対峙 (Pixiv Fanbox)
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時刻は19時48分。約束の時間には余裕で間に合った。
「ふぅー…」
第3トレーニング室の扉の前でゆっくりを息を吐きながら心を落ち着かせた。
これからふざけた真似をした犯人との交渉が始まる。交渉を有利に進めるためには毅然とした態度で臨まなければならない。どんなに不利な状況に陥っても決して弱みを見せてはいけない。感情的にならず冷静に。自分に言い聞かせるように脳内で繰り返す。
息を吐き終わって一呼吸してから第3トレーニング室の扉を開けて中に入った。そこには一人の女の子が立っていた。シンデレラプロジェクトのアイドルの一人、三村かな子だった。
『お疲れ様です、常務』
「あ、あぁ…」
呼び出しには役員の誰かが待っていると思い込んでいたので肩透かしを食らった気分になった。あまりにも普通に挨拶をしてきたので彼女がオムツを用意した犯人とは思えなかった。偶然ここを使っていた可能性もある。とはいえこちらから確認するわけにもいかない。どうするべきか考えていると向こうから声を掛けてきた。
『常務、プレゼントは気に入っていただけましたか?』
柔和な笑顔でそう言われたため一瞬何のことか分からなかった。しかし、言葉の意味を理解すると一瞬で頭が切り替わって怒りがこみあげてきた。
「あれは君の仕業か」
『プレイで使っていたものを用意したので使い心地は問題ないと思うんですけど何か不満でしたか?』
「そんなことはどうだっていい。あの写真をどうやって手に入れたんだ」
『それは秘密です。教えてくれた人に迷惑をかけるわけにはいきませんから』
「くっ……」
『でも意外でした。常務にこんな趣味があったなんて。好きなんですか? 赤ちゃんプレイ』
「き、君には関係ないだろう…」
『それもそうですね』
「そんなことより、君は何をしたのか分かっているのか?」
話が途切れた瞬間を見計らって話題を変える。ここからは正論で詰めていく。
『何をというと?』
「君がやったことは法に触れているということだ。脅迫罪や強要罪に該当するだろう。
『そうなんですね。そこまで考えてませんでした』
「写真を全て破棄して346プロを辞めるというのなら穏便にすませよう。そうでなければ問答無用で警察に通報させてもらう」
ここまで言ってもなお、かな子の様子に変化はみられない。追い詰められているはずなのになぜ平静を保っていられるのか。かな子に対して得体の知れない恐怖を感じ始めた。
『写真を破棄しないといけないのかぁ。もったいないな。せっかくSNSのアカウントを作ったのに』
「SNSのアカウントだと?」
『はい。せっかく作ったので見てみてください」
かな子はそう言うとスマホを操作し、表示されたSNSの画面を見せつけてきた。
「こ、これは……」
『今は表情を変えるアプリがあるんですよ。とっても便利ですよね』
画面を見て急激に危機感がこみあげてきた。こんなものが出回ってしまえば沽券に関わる。一刻も早く削除しなければならない。
「は、早くアカウントごと削除するんだ。そうすれば警察には…」
言い終わる前にかな子が話し始めた。
『このアカウントはまだ鍵アカなので一般公開はされてませんが、私の気分次第で鍵を外すかもしれませんよ』
あからさまな脅迫がきた。ここで怯めば事態の好転はない。
「公開したければすればいい。そうすれば私は君のことを警察に通報するだけだ」
『本当に良いんですか? もし公開すれば恥ずかしいだけでは済みませんよ』
「なんだと?」
『アイドルプロジェクトの刷新を強行しているせいで、常務の周りは敵だらけなんですよ。社内の人たちはみんな常務の弱みになることを必死で探しています。もちろん、シンデレラプロジェクトのみんなも同じですよ。自分の伝手を使って常務の弱みを見つけようと頑張っています』
「それがなんだというのだ」
『まだ分かりませんか? この写真が出回れば確実に社内の人も気付きます。そうなれば社内での信頼は無くなるでしょうね。それだけで済めばいいですけど、346プロダクションの品位を貶めたとして不信任案が出るかもしれませんよ。そうなれば役員を解任されて会社から追い出されますよ。それでもいいんですか?』
「そ、それは……」
写真が拡散した場合に起きる最悪の事態。オムツを用意した犯人を役員の誰かだと考えていたので不信任決議からの解任までは想定できていた。だからこそ犯人と交渉するために手紙の内容を全て遂行してこの場に来たのだ。
『常務のことなのでそれを分かっているからここに来たんですよね? 仮に写真が出回っても良いというのであれば朝の時点で警察に通報しているはずですから』
「ぐっ……」
考えていたことを全て言い当てられて言葉が出ない。
焦りと緊張によって冷汗が流れ出した。動揺を表すように呼吸が浅く早くなり、瞬きの回数が増え、脚が震え始める。
その様子を見て内心を見抜いたのか、かな子が満足そうに微笑んだ。
『置かれている状況が分かったみたいですね。それじゃスカートとストッキングを脱いで今日1日着用していたオムツを見せてください』
こうなってしまうともう言いなりになるしかなかった。無言でスカートとストッキングを脱いでいく。
『あれ? 思ったより濡れてませんね。今日は何回お漏らししたんですか?』
「に、2回だ……」
『たった2回!? もしかしてお漏らしの回数を減らすために水分を控えたんですか? そんなことしたら健康に良くないですよ。脱水って結構怖いですから。それにしても2回…2回か……』
ふと、かな子が何かを考え始めた。そして何かに思い至ったようで楽しそうに笑っている
『常務、今オシッコを我慢していますよね?』
突然正鵠を射た質問をされたせいで動揺を隠しきれなかった。
最後にオシッコをしたのは5時間程前。いくら水分を控えていても体の代謝によって尿は作られる。限界というほどではないが尿意が高まってきているのは事実だった。
動揺した様子を見てかな子は質問が正しいと理解したようだ
『せっかくなのでそのままお漏らししてください。オムツをしているのに我慢なんてしないでください』
「そ、そんなすぐには…」
『早くしないとアカウントの鍵を外しますよ』
「待ってくれ、分かった。分かったからアカウントの鍵を外すのはやめてくれ」
観念して括約筋の力を抜いて下腹部に力を入れていく。立ち姿でオシッコをするのに慣れていないのと所属アイドルに見られているという緊張感のせいでオシッコはなかなか出てこなかった。それでも息み続けると少しずつオシッコが出始めた。一度出てしまうと堰を切ったように勢いを増してオムツの中に広がっていく。水分を控えたせいでオシッコが濃くなっているようで、尿道にジリジリとした熱を感じた。
オシッコを全てを出し終わると緊張が解けてどっと疲れを感じた。しかし、その疲れとは裏腹にオムツプレイのときのような恍惚とした気持ちが下腹部から広がっていった。耐え難い屈辱と羞恥に満ちた行為にも関わらずある種の快楽を感じていた。
『たくさん出ましたね。水分を控えていたからオシッコの色も濃くなったんでしょうね。オムツがすごくきれいな黄色になってますよ』
所属アイドルにオムツ姿やお漏らしだけでなくオシッコの色まで指摘されて恥ずかしさで体が震える。
「これで満足か…」
『そんなわけないじゃないですか。まだまだこれからですよ』
「これから?」
かな子の言葉に引っかかりを覚えた。これからということは何か目的があってやっているはずだ。そういえばかな子がどういう目的でこんなことをしてくるのか聞いていない。
「君はなぜこんなことをするんだ? シンデレラプロジェクトの継続が目的というのであればこれ以上のことは必要無いはずだ」
『あぁ、説明がまだでしたね。常務は緒方智絵里ちゃんをご存知ですか?』
「CANDY ISLANDのメンバーの一人だろう。現在は病気療養中と聞いているが」
『誰にも言ってないんですけど。智絵里ちゃんは今私と一緒に住んでるんですよ。ほら、これを見てください。とっても可愛いですよ』
そう言ってスマホを操作して表示させた写真を見せてきた
「これは……
『智絵里ちゃんのことが好き過ぎて、我慢できずに私好みに調教しちゃったんですよ』
写真の緒方智絵里が演技やコスプレをしているのではないというのがすぐに分かった。嫌がる様子もなく本当に幸せそうな顔をしていたからだ。
『それでですね、あるとき常務にこっち系の趣味があるということを知ったんです。そのときに思ったんです。うまくいけばシンデレラプロジェクトもうまくいくし、智絵里ちゃんにも遊び相手ができるんじゃないかって』
「まさか君の目的は…」
『はい、常務には赤ちゃんになってもらいます。勘違いして欲しくないので先に言っておきますが、赤ちゃんになるっていうのはごっこ遊びやプレイじゃありませんからね』
赤ちゃんになってもらう。予想外で非現実的な要求に頭が理解を拒否しているのが分かった。しかし、ここまでのことをしておいてこの要求が嘘や冗談ということもないだろう。これから何をされるのか。どれだけ考えてもまったく想像できなかった。
続く
テキストやら差分やらを作っていたら予想より時間がかかってしまいました。この後常務はどんな目に合わされるのか。次回をお楽しみに!
前回
望まぬ贈り物
「なんだこれは?」 朝出社するとデスクに何かが置いてあった。A4サイズほどの封筒で厚さは5cmほど。表には『美城常務へ』と書いてある。 「企画書にしてはずいぶん厚いな。いったい誰が…」 持ち上げてみると大きさのわりに随分と軽く、そして柔らかった。封筒の中身はどう考えても企画書のような書類ではない。...