時を越えて (Pixiv Fanbox)

「お久しぶりです。

＿＿＿＿＿先生。」

暗闇を四角く切り取るリング。

浮かび上がるシルエットに声をかけた。

『WJB全日本選手権。女子フェザー級の頂点を争うこの二人。

挑戦者の新井スズは、プロ2年目にして躍進を遂げた新星です。

そしてなんと驚くことに･･･

小宵の現王者である高崎藍の高校教師時代の生徒･･･だったとのことです！

まさかの師弟対決となったこのリング、因縁渦巻くベルトは一体誰の手に！？』

「久しぶりね、スズ。

まさかあんなに頼りなかった貴方が･･･

こんなに逞しく、いい目をする女性に育つなんて。教師冥利に尽きるわ。

本当に嬉しい」

初めて会った時と同じ、その優しい目が＿＿

一瞬で色を変えた。

「でも、今日は、、、

先生と生徒じゃない。一人のボクサーとして相手してあげる。

後悔しないで頂戴。・・・貴方が望んだことよ」

美しい腹筋。鎧を纏ったような丸い肩。しなやかで機能的な上腕。

赤グローブがリングの光を吸い、鉛のように鈍く光る。

私を打ち、殴り倒すために最適化された肉体。

そこには、毅然として敵意を向ける一人の冷酷な拳闘士がいた。

ああ。

あなたは本当に優しい人。

私がこの時をどれほど焦がれていたか。

本当によく分かっている。

本気のあなたと闘える、その恐ろしさと嬉しさで震えが込み上げる。

ずっと待っていた。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

先生に初めて会ったのは16歳の頃だった。

新人の体育教師として私の高校に赴任してきたあの春。

あの頃はまだプロボクサーじゃなかったですね。

「新井、お前良い肩してるな。

＿＿＿＿ボクシングやってみないか？」

私が唯一得意だったソフトボール投げ。

当時、体型にコンプレックスを抱えていた私は軽い気持ちで部室に通い始めて。

毎日通えばそこそこ上達するもので、体型をバカにする男子もいなくなった。

練習後の部室で、、、よく先生の試合の録画を見せてくれたものだ。

熱く語る先生。

画面の先生はすごく強くてかっこよくて、

こっそりダビングしてコンビネーションを真似していたものです。

初めての試合で決まった時は本当に気持ちよかった。

KOした私より嬉しそうな先生を見て、説明のつかない強い感情を覚えたのが忘れられません。

その顔が見たくて、、私は絶対に負けなかった。誰が相手でも。

先生をスパーリングに誘ったのは、卒業の迫った冬。

私から誘うのは初めてで、先生はびっくりしてたっけ。

ヘッドギアを付けて二人だけの部室で打ち合う。

本気で闘う私を、終始圧倒する先生。

でも、私には痛いほど分かりすぎてしまった。

「どうして、、本気で闘ってくれないんですか。。。」

少し驚いた顔をして、ふっと微笑む。

「バカね。」

その2週間後に、先生は学校を辞めた。

卒業式にも顔を見せてはくれなかった。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

本当にバカだ。

学生の私に対して、大人の女性。ましてやプロボクサー。先生と生徒。

先生の目には、私はただの一人の子供にすぎなかったのだろう。

そんな私を、本気で相手してくれる訳がない。

対等な立場でリングにたてるわけがない。

それでも、、、

一人のボクサーとして私を見て欲しかった。

わかっていたけど、諦められない。

貴方が大好きだから。

空っぽな日々を埋めるように、大学へ進学して、より一層ボクシングに打ち込んだ。

一人のボクサーとして見て貰う。認めてもらう。

そんな単純な思いだけで私には充分だった。

新聞に載る貴方の笑顔を見るたび、

手を伸ばすたびに、先へ遠くへ行ってしまうように感じた日々。

もう二度と手が届かないんじゃないか、そう思って眠れない日もあった。

けど。

やっとここに立てた。

本当に長かった。

『シィッ！』

バスッッ！！

『おおーっと！また被弾！

新井がリードする展開が続きましたが、前回のラウンドから高崎が巻き返しています！

強打をモロに受けた新井、効いている！』

強い。

本当に、強い。

これが･･･この人の本気の拳なんだ。

ほんの一発で絶頂を迎えてしまいそうになる。

凄まじい威力で目に火花が飛び散り、マウスピースが口からこぼれそうになる。

でも。

全身が燃えるように痛む、そんな中でも･･･

喜びに打ち震える自分がいた。

先生が、全力で、全身全霊で私を倒そうとしている。

先生の目には、きっと一人のボクサーである私が映っているのだろう。

やっと貴方と同じリングに立てたんだ。

対等なボクサーとして。

顔を腫らした先生が不敵に笑う。

「ほら。どうしたの？

もっと打ち合おうよ。スズ！」

やっぱり、思った通り。

先生のパンチは、どんな誰よりも力強く。

そして優しかった。

↓差分

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投稿休みがちですみません。

いつもご支援ありがとうございます。

黒グローブってやっぱりエロいなー

全裸差分は義母vs嫁の真夜中の花嫁修行みたいなストーリーにしたかった･･･