Home Artists Posts Import Register

Content

「同じ痛みだからわかる事」



これは、開校記念日で真梨香と唯が外出していた時に起きたお話である。


瀬里亜「―――あいでででで!!???」



神奈川県の、中学校。

そこで一人、どっかで見たような茶髪の女子中学生が悲鳴を上げていた。



サチ「瀬里亜、また痛むの?」

瀬里亜「う、うん、ごめん大きな声出して。」

イコ「だったらさっさと医者いって来なよー。」

瀬里亜「医者……。」



昼休み。

給食というものすごく懐かしい響きと共に、瀬里亜はクラスメイトとともにお昼休みにいそしんでいたのだが。

彼女、今。



サチ「虫歯なんて、ねー。」

イコ「ねー。」



・・・虫歯なのだった。



サチ「さっと言ってパッと治してきなよー。」

瀬里亜「・・・。」



長い髪を二つにまとめているお友達から、さらっと一言。



イコ「あ、でもきっと、ドリルでぎゅーんって。」

瀬里亜「だから行きたくないんすよー!」



ショートカットなもう一人のお友達が、けらけらとからかって。

瀬里亜は、痛みと恐怖による涙を流していた。



・・・そして、あっという間に放課後。

瀬里亜の顔は、ちょっと見れば目立つくらいに腫れていた。



サチ「でも、これで三日だよ?」

イコ「冗談抜きに、そろそろ真面目に治療した方がいいんじゃないの?」



昼は冗談交じりに言っては見たが、見るからに痛そうといった具合に友達二人が言う。

この二人が、本編第8話や第14話でちょろっと顔出ししていた、瀬里亜の友人だ。

なんだかんだ心配してくれて入るみたいだが……。



瀬里亜「うう……。でもなぁ……。」



もしこのことが、医者ではなく『あの人』に知れたら。



―――瀬里亜さぁん。そんなことになっていたんですかぁ?医者の卵として、それは放っておけませんねぇ……。―――



瀬里亜「そうそう。こんな風にきっとあたし、ひどい目に合う―――。」



そう言い放った刹那。

さっきの言葉、えらくクリアに聞こえたなぁ。

まるですぐ近くに本物がいるみたいに。



・・・本物?


左右の横並びで歩いていた友達二人が、ピタッとと止まっていた。

まるで、芸能人か何かを見たかのごとく。



サチ「え、瀬里亜、この人誰?!」

イコ「すっげー、スッゲー美人!?!」


スッゲー美人。

そして、スッゲーおっぱい。

そんな人、そうそういるものではいない。



瀬里亜「    」

理沙「うふふ、ごきげんよう。」



瀬里亜の目の前に、


理沙がいた。



・・・。



イコ「それじゃあ、理沙さんは神奈川に遊びに来てたんですか。」

理沙「ええ。」

サチ「でも、どこで瀬里亜と知り合いに?」

理沙「神奈川での怪獣騒ぎの時、ちょっとね。」



友人を伴って、理沙は瀬里亜と喫茶店へと出向く。

理沙さん笑顔、超笑顔。


わかってない人からすれば、とびっきりのスマイルだが。



瀬里亜「――――!!!」



瀬里亜、見えないところで太ももの辺りをつねられてる。

超つねられてる。



瀬里亜(怒ってるっス……、理沙さん、めっさ怒ってるっス!!?)



瀬里亜は歯の痛みと足の痛みで、涙を流していた。



イコ「じゃあ、あたし達はこれで。」

サチ「じゃあね、瀬里亜。」

瀬里亜「え、あ、ちょ、もう少しいだっ!?」



理沙の指が、一段と強く一撃。

瀬里亜の懇願は、痛みの悲鳴によってかき消された。



理沙「・・・さて。」



後輩のご学友を笑顔で見送って、彼女が一言。

瀬里亜の背筋に、ダイヤモンドダストが降り注いだ。



理沙「どうして黙ってたのかなぁ?」

瀬里亜「え、あ、あの、その……。」

理沙「不摂生はいけないって、言ったのに。」



そう言って、理沙はちょんと瀬里亜の顔を小突く。

今の瀬里亜はそれでも、かなりの衝撃だった。



瀬里亜「え、えっと、その……。最近夜に電話しながらお菓子を……。」

理沙「食べるのはいいけど、ちゃんと歯を磨かないと……。」


そう言って。

理沙の手が、顔から頭へと移動して。



瀬里亜「理沙、さん・・・。」



くしゃっと、撫でられた。



瀬里亜「お、怒らないんすか?」

理沙「怒りたいのは山々だけど。」



そう言って、理沙はちょっとばつの悪そうな顔だった。



・・・。



瀬里亜「ヱ――――――――――――!?」




数秒後、瀬里亜の絶叫が街中に響く。

ついでに自分の口内にも響いて、痛み倍増。



瀬里亜「理沙さんも歯医者嫌いなんすか。医者の娘なのに。」

理沙「ええ。あの薬品のにおいと、ドリルの音だけは慣れなくて……。」



ついでに、歯医者と内科は違うよ、と理沙は付け足した。



理沙「私も子供の頃は、歯医者が怖くて怖くて。」



『痛い、でもヤダ、歯医者なんか行きたくなーい―!!』

『わー!やだ、やだ!ドリル怖い、お母さああああああん!!!』

『左手上げた!上げたのに、あひゃああああああ!!!』



理沙「・・・。」



理沙の顔が青ざめ、一瞬ぶるっとした。

そんな彼女を見て、


(彼女も人の子っすか……。)



と瀬里亜はよくわからない感想を漏らしたという。



理沙「だから、瀬里亜さんの気持ちもわかるけど。」

瀬里亜「やっぱいかなきゃ、ダメっすよねぇ。」

理沙「そうよ。虫歯で痛がってちゃ、エクセルガールの名が廃るわよ?」

瀬里亜「そう、っすね……。」



瀬里亜は一瞬うつむき、そして。



瀬里亜「よし!」



顔の、晴れてない左側を叩いて。



瀬里亜「あたし、今から歯医者行くっス!」

理沙「ええ。」

瀬里亜「よーし、この気合が続いてるうちに、レッツゴー!」



どっかーん。


瀬里亜の「ごー」に被るかのごとく、背後に広がる大海原から、一匹の巨大怪獣が姿を現した。



理沙「え?!」

瀬里亜「な、ナンスか?!」



その怪獣は、緑色の亀のような姿で、何故か二足歩行。

別宇宙には存在が確認されている、怪獣シェルターだった。

しかもシェルターは、何かに憑りつかれているかのように叫び、暴れだした。


口から火を吹いて、自身の首、顔をビルや建物に何度も突き立てたりしながら、がむしゃらに暴れだす。




瀬里亜「こんな時にぃ!」



せっかく決めた決意が揺らぎそう。

そんな瀬里亜の肩を理沙はポン、と叩いて。



理沙「ここは私に任せて。瀬里亜さんは歯医者へゴーよ。」

瀬里亜「え、でも。」

理沙「ドントセイ、フォーオアファイブ。四の五の言わず、さっさと治してくる。」



・・・その和製英語は一体。

そんなことを考えつつ、瀬里亜はやむなしと言わんばかりに歯医者への道のりを進み始める。



理沙「海なら、私のフィールドだもの。それに。」



そうつぶやいて、



理沙「エクセルチェンジ!!」



すぐさまエクセルガールの姿へ変身。

街を破壊していたシェルターの背びれをつかみ、急ぎ海岸沿いへと引っ張り始める。



理沙「そっちはダメ!おとなしくしなさい!」



ずるずる、ずるずると引っ張られていくシェルターだったが、力で劣る理沙を逆にグルグルと街中へと引っ張り、道路に転ばせた!



理沙「うっ!?」



そのままシェルターが突進、理沙に自身の首を突き立てて攻撃してくる。

理沙は慌ててその首をつかみ、一気に巴投げ。

倒れこんだシェルターを見て、



理沙「時間はかけられない!エクセルアイスシュート!!」



一気に必殺技を発射!



だが。

シェルターは、マヌケな音と共にその光弾を跳ね返す!!



理沙「そんな!」



さらに火炎攻撃で追い打ちをかけるシェルター!



理沙「う、あぁっ、熱いっ!!」



その火炎を受けつつも理沙は上昇からの前進、シェルターの口目がけて攻撃!



理沙「おとなしく、しなさいっ!」



理沙がそう言いつつ、脳天にチョップを極めようと拳を突き出す。

すると。



理沙「いたっ!?」



すっぽんのような怪獣シェルターが、理沙の手にかみつき、離さない!



理沙「は、離れなさい!離れてってば!」



慌てて理沙は腕を振りシェルターの口を開かせようとするが、シェルターは噛みついたまま離さない。



理沙「このっ……!」



すっぽんは、雷が落ちるくらいの衝撃じゃないとその口を離さないと言われている。

だが、この晴天では雷は期待できない。

それに片腕がこの状況では、うかつに理沙も攻撃できない。

そんな時。



瀬里亜「そぉれえええええええ!!」



シェルターの高等部に、猛烈な電流が流れ込む!



理沙「―――今だわ!」



ぎゅぽん、という音を伴って、理沙の腕がようやく抜けた。

そしてシェルターの背後を見ると。



理沙「瀬里亜さん!」

瀬里亜「雷は落ちなくても、あたしの電撃で痺れさせてやったっス!」



結局、彼女は戻って来ちゃった。



理沙「もう。でも、助かったわ。」

瀬里亜「ぅおっと!」



理沙と瀬里亜が合流したのもつかの間。

瀬里亜の顔はまだ晴れているし、シェルターはまた火炎を吐いた。



そして、理沙と瀬里亜を無視して再度ビルに頭を激突させた。



瀬里亜「アイツ、どうしたんすか?」



暴れてはいるけど、破壊衝動というよりは、何かを打ち消そうと暴れているようだ。



理沙「そう言えば、さっき……。」



自分がシェルターに噛みつかれたとき。

理沙はあのとき、口の中に何か固いものが見えた気がした。



瀬里亜「うーん、顔面をビルや地面にぶつけてるっすね……。気持ちはわかるっすよー。あたしも今、できる事なら虫歯を地面にこすって痛みを和らげたいっすもん。」



うんうんとうなずいた瀬里亜のセリフ。

それを聞いて、理沙は確信した。



理沙「其れだわ!」

瀬里亜「え、どれ?!」

理沙「あの怪獣、口の中に何かあるんだわ!」

瀬里亜「口の中……?」



暴れるシェルターが、視界に入った理沙と瀬里亜目がけて火炎放射。

それを避けつつ、理沙が言った。



理沙「瀬里亜さん、アイツの口を開かせて!」

瀬里亜「え、あ、はい!」



瀬里亜が言われるままシェルターに突撃。

迫る噛みつき攻撃をかわし、首根っこをがっちりつかみ。



瀬里亜「ちょーっと、ごめんっす!」



といいつつ、胸からの電撃をシェルターにお見舞い。

そのショックでシェルターは口をあんぐり開け、気を失った。



瀬里亜「今っすよー!」

理沙「・・・。」



理沙は緑のカードをブローチにセット。

怪獣の体を瞬時にスキャンし、シェルターの中に入っていたものが判明した。



理沙「・・・不発弾!?」

瀬里亜「え?!」



あんぐりしたシェルターの口の中。

その口の中の歯に小型ミサイルが挟まって、ついでに本物の歯をあらぬ方向へ押し広げていた。



瀬里亜「じゃ、じゃあ、コイツが暴れてたのは!」

理沙「このミサイルを、どうにかして取り除きたかったのね……。」



人間が作ったものが、本来海底にいるはずだった怪獣をこうして暴れさせ、あまつさえ自分たちの世界をぶっ壊させてしまった。

それを知って、二人は顔を見合わせて。


理沙「もう少し、おとなしくしててね。」



そう言いつつ。

理沙がシェルターの口の中に手を突っ込んで。



理沙「エクセルフリーザー!」



その口から冷凍光線を発射。

口内の不発弾を固め、



瀬里亜「それっ!」



シェルターの後頭部を、瀬里亜ががつんと蹴った。

するとどうしてか、ぺっ、とシェルターが口の中の遺物を反射的に吐き出した!



瀬里亜「それそれぇっ!」



その不発弾を投げた瀬里亜が電撃で、空中で爆散させる。

そして、目を覚ましたシェルターは。



理沙「大丈夫、もう痛くないわ。」



理沙の手の、エクセルヒーリングを受けていた。



理沙「・・・ね?」



その暖かく優しい光を受けたシェルターのあらぬ方向へ曲がっていた歯が元に戻り、痛みが消えた!

痛みが引いた事で、シェルターは凶暴性を失い、周囲をきょろきょろして。



理沙「貴方の住処はここじゃなくて、海でしょ?」



そう言われ、はっとしてシェルターは帰路につく。

タイマーの点滅する二人に、頭を垂れながら。



瀬里亜「もう虫歯になっちゃダメっすよー。」

理沙「貴方もね。」

瀬里亜「あー、そうだった!」



そう言って笑いあう二人をしり目に。

シェルターは無事、元の住処へと帰って行ったのだった。



・・・。

それから。

ガチャリという音と共に、瀬里亜が真っ白い部屋から出てきた。



理沙「全治1週間、ね。」

瀬里亜「みたいっすねー。」

理沙「とにかく、ひどい状態になる前に治療できてよかったわ。」

瀬里亜「でも、どうして理沙さんはここにいたんすか?」

理沙「え?」

瀬里亜「いや、平日の放課後にこっちに来るなんて、今までなかったじゃないっすか。」

理沙「あ、それは、その……。」



あ、この人、なんか隠してるな。

瀬里亜がそう思った矢先、ちょっと強めの風が吹いて。



理沙「きゃっ。」

瀬里亜「んー?」



理沙の制服のポケットから、何かの紙切れが数枚飛んできた。



瀬里亜「・・・『アイス博招待状』???」

理沙「・・・。」



そのチケットを見られ、理沙、だんまり。



瀬里亜「なるほど。理沙さん、アイス大好きっすもんね。」

理沙「・・・ぶー。」



瀬里亜の目の前のJKが拗ねた。なにこれ可愛い。



瀬里亜「でも、真梨香さんたちは誘わないんすか?」

理沙「今回はね、瀬里亜さんと二人で行こうと思ったの。」

瀬里亜「え?」

理沙「あんまり二人きりで遊んだこと、ないじゃない?だから。」

瀬里亜「あー……。」



その矢先に虫歯じゃあ、さすがにぷんぷんか。



瀬里亜「で、いつにするっすか?」

理沙「え?」

瀬里亜「誰もいかないなんて言ってないっすよ。あたしも、アイス食いまくりたいっす!」

理沙「瀬里亜さん……。」

瀬里亜「あたしももっと、先輩と一緒に遊びたいっすもん!」



勉強は嫌だけどね。



理沙「その前に。その虫歯を完治させること。」

瀬里亜「はーい。」

理沙「それと。」

瀬里亜「え?」



まだ何か?

と思った瀬里亜だが、虫歯以外に特に何か条件を付けられるようなことは彼女はしていない。



理沙「今日、泊まっても、いいかしら……。」

瀬里亜「・・・?」

理沙「今日は真梨香たちもいないし、その、えっと……。」

瀬里亜「いいっすよ。」



断られたらどうしようかな。

なんて、ちょっと後ろ向きに考えていた彼女の耳に、ものスっごく早い快諾のお返事。



瀬里亜「どーせ今日は親も兄弟もいないっすからね。家でよければ、どうぞッス。」

理沙「うん!じゃあ、お邪魔させてもらうね!」



……つまり。

先輩がここへ来たのは、お誘いついでに、


・・・寂しかったからか。



いつも真面目で努力家、だけどたまに怖い先輩。

でも、先輩も人の子。

ものスッゴイ子供なところも、あるんすね。



なんて思った瀬里亜は、ぷっと噴出して。



理沙「どうしたの?」

瀬里亜「なーんでもないっす。さぁ、今日の夕飯の買い出しいくっスよー!」

理沙「―――ええ!」



というわけで。

虫歯で始まった今回の騒動も、これにておしまい。

たまにはこんな日が、あってもいいよね。



本編へつづく。

Comments

551

シェルターの口から不発弾を取り出すために、2人かりでお押さえつけないと行けないほど、怪獣をおとなしくさせるのは倒すより大変なんですね。怪獣を見送る2人のタイマーの点滅がするぐらいですから。