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「ふあぁ~あ」

学校に着くなり、私は大あくび。


「仁美、どしたの? 眠そうじゃん」

「あ、明子」

クラスメイトにして、ゲーム仲間の明子。


「最近、また新しいの始めちゃってさ」

「ふぅん」

私は『デビルズクエスト』の名前は出さなかった。また、明子も聞いて来なかった。


私と明子はゲーマーなれど、やるゲームが同じかというと必ずしもそうではない。

ゲーマーだからこそ、それぞれ拘りがあるというか。

一般的なソシャゲなら誘うこともあったろうけど、買い切り型はねぇ。人に勧めるには敷居が高い。


「そういや、さ。昨日、“通り魔事件”があったらしいよ」

「へぇ」

夜中、サイレンが煩かったのはそのせい、か。まあ、私にとっては他人事。


今日も学校が終われば、真っ直ぐ帰って『デビルズクエスト』。

通り魔に遭う余地なんて、私にはない。そもそも、遊び歩いたりしないのだ。


「スマホだけど、やっぱり家でプレイする方が落ち着く」

今日も今日とて、遊び歩くのはゲームの中。花の女子高生だけど、彼氏が居なくても特段、気にすることもなく。


顔は、我ながら普通というか。自己評価では中の下か、下の上ぐらい。

体型は中肉中背。出過ぎず、引っ込み過ぎず、といった感じ。

チャームポイントは、メガネっ娘ってことぐらい? まあ、それもゲームのやり過ぎが原因なんだけど。


「ふぅん、何となくわかって来たかも」

私の関心はリアルスペックよりも、ゲーム内のアバターのスペック。ゲーム内のステータスの方が大事。


「『トシオ』のステって、そういうことだったんだ」

このゲーム、レベル制だけどそれだけじゃないことに気付いた。


本筋のストーリー進行とは別に設置されている、いわゆる“お使いクエスト”。

このクエストの報酬が、レアな武器やアイテム、それにステータスのアップなのだ。

『トシオ』のステがすばやさに偏っていたのも、そういう理由だった。


「もしかしたら、パラメータの開放も・・・」

もし、隠しパラメータがクエストでも開放されるなら、先に開放出来るモノは開放した方が良い。


<ステータス>

なまえ:ヒトミ

レベル:12

せいかく:ごうたん

みりょく:30 New!

しりょく:120

かしこさ:15

わんりょく:32

みのまもり:43

すばやさ:25

つながり:30 New!





「何か、すっごいパラメータ増えた気がする」

ここ数日、ひたすらクエストばっかり頑張った。その成果、なんだろうけど・・・。


「みりょく・・・は、『魅力』だとして。“つながり”って、何」

今まで、どんなゲームでも聞いたことのないパラメータ。親密度とか信頼度、みたいなもんなのかな。


“つながり”って単語で思い付くのは、このゲームだと『フレンド』システムだけど・・・。

このゲームのフレンドは、他のソシャゲほどガッチリしたシステムにはなっていない。


他ゲーだと、フレンド申請して承認を貰わないと、晴れてフレンドにはなれない。

しかし、このゲームは酒場にさえ行けば、いつでもフレンドを連れて歩ける。凄く、お手軽。


・・・だからこそ、パラメータ化する程の何かがあるとは思えない。



「ふわあぁ・・・」

ここ数日、連日の大あくび。


「また夜更かし? ・・・って、あれ?」

「ん?」

いつもの、朝の明子の挨拶。


「仁美、“眼鏡はどうしたの”?」

「へ? え、眼鏡って、“ここ”に・・・」

私は小さい頃からの生粋のメガネっ娘。慣れた手付きで、耳に掛かる眼鏡の蔓(つる)を・・・。


「あれ、無い・・・」

「眼鏡を忘れるぐらい寝惚けるなんて、珍しいわね」

ゲームのやり過ぎで視力を落として以来。今まで一度も、外出で忘れたことの無かった眼鏡。

私はそれを、初めて忘れた。しかも、“忘れたことに気付いていなかった”。


私の、教室での座席は列の一番後ろ。黒板の端っこに書かれた『日直』の文字すら読めない。

授業で困る・・・はずだった。今までは、確かにそうだった。―なのに。


「何で、見えるようになってるの」

今日一日を通して、私の眼には全ての板書が鮮明に見えるようになっていた。

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