アルティマミレーヌ 「これが光の星だ!後編」挿絵増量版 (Pixiv Fanbox)
Content
挿絵 CO様
前編のあらすじ
地球で厳しい戦いが続くミレーヌの元へ、義姉のリオナが訪れる。
しばらく地球を離れて光の星に帰ることを提案するリオナに、ミレーヌは任務の続行を志願するのであった。
その頃、地球に近づく小惑星の軌道を逸らすため、新兵器のトロン爆弾が使用される。
見事命中し衝突は避けられたものの、小惑星を住処にしていた宇宙大怪獣・グルノアがトロン爆弾のエネルギーを吸収して地球へと現れた。
住処を破壊され逆上し、暴れ回るグルノア。
ミレーヌは変身して戦いを挑むものの、グルノアの圧倒的な力に敗北してしまう。
ついには心が折れ、母やリオナに助けを求めてしまうミレーヌ。
そんなミレーヌにトドメを刺そうと、グルノアの巨体が迫っていた…
「キシャアアアアアッ!」
眼前に迫るグルノアの前に、指一本動かせないミレーヌ。
もはや心まで折れてしまったミレーヌは、恐怖からグルノアを直視できず、顔を背けてしまう。
しかしそんなミレーヌの視線上に、逃げ遅れて泣いている少女の姿が写った。
その少女に、兄と見られる少年が駆け寄っていく。
「ばかっ!こんなとこにいたら死んじゃうだろっ!」
叱責する兄に、少女が目に涙を溜めて口をひらく。
「だって…グスッ…ミレーヌも負けちゃったのに…」
ぐずる少女を背負いながら、少年は大きい声でがなりたてた。
「ミレーヌはまだ負けてない!いつもどんなピンチだって跳ね返して守ってくれたじゃないか!助けてもらった僕たちが信じなくてどうするんだ!」
そういいながらも不安そうにミレーヌを一瞥し、駆け出していく少年。
こんな醜態を晒した自分を、まだ信じてくれる人がいる…
その事実がミレーヌの折れかけた心を奮い立たせた。
尚も迫るグルノア。
せめてさっきの子供達が逃げる時間を…
その一心で、ミレーヌは残された全てのエネルギーをティアラへと集めた。
「こっちよ!」
震える声をなんとか絞り出し、グルノアの気を引くミレーヌ。
「グォオオオオッ?!」
仕留めたと思っていた獲物からの挑発に、進路を変えるグルノア。
「タァッ!」
ミレーヌ渾身のビームがティアラから発射されるも、弱々しい光はグルノアの硬い皮膚の前に、無惨にも弾かれた。
「もう…エネルギーが…ごめんね…」
自分を信じてくれた少年に謝りながら、ミレーヌの命の灯が燃え尽きていく。
タイマーは暗く光を失い、目からも生気が消えていった。
それはアルティマミレーヌの敗北の瞬間であった。
「ギャアアアオゥ!」
無駄な抵抗に苛立ったのか、グルノアがミレーヌの遺体に爪を振り下ろそうとしたその時、黒雲を突き破って、青い閃光が舞い降りた。
「あっ!アルティマリオナだ!」
思わず、少年におぶわれた少女が嬉しそうな声をあげる。
ミレーヌの傍には、その義姉・リオナが立ち塞がっていた。
「ひどい…こんなに痛めつけられるなんて…」
ミレーヌの惨状に心を痛めるリオナ。
しかし、リオナにも戦う力はそう残っていなかった。
ミレーヌと別れた後に小惑星まで飛び、グルノアを追って全速力で地球へと戻る。
その消耗で、実際はリオナも立っているのがやっとの状態であった。
「今打てる手はこれだけ…リオナバリヤー!」
掛け声をかけるや、体を回転させるリオナ。
そのまま空気の摩擦でエネルギーを生み出すと、次元の狭間へとグルノアを閉じ込めていく。
持てるエネルギーの殆どを消費する荒技であったが、見事グルノアを異次元へと追いやることに成功した。
回転を止めたリオナであったが、エナジータイマーは激しく点滅し、そのままミレーヌに覆い被さるように倒れ込んでしまう。
「あとは…お願いします…ソフィ様…」
最後の力でミレーヌを光の星へとテレポートさせるリオナ。
その瞬間にリオナのタイマーも消灯し、その場に体を横たえるのであった…
「ん…」
意識を取り戻すミレーヌ。
彼女は自らの体が回復ポッドに入っていることを理解するまで、少しの時間を有した。
「ここは…光の星…?」
内部からポッドを開け、外へ出ようとするミレーヌ。
「…っ…あつつ…」
身体全体を襲う痛みで気を失いそうになるも、ミレーヌはなんとか立ち上がった。
ふらふらと部屋の出口に向かおうとしたところで、外からソフィが入ってくる。
「!!…ミレーヌ!まだ立ってはダメよ!」
ソフィはミレーヌへと駆け寄り、すぐにポッドの横に備え付けられたベッドへと誘導した。
「お母様…今の状況は…」
ミレーヌの聞きたい情報が自らの身体のことではない事はソフィにも理解できていた。
しかし聖十字隊の顧問として、ソフィはまずミレーヌの容体について語り始めた。
「まずは自分の心配をなさい。あなたの体は怪獣の強酸によって溶ける寸前だったのよ…今は外傷は塞がっているけれど、安静にしていなければダメよ。」
諭したものの、ミレーヌは聞きたいことはそれじゃないとばかりにかぶりを振った。
「んもぅ…強情なところは誰に似たのかしら…いいわ、地球の事も話してあげましょう。」
ため息をつきながらも、娘の使命感の強さに喜びを覚えるソフィ。
その場で情報を整理しつつ、ソフィはミレーヌの負担になりすぎないよう、語り始めた。
「まずはグルノアのことね。あなたが力尽きた後、リオナが救出に入ったの…その場でリオナバリヤーを放つ事で、グルノアを異次元に閉じ込めることに成功したわ。でも、グルノアがバリヤーを破って出てくるまで、あと数日といったところね。それまでに対策を講じないと…」
ミレーヌはソフィの話の中で、リオナがリオナバリヤーを放ったという部分にショックを受けていた。
自分を救った上でそんな大技を放って、果たしてリオナは無事なのか、ミレーヌは不安そうな顔をしてしまう。
ソフィは察したのか、すぐにリオナの近況を付け加えた。
「リオナはエネルギーを使い果たしたけど、すぐにアイリ達が助けてくれたわ。今は近くの星で静養しているはずよ。」
それを聞いたミレーヌの顔に安堵の様子が見え、ソフィも少し顔が綻んでいた。
「ふふっ…安心した?それでは話を戻すわね…もう一つ問題があって、グルノアの体内ではトロン爆弾から吸収したエネルギーが膨張し続けているの…万が一地上で爆発したら、おそらく地球は無事では済まないわ…」
怪獣の強さだけではなく、別の問題まで発生していたことにショックを受け目を伏せるミレーヌ。
こんな状況で今の自分に何ができるのか…このまま他の戦士に任せた方がいいのではないか…そんな気持ちが胸中に去来してしまう。
そんな娘に、ソフィはそっと声をかける。
「ここまで頑張ったのだもの…誰かに任しても誰も文句を言う人なんていないわ…」
愛する娘が傷ついて帰ってきたことに、少なからず動揺していたのはソフィも同じであった。
ここで折れるなら、全力で私が守ろう…そう決意を決めていたソフィであったが、ミレーヌの決断は違っていた。
「お母様…あの星にはまだ私を信じてくれている人たちがいます…私に何かできるなら…まだ諦めたくないわ!」
もう心まで敗北していた自分を信じてくれた少年…
その期待に応えるためにも、このまま臥せってはいられない。
そんな表情で体を起こすミレーヌに、ソフィは今は亡き夫の姿を重ねていた。
「まったく…本当に誰に似たんだか…」
そういいながらも、優しい笑顔をミレーヌに向けるソフィ。
ミレーヌの覚悟を聞いたことで、ソフィはとある決意を固め、懐からアルティマティアラを取り出す。
それと一緒に一つのレコーダーをミレーヌに手渡した。
「これはリオナのお父さん…アルティマライオから預かったテープよ。
あなたが生まれる前だけど…もし女の子を授かって、その子が戦いに出ることがあれば…とこれを渡されていたの。
ティアラの性能調査で判明したことがあるけど、君には無関係だって…
どういう意味かと思ったけど、頼れる策は私にもこれしかないわ。
よかったら聞いてみましょう。」
リオナの実父・アルティマライオといえば、科学開発庁を発足させた初代長官として名高い、それこそ教科書にも載っているような人物…ミレーヌも尊敬する戦士の一人であった。
ソフィとは戦争時代に同じ隊で活躍し、その縁で亡くなった時にリオナを引き取った…
それくらいの家族ぐるみの付き合いがあることは知っていたものの、こんな時に名前を聞くとは思っていなかった。
「はい…それじゃ再生するわ、お母様」
意を決し、ミレーヌはレコーダーの再生スイッチを入れた…
「…これで撮れているかな…おほん…私の名前はアルティマライオ…正しくこれが再生されているとすれば、聞いているのは私の友人・アルティマケインとソフィの血縁者…ということになっているはずだ。もしそうでなければ、ここから先は聞いても無駄な時間になる。すぐにスイッチを切りたまえ。」
横で聞いていたソフィが吹き出しそうになるのを堪えているのが気になったものの、ミレーヌはライオの言葉に集中する。
「私はアルティマソフィの許可を得て、君の持つティアラの研究を行ううち、一つの隠された機能を発見した。しかし、私の時代の持ち主・アルティマソフィではその解放条件が満たせない…残念ながら研究は後学の諸君に任せようと思う。」
「全く…説明くらいしてくれてもよかったのに…」
少し寂しそうな顔で呟くソフィ。
現役時代、いつもクドクドと長い蘊蓄を聞き流していたバチがあたったかしら…
そんな思いがソフィの中で去来していたが、ライオの話は淡々と続いていった。
「さて、本題に入ろう。その隠された力だが、発動に必要な条件が3つ。
ひとつは光の星の皇族の血縁であること。もうひとつは戦闘タイプ…つまり体に赤のラインが入っていること…そして最後に、命の危機を複数回経験していること…だ。
ソフィは最初と最後を満たしているが、彼女は回復や知性に長けたブルー族。
よってこの力の発動はできない。おそらく発動に伴う大きな負荷に、戦闘に長けたレッド族の力がなければ耐えられないのだと推測される。」
「私は…全部満たしているわ…」
ミレーヌの口から自然と言葉が漏れた。
「それだけ、この力は制御・消耗等で使い手を選ぶのだと思う。
命の危機を経験しなければ発動しないのも、本当の危機にのみ使われるべきだからだろう。
これを聞いている君が、条件を満たしていたとしても、軽々にはこの力を使わない方が良い…研究者としては一度目にしておきたかったがね。」
少し冗談めかしているが、それだけ大きな力の解放になるのは、ミレーヌやソフィにも十分伝わっていた。
「あとは具体的なやり方と、運用方法だが…」
ここから小一時間、発動方法と効果以外まったく理解できない話が繰り広げられたが、ミレーヌの決意は固まっていた。
「お母様…私やるわ…この力ならグルノアの闇を祓い、地球を救うことができるはず!」
娘の目に希望が戻ったことに安堵すると同時に、再度危険な任務に向かわせることになることを一瞬逡巡するソフィ。
「わかったわ…気をつけて行くのよ…」
しかし、最後には笑顔で娘の背中を押すのであった…
グルノアがアルティマバーリヤから脱出するまであと数分…
地球人達が恐怖に怯える中、黒い霧を抜けて赤い光球が宇宙より飛来する。
光球の中からはグルノアに敗れ去ったはずのアルティマミレーヌが現れた。
「あっ、ミレーヌだ!大丈夫なのか…」
歓喜と心配・そして疑念の混ざった声が人々から上がる。
「くぅ…」
傷が癒えているわけもなく、ミレーヌも肩を抑えて辛そうな表情を浮かべた。
「まずはこの霧を晴らさないと…先代の皆様、力をお貸しください!」
祈るような表情から頭のティアラに手を翳し、中心の宝石に触れるミレーヌ。
するとティアラの中心に据えられた宝玉が眩く輝く。
「数多の光よ!我が身に集いて闇を祓え!チェンジ!『エンプレスモード』!」
アルティマティアラにあしらわれた宝玉には、それまでの持ち主のエネルギーが記録され蓄積されている。
そのエネルギーを自らの体に纏い、一時的に解放する…それが光の星の王族のみに使える『エンプレスモード』であった。
制御のためにはエネルギーの操作に長けている必要があるため、戦闘を得意とするレッド族にしか扱えないのではないかというのが、ライオの説であった。
ティアラの宝玉からは眩い光が走り、ミレーヌの体を彩ってゆく。
ティアラからはヴェールが広がり、エネルギーの奔流がエナジータイマーや腰回りをリボンで装飾していった。
光のエネルギーが溢れ出し、その身は太陽の陽光のように輝く。
「やったぁ!ミレーヌの完全復活だ!」
遠巻きに見守る群衆の中で、少女を連れて逃げた少年が歓喜の声をあげた。
新しい力を噛み締めるように、ミレーヌは集中する。
「アルティマスタッフ!」
ミレーヌの掛け声に合わせて、その手に身の丈もある杖が握られる。
その先端には鈴が付いていた。
ライオの解説では、この鈴は光の星の至宝・アルティマベルの力をリンクして引き出すことができる、とのことだった。
アルティマベルは触れることもできないほどの強大なエネルギーを秘めており、普段は光の星でも厳重に封印されている。
その力の一端を使用するためのフォーム…それがエンプレスモードなのである。
「輝け!アルティマブライト!」
杖を中心に眩い光と鈴の音が走り、周りを闇に閉ざしていたグルノアの霧を晴らしていく。
「やったぁ!霧が晴れたぞ!…ああっ!」
人々が喜んだ次の瞬間、アルティマバーリヤを破り、グルノアが姿を表す。
「グァアアア?!」
霧が晴れていることに困惑するグルノア。
蓄積されたトロン爆弾のエネルギーが限界に近づいているのか、グルノアの身体中から火花が吹き出し始めた。
「いけない!もう時間がないわ…アルティマバインド!」
ミレーヌがグルノアに向かって杖を振ると、怪獣の全身は光の玉に閉じ込められた。
「タァッ!」
そのままグルノアを抱え、宇宙へと飛んでいくミレーヌ。
2体の姿が見えなくなった瞬間、大きな光が空を包んだ。
ズガーーーンッ!
上空で巨大な爆発が起こり、光が空を明るく染めて行く。
グルノアの中で暴走したエネルギーが、大爆発を起こした瞬間であった。
「おおっ!怪獣の最後だ!」
グルノアの消滅にわく群衆の中で、少年が不安そうな顔を空に向ける。
「あんなすごい爆発でミレーヌは無事かな…ああっ!」
爆発の光の中から、ミレーヌがゆっくりと地上へ降りてくる。
ピコンピコンピコン…
エナジータイマーこそ点滅しているものの、まったく爆発のダメージのない様子に、自らも驚いた様子のミレーヌ。
「ハァッ…ハァ…すごい力…一度使うとしばらく使えないという話だったけど…無事に倒すことができてよかったわ…」
地上から上がる歓声の中に、自らを奮い立たせてくれた少年を見つけるミレーヌ。
「信じてくれる人がいる限り、私は命をかけて地球のために戦うわ!見ていてね、お母様、お姉さま…」
そっと少年へウィンクをすると、ミレーヌは大空へと飛び立って行くのであった。
終