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今年も一年よろしくお願いいたします。

昨年はこれまでほどは活動できず、また今年もより一層忙しくなりそうな予感がしているのですが、創作したいという気持ちは変わらず持ち続けると思うので、温かく見守っていただけますととても嬉しいです。

定期更新が無くなっても変わらず支援いただいている方が多くいらっしゃって、私の作品を待ってくださっていることをひしひしと実感します。満足に応えることは難しく申し訳ない気持ちがありますが、創作以外の形でもリクエストを出したりロボ娘情報のキュレーションなどを行ったりして、多少なりとも還元していけたらと思います。


挨拶とスカート丈は短いに越したことはないので、この辺で失礼させていただきます。下に短編をぺたっと貼っておきますのでどうぞご笑覧ください。めちゃくちゃ久しぶりに二次創作しました。







**********



 模擬レースを行うグラウンドには、トレーナーと二人のウマ娘がいる。その二人のウマ娘は、一方は赤いジャージに身を包み、もう一方は白色の体操服に桃色のブルマを身につけているという違いこそあれど、その姿形は瓜二つであった。

 優等生然とした雰囲気を纏うその美少女の名はダイワスカーレットである。あどけない顔立ちの下に高等部顔負けの恵まれた体つき。均整の取れた完璧なプロポーションは、彼女の内に備わる自信を体現しているかのようだ。強気な目線に負けん気の強さを隠しきれていない彼女は、滑らかな栗毛のツインテールを風に靡かせ、尻尾を揺らして表情豊かにトレーナーと言葉を交わしている。

 しかしもう一方の、ブルマを身につけた「ダイワスカーレット」は、その片割れとは異なり、常に薄い微笑みを浮かべて佇んでいた。身長163cm、スリーサイズは上から90、56、82。靴のサイズは左右共に24.5cm。数字の上で全く同じであっても、彼女たちはその雰囲気を全く異なるものとしていた。

 彼女たちの片方——ジャージを身につけた方は本物のウマ娘であり、そしてブルマを穿いた方は「ウマ娘型アンドロイド」である。G1レースを規定回数勝利したウマ娘をモデルに、その功績を後世まで語り継ぐ目的の一環として、トレセン学園が独自に開発したアンドロイドだ。それ以外でも、彼女たちは極めて優れた指導能力を有しており、実力のあるウマ娘たちはこぞって自分のレースの改善や、併走トレーニング相手として活用している。

「……またこのロボットね」

「なんだ、まだ慣れないか」

「まだこれで二回目よ。慣れる訳ないじゃないの」

 ダイワスカーレットは、自分そっくりのアンドロイドの頬を指でつつく。柔らかな頬をぷにぷにと突かれたウマ娘型アンドロイドは、トレーナーと「本物」の方を向き、<1番を目指してるんだから、それに見合ったトレーニング、ちゃんと用意しなさいよね!>と高らかに宣言した。本物と全く声音。やや前のめりで、右手の人差し指を立てるのも、彼女の振る舞いを精巧に模倣しており、偽物だと言われなければ容易には気づけない。

「全く……。録音だと分かってても、身振りまでアタシそっくりで調子狂っちゃうわ」

 ウマ娘型アンドロイドは高度な思考能力こそ有しているものの、なりすましに悪用されないように、モデルそっくりの振る舞いを見せるのは、本物が声を当てた数十種類のセリフの場合のみに制限されている。アンドロイドができることといえば、モデルとなったウマ娘の能力のトレースや、トレーナー同様にウマ娘の走行指導に当たることくらいであり、本人そっくりの負けん気の強さやプライドの高さなど毛頭備わっていない。

「ねえトレーナー。このロボットの能力、変えることってできるかしら?」

 トレーナーは怪訝な表情で首肯したが、その理由を尋ねられたダイワスカーレットは腕を組んで不満げな表情をした。

「……この間の模擬レースで、このロボットに勝ったじゃない。あの時、最後の直線であっけないほど簡単に抜けたの、覚えてる?」

「ああ、そうだったな。三回やったうちの最後か」

「そ。いきなりスタミナが切れたみたいにね。あれ、結局なんだったのか分からなかったけど、あれじゃアタシの相手にならないから」

 そうだな、と思案したトレーナーは、アンドロイドの方に向き直った。

 ——ぅいい、ん。

 微小な駆動音を体内から発し、ダイワスカーレットそっくりのアンドロイドも、自らの「利用者」の顔をアイカメラに収めた。人工的な照りを放つ緋色の瞳が、トレーナーをじっと見つめる。

 ——チチチ……。

「オーダー」その言葉に、アンドロイドは耳をぴこ、ぴこと二回揺らして反応する。口角がデフォルトより上がり、上目遣いでその豊かな胸を反らして静止した。彼女たちウマ娘型アンドロイドたちは、この言葉を合図に後続の指示を待つ。

「スカーレットの疑問を解消しろ。えーと、前回の模擬レースで、なんでいきなりスピードが落ちたのか」

 アンドロイドはトレーナーの疑問を適切に解釈し、返答を構築する。桃色の唇が開き、可愛らしい八重歯が顔を覗かせる。その口から出てきたのは紛れもなく本人そっくりの声であったが、しかしその話し方は本人とは幾分かけ離れた落ち着きを備えていた。

<はい。私たちウマ娘型アンドロイドは、モデルとなったウマ娘の能力をベースとした走行がデフォルトとして設定されています。過去のウマ娘のレースの走行記録などを分析し、スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さの五つの能力指標に基づいた内部の情報に加え、走行距離や天候、バ場状態といった要素から計算されたレース展開が、実際に結果として出力されていると捉えることが可能です>

<出力結果は毎回一定になることはなく、多少の振れ幅を持っています。例えば『やる気』と呼ばれるパラメータが、レース展開に影響を及ぼします。こちらは、ウマ娘の調子を疑似的に五段階で表現したものであり、それに応じて基礎能力値の上昇・下降が決定されます>

<前回の最終レースでは、当該機体の『やる気』の設定がランダムで選択されたところ、最低レベルだったことが大きく影響していると考えられます。他にご質問はありますか?>

 だってよ、とトレーナーに言われたダイワスカーレットは、アンドロイドの淀みない説明に感心した様子であった。

「あれがアタシの『絶不調』ってことかしら」

「そういうことになるな」

 ふんふんと頷いたダイワスカーレットは、「アタシ、自分と同じか、それより強い相手じゃないと燃えないのよね」と口走り、生意気な笑みをトレーナーに向ける。

「お、そうか。じゃあ、今日はロボットにボコボコにしてもらうか。……オーダー、スカーレットと模擬レースを行う。距離は二千メートルで」

<詳細設定はいかがなさいますか?>

「『やる気』を最高段階に設定しろ。あー、あと、能力値も、ベストな状態のスカーレットがギリギリ勝てなさそうなくらいに。その他はデフォルトと同じで」

<かしこまりました。演算を開始します。少々お待ちください……>

 アンドロイドは指令を受け取ると、基本姿勢——手を前で揃えてデフォルトの笑みを浮かべた状態——に移行した。外部からは伺えないが、電子頭脳内では走行データに基づくパラメータの調整が行われており、本物がベストな状態でも打ち負かすのが難しい、いわば「上位互換」のモデルが構築されている。

「スカーレット?」

「……なんでもないわよ」ダイワスカーレットはぼそりと呟くと、自分そっくりのアンドロイドをじっと見つめた。見開かれた目は一定時間ごとに瞬きをする。まるで呼吸をしているかのように胸がゆっくりと上下し、規則的とはいえ僅かな体の揺れもリアルさを醸し出す工夫の一つだ。

 しかし目の前の「自分」は、毛の一本に至るまで人工物が使われた正真正銘の偽物である。ブルマからすらりと伸びる美脚も、体操服を押し上げるたわわに実った双丘も、親譲りの美貌に至るまでの全てが。——その事実が彼女の頭の片隅に渦巻き続け、自分のコピーという存在に薄気味悪さや底知れない恐怖がどうしても拭えなかった。

<シミュレーション完了>

 数十秒ののち、アンドロイドは機械的にぶるりと震え、わずかながら早口で喋り始めた。

<各パラメータの設定を保存中……。完了。スピードを1264、スタミナを860、パワーを1460、根性を1051、賢さを1159、『やる気』を『絶好調』に設定しました>

 トレーナーの指示を適切に解釈したアンドロイドはキャリブレーションを完了し、二人に向かってにこりと微笑んだ。

「オーダー。スカーレットに勝つ自信はどのくらいだ?」

<……はい。シミュレーションの結果、当機体は「ダイワスカーレット」に、99.1%の確率で勝利します>

「だってさ。どうだ、スカーレット?」

「ふん。言うじゃない。レースなんて、やってみないと分からない。……それに、アタシに1%でも勝つ確率を残す余裕があるのね」

 ——ホントムカつく。アタシそっくりの顔で、そんなに澄ました顔して。

「オーダー、両者位置につけ。スターターピストルの音で模擬レース開始だ」

 かしこまりました、とアンドロイドだけが返事をし、二人はスタートとなる白線の位置に立つ。ダイワスカーレットは横目でアンドロイドの様子を伺った。その視線を感知して、アンドロイドはダイワスカーレットに顔を向ける。

<ふふん、完璧な仕上がり♪ 今なら誰にも負けない気がするわ!>

「……!」

 挑発してくるかのようなセリフは、ダイワスカーレットの闘争心に火をつける。そして訪れる一瞬の沈黙。ピストルの音が鳴ると、両者一斉に地面を蹴った。——一斉に、というのはやや不正確であり、実際にはアンドロイドの方が0.07秒早く反応していた。しかしそのごく僅かな差は、機械がウマ娘の先手を取るには十分であった。

 序盤から中盤にかけてはほぼ横一線。スタートで遅れをとったダイワスカーレットはアンドロイドを敢えて先行させ、風避けとして利用する形を取っていた。しかし中盤の直線に入ると、次第に一人と一体の距離が離れてゆく。数値で表現されたパワーの差が如実に加速度に影響し、地面を蹴り上げる重みでは機械の方が圧倒的に勝っていた。

 最終コーナーを迎えて二バ身差。芝の状態を読んだ巧みなコーナリングで差をややカバーしたダイワスカーレットであったが、このレベルでは最後の直線でスタミナが切れることなどないため、自ずとトップスピードとその維持力が直接的な勝敗を分けることになる。

 ——追いつけない……っ!

 ダイワスカーレットは歯を食いしばって脚を動かす。今日の彼女は別段調子が悪いわけではなかった。むしろいつも以上に脚は軽く動く。しかしそれでも彼我の差は歴然。調子が上振れた、いわば理想の「ダイワスカーレット」は、ラストの直線でも全くその脚色が衰えることなく、いやむしろさらに切れ味を増して、本物を突き放す。

「くそっ……」

 乱れた呼吸によって口からかひゅ、と息が漏れる。彼女がここから巻き返す方法はない。ああしたらよかった、こうしたらよかったと過去を振り返ることもできず、今はただ目の前のゴールに向かっていくことだけしか、ダイワスカーレットの頭にはなかった。

 自分そっくりの背中が遠ざかってゆく。栗色の髪が、尻尾が、自分よりも速く風を切って揺れる。アンドロイドは終始レース全体を支配し、本物を完膚なきまでに捩じ伏せてゴールを駆け抜けた。皮肉にも、それこそが本物のダイワスカーレットが最も好むスタイルの勝ち方であった。

 ダイワスカーレットは膝に手を当てて、荒くなった呼吸を整える。下肢の筋肉は全力を出し切った証拠のように膨れ上がり、いつもの余裕の表情などそこにはなかった。彼女はただ、自身の目の前で「自分の」トレーナーに向けて、いつものゴールパフォーマンスをする自分の偽物を睨み付けることしかできなかった。

<ちゃんと見てたでしょうね……アタシの走り!>

 アンドロイドは人差し指をぴしっと立てて不敵な笑みを浮かべ、自分が一番であることを主張する。走り終わった直後にも関わらず、その額には汗ひとつ滲んでおらず、擬似的な呼吸すら全く乱れていなかった。

「スカーレット」

「……ん、ありがと」手渡されたペットボトルから水分を補給し、生身の少女はゆっくり芝生に腰を下ろした。

「……何よ」

「もう一回、いや……」

 トレーナーの忖度に先手を打ち、ダイワスカーレットは口を開く。

「今日はもうやめるわ。こんなの、今のアタシだと何回やっても同じ。アンタも分かるでしょ。……何が99パーセントよ。本物だからって買い被りすぎよね、アタシそっくりの見た目のくせに」

 負けず嫌いの彼女にしては珍しいほどの潔さ。しかしその瞳には闘志の炎が燃え盛っていた。

「そうね……。アタシの当面の目標は、今日のコイツに勝つこと。もうそれ以外眼中にないわ。あんなに簡単に一番持っていかれたら敵わないもの」

「そうか。じゃあ、今日は模擬レース中止で、いつもよりハードなトレーニングにするか?」

「望むところ。……分かってるじゃない」ダイワスカーレットはタオルで汗を拭い、トレーナーに向かってニヤリと笑みを浮かべる。

「くぅ〜……っ、悔しい!」

<……>

 平静を装って、いつもの調子で言ったつもりだった。その口調には震えが隠しきれてなかったが、彼女も、そしてトレーナーも、それには気づかないようにしていた。アンドロイドだけが、彼女の心理状態を的確に分析していた。

 ——さて、と。

 ダイワスカーレットは立ち上がると、尻尾を揺らしてアンドロイドの方へと向かっていった。

「オーダー、今日の練習は終わり。もう帰って」

<かしこまりました。本日はご利用いただき誠にありがとうございました。またのご利用をお待ちしています>

「ふんっ」

 ——次は負けないんだからっ。

 ダイワスカーレットは心の中でそう呟き、踵を返した。不機嫌そうに揺れた尻尾がバシッと音を立てる。グラウンドを離れようとしていたアンドロイドはがくんと揺れて立ち止まると、背中を向けた二人の方を見つめて張り付いた笑顔を浮かべた。

<警告:ウマ娘型アンドロイドの臀部への接触はお控えください>


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