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「待ってな、治。

姉ちゃんが、ベルト持って帰ってきてやっから!」



試合前の控え室で、着替えを終えた姉ちゃんが自信満々に言い放った。


長靴みたいな赤いシューズに、両手の丸い赤グローブ。


そして蛍光灯に照らされたおっぱい。


プロのボクシングなんだから男も女も上半身裸は当然だ。

しかし普段見慣れない、血の繋がった家族のその姿は、

俺にとって毒だった。

気恥ずかしくて直視できない。


「バカ。何赤くなってんだよ」


飄々とした様子で俺に軽くジャブを繰り返し出す。

試合前とは思えない、いつも通りの姉の様子に呆れを通り越して感心した。


「っしゃ!ボコボコにするぞ〜」


昔から男勝りに度胸があって、力のある姉。


運動神経が良く、男子に混ざってあらゆるスポーツをしていた。

ある日突然ボクシングを始めるなんて言い出した時はびっくりした。


その一週間後、ボクシング部の主将を打ち倒した時も驚いたけど。

まさかわずか3年で海外のチャンピオンへの挑戦権を獲得するとは。

本人には決して言わないが、才能に満ちた自慢の姉だ。


今日の相手は海外の有名なチャンピオンで、今日が三度目のボウエイセン。

若い姉よりもさらに二つ下の年齢で、まさに天才。

巷では冷徹なボクシングマシーンなんて呼ばれていて、過去、何人もの対戦相手を再起不能にしたらしい。


でも何故だか、姉が負ける姿は想像できない。


最強を決めるリングに登場し、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる姉。

『かわいいー!!』

観客の声援に気を良くしたのだろう、

赤グローブでウサギのポーズを取り、ご機嫌な姉。


対照的に、リングの反対側のチャンピオンは試合前とは思えないほど静かだ。

微動だにせず、横目で無関心そうに姉を見ていた。

これから闘う相手とも見ていないような。

緊張も、侮蔑も、闘いの興奮も、その顔からは何も感じない。


薄寒さを感じたことをよく覚えている。


_______________________


試合序盤から勢いよく相手に飛びかかった姉。

シャープなジャブに強打のストレートを混ぜ、

相手を翻弄し、2R に見事なクリーンフックでダウンを奪った。


いける。

手に汗を握り、歓喜の声を上げる。


流れが変わり出したのは5R。


相手の動きが明らかに違う。

静観をやめ、アグレッシブに拳を出す相手。


攻勢だった姉の手が止まる。


拳を出せばすぐ相手にカウンターを合わされる。


「っかし〜なぁ」


新たに流れ出した鼻血を拭ってもらいながら、姉が緊張感も無く頭をかしげる。




前ラウンドの負けを取り戻すかのように強打を繰り出す姉。

しかし、全て計算していたように、相手がカウンターを合わせる。


バシッ!!

バシーン!!


「ぶっ」


顔面を何度もぶっ叩かれた姉がたまらずダウンした。

その様子を喜ぶでもなく、淡々とコーナーに帰ってゆく相手。


「なんやねん、あいつ、、、っ

ほんま腹立つんだけどっ」


興奮を抑えられず、姉が吠える。

顔の腫れがみるみる酷くなり、目が塞がり始めている。まずい。


「落ち着け姉ちゃん!」


序盤のキレのある動きは見る影もなく、雑になる動き。

そんな姉とは対照的に、ますます速さが増し、

無駄がなく、機械的にパンチを打ち続ける相手。


バシッバシッ!!

バシーッッ!!


フックが、ストレートが、ワンツーが。


姉の動きに最適化されたパンチが、

的確に顔を打ち、グローブの形に醜く歪める。


こんなに苦戦する姉なんて今まで見たことがない。


5R目までは相手の方がボコボコだったのに。

わずか3Rで姉はそれ以上に打ちこまれてしまった。


ドスッッ


身体が浮くような、突き上げる衝撃。

肋骨が軋み、内臓の悲鳴が聞こえるようだ。


「ん゛っ」


リングの上は、もはや姉を打つ音しか聞こえない。

_____________________


10R。

ふらふらとコーナーに戻ってきた姉。

セコンドの介助により、ドカっとコーナーに倒れ込むように椅子に座る。

自力で立つのがやっと。


首が座らず、両目が腫れ、視界は0に近い。

全身に細かい傷が浮かび、激しく口で呼吸をしている。苦しそうだ。

コーナーで項垂れた姉に大声で呼びかける。

声に気づくと、こちらを見て微かに笑ったようにみえる、が果たしてそうだったのだろうか。


「試合・・・最後までやらせな・・・

あんなやつにKOなんて、、絶対に嫌・・・」


セコンドのお兄さんが黙ってワセリンを腫れた頬に塗り込んでいた。


11ラウンド開始。

試合は終盤を迎えていた。


ふらふらと相手にファイティングポーズをとり、近づく姉。

誰がみても明らかに勝敗は決していた。

それにもかかわらず、相手は満身創痍の姉に容赦のないパンチを繰り出す。


ただ相手がいるから殴る。まだ立ってるから殴る。

ボクシングだから殴る。


そんなロボットのような表情で激しく姉を打ちのめす。


バシッバス!

バシッ!!


パンチが何度も姉の顔面を打つ。

足の踏ん張りが徐々に失われ、足のふらつきがおおきくなってゆく。


「ぁン・・・」


「ねぇちゃん!!」


これでもかとワセリンの塗りたくられた顔面を狙い澄ました、

血と汗が染み付いたグローブ。

バシィン!!!




クリーンヒットが、姉の顔面をしばき飛ばす。


「は、春子・・・っ」


父親が小さく、悲鳴のような声を振り絞る。


ダァン!


激しく脳を揺らされた姉は、

一瞬の間の後、膝の力が抜け落ち、後ろ向きにキャンバスに倒れる。

腕をぶらりと万歳するように振り上げ、

股をだらしなく広げた姉。


『ウォオオオオオオ!!』


会場から歓声が湧き立つ。


「担架!」


勝利に湧くセコンドをよそに、

相手の少女は殴り倒した姉を無感動にじっと見つめていた。

歓喜も、愉悦も感じられない。


こちらの強い視線に気付いたように、対戦相手が俺を向く。


俺と年齢がさほど変わらない少女。

ぼーっと虚な表情で俺から目を離さない。

こんなやつに姉が・・・


殴りかかってやりたいほどの怒り。

こんな俺じゃ相手になんてならないだろうが。

こいつのボクシングの才能は本物だ。


でもいつの日か・・・姉の仇を取ってやる。

正面から、正々堂々、こいつを殴り倒す。



姉の顔は

姉はボクシングを辞めるだろうか。

担架で運ばれる姉に付き添いながら俺は会場を後にした。











差分



いつもご支援ありがとうございます。


テイストをちょっと変えて描いてみました。

新しい絵柄ってなんだかいいですね!ラフ描いててドキドキするの久しぶりでした。


今後も、新しい絵柄にどんどんチャレンジしていきたいですね



話は続くように見えて続きません。ごめんなさい!



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Comments

TOM

>話は続くように見えて続きません てっきり弟さんとチャンピオンとの濃厚なMIXファイトが待ち構えてるものかと…

tarupo789

酔った勢いで考えたストーリーなもので・・・! 続かないと言いつつも筆が乗ったら描きたいですね!濃厚mixボクシング!!

ジェネラルAA

ほんとにドキドキするストーリーと素敵なイラストをありがとうございます!

natsulucy

Awesome intense match wonder if the story would continue with a revenge match for her sister