【エロ文・焼肉リクエスト・アイドルマスター】凛ちゃんホストにドはまり中♥7~大切な絆を踏みにじってぶち壊してでも♥~ (Pixiv Fanbox)
Content
_(:3 」∠ )_<じっくり目に書くの楽しいですな……!
_(:3 」∠ )_<未央ちゃんとかの台詞を入れた方が良かったかなーと後になって思いました、2人のリアクションとか入れ出すとノイズになるかもと考えてて、難しい。
_(:3 」∠ )_<最後だけ会話を混ぜてみましたが、リアクション混じりもありだったかなー、と。
前作
凛ちゃんホストにドはまり中♥6~キャバ嬢マイの鞭と鞭とアメ♥~
https://peken17.fanbox.cc/posts/5670777
※スカ描写あり 閲覧注意
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【あらすじ】
ホストクラブにハマってしまい、その中でもイケメンホストのケンゴの言いなり状態の渋谷 凛。
アイドルとして活躍しながらもホストのケンゴ、その後輩ホストたちに玩具にされていた。
それだけではなく、ケンゴと仲の良いキャバ嬢であるマイにも気に入られて事あるごとに無様な真似をさせられるようになっている。
ケンゴたちに支配され、媚びて、酒とタバコとセックスを覚え込まされた凛はどこまでも都合の良い玩具として堕ちていく。
【凛の周辺の人々】
ケンゴ
・そんなに有名店ではないホストクラブのホスト(イケメン)
・口が上手く、女を依存させて玩具にするのが趣味
・凛以外にも複数の女で遊んでおり中には他にアイドルもいるとかいないとか
・後輩ホストたちからは慕われている
マイ
・ケンゴの知り合いのキャバ嬢
・おっとりした優しい雰囲気の美女
・可愛い女の子や美人な相手で遊ぶのが趣味
・今は凛で遊ぶことにハマっている
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「んく、んぐ……んく……ぷはぁあ……っぇ?」
夜のホストクラブ。いつものようにビールをジョッキで煽っているのは黒髪クールな美少女アイドルの渋谷凛。
「いやー、最近凛ちゃんってキャバクラにも行ってんのって。マイちゃんとこ通ってるって聞いたけど」
「っぇ゛…………あ、あー、うん、まぁ、たまに、ね……」
彼女の推しホストでありほとんど主人、ご主人様のような扱いであるケンゴの後輩にあたる男たちに囲まれながら酒を飲む彼女は質問に曖昧に答えていく。
飲み干したジョッキをテーブルにおいて凛が思い出すのは後輩ホストの言った『マイちゃん』という女性のことだ。
マイはこの近くにあるそんなに流行ってはいないキャバクラで働いていて、見た目はギャル系だけどどこかおっとりした雰囲気のある美女だ。
ケンゴの紹介でキャバクラにもいくようになった凛だけど、行くたびに飲み過ぎて色々とやらかしてしまっているのだ。
「…………(マイさんには迷惑かけまくっちゃってるんだよね……またお店の方に挨拶いかないと)」
申し訳ない気持ちを抱える凛だけど、実際は半ば無理矢理酒を飲まされて泥酔状態で玩具にされた上で散々無様な真似をさせられていたりする。
酒のせいでその辺りの記憶が微妙に曖昧になっている凛からすると、マイに対しては何度も何度も迷惑をかけてしまっている相手と言う認識である。
しかも、マイはそれに対して―――。
「いいのいいの~♥ 凛たんのことは大好きだしぃ? 迷惑くらいドンとこーい♥」
―――どとまるで包容力のあるお姉さんのような態度を取っていたりして、凛は妙な信頼感を覚えていたりもするのだ。
信頼しつつ、しかし弄ばれてもいるので妙な苦手意識もあるという関係であり、凛からするとマイは何とも表現しづらい相手なのだ。
「ん、んく……ぷはぁ……あ、そう言えば、今日ケンゴさんは?」
「ぁ? あ~~、今日は休み、だから俺らで凛ちゃんもてなすように言われてんだよ」
「ふぅん……」
マイのことを考えていた凛だけど、彼女の中で一番重要なのはケンゴについてだ。
推しホストであり、依存するように惚れきってしまっている相手であり、言われるがままに何でもしてしまうくらいに心酔している存在だ。
その彼に会う為にホストクラブに来ているようなものだけど、本日は彼は不在だった。
後輩ホストは軽い調子でそれを告げながら人気が出つつあるアイドルであり、それなりの数のファンを抱える凛の肩を遠慮なく抱き寄せていく。
「っぁ♥」
「なに、俺らだけじゃ不満?」
「そ、そう言う訳じゃない、けど……っぅ♥」
ソファ席に座る凛の左右のホストたち。
普段。芸能界という美男美女の集まる場所で活動する凛だけどアイドルという立場もあって男性との接触は少ない。
そんな彼女は年上のイケメンホストたちに興奮して胸をときめかせてしまうようになっていた。
もちろん。ケンゴが一番、飛びぬけて上なのは確定なのだけど後輩ホストたちに対しても凛は可愛らしく頬を赤らめてしまっていた。
酒もあって少し大胆になっているというか、酒を飲んだら欲望のブレーキが効かなくなるように教育されてしまっている彼女は”うっとり♥”した顔でホストたちに視線を向ける。
ホストの1人は凛の肩を抱いたまま、服越しに小ぶりなおっぱいを揉みだした。
「ぁん♥ も、もう、ダメだってっぁ♥ お酒、飲みに来てるだけ、なんだから……っぁ♥」
「嘘つけ♥ 店に来る時って凛ちゃん毎回エロい顔してんじゃん♥」
「そ、そんなこと、っぁ♥ な、無いから……っぁ♥」
胸を揉まれることすら凛の中では当たり前になってしまっているこの空間。
ケンゴに躾けられてこの場のホスト全員とセックスをしたことあるし、それ以上のことや人間として終わっているレベルの芸などをさせられた経験まであるのだ。
ホストたちは前に比べたら凛に対する扱いは雑になりつつも、それでもまだしっかりと美少女アイドルを相手にしている興奮もあるようだった。
その彼らの手を甘んじて受けながら、イケメンホストたちに興奮して凛は酒に、その場の空気に酔っていく。
酔いながらも彼女は頭のどこかで―――。
「はぁはぁ……っぁ♥ だめ♥ っぁあ♥(最近、ケンゴさんに会える日減ってきてる、気がする……飽きられたかな、私……)」
―――一番好きな人のことを一途に乙女に考えていた。
考えながらも凛はホストに口移しで酒を飲まされたり、酒に酔って無様な芸をまた今夜も数時間に渡って繰り広げていくのだった。
―――。
――――――。
数日後の夜。アイドルとしてのレッスンなどを終えた凛はマイのキャバクラへと来ていた。
この店に通うのも慣れた彼女はお詫びの少しお高めのお菓子などをお土産にマイへと渡し、案内された席に座って酒を飲む。
未成年アイドルなのに酒を飲むのが当たり前になってりまっている凛は、隣についてくれたマイに悩みの相談をしていた。
「最近、そのー、ケンゴさんが、会ってくれなくて……私、なんかした、かなって……」
「ん~~、そんなことないと思うけどなぁ? 凛たん可愛いし、一途だしぃ? 嫌いになる要素0じゃん♥ 自信もって、もっと飲んで飲んで♥」
「ぁ、ありがとうござい、ます……ん(飲み過ぎないようにしなきゃ……)」
マイに対して苦手と信頼感の2つを抱えている凛だけど、聞き上手の彼女に話を聞いて貰うことが最近増えていた。
そして3回に1回は泥酔からの無様を晒しまくっているのだけど、その度に全てを許してくれるマイという存在にも依存しだしていた。
苦手だけど信頼して、どこか依存してしまっている妙な精神状況の凛はケンゴについての相談などは他に出来る人もいないのもあってマイにしてしまう。
マイがケンゴと友人関係なのもあるし、こんな相談を凛のアイドルとしての交友関係や家族などには出来る訳もないので妥当な人選とも言えた。
「あたしが思うにぃ~、凛たんはケンゴくんにもっと甘えてイイと思うんだよね~、うんうん」
「っぇ?」
凛のグラスへと酒をドンドン注ぎながらマイはどこか楽しそうに、おっとりとした口調のまま身体を寄せていく。
席には凛とマイだけ。テーブルの上には酒とタバコと軽いおつまみだけの空間。
そこで彼女は優しく優しく凛に語り掛けて、その綺麗な黒髪をペットでも褒めるように撫でていく。
「凛たん美人だしぃ? 可愛いしー、すっごく一途でケンゴくんに尽くしてるのあたしから見てもわかるもん♥」
「そ、んな……ことは、っぁ……っ♥」
頭を撫でていたマイはそのまま凛を抱き寄せて、自分の大きめの胸へと顔を押し当てさせた。
どこか子供扱いをされているような行為ではあるのだけど、マイに対して歪んだ信頼を感じている凛はそれを素直に、かはわからないけれど受け入れていく。
まだ子供ではあるけれど、その大人びた風貌から家族からも友人からもそこまで子供扱いはされていない凛。
むしろ、アイドル活動をする中では頼られたりまとめ役を任されるような立場でもある彼女はマイに甘やかされることに心地良さすら感じていた。
酒が入っているせいもあってか、凛は素直に、素直にマイの大きな胸へと顔を埋めていく。
「ぅう~……ケンゴさんにもっと、もっと構って欲しい、けど……ウザがられないかって……不安、だし……でも……」
「うんうん、うんうん、わかるよ~♥ うん♥」
「ケンゴさん、この前もすっごく綺麗な人と歩いているの、見たし……私なんてまだ、子供だし、胸だってそんなに無いし……」
既に店に入って酒を4杯ほども飲んでいた凛は普段なら見せない涙も微かに浮かべてマイの胸へと縋り付く。
自分が飽きられて捨てられてしまうのではないかと言う不安に肩を震わせる姿はかなり健気ではあるが、もし第三者が冷静にアドバイスをするならば『飽きられてるならそのまま逃げろ』だろう。
未成年なのにホストクラブに頻繁に入り浸ってかなりの金を使い、それだけではなく恋人やセフレではなく盛り上げ係の玩具程度の扱いをされている凛。
どう考えても、相手が執着していないなら今のチャンスに距離を取るしかないし、取ったとしても色々と問題は生まれてくるような状況なのは間違いない。
しかし、凛はケンゴにべた惚れであり、離れることなど想像もできないほどに支配されている。
「…………♥」
それを良くわかっている、よぉ~~く理解しているマイは優しく頭を撫でながら「大丈夫大丈夫♥」と甘やかしながら自分のスマホでこ誰かにメッセージを送っていた。
素早くその作業を終えると、子供が甘えるようにケンゴにもっと構って欲しい、もっと愛して欲しいと若干メンヘラ女気味な発言を繰り返す凛を延々とマイは肯定していく。
具体的なことは言わないまでも、凛を褒めて、褒めて、甘やかして「ケンゴくんもこんな可愛い女の子に酷いよね~」と繰り返す。
それだけで凛はマイに対して自分の理解者のように感じて更に信頼感を高めていった。
「ふぅ……いや、ケンゴさんが忙しいのもわかってるし……私がワガママ言える立場じゃないのはわかってるけど……うん」
マイの胸で甘やかされた結果か、少しだけ気持ちを建て直した凛は座りなおしてグラスの酒を飲んでいく。
店に来た当初は飲み過ぎないようにとか考えていたハズなのに今はどんどん、酒を飲み干してはマイに注がれてそれを飲んでを繰り返して既に11杯目。
相当な量を飲んでしまっている凛はグラス片手に「ケンゴさんに会いたい……」などと小さく呟いた。
そこに―――。
「あ~、悪いな、凛。最近会えなくてよ」
「っぇ…………っぇ? …………っぇ!?」
―――凛が会いたくて涙すら流した存在であるホストのケンゴがカジュアルなジャケットスタイルで現れた。
状況に理解できていない凛はグラスを強く握ったまま。「え? え? え?」と繰り返して、口を”パクパク”させていく。
それにケンゴは微笑みかけるとマイに軽く声をかけてから凛の隣へと座った。
マイとケンゴ、2人に挟まれる形になった凛は隣に座った彼へとジッと視線を注ぎ続けていく。
普段はクールで冷静なキャラな凛だけど、酒で脳が蕩けているところに会いたかった人の登場で完全にパニック状態になっていたようだった。
「マイぃ、オレにも1杯作って?」
「ぇ~? あたしの可愛い凛たんを泣かせる人にはダメ~」
「そう言うなっての、オレだって寂しかったんだぜぇ? なぁ、凛♥」
慣れた調子で会話をするケンゴとマイ。
2人のやりとりに凛は小動物のように左右に首を動かして、相変わらず口をパクつかせていた。
状況を理解しきれていない凛。と言っても単純な話であって、彼女がマイの胸で泣いている頃にメッセージを送った相手がケンゴというだけだ。
それに応えて、ケンゴはこの店へとやってきて凛の隣に座った。それだけだ。
簡単な話ではあるのだけど、凛はここしばらくケンゴに会えずにいて酒がネガティブな方に入ったのもあって自分はこのまま捨てられると泣いたばかりだった。
そこに会いたかった本人が現れたのだから混乱するのも当たり前のことかも知れない。
「あ、その、私、別にその、ワガママ言ったりした訳じゃなくて、その……えっと……」
少しの時間を経て凛は何とか持ち直すも、今度は不安そうな表情を浮かべて視線は自分の足元にばかり向けていく。
久しぶりにケンゴに会えたことは嬉しくあり、酒で緩んだ頭だけどマイがここへと呼び寄せてくれたことは予想出来ていたが、自分のワガママを叶えて貰ったと言う罪悪感もあるようだった。
嬉しさよりも『迷惑をかけてしまった!』という気持ちが先に立つ程度には凛は普段は物事をハッキリ言葉にするタイプなのも見る影もないほどに口を”もごもご”させていた。
「イイんだよ、凛たん♥ 会いたいなんて全然ワガママじゃないからね~? ケンゴくんに少しくらい甘えてもイイのイイの♥」
「っぁ、ま、マイ、さん……」
不安そうな凛の髪をマイは優しく撫でて、勇気を与えるように語り掛けていく。
信頼する。信頼するように歪んで躾けられてしまった凛はその言葉に小さく頷くと、ここでようやく顔をあげてケンゴを見つめた。
「ぁ」
久しぶりに見た、ハッキリと見た大好きな相手の顔に胸を高鳴らせた凛は酒臭い息を吐きながら一度視線を外した。
だけど、直ぐに思い直すようにケンゴを見つめると恥ずかしそうに、困ったように、泣きそうな表情のまま彼の服の袖を掴んで―――。
「あ、会いたかった、です……♥」
―――呟く様な小ささでそう告げたのだった。
それにケンゴは優しく笑い、凛の頭を抱くように濃厚なキスをしていく。
会えなかった時間を埋めるような濃厚なキスをしていくケンゴと凛。その姿をマイは嬉しそうに楽しそうに―――。
『これからどうやって遊ぼうか?』
―――とでも考えている笑みを浮かべていくのだった。
どう考えてもまともなことを考えていない笑みに気づいたケンゴも同種の笑みを浮かべながら、凛の背中を優しく撫でてじっくりとキスをしてから口を離した。
「ん……っぁ……はぁあ……♥ っぁ♥」
一回のキスで完全に蕩けたメス顔を晒すクール系アイドルの美少女。
そもそもこんな風に優しくキスをされるのも久しぶりにもほどがあったりする凛なんだけど、そんなこと今の彼女には関係ない。
まるで久しぶりにに会った遠距離恋愛中の恋人のような空気を醸し出しながら凛は、”うっとり♥”した顔をケンゴに向けていく。
その表情からは無様なことをさせられて笑われて、小便どころか大便まで食わされた経験のある便女以下の存在とは思えないほど乙女だった。
「はいはい、じゃー、凛たんが許してくれたみたいだし仲直りってことでケンゴくんにもお酒をプレゼントしちゃる♥」
「お、さんきゅー♥ マジで最近忙しくて悪かったな」
「い、い、いっぇ! そんな、そ、それに、別に私は怒ったとか、そんなのじゃ全然なくて、その、ちょっと寂しかった、だけで、あ、あの、その……っ、ま、マイさん……!」
酒を注ぎながらのマイの軽口に凛は露骨に焦ってしまう。
ケンゴに対して不満がある訳じゃないと必死にアピールしながら、マイに「あんまり変なこと言わないでください!」と少し頬を膨らませる姿は実に可愛い。
その一幕だけ切り取れば、後輩の恋路を応援してお節介を焼く先輩とのドタバタ感はあるが、そんな爽やかなものではもちろんないのだ。
「ほらー、凛たん? 寂しいとか会いたいってのはもっとしっかり言ってイイものなんだからね? あたしなら好きピにはガンガン言っちゃうし♥」
「へっ、ぁ、で、でも、その……迷惑になる、し……」
アドバイスをされてもやはり凛はケンゴのことを第一に考えて不安そうにしていくばかりだった。
不安から視線を逸らす凛は気が付かなかった。この状況に、2人への歪んだ愛情と信頼と酒で目が曇った彼女が気が付かなかった。
2人がどこまでも楽しそうに微笑んでいることに。どう考えてもロクなこと考えていない笑みを見せていることに気が付かなかった。
「…………♥ いや、でも。オレもさ、あんまり凛と絡み過ぎるの良くないと思ってんだよなぁ」
「っぇ? ぁ……な、なんで……っぁ」
「ほら、凛はアイドルな訳じゃん? だってのにさー、オレが変に絡んで問題になったらヤバイだろ? 凛のことを考えたらさ」
「っ! そ、そんな……っ!」
既に未成年に酒を”ガバガバ”飲ませて、とんでもない金額を使わせた上で普通の人なら恥ずかしさで死にかねない無様なことをさせている男とは思えない発言。
それに凛は焦りながらも「私のことを考えてくれている?(キュン♥」なバカ女リアクションをしていく。
「その、私は別に、アイドルに未練は…………な、無い、とは言い切れない、ですけど……その……ケンゴさんが、その……言うなら……」
バカ女リアクションをした凛は握った拳を膝の上に乗せるようにしながら、アイドルを辞める覚悟すら見せていく。
それほどの覚悟を聞いてケンゴとマイは凛に気づかれずに視線を交わすと、笑いに堪えるような表情になっていた。
本当に楽しい玩具だと感じているらしい2人の間に挟まれる挟まれた凛はそんなことにも気が付かないでいた。気が付いたところで、彼女はもうこの2人に深く深くハマりこんでしまっていてどうにも出来ないのだろうが。
「いやいや、凛。簡単にやめるなんて言うなよ、オレはさ、頑張ってるお前が好きなんだから、な? ちゅ、れろぉ……ちゅじゅる♥」
「ケンゴ、さん……っぁ……っ、ん♥ ちゅ♥」
甘やかすようなキスに目を潤ませていく凛。クールさなど微塵もなく、完全に言いなり状態のメスになっている彼女。
キスだけで何度もしてしまいそうなくらいに夢中になっていく凛は何度も自分から積極的に舌を絡めていた。
「ふぅ……でも、まー、オレとしては今のうちに距離取るのもありかとはマジで思ってんだからな? 凛はアイドルだし、オレはそこらのホストだからなぁ?」
「そん、なっ、嫌、嫌っ、私離れたくない……っ!」
甘いキスから急転直下でまるで別れ話のような雰囲気になると凛は綺麗な瞳に浮かべた涙を零しつつ縋り付いてしまう。
感情が一気に上下に揺さぶられ、まだまだ多感な思春期ガールでしかない凛はもはや訳も分からずにただただケンゴと離れたくないと涙を流していた。
場合によっては痴情のもつれ系の事件に発展しかねない状況に見えなくもないが、ケンゴとマイはどこまでも楽しそうだった。
「ダメだよ~? ケンゴくん、凛たんを不安にさせたら♥ こんなに思ってくれる娘って今時少ないんだし、ね?」
「あ゛~、わかってんだけどな? でも、凛の為を思えばってやつ? それに凛の気持ちだって永遠じゃないだろうし、なぁ?」
まるで何かを打ち合わせでもしたかのように話を運んでいく2人に凛は気が付かない。
気が付かないままに、ただただ感情を思考を上手く操られていく。
「っ! ずっと、私はずっとケンゴさんのこと、好きなまま、だからっ……!」
必死に、どこまでも必死に自分の想いを伝えようとする一途な美少女で遊ぼうとする2人。
「気持ちって難しいよね~♥ 凛たんはケンゴくんのこと大好きだし、ケンゴくんも凛たんのこと真剣に考えてるのに……考えてるからこそ難しいってこと、あるよね♥」
「あ~、そうだなぁ♥ オレも凛のことはめっちゃ大切に思ってるからこそってのはあるんだよなぁ?」
どうにも白々しい会話をしながらケンゴは凛を抱き寄せて、少し前にマイがしたように彼女の頭を撫でていく。
子供扱いされているような、だけど心地良さもある行為に凛は更にケンゴに密着しようと身体を寄せた。
増えつつある彼女のファンが見たら発狂しそうなくらい男の縋る姿を見せる凛にケンゴは優しく語り掛ける。
「なぁ、オレは凛のこと大切に思ってるけどさぁ……凛はオレのことどう思ってる? いや、あ゛~……オレの為にどこまで出来る?」
「っぇ?」
これまで散々なことをさせてきて今更な気もするケンゴの問いかけ。
普通の女の子なら一生しないし、命令されても出来ない、したくないようなことを繰り返しやらされてきた凛は顔を上げてケンゴを真っすぐ見つめた。
「なんでも、します……!」
本気で真剣に、心からそう告げた凛の真っすぐな答えにケンゴもマイも笑いを堪えるのが必死なような顔をしていた。
「うんうん、凛たんはそう答えるようね~♥ でも、ケンゴくん? 凛たんにしっかりとご褒美的なモノも用意しなきゃダメだからね?」
「ご褒美……あ゛~、そだな。それも用意してやんなきゃなぁ?」
「そうそ、凛たんは素直でイイ子なんだから♥ ふふ、大切にしなきゃっしょ♥」
どうにも怪しく、楽しそうに話す2人だったが凛はご褒美という言葉にだけ単純に反応しているようで慌てつつも嬉しさを隠しきれない顔をしていた。
本当にどこまでも都合良く躾けられてしまった彼女は、何をさせられるかも知らないままにケンゴから貰えるかも知れないご褒美に胸を高鳴らせていくのだった。
そして、ケンゴへの気持ちを高めると同時に、自分と彼の仲を上手く取り持ってくれたとマイへの信頼も更に強めていく凛。
揃って凛を玩具にして遊ぶ気満々なのも気が付かない彼女は、この先も何度も何度も無様を晒すことになるのだった。
「じゃあ、凛……♥ 今度お前の真剣な気持ち、オレに見せてくれよ♥ オレもそれに応えるからさ、な?」
「は、はいっ! なんでも、何でも言ってくださいっ……ケンゴさんの命令なら私……なんでもします、から」
―――。
――――――。
「お、凛♥ 言われたもんは用意してきたか?」
「っぇ、あ……う、うん、一応……その、持ってきました……」
数日後のホストクラブ。頻繁に利用している個室に凛が入室すると既にそこにはケンゴとその後輩ホストたちが集まっていた。
ケンゴの姿に微笑みを浮かべる凛だけど、どこか不安を隠しきれない彼女の手には紙袋があった。
そこに入っているのは今日、凛がケンゴから『ご褒美』を貰うために必要な道具が入っていた。
「まずは、ほれ、一杯飲んどけよ♥ 今日は楽しくやるんだからよ?」
「ぁ、は、はい……♥」
これから何をするのか、何をさせられるのかは聞かされていない凛はどうにも落ち着かない様子だけどケンゴに呼ばれると子犬の様に嬉しそうに駆け寄ってソファ席に座る。
そして、当たり前のように準備されている大ジョッキ一杯のビールを慣れた様子で飲み干していけば周囲のホストたちが拍手をしたり、声をかけたたりと場の空気は盛り上がっていく。
「ほらほら、凛ちゃんどんどん飲んじゃって♥」
「ビールだけじゃ飽きるっしょ? ワインとか一本いっとく?」
「ケンゴさん来てんだし半端な飲み方しねーよな? な♥」
ジョッキ一杯を一気に飲み干した凛にホストたちは遠慮なく次の酒を提供していくのはいつものことだ。
「ぐぇっぷっ♥ ちょ、ちょっと、待ってっ! 今日はケンゴさんに言われて、その、色々持って来たから、お酒はそんなに、っぁ……!」
ビールを一気飲みしたことでゲップを漏らしつつ、どうにか次の酒を止めようとしても周囲は止まる様子鳴く次々に酒が運ばれてくる。
それを迷惑そうにしながらもどうにか飲んでいき、5杯目あたりでタバコを吸いながらその姿を見ていたケンゴが口を開いた。
「あ゛~、じゃ、そんくらいにして本題入っか?」
「ぅっぷ……! は、はいっ……♥」
酒が十分回った凛は顔を赤くしながら飲んでいたグラスをテーブルに置くと、例の紙袋を持ち上げてアピールした。
後輩ホストたちも何をするのかは聞かされていないようで興味深そうに紙袋へと視線を向けていく。
その視線の中で凛は少しだけ躊躇いながら紙袋の中身をテーブルの上へと出した。
「ふぅう……ケンゴさんに言われて、その、私のアイドルとしての思い出の品を持って来たんだけど……」
「おぉ、イイじゃんイイじゃん♥」
凛が持ってきたものは写真やタオル、リストバンドにと高価ではないようだけど思い出の詰まったものだと言うのが分かる品々だった。
それを見てケンゴは楽しそうに笑い、タバコを吸いながら凛の肩を出した。
「凛がオレの為にマジでどこまでやってくれるか、本気で楽しみにしてっからな? あ゛~、もちろん嫌なら拒否してくれてイイかんな?」
「っ! …………はいっ」
軽い調子で語り掛けられただけなのだけど、凛は酒で緩んだ表情を引き締めた。
ケンゴの為に何でもすると言った彼女の気持ちを試す行為をこれからさせられることを意識し、理解した凛は深く息を吸っていく。
「もちろん、ご褒美もちゃんとあっからな? ま、ゲーム感覚で楽しくいこうや♥ 難易度上がればご褒美もイイ感じになってくしよ♥」
「ご褒美……っ♥」
緊張していた凛だけどご褒美という言葉を聞けば少しだけ頬を緩ませてしまう。
まだどんなご褒美を貰えるかもわかっていないにも関わらず、チョロく期待しているようだった。
「あ゛~……最近少し凛に会えなかったりしたし? そんな訳でー、オレと凛のラブラブっぷりを確認する遊びって感じだわ、ま、そんな訳よ。な、凛? ちゅっ♥」
「ひっぁ♥ そ、そう、です……っ♥」
期待している凛を抱き寄せて、その頬にキスをするとケンゴは後輩ホストたちに雑に適当にこれからすることを説明した。
と言っても雑過ぎて具体的に何をするのかはわからないレベルだけど、それでも何か面白いことになるだろうと予感してテンションを上げて盛り上がっていく。
その盛り上がりの中でケンゴはまずはと持ってこさせた思い出の品を軽くチェックしてから、凛に語り掛ける。
「なぁ、これ……♥ この凛の思い出の品をさぁ、ぶっ壊せって言ったらどうする?」
「ぇ……?」
頬にキスをされただけで興奮していた凛に一気に冷水をかけるようなその言葉。
言葉の意味を理解するのに数秒かかった彼女はケンゴとテーブルの上の大切な思い出の品を交互に見つめて泣きそうな表情を浮かべていく。
周りのホストたちは「ケンゴさんマジで鬼畜っすわ♥」「凛ちゃん泣きそうじゃないっスか」と囃し立てていくが当の凛は何も言えずに口を”パクパク”させるばかり。
ケンゴの命令なら何でも出来ると言っていた彼女だけど、それでも簡単に頷ける内容ではないのだ。
「えっと、あ。あの……私……」
「…………♥ いや、ウソウソ、いきなりぶっ壊せとか言わねーよ♥ いきなりは、な……」
「ぇ? あ、そ、そう、ですか…………はぁあ……」
頷こうとして頷けないでいた凛に対して軽い調子で『いきなりは』と含みのありまくりそうな言葉を残すケンゴ。
今すぐには言わないけれど、段階を踏んだ先では命令する気満々の彼の思惑に気づかずに凛は胸を撫でおろしていく。
「じゃ、まずは軽めのジャブって感じから始めっか? あ゛~、そうだな♥」
凛に持ってこさせた思い出の品を前にどんな風に遊ぶかと少しだけ悩むケンゴはタバコを一口吸うと―――。
「まずはビデオレターからにすっか♥ 凛は撮られるの得意だもんなぁ? この思い出の品をくれた奴らに贈るつもりでのビデオレター♥」
―――そう提案した。
もちろん。ただただ当たり前に感動的なビデオレターを撮影するなんてことはないのを凛も、その場にいた全員が理解していた。
「ビデオレター……っ……」
「大丈夫大丈夫、本当に送ったりするわけじゃねーから♥ いつも通りに、な?」
「っ」
ケンゴのことは大好きで心から服従している凛ではあるけれど、アイドル活動やその中で生まれた絆、努力の記憶は彼女の中でも大切なモノに変わりはなかった。
それを汚すようなことをこれからさせられる予感に肩を震わせる彼女にケンゴはあるものを差し出した。
「ぁ……これ、は……?」
「言ったろ? ご褒美ありだって、な♥ オレの指輪にチェーン通しただけのもんだけど、凛にやるよ♥」
「っぇ……っぁ……っ♥」
差し出されたのは普段ケンゴが指につけていた指輪に細い、ネックレス用のチェーンを通しただけモノ。
しかし、それは凛が初めて貰うプレゼントであり、何よりもケンゴがずっとつけていた指輪を貰えるということが彼女の胸を打った。
「わ、私に、これを……っ♥」
その指輪はケンゴが他の客に贈らせたもので、何となくつけていただけだから思い入れも何もないのだけど凛からすれば非常に魅力的なモノに間違いはなかった。
差し出されたそのアクセサリーに手を伸ばした凛だけど、触れる前にケンゴは少しだけ彼女から遠ざけてテーブルの上のモノを指さした。
「ご褒美が欲しいならわかってる、よな? 大丈夫だよな♥ 凛はオレの命令には言いなりだもんな?」
「っ!」
「凛がオレの為なら何でも出来るって言ってくれて嬉しかったんだからな? 信じてるからな……凛♥ ちゅ♥」
「っぁ♥ …………っぅ……っ」
再び頬にキスをされた凛は思い出の品と、ケンゴから貰えるご褒美を天秤にかけていくが、ほんの一瞬だけ拮抗したそれは直ぐに傾き堕ちていくのを感じたのだった。
彼が何を求めているか、自分にどんな行動をして欲しいのか。それを理解してしまっている凛は自分の思い出を汚すようなビデオレターを撮ることを決意していく。
都合良く玩具にされているなんて考えもしないで、ケンゴも自分のことを真剣に考えてくれているなんて勘違いのままに。
―――。
――――――。
「はっぁっ♥ そ、それじゃあ、えっと、これから思い出の品の紹介を、していくね、い、いぇーい♥」
準備を終えた凛が無理にテンションを上げて挨拶をしていき、それをホストたちがスマホで撮影をしていく。
どこぞの安っぽい地下アイドルの撮影営業にも思えるけれど、そこに立っているのは間違いなく現役でTVで活躍もし始めている美少女アイドルである。
ただし、パンツ1枚の格好で乳首に洗濯バサミ、更には額に『ゴミ箱』の落書きに頬に『ブス』やお腹には『やり捨て穴』などなど落書きがいくつも施されていた。
スタイルの良い美少女アイドルだというのに胸元には『貧乳ブス』という落書きまでされている凛は額に書かれたゴミ箱の文字を見せつけるように洗濯バサミで前髪を上げている。
そんな状態で必死にどこかバカっぽく笑顔を浮かべてWピースをした彼女は罪悪感に顔を少しだけ辛そうにしながらも、テーブルの上に置いた思い出の品を一つ手に取った。
「……っ(これは未央がプレゼントでくれたもの……)」
それはリストバンド。使い込まれたものであり、凛と同じユニットのアイドルである本田 未央が彼女にプレゼントしてくれたものだった。
正確には未央は凛にだけじゃなくて同じユニットのもう1人である島村 卯月にも渡しており、色違いだだけど同じデザインのリストバンドをプレゼントしていて3人で同じものを身に着けてレッスンに励んでいたのだ。
シンプルだけど機能性もしっかりしており、3人とも愛用し続けており凛も現役で使っている大事で大切なリストバンド。
凛はそれを震える手で持ち上げると、内側に書かれた掠れた文字へと視線を向ける。
長く使用し、何度も何度も洗濯したのもあって文字が掠れて滲み読みにくいが、そこには『めざせぶどーかん!!』とマジックで書かれている。
それはこれをプレゼントしてくれた未央からのメッセージであり、3人で絶対にトップアイドルになって武道館でライブをやろうと誓った夢の刻印だった。
「…………っ……」
とても大切で、大事にしないといけないものだし凛はそれを非常に大切にしていた。
決して高いモノじゃない、むしろ安い1000円もしないリストバンドだけど値段ではない想いを彼女はそれに感じていた。
それを彼女はこれからケンゴたちが楽しめるように紹介する。当然だけど「凄く大切なものです♥」なんてことを言う訳にはいかないことを理解していた。
バカみたいな恰好で、大切なものを酷い紹介をしなくちゃいけないストレスと罪悪感に辛そうな表情を浮かべる凛に座ったままのケンゴはタバコを吸いながらご褒美のアクセサリーを見せていく。
「っ!(ケンゴさんからのプレゼント……っ)」
これまでケンゴからプレゼントなんてロクに貰ったこともない凛からすれば、彼がつけていた指輪のネックレスを貰えると言うのは非常に胸がときめくものだった。
「…………っ(ごめん、未央、卯月っ、今だけ、今だけちょっと、ふざけるだけ、だからっ、ごめん!)」
数日前。マイによって作られた久しぶりのケンゴとの時間で強く感情を揺さぶられて、改めて彼がいなくてはダメだと認識させられてしまった凛。
その上で『少しワガママになってもイイ』と言われた彼女の心には―――。
『ケンゴに飽きられたくない。ケンゴと一緒にいたい。何されてもイイから』
―――という願望が強く芽生えていた。
そこに加えてのご褒美の出現で凛は命令をこなせばきっとずっとケンゴと一緒にいられると思い込んでしまってもいたのだ。
マイとケンゴに上手く、上手く心まで調教されてしまっている彼女は自分の大切なものすら踏みにじろうと最悪の決意をしたのだった。
「こ、これ、このリストバンドっ。めちゃくちゃダサくて安物なんだけど、ぁ、あはは♥ 私のユニットの……おっぱいだけが取り柄のブス……から貰ったものでーっす♥(ごめん、本当にごめんっ! 未央、ごめんっ!)」
必死に笑顔を浮かべていく凛だけど、この場にいないとは言え大切な仲間に対して最低な言葉を向けている事実に心を軋ませていた。
凛からすれば未央は可愛くて明るくて、自分では到底勝てる訳が無い素敵な女の子だと感じていて憧れてもいる存在を罵倒する行為は辛く苦しいものだった。
しかも、彼女からの大切なプレゼントをバカにするような発言までするのだから心へのダメージは相当なものだったがそれでも走り出してしまった彼女は止まる訳にはいかなかった。
「ほんっとセンス0で、こんなのプレゼントされても困るんだよ、ね~♥ 人にゴミ渡すとかあのブスは性格まで終わってる、し♥ ……っ(私、なんて、ことを……未央はブスじゃない、ブスなんかじゃないしこのリストバンドだってこれからもずっと大切にするから……!)」
涙を流して、ここでやめてしまいたい凛だけど視線をケンゴに向けて彼が楽しそうに笑っているのを見れば小さく微笑んでしまう。
そんな自分に嫌気がさしてしまう彼女を周囲のホストたちも笑い、スマホで撮影をしていく。
「凛ちゃんひっで~♥」
「貧乳ブスのくせに巨乳をバカにするとか完全に嫉妬じゃん♥」
「そのミオちゃんもデコにゴミ箱とか書いてる女にブス呼ばわりされたくねーだろ」
完全にバカにする調子で野次るホストたちにどうにか愛想笑いのような笑みを浮かべると、謝罪の気持ちを込めるようにリストバンドを強く握ってテーブルに置こうとしたがそこで凛は1人のホストがあるジェスチャーをしていることに気が付いた。
「っぇ?」
”ニヤニヤ♥”笑うホストは片手を上げるとそれを振り下ろし、唾を吐く様なジェスチャをしていた。
一瞬。その動きの意味を理解できなかったけれどアイドルとして活動する中でカメラ外からのカンペやジェスチャー指示をそれなりに経験していた凛は瞬き1つの時間で理解してしまった。
「そ、っぇ……っ(そ、んなの、無理、ダメ! 酷いこと言うだけでも最低なのに、そんなこと、無理……っ!)」
大事そうにリストバンドを抱きしめて、守ろうと一歩後ずさった凛だけどふとケンゴの方に視線を向けて凍り付いてしまう。
さっきまでは凛を見て楽しそうに笑ってくれていたハズのケンゴは実に退屈そうにタバコを吸っていて、あからさまに興味を失っているように見えた。
それはあくまでも演技と言うか、凛を弄ぶ為のパフォーマンスでしかないのだけど彼女は胸が”きゅっ!”と締め付けられる感覚に息を詰まらせた。
「っぁ……っぁあ……っ(ケンゴさんに見捨てられたくないっ、でも、未央がくれたプレゼントを……っぁ……っぁぁああ!)」
まだまだ幼い脳みそに流し込まれている酒と、揺さぶられた感情によって身体まで震え出してしまっていた。
ケンゴに対してもただただ縋るだけではなく、数日前のやりとりのせいで『ケンゴさんも私のことを大切に思ってくれている』と思い込まされているのが強い負荷になっていた。
自分の一方的な感情ではなくて相手も好きでいてくれているんだと思考を誘導された凛は前以上に彼に強く依存し、強い感情を持つようにさせられている。
もしそれがなければ、『いくらケンゴさんの指示でもこれは私だけのものじゃなくて未央と卯月の2人の気持ちも籠ってる大切なもの!』と跳ねのけられた可能性もあるが、今の凛には―――。
「~~~っ! は、はー、こんなゴミ、本気で……い、いらないんだよね~っ♥ っっ!!」
―――無理で無理で不可能だった。
泣き笑いの表情を浮かべた彼女はリストバンドを振り上げて床に叩きつけるように投げ捨てた。
感情の暴走してしまっているのかそこで止まらずに―――。
「ぺっぇ! あ、あ~~、すっきり、した~~っ♥(私、なにやって、なにを、未央の、っぁ、みんなの、っぁ気持ちを……)」
―――床の上のリストバンドへと唾を吐きかけて、靴の裏に張り付いたガムでも剥がそうとするように踏みにじって見せた。
自分の行動を理解できずに頭の上の疑問符を浮かべまくる彼女だったが、ケンゴが楽しそうに笑ってくれているのを見れば胸の内なかには『やって良かった』なんて感情が生まれてしまう。
「っっ!(良くないっ! 何やってるの、私っ……! 早く、早く拾って、丁寧に拭いて、持って帰って手洗いしなきゃ、早く、早くっ!)」
生まれた感情を必死に振り切ろうと首を振った凛は直ぐにでも唾を吐きかけて踏んでしまったリストバンドを拾い上げたいのだけど、もしそれをしてしまったらケンゴに見捨てられるのでは? ご褒美を貰えないのでは?という不安に固まってしまう。
別にケンゴは凛に対して具体的な指示を出したわけでもないが、今はもはや彼の表情一つで一喜一憂してしまうほどに躾けられてしまっているのだ。
「~~~……っ! つ、次は、こ、これ、かな……っ(ごめん、未央、本当にごめんっ! 私でも、もう何やってるかわからないの、ごめん……ゴメン!)」
リストバンドを拾い上げたい気持ちはありながらも凛はそれが出来ずに次の思い出の品へと手を伸ばした。
撮影されていることを意識して、少し身体を動かすたびに乳首につけた洗濯バサミを震わせながらテーブルの上から選んだのは首からお守りをぶら下げている可愛らしい犬のぬいぐるみだった。
「…………(卯月が誕生日に贈ってくれた大切なぬいぐるみ……なんで、持ってきちゃったんだろ……)」
非常に大切にされているのが雰囲気からもわかる犬のぬいぐるみを手にして、凛はもう後悔の涙をこらえきれずにいた。
それでも、彼女はケンゴに見捨てられたくないしご褒美が欲しくてたまらなくて、そんな自分に嫌気がさしながらも止まれずにいた。
「こ、っれは、卯月って言う少し頭がおかしくて、け、ケツでかの娘が押し付けてきたゴミ、かな~? あは。はは♥」
もう我慢できない涙を流して、それでも精一杯笑いながら自分の心まで踏みつけるように罵倒していく。
その上で犬のぬいぐるみをこれまで抱きしめることはあっても、雑な持ち方などしたこともなかったのに顔を潰すように握って見せつける。
「持ち方ひっど♥」
「ケツデカってイイじゃん、凛ちゃんとか胸もケツもしょぼいし?」
「うわー、最悪じゃんこの貧乳ゴミ箱女♥」
手に力が入らなくなりそうな状態でも必死に犬のぬいぐるみを握って持ち上げると、涙と鼻水まで垂らしたゴミ箱顔の凛は説明を続ける。
「た、っぁ、誕生日にこんな不細工なぬいぐるみ渡すって、も、もはや嫌がらせ、だよね~♥ あのケツデカブス、ほんっと頭おかしいんだよ、ねーっ♥(そんなこと無いから、全部嘘だから、卯月っ! すっごく嬉しくてずっと、ずっとずっとこれからも大切にするからねっ!)」
心と吐き出す言葉のギャップに強いストレスを覚えてしまって足を震わせながら凛は早めに次へと移行しようとしていくが、ホストたちがそれを許すこともある訳なかった。
リストバンドのように投げつけたりする前にテーブルに戻そうとした凛を見逃す気は無いようでホストの1人がインタビューでもするようなテンションで声をかける。
「凛ちゃんはそのデカケツブスから貰ったゴミを普段はどんな風に使ってるんですか~?」
「は……っぇ?」
「いやいや、だから♥ そのゴミをさ、普段は何用に使ってるわけ?」
「な、にって……っ……ぁ」
ホストの言葉に凛の頭の中に過るのは大切に大切に汚さないようにしながらも、抱きしめたり恥ずかしくて本人には言えない感謝の気持ちを囁いたりしている記憶。
どこまでも大切にしているそのぬいぐるみなのだけど、そんなことを求められているのではないと直ぐに理解してしまった凛はテーブルの上に置こうとしたそれを再び持ち上げる。
「府、普段は……ぁっ! ムカついたこと、あったときのサンドバッグ代わり、かな……こんな風に……っぁ……ぁぁあ……っ!!」
震えまくる手で持ち上げたぬいぐるみを泣きながら凛は殴っていく。
”ぼすんぼすん”と軽い音を響かせながら、大切な思い出の品を殴り、その度に嗚咽を漏らして身体を震わせた。
ホストたちに笑い声もどこか遠く聞こえてくるようなストレスの中で殴り終えたぬいぐるみをリストバンド同様にその辺に投げ捨てると、次に手にしたのはステージ衣装と写真だった。
「はぁ……はぁ……(これは、だめ、絶対、だめ……酷いことなんて絶対言えない……無理、未央と卯月と……プロデューサーとの記念の、ものなんだから……)」
初めて大きめのステージでのライブをした際に着た衣装で、記念にと引き取らせて貰ったものだった。
そして、その際にユニット3人とプロデューサーも交えて撮影した記念写真。
思い出の品の中でも重すぎる、凛のアイドル人生の中でも重要な一日の記録だ。
写真に写る全員が笑顔。プロデューサーも、卯月も未央も、そして凛もだ。
「(私もこの時は未央と卯月みたいに可愛く笑えたんだよね……いつもつまんなそうにしている私が、さ)」
完璧な笑顔を浮かべる自分の姿。まさに”キラキラ”輝いている写真の記録と、今の自分のギャップに倒れそうになりながらも、それを最低な言葉でなじっていく。
「っ……見て、これ……あは、あはは……私以外、ブス、でしょ……」
もう止まらない涙を拭うこともしないで壊れそうな笑みを浮かべていく凛。
鼻水まで垂らしながら彼女は写真を罵倒し、笑い、衣装をバカにして踏みつけていくのだった。
「ほんっとこの衣装のセンス0だし、さぁっ……! このプロデューサーも毎度毎度目つき気持ち悪いロリコンだし、本気で最悪……最悪っ!(あ、週明けにテスト、だっけ、レッスンの合間に勉強しなきゃ。成績下がりまくってるし、またプロデューサーに教えて貰おうかな……)」
自分のやっていることへの強すぎるストレスに現実逃避気味な思考にまで陥っていた。
大切な人たちを罵倒しているのは自分じゃない、思い出の品をバカにしているのは自分じゃないと思い込むように過激な言葉を吐きかけ、それとは対照的に頭の中ではまるで違うことを考えていくのだった。
そんな凛の心を壊すような、思いっきり軋ませる思い出の品の紹介が終わると一度ホストたちは撮影を中断した。
「凛、お疲れ♥ あ゛~、オレの為にマジでめちゃくちゃやってくれて嬉しかったわ♥ ほら、これ、ご褒美ってかオレの気持ち?」
「っぇ……は……っぁ……あは、ぇ……ぇへへ……っ♥」
撮影が中断されても心がボロボロになって動けずにいた凛にケンゴは近寄って優しい言葉をかけると彼女の首に例のアクセサリーをかけさせた。
自分の大切な思い出を踏みにじるような行為をさせられた結果。大切な人たちを裏切ってしまった気持ちからの孤独感を覚えていた凛の心へとアクセサリーという形あるものが染み入っていく。
「ありがとうござい、ま、ます……っ♥」
壊れそうな心をケンゴに依存し、与えられたご褒美で無理矢理に修復していくしかない凛。
無様な格好のまま首から下げたネックレスに触れて、”ぐっちゃぐちゃ”の感情をどうにか慰めようとしていた。
喜びたい感情と、早くリストバンドにぬいぐるみ、衣装に写真にと大切なものを拾い上げて持って帰って汚れを綺麗にしたいと思う感情が混ざり合っていた。
大切な人たちへの謝罪も頭の中で繰り返していく凛を更に追いつめるようにケンゴは彼女を優しく抱きしめた。
「凛がオレの為にマジでなんでもしてくれるってのが嬉しくてさぁ」
「っぇ、ぁ、は、はい……♥ わ、私は、本当にケンゴさんの為、なら……」
「で……さぁ♥ やっぱオレとしてはさぁ、凛が他の男と繋がってるってのは気になっちゃうんだよなぁ♥」
「え? ……ぇ? えっと、あ、それ……は……」
「なぁ、凛……オレもさぁ、凛と一緒にいてイイか不安なのわかってくれよ……な? 凛がオレの為に何でもしてくれるってのが信じられなくなると……さ、オレも辛いから♥」
「っ……っぁ…………は、っぃ……」
もうひび割れ状態になってしまっている凛の心に染みこませるように”じわじわ”と言葉を流し込んでいくケンゴ。
不安だからと告げ、凛の行動で愛を確かめると言うような最低なことを言いながら彼はキスをすると最後に―――。
「次のご褒美はペアの指輪、とかどうだ?」
「っ!! っ……」
―――次のご褒美を提示して、凛が何かを答える前に身体を離して再びソファへと座った。
去っていったぬくもりを求めるように手を伸ばした凛は次のご褒美に生唾を飲んでいく。
そして、必死に「連絡先を消すだけ」そう自分に言い聞かせていくのだった。
大切な人との信頼をぶち壊すような行為をさせられて、その辛さをご褒美で誤魔化す様な行為。
しかも、『ケンゴさんだって不安なんだから私が頑張らなきゃ』と思い込まされているのもあって吐き気を覚えながらも彼女は止まることが出来ないのだった。
また撮影が再開された凛は涙と鼻水を拭っただけで、相変わらず全裸で身体に落書きされた状態でスマホを構える。
「えーっとぉ♥ せっかくゴミを色々ポイしたのでついでにぃ、だ……っ……だいっきらいなロリコンクソ男のプロデューサーの連絡先を消しちゃうね? もちろん……メッセージも全ブロックで! ぁ、あはは……っ(ケンゴさんの為、そう、だよ、ケンゴさんだって私がいくら仕事でも他の男と連絡してたら嫌だもん、ね?)」
大切で、恋愛感情とは別だけど間違いなく好きで、恩があるプロデューサーを罵倒しながら凛は震える指で連絡先の削除。
更にはメッセージのブロックまでしていき、ケンゴへの視線を向けた。
視線の先で彼が笑顔になっているのを見て罪悪感を『正しいことをしたんだ、だって笑ってくれてる』と必死に誤魔化していく。
それで終わり、これで終わりだと彼女は思っていたのだけどそうはいかないようだった。
「凛……オレは凛の一番でイイんだよな?」
「は、はいっ♥ もちろん、ケンゴさんが一番ですっ! プロデューサーなんかより、ずっと……! 誰よりも……!」
再び近づいてきたケンゴを前に笑顔を浮かべた彼女は抱き着こうとするが、その前に彼は足元を、床を指さした。
「…………っぇ? ぁ、土下座、ですか? し、しますっ!」
「いやいや、そうじゃなくてさぁ……オレが一番、なんだよな?」
「?? は、はい、そう、ですけど……?」
意図するところが分からずに、即土下座をしようとした凛は彼の言葉に不安そうな表情を見せる。
周囲のホストたちは既にケンゴが何をさせたいのかをわかっているようで楽しそうな雰囲気のままなのが凛を猶更焦らせて不安にさせた。
曖昧な愛想笑いを泣きそうに浮かべるしか出来ない凛にケンゴは彼女首にかけたネックレスへと優しく触れると―――。
「オレ以外からのプレゼントとか……要る?」
「っ!!!」
―――ハッキリと言葉にしないけれど、意図が伝わるように優しく告げた。
凛が理解したことを確認したケンゴは「ペアリング、今度選びに行こうな?」と囁いて頭を撫でるとまた元の位置へと戻りタバコを吸いだした。
「ぅあっぁ……っぁ……」
ケンゴが何を自分にさせたいのか、それを理解してしまった凛は歯を”カチカチ”鳴らす。
強いストレスに顔を真っ青にさせると、何度も何度も、何度も何度も躊躇いながら自分で捨てたリストバンドを、ぬいぐるみを、写真と衣装を拾い上げた。
重さは大したものでない。だけど、ずっしりとした確かな重さを凛は感じていた。
後輩ホストの1人が店で使っていて、当然洗浄などしたこともないようなゴミ箱を凛に渡して後はお任せとでも言うような空気の中。
「…………(未央、卯月、プロデューサー……ごめん、って言っても何言ってるの?って感じだよね、うん)」
少しだけ呆然としたように遠くを見た凛の瞳から完全に光が消えた。
光の消えた瞳のまま、凛はまずは卯月から貰った大切なぬいぐるみを掴み、強く引っ張った。
「っ!! あ、あ~~っ! あのケツデカ女っ! こんな、ゴミ、っ! 捨てる時まで面倒、なんだけ……どっぉっ!」
ぬいぐるみと言ってもそう簡単には千切れはしない、それこそ本気で、本気で引っ張らない限り。
犬のぬいぐるみの頭を掴んで、反対の手で後ろ脚を掴んだ凛はバカみたいな落書きをした格好で顔を真っ赤にするくらい歯を食いしばって本気で引っ張る。
そして、”ぶちぶち!”と音が響き、凛が何度目かの涙を流すのと同時に―――。
”ぶっちぃ!!”
「っぁ……」
―――卯月がくれた、とても可愛くて、とてもとても大切なぬいぐるみは引き千切れ、中の白い綿を露出させていた。
「…………(直さないと、縫う? 裁縫はあんまり得意じゃないけど、ちゃんと元通りにしなきゃ)」
自分で引きちぎったぬいぐるみを、卯月との友情を手に凛は直さなくちゃと考えていくのだけどケンゴが微笑みかけてくれるだけで、彼女は―――。
「は、はー、本当にスッキリしたぁ、あのブスからの贈り物が部屋にあるだけで……す、ストレス凄かったから、ほんと……スッキリ……した……っぁ……」
―――大粒の涙を零しながらぬいぐるみを用意された汚いゴミ箱へと放り込んでいくのだった。
一つ壊すたびにケンゴが笑ってくれる、思い出を踏みにじるたびにご褒美へと近づいていく。
「次は、っぁ、胸しか価値のない、く、クソバカ、ブスから押し付けられた……これ、す、捨てる……ね……っ……(もう、自分で何をしてるのかわかんなくなってきた……でも、ケンゴさんが笑ってくれてるし、これでイイんだよ、ね? うん、イイ、イイ、ハズ……イイんだよね……ね?)」
ハイライトの無くなってもはやただただ深い穴が開いているかのような目で凛は彼女をこれまで支えてくれていたハズの思い出を、大切な絆を壊していく。
引っ張り、引きちぎり、時にはハサミなどを使ってリストバンドも、ライブ衣装も、写真も、全てを。
「はぁはぁ……ほんと、す、捨てるときまで時間、かかるような……本気で要らない、ゴミ……こんなの、私に押し付けて……嫌がらせ、かっての…………」
ハサミ片手に身体を左右に揺らしていく凛。疲労困憊と言った様子で、モノを壊している間にとれたのか乳首の洗濯バサミは片方とれていた。
疲れ切った雰囲気を見せるが、それは破壊の肉体的な疲労よりも圧倒的に精神のダメージが多い様で焦点の合わない瞳でゴミ箱に押し込んだ大切な品々を見つめていく。
「はぁ……はっぁ……(大切なモノを壊すって、こんなに、疲れるんだ……そう言えば子供の頃、友達から借りた漫画のページ破っちゃったとき、冷や汗出たなぁ)」
それなりに酒を飲んでいたハズだけど完全に酔いが覚めている様子だけど、どうにも意識がハッキリしていないような状況になっていた。
大切な、本当に心から大切なモノを自分の手で罵倒しながら壊したことがあまりにも現実離れしてしまっているからかも知れない。
「(このゴミ箱は持って帰って、せめて繋ぎ合わせて……未央と卯月になんて言えばイイんだろ、何も思いつかない)」
思考はそれなりにクリアになっていはいるけれど、現実逃避の産物でしかない。
そう、これで終わり。ここで終わり。あとは金払って帰るだけだなんて都合良く考えているから凛はやり切った気持ちで思考をクリアにしているに過ぎなかった。
大切なモノを壊した、そこで終わりではなくケンゴは既にボロボロな凛の心を更に踏みにじるようなことを楽しそうに提案していく。
「じゃ、凛♥ 最後に、あ゛~、せっかくのプレゼントを捨てるのはそのブスどもに申し訳ないだろ? だから♥」
「…………?」
「食っちまえ♥ ゴミ箱って書いてあるしちょうどイイだろ?」
一度区切られた言葉の後に投げられた内容は凛の心を更に押しつぶして、砕いて、破壊していくのだった。
どうにか少しでも直せないかと感がていたバラバラのぬいぐるみやリストバンド、衣装に写真をケンゴは「食え」と命令をして、自分の額を”トントン”と叩くように指さした。
凛の額に書かれた文字は『ゴミ箱』つまりは、そういうことだろう。
『ゴミはゴミ箱が処理しろ』
それに凛はただ、ただ笑うしかなかった。
「ぁ、っは……はは……あはは……(みんなとの思い出壊して、私……もう、ダメだよ、もう……)」
自分の手で思い出の品を壊してしまったことで、凛は未央たちとの絆を壊した気持ちになっていた。
もう、こんな自分じゃ未央にも卯月にもプロデューサーにも合わせる顔は無いと孤立した孤独な心に触れるのは首にかけられたケンゴからのご褒美だけだった。
今。彼女が形として持っている大切な品はそれしかない。他は壊してゴミ箱の中だ。
汚いゴミ箱の中に押し込まれた、大切な思い出の品たち。
「それじゃ……あはは、ゴミは私が全部食べて……クッサイうんこにしちゃうね? いぇーい♥」
涙で目元を腫らした凛はしゃがみこむとゴミ箱へと顔を近づけていく。
「おいおい、マジで食うのかよ♥」
「ウンコの次はゴミって凛ちゃんどこ目指してんの?」
「ゴミもウンコも食うアイドルって需要どこよ」
笑われながらも凛はゴミ箱に手を突っ込み、写真の破片を摘まんで拾い上げた。
「ブス2人とロリコンクソ男の指名手配写真みたいなの食べまーっす♥ ぁっむ♥ んぐ……もぐ……♥(あー、なんか、これ全部食べてお腹壊して死なないかな、私、うん)」
明るく、バカっぽい声をあげながら思い出の品を口に入れて、本来食用にはならないモノを必死に必死に噛んで飲み込んでいきながら凛は漠然と死を願っていた。
幼く、繊細な彼女の思考と感情では大切な人たちへ酷いことをしてしまった大きすぎるストレスを飲み込めずに、漠然と死を思っていく。
だけど、そんな中でも人形の綿を咀嚼しながら―――。
「むぐむぐ、っぉっぇ゛! デカケツの押し付けてきたゴミ、くっさぁ……最悪ぅ!(ペアリング、買いに行くっていつ、だろ……デートかな? お金どのくらいあった方がイイかなって……)」
―――ケンゴから貰えるご褒美への期待に胸を弾ませてもしまっていた。
「ぁっぐ、むぐ、あ~~♥ こっちのブスのリストバンドもまずすぎぃ♥(みんなに酷いことして、死にたいとか思ってるのに直ぐデートのこと考えるってなに? あはは、私って思っていた以上のバカ女っていうか、ゴミ女、だったんだ)」
すらすらと、自然に罵倒を繰り返して涙も流さずにゴミにしてしまったモノを食べていく。
食べるべきものでもないのに凛は嘔吐くことも少なくどんどん口に運び、笑われながら噛んで、飲んで、途中でケンゴたちが飽きても食べ続けてゴミ箱の中身を空にしたのだった。
大量のゴミを食べて切った凛はどこか壊れたように笑顔のままへたり込んでいて、自分が何をしてしまったか、どれほど酷いことをしたのかと後悔しようにも大きすぎて処理しきれないでいた。
だが、残念ながらそれで終わりではなかったのだ。
ケンゴはとことん凛を弄び、壊してもイイと思っているのかも知れないレベルで更なる命令を下していくのだった。
―――。
――――――。
「ふぅ……」
あれから2週間後。凛はジャージ姿でレッスン場にいた。
そのレッスン場は彼女の所属するアイドル事務所のものではなく、ある大きな会場近くのレンタルスペースだった。
全国ツアー、というほどではないけれど人気の出だしている凛たちはいくつかの県を移動しながらライブを連続してこなすことになって現在遠征中なのだ。
そして、ライブ前の練習、調整などの為にレンタルスタジオで汗を流しながら凛は手首を額に当てて―――。
「ぁ……そっか……(リストバンドは……私が……)」
―――”ハッ”とした表情をして直ぐに自嘲気味な笑みを浮かべていく。
いつも、こういう練習の際にはつけていたリストバンドはあの日壊して、その上で食べていたのを凛は思い出してもはや笑うしかなかった。
自嘲の笑みを浮かべた凛はすぐ隣でレッスンに励む未央と卯月に視線を向けた。
いつも通り、いやステージを考えて少し緊張しつつも輝いている2人を見て、どこまでも最低な女になってしまっている自分との差に笑うしかないのだった。
思い出の品を壊し、食べて、更にそれ以上のことを凛はさせられていたし、これから大切な、本当に大切な未央う卯月の2人にもしていくことになるのだった。
それは、凛がゴミと化した思い出を食べた後のことだ。
―――。
――――――。
消化が厳しいものを無理に食べて、下手したら病院送りになってもおかしくはない状況だった彼女にケンゴは―――。
「次くるまでウンコ我慢して来いよ? ちょっと面白いこと思いついたからよ♥」
―――と当たり前のように告げたのだった。
もはや呆然としていたのもあるし、ケンゴの命令に逆らう気もなかったので凛は当たり前のように頷いた。
それから数日後。言われたように排便をしないでホストクラブに向かった凛はケンゴとホストが見守る前で、ガニ股での排泄を―――ウンコを命じられたのだ。
「ふんっぐっぅ! っぅ! ぅぐっぅ……!」
”ブッゥ! ブボッォ! ブリュリュッ!”
笑われバカにされながら凛はガニ股で思い出の品々を消化したウンコを用意された小さめのタッパーへとひり出した。
汗だくになりながらの美少女アイドルの排便姿はマニア垂涎かも知れないがホストたちからすれば半ば見慣れたものになりつつあった。
これまでに凛はケンゴの命令でウンコをしたことも、逆にホストのウンコを食べたことすらあったのだから。
「はぁはぁ……で、出ました、っぁ(これ、食べるの、かな? 大切なモノ壊すより、ウンコ食べるほうがまだマシ……)」
今度は更にそれを食えとでも命令されると思っていた凛だったが、ケンゴからされた命令はそれ以上だった。
「あ゛~、確か凛、しばらく遠征してくんだろ? そのブスどもとさ。だったらよ、色々チャンスあるだろ?」
「チャンスって……な、にを……」
「いやー、オレも凛と離れ離れになって寂しいし、なぁ? だから、ちょっとしたミッションだよミッション♥ もちろん、全部こなしたらご褒美もあっからな? 今度は旅行とかもありかもな?」
「ぇ? ……え゛? 旅行……っ! ケンゴ、さんと、旅行……っ」
自分だけではなく、未央と卯月に対して何かをするよう示唆をされては流石に凛もいくらケンゴの言葉でも直ぐに頷くことは出来ないハズだった。
しかし、それをすればデートどころではなく旅行までして貰えると聞いて胸を高鳴らせてしまっていた。
直接大切な人たちに何かする、傷つけるような行為は出来ない、したくないと心から思っていた凛だけどケンゴとの旅行という想定していなかったご褒美に揺れていく。
「たまにはイイだろ? そだなぁ、上手く出来たら遠征の後に泊まりで旅行……オレは凛と行きたいんだけどダメか?」
「~~~~っ♥」
感情を、心を”ぐっちゃぐちゃ”にかき混ぜられ、壊されていく凛はもう目の前の素敵なご褒美には条件反射で尻尾を振ってしまうようになっていた。
何よりも一度、大切な人たちからの絆とも呼べるモノを壊したことも聞いているだろう。
1回やってしまえば2回も3回も同じ、と。
そうやって凛の心は都合良く躾けられ、良い反応をする玩具として教育されていく道しかもうなくなっているのだった。
ケンゴに命令されれば本当になんでもしてしまうように、実に都合の良いメスになっていくしかなかった。
―――。
――――――・
「………………ん、少し、休憩にしよっか? あ、ドリンク、ぬるくなってきちゃったから新しいの持ってくるね」
迷うように、覚悟を決めるように1秒か2秒ほど目を閉じた凛は普段通りを意識したような顔でそう告げた。
レッスンで汗をかきて呼吸を荒くしている2人にそう告げた彼女はレッスン場から出ると、冷蔵庫のある部屋に向かった。
「…………」
そこは簡易的な給湯室のような場所。水道と冷蔵庫、あとポットが置かれている程度の狭い部屋だ。
冷蔵庫を開けた凛は冷えたお茶のペットボトルを3本とあるものを取り出した。
ペットボトルのお茶はその辺のコンビニで購入出来るような普通のものであり、プロデューサーやスタッフが用意してくれたものだ。
「誰も来ない、よね……」
取り出したお茶をテーブルに並べた凛は素早く開封すると、周囲を気にしながらこっそりとお茶と一緒に取り出したもの―――小さなタッパーの蓋を開けた。
そのタッパーの中には茶色い物体が―――いや、2週間前にケンゴたちの前でひり出した思い出の品を消化したウンコが入っていた。
スマホを取り出して手元を動画撮影しながら不安と罪悪感に手を震わせた凛は用意しておいたスプーンでそのウンコを少量掬い取ると―――。
”ちゃっぽ”
「ごめん……未央、卯月、本当に……ごめん……!」
―――開封したお茶の中へと混入させてていった。
ごく少量ではあるが、凛は確実に2人が飲むべきお茶へとウンコを入れると蓋を締めて何度も何度もシェイクして混ぜ込んでいく。
泣きそうな表情だけど、ここで泣いてしまっては2人に怪しまれる、ではなく2人はきっと自分を心配してしまう。そんなことは耐えられないと必死に答えながらお茶をシェイクしてウンコが見えなくなるまで溶かす。
「はぁはぁ……これで……っ……」
少量入れたウンコが見えなくなったのを角度を変えてまで観察をした凛は改めてスマホを構えて、横ピースをしながらの自撮りを開始した。
「っ……い、今から鬱陶しいブスたちに、美少女のウンコ入りのお茶を飲ませたいとおもいまーっす♥ …………っ!」
そう宣言した。自分のウンコが混じったお茶を大切な、噓ではなく混じりけなく大切な2人に飲ませる、と。
それがケンゴから命令されたミッションの1つであり、一番大きなモノだった。
しかも、一回飲ませて終わりではなく、この遠征中にタッパーに入っているウンコを全て2人にどうにかして食べさせるという最低の行為だ。
衛生的な問題以前に倫理的にも何もかもやってはいけないことを凛はやろうとしていた。
「…………っ(ごめんっ! 謝ってどうこうの問題じゃないけど、本当にごめんっ! あああっ! 私、なんでこんなこと……っ、なんで……っ)」
しっかりとペットボトルの蓋を締めると、罪悪感で顔を強張らせながらも2人が待つレッスン場に戻った。
「……あ、これ……ふ、蓋は開けてあるから」
渡されたペットボトルを未央も卯月も笑顔で受け取り、凛に微笑みかける。
それだけでなく―――。
「っぇ゛!? あ、す、少し疲れただけ、だから、体調は問題ないよ、うん……ありがと」
―――罪悪感と不安で少しだけ様子がおかしかった凛を心配してくれていた。
そんな優しい2人がお茶を、自分のウンコを混入させたものを飲む姿を凛は見つめていく。
「(気づかないで気づかない気づかないで……! いっそ、気づいて吐き出して欲しいけど……っ)」
自分がとんでもなく最低なことをしている自覚からの罪悪感に肩を小刻みに震わせていくが、2人は気が付くことなく喉を鳴らしてお茶を飲んでいくのだった。
それに少しだけ安心して、しかしまだまだタッパーの中にはウンコが残っておりそれを食べさせなくてはならない。
いや、別に食べさせなくてもイイ。ただ、凛がケンゴからのミッションを放棄すればイイだけの話だ。
だけど、凛はそれは出来ないでいた。
「(今回、だけだから……ごめん、2人とも……)」
ケンゴからの命令には逆らえない上に、凛はどうしても彼との旅行を実現させたかったのだ。
自分勝手が過ぎる最低な自分を責めながら凛はジャージのポケットに入れた、ケンゴから貰ったアクセサリーを強く握る。
大切な人たちとの絆を踏みにじった彼女はケンゴに縋るしかなかったのだ。
「そ、それじゃ、再開しよっか?」
ぎこちなくなってしまうのを誤魔化す様に無理にでも笑顔を浮かべて今は精一杯レッスンに集中しようとしていく。
―――。
――――――。
「…………夕飯にも少し、混ぜたけどお腹壊したりしてない、よね」
深夜。ホテルのトイレ。便座に座った就寝用のジャージ姿の凛は自分の行いへの後悔を繰り返していた。
タッパーすべてのウンコを2人に食べさせなくてはいけないので、お茶に少量混ぜるだけでは到底終わらないので食事にもこっそりと混ぜていたのだ。
当然ながら2人にも同行しているプロデューサー、スタッフなどにも見つからないようにしているので神経を擦り減っていた。
そもそも、ウンコを入れたタッパーを持ち歩いている時点でとんでもないストレスであり、常温ではおいておけないからとバレないように冷蔵庫に入れたり、小さなクーラーバッグに隠したりと気を遣っていた。
「はぁあ……ほんと……私何やってるんだろ……」
大きくため息を漏らし、まだまだライブもこれからなのに疲れ切っていた。
友人である仲間であり戦友とも言える2人に自分のウンコを食わせる罪悪感とストレスに心が折れそうになっていたのだけど―――。
「っぇ……? っぁ♥ ケンゴさんからメッセージ、っぁ、じ、自撮り? っ♥」
―――すべて投げ出してしまいそうになっていたところで、ちょうどスマホにケンゴからのメッセージが届いて一気に笑顔になっていく。
その内容は自撮りが欲しいと言うものであり、凛は「ケンゴさんが私の写真欲しいんだ♥」と嬉しくなってしまい、さっきまでの疲れ切った顔を忘れたように笑顔を輝かせて自撮りを送った。
少し疲れているし、撮影場所はトイレの個室だけど美人で綺麗な美少女の自撮り写真を撮影し送ると、直ぐにケンゴから返信があった。
「可愛いって、あは……♥ え~、今度はエッチなのも? ふふふ~♥ ケンゴさん、寂しいのかな? って、っぇ……? あ、ミッション? ……写真を、未央と卯月が寝てるところで? …………ブス顔も? …………っ」
褒められて実に単純に喜ぶ凛だったけれど、次の自撮りには条件がつけられていた。
条件は裸での自撮りの上で、寝ている未央と卯月も一緒に画角に入れた上で自分はブス顔をたれというものだった。
時刻は深夜でレッスンで疲れ切っている2人はぐっすり寝ているだろうけれど、どちらかが起きたらと考えたら背筋が震えてしまう。
だが、やはりもう―――。
「っっ……ミッション、こなさなきゃ、ケンゴさんの命令、だもん……っ! 旅行、一緒に旅行、泊まりの旅行……♥」
―――凛は自分の破滅程度で止まるような思考を持っていなかった。
2人にウンコを食わせるだけではなく、この遠征中にランダムに出されるミッションをこなしてケンゴとの旅行を実現させたい彼女はそっとトイレのドアを開けた。
トイレから出るとそこは洗面台があり、ベッドの置かれた部屋に続く通路になっている。その部屋の中は既に暗く、耳を澄ませば2人の寝息も微かに聞こえてくる。
「…………ん」
寝息を確認した凛はトイレを出て直ぐの洗面台に向かった凛はそこで手早く、慣れ切った動作で自分の顔をブス顔にしていく。
頬に『貧乳ブス』やチンポの落書きをサインペンでしていき、ジャージを脱いでパンツも脱ぐとそれを某変態仮面のように被った。
就寝時につけているブラだけの格好になると、そっと2人が寝ている部屋へと侵入する姿は完全に不審者だ。
その状態でそっと電気をつけた。さすがに真っ暗ではスマホのカメラでは撮影出来ないので仕方がないだろう。
「っ!(起きないで起きないで起きないで!)」
祈るように何度も心の中で繰り返した結果かはわからないが並んだベッドに寝た2人は起きる様子もなく寝息を刻む。
それに胸を撫でおろしたら、並んだベッドの脇に立って寝ている2人が写るようにした上で自撮りを撮影。
手をなるべく伸ばして、パンツを被ったままの横ピースという無様な姿での撮影をしたら急いで電気を消してトイレへと戻ると写真を送信した。
「はぁぁあ~~~……セーフ……っ」
まだパンツを被ったまま大きく息を吐いた凛はこれでひと段落と身体から力を抜いた。
ケンゴからの褒めのメッセージを見て、貧乳ブスと自分で書いた頬を緩ませた彼女は旅行の日への期待で胸を高鳴らせていく。
それと同時に、ミッションをこなして褒めて貰える嬉しさに胸を震わせ、その興奮を抑えきれないのか片手をそっと自分のまんこへと伸ばしていくのだった。
―――。
――――――。
「さすがに……これは、なんか……でも……食べ物に入れないと減らないし……!」
遠征3日目の昼。ライブだけではなくて、せっかく色々な県に行くのだからロケーションのイイ場所での写真撮影もするスケジュールになっていた。
観光スポットなどを移動しながら写真を一日で何枚も撮るのもあって、食事を店でゆっくりとは出来ずにコンビニなどで購入したものを準備して貰い、ロケバスの中で食べることになっていた。
凛はそのロケバスの中で1人。用意されたコンビニ弁当の前で焦りながら作業をしていた。
こっそりと小さなクーラーバッグに入れて持ってきたタッパーを取り出して、スマホでその様子を撮影しつつこれから未央と卯月が食べるそれらにウンコを少量づつ混ぜ込んでいく。
レッスンで疲れ、何枚も何時間もの写真撮影で疲れて今の地獄は既に14時過ぎ。昼飯の時間も遅れるほどのスケジュールで疲れきった2人が食べる食事にウンコを混ぜる行為。
「カレーなのが幸いだけど……は、ははは……カレー味のウンコとか、小学生の男の子でも笑わない、でしょ……今時……」
用意されていた弁当はカレー。ルーが入っているプラの容器をあけると、そこにウンコを少しだけ入れて念入りに念入りに混ぜていく。
卯月たちは近くの公衆トイレにスタッフたちと行ったのでその隙をついてのまさに毒物混入行為とも言える。
それを大切なユニットのメンバーにやっているのだから、罪悪感で身体は震えてしまう。
しかし、ケンゴとの旅行の為にと入れて容器の蓋を締めようとしたときに―――。
「…………(カレーなら、もう少し入れてもバレない、かな? まだ全然ウンコ減ってないし、このチャンスに消費しといた方が……って、ダメ! 身体に悪いモノを食べさせてるんだから、一気になんて絶対ダメ……!)」
―――カレーならば色と香りで誤魔化せないかとさらに追加しようと悩んでしまった。
最終的にタッパーの中身のウンコを全て2人に食べさせるのが目的なので、いけるときに行っておいた方がイイかも知れないが、凛は一度に大量になんてことを2人には出来ないと首を振った。
自分がしていることへの疑問と後悔に心を苦しませつつ、カレー容器の蓋を閉めて凛は撮影以上の疲れに倒れそうになっていくのだった。
戻って来た卯月と未央は目の前でそのウンコ混入カレーを何も気づかずに食べていき、それを見ていた凛はどうにも食欲がわかなかったが2人を心配させまいと流し込むようにカレーを食べきったのだった。
そして、その日の夜。ホテルへと戻って来た凛たちは休息の時間となる。
1回目のライブは明日であり、その緊張に卯月と未央が胸を高鳴らせる中で凛だけは相変わらず別の緊張の中にいた。
「…………(ケンゴさんからのミッション、2人の下着を撮影って……お風呂入ってるときしかない、よね……部屋にお風呂は1つだし、順番に入っているときを狙って写真撮るしかないけど)」
ベッドに腰掛けながら悩む凛。また新たな命令をされており、今回のミッションは卯月と未央、2人の下着の写真を撮影して来いと言うものだった。
まだ下着姿ではなくて、下着そのものだけを撮影すればイイので難易度は低いかも知れないが、3人で1部屋、風呂は1つとなると中々難しくなる。
「っぁ、じゃ、じゃあ、私は最後でイイから……先に2人が入ってよ(これで2人一緒にお風呂でも入ってくれたら楽だけど、部屋のお風呂は小さいし無理、だよね)」
悩んでいる内にそろそろ風呂に入って明日の為に早く寝ようと言う話になったようだった。
最初は卯月が風呂へと向かい、部屋には凛と未央が残る形になった。
今のうちに卯月の下着を撮影したいところだけど、自分のベッドにだらしなく寝ころんだ未央が話しかけてきており、どうにも席を外すタイミングを失っていた。
「う、うん、緊張はするけど……レッスンでしたことを、ね、やるだけって言うか……うん(トイレに行くって言って抜けようか? 早くしないと卯月がお風呂から出てきちゃう)」
ライブを明日に控えて、未央は緊張もあってか普段以上に元気にというか饒舌になっていて抜け出すタイミングを凛は失ってしまっていた。
未央は緊張しながらも高揚しているようで、明日のライブへの意気込みを語り、3人で最高のライブにしようと何度も繰り返す。
いつもならば、その元気さと前向きさに凛は嬉しさと安心を感じていたハズだった。
だけど、その中で微かに―――。
「うん、そう、だね……(早く話を切り上げてくれないかな……どうでもイイ話を…………っ!! 私、なにを……っ)」
―――理不尽な苛立ちを未央へと向けてしまっていた。
ただただ自分のことだけじゃなくて、3人でライブを精一杯やっていこうとみんなのことを思って語り掛けてくれる未央相手に苛立ちを向けると言うあまりにも自分勝手な思考を必死に頭から追い出そうとしていく。
強い自己嫌悪に陥っていく凛の姿を緊張していると判断した未央は身体を起こし立ち上がると、隣へと座って手を握った。
優しく可愛く明るく語り掛け「私も緊張してるから♥」と、そう照れ臭そうに告げる未央の姿に凛も笑顔になりながらも、やはり胸の内には微かな焦りと苛立ちを芽生えさせてしまい何度も何度も自己嫌悪に陥っていくのだった。
結局。2人の下着はその場では撮影できなかったので、凛は深夜にこっそりと動き出すことにした。
「っ! ごめん、でも……っ他に方法ない、から……!」
ベッドに入って寝たふりをして、2人が寝たのを確認した凛は音を立てないように身体を起こした。
スマホを片手に、反対の手で小さなライトを持つと卯月のベッドに潜り込んでいく。
「はぁ……はぁ……(卯月の、イイ匂いがする……)」
完全に不審者と言うか、変質者以下の行為をしながら、布団の中で蒸らされた卯月の甘くイイ香りに少しだけ興奮してしまっていた。
興奮しながら布団の中で卯月の身体を上るように移動したら彼女の着ているパジャマを少し、少しだけ慎重にズラした。
そして、完全ではないけれど下着を露出させてそこをライトで照らしながらスマホで撮影をした。
「…………これで、はぁはぁ……っ……(お風呂の時に撮れればこんなことしなくても済んだのに、未央のせいで…………って、だから……! 悪いのは私、なんだから……!)」
ケンゴからの命令をこなさなきゃという焦り。もし、こなさなければ飽きられてしまうのでは?なんて強迫観念にも近い依存と焦りをまた理不尽に未央に向けてしまっていた。
そんな自分をまた嫌悪し、こんな考えをしてはいけない。そう考えてはいる、まだ凛はそう考えることが出来ていた。
「明日、ライブなのに何やってんだろ……私……」
卯月の布団からどうにかはい出た凛は何度も何度も漏らした溜息を再度漏らしていく。
3人でそれなりに大きなステージでライブ出来るようになって、色々な仕事をしてアイドルとして楽しくて仕方がない日々のハズなのに―――。
「大切な友達の下着を、こんな……変態みたいに撮影して、それを送って……」
―――やっていることは完全に犯罪者でしかなかった。
しかも、それに加えてウンコまで食事や飲み物へと混入させて摂取させているという最悪の行為。
ベッドから降りた凛は暗い部屋の中で涙を流した。自分の情けなさに泣きながら次は未央の布団へと潜り込んで、卯月と同じように下着の撮影したらケンゴへと送信していくのだった。
―――。
――――――。
遠征も5日目に入って折り返しとなった。
移動し、ライブを2度も行って成功を修めており疲労もあるけれど達成感もある最高の状態と言えた。
そして、今日はまた写真撮影とレッスンなどを行う日だけどそれなりに余裕がある日でもあった。
観光、でもないけれど3人は少しだけ休憩も兼ねて街を散策していた。
街中を邪魔にならない程度に横並びで歩く3人はここ数日のハードスケジュールから少しの間だけ解放されて笑顔を浮かべていた。
「やー、慌ただしかったから凄くリフレッシュ出来てるよねー」
「うんうん、未央ちゃんも凛ちゃんもお疲れ様~」
「いやいや、しまむーだってお疲れ様だよ」
未央と卯月は明るくやり取りをしながら、この遠征でのライブや仕事での達成感、着実に成長している自分たちを実感している様子だった。
まだ遠征はあと5日ほど続くし、ライブもあと2回もあるが3人ならば全てを成功に導けると自信と信頼を持っていた。
「もちろん! しぶりんだってサイコーだったかんね、って……あれ?」
ユニットのメンバー全員への笑顔を振りまく未央だったが、少し後ろを歩いていた凛がいなくなったことに気が付いた。
遅れて気づいた卯月も周囲を見回していたが、直ぐに見つかった。
「ぁ、ごめん。天気イイから、さ……ほ、ほら、飲み物、必要かなって? そこでコーヒー売ってたから……ね、飲んで?」
「お、さっすがしぶりん気が利いてる~♥」
「凛ちゃん、ありがと♥ あ、いくらだった? 自分の分は出すよ」
プラのカップに入ったアイスコーヒーを購入していたようで、3人分のカップを手に戻って来た。
お金を払うと言う申し出を断りながら、凛は2人にそれぞれカップを手渡していくのだった。
「ん、ぷは~、このコーヒー美味しいね~♥ 凛ちゃんありがとー♥」
「次はこの未央ちゃんがゴチするからね? って、あ、ほんとだ香ばしくて美味しい♥」
美味しそうにコーヒーを飲んでいく2人を見つめる凛の目には焦り。
彼女の頭の中には今日までのライブや色々な仕事のことなどまるでなく―――。
「…………(あんまり減らないから、かなり多めにウンコ入れちゃったけど、大丈夫、だよね? 2人とも飲んでるし)」
―――例のタッパーに入れて持ち歩いているウンコを2人にどう食べさせようかということばかりだった。
凛は荷物を入れた肩掛けのカバンに保冷バッグ入りのタッパを隠し持っており、2人に渡したコーヒーにも当然のように混入させていたのだ。
卯月と未央は多くの人が行きかう街中でウンコ入りのコーヒーを飲んでるなんて気が付くことなく、凛が自分たちの為に買ってきてくれたと喜ぶばかりだった。
「……喉、乾いたら言ってね? 天気がイイ日は無理、ダメだし(まだ半分も減ってないのにあと5日しかないんだから、もっと、もっとウンコ食べさせなきゃ……)」
コーヒーを買ったばかりだと言うのに凛はそんなことを言いながら、2人のカップの残量に目を光らせていた。
歩きながら飲んでいるのでそんなに一気には減らないことに苛立ちながら、卯月と未央は楽しく会話をしているのを見ながら周囲に視線を走らせる。
「(飲み物だけじゃそんなに量は厳しいし、カレーとか、ウンコ混ぜ込み易い料理の店とかないかな?)」
3人の時間を楽しむとか、ライブの余韻を共有することもなくウンコを2人に食べさせるという最低なことを考えてしまっていた。
焦り、不安に挙動不審になりつつある凛は未央のコーヒーが終わった瞬間に声をかけた。
「あ、っ、新しいの買ってくるね?」
「へ? って、ちょいちょいちょい! しぶり~ん、そんなに何度もご馳走して貰う訳にはいかないし、飲み終わったばっかりだから大丈夫だって、ね?」
「っ! そ、そう……そう、だよね……っ(チャンスなのに邪魔しないでしょ……)」
かなり焦って前のめり気味になっている凛はもはや内心で悪態を吐くのが常態化しつつあった。
当たり前のことを言っている未央に苛立ち、更には―――。
「(飲み物は時間あけないとダメなら、やっぱり食べ物、この近くにカレーとか、なんかウンコ入れやすい食べ物ないかな)」
「凛ちゃん、はい、これ♥ コーヒーのお返しにそこのお店でハンバーガー買って来たから食べよ?」
「っ!?(はぁ?! 何勝手なことしてるの、この……デカケツブス……っ!!)」
―――ご馳走して貰ったから今度は自分がお返しをすると言う幸せな連鎖を行ってくれた卯月に最低な罵倒をしてしまっていた。
笑顔で渡されたハンバーガーを投げ捨てて、怒鳴りつけたくなるのを必死に堪えて笑顔を作る。
柔らかく、美味しそうな香りのするハンバーガーを苛立ちのままに握りつぶしてしまいそうになりながら凛は―――。
「っ……ありがとう、卯月……(ハンバーガーなんか食べたら、ウンコ食べれさせられないじゃん……ほんと、ふざけないでよ……っ!)」
―――正気を失っているかのようなことを考えて罵倒を繰り返すのだった。
残りの5日。凛はライブよりも何よりも2人にウンコを食べさせることに必死になり、苛立っていくことになった。