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「ちょっとぉ、どういうことぉ!?」

「はぁ、そう言われましても・・・」

オフィスビルの一階で、女と受付係が揉めている。


「何で、あたしの動画が配信停止になんなきゃいけないのよ?」

そう凄んでいるのは、派手な紫色の髪をポニーテールに纏めた童顔の美少女。

ゆったりとした上着越しでもハッキリとわかる爆乳が、胸元をユサッと揺らす。


「私はあくまで受付なので・・・。それに、アポイントは・・・」

「アポなんて取る訳ないでしょ」

美少女は話にならない、と言わんばかりにビルの奥へと突き進む。


「おいっ、君ぃ。ちょっと、待ちなさ・・・うぉあっ!?」

見兼ねた警備員が止めに入ろうとするも、美少女がそれを“持ち上げた”。


「うるさい、わねっ」

美少女は、男の警備員にも関わらず片手で持ち上げ、ポイッと放り投げた。


ブォンッ!!


「う、うわぁぁぁっ!!」

美少女の軽やかな所作とは裏腹に、警備員は十メートル近く投げ飛ばされた。


「ちょっと、お嬢さん。乱暴は困りますな」

明らかに、“堅気ではない”空気を纏った男が出て来た。


「一体、どういったご用件で?」

「アナタたちが管理してる『DarkTube』に投稿した動画が、勝手に配信停止されたのよ」


「貴女、もしかして『OKUNI』さんで?」

「ええ、そうよ」


「えーっと、あの件・・・かな。なるほど、貴女が・・・」

男は、美少女を値踏みするように見遣る。


「貴女、ちょっとやり過ぎたんですよ」

「どういうことよ?」

そもそも、『DarkTube』は“表”ではやれないような動画を配信することを売りにしている。


目的として犯罪を行った動画、結果として手段とはいえ罪を犯した動画。

強盗、強姦、殺人。それをショーとして見せているものもある。


裏を返せば、抵触するようなルールが遥かに緩い媒体でもあるのだ。

本来、投稿した動画が停止になること自体、有り得ない。


「貴女、ウチの“業界”を的にかけ過ぎたんだよ」

“業界”とはいわゆる裏、バックについている企業や団体のことである。


『OKUNIチャンネル』は好評だったこともあり、アポなし生配信を連発していた。

その都度、強面や腕っ節自慢が居る“場所”へ出向き、潰して回ったのだ。


「その中に、ウチの傘下も居たもんでね。色々と困るんだよ」

単純に、構成員を潰されたという一次被害だけでなく。


暴力を売りにしているのに、女一人に潰されたという噂が広まれば。

ケツモチとしての信頼だけでなく、敵対組織の増長を生んでしまう二次被害。


「動画収益の“上がり”より、貴女に被(こうむ)る損失が大きいって判断だ」

動画配信の収益の内、十から二十パーセントが運営の取り分、“上がり”となる。

しかし、企業としての損失がそれを上回ってしまえば、運営も立ち行かない。


「だから・・・うぎぃっ!?」

「弱い男がグチグチと・・・」

『OKUNI』と呼ばれた美少女が、男を右腕一本で持ち上げる。


「若頭(カシラ)、一体どうし・・・っ!?」

奥からゾロゾロと、体格の良い強面の男たちが現れる。


「“ケツモチ”とか“組織としての威厳”とか、あたしは良くわかんないけどぉ・・・」

若頭と呼ばれた男を、『OKUNI』は又してもブゥンッと投げ飛ばす。


「「「うがっぁあっ!!?」」」

若頭の身体は、部下と思しき男数人を薙ぎ倒して漸く止まった。


「あたしみたいな、うら若き乙女にぃ。片手でノされてちゃ世話ないわよ」

『OKUNI』は徐(おもむろ)に、肩の高さで右腕を折り曲げる。


二の腕がモコモコッ、と急激に盛り上がり。

ゆったりとしていた筈の袖が、ミチミチッと張り詰める。


「んぅっ」

一呼吸を込めただけで、モゴォッと一回り大きくなり・・・。


ビリッ、ビリリッ!


「鍛え方が足りないのを、あたしのせいにされちゃ困るわ」

袖を引き裂いて現れたのは、凄まじい質と量の上腕二頭筋の隆起。

人の頭ほどもある巨大な、それでいて血管が浮き上がり捲った力瘤。


「てんめぇ、この野郎っ!」

大柄な男が、不意を衝くように殴り掛かる。


ドガ。


「・・・なぁっ!?」

大男の拳は、確かに目の前の闖入者の顔面を捉えた。

・・・にも、関わらず。倒れるどころか、全く微動だにしない。


「痛っ、たぁーい」

何と、『OKUNI』は躱(かわ)す素振りすら見せず、顔面で受けたのだった。

商売道具と言っても過言ではない、その整った童顔で、だ。


「な、ん・・・で」

男からすれば、まるで電柱か何かを殴ったような感覚。


「何で倒れないか、って?」

自分より明らかに上背がある大男の打撃を受け、平然としている。


「あなたに“筋肉”が足りないからよ」

盛り上げ次いでに、と。『OKUNI』は少しだけ、前腕と上腕二頭筋を開く。


「な、何を・・・」

怯む男の、伸び切った右腕をその間に挟むと・・・。


メキメキ・・・メギャッ!


「うっぎゃああぁぁぁっ!」

『OKUNI』は一瞬で、“それ”を挟み潰してしまった。


徳利のように急激に太くなる前腕筋と、岩石のような上腕二頭筋。

筋肉の塊に挟まれた男の腕は、小枝のように細く潰れてしまっていた。


まるで、万力を思わせるような、筋肉プレス機械。


「い、生かして帰すなっ!」

「きゃー、怖ーいっ」

そう言いつつ、殴って来た男の手を軽やかに掴むと。


グシャッ!!


と、いとも簡単に握り潰してしまう。


「いぎゃあぁっ! お、俺の手がぁっ!!」

「これ、正当防衛で行けるよね」

因みに、最初に投げ飛ばしたのは『OKUNI』の方、である。


そこからは阿鼻叫喚の、地獄絵図だった。


格闘技的な意味で、『OKUNI』はズブの素人なのか。

『OKUNI』は受け、掴み、挟み込む。それのみ、だった。


相手の攻撃を受け。手で掴み。筋肉で挟み込む。

ただそれだけなのに、男たちの身体が破壊され、圧壊して行く。


「あれ? そういえば、さぁ」

『OKUNI』は右手で男を吊り上げ、左腕で別の男をヘッドロック。

更には、スカート越しに別の男の胴体を挟み込んでいる。


「それ、何してんの?」

「・・・え。これ、ですか?」

『OKUNI』は一人、“付き添い”を連れて来ていた。


「何って勿論、“撮って”ますよ」

企画、立案に動画編集まで。『OKUNI』がやらない雑事の一切を請け負う敏腕編集者。


「“撮って”って、もしかして・・・」

「勿論、“緊急生配信”中ですよ♪」

動画撮影用のカメラを構えたまま、器用にスマホで配信中の画面を見せてくれた。


「・・・え、えぇーっ!」

「いや、だって。こんな美味しいネタ、やらなきゃ勿体無いじゃないですか」


「いや、だったら言ってよぉっ! 配信用のメイクも、トークも出来てないじゃない」

『いつもの舌っ足らずな口調って、“キャラ付け”だったんですね』

案の定、『OKUNI』が恐れていたコメントが多数、流れている。


「普通、こういうのって、内々には事前に話とくもんでしょ!?」

「アポ無し突撃を信条にしてる『OKUNI』さんが何、甘いこと言ってんですか」

コメント欄にも、『素の『OKUNI』さんが観れて嬉しいです』みたいな書き込みが。


「ちょっと、止めて! 止ーめー、てー」

『OKUNI』が画面を覆い隠したところで、“緊急生配信”は終了した。

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