悪魔のアプリLv.02「しりょく:120」 (Pixiv Fanbox)
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「ふあぁ~あ」
学校に着くなり、私は大あくび。
「仁美、どしたの? 眠そうじゃん」
「あ、明子」
クラスメイトにして、ゲーム仲間の明子。
「最近、また新しいの始めちゃってさ」
「ふぅん」
私は『デビルズクエスト』の名前は出さなかった。また、明子も聞いて来なかった。
私と明子はゲーマーなれど、やるゲームが同じかというと必ずしもそうではない。
ゲーマーだからこそ、それぞれ拘りがあるというか。
一般的なソシャゲなら誘うこともあったろうけど、買い切り型はねぇ。人に勧めるには敷居が高い。
「そういや、さ。昨日、“通り魔事件”があったらしいよ」
「へぇ」
夜中、サイレンが煩かったのはそのせい、か。まあ、私にとっては他人事。
今日も学校が終われば、真っ直ぐ帰って『デビルズクエスト』。
通り魔に遭う余地なんて、私にはない。そもそも、遊び歩いたりしないのだ。
「スマホだけど、やっぱり家でプレイする方が落ち着く」
今日も今日とて、遊び歩くのはゲームの中。花の女子高生だけど、彼氏が居なくても特段、気にすることもなく。
顔は、我ながら普通というか。自己評価では中の下か、下の上ぐらい。
体型は中肉中背。出過ぎず、引っ込み過ぎず、といった感じ。
チャームポイントは、メガネっ娘ってことぐらい? まあ、それもゲームのやり過ぎが原因なんだけど。
「ふぅん、何となくわかって来たかも」
私の関心はリアルスペックよりも、ゲーム内のアバターのスペック。ゲーム内のステータスの方が大事。
「『トシオ』のステって、そういうことだったんだ」
このゲーム、レベル制だけどそれだけじゃないことに気付いた。
本筋のストーリー進行とは別に設置されている、いわゆる“お使いクエスト”。
このクエストの報酬が、レアな武器やアイテム、それにステータスのアップなのだ。
『トシオ』のステがすばやさに偏っていたのも、そういう理由だった。
「もしかしたら、パラメータの開放も・・・」
もし、隠しパラメータがクエストでも開放されるなら、先に開放出来るモノは開放した方が良い。
<ステータス>
なまえ:ヒトミ
レベル:12
せいかく:ごうたん
みりょく:30 New!
しりょく:120
かしこさ:15
わんりょく:32
みのまもり:43
すばやさ:25
つながり:30 New!
「何か、すっごいパラメータ増えた気がする」
ここ数日、ひたすらクエストばっかり頑張った。その成果、なんだろうけど・・・。
「みりょく・・・は、『魅力』だとして。“つながり”って、何」
今まで、どんなゲームでも聞いたことのないパラメータ。親密度とか信頼度、みたいなもんなのかな。
“つながり”って単語で思い付くのは、このゲームだと『フレンド』システムだけど・・・。
このゲームのフレンドは、他のソシャゲほどガッチリしたシステムにはなっていない。
他ゲーだと、フレンド申請して承認を貰わないと、晴れてフレンドにはなれない。
しかし、このゲームは酒場にさえ行けば、いつでもフレンドを連れて歩ける。凄く、お手軽。
・・・だからこそ、パラメータ化する程の何かがあるとは思えない。
「ふわあぁ・・・」
ここ数日、連日の大あくび。
「また夜更かし? ・・・って、あれ?」
「ん?」
いつもの、朝の明子の挨拶。
「仁美、“眼鏡はどうしたの”?」
「へ? え、眼鏡って、“ここ”に・・・」
私は小さい頃からの生粋のメガネっ娘。慣れた手付きで、耳に掛かる眼鏡の蔓(つる)を・・・。
「あれ、無い・・・」
「眼鏡を忘れるぐらい寝惚けるなんて、珍しいわね」
ゲームのやり過ぎで視力を落として以来。今まで一度も、外出で忘れたことの無かった眼鏡。
私はそれを、初めて忘れた。しかも、“忘れたことに気付いていなかった”。
私の、教室での座席は列の一番後ろ。黒板の端っこに書かれた『日直』の文字すら読めない。
授業で困る・・・はずだった。今までは、確かにそうだった。―なのに。
「何で、見えるようになってるの」
今日一日を通して、私の眼には全ての板書が鮮明に見えるようになっていた。