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挿絵 きんぎょにく様 

バンクイラスト さーばーふぇいず様 

次回予告イラスト 狒々様



「よし…いくか…」

その日、私立春桜学園には物々しい装備のセキュリティスタッフの姿があった。

ここ数日、当直の校務員や教師が夜間巡回中に何者かに襲われて転倒する事案が発生し、生徒たちの間では幽霊の仕業ではないかとまことしやかにささやかれていた。

大人なら一笑に付すような噂でも、多感な年ごろの生徒たちにとっては一大事であり、恐怖で登校できない者も出始めてしまう。

また、実際の被害者が出はじめた事で、学園側も原因究明に動き出さざるを得ない状態であった。

学園全体は機械警備によって無人での警戒がなされていたが、今回の事態を受けて新たにセキュリティスタッフが配備される。

今日はその初日…ということで、夜に向けての準備が進められる。

これでうわさが根も葉もないものだと確定されれば…

そんな期待感が、学園の運営側に漂い始める。

そして翌朝…そんな願いもむなしく、学園内でセキュリティスタッフが気を失っているのが発見される。

一体夜の学園で何が起きているのか…

正体の知れない恐怖が学園を支配しようとしていた…


「だから~、全身包帯のミイラ男だってば!」

「違う違う!走る人体模型だって聞いたぞ!」

朝のホームルームが始まるまでの間、様々な憶測が生徒の間で飛び交い、議論は熱を帯びていく。

そんな中、灯の胸中にはオカルトでもイタズラでもないもう一つの選択肢が思い浮かんでいた。

「やっぱりオウマの仕業なのかしら…」

灯があれこれ思案していると、教室に担任が疲れた様子で入ってきた。

「みんな着席!緊急で申し訳ないのだけれど、今日の授業は全て中止です。理由は…」

担任の話によると、学園は今回の事件を重く見ており、校内の徹底した捜索を決定。

今日は学園を無人にし、明日、警察による調査が行われるとのことであった。

よって今日明日は緊急の休校とし、後ほどオンラインで課題を送信する…最初は休校の発表に沸き立った生徒たちであったが、課題の発表でそれはブーイングへと転じていた。

「寮の子達は集団で下校すること!寄り道は厳禁よ。わかっていますね、古城さん!」

門限破りの常習犯である透子が名指しで注意されると、クラスに大きな笑いが起きる。

「はい!かしこまりました!」

透子がおどけて答えることで、事件で重くなった空気が軽くなるのを感じ、灯も笑顔になるのだった…


「ねぇあかりん!ひどいと思わない?!」

透子は名指しで注意されたことにぷりぷりしていたが、それは本心ではないことはその笑顔が証明していた。

「うーん、日頃の行いのせいじゃないかなぁ…」

イタズラっぽく笑いながら返す灯に、むくれた顔で抱きつく透子。

「あかりんまでひどーい!あ、そういえば、今日休校だと、あれはどうなるんだろ?」

何かを思い出したかのようにスマホをぽちぽちしだす透子。

「歩きスマホはダメだよ、透子ちゃん。」

一緒に立ち止まった灯に、透子がスマホを差し出す。

それは動画サイト・ビューチューブの画面で、マスクをした軽薄そうな男が写っていた。

「なになに…『S学園の闇を切る!噂のミイラ男は俺が撮る…』…なぁに、これ?」

基本的に動画を見る時間があるなら読書に夢中になるタイプの灯には、縁遠いジャンルの話であった。

動画の紹介画面には、謎の覆面を付けた制服の男子が写っている。

「学園半公認の現役学園生ビューチューバ―のヤス君だよ!あかりんは興味ないだろうけど…この人が今晩、例のミイラ男退治に乗り出すって予告動画あげてるんだよねえ。」

そもそも平時ですら、学園はこんな企画を許可しないのでは…という疑問が頭をよぎる灯であったが、今はミイラ男に関する別の可能性が頭の中を支配しつつあった。

「ふたりともー!おいてくよー!」

一緒に集団下校中の寮生に声を掛けられ、慌てて走り出す灯と透子。

灯が乗ってこなかったことで、その後は透子からもビューチューバ―の話が出ることはなかった…


「はぁあ…いきたくねぇなぁ…」

一方そのころ、ビューチューバーのヤスは大きなため息をついていた。

学園の紹介などを請け負う代わりに、企画動画を取る許可を得る。

放送部として立ち上げたビューチューバ―だったが、そこまで再生数がとれるわけでもなく、ヤスも若干の行き詰まりを感じていた。

今回のミイラ男騒動も、生徒のリアクション動画程度におさめるつもりでいたのだが、なんと『スポンサー』のご指名でロックダウンされた学園へと忍び込むことになってしまう。

廃部寸前だった放送部に資金供与をする代わりに、ビューチューバ―を立ち上げることを指示してきたスポンサー。

ヤスはその指示には逆らえず、どういった権限の持ち主かは不明であったが、企画を通すための許可などを取り付けてくるスポンサーのおかげで、彼らのビューチューバ―活動は成り立っていた。

今回はヤス一人が指名を受け、スポンサーの用意したルートで学園に潜入する…

あとは勝手に動画を撮れ、というのがスポンサーからの指示であった。

「おれも心霊系とか嫌いなんだけどなぁ…いくしかねえか…」

気乗りしないといった表情のヤスであったが、何とか気合を入れて重い腰を上げるのだった…


「やっぱりオウマだと思う?」

寮の部屋に戻った灯は、ベッドでスヤスヤと寝ていたエンヴィを起こして、ミイラ男の一件を話して聞かせた。

「むにゃむにゃ…その可能性は高そうデビね…夜になったら行ってみるデビ…」

お昼寝を邪魔されて眠そうなエンヴィは適当に相槌を打つ。

「もう…やるきないんだから…ところで、今日は学園が閉鎖されちゃってるんだけど、どうやって入ればいいと思う?」

灯の質問に、エンヴィはふわふわ浮きながら答えた。

「それは心配ないデビ…夜になったらエンジェルフォームで飛んでいくデビね…じゃあ、アタイはもう少し寝るデビよ~」

緊張感のないエンヴィにため息をつきつつ、オンラインで配布された課題に取り組む灯であった…


日もとっぷりとくれた夜に、灯とエンヴィは学園に向けて出発する。

空を飛んで向かう中、エンヴィは学園の様子をみて顔をしかめた。

「あややや…だいぶ濃いマイナートが充満してるデビね…」

灯にもその様子が可視化されており、学園全体を暗いオーラが包んでいる様子が見て取れた。

「ミイラ男騒動や、急な休校で生徒や教職員にもストレスがかかっていたようね。まずは中に入って確認しましょう。エンヴィ、どうやって中に入るの?」

見たところ外に面した扉や窓は厳重に施錠されており、物理的に中に入るのは至難の業と思われた。

「簡単デビ~!アタイに掴まるデビよ!」

灯がエンヴィの手を握ると、エンヴィはそのまま壁へと進んでいく。

ぶつかると思われた次の瞬間、灯の身体は廊下の真ん中にあった。

「あ、あれ…すり抜けたの?」

原理が分からず困惑する灯。

「アタイも良くわかんないデビ…でも、こうやっていつも灯ちゃんのお部屋にもお邪魔してるデビよ!」

確かに鍵をかけて出て行っても、エンヴィは勝手に出かけたり入ったりを繰り返しているようであった。

この能力があれば合点がいく…と灯が納得していると、静寂を突き破る悲鳴が廊下に響く。

「うわああああっ!でたぁああああ!」

声のする方へ顔を向けると、灯たちのいる廊下の角を曲がって一人の青年が飛び出してくる。

顔にはマスクをかぶっていたが、制服は灯たちと同じ春桜学園の男子の物であった。

「あれ…例のビューチューバ―の人かしら…」

エンジェルフォームに変身していることで相手からは視認されないだろうと油断していた灯であったが、マイナートの充満する空間にいることで、件のビューチューバ―・ヤスには、灯たちの姿が見えていた。

「…!!あんたたち、どいてくれ!」

とはいえ何かに追われているのか、リアクションもせずに灯たちの横を駆け抜けていくヤス。

その背後からは、包帯にまみれた謎の男がふらふらと走ってくる。

「あれが噂の…!!…きゃあああっ!」

ミイラ男の正体を確認しようた灯は、その異様な風貌に悲鳴を上げてしまう。

身体の半身の皮膚が無く、内臓や筋肉が丸見えの状態になっており、それを雑に隠すように包帯が巻き付いている…

まさに人体模型とミイラ男のハイブリットの様な存在・マミーオウマの風貌は、暗闇で逢おうものなら失神必至のビジュアルであった。

おそらく保健室の備品庫で埃をかぶっていた人体模型に、イヴィルシードが取り付いてしまったのだろう…

もともと怖がられる造りの人体模型になら、一定のマイナートが宿っていても不思議ではなかった。

ヤスを追いかけるマミーオウマは、内臓の模型をバラバラとばらまきながら目標へと迫る。

落とした模型は律儀に包帯でからめとってまた人体模型部分に収めるまめさに、灯は驚きと苦笑の入り混じった表情を浮かべていた。

「あんなの廊下から出てきたらみんなびっくりして転倒してしまうのも訳ないわ…これ以上被害が出る前にここで浄化しましょう!」

飛び出てきた恐怖で一瞬硬直したものの、正体さえつかんでしまえばこっちのもの…

灯は意識を集中し、救聖天使へとその姿を変える。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花…オウマと分かれば怖くありません!いきます!ホーリーライトアップ!ブライトハート!」


まばゆい光が校舎に満ち、その中から天使が舞い降りる。

「闇夜を照らす一条の光!救聖天使ブライトハート、光臨です!」

マミーオウマはハートには目もくれず、ヤスを追い回していた。

恐怖でマイナートを発散しているヤスの方が、獲物として上物なのだろう。

しかし、自らに注意が向いてない事は、ハートにとって好都合であった。

「まずはあの素早い動きを封じないと…エンジェリングスラッシュ!」

腕輪から発生した光輪をマミーオウマの足に投げつけ、動きを止めようとするハート。

しかし、器用にオウマはそれをよけると、廊下を曲がってその姿をくらまそうとする。

「まちなさい!」

ハートもそれを追って廊下を曲がろうとするが、そこにはオウマの罠が待ち構えていた。

「…!?きゃああっ!」

曲がり角の入口に蜘蛛の巣のようにマミーオウマの包帯が張り巡らされており、ハートはその罠に絡めとられてしまう。


「し、しまった…」

身動きを封じられ焦るハート。

ブワァ…

追い打ちをかけるように、巻き付いた包帯からハートの力の源・プラウスが吸い取られていく。


キィン…キィン…

コアジュエルが明滅をはじめ、ハートの危機を知らせていた…

「くっ…振りほどけない…」

ハートが拘束から逃れようと身をよじるたびに、包帯はさらに強く巻き付くのであった…


「あやややや…ハートのピンチデビ!どうしようデビ~…」


▶「そうデビ!あのオウマの身体には弱点があるデビ~!」

 「あっ!さっきのビューチューバ―を呼んでくるデビよ!」


弱ってきたハートを組み伏せ背後に回るオウマ。

ハートはコスチュームをずらされ、あられもない恰好にさせられてしまう。


「や…やめてぇ…」

拘束により抵抗できない事に味を占めたのか、マミーオウマは股間のパーツを入れ替える。

普段はデフォルメされた男性器のイラストの描かれたパーツであったが、入れ替えたそれは巨大な屹立したディルドーであった。

「そんなのいれてはダメ…やだぁ…」

ハートの懇願など耳にも入らないのか、マミーオウマはその棒を秘所へとこすりつけていく。

このままではハートの貞操の危機…

その時、エンヴィが勢いをつけてオウマに飛び込んできた。

「アチョー!デビ!」

そのままオウマの顔面にとりつくエンヴィ。

しかし、表情筋などがむき出しとなった人体模型の顔を目の当たりにし、あまりのグロテクスさに飛び上がってしまう。

「あやややや…やっぱり怖いデビ~!」

しかし、埒外からの攻撃に驚いたのはオウマも同じであった。

エンヴィを振り払おうと身体を起こした瞬間、エンヴィは文字通りその懐へと飛び込んでいく。

「隙あり!デビ!こうしてやるデビよ~!」

ハートを縛り上げるために包帯を使用していたオウマのボディはがら空きであり、そこにはたくさんの臓器のサンプルが収められていた。

エンヴィはその一つ一つを掴むとポイポイと外して放り投げていく。

「どうデビ?おなかの中がすっからかんデビ~!」

身体の中身をごっそりと抜かれたオウマは、バランスを崩して後ろへとひっくり返ってしまった。

「ハート!今デビよ!」

エンヴィの合図に、ハートが体勢を立て直す。

「ありがとう!エンヴィ!エンジェリング展開!」


ハートの身体の前に光輪が展開され、胸のコアジュエルがまばゆく光る。


「サークレッド・ハートウェイブ!」

エンジェリングを通じて増幅されたプラウスが校内を駆け巡り、目の前のオウマは人体模型と包帯、そして誰が使用したのかわからないディルドーへと戻っていた。

「イヴィルシードデビ~!ぱくっ…あむあむ…」

ポロリとオウマから抜け落ちたイヴィルシードは、いつも通りエンヴィのおなかに収まっていった。

「ふぅ…これで一件落着かしら…」

エンヴィとハイタッチして帰宅の途につく灯。

「…何か忘れているような…」

消耗による倦怠感で思考が鈍っていた灯は、その違和感に気づかずに寮へと帰っていった。

「あっ!ビューチューバーの人!」

灯がそのことに気づいたのは翌日の事…

次の日、学園では警察とセキュリティによる総点検が行われ、大きな異常は発見されずに終了する。

なぜか学園に侵入し、廊下でひっくり返って気を失っていた生徒一名の停学をもって、今回の事件はその幕を下ろすのであった…


次回予告

奇術部のさえない部長がなぜかモテモテに大変身!?

彼に熱を上げた女生徒が行方不明になって学園はまたまた大混乱!


次回、救聖天使ブライトハート第10話「ハートもメロメロ?驚きのサイミンオウマ出現!」に光臨です!


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Comments

syonnai_hito

勝利編はマミーオウマの自滅?で終わり、ヤスがコメディっぽくもひとり負けして終わった感がありますが、「スポンサー」の存在が今後の伏線に? 敗北編ではヤスがカギになりそう・・・。

Sakiel

Thanks for your great work. Bright Heart is so cute. I wish this series will go on forever.