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「健ちゃん、遊ぼー」

「うん、良いよー」

僕と真理奈ちゃんは、団地で隣同士。

なので、お互いがお互いの家に良く遊びに行った。


どっちがどっちへ、と言った感じで特に取り決めは無く。

その日その日の気分次第。約束もしない。


お互いが小学五年生になった、ある日。

その日は外が雨で、僕の家に真理奈ちゃんが遊びに来たのだ。


「ゲーム、やろー」

「うん」

その頃、既に一家に一台ぐらいには普及していた国民的ゲーム機。

ソフトは、良くある対戦型アクションゲーム。


「おりゃ、そりゃ」

「あ、ああっ」

お互い得意ジャンルが異なり、アクションゲームは僕に一日の長がある。


「あ、負け・・・」

バキッ。


「・・・あれ?」

「ん、どうしたの」

良く見ると、真理奈ちゃんの手元で、コントローラにヒビが入っていた。


「ごめん、割れちゃった」

「あー、仕方ないよ」

コントローラが壊れるのは、良くあることだった。

実際、耐久性に難があるのか、子供の“ガチャガチャ”プレイに対応しているとは言い難い。


「じゃ、これ使って」

「うん」

元々、両親とパーティプレイすることもあってか、コントローラは複数常備。


「えいっ、えいっ!」

バキャッ!


「・・・え」

「あ、あれ・・・?」

渡したのは、パパが専用で使っているコントローラ。

それが、真理奈ちゃんの手の中で“潰れて”いた。


「ご、ごめんなさい」

「ふ、不良品・・・だったのかな」

申し訳なさそうにシュンとする真理奈ちゃんに、僕はフォローを入れる。


「じゃあ、これを」

真理奈ちゃんには、“買ったばかり”の新品コントローラを手渡した。


「良いの?」

「それなら大丈夫だと思う」

パパが普段使ってるコントローラは、きっと傷んでたんだと思う。

大人が何度も使っていたのだ。むしろ、一番壊れ易かったんだろう。


「じゃあ・・・」

「うん。さ、やろ」

僕と真理奈ちゃんは再び、アクションゲームに興じる。


――数分後。


「やったー」

「うわぁん」

真理奈ちゃんのキャラが負けた、その瞬間。


バゴォッ!


「・・・あれ」

「・・・え?」

真理奈ちゃんの右手の親指が、ボタンごとコントローラを圧し潰していた。


「・・・・・」

「・・・・・」

両手持ち用のコントローラの右手部分。元々、耐久性に難があった。

・・・とは言え。そう何度も、コントローラが壊れるのだろうか。


パパ専用コントローラも、パパが普段使っているから壊れ易かった・・・のではなく。

“大人が使ってもビクともしなかった”物を、真理奈ちゃんが壊した・・・のだとしたら。


「何か、雨で湿気(しけ)ってたのかな・・・はは」

「なのかな・・・」

小学生ながらに、笑って済ませるしかない事態に、僕は初めて遭遇した。


お互いが“あの日の出来事”をすっかり忘れてしまった、ある雨の日の午後の事だった。



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