の手に掴まれ、引きずり出されてしまったのだ。 何が起きたのかわからずきょとんとする華に、いじめグループのリーダーがにこりと笑いながら話しかけてきた。 「はいここまでー。よかったねー高峰さん。トイレに『行けた』んだもんねー」 「は……え?え……」 「トイレに『行きたかった』高峰さんを入れてあげたんだから感謝してねー。さ、もうここに用はないよねー?」 「え、ちょ、ちょっと待ってよ!私まだ、なにも……!」 「えー?トイレに行きたいって言うから行かせてあげたのに、まだなにかしたいの?でも一体なにがしたいのか、私たちわかんないなー」 いじめグループの言い分は完全な屁理屈だった。「トイレに行きたい」という言葉の意味を字面通りのものに歪め、文字通り「トイレに入りたい」というだけの意味だとねじ曲げたのだ。 その言葉が持つ本来の「トイレに行って用を足したい」という意味をなかったことにして、本来の用を成す前に引きずり出そうとしていた。 これが単なる屁理屈であるのは当然だが、しかし現状を打開するには向こうの土俵に乗るしかない。 つまり「トイレに行って何をしたいか」を、懇切丁寧に教えてやらなければならない。そうすることが相手の望みなのだから。 「お、お願い……!トイレで、その……だ、だしたい……の……」 普段の彼女なら、こんな屈辱的要求には応えないだろう。 だが今の彼女は正常な判断力を失いつつあって、その脳裏は「どうやったらトイレに行けるか」という思考が埋めつつあった。 それはトイレに入ってから加速の一途を辿っている。 「出したいって、なにを?言ってくれなきゃわかんないなー」 「……っ!だから……その……、ぉし……っこ……」 「んー?なにか言った?聞こえなかったなー」 「ぉ、ぉしっこ……したい……の……!」 トイレに入る前の時点では、危険域でこそあるがまだ我慢できないこともなかった。だがトイレに入って、「おしっこをする」所に入って、華の身体は完全にその準備を整えてしまっていた。 賑やかな所に行けば否応なく楽しい気持ちになるように、静かなところに行けば穏やかな気持ちになるように。 おしっこをする所に入った華は、今まで以上におしっこがしたくなっていた。 「もー!ぼそぼそしてないではっきり喋んなよ!」 「お、おしっこ!おしっこしたいの!だからはやく、トイレ行かせて……!」 それゆえ華は、普段なら絶対にしないような恥ずかしい懇願をしなくてはならなかった。そうしなければ、今すぐにでも床を水びたしにしかねないから。 「ふーん、高峰さんてばおしっこしたかったんだねー。じゃあいいよ、おしっこしちゃいなよ」 「ぁぁ……!」 その一言を聞いて、柄にもなく瞳を輝かせる華。 しかしその輝きは、一瞬で曇らされることとなる。 「ただし、するのはここね。高峰さん専用便器だよー」 「え……?こ、これ……バケツ……」 からんと軽い金属音と共に置かれた「高峰さん専用便器」を見て、華は目を丸くする。 そんな華に対してリーダーは、絶望的な言葉を放った。 「ほら、高峰さんは学年トップだからおトイレも特別じゃないとだめでしょ?だから学校で一つだけの高峰さん専用便器しか使っちゃいけないんだよ」 「だ、だってこれ……バケツ……」 「高峰さんにぴったりだと思って選んだんだから、使ってくれなきゃ嫌だなー?」 余りにも滅茶苦茶な華への要求。おしっこをしたいのならバケツにしろという、およそ思春期の少女がするにはありえない行為の強要。 そうしなければ解放されないのは明らかだが、華は踏み切れずにいた。 それも無理はなく、普通の感性の持ち主なら即答出来るはずもない難題だった。 しかしそれが結果として、更なる苦行を華に強いることとなった。 キーンコーンカーンコーン…… 学校中に鳴り響く、昼休み終了の鐘の音。それが意味するものはすなわち、時間切れと言うこと。 今ここで用を足すことは、どうやっても出来ないということだった。 「あらー、時間になっちゃったね。残念だねー高峰さん。次の時間終わるまで我慢だねー」 「ぅ、うそ……やだ……!ぉしっこ……」 どんなにそれを求めてももはや遠く、華はいじめグループに引きずられて教室へと連れ戻された。 お腹の奥でふつふつと存在を主張する尿意を抱えたまま。 _________ そして迎えた5時間目の授業。この頃の華にはもはや、優等生の面影は残されていなかった。 (あと、ごじゅっ、ぷん……!がまんする……!がまん、がまん……!) 静まり返ったクラス内。生徒たちがみな板書に勤しんでいるのをいいことに、視線を気にすることなく思い切り股間を押さえつける。 ぐらぐらと沸き立ち、今にも吹きこぼれそうな少女の熱湯にきつく蓋をする。 少しでも気を抜けば蓋を押し上げてしまいかねない水圧を、これから五十分も抑え続けなければならない。そんな中でまともに授業など聞けるはずもなく、彼女のノートは白紙のまま広げられていた。 (かかな、きゃ。ばんしょ……じゅぎょう、きかなきゃ……) 生真面目な華はそんな状況を許すことができず、果敢にもペンを手にして板書をしようとする。 だがそのために意識をノートへ持っていった一瞬の隙をついて、外へ外へと溢れようとする尿意が牙を剥いた。 膀胱が収縮し、中にあるものを絞り出そうとする。高波のように舞い上がったその勢いが、乙女の堤防を一瞬だけ上回った。 じゅっ…… 「…………っ、〜〜!?」 一瞬、華の全身は強ばり、板書しようとしたペンが歪んだ線を描く。 一瞬だけ感じた熱い感触。必死に塞いだ通り道をすり抜けて行った熱いなにか。 下着に張り付く湿った感触が、否応なくその事実を突きつけてくる。 (で、てないっ……!汗、かいただけ……!) ぶじゅ、じゅじゅぅっ……! 他でもない自分を誤魔化そうと心の中で必死に言い訳をするも、重ねて襲いかかる「それ」が着実に華の心をへし折りに来る。 どんなに嫌だと思っても、この身体がもうすぐ限界を迎えるのは明らかだ。 (ちびってない、ちびってない……!ちびってない……っ!) 満杯の水風船に極小の穴を開けるように、破裂にまでは至らずとも少しずつ中身は漏れていく。 1度穴が開いてしまえばもう元には戻らない。少しずつ垂れ流し続けるか、穴が開いて一気に溢れるかの結末が待つだけだ。 どんなに華が自分を偽ろうと、彼女が限界なのは覆しようもない。 (と……いれ……といれ……いきたい……っ) (おか……しいよ……なんで……ずっとふさがれて……だれもたすけてくれなくて……なんでよ……) (私、なんにもわるいことしてないよ……?なのに、なんでよ……!) 正常な思考を失いつつある彼女は、どうして自分がこんな目にあっているのかという怒りを心の中で吐露していた。 実際のところ華は何も悪いことはしていない。だがそれは世間一般の常識に照らした場合である。 学校という限られたコミュニティにおいて、しばしば「真面目ちゃん」は悪とされることがある。いじめを注意するなどの場合、逆に注意した人間が対象になることは少なくない。 華はまさにそのパターンだった。委員長である華はその職務柄いじめの注意をすることもあり、それがいじめグループの琴線に触れたのだ。 悪いことをしていなくてもこのような目に遭うことはある。華は今、その身をもって理不尽の何たるかを体験していた。 (とい……れ、いかな……きゃ……。でも、じゅぎょうが……) そんな中で華は、どうしたらトイレに行けるかを考えていた。 休み時間まで仮に耐えられたとしてもまた塞がれるだけで、無事にトイレへ入れるとは思えない。 専用便器を使うにしても、そこまで我慢できる保証はない。 なら、授業中ならば?いじめグループも授業を受けているであろう今なら、もしかしたら。 (で、でも……みんなの前で、そんな……でももう……がまん、できない……) 淡い期待に思いを寄せるが、しかしそのためには授業中に教室を出なくてはいけない。 トイレに行きたいと、クラスみんなの注目を浴びる中で言わなくてはならない。 それは思春期の少女にとって恐ろしく恥ずかしいことだし、華のように少しプライドが高い少女ならばなおさら屈辱的なことだ。 かち、こちと時計がしばらくの時を刻み、華が下した結論は…… 「あ、あの……!」 勇気を出すこと。手を挙げて、トイレに行きたいと伝えること。 今は恥ずかしくとも、これよりさらに恥ずかしい事態を免れるための最善の方法を選んだのだ。 だが…… 「よし、じゃあ高峰。答えてみろ」 「え…………」 だがトイレに行くことは叶わなかった。華が手を挙げたタイミングは、教師がちょうど生徒を指名するタイミングだったのだ。 我慢に夢中で授業を聞いていなかったこと、決断に時間がかかってしまったことが運命の分かれ目となった。 「え、あ、あの……えっと……!」 「どうした?手を挙げたんだから、ちゃんと答えなさい」 「その、あの、私……!」 もしも授業を少しでも聞けていたら、もしもあと少しだけ早く決断していて、指名のタイミングからずれていたら、こうはなっていなかったかもしれない。 だが現実として華の勇気を振り絞った挙手は不発に終わり、クラス中の注目を浴びながらしどろもどろな姿を晒してしまう。 「す、すみません……!やっぱり、わからない……です……」 「……そうか、珍しいな。他にわかる人は?」 尿意と混乱の極限状態でまともに答えられるはずもなく、トイレに行きたいと伝えることもできず、華の最後のあがきは失敗に終わった。 (が、まん……!がまん……がまんしなきゃ……!) ふたたび席に着いた華は、残る時間を耐え抜くことに希望を見出すしかなかった。 残る授業は15分。少女の誇りを賭けた最後の戦いが幕を開けた。 _________ 『きりーつ、れいー』 ようやく迎えた5時間目の終わり。華は号令のあとすぐ、間髪入れずに駆け出した。 1歩進むごとに下腹部を鈍い痛みが襲い、しゅるしゅると熱い雫が漏れ出す。 しかしもう、ゆっくりしていられる余裕もなかった。多少零してしまってでも駆け込まなければ、力尽きてしまいそうだった。 しかしそんな決死の思いで走っても、普通の生徒にくねくねと腰を揺する華が適うはずはなく、今までどおりトイレに先回りされてしまう。 「ど、どいてっ……!どいてええぇっっっ!!」 「あれーどうしたの高峰さん、そんなに慌てて」 「おねがい通してっ……!通してよおおおぉ!!!」 もう冷静さの欠片も残っていない華はいじめグループの作った壁に突撃していくが、当然に押し返されてしまう。 必死の形相で喚き散らす華を嘲笑いながら、いじめグループは昼休みと同様に何をしに来たか問いただす。 答えなければトイレに行けない。そのことが華に屈辱的な懇願を選ばせた。 「おねがっ……!おね、おねがい…………おといれ……ぉ、ぉしっ、おしっこっ、おしっこ、させてえっ!!もうがまん、できなっ……はやくっ、はやくううぅっ!!」 「あれれ、大変だねー高峰さん。おしっこ我慢できないんだねー」 「でもぉ、さっきも言ったけど高峰さんのおトイレはぁ……」 「あれでいいからっ!もうあれでいいからぁっ!!」 もう華は限界だった。1分、1秒の遅れでさえも致命傷になりかねないほど。 恥ずかしいセリフを喚き散らしてでもトイレに入らなければ、廊下で漏らしてしまう。その思いが華に屈辱の言葉を言わせていた。 「じゃあいいよー。思う存分しちゃってよ」 「ああぁ…………!」 昼休みと同様、からんと放り投げられた掃除用バケツ。 ただのアルミ製バケツに過ぎないそれが、なぜだか今は輝いてさえ見えた。 今の華にとってそれはただのバケツではなく、辛い辛い尿意を解放できる世界でたったひとつの「おトイレ」なのだ。 やっと解放されると喜び勇んで下着を降ろし、バケツに跨って準備を整える。 長い我慢に疲れた水門を緩め、怒涛のごとき勢いを解放する。これまでの苦痛を取り返すかのような至福の瞬間が訪れる。 _____はずだった。 「なっ、なに!?なにして……!」 「ん?あー気にしないで。ちょっとスマホで撮るだけだから、そのまましゃーってしちゃいなよ」 見られることぐらいは覚悟していた。バケツにする姿を見られることまでは。 だがいじめグループはスマホを構えて、この様子を録画しようとしていたのだ。 華がバケツに跨って、おしっこを放つところを。 我慢の限界を超え、ようやくの放出に身も心も緩んだ華に、今さら止める余力など残っているはずもなく…… ぶしゅううううっ、しゅうっ、しゅういいいいいぃぃぃぃぃーーーーー!!!! 「いやああああぁぁぁぁ!!!やめてっ、やめてえええぇぇぇぇ!!」 「おー、すっごい勢いだねぇ高峰さん。いっぱい我慢してたんだー?」 「音もすごいねー。ぶしゃーって、下品な音……」 「恥ずかしくないのかなあ?バケツにこんなたくさん出してさ」 「撮らないでっ!!見ないで!!聞かないでええええっ!!」 微かな抵抗も虚しく噴き出した華の我慢を重ねたおしっこを、いじめグループが面白おかしく茶化してくる。 誰にも見られたくない排泄姿を見られて、誰にも聞かれたくない排泄音を聞かれて、それらを記録として残されて、華の心はずたずたに引き裂かれていた。 スマホに撮られまいとぶんぶん両手を振って防ごうとしても、何人もいるいじめグループのスマホが華の全開水門を捉えようとしていて間に合わない。 密かにコンプレックスを抱いていた薄毛の割れ目も、そこから放たれる野太い水流も、けたたましい排泄音も、すべてがスマホの高画質高音質で残されていく。 しゅうううぅぅーーーー、じゃぼぼぼぼぼぼ…… 「やめて……!おねがい……やめてよぉ……!」 「高峰さん毛うすいねー。出てるとこばっちり見えるよ」 「もうこんないっぱい溜まっちゃってるね。どんだけ我慢してたのー?」 放尿が始まって1分。普通の倍以上もの長い放尿時間で、凄まじい勢いを放出し続けた華の精神はもうぼろぼろだった。 もはや抵抗の気力もなく、泣き出しそうな自分を抑えるのに精一杯だった。 だというのに、こんな状況だというのに、華の身体はようやく我慢から解き放たれて、限界のおしっこを思う様放出できて、その快楽を味わってもいた。 悲しいのに、悔しいのに、身体は気持ちがいい。そんな歪な自分を見られたくなくて、せめてそれだけは表に出すまいとしていた。 しゅぅぅぅー……、しゅうっ、しゅいっ……! 「………………っ、……っんふぅ……っ」 「お、やっと終わった?長かったねー」 「なんか気持ち良さそうじゃなかった?喘いでたよねー」 それでも終わり際、最後に残ったひとしずくを絞り出す時には、どうしてもため息を抑えることができなくなっていた。 推し殺そうとしたため息が漏れだしたそれは、まさしく悩ましい喘ぎ声そのもので、より快感をわかりやすく伝えるものとなって記録に残ってしまった。 これでいじめグループのスマホには「泣きわめきながらバケツに放尿し、気持ちよくて喘ぎ声を漏らす華の姿」が記録されてしまったのだ。 もし何かあって流出してしまえば、社会的に一生消えない傷がつくであろう映像が、いじめグループの手元にあるのだ。 「たいへんだねー高峰さん。こんなの人に見られたらねー」 「だからね高峰さん。これから『仲良く』しようね」 最大限オブラートに包んだ脅し文句を言いながら、いじめグループは傷心の華を置いて去っていった。 「……っ、ぅ、ふぐっ……!ううぅ……っ!!」 そして1人、泡立つ黄色い水をなみなみ湛えたバケツと共に放置された華は、他に誰もいなくなったトイレの中でぽろぽろと涙を流すのだった。

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