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人生終了しちゃった横山くんです。 終了後は日本中どこにいても笑われている気がして、海外を旅して回ることを決意します。海外にも動画が出回ったこともあり、好奇の目からはちょっとやそっとじゃ逃げられません。世界一周を果たしたら誰も知らない、誰にも見つからない所で死のう。そう思っていました。 旅の道中、大志はインドネシアで同じバックパッカーのロイと出会います。自分のことを知らないロイに彼は心を許し、意気投合しました。ロイは大学を休学し旅をしながら見聞を広めているらしく、裏表のない人好きのする笑顔に張り詰めていた心が解けていくようでした。互いに詮索はしない。当たり前のようでいて、ここしばらく過ごしたことのなかった穏やかな時間が心地よく感じました。 そんな時間は長くは続きませんでした。ある日二人で訪れたホステルで、大志は覚えのある視線を感じます。頭を振り、気にしないよう努めました。閉じ込めていた不安がじわじわと大志の体を満たします。ロイに知られたらどうなる? 他の誰に知られてもいいから、ロイだけには知られたくない。二段ベッドの下段を見ると、ロイの寝顔が見えました。でも万が一、バレたらどうしよう。軽蔑されるだろう。きっと自分から離れて行ってしまう。ジャンケンで俺が勝ったけど、彼は上段で寝たいと言っていたな。これから先ずっと上段で寝て良いと言ったら、ロイを引き止められるだろうか。そんなことを考えながら目を瞑りましたが、結局朝まで眠ることはできませんでした。 翌朝、トイレから戻ると何やらざわついた声が聞こえます。横山大志の過去を知っている男がおり、動画のことを説明していたのでした。男にとってはきっと単なる話の種。しかし横山大志本人にとっては、思い出したくも知られたくもない地獄の記憶でした。急いで部屋に戻り荷物をまとめます。早くここを出たい。その一心で、ロビーをすり抜けようとし、ハッとしてあたりを見回します。話を聞いていた集団の端に、ロイの姿を見つけてしまいました。目が、合いました。 気がついたら海にいました。目の端は赤く滲み、潮風が沁みました。その痛みは、自分がまだ生きている証だと、靄のかかった頭でぼんやり思いました。痛い。全部が痛い。胸のあたりが特に。隣に誰かいたら縋って泣きたい。でも一番そうしたい相手は置いて来てしまった。痛みを消す手段は一つしか思い浮かびません。先延ばしにしてきた、ロイと出会ってからは忘れることのできていた選択肢。ロイはいないのだから、それしかありませんでした。飛び込もう。少し寒いけど、すぐにわからなくなる。岸際に足をかけました。 大志、と呼ばれた気がして、でも振り向けませんでした。動きを止めるには十分な、聞き慣れた声でした。拒絶される。拒絶される。歩いてくる音を聞きながら、ぐちゃぐちゃにまとまらない頭では一つの結論しか出せません。脚が震え、しゃがみ、俯いてしまいます。 膝に顔を埋める自分が酷くちっぽけでした。そのちっぽけな男の背中ごと、ロイの体が包み込みました。 「大志、詮索しないって決まりを破ってごめん。大志に信用されなくて当然だ。だけど、俺は何があっても、お前の味方だから。それだけは信じて欲しい」 大志はロイの胸に縋って、泣きました。 落ち着いてから、ロイに軽蔑したかと尋ねると、「俺は大志になら同じ姿を晒せるし、もっと恥ずかしい姿が見たいぐらいだ」と見慣れた笑顔で言いました。「キモいだろ? 軽蔑した?」と耳元で聞かれても、大志にはどうしても軽蔑するような気持ちは起きませんでした。

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