肉の日のOKUNIちゃん03「緊急配信」 (Pixiv Fanbox)
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「ちょっとぉ、どういうことぉ!?」
「はぁ、そう言われましても・・・」
オフィスビルの一階で、女と受付係が揉めている。
「何で、あたしの動画が配信停止になんなきゃいけないのよ?」
そう凄んでいるのは、派手な紫色の髪をポニーテールに纏めた童顔の美少女。
ゆったりとした上着越しでもハッキリとわかる爆乳が、胸元をユサッと揺らす。
「私はあくまで受付なので・・・。それに、アポイントは・・・」
「アポなんて取る訳ないでしょ」
美少女は話にならない、と言わんばかりにビルの奥へと突き進む。
「おいっ、君ぃ。ちょっと、待ちなさ・・・うぉあっ!?」
見兼ねた警備員が止めに入ろうとするも、美少女がそれを“持ち上げた”。
「うるさい、わねっ」
美少女は、男の警備員にも関わらず片手で持ち上げ、ポイッと放り投げた。
ブォンッ!!
「う、うわぁぁぁっ!!」
美少女の軽やかな所作とは裏腹に、警備員は十メートル近く投げ飛ばされた。
「ちょっと、お嬢さん。乱暴は困りますな」
明らかに、“堅気ではない”空気を纏った男が出て来た。
「一体、どういったご用件で?」
「アナタたちが管理してる『DarkTube』に投稿した動画が、勝手に配信停止されたのよ」
「貴女、もしかして『OKUNI』さんで?」
「ええ、そうよ」
「えーっと、あの件・・・かな。なるほど、貴女が・・・」
男は、美少女を値踏みするように見遣る。
「貴女、ちょっとやり過ぎたんですよ」
「どういうことよ?」
そもそも、『DarkTube』は“表”ではやれないような動画を配信することを売りにしている。
目的として犯罪を行った動画、結果として手段とはいえ罪を犯した動画。
強盗、強姦、殺人。それをショーとして見せているものもある。
裏を返せば、抵触するようなルールが遥かに緩い媒体でもあるのだ。
本来、投稿した動画が停止になること自体、有り得ない。
「貴女、ウチの“業界”を的にかけ過ぎたんだよ」
“業界”とはいわゆる裏、バックについている企業や団体のことである。
『OKUNIチャンネル』は好評だったこともあり、アポなし生配信を連発していた。
その都度、強面や腕っ節自慢が居る“場所”へ出向き、潰して回ったのだ。
「その中に、ウチの傘下も居たもんでね。色々と困るんだよ」
単純に、構成員を潰されたという一次被害だけでなく。
暴力を売りにしているのに、女一人に潰されたという噂が広まれば。
ケツモチとしての信頼だけでなく、敵対組織の増長を生んでしまう二次被害。
「動画収益の“上がり”より、貴女に被(こうむ)る損失が大きいって判断だ」
動画配信の収益の内、十から二十パーセントが運営の取り分、“上がり”となる。
しかし、企業としての損失がそれを上回ってしまえば、運営も立ち行かない。
「だから・・・うぎぃっ!?」
「弱い男がグチグチと・・・」
『OKUNI』と呼ばれた美少女が、男を右腕一本で持ち上げる。
「若頭(カシラ)、一体どうし・・・っ!?」
奥からゾロゾロと、体格の良い強面の男たちが現れる。
「“ケツモチ”とか“組織としての威厳”とか、あたしは良くわかんないけどぉ・・・」
若頭と呼ばれた男を、『OKUNI』は又してもブゥンッと投げ飛ばす。
「「「うがっぁあっ!!?」」」
若頭の身体は、部下と思しき男数人を薙ぎ倒して漸く止まった。
「あたしみたいな、うら若き乙女にぃ。片手でノされてちゃ世話ないわよ」
『OKUNI』は徐(おもむろ)に、肩の高さで右腕を折り曲げる。
二の腕がモコモコッ、と急激に盛り上がり。
ゆったりとしていた筈の袖が、ミチミチッと張り詰める。
「んぅっ」
一呼吸を込めただけで、モゴォッと一回り大きくなり・・・。
ビリッ、ビリリッ!
「鍛え方が足りないのを、あたしのせいにされちゃ困るわ」
袖を引き裂いて現れたのは、凄まじい質と量の上腕二頭筋の隆起。
人の頭ほどもある巨大な、それでいて血管が浮き上がり捲った力瘤。
「てんめぇ、この野郎っ!」
大柄な男が、不意を衝くように殴り掛かる。
ドガ。
「・・・なぁっ!?」
大男の拳は、確かに目の前の闖入者の顔面を捉えた。
・・・にも、関わらず。倒れるどころか、全く微動だにしない。
「痛っ、たぁーい」
何と、『OKUNI』は躱(かわ)す素振りすら見せず、顔面で受けたのだった。
商売道具と言っても過言ではない、その整った童顔で、だ。
「な、ん・・・で」
男からすれば、まるで電柱か何かを殴ったような感覚。
「何で倒れないか、って?」
自分より明らかに上背がある大男の打撃を受け、平然としている。
「あなたに“筋肉”が足りないからよ」
盛り上げ次いでに、と。『OKUNI』は少しだけ、前腕と上腕二頭筋を開く。
「な、何を・・・」
怯む男の、伸び切った右腕をその間に挟むと・・・。
メキメキ・・・メギャッ!
「うっぎゃああぁぁぁっ!」
『OKUNI』は一瞬で、“それ”を挟み潰してしまった。
徳利のように急激に太くなる前腕筋と、岩石のような上腕二頭筋。
筋肉の塊に挟まれた男の腕は、小枝のように細く潰れてしまっていた。
まるで、万力を思わせるような、筋肉プレス機械。
「い、生かして帰すなっ!」
「きゃー、怖ーいっ」
そう言いつつ、殴って来た男の手を軽やかに掴むと。
グシャッ!!
と、いとも簡単に握り潰してしまう。
「いぎゃあぁっ! お、俺の手がぁっ!!」
「これ、正当防衛で行けるよね」
因みに、最初に投げ飛ばしたのは『OKUNI』の方、である。
そこからは阿鼻叫喚の、地獄絵図だった。
格闘技的な意味で、『OKUNI』はズブの素人なのか。
『OKUNI』は受け、掴み、挟み込む。それのみ、だった。
相手の攻撃を受け。手で掴み。筋肉で挟み込む。
ただそれだけなのに、男たちの身体が破壊され、圧壊して行く。
「あれ? そういえば、さぁ」
『OKUNI』は右手で男を吊り上げ、左腕で別の男をヘッドロック。
更には、スカート越しに別の男の胴体を挟み込んでいる。
「それ、何してんの?」
「・・・え。これ、ですか?」
『OKUNI』は一人、“付き添い”を連れて来ていた。
「何って勿論、“撮って”ますよ」
企画、立案に動画編集まで。『OKUNI』がやらない雑事の一切を請け負う敏腕編集者。
「“撮って”って、もしかして・・・」
「勿論、“緊急生配信”中ですよ♪」
動画撮影用のカメラを構えたまま、器用にスマホで配信中の画面を見せてくれた。
「・・・え、えぇーっ!」
「いや、だって。こんな美味しいネタ、やらなきゃ勿体無いじゃないですか」
「いや、だったら言ってよぉっ! 配信用のメイクも、トークも出来てないじゃない」
『いつもの舌っ足らずな口調って、“キャラ付け”だったんですね』
案の定、『OKUNI』が恐れていたコメントが多数、流れている。
「普通、こういうのって、内々には事前に話とくもんでしょ!?」
「アポ無し突撃を信条にしてる『OKUNI』さんが何、甘いこと言ってんですか」
コメント欄にも、『素の『OKUNI』さんが観れて嬉しいです』みたいな書き込みが。
「ちょっと、止めて! 止ーめー、てー」
『OKUNI』が画面を覆い隠したところで、“緊急生配信”は終了した。