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挿絵 べろす様 さーばーふぇいず様



※当作品は音声作品としての制作を予定している為、モノローグでお話が進みます。 いつもと文体が変わりますが、お楽しみいただければ幸いです!



この世界ではない、どこかのひらけた高原。

周りには嵐のように風が渦巻いている。

横たわった体に鞭打って上体を起こしたところで、アタイはこの状況に強いデジャヴを感じる。

また同じ夢…

夢を見るたびに思い出し、そして起きたらすべてを忘れてしまう…

繰り返し見せられる悔恨の瞬間に、アタイの心はすり潰されそうになる。

しかしそんな後悔を許さないとばかりに、目の前状況は進んでいく。

「うっ…ぐぅぅ…」

渦巻く風の中心にいるのはアルムという名の天使。

可憐という言葉を体現していると言っていいその少女は、苦悶の表情で目の前の禍々しい塊を封印しようと試みていた。


彼女の目の前にあるのはイヴィルシードという邪悪な種…

それはアタイたちと敵対関係にある悪魔の手先を生み出す、恐ろしい代物であった。

もはやいつ始まったかも定かではない天使と悪魔の戦い…『天魔大戦』。

自らが生まれるはるか前から続く戦いの日々は、アタイたちにとっては既に日常であった。

すぐそこに迫ると予想された終局を有利に進めるべく、悪魔たちは孵化寸前のイヴィルシードを天界へ放つという暴挙に出る。

警戒任務中に偶然それを発見したアタイたちは、護衛の悪魔を浄化しながらイヴィルシードの封印を試みた。

ボス格の悪魔はアタイが祓い、雑魚は『あの子』が掃討してくれている。

そして、最も浄化や封印術に長けたアルムが、イヴィルシードの対応にあたっていた。

「無理するな!今アタイが…ぐぅっ…」

助けに入ろうとしたところで、体が悲鳴をあげる。

護衛の悪魔の首領はなかなかに強力で、アタイは相打ちの末に深傷を負わされてしまっていた。

「だいっ…じょぶです!なんとか…あといっ…ぽ…」

アルムが苦し紛れに笑って見せるが、状況は芳しくなかった。

ビキビキビキ…

アルムの放つ封印のエネルギー『プラウス』とイヴィルシードの内包する負の波動『マイナート』の衝突は、ついに次元に裂け目を生んでしまう。

「いけない!」

咄嗟に手を伸ばしたアタイの脳裏に、一瞬厭な考えが影を落としたのはその時だった。

「今ここでアルムが封印術を成功させたら…彼女はこの戦争の英雄に…そうしたらアタイのこれまでは…」

悪魔を祓う腕っぷしだけでのし上がってきたアタイは筋骨隆々、肌には無数の傷だらけ…

女傑として持て囃されてはいたが、見た目だけならオークと見間違える者もいるだろう。

一方アルムは実力もさることながら、美しくみんなに愛される稀有な存在…

この評価が逆転したら最後、もう二度と彼女を追い越すことはできないだろう…

まさに『魔』がさしたとしかいえない一瞬の迷いが、状況を最悪の方向へと動かしてしまった。

「やった!封印成こ…きゃああああっ!」

集中していたアルムは次元の裂け目に気づいておらず、封印が成功した瞬間に裂け目へと吸い込まれる。

「アルム!掴まれ!」

「エンヴィ隊長!」

咄嗟に手を出したアタイの手は届かず、アルムは封印されたイヴィルシードと共に、次元の狭間へと飛ばされる。

そこに突っ込んで行ったアタイもそのあとを追う形となり、別世界へつながる裂け目へと落ちていった…


気がついたアタイは、次元の狭間を流されていた。

そこへ、天界から天使長の交信が届く。

「天使エンヴィ…お前は今、人間界へと流れ着こうとしてます。知っての通り人間界への天使の関与は御法度…そしてお前には、イヴィルシードを人間界へと送ってしまったという責任がある…わかりますね?」

このままではイヴィルシードが目覚め、人間界で大量のマイナートを発生させてしまう。

そうなったら天魔大戦の情勢は悪魔側へ有利に傾いてしまうだろう。

あの時一瞬の迷いさえなければ…少なくともアルムを救えたのではないか…

アタイを後悔の念が包み、悔しさから涙が溢れる。

「貴女を一瞬躊躇わせたその感情こそ、嫉妬。我ら天使が持ち得てはいけないものです。おそらく長き戦いの中で倒してきた悪魔の呪いが、少なからず貴女を蝕んでいたのでしょう…あなただけを責めるわけにはいきません…よってあなたには罰と挽回のチャンスを与えましょう…天界での記憶を全て封印し、人間界でイヴィルシードを集めるのです。全てを集めて今回の罪を贖ったその時、貴女が再び天使として生きることを許しましょう。いいですね…」

天界からの一方的な交信が途絶え、アタイの身体は屈強な天使のそれではなく、白いモコモコの小動物へと変化していく。

「アタイのせいでごめん…アルム…アウラ…」

天界での記憶が封印されていく中、最後に想ったのは今回の不始末に巻き込んでしまったであろう、二人の可愛い後輩の姿であった…


そしてアタイは人間界で再び目を覚ます。

「あえ?アタイはなにしてるんデビかねぇ…えーと、えーと…イヴィルシードを探すんだったデビか…」

おぼろげな意識の中で思い浮かんだ目標に向かい、ふらふらと飛び立つアタイ。

その目の前には、まだ見たことのない広大な世界…『人間界』が広がっていた…


「…わあっ!…ゆ、夢デビ?」

目が覚めたアタイは、見ていた夢がどんな内容だったかをもう忘れてしまっていたデビ。

ただ、たくさんの冷や汗と息切れで、アタイは混乱していたデビ。

「どうしたの?怖い夢でもみた?」

アタイの声で起きちゃったのか、一緒に寝ていた灯ちゃんが話しかけてきたデビ。

「えっと…あの…わかんないデビ…」

言葉に詰まったアタイを、灯ちゃんが優しく抱きしめてくれたデビ。

「ふふっ…こうしたら怖くないよ…おやすみ、エンヴィ…」

灯ちゃんの優しい声に何かを思い出しそうになったデビ…

でも、アタイの頭には霞がかかったみたいに、何にもわかんなくなっちゃったデビ。

今は灯ちゃんのあったかい胸に抱かれて、静かに眠る…

その時はそれしか考えられなかったデビ…


ある日私たちは、以前モスオウマを浄化した植物園を訪れていました。

エンヴィによると、植物園の奥に広がる森でまだイヴィルシードの反応があるらしく、調査に赴いたというわけです。

エンジェルモードで森の中を進むと、濃いマイナートの瘴気が辺りに充満し始めました。

「灯ちゃん!いつ襲われてもおかしくないデビ!救聖天使に変身するデビよ!」

エンヴィの提案に私も頷きます。

「わかったわ!ホーリーライトアップ!ブライトハート!」


胸のコアジュエルが輝き、私を救聖天使の姿へと変えていきます。

「闇夜を照らす一条の光!救聖天使ブライトハート、光臨です!」

まだ日も落ちかけた頃合いでしたが、私の発する強力なプラウスに反応したのか、森の木々がざわめきます。

「まずいデビ!周りの木は全部オウマになってるデビ!」

エンヴィの言葉通り、木々の至る所から枝が触手状にうねり、私へと襲い掛かりました。

「エンジェリングスラッシュ!ハァッ!」

腕に発生させた光輪で、なんとか触手を切り落としていきますが、四方八方から襲いかかる物量に押され、私は窮地に陥ってしまいます。

シュルル…

「ハート!足元デビ!」

エンヴィの言葉にも反応が遅れてしまう私。

地中を這ってて出た触手が私の足を掴み、そのまま拘束されてしまいました。

「くっ…動けない…ああっ!」


巻きついた触手が怪しく光り、私のプラウスを吸い上げていきます。

「んぁ…くぅ…やぁん…力が…ぬけ…ちゃう…」

キィンキィン…


コアジュエルが明滅を始め、私の危機を告げ始めました。

ベチョ…ヌチャァ…

オウマはプラウスの吸収効率を上げるため、ねっとりとした分泌液を浴びせかけてきます。

巧みに触手を操るオウマに、私の胸は簡単に露出させられてしまいました。


「いやぁ…やめ…なさい…」

エンヴィは青ざめた顔で私の周りを飛び回っていました。

「あややや…ハートのピンチデビ…」


「ハート、アタイのプラウスを分けてあげるデビ!」

 「ここは一丁、アタイのフレキュアキックでやっつけるデビ!」

 「ハート!ここは一旦撤退するデビよ~!」


「ハート、アタイのプラウスを分けてあげるデビ!」

エンヴィは私の胸にとりつくと、コアジュエルに手をかざしました。

するとエンヴィの身体の白い半身が淡く光りだし、私のコアジュエルにプラウスが満ちていきます。

「ありがとうエンヴィ!エンジェリングスラッシュ・フルドレス!」

私は両手首・両足首のアーマーからエンジェリングを発生させ、一気にオウマの触手を切り裂きました。

「ハート!あのおっきい木が怪しいデビ!あそこを浄化するデビよ!」

エンヴィの嗅覚のおかげでイヴィルシードの位置を確認した私は、胸のコアジュエルにプラウスを集中させます。


「ありがとう、エンヴィ!決めます!サークレッド・ハートウェイブ!」

狙いを定めた巨木を中心に、私の放った浄化の光が森を包んでいきました。

禍々しい悪の瘴気・マイナートは森から消え去り、巨木からはポロンとイヴィルシードが抜け落ちます。

「わーい!イヴィルシードデビ!あむっ…んぐぐ…」

いつも通りエンヴィがイヴィルシードを食べておしまい…そう思っていた私の目に、信じられない光景が飛び込んできました。

「あが…なんかおか…しい…デビ…あかり…ちゃん…にげ…る…デビ…があああああっ!」

いつもはきれいに半分で白黒になっているエンヴィの模様が黒一色に染まったかと思うと、そのサイズが私と同じくらいまで膨れ上がります。

「エンヴィ!どうしたの!?」

「グアアアアアアア!」

私の問いかけにも答えず、エンヴィは上空へと飛び去ってしまいました。

「いけない!追いかけなくちゃ…エンヴィ、まってて!」

私はエンジェルフォームへと変身を解き、急いでエンヴィの後を追います。

眼下に広がる春野市には、夜のとばりが降りようとしていました…


後編に続く…

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Comments

Sakiel

お疲れ様でした。第10話についてはどうですか?別売りの予定はありますか? Translated by DeepL

syonnai_hito

今回のオウマはハートの衣装を溶かしたり股間に触手を這わせたり、ある意味空気を読んだ感じですが、今回は3つ選択肢があったり、エンヴィの本来の姿も楽しみです。 いよいよ物語の核心に触れてきた感が。

ガチピン@ご支援感謝

この辺でちょっとネタバラシ… しつつも、まだまだ続く予定です! 選択肢があと二つあるということは…この後もお楽しみに!