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挿絵 福玉死瘟様



※本作は中盤からソフィの過去を描く作品となっており、一部表現がソフィのモノローグ調となっております。

併せて複数人の登場人物が出てくるシーンでは、セリフ前に名前の頭文字が入りますので、そちらを参照くださいませ。



ある日、アルティマミレーヌの母・アルティマソフィは宇宙を飛翔していた。

もうすでに一線を退いた身であったが、先ごろから暗躍し始めた謎の存在の陰に脅威を感じ、救護担当の聖十字隊の顧問として現役復帰を果たしていた。

今日も災害に見舞われた星の復興を手助けし、光の星へと戻るところであった。

「最近、怪獣や悪の宇宙人が組織立った動きを見せ始めている…いったい何が起きようとしているのかしら…」

特に彼女の愛娘・ミレーヌや、弟子にあたるアルティマリオナの周りでその傾向が顕著なように思え、最近のソフィの心配の種となっていた。

宇宙空間を航行中に考え事にふけってしまうソフィ…

その隙を狙った刺客の存在に、彼女は気づけずにいた…



バチバチバチッ!

いきなり宇宙空間に光が走り、油断していたソフィはその閃光に目を焼かれてしまう。

「きゃあああっ!」

咄嗟に目を庇うも、それこそ敵の狙いであった。

身体に巨大な一つ目が鎮座する謎の怪獣・EYEキュー。

その目から怪しい波動が走り、ソフィを包んでいく。

次の瞬間、ソフィの姿は宇宙空間から消えていた…


「…ん…ここは…」

ソフィの意識が戻ったその時、そこは宇宙空間ではないことに気づく。

「動けない…何者かに閉じ込められたようね。」

両手両足が謎の肉壁に取り込まれ、身動きでなくなっている…

思った以上に危険な状況に陥った様子に、ソフィの顔にも焦りの色が浮かぶ。

にゅうう…

ソフィの眼前に現れる謎の瞳。

「なに…これは?」

プシュウウウウ!

その目に視線を奪われた瞬間、謎のガスがソフィの顔を包む。


「くぁ…けほっけほっ…ガスが…」

四肢を拘束されているため、顔をそむけることしかできないソフィ…

しかし、拡散したガスからは逃れることができず、いくばくか吸い込んでしまう。

「…んん…あぁ…あぇ…なにも…かんがえ…らえない…」

ソフィは霞のかかったような頭で打開策を練ることもできず、とろんと惚けた瞳は目の前に現れた一つ目に焦点を合わせる。

ブワ…

ソフィをのぞき込む一つ目が怪しく光り、無防備となったソフィの精神を侵食していく。

EYEキューの狙いは、とらえた獲物をガスで無防備な状態としたうえで催眠術によってそのトラウマとなる部分を刺激し、乱れた感情エネルギーを吸収することだった。


ソフィが心の奥底にしまい込んだ『思い出したくない記憶』…

いとも簡単にその記憶を探り当てたEYEキューによって、ソフィの脳内にそれがあふれ出していく。

「うわああああああっ!やめてっ!思い出させないで…ううっ…ぐす…やだぁ…」


泣き叫ぶソフィをよそに、波動はその記憶を鮮明にしていった。

ソフィの目からはとめどなく涙が流れ落ち、光が消え失せていくのだった…


ソフィ(以下ソ)「うう…気持ち悪い…そろそろ起きないと…」

その日、久しぶりの来客に備えて、私は準備を進めなければならなかった。

大きくなったお腹を支えて身体を起こし、大きなため息をつく。

初めての出産を間近に控え、私は家にこもっていた。

身の回りの世話は夫・ケインや『お隣さん』になった皇族時代の元従者・アルティマネグルがこなしてくれていたが、ここ数日ケインは多忙とのことで帰宅していなかった。

そんなある日、私の所属していた『チームα』の仲間で、私の数少ない友人・アルティマシオン・アルティマライオ夫妻が遊びに来る、という話が舞い込んできた。

正確には身重による体調不良に臥せっている私へのお見舞いなのだろうが、夫婦そろって…という部分に私は嫌な予感を感じていた。

彼らはそれぞれ、シオンは怪獣保護区・ライオは科学技術庁のトップであり、多忙の極みのはずである。

その二人がいきなり一緒にやってくるというのも、私に一種の疑念を抱かせていた。

ソ「ふぅ…とりあえずこれで…」

最低限、人に会うのに失礼でないいでたちで寝室を出る私。

お腹の中の子供が私が体を動かしたことに反応したのか、軽く動いて見せる。

ソ「あら…ふふ、そんなに元気なら、早く出てきてくれると、お母さん嬉しいんだけどなぁ…」

笑ったことで少し気持ちが前向きになった私は、ゆっくりと客間へと降りる。

そこではネグルが来客用の準備を完璧に済ませて、私を待っていた。

ネグル(以下ネ)「ソフィ様、ちょうどお二人もお着きになりました。お通ししても?」

ソ「ええ。お願い。ネグル、今日はありがとう。」

ネグルはウィンクをしながら頭を下げ、客人の出迎えに部屋を出ていく。

私がお腹に気を使いながら腰を下ろしたのと同時に、シオンとライオが一人の少女を連れて部屋へと入ってきた。

ライオ(以下ラ)「こんばんは、大事な時にすまないね、ソフィ。あ、そのままで。」

出迎えのために立ち上がろうとした私を手で制して、ライオが手土産をネグルへと手渡す。

シオン(以下シ)「久しぶりね、ソフィ…お互い忙しかったとはいえ、もうちょっと顔を見に来るべきだったわ。」

二人と同様、私も身重ながら救護用後援部隊『聖十字隊』と整備とその教育機関の立ち上げのため、最近まで多忙な日々を送っていた。

ガルデン大王との戦い以後、銀河は落ち着きを取り戻しつつあり、光の星は銀河全体の復興の象徴のような扱いを受けている。

それゆえに自分たちの星以外にも様々なインフラ整備に追われ、私たちも忙しくしていたのである。

ソ「本当に…こんな時に一時離脱して申し訳ないわ…」

苦笑しながらお腹をさする私に、無垢な顔の少女…ライオとシオンの娘『アルティマリオナ』が近づいてきた。

リオナ(以下リ)「おねえちゃん、こんばんわ。おなかにあかちゃんいるの?」

ソ「リオナちゃんも久しぶりね。そう、もう少しで生まれるの。触ってもいいわよ。」

わぁ…といいながらお腹に触れるリオナの姿に、私も自然とほほが緩む。

ラ「こうも忙しいと、悪の討伐なんて大義名分を得て、外宇宙で好きに暴れまわっているガントがうらやましくなるね。」

ライオがもう一人のチームα・アルティマガントの話を持ち出し、私たち3人は懐かしさで笑顔になっていた。

彼だけはガルデン大王の残存勢力を追って、外宇宙へと遠征に出ている。

いまでも脳筋全開に怪獣たちを追い回しているであろう姿を想像し、私たちは笑いあった。

しかしその空気のゆるみを、わざとライオが作ろうとしていることに私は一抹の不安を覚える。

ソ「さて…その多忙を極める二人がそろって時間を作って私のところへ…なにかあったのね。」

リオナちゃんがいる手前、あまり詰問しているようには見えないように気を使って言葉を発する私。

シ「さすが私の親友…隠し事は無駄ね。ライオ、本題に入りましょう。」

ラ「何度も死線を一緒にした僕たちだ。申し訳ないが君への遠慮は無しにさせてもらうよ。」

二人が目を合わせると、ネグルが室内へと入ってきた。

ネ「お嬢さん、お父さんたちは大事なお話があるそうなので、お隣の部屋へ行きましょう。お菓子もありますよ。」

紳士的に接するネグルに、リオナもうなずいて部屋を出ていった。

扉が閉まると同時に、ライオは事務的に事実だけを羅列していく。

はたから聞けば突拍子のない話、信じる人間などそういないと思われる内容であったが、これまでの付き合いが彼の話が嘘偽りでないことを私に理解させた。

ソ「この銀河が…滅びる…」

さすがの私も話の内容を理解するのにしばしの時間を有していた。

話としてはこうだ。

私たちの住む銀河の近くに、銀河を捕食するという伝説の超巨大ガス生命体『バキュルモン』が突然転移して現れた。

バキュルモンは今は動いていないものの、動き出せば周りをすべて吸収しながら全方位へ拡散していく。

おそらくもう逃げることも、なにかしらの防護措置をとることも叶わない。

光の星はおろか、それを中心に確立されつつある銀河連邦も含めて、すべてがその体内に飲み込まれて終わるだろう。

そこまで話したところで、ライオは話をいったんやめて、ソフィへと向き合った。

シオンが一切茶化さないことからも、今の話は真実であることを私も察してしまい、うつむいてお腹をさすってしまう。

ソ「この子の生きる世界は…ないということ?」

しかしそうなら、なぜこの二人はここに?

黙って最後の時を迎えさせた方が、私の絶望も一瞬で済むはず。

そういう情報統制ができる立場の二人が揃ってここに来たということは…

ソ「なにか策があるのね?」

私が希望にすがって口にしてしまったこの言葉…

しかし、私にとっての本当の『絶望』はまさにここからであった。

ラ「流石に君には隠せないね…その通り!なんとまだ希望はあるんだ!」

突如明るく振舞いだすライオ。

彼が得意分野のことになると饒舌になるのはいつものことであったが、今回のそれは違う空気をはらんでいることに、私の心は不安に駆られてしまう。

ラ「方法は単純明快!さっき話した一番最初…『突然転移してきた』というのがみそだ。つまり、バキュルモンは何者かによる人為的な転移でこの銀河に現れた可能性が高い。実際にこちらの調べで、バキュルモンの中心部付近に謎のワームホールを確認しているんだ。このホールを…詳細は省くよ…再度開いて、バキュルモンを送り返す。これができれば銀河は救われ、一件落着というわけ。」

ソ「ちょっと待って…どう考えても簡単な作業とは思えない…実行するにはバキュルモンに近づかなければならないし、あんな巨体を転送するのに巻き込まれてしまうんじゃないの?」

私の疑問を聞いたライオは嬉しそうに、そして少しの寂しさをたたえた笑顔を私へと向けた。

ラ「本当に…君のように一を聞いて十を理解してくれる人ばかりだと、話が楽なんだけどね。その通りだ。だから、この作戦の実行班は一方通行の旅になる。たとえ銀河を救えても、この星には帰ってこられないだろう。」

真面目な顔で話を締めたライオとその話の間、私から全く目をそらさなかったシオン。

もうそれが答えであり、私の目からは涙が、そして口からは発したくない言葉がこぼれ落ちる。

ソ「あなたたちが…いくのね…それと…きっとあの人も…」

私の横にシオンが座り、そっと肩を抱きしめる。

シ「ごめん…このミッションにはライオの即応力が必要で、それを最大限生かす人員が必要なの。ケインは自分とライオの二人で行くって言ったけど、どうしても宇宙船の操縦にもう一人必要で…まぁ、そうなると私も入れて『元チームα』でいくのがいいってことになったのよ。もちろん、私も志願するつもりだったわ。」

シオンの母親として培われたのであろう優しい言葉にも、私の涙はとめどなくあふれ出る。

ソ「じゃあ…なんで私は…私を置いていくの?…」

その答えは自分でもわかっているはずなのに、つい口をついてしまう。

シ「置いていくわけじゃないよ…あんたにはいろいろ託していくことになっちゃう…それは本当に申し訳ないんだけど、あんたになら安心して任せられるから…」

シオンの言葉に今日のこの場の意味を理解する私…しかし、それを受け入れることを感情が拒否してしまう。

ソ「ひどいよ…こんな…」

シ「ほんとはね…手紙やホログラムを残して、黙っていくことも考えたの…でも、そうしたら私も後悔するし、あんたにも最悪な思いを最後にさせちゃうでしょ。だから、今日は納得してもらえるまで帰らない!最後は笑って送り出してほしいっていうのは…わがままかな…」

シオンの声にも嗚咽が混じり、しばらく泣くことしかできない私たちを、いつもはうるさいくらいのライオも神妙な面持ちで見守っていた。

その時、バンと部屋のドアが開き、リオナがつかつかと入ってくる。

そしてシオンの傍らに立つと、その背中をぺちっと叩いた。

リ「おねえちゃん、泣かしちゃダメ!おとーさんもおかーさんも、ちゃんとあやまって!」

おそらく隣の部屋にも私が詰問する声や、泣き声が聞こえてしまったのだろう…

正義感あふれる二人の英雄の娘として、私を救おうと飛び込んできてくれた少女を、私はいとおしく感じていた。

まだ年端もいかないその目にいっぱいの涙をため、それでもキッと母親を見据えるリオナの表情に、シオンは気圧されて言葉を詰まらせてしまったようだった。

ソ「ありがとう、リオナちゃん。私のために怒ってくれて…大丈夫だよ、お母さんと私は喧嘩してるわけじゃないの。ちょっとお話にびっくりしちゃっただけ…」

リ「ほんと…?よかったぁ…」

張りつめていた表情が破顔し、年相応のクシャっとした笑顔を見せるリオナ。

二人ともこんなかわいい子をおいていくのか…

その決断がいかに辛いものか…まだ子供が生まれてきてもいない自分にも容易に想像がつく。

でも、きっとこの子の未来のためにいくのだと…その決意を知ってしまった今、私に二人の決断を責めることはできなくなってしまった。

ソ「…私に頼みたいことっていうのは何?」

いろいろあるだろうことは想像できたが、おそらく一番は…

シ「この子をお願い、ソフィ。あんたになら、私たちは任せていける。」

やっぱり…こんなかわいい子を私なんかに…それが二人からの最大の信頼の証であることも理解できた。

ソ「でも私はまだ親にもなってないし…そんな責任重大なこと…」

ラ「君には君の子育てもあるだろうしね。もちろん、ネグル氏にもお願いしてあるから…」

ライオが空気を読まずに現実的な話をはじめ、周りはみんな苦笑する。

私も少しずつ現実を受け入れ始め、最後は穏やかな談笑の末、その日はお開きとなった。

もう彼らとこうやって笑い合うこともできなくなる…

その現実に押しつぶされそうになりながらも、私は彼らの想いにに応える道を探して、これからも生きていくことを誓うのだった…


そして、あっという間に別れの日がやってきた。

夫・ケインとは最後に家族3人で過ごす時間を作ってもらい、私はそこで、リオナと生まれてくる子供と共に生きていくことを彼に告げた。

苦労ばかりかける…と優しく笑うケインを送り出した私。

あなたはいつだってそう…

口をつきそうになる憎まれ口をグッと堪え、笑顔を見せた私に、彼は最後のプレゼントを置いて行った。

それは生まれてくる我が子の名前…

直近の検査で女の子であることが判明したあと、寝ずに思案した名前を、彼は候補の一つにしてくれと私に笑いかけた。

もう私の中ではその名前しかありえなくなっていたが、今回の仕打ちへのせめてもの抵抗として、「考えておくわ」の一言で彼を困らせることにした私を、優しく抱きとめるケイン。

こうして最後の家族の時間は終わりを告げ、彼らの旅立ちの時が迫るのだった…


出発当日…

結局バキュルモンの一件は世間には伏せられていた。

公表したところで、おそらくどうすることこもできないという絶望をいたずらに広めてしまう結果になってしまう。

それならせめて、民衆には最後まで新しい時代への希望を抱いて時を過ごしてもらおうというのが、上層部の決定であった。

万に一つのミッションに成功したところで、ケインたちミッション従事者は調査任務中の事故での死亡として処理されることが決まっており、銀河を一度ならず二度救うことになる英雄たちに贈られる最後としては、あまりにお粗末といえる内容だった。

ケインとは別れを済ませていた私は、リオナとともに待合室にいるライオ・シオン夫妻のもとへむかう。

二人はリオナに、当面戻れない任務に行くこと、その間、私の家でお世話になるようにという話をしているということだった。

リ「おねえちゃん…あ、ちがった。そふぃさまってよんでいいですか?」

いきなり幼女から様付けで呼ばれて困惑する私。

ソ「様って…そんなかしこまらなくていいのよ…誰がそんな呼び方しろっていったの?」

リ「このあいだおうちに遊びに行ったときに、ねぐるさんがそう呼んでたから…これからおせわになるんだから失礼のないようにっておとうさんたちもいってたし…」

だからって様付けさせるとか…

しばし悩んだものの、本人がそれが良いというならそれでいいかと思い直す。

嫌になったら新しい呼び方を考えるだろう…

子供の成長がいかほどの物か、まだお腹の中の子ですら経験してない私には想像もつかなかったが、二人の愛の結晶を預かる事に背筋が伸びる思いになっていた。

シ「どうしたの?そんなに複雑そうな顔をして…」

装備のチェックをしていたシオンだったが、私たちのやり取りが聞こえたのか、笑顔で近づいてくる。

ソ「なんでもない…」

照れて仏頂面になった私に、シオンもやれやれといった表情を見せていた。

シ「永いお別れになるんだから、かわいいソフィちゃんの笑顔が見たいんだけどなぁ…」

そういいながらリオナを抱き上げ、私も一緒にハグするシオン。

シ「お母さん行ってくるね。リオナもいい子で頑張るのよ!」

リ「うん!おかあさんたちがかえってくるころには、そふぃさまのいちばんでしになってまってるね!」

リオナの溌溂とした声に涙がこみあげるのをこらえる私。

シ「その意気だよ、リオナ。立派な姿に成長して待っててね!」

ハグを解いて笑顔を見せるシオンに、リオナもにこっと笑いかける。

リ「あ、おとうさんだ!リオナ、いってくるね!」

準備がひと段落したのか、待合室に姿をみせたライオに駆け寄るリオナ。

シオンと二人きりになった私は、最後に伝えたかった言葉を彼女へと告げた。

ソ「もう泣き言も言わないし、どんなことがあっても、リオナちゃんは立派に育てて見せるわ。だからひとつだけ約束して。どんな困難な状況でも、絶望的な事態に陥っても、最後まで生き残る術を模索して欲しい。石にかじりついてでもあの子のもとに戻ってくるって。それを約束してくれるなら、私はあなたたちを笑って送り出せる。それでいい?」

私の言葉に、黙ってうなずくシオンの姿が、私の記憶に残る最後の彼女の姿だった…


それから何日立っただろうか。

私は元気な女の子を出産し、名前を『ミレーヌ』と名付けた。

それは夫が最後に残してくれた私とこの子への最大の贈り物…

ミレーヌが生まれたその日、バキュルモンも次元の彼方へと消失する。

そしてそれは、かけがえのない3人の犠牲のもとになされた奇跡であることを私は知っていた。

ソ「あなたの誕生祝にしては、派手すぎだと思わない?あいつらは何回銀河を救ったら満足するのかしらね…」

その傍らにはリオナが座り込み、新たな生命に目を輝かせていた。

リ「わたし、絶対いいお姉ちゃんになる!そふぃさま、みていてね!」

笑いながらミレーヌのほほをなでる私の目からは、一筋の涙がこぼれる。

あの日からこの出発の日まで何回泣いたかわからなかったが、この日以降、私が人前で涙をみせることは二度となかった…


「ううっ…ぐすっ…」

ピコンピコンピコン…

EYEキューの催眠による激しい感情の揺さぶりに、ソフィはエネルギーの循環を乱されてエナジータイマーを点滅させてしまう。


様々な方法でエネルギーを奪われた余韻なのか、胸には乳首が浮かび、自らの秘めた記憶を暴かれて涙を浮かべるソフィ。

エネルギーを奪ってご満悦もEYEキューであったが、自らが虎の尾を踏みつけてしまったことにはまだ気づいていなかった…

ソフィが深く目を瞑ると、自らの身体の中を浄化の力が駆け巡る。

その目が再び開かれた時、彼女が浴びたガスの効果は全て消し去られていた。

「ふぅ…久しぶりに嫌なことを思い出させてくれたわね…この代償は高くつくわよ!」

ソフィが意識を集中すると、その身体が淡く光を発する。

ビキッ…バキィ!

凄まじい念動力がEYEキューの体内を駆け巡り、その身体にヒビが入り始めた。

ソフィは聖十字隊での活躍から慈愛の女神のようなイメージが先行しがちであったが、その力の根本は強力な念動力にあった。

アルティマティアラも元々は万能武器だったのを、ライオが抜身の刃のようなソフィの念動力を目の当たりにして、それを制御するツールとしての側面を持たせたものだったのである。

あまりに強大な力ゆえに、発動させてしまうとそのエネルギーのほとんどを使い果たしてしまうため、ソフィは自らその力をセーブする習慣がついていたが、自らの悲しくも大切な思い出に土足で踏み込んだEYEキューに対しては、そのタガが外れてしまっていた。

「うわああああああ!」

ソフィの体内で練り上げられた念動力が一気に解放され、次の瞬間にはEYEキューの姿は内部から崩壊し、宇宙空間から消し飛んでいた。

肉片の一つも残さず消えたEYEキュー。

宇宙空間には、消耗し切ったソフィだけが残されていた。

「はぁ…はぁ…」

アルティマサインで救援を求め、ソフィは瞳を閉じる。

先程までEYEキューが見せていた記憶には、まるで夢から覚めた時のように再び霞がかかっていく。

その中で笑うシオンやライオの顔を思いながら、ソフィの意識は闇に落ちていった。

おそらく目が覚めた時には、思い出したことすら忘れてしまうかもしれない…

きっとこの呪いが解けるのは、再び彼女たちに出会えた時のことだろうと、ソフィは混濁する意識の中で感じていた。

それは自分が死んだ時かそれとも…

シオンと交わした約束によって、捨てきれない淡い期待がソフィには未練にように残り続けるのだった…



※このお話は対になるエピソードがあります。それはまたしばらく先で公開予定ですので、お楽しみに!

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Comments

syonnai_hito

今回はケイン・ライオ・リオンの最後?の描かれたエピソードなので、ガンQ・・・ではなくEYEキューがやや陰に隠れた感が・・・。 彼らが明確に死亡したわけではないのも色々と想像の余地がありそう('_') その巨大な目とか触手とか・・・。 それにしても拘束されて涙目になったソフィが美しい。

いぼんこ

シオンさん達は亡くなったわけではなくあくまで行方不明なんですね。 もしかしたらこれから現代のシオンの登場なんて事も…?

ガチピン@ご支援感謝

EYEキューはちょっと舞台装置にしてしまったので、また挽回のチャンスを上げたいですね。 彼女たちの安否に関しては、もう一つのエピソードで見えてくるかもです!

yukimi

今回は、所謂パズルのピースが填められる、そんな話でしたね。 物語の世界観に更に深みがでてきましたね… それはそうと、バキュルモンを送り込んだ存在とは…