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17年前の4月30日

お昼過ぎだったと思う

帝王切開で第一子となる元気な女の子「真緒」が産まれた


名前はあらかじめ決めていた

真っ直ぐに生きて欲しいという願いから「真」

人生でたくさんの人との出会いに恵まれて欲しいという願いから「緒」の二文字で「真緒」


出生届けは産まれた次の日に私が提出した

真緒の人生で1番最初の大切な書類だ


そう思うと緊張で文字を書く手が震えていたのを今でも覚えている


ベテランの女性職員さんまでもが嬉しそうな笑顔(私が浮かれていたから勘違いかもしれないが)

で「おめでとう御座います」と言ってくれたのが忘れられない


ああ、真緒はうまれてきてくれただけで見ず知らずの人まで笑顔にしてしまった

なんて愛しいんだ

ずっと 何があっても私が家族を守ると 

神に誓った



真緒はとても元気に育ってくれた

共働きで忙しい私達の代わりによくおじいちゃんおばあちゃんに面倒を見てもらった

おじいちゃんはとくにデレデレだったけど昔の人だから躾には厳しくされた様で

成長した最近でもおじいちゃんの言う事は素直に聞く所が可愛らしい



休みの日になれば色んなところに連れて行った


近所の公園 遊園地 動物園 水族館 買い物

真緒が喜んでくれるならパパは休みなんていらなかった


保育園で友達ができ近所に住むヒロと仲良しになって家族ぐるみで付き合う事になって

「真緒はヒロくんと結婚するからパパとは結婚できなくてごめんね」と悲しそうに謝られた時はパパ結構本気でショックだったんだぞ



小学校、中学、高校とどんどん友達が増えその名前の通りに周りに素敵な人達が増えているのをママに話してたんだって?

パパもそういうお話聞きたかったよ

でももう高校生だもんな

父親と話すのもめんどくさくなってくる年頃だもんな

パパ 真緒の喪主なんだってさ

大切な大切な大切な真緒のお葬式の代表なんだってさ

夢であってほしい 吐きそうだ 

なんで自分の子どもの葬式なんてしなきゃいけないんだ

そんなことあっていいわけないじゃないか



パパとママの宝物はみんな寝静まってた夜中にひとりで何も言わずに逝ってしまった


明日にせずすぐに病院に連れて行ってれば真緒は死なずに済んだんじゃないかと思うと今すぐ自分の首を絞めて真緒のところに逝って謝りたい

「明日でいいんじゃないの?」って言った自分を殴りたい


ママも「自分のせいだ」って泣いてていまはおばあちゃんが一緒にいてくれているよ



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今日は娘の死亡届を出しに行った

出生届けを出した役所と同じところだ


「死体検案書」って何だよ

人の大切な娘を「死体」って言うなよ

亡くなっていても大切な可愛い娘なんだよ

そんな事にも腹が立ってしまう

良い大人なのに


死亡届けの名前に「高城 真緒」と記入する

また吐きそうだがしばらく何も食べていないのに気づく

高城真緒と書くのってそういえば久しぶりだな

保育園の書類とか名前とかで昔は沢山沢山「高城真緒」って書いたのにな



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自宅に戻ると丁度真緒も帰ってきていた

ビニールシートに裸のまま包まれていた

頬を触るとまだ温かい


「警察からお連れする方は皆様この状態で」と男性の葬儀屋さんが申し訳なさそうに謝る


私には理解できないいろんな理由があるからそういうモノなのだろうが


実際自宅で病死した女子高生を全裸のまま男性の葬儀屋に引き渡す警察の無神経さにまた腹が立つ


布団に安置する前に妻が娘に私服を着せてくれた

死後硬直がありとても苦労したそうだが流石にパパに着替えを手伝ってもらうのは真緒も恥ずかしいだろうと自重した


服を着せ、布団に寝かせると葬儀屋さんがドライアイスを頭の横やお腹の上に乗せてくれた

その上部屋はエアコンを最強にしてつけっぱなし

腐敗を防ぐために必要らしい(それでもこの季節は完璧に腐敗を防ぐのは難しいとか)


娘の身体が腐らない様に気を使わなければいけないなんて


葬儀屋が帰り少し落ち着く

また頬を撫でると恐ろしく冷たく硬くなっていた


ドライアイスって凄いんだなと変に冷静になっていた


真緒が亡くなった事、私は受け入れ始めているのかもしれないと思った時、本当に怖くなった


明日は昼から斎場で通夜告別式の打ち合わせ

皆んなに愛された真緒のお葬式だからきっと沢山の人が来てくれる


真緒と「やっと」この前付き合い始めたヒロに留守番を頼んだ


ヒロも相当悲しんでるみたいだ

そりゃそうだよな


葬儀になるとバタバタしてなかなかふたりの時間が取れないだろうから


最期に二人でゆっくり過ごして欲しいと心から思う


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