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挿絵 少年ライダー隊ルリヲ様

バンクイラスト さーばーふぇいず様


日曜日の朝…

春桜学園に通う灯にとって学校が休みの週末は、趣味の読書に没頭できる貴重な時間であった。

今日もゆっくり本の世界に…

そんな灯のひとときは、始まる前に終わりを告げようとしていた。

「いけーっ!そこデビ!フレキュア、がんばれデビ〜!」

テレビからは女児向けアニメ番組の音が流れ、それに合わせて部屋中が喧騒に包まれる。

声の主…エンヴィの歓声は灯にしか聞こえないことが不幸中の幸いであった。

もしこれが寮中に響いていたら、大問題になっていたかもしれない。

しかし、親から離れての一人暮らしに一抹の寂しさを憶えていた灯にとって、エンヴィの騒がしさは決して嫌なものではなかった。

楽しそうだな…そんな視線を横目で送りながら、それでも読書に耽る灯。

エンヴィと知り合って数週間であったが、たまにやってきては好きに遊んで帰る様子にももう慣れてきていた。

「今週も神回だったデビ!灯ちゃん、テレビありがとデ…あーーっ!?」

満足してテレビを消そうとしたエンヴィが素っ頓狂な声を上げる。

「ど、どうしたの?」

流石にびっくりした灯は、本から目を離してエンヴィに向き直った。

「こ、これ…この街デビよね…」

エンヴィが指差したテレビでは、春野市に最近オープンしたテーマパークのCMが流れている。

「そうだけど…」

「灯ちゃん!右下を見てほしいデビ!」

喋ろうとした灯を遮り、エンヴィが興奮して捲し立てる。

画面右下にはテロップが流れており、灯は目を凝らす。

「んん?『フレキュアショー、毎日開催中!テーマパークで私と握手!』だって…これがど…」

「どーしたもこーしたもないデビ!フレキュアに会えるデビ!行きたいデビ〜!」

子供のようにはしゃいで飛び回るエンヴィを見て、灯はやれやれとため息をつく。

「予約とかしないと入れないんじゃ…あ、そういえば…」

先日、寮の隣人・透子からテーマパークオープン記念の優待券をもらっていたことを思い出した灯。

行動範囲の広い透子は、何かと色々集めてきては、インドア派の灯に譲ってくれていた。

「前の植物園の時といい、タイミングがいいのか悪いのか…さすがは透子ちゃんってことかしら。」

灯がお財布に入れていた優待券を確認すると、まだ期限の範囲内であった。

「エンヴィ、ショーが見られるかはわからないけど、テーマパーク行ってみる?」

「やったデビ!灯ちゃん大好きデビ〜!」

喜ぶエンヴィの姿に、少し自分のことのように嬉しくなる灯であった…


「ええと、ショーの会場は…」

テーマパークに到着した灯はスマホ片手に情報を検索していく。

プールや巨大観覧車、ショッピングモールなど、様々な施設の複合体としてオープンしたテーマパークは、1日ではとても遊びきれない…そんなことを透子が言っていたことを思い出し、灯はその広さに途方に暮れる。

「…すごい広さ…でも今日の目標はアミューズメントホールだけだから…こっちね!」

「フレキュアに逢えたら嬉しいデビ〜!」

飛び回るエンヴィを見ながら、灯はふと疑問を口にする。

「エンヴィは他の人には見えないんだし、一人で観にくることもできたんじゃない?」

するとエンヴィは少ししょんぼりした様子で答える。

「あたい…ものすごい方向音痴デビ…マイナートやプラウスの反応は追えるから、灯ちゃんやオウマの位置はわかるデビけど、自分から目的地にはいけないデビ…だから、今日連れてきてくれて嬉しいデビ!灯ちゃん、ありがとデビ!」

だから私と行きたがったのか…

納得がいった灯は笑顔でエンヴィを撫でる。

「これからも何かあったら言ってね。協力するから!」

そういいながら、二人は仲良くアミューズメントホールへと向かうのだった…


「休憩入りまーす!」

そう言ってフレキュアショーの司会を務める『おねえさん』は楽屋へと戻る。

ショーは午前に一回・午後に二回行われ、今日は午後の一回目まで終了していた。

「ふー、流石に放送日は混むなぁ…子供たちの反応は上々だけど…」

アミューズメントホールの目玉としてオープニング興行を飾ったフレキュアショー。

その司会はやりがいのある仕事だったが、子供たちのリアクションや演者のミスによって様々な対応を臨機応変に迫られることで、おねえさんの疲労は蓄積されていた。

楽屋で化粧台に突っ伏して体力の回復を図るおねえさん。

疲労困憊の彼女が、化粧台の上で怪しく蠢く『種』の存在に気づくことはなかった…


「よかったね、当日券で入れて!」

目的を達することができそうなことに、ほっと胸を撫で下ろす灯。

後方端っこの席ではあったが、中に入ってさえしまえば、エンヴィは好きな位置に飛んでいって鑑賞できるだろう…

「始まるまで待ちきれないデビ〜!」

席に着いた灯の膝の上で、エンヴィがニコニコしていると、横の席にいた女児が話しかけてきた。

「おねーちゃん、そのこ、新しいフレキュアのよーせーさん?」

エンヴィが見えている?

咄嗟のことに驚く灯とエンヴィ。

「あ、えーと…この子は私のお友達なの!一緒にフレキュアを応援したくて連れてきたんだよ!」

ぬいぐるみのようにエンヴィを抱き上げる灯。

エンヴィも状況に合わせて無表情でそれに従う。

「そーなんだ!その子もかわいいね!」

嬉しそうに笑う女児と引き攣った笑顔を交わす灯。

「(この子、エンヴィが見えているの?)」

本来エンヴィやオウマは、天使か悪魔の力を持っていないと見えないはず…

この少女が何かの力を有している可能性もあったが、エンヴィは別の理由を思い浮かべていた。

「(灯ちゃん、もしかしたら近くにオウマがいるかもデビ!注意するデビ!)」

もう一つの可能性…それはオウマが干渉していることだった。

オウマは人間の負の感情から生まれる力『マイナート』を糧にしており、それを吸収する際に自らを可視化することがある。

恐怖を煽り、マイナートを出しやすくするのが目的なのだが、もしかしたらこの場にも…

灯とエンヴィが身構えたその時、ブザー音と共に劇場内が暗転する。

「あっ、始まるデビ!」

とりあえずは周りを気にしながらショーの様子を伺う…

灯とエンヴィは集中できないまま、開演を迎えるのだった…


しかし、楽しいはずのフレキュアショーは凄惨な展開でスタートする。

主役のフレキュアたちは着ぐるみで出てくるタイプのショーであったが、開幕した瞬間、フレキュアたちはズタボロの状態でステージ上に晒されていた。

会場の至る所から子供達の悲鳴が上がり、保護者の困惑するどよめきが会場に異様な空気を作り出す。

「ふふふ…良い子のみんな、こーんばーんわー!楽しい楽しいフレキュアショーへようこそ!」

ステージ上にはおねえさんが登場するも、壇上の異様な光景に、誰も返事を返せずにいた。

「今日のお友だちは引っ込み思案なのかな〜?そんなことじゃフレキュアたちみたいに、悪者にやられちゃうよ〜!こんなふうにねぇ!」

そういうと足元に横たわった主役のフレキュアを踏みつけるおねえさん。

中にスーツアクターがいるのか、苦しそうにもがくフレキュアを見て、子供たちはさらに泣き叫けぶ。

「くくく…小さいお友達にはもっと怖い思いをさせてやらないとねぇ!でてきな、お前たち!」

おねえさんが指をパチンと鳴らすと、背景に描かれていたゴブリン状のモンスターが絵から抜け出て実体化する。

十体近いゴブリンがステージ上から観客を威嚇し、ますます子供たちの恐怖は高まっていくのだった…


「これって…エンヴィ!」

もはや状況がオウマの影響下にあるのは間違いない。

そう感じた灯がエンヴィを見ると、エンヴィも大きく頷いた。

「間違いないデビ!あれはさしずめ、ステージオウマ…この場全体がオウマに支配されているデビ。横の女の子がアタイを見ることができたのも、それが原因デビ!」

灯がその子を見やると、同伴していた母親の腕にしがみついて泣いていた。

「フレキュア、大丈夫だよね?あんなのに負けないよね?」

泣きながらもフレキュアを信じて耐える様子に、灯は勇気づけられる。

「エンヴィ、私行ってくる!」

自ら席を立つ灯に、エンヴィは人目も気にせずエールを送った。

「灯ちゃん、頑張ってデビ!」

灯は席から離れて非常口に向かうと、胸から下げたコアジュエルに思いを込める。

次の瞬間、灯の姿は自らが持つ天使の姿・救聖天使ブライトハートのエンジェルフォームへと変わった。

大人びた身体に変わった灯は策を練る。

「このまま近づいても、観客の目に止まってしまうわ…それならいっそ!」

先程の女の子の泣き顔を思い浮かべた灯は、ひとつの案を思いついた。

そのまま天井スレスレを飛行し、ステージへ向かう灯の表情には、緊張の色が表れていた…


「灯ちゃん大丈夫デビか…あや?」

ぬいぐるみのふりをしなければならないため、座席でステージを見ていたエンヴィの目の前で眩く光が爆ぜる。

「ホーリー・ライトアップ!ブライトハート!」




大きな声が会場に響き、真っ赤なバトルドレスに身を包んだ天使が光臨する。


「闇夜を照らす一条の光!救聖天使ブライトハート、光臨です!」

まるでそういうシナリオかと思うほど鮮やかに、ブライトハートがステージ上に降り立つ。

「会場の皆さん!私がきたからには大丈夫!フレキュアも私が助けます!」

新たなヒーローの登場に、泣いていた子供たちから少しずつ歓声が上がり始めた。

「あれ、あたらしいふれきゅあ?」

「がんばえー!ふれきゅあをたすけてー!」

各々に声を上げ始める子供たちを見て、ハートは優しく微笑んだ。

「さあ!あなたたちの好きにはさせません!」

そういっておねえさんが変貌した『ステージオウマ』と向き合うハート。

「随分と芝居がかったことをしてくれるじゃない!でもそれは私の専売特許よ…お前たち、やっておしまい!」

ステージオウマの掛け声に合わせて、子供たちを壇上から脅していたゴブリンたちがハートに襲いかかる。

「くっ…速い!でも、負けません!たぁっ!」

ハートも腕にプラウスでできた光輪『エンジェリングスラッシュ』を発生させ、ゴブリンたちと互角に渡り合った。


「生意気な…それならこれでどうだい!」

ステージオウマが手に持った鞭をふるい、最前列で見ていた少女を絡めとる。

そのまま自分の元へ引き寄せると、尖った爪をその首筋に当てがった。

「このガキの命が惜しければ、動くんじゃないよ!」

そう言って脅すステージオウマに、怒りの視線を向けるハート。

「卑怯な…」

その表情を舐め回すように楽しんだステージオウマは、配下のゴブリンに新たな指令を出した。

「ククク…お前たち、お返しをしてやりな!」

高低差のある壇上のステージの各所からゴブリンたちがハートに襲いかかる。

「あんっ…きゃあっ…つう…あああ!」四方からの攻撃に防御すら許されず、ズタズタにされていくハート。

「お姉ちゃん…」

少女の不安そうな顔を見たハートはなんとか笑顔を作る。

「だい…ぁんっ…じょ…うぶ…わた…っ…しが…んっ…助けて…あげ…はぁん!」

少女を勇気づけようとするハートをさらなるゴブリンの攻撃が襲った。


キィン…キィン…

ダメージの蓄積で胸のコアジュエルが明滅を始め、ハートを支える力『プラウス』の消耗を告げる。

「ふふん、ザマァないね。そこのお前!こいつを使いな!」

ステージオウマは近くにいたゴブリンへ自らの鞭を投げる。

「キシャアッ!」

ゴブリンは背後からその鞭でハートを殴打した。

「あああっ!いたっ…あうっ…はぁん!」

鞭打の嵐にハートのコスチュームも破れ、胸が露出してしまう。

「ぁ…」

立っていることのできなくなったハートは膝から崩れ落ちる。

しかし、ゴブリンは簡単に地に臥すことは許さないとばかりに、ハートの首に鞭を巻きつけて引き起こした。

「あが…ぐ…くる…し…」


絶え間ない攻撃の痛みと、窒息の苦しみで、ハートはますます窮地へと追い込まれるのだった…


選択肢

▶「あわわわ…ハートが大ピンチデビ!なんとかしなくちゃデビ〜!」

 「ははーん、勝利の前にピンチを演出…ハート、わかってるデビね〜!」


「このままじゃハートがやられちゃうデビ…何か手はないデビか…ああっ…そうデビ!」

エンヴィは来る前に灯に動画で見させられた『フレキュアショーのお約束』を思い出していた。

その動画は、小さい子供に周りの子と一緒に応援してね、というマナーを教えるとともに、簡単なショーの展開を説明するものであった。

「確か、ほんとのショーでもフレキュアのピンチがあったデビ…その時は司会のおねえさんが…あ、あれデビね!」

目的のものを発見したエンヴィは覚悟を決める。

「引っ込み思案の灯ちゃんだって、あんな大見得きって頑張ってるデビ…アタイだってやってやるデビ!」

ステージ上で窮地に陥ったハートを見やり、エンヴィは目的のものへと向かって飛んでいく。

それはステージオウマの背後に捨て置かれたマイクであった。

おもむろにそれを掴んだエンヴィは、ステージ真正面に飛び出した。

「会場のみんな〜!フレキュアとブライトハートが大ピンチデビ!力を貸して欲しいデビ!」

いきなり現れた珍妙な生き物に会場全体が困惑する。

「あれなぁに?」

「新しいフレキュアのようせい?」

こどもたちは口々に疑問を投げかける。

「(興味をひけたデビ!)あたいはブライトハートのお友達デビ!ブライトハートはみんなの応援があれば、あんな奴らに負けないデビよ!」

夢も希望もない展開に泣いていた子供たちは、やっと自分たちの知っている展開になったことで活気を取り戻した。

「アタイといっしょにブライトハートを応援して欲しいデビ!いくデビよ〜…せーのっ!」

エンヴィの音頭に合わせて、子供たちの声が会場に響く。

「がんばえー!」

「フレキュアを助けてー!」

「負けないでー!」

その声は大きな正のエネルギー『プラウス』となって壇上のハートへと届くのだった…


「エンヴィ…頑張ってくれてる…会場の子供たちも…負けていられないわ!」

子供たちの応援はプラウスを産み、ブライトハートのコアジュエルに集まっていく。

点滅していたコアジュエルは眩い輝きを取り戻し、ハートのコスチュームも修復される。

「たあああっ!」

首にかけられていた縄を手繰り寄せ、ステージオウマの方向へ投げ飛ばすハート。

縄を掴んでいたゴブリンたちも巻き込まれて吹っ飛ばされ、ステージオウマに激突してもつれる。

「一気に決めます!」

ハートはそのままステージオウマに向けて意識を集中した。

身体を包む装身具から光輪が発生し、コアジュエルの前に配列される。


「サークレッド・ハートウェイブ!」


眩い浄化の光がステージを包み、ステージオウマやゴブリンはその中へと溶けていく。

光が消えた後、会場は静けさを取り戻し、観客はマイナートに晒された結果か、大人も子供も昏倒していた。

「はぁっ…はぁっ…」

ステージ上にはセイヴァーフォームが解け、エンジェルフォームに戻ったハートが座り込んでしまう。

「ハート、やったデビ!フレキュアみたいでかっこよかったデビ~!」

エンヴィは嬉しそうに飛び回り、ハートも息を切らしながら笑顔を向ける。

「はぁ…はぁ…エンヴィのおかげよ…ありがとう。観客の皆さんは…」

昏倒した観客席をみて不安な表情を浮かべるハートを、エンヴィは元気づける。

「安心するデビ!みんな気を失っているだけデビ。アタイたちは退散した方がいいデビね…」

二人が舞台袖に移動したのと同時に、異変に気づいたスタッフが会場に入ってくる様子が目に止まる。

会場の救護を彼らに任せ、二人は家路につくのであった…


次回予告


大変な思いをしたのも束の間、今度はパーク内の巨大観覧車が何度も停止し、観客が取り残される事件が発生します。

夕方に起きた事件にオウマの影を感じた私たちは、再びテーマパークへ向かいます!

次回、救聖天使ブライトハート!

「観覧車に巣食う蜘蛛!スパイダオウマ現る」

に光臨です!


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Comments

Addition2

很期待敗北路線。

551

点滅するコアジュエルのピンチから、子ども達の声援で、立ち上がるブライトハート。良いですね。

syonnai_hito

ヒーロー(ヒロイン)ショーのお約束を踏まえた逆転勝利展開、見事でした。エンヴィの意外なオタク趣味とそれを勝利に繋げたのも面白かったです。コロナ禍以降この手のショーに行けなくなったのを思い出しました😿 途中でブライトハートの衣装がボロボロになり乳首も丸見えになりましたが、小さなお友達と多分いたであろう、「大きなお友達()」の記憶の中に残っているでしょうか?w

ガチピン@ご支援感謝

今はコールアンドレスポンスも難しい時代になっちゃいましたからね… 次月の敗北編は、そんな純真なお友だちもいれば、当然そうじゃないお友だちも… という展開になる予定です! お楽しみに〜!

Sakiel

Thanks for your great work. The pinch this time is great too. Looking forward to her story next time!