八木戸マトが商業に挑戦しない理由 (Pixiv Fanbox)
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皆さまお久しぶりです…!
前回の投稿からまたこんなに時間が経ってしまいました…。
今回のテーマは私、八木戸マトが商業に挑戦しない理由
となります。
か…かなり物議を起こしてしまいそうなテーマですがこれは商業は駄目だとか、良くないとかそういう事を言っているわけではありません。商業には商業のたくさんのメリットが存在します!
先に結論を書いておきますと、『八木戸マトが商業に挑戦しない理由』というのは『商業で単巻10万部を確実に超える自信がないから』になります…!
なぜ単巻10万部?確実に10万部は超えられないって漫画はエンタメ業界なんだから当たり前じゃないか?との意見が飛び交うかもしれません。
しかし私にはこう結論づけた理由があります。
今は個人活動で単巻5~8万部程度相当の売り上げを出すことが可能な世界になりつつあるからです。事実、現在私は単巻8万部相当の売り上げを個人活動のみで出せるようになりました。その詳細を以下に書いていきます。
個人活動主体の漫画家は如何にして売り上げを出しているのでしょうか?今はSNSなど様々が媒体が存在し、その収入経路や手段が多岐にわたります。
・ファンティア、FANBOX等の支援サイト
・ツイコミでの広告収入
・Kindleインディーズの報奨金
・ナンバーナイン等の仲介からの多岐にわかる電子版販売
・紙同人の委託販売(メロンブックス、とらのあな)
・紙単行本
・(FANZA、DLsiteでの成人向け電子販売)
・・・etc
現在の漫画業界というのは取次があまり機能を果たさなくなりつつあり、流通においても個人活動で商業流通に流せるルートも存在するなど、これまで商業だけが持っていた役割をある程度までは個人で賄えるようになりました。
自分は上記に挙げた数々の手段に一通り触れているのですが、どれも一定以上の成果を出しています。(ファンティア、FANBOXはあまり触れられていません…。)
実例として自分の収益を出してみます。
・ファンティア、FANBOX等の支援サイト
ここはあまり更新もできておらず準備中なので月数万程の収入です。
・ツイコミでの広告収入
ツイコミというは自動でTwitter上の4p漫画などをツイコミサイト上に転載し広告収入を得ている所です。今年からそれは流石に不味いだろという事で作家にその広告収入を還元するようになりました。
本当にこれは人それぞれですが自分は月10万ほどの収入になっています。(自分はかなり多い方だと思います…。)やはり更新頻度が高い方が多いみたいです。
・Kindleインディーズの報奨金
Kindleインディーズと聞いて馴染みのない方も多いかと思います。簡単にいうと0円で読める無料のkindle漫画です。個人でも作品登録ができ、基金プログラムに参加することでその月に読まれた合計ページ数に応じた報奨金がもらえます。大体今では毎月の報奨金は750万程、報奨金を1pあたりに換算すると1pあたり0.2円ほどになっているようです。自分の場合はつい最近4p漫画まとめ本(127p)を出しまして、現在5万DLほどされています。収益としては127p×0.2円×50.000DL=127万程になります。これはなかなか無視できない結果だと思っています。自分以外の漫画家さんでは安定して月20~30万の売り上げを出している方もいらっしゃるそうです。
・ナンバーナイン等の仲介からの多岐にわかる電子版販売
ここは本当に人それぞれだと思います。ナンバーナインさんにお願いすると電子の印税率が約30%になる代わりに、100店舗以上の電子販売サイトに作品を出してくれます。個人のみでやりたい方は印税率70%のKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)で値段をつけてKindle専売で電子版販売を行っています。これはどちらが良いかと言われるとどちらにもメリットデメリットがあり、作家達の間で結論は出ておりません。
自分の場合ですが、
自分はナンバーナインさんにお願いして印税30%で『就活失敗したサキュバスさんを拾いましたシリーズ』、『300年封印されし邪龍ちゃんと友達になりましたシリーズ』をKindleをはじめとしたさまざまな電子販売サイトに流しています。具体的な売り上げは大体単巻5000~6500部となります。大体それぞれ300円で販売しているので、こちらに入ってくるのは約100円になります。こちらも月ごとの収入で考えると結構なものになります。
・紙同人の委託販売(メロンブックス、とらのあな)
こちらは昔からある定番の販売手段です。今はコロナ等でイベントが出来なくなり、ユーザーの購買意欲が激減している為全体的な売り上げも落ちています。それでも紙同人一巻辺り2000部は出るので毎回80万程の収益は上げています。
・商業流通での紙単行本
今は商業の方も個人に歩み寄ってくれて、電子は個人に任せてくれた上で紙の単行本だけ商業流通でお願いする、というモデルが出来つつあります。初版は大体1万部なので重版されなくても100万程は入ってくることになります。
・FANZA、DLsiteでの成人向け電子販売
ここでは一般漫画家と仮定してお話をしているのであまり記述しません。ただ色々触ってみた結果やはり金銭的に一番効率が良いのは成人向けで間違いないです。ファンティア、FANBOXも同様です。
話をまとめます。結果的に自分の場合は今年で年間の収益で考えると
・ファンティア、FANBOX等の支援サイト『30万』
・ツイコミでの広告収入『40万』
・Kindleインディーズの報奨金『120万』
・ナンバーナイン等の仲介からの多岐にわかる電子版販売『100万』
・紙同人の委託販売(メロンブックス、とらのあな)『500万』
・紙単行本『まだ出してない為0』
・(FANZA、DLsiteでの成人向け電子販売)『800万』
まだ11月時点での集計なので上振れはありますが大体合計で1590万程になります。個人活動でやっていくならFANZA分を抜いても約800万なので十分だと思われます。まだ様々な所で手を付け始めたばかりな所もあるので今後も大幅な成長が見込めます。
つまりここから言いたいことは、個人活動でも割と食っていける方法がたくさんある、ということです。勿論個人の能力ややり方によって上に挙げた手段の中では適さないものがあるかもしれませんが、一つぐらいは出来そうなものがあるかと思います。
ここで話は本題に移ります。
Twitter漫画家で商業漫画家にせまるぐらいに稼げる例もあることがわかったが、これはあくまで1例であり、特例なのではないかということです。
正直そうでもしれないです。自分のやっていることはあまり再現性がないかもしれません。なので下に例を挙げながら比較してみることにします。
【週に4p描くTwitter漫画家と週に19p描く商業週刊漫画家の年収】
両者のスペックは以下とします。
●週に4p描くTwitter漫画家:
・2か月に一回、36p(300円)の電子書籍を個人出版、単巻5000部(←これは現実的に可能な数字です)(年6冊)
・電子書籍出版と同時に紙同人をメロン、とらに委託(単巻2000部とする)
・年1,5冊紙単行本(Twitter漫画まとめ単行本は大体B6サイズなので640円)を出版(単巻2万部とする)
・4p漫画の毎週先読み特典によるFANBOX支援(月20万とする)
●週に19p描く商業週刊漫画家:
・単巻(450円)10万部、年4冊単行本
<週に19p描く商業週刊漫画家の年収>
原稿料(1p1万とする):10000万/p×19p/週×4週/月×12月/年=9,120,000円
単行本印税:450円×0.1(印税率)×4(冊)×100,000(部)=18,000,000円
アシスタントは大体週刊19p連載だと4人で週3勤務、日給1万だそうです、なので
経費:4(人)×3(日)×4(週)×10000(日給)×12(月)=5,760,000円
よって年収は9,120,000円+18,000,000円-5,760,000円=21,360,000円
<週に4p描くTwitter漫画家の年収>
電子書籍印税:300円×0.3(印税率)×5000(部)×6(冊)=2,700,000円
紙同人収入:500円×0.5(手数料、印刷代)×2,000(部)×6(冊)=3,000,000円
単行本印税:640円×0.1(印税率)×20,000(部)×1,5(冊)=1,920,000円
4p漫画の毎週先読み特典によるFANBOX支援:200,000円×12(月)=2,400,000円
週4pはアシスタントなしでも可能なので省きます。
よって年収は2,700,000円+3,000,000円+1,920,000円+2,400,000円=10,020,000円
あれ…?と思ってしまいませんか?
命をけずって懸命に週19p描かれている漫画家さんの年収と、週4pで堅実に更新しているTwitter漫画家の年収差はたったの2倍でとどまっているんです。
<週に4p描くTwitter漫画家>の例に挙げたスペックは現実的に不可能なものではありません。Twitterのフォロワーが10万以上で、かつ毎週更新をかかさず行いブランディングを高め、自分が列挙した手段を網羅している漫画家さんであれば可能な数字です(本当はこれをこなしていくのはめちゃくちゃに難しいです…ですが週刊連載のハードルに比べたら容易く思えてしまうのが怖い所です)。
・・・じゃあ週8p描いたら?
そうです。
単巻10万部の週刊連載漫画家の年収とほぼ並んでしまうんです。
さらに実を言えば上に挙げた週に4p描くTwitter漫画家の条件は弱めに書いています。本当は電子書籍印税は個人だけでやるならKDPで印税は70%だし、ナンバーナイン等の仲介にお願いしたら個人連載でのストックが溜まっていけば個人でもピッコマ、めちゃコミ、LINEマンガなと展開先が格段に増え、それぞれからの定期収入も発生したりします。この先も個人活動をしていく上で将来性のある手段はさらに増えていくでしょう。
【週に4p描くTwitter漫画家の年収】と【週に19p描く商業週刊漫画家の年収】を年という時間の尺度で上記では比較していました。では今度はページ当たりの単価について考えてみましょう。
<週に19p描く商業週刊漫画家>
年に描く原稿のページ:19p×4(週)×12(月)=912p
結果的なページ単価:21,360,000円(年収)÷912p=23,421円/p
<週に4p描くTwitter漫画家>
年に描く原稿のページ:4p×4(週)×12(月)=192p
結果的なページ単価:10,020,000円(年収)÷192p=52,187円/p
自分もこの結果には本当に驚きました…。単巻10万部の商業漫画家のページ単価の実に2倍以上のページ単価となっているんです。これは個人活動の可能性と時代がいかに移り変わってきたかを示唆していると考えています。
勿論例に挙げた<週に4p描くTwitter漫画家>は実現不可能ではありませんが、こなそうと思うと相当なハードルがいくつも存在します。今ではTwitterの引用RT問題などでさらに逆風となっています。Twitterアカウント開設初期はどうしても外部のインフルエンサーに拡散をお願いする他なく(これは一人で地道でやろうとすると数年は確実にかかります、自分はそうでした)、ある程度のフォロワーを積み重ねた後もTwitterで漫画を読む読者層をよく理解して高頻度でかつ特有の描き方で漫画を更新していかなければなりません。ある意味ではTwitter漫画家は商人的な目線が強く純粋な漫画家とは言えないのかもしれないです。
しかしそれ以上に立ちはだかってくるのが商業単行本10万部突破という壁です。
漫画を確立論で話すのは良くないことだと思いますが、週刊少年誌での新連載が10本あったとして、その中で単巻10万部を超えるのはどのぐらいと言われているか知っていますでしょうか?
答えは1本だけです。
週刊連載というのはやはりコストが高いため、打ち切りラインは高く、連載会議(今はほとんど編集長がOK出すかどうかだけ)を通す難易度も他誌と比較して桁外れです。その激戦を勝ち抜いた先が10本の中の1本なわけです。恐ろしい世界です。自分も実は某誌の週刊連載に挑戦しようとしたことがありますが、自分の実力不足と様々な背景により断念しました。
自分では確実に単巻10万部を超えることはできないと思ったからです。
むしろ現状で連載されている週刊漫画家の方々は絶対に超えてやると絶対的な熱意と夢を持って挑まれている方がほとんどなのだと思います。それは自分には途方もなく眩しく、同時にこんなに素晴らしい作家さんと競うなんで出来るわけがないと思ってしまいました。
やはり商業連載、メディア化、アニメ化は夢があります。希望があります。
ここまで色々描いてきたとおり、今は無数のキャリアプランがあります。なので作家のモチベーションは本当に多様性に富んでいます。夢を追うのは本当に素晴らしいことだと思います。
ただ週刊連載に挑み、心身ともに削り切ってしまって漫画家としてどうやっていこうか悩んだりすることもあるかもしれません。そんなときはこんな記事とかもう少し周りに目を向けてみて、漫画家としての生きていき方って本当に何でもいいんだと思って頂けたらいいなぁと思います。週刊連載をこなしていける程の地力があれば、もし個人活動でやるべき事をやれば自分なんぞよりもはるかに結果を出せるに違いないです。
ほんとにだらだらと書いてきてしまいましたが、結論としては漫画家としての生き方とかやり方はほんと個人の思うようにやってよくて、色々できるんだって事を知って頂きたいです。
ありがとうございました!