『元神父の牛獣人男性が罪人堕ちして排泄制限される話 未完』 (Pixiv Fanbox)
Published:
2020-05-30 08:00:04
Edited:
2021-03-01 04:24:43
Imported:
2023-04
Content
「元神父の牛獣人男性が罪人堕ちして排泄制限される話」
少しでもこの国の法律を齧れば、獣人に生まれなくてよかったと誰しもが思うだろう。
獣人間人権区別法。ほんの十数年前に制定されたそれは、それほどまでに強烈な悪法だった。今まで人間と同等の法規定を持っていた筈の獣人たちは、この法律によって人権を『区別』され、不平等な生活を強いられている。
平たく言えば、獣人達には『軽犯罪』の概念が存在しないのだ。よって窃盗やら暴力行為をしてもお咎めなし――なんてことはなく、むしろその逆だ。仮にそのような罪を犯したとして、獣人達だけは対応が罰金とか厳重注意とかに収まらず、必ず何らかの実刑を与えられる。
しかし、そんな事をしていては牢の数が足りはしない。そこで生まれたのが、『遠隔刑』の概念だ。ある程度の法知識及び立場の存在する人間種に獣人の罪人を預け、実刑期間をそこで過ごして反省してもらおう、というものである。
補足しておくが、この刑が適応されるのは人間の範囲で『軽犯罪』に相当する罪を犯した獣人達だけである。殺人とか強姦とか、そういう重罪に関してはきちんとした法務機関での懲役が行われるから、私達の関与は行われないのである。
「アダム・ヴァートン34歳、元神父……」
さる法組織に所属する私は、『遠隔刑』に該当する獣人達を預かり、更正させるという職務に就いている。預かると言っても私の家はさほど広くもないので、せいぜいが一人や二人送られてくるぐらいなのだが、今月はどうやら一人だけのようだった。
送られてきた書類には、罪人の詳しいプロフィールが印字されている。張り付けられた写真に写るのは茶毛の大柄な牛獣人の顔で、虫一つ殺せなさそうな温厚極まりない顔立ちをしていた。神父という職がまさしく似合う、優しそうな男性だ。
しかしここに送られてくる以上は罪人である。こんな温厚そうな御仁が一体何をしでかしたのかと罪状欄に視線を滑らすと、そこには『軽犯罪法違反』とだけ印字されていた。人間ならば厳重注意か軽い罰金で済むような、大したことのない罪だった。
難儀なものだ、と思う。この元神父も牛獣人などでなければ、無慈悲な前科を与えられることもなかっただろうに。しかしこの国の法がそうなっているのだから、このような結果になったのはどうしようもない訳だ。
呼び鈴が鳴り、仕事部屋を出て玄関に向かう。玄関扉を開くと、配達業者の犬獣人の引きつったような笑みが飛び込んでくる。
「どうも。例のもの、届けに参りました」
「ありがとう。いつもすみませんね」
犬獣人の背後には、おおよそ2m程度の長方形の『荷物箱』が置かれている。大柄な獣人用だからか、その厚みと言えば一種の棺桶めいていた。箱は荒縄が巻かれ上蓋が開かないようになっており、簡素なフォルムながらどことなく物々しい雰囲気を漂わせていた。
「いつもの場所に運べばいいですか?」
「ああ、うん。裏庭の地下室にお願いします」
私が配達受領の書類に筆を滑らせているうちに、配達業者の犬獣人は手早く『荷物箱』を裏庭の地下室の中へと運び込む。彼とはもう十何回目の付き合いなので、お互いに円滑に進むような動きを心得ている。最も獣人である彼としては、単純に早く終わらせて逃げおおせたいだけなのかもしれないが。
「無事搬入終わりました」
「ありがとう。ではこれを」
サイン済みの書類と共に、いくらかの小金を犬獣人の手に握り込ませる。いわゆるお目汚し代というやつだ。文字通り何の罪もない彼にとっては、この業務はいささか苛酷が過ぎるものであるだろうから、多少は労わってやらねばならない。
受け取り次第そそくさと玄関から去っていく犬獣人を見送ったあと、私は裏庭へと向かい、地下へ向かう階段を下りて牢屋に足を運んだ。地下牢と言えばかび臭く湿っぽいのが定番だが、生憎私はそういう環境があまり好きではない。故にある程度は生活用品と家具を揃えているし、換気や清掃も滞りなく行っている。こういう話を他の『遠隔刑』執行者に話す限りでは、私は少し変わっているらしい。
地下の通路の最奥の鉄扉を開けると、最低限の家具の揃った簡素な部屋に達する。部屋の中心には例の『荷物箱』が置かれていて、よく耳を澄ますと箱の中から薄らとくぐもった呻き声が聞こえてきた。なるほど、珍しく気を失っていないらしい。
箱の封を切り、縄を解いて上蓋を開いた。その瞬間、ツンと鼻を突く獣臭が箱の内側から飛び出してきて、私は僅かに眉をしかめる。
「ン゛……ン゛ン゛……ッ……」
箱の中には牛獣人が仰向けに詰まっていた。がっちりと嵌められた布轡の奥から、地の底に響くような太い呻きが漏れ出している。
いつ見ても凄惨な光景だった。口には轡が嵌められ、両手は前に組まれて手首を枷で繋がれている。衣類は殆ど身に着けておらず、壮健な肉体は発汗に塗れてじっとりとした輝きを放っており、下半身は辛うじて局部を隠す程度の汚れた腰布一丁だった。腰布は牛獣人の立派な男性自身に押し上げられてこんもりと膨らんでおり、ふっくらと垂れる陰嚢に関しては布の庇護も届かず隠されてすらいない。
人間種ならショック死しても可笑しくない環境だが、流石獣人だ。しばらくの間光に眩んでいたらしい怯えた視線が、覗き込む私の顔を捉える。目尻には大粒の涙が浮かび、まるで死刑を待つ罪人のような委縮っぷりを晒している。大抵の場合は殺してやるとばかりに睨まれるものなのだが、怯えられるのは中々に珍しい。
「ッ! ン゛ーッ! ンン゛……!」
箱に詰められた牛獣人は、私の姿を見やると何かを訴えるかのように叫び出し、身を強く捩らせた。私は仕事部屋に置いてきた書類の内容を思い出す。運送時間はおおよそ十二時間弱だった筈なので、恐らく箱詰めの彼が訴えているのは――
「……ッ! トイレ、トイレに行かせて頂けませんか……ッ!」
布轡を外してやるや否や、やはり想定通りの懇願が飛んでくる。無理もない、箱詰めにされて運ばれていた十二時間程度の間、彼は一度も封を解かれていない。固形物の食事は前日から与えられていないが脱水を防ぐための水は飲まされている。その上で敗走中一度も排泄の時間を設けられていないのだから、彼の尿意はもう限界を通り越し、膀胱は破裂寸前まで追い込まれているのだろう。
ちなみに、配送時に休息や排泄を行わせるか否かは、『遠隔刑』実行者――つまり私の裁量に任されている。大抵の実行者は失禁されて衛生面に悪影響を及ぼすことや臭気を嫌って排泄を行わせるようにしているが、わたしは如何なる場合においても排泄を許可していない。
わたしの下に運ばれてくる獣人達は、大抵が気性が荒く、私達人間に対して敵愾心を抱いている。敵と見なす私に堪え切れず失禁した様子を目の当たりにされたり、或いは恥を忍んで排泄を強請らなければならないという状況は、彼らの敵対心の牙をへし折るのに十分すぎる――という算段と、後は個人的趣味とが意図にあった。
「っ! あ、ああっ! お願いします、はやく、はやくしないと……粗相、ご迷惑を……っ」
牛獣人は臆面もなく、枷で繋がれた両手で腰布の上から股間を握り締める。このまま失禁するところを眺めていたいという個人的趣向を尊重しようかと思ったが、牛獣人の優しすぎる気概に免じることにした。まさかこの機において、失禁することで迷惑をかけるかもしれないなどと口走るとは、どこまで心優しい人物だというのか。
箱の中から牛獣人を引き起こす。最早一刻の猶予もないのか、牛獣人は身を揺らし、荒い息を吐き続けていた。
「っ、お手洗い、に……連れて行って、ください……」
「いえ、残念ですがそれは出来ません。……そこに出してください」
懇願する牛獣人だが、残念ながら彼の願いを聞き入れることは出来ない。私は無慈悲に手を挙げ、部屋の隅に置かれていた薄汚れた壺を指した。
「……え、っ」
壺を指さされ、牛獣人は強い困惑をその優し気な顔に浮かべた。何を言っているのか理解してしまったからこその、絶句だった。
「貴方は罪人です。私の許可なく牢から出ることは叶いません」
「そ、そんな……」
残念ながら、彼の望むようなプライベートな空間は罪人には存在しない。一挙一足を監視されるのが罪人だと、早いうちに分からせてやらなくてはならないのだ。
牛獣人の額に脂汗が滲む。そわそわと身を捩る落ち着きのなさを見るに、もう間もなく限界が訪れるに違いない。強い葛藤が牛獣人の瞳に浮かんでいるが、残念ながら彼がとれる行動は二択に一択なのだ。
「……せ、せめて、枷を外してください。このままでは、出来ません……」
牛獣人が排尿を行うためには、腰布を解くか前を持ち上げるかして陰茎を露出させたのち、狙いがぶれないように砲身を壺の方へと向けないといけない。両手が生きていなければその両方を行うことは困難であり、枷に繋がれていたら不可能だった。
「枷を外すことは出来ません。規則なので。私が補助しますので、腰布をたくし上げて下さい」
「……く、っ」
牛獣人の背を押し、壺の前に立たせる。牛獣人が震える手で腰布の前垂れを持ち上げると、逮捕されたときからろくに洗浄されていないために据えた匂いを放つ性器が露になった。羞恥に赤く染まるその温厚な顔立ちとは裏腹に、ぶら下げたモノはかなりの太さと長さを持つ逸品だった。惜しむらくは分厚い包皮が砲身を包み、赤黒い亀頭が僅かにしか覗いていないことだろうか。
両手を陰茎に添えると、牛獣人の身体はぴくんと跳ね、震え出した。自らの最も大切な箇所を晒した挙句、手まで添えられているという事実に酷く羞恥心を刺激されているらしい。
「そういえば、剥いた方が良いですよね。飛び散らされても困るので」
「……っ、お願い、します」
指先で舐るようにゆっくりと、その分厚い包皮を剥いていく。その太さ、皮の厚みはまさしく甘実の皮を剥くのと似ていたが、これは比喩にしては余りに陳腐が過ぎるというものだ。
「さあ、どうぞ」
露出した赤黒い亀頭の先端がふるりと揺れ、太竿を握る手に一層の熱が伝わってくる。私の胸は高鳴った。
ぴゅう、っと先駆けが数滴勢いよく放たれ、乾いた壺の底に当たってぱたりと音を立てる。それを皮切りに、細く震える生暖かな水流が、緩やかな放物線を描いて放たれ始めた。
「っ、ふうっ……」
たぱたぱと軽い音が響く牢内は、少ししてちょぼちょぼと水に水が突き刺さるような音が木霊するようになる。細く、委縮しているかのようだった水流も、次第に勢いを増していき、太くなっていく。ほとんどが水混じり故か透明な小便だが、壺底からは小便特有の酸い臭いが色濃く漂っていた。
牛獣人の顔を見上げれば、おおよそ半日ぶりに許された排尿の快感に浸りつつも、見知らぬ男の目の前で性器を露出させられ、しかも介添えまでされているという状況に酷く羞恥しているようでもあった。顔は紅潮と恥辱に赤く染まっている。溜まっていたものを排出することによって、少々血色がよくなったことも関係しているのかもしれないが、彼の顔はとにかく燃え続けているようだった。
「あまり、見ないでください……」
「いいえ、貴方の監視が私の仕事なので。そうはいきません」
「……」
牛獣人の私に対する眼差しが、困惑から警戒へと変化する一瞬を捉えた。元神父というだけあり人を見る目は鍛えられているのか、私の行動に個人的性的嗜好が混じっていることを見抜いたらしい。だからと言って、彼にはどうしようもないのだが。
強張っていた括約筋がようやく緩み始めてきたのか、小便は益々勢いを増していく。壺の半分ぐらいまで水面がせり上がってきているというのに、まだまだ出そうな気配がある。流石大柄な獣人だけあって、膀胱の許容量も規格外であるようだ。
じょぼじょぼと下品な水音が勢い良く響き続ける。彼の陥っているだろう羞恥と排尿の快感とが入り混じった心内を察するだけで、私の胸中はひどく昂る。このまま暫く、この風流な水音に耳を澄ませていたいところだったが、生憎と時間は有限である。
「アダム・ヴァートンさんですね」
唐突に私に名を呼ばれ、牛獣人――アダム氏はびくんと身体を震わせた。放たれる水流が僅かに揺れる。
「そ、そう、ですが……」
「聞いたところによると、神父様であったとか。ということは、戒律に厳格な御仁であるのでしょう」
「……今、その話をしますか?」
放尿中に話を振られたことに、アダム氏は酷く困惑しているらしい。私は冷酷の皮を被り、彼を見上げた。
「思いのほか、終わりそうにないので。時間は有限ですから、有効活用しなければ」
「……っ、すみません」
長放尿を揶揄されたと思ったらしいアダム氏は、その大柄な身体をこれでもかと委縮させる。羞恥に歪む彼の顔は、何とも可愛らしいものがあった。
「確かに、長年神の信徒として勤めてまいりました。戒律には、厳格でありたいと――」
「――軽犯罪法違反、でしたか」
「……!」
罪状を耳にした瞬間、アダム氏の顔が跳ね上がる。
「詳細を述べるならば、公共空間での局部露出でしたか。これは法に抵触するので貴方は今ここに居る訳ですが、神の戒律とやらでは許された行為なのですか?」
「……っ、いえ、それは……」
アダム氏は口を結んだ。己の所業の急所を突かれ、やり場のない苦痛に悶え苦しんでいるように見えた。目尻に大粒の涙が浮かび、彼は身体を震わせて泣き始める。
「仕方、仕方なかったのです……! どうしても、どうしても我慢できなくて……」
言葉に詰まるのとほぼ同じタイミングで、おおよそ二分程度放たれ続けていた小便がようやく止まる。私は念入りに竿を振って雫を振り落としたあと、戻された腰布を整えてやり、それから牢部屋の中にあるベッドへ座るよう促した。
「アダムさん。私はあなたの監視官ですが、同時に更正を請け負ってもいます。先程は厳しく接してしまいましたが、決して貴方を傷付けたい訳ではない。ゆっくりと、どうして法を犯してしまったのか、お話し頂けませんか」
「……はい」
アダム氏はしばらく涙を流していたが、やがて落ち着いたのか静かに語り始めた。
彼の話を要約するとこうである。アダム氏はとある獣人村の神父だったが、ある日隣町の神父が急病につき、代理で信者への説教を行ってほしいと頼まれた。アダム氏は快く了承し隣町へと向かったが、そこの信者のいくらかは獣人の神父を快く思わない勢力であったという。ただ口汚く罵倒されるだけでなく、いくらかの妨害を受けたのである。
「妨害、というのが、貴方が法を犯してしまったのと関係があるのですか?」
「はい。説教は夕方に予定されていましたから、昼頃に街へ着いたわたしはいくらかの落ち着く時間を頂けて――いえ、正直なところ、気が気ではありませんでしたが。獣人神父を善く思わない方というのは、多くいらっしゃるので」
「そうなのですね」
「獣が神を語るな、と暫し言われます。……わたしは、信仰は全てに開かれるべきであると思っていますが」
アダム氏の眼差しは憔悴しきっていたが、内側に灯る火は消えていないように思われた。芯の強い男性であると感じられる。
「成程。私もそう思います。……それで、貴方は街で落ち着いたのですよね」
「ええ。そこで、緊張していたのか、少し催しまして。教会のお手洗いを借りようとしたのですが、止められて」
「止められた? 何故?」
そういう――私と同じような――趣味の人物でもいたのだろうか、という邪推を喉の奥に引っ込める。
「そ、それは……」
アダム氏はその状況を思い出して精神を乱しているようだった。私は続きを促すことなく、彼が自発的に口を開くのを待った。
「……獣は外でしろ、と言われまして。獣人としての立場的に、人間に対して力ずくで押し通るわけにもいかないので、別のお手洗いを借りようとしたのですが」
「そこも止められたと」
「はい。恐らく根回しがされていたのでしょう、街のどこでもお手洗いを貸してもらえず、公衆便所に行こうとすると何処からともなく止められてしまいました。……わたしが尿意を堪えて歩き回るのを、くすくすと嘲笑する方々も居ました」
「それは……成程」
その行為は間違いなく彼の尊厳を侵害するものである――という仕事上の思考と共に、その場に出くわしたかったという私個人の感情も浮かび上がる。大柄な獣人が、漏らすまいと必死に尿意を堪えて歩き回るさまを、トイレを使う事さえ許されず絶望に染まっていく彼の心の中を想像するだけで、酷く興奮してしまう。
私はなおも昂り続ける心内を押し込め、アダム氏に続きを促した。
「……お察しの通り、とうとう我慢できなくなりました。用を足すことを許されるお手洗いは見つからないだろうし、このまま衆目の前で漏らしてしまうぐらいなら、いっそ――と、人目の無いであろう路地裏へと駆け込みました」
「……そこで、立小便を?」
「はい。本当に漏れそうで、気が動転していたのです。わたしはトイレではない場所で放尿をし、そしてそれを見られました。それで通報されて、今に至るという訳です……」
自らの卑猥な罪科を告解する神父とは、中々に倒錯的な存在のように見える。実のところ裁かれるべきはどう考えても神父の方ではないのだが、しかし彼が今ここにきてしまっている以上、彼は罪人として取り扱われたのだ。
「ちなみに、逮捕された際にその事情は?」
「話しました。ですが、……『何故漏らさなかったのか?』と言われ、それきりです」
なるほど。どうやら、法に背いて立小便をするぐらいなら漏らした方がマシ――というのが法機関の見解らしい。実際に自分がその立場に立たされたとして、彼らがその通りに行動できるか否かは審議の余地があるだろう。
アダム氏が獣人ということで、大分雑な裁き方になっているようだった。そもそもこの件の該当人物が人間であったなら、一言「緊急避難」として片付けられて無罪放免だっただろうし、プライバシーの侵害という名目でトイレを使わせなかった人物を逆に訴えることさえできただろう。
「お話をお伺いするところ、貴方には情状酌量の余地があると思います。本来ならば罪人は多少手荒な手段を用いて更正を行うのですが、貴方に関してはそれも必要ないように思われます」
「情状酌量、ですか」
アダム氏の俯いていた顔に、僅かな光明が射し込むように見えた。私は言葉を続ける。
「ええ。『遠隔刑』の規定に則り最低限の刑期――一か月は努めて頂きますが、貴方の尊厳を制限することは一部を除いてありません。流石に行動範囲は制限させて頂きますが、欲しいものを与えますし、したいことをしていただいて構いません」
それは曲がりなりにも罪人に与えられる権利としては破格のものだった。アダム氏もそれを理解した、或いはもっとひどい境遇に貶められることを想定していたのか、驚愕に目を見開いている。
「態度によっては復職も可能でしょう。人間からの風当たりは強さを増すかもしれませんが、同じ境遇の獣人達は理解してくれると思います。村の方々は、貴方の帰りを待ち望んでいますよ」
「……っ、ありがとう、ございます」
「しかし、一つだけ。心苦しいのですが、上の指示で『矯正』をしなくてはならないことがあるのです」
矯正。その物々しい雰囲気を湛えた言葉に、アダム氏の顔が僅かに強張る。
「……と、いうと」
「排泄管理です。貴方が軽犯罪法違反を再発しないよう、排泄――特に排尿は、私の許可なしで行ってはいけないこととします」
「――は、排泄、管理?」
聞き慣れぬ言葉らしく、アダム氏は絶句した。私は笑みを張り付け、言葉を続ける。
「排尿――つまり、おしっこに行きたいときは、私に申請してください。様々な状況を鑑みて妥当であると判断した場合に限り、トイレに行くことを許可します。今回は緊急という事で壺への放尿を許可しましたが、これ以降はトイレ以外への排泄は如何なる場合も認められないと考えて下さい」
「は、え……?」
アダム氏は目を白黒とさせた。意味が分からない――そう言いたげな表情だ。しかし、私はこれまでに何件もこのような表情を目の当たりにしてきている。何を隠そう私は、アダム氏のような軽犯罪法違反を犯した軽犯罪者を回してもらうように手回しを行なっているからだ。私の下に来る罪人の内、半数以上はアダム氏と同じような経緯でここに辿り着いている。
「と、トイレも自由に行けないのですか……?」
「いいえ。自由に行けないのはトイレだけです。それ以外は自由に過ごしていてもらって構いません。今までの反応を見る限り、アダムさんに特殊な拘束や束縛は必要ないと判断しました」
「特殊な拘束、束縛……」
「手錠や口枷、拘束衣といったものですね。以前いた狼人の若者は、それはもう手のつけようがないほど暴れたので――やむを得ず、締め具を付けさせていただきましたが」
狼人の若者がここに送られてきたのはもう三か月ほど前の話になる。
首輪や手枷、口枷を付けてもなお暴力的な態度を崩さなかったが、流石に貞操帯や陰嚢用の締め具を付けられてからは水を打ったように従順になったのを覚えている。急所を絞められ、激痛にのたうち回る彼の姿は今でも鮮明に思い出せるが、同じ男性としてあの仕打ちは少々だけ心が痛んだ。――それ以上に愉悦的でもあったが。
ともかくアダム氏にそれを付ける必要が無さそうなのは僥倖だ。あの巨体で暴れられでもしたら、少しばかり面倒なことになる可能性が否めないだろう。
「さて、長く運ばれてきてお疲れでしょう。昼食を用意させますが、その前に何か今の段階で欲しいものはありますか。可能な範囲でご用意させて頂きます」
何か言いたげなアダム氏を遮り、私は話を次へと進めた。囚人に対する矯正内容について逐一突っ込まれていては日が暮れてしまう。どうせどれほど聞いたところで、彼がすんなりと飲み込むことはないだろう。
「何もありませんか?」
「あ、いえ、出来れば服を頂けませんか。その、この格好は……恥ずかしい、ので」
私は改めてアダム氏の出で立ちを見回した。股間部に垂らされた汚い薄布の他に彼は何一つとして身につけていないという、きわめて扇情的な姿だ。臀部は丸出しのまま外気に晒されているし、少し足を上げるなり風が吹くなりすれば前垂れが捲れて性器が丸出しになる。人間に対してこの格好を強制すればそれだけで罪に問われそうなものだが、獣人しかも囚人相手ならこのような格好を強制させても何一つとしてお咎めがないのである。
「承知しました。用意するまでの間、せっかくですのでシャワーを浴びてきてはいかがですか。ご案内しますよ」
私はアダム氏を連れて地下室から地上へと出た。
階段を上がり、裏庭へと出る。短く生え揃った芝生の広がる庭を取り囲むように背の低い生け垣があり、生け垣の向こうは閑静な住宅街が広がっている。
長らく箱の中に押し込められていたアダム氏にとって、裏庭は久方ぶりの風通しの良い空間だった。彼は燦々と降る日光に目を細め、凝り固まった身体を伸ばして解しているようだった。
アダム氏の両手首を塞ぐ枷を外してやる。身体を制限する締め具がなくなったことによって、アダム氏は幾分か精神的な安堵を得たようだった。大抵の囚人は、箱に押し込められている間に、想像し難いほどのストレスに晒され続けてきており、枷を外してやるだけで私に対する感情は上向きになる傾向にある。
「いいのですか、枷を外してしまっても」
「私個人のスタンスとして、脱走や反逆の意志がない限りは、不必要な拘束は悪であると考えています。アダムさんが従順に生活して頂けるなら、私としては手を縛る必要性などどこにもないのですよ」
この辺りは『遠隔刑』の執行者によって千差万別である。幾ら囚人が執行者に従順であろうと、手枷や足枷を決して外さないものも居れば、服従度によって拘束度合を変える者もいる。加虐的な精神の持ち主であれば囚人に拘束衣を着せる、或いは一糸まとわぬ姿に剥いた後首輪だけを着けておくなど、とかく様々であるのだ。
「それに、そのままではシャワーも不便でしょうし。はい、そこが貴方用のシャワー設備です」
私は裏庭の隅にある金属製のポールを指さした。そこにはシャワーヘッドと蛇口とが備え付けられている。
「あ、あの……こ、ここで浴びるのですか?」
「安心してください。シャワーの水に危険性はありません」
「い、いえ、そうではなく……その、外から、見えるのではないかと」
アダム氏の言う通り、シャワーを囲む衝立やら壁などはないので、裏庭を囲む生け垣を除いてシャワーを浴びている人物に作用する目隠しは存在しない。生け垣もアダム氏でいうところの膝程度の高さまでしかないので、平たく言えばシャワー中は丸見えになるのである。
「見えますね。ですが問題ありません、私有地内ですし。私には色々な権限があるので、貴方がもし外部の人間に裸を見られてしまっても通報されることはないのです。リラックスして頂ければと」
「……ですが、その、流石に裸を見られるのは」
「貴方は名目上囚人なので、流石に監視の目が行き届かない場所には置いておけないのです。ご理解下さい」
私は反論の隙を与えないよう捲し立てた。規則を盾にしてしまえば、囚人であるアダム氏には何も言うことが出来ない。彼は羞恥心からか顔を赤らめ不服そうに唇を噛んでいたが、やがて観念したように項垂れた。
「わかり、ました……。脱いだものは、どこに?」
「私が預かります」
私は手を差し出した。視線を腰布に注ぐと、彼は私が要求するところが一体何であるのかを理解したらしい。
暫く逡巡を続け、目を泳がせていたアダム氏だが、やがて観念したように背中に手を回し、腰布の紐を解いた。
腰布がするりと解け、地面に落ちる。露になった股間を片方の手で覆い、羞恥に打ち震えながらもう片方の手で地に落ちた腰布を手繰り寄せようとするアダム氏の姿に、私は極めて強い興奮を抱いていた。
ただ平穏に暮らしていただけの獣人男性が、人間の悪意によって罪人へと貶められている。その時点で既に彼の尊厳は傷つけられているというのに、さらに裸同然の姿までひん剥かれ、排泄すら自分の意志ではままならなくさせられている。屈強な獣人男性の尊厳をこれでもかと踏み躙っているのに、立場は私が上で罪人である彼が下なのだ。こんなに愉快なことがあるだろうか。
「あ、あの、これを……お願いします」
脱いだ腰布を私に差し出した後、アダム氏は両の手で股間を覆ったままその場に立ち尽くした。よく見れば彼の身体は小刻みに震えていて、寒いのかと思えばそうではないらしい。
「……わたしは、一体、何をしたというのですか」
アダム氏の温厚な面立ち、暗く淀んだ双眸の端には、いつの間にか大粒の涙が浮かんでいた。今にも感情を破裂させそうなのを、必死に喉元で留めているような、そんな愛らしい表情をしている。
「どうして、このような仕打ちを受けなくてはならないのですか。悪いのは、本当にわたしで――」
「アダムさん」
言葉を遮るように、私は冷たく声を放った。憔悴に歪む彼の瞳を見つめ、柔和な作り笑いを浮かべる。
「貴方は罪人で、それ以前に獣人です」
「……!」
彼のまなざしに、私に対する怯えの色が加わる。私はただ事実を羅列しただけなのだが、アダム氏にとってその言葉は重くのしかかったようである。動揺に揺れる彼の耳元に、わたしはとびきり甘く囁いた。
「罪を償いましょう。貴方がここに辿り着くに至った罪を。罪を灌ぎ落すのは、神父様の得意分野でしょう」
この一か月を以って、私はアダム氏の獣人男性としての尊厳を悉く破壊するだろう。以前に私の下へ転がり込んできた狼人の若者のように、最終的に入所前とは人格から性格からまるで異なるものになるように、完膚なきまでに。
屈強に強健に積み上がってきたものを突き崩すことほど、面白いものはないのだから。
続く